弁護士法人ITJ法律事務所

裁判例


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         主    文
     本件控訴を棄却する。
         理    由
 本件控訴の趣意は、弁護人菅田文明作成の控訴趣意書に記載されているとおりで
あるから、これを引用する。
 一 控訴趣意中、原判決の、児童福祉法三四条一項九号にいう「児童を自己の支
配下に置く行為」及び同法六〇条三項にいう「児童を使用する者」の解釈適用の誤
りを主張する点について
 所論は、要するに、原判決は、被告人が原判示ビデオ録画一本に本件児童を主演
女優として出演させたことをもって、児童福祉法三四条一項九号にいう「児童を自
己の支配下に置く行為」及び同法六〇条三項にいう「児童を使用する者」に当たる
と判断しているが、被告人が本件児童を原判示ビデオ録画に主演女優として出演さ
せたのは、被告人と、本件児童の所属するプロダクションとの間の契約によるもの
であり、しかも、その契約は本件児童をビデオ録画一本に出演させるというもので
あって、被告人と本件児童の間には雇用関係がないだけでなく、継続的な関係もな
く、実質的に見ても、被告人は、本件児童を二日間にわたる原判示ビデオ録画撮り
のうち一定時間しか拘束していないのであるから、原判決は、同法三四条一項九号
及び同法六〇条三項の解釈適用を誤ったものであり、その誤りは判決に影響を及ぼ
すことが明らかであるというのである。
 <要旨第一>思うに、児童福祉法三四条一項九号にいう「児童を自己の支配下に置
く行為」とは、児童を、使用、従属の<要旨第二>関係において、その意
思を左右し得る状態の下に置くことをいい、また、同法六〇条三項にいう「児童を
使用する者」とは、児童と継続的雇用関係にある者のみに限定されない
が、少なくとも児童と雇用関係類似の密接な社会的関係において児童の行為を利用
し得る地位にある者をいうと解するのが相当である。
 ところで、原裁判所が取り調べた証拠によれば、
 (一) 被告人は、ビデオテープレコーダー用映像の企画、製作並びに販売等を
目的とする株式会社Aの代表取締役として、同社の業務全般を統括していたもので
あるが、原判示ビデオ録画「あぶないセーラー服」の製作、販売を企画し、Bに脚
本の作成及びビデオ録画の監督を委嘱し、Cプロモーションの名称でモデルや女優
の有料紹介業を営んでいるDから売り込み方を持ち込まれていた同プロモーション
所属の本件児童を、書類審査及び面接の上(面接は同社の製作担当者をしてこれを
行わせたものである。)、原判示ビデオ録画に主演女優として出演させることを決
定し、Dとの間で、被告人及びDそれぞれにおいてその従業者を介して、本件児童
をして株式会社Aが製作するビデオ録画一本に出演料八〇万円で出演させる契約を
締結したこと、
 (二) 株式会社Aは、右契約により、本件児童を女優として同社が製作するビ
デオ録画に使用し、同児童を指揮監督して演技させ得る地位及び権限を取得したこ
と、
 (三) 株式会社Aの代表取締役であった被告人は、右地位に基づき右権限を行
使する実質的な行為主体として、原判示ビデオ録画の監督を委嘱したBに対し、事
前の企画段階や脚本原案の検討段階において具体的に指示を与えるなどしながら、
前記の権限を、B並びに同社のビデオ録画製作関係者をして録画を行わせることに
よって行使したものであること、
 (四) Bは、被告人の委嘱と指示、承認の下に、株式会社Aのビデオ録画製作
組織の一員として、本件の脚本を作成し、録画現場において本件児童らを指揮監督
して原判示ビデオ録画の演出等を行ったこと、
 (五) 本件児童は、Dとの間の専属契約並びにDと株式会社Aとの間の前記出
演契約により、同社が製作するビデオ録画に主演女優として出演することを義務付
けられたものであり、本件児童もこれを承認し、同社が製作するビデオ録画一本に
主演女優として出演するため同社の録画現場に赴き、Bの指揮監督の下に、原判示
日時場所において、二日間にわたり、いずれも午前八時頃から午後一〇時頃まで、
同社の製作関係者が事前に立てた録画予定表に従い、男優を相手にともに全裸で露
骨な性戯、模擬性交などの猥褻な演技等を行ったもので、その場合、Bの指揮監督
に従わずに逸脱するときは出演契約違反の問題も生じ得るものであったこと
 が認められる。
 <要旨第三>そして、以上の諸事実を総合すると、被告人と本件児童との間に雇用
関係がないことその他の所論の指摘する事情を考慮しても、被告人は、
本件児童を、使用、従属の関係において、その意思を左右し得る状態の下に置いた
ものということができ、すなわち、被告人は、本件児童を「自己の支配下に置く行
為」をしたものといべきであり、また、被告人は、株式会社Aの代表取締役とし
て、同社が前記出演契約により取得した本件児童に対する原判示ビデオ録画製作に
ついての前記地位に基づく前記権限を実質上行使し得る地位にあった者で、本件児
童と雇用関係類似の密接な社会的関係を有していた者ということができ、すなわ
ち、被告人は、本件「児童を使用する者」であったというべきである。所論が援用
する判例(当庁第六刑事部昭和四〇年一月一九日判決・高裁刑集一八巻一号一頁)
は、本件と事案を同じくするものでないばかりでなく、必ずしも本判決と法律上の
見解を異にするものとも認められない。
 以上の次第であって、原判決の理由中には児童福祉法三四条一項九号及び同法六
〇条三項の解釈について本判決と措辞を異にする部分があるが、両規定を適用した
結論は正当であり、原判決に、判決に影響を及ぼすことが明らかな法令適用の誤り
があるということはできず、論旨は理由がない。
 二 控訴趣意中、原判決が本件児童の年齢確認について被告人の無過失を認めな
かったことの事実誤認、法令の解釈適用の誤りを仮定的に主張する点について
 所論は、要するに、かりに被告人が本件児童を使用する者であったとしても、被
告人は、同児童の年齢確認を十分に行っており、この点に過失はなかったのである
から、これを認めなかった原判決には判決に影響を及ぼすことが明らかな事実誤
認、あるいは児童福祉法六〇条三項、刑法三八条一項但書の過失の解釈適用を誤っ
た違法があるというのである。
 しかし、原裁判所が取り調べた証拠を調査して検討しても、被告人が、本件行為
当時、本件児童の年齢確認に過失がなかったとは認められない。
 すなわち、関係証拠によれば、本件は、ビデオ録画に児童を主演女優として出演
させ、男優を相手にともに全裸で露骨な性戯、模擬性交などの演技、すなわち、児
童の心身に有害な影響を与える行為をさせるものであったこと、被告人は、原判示
のようなビデオ録画を製作する株式会社Aの代表取締役として、経験上、児童の中
には高額の出演料欲しさに年齢を偽ってでも右のような演技を伴うビデオ録画に出
演しようとする者がいることを十分知っていたこと、面接の日、本件児童を連れた
Cプロモーションの従業者Eと路上で行き合って、同人から本件児童を紹介され、
同児童の容姿を知り、その後、Cプロモーション側から提出された「宣材」(女優
をビデオ製作会社などに売り込むための女優の宣伝材料のことで、本件では、本件
児童の全身及び上半身を写したヌード写真二枚とプロフィール表が綴られたもので
ある。)や株式会社Aの製作担当者が作成した「E氏が本件児童の学生証でその年
齢を一八歳と確認している。」旨記載のある面接表を見て、同児童の顔付きからそ
の年齢の点に危惧感を抱き、同製作担当者に「この子は顔が幼いから年齢を確認し
ておけ。」旨指示したほどであるにもかかわらず、結局は、右宣材及び面接表の記
載並びに同製作担当者からの形式的な報告以上に何ら同児童の年齢確認を尽くして
いないこと、ちなみに、Cプロモーションの前記D及びEが年齢確認のために本件
児童に提出を求めた准看護学校作成の身分証明書は、その年齢欄に一八歳と記入さ
れてはいたが(同児童が虚偽の記入をしたものである。)、生年月日欄は空欄のま
まという杜撰なものであったこと、Dらも同児童の年齢の点に危惧感を抱きながら
も、同児童に生年月日や干支、誕生日の星座等を聞いただけでそれ以上に同児童の
年齢確認を尽くしていないこと、さらに面接を担当した株式会社Aの製作担当者
も、面接時、同児童の顔付きからその年齢の点に危惧感を抱きながらも、Eが本件
児童の学生証で年齢を一八歳と確認したということや同児童が他社でもビデオ録画
に出演しているということを聞いただけで、その場で同児童に対し年齢確認の問い
を発することすらせず、また、その後Cプロモーション側から提出された同児童の
前記身分証明書(写)を見て、その生年月日欄が空欄のままであることに気付きな
がら、それ以上に同児童の年齢確認を尽くさず、このことを特に被告人に報告もし
ていないことなどが認められ、以上の諸事実に徴すれば、被告人が本件児童の年齢
確認について過失がなかったとは到底認めることができないところである。
 以上の次第であって、原判決に所論の事実誤認、あるいは児童福祉法六〇条三
項、刑法三八条一項但書の過失の解釈適用に誤りがあるということはできない。論
旨は理由がない。
 三 控訴趣意中、原判決が被告人とDとの間の共謀を認めたことの事実誤認、理
由不備、法令の解釈適用の誤りを主張する点について
 所論は、要するに、原判決は、被告人がDとの間で本件児童の原判示ビデオ録画
出演契約を締結したことをとらえて、被告人とDとの間に本件共謀があったことを
認定しているが、被告人及びDには本件児童が「満一八歳に満たない者」であると
の認識はなかったのであり、しかも被告人とDとの間にあるのは、本件児童をビデ
オ録画に出演させるという内容の契約、すなわち対立当事者間の合意でしがなかっ
たのであるから、被告人とDとの間に本件共謀(同方向性を有する者の間の意思の
合致)を認めた原判決には判決に影響を及ぼすことが明らかな事実誤認、理由不
備、刑法六〇条の解釈適用を誤った違法があるというのである。
 しかし、被告人は、前記のとおり、本件児童を使用する者であるから、同児童が
「満一八歳に満たない者」であることを知らなかったとしても、児童福祉法六〇条
三項本文の規定によって同法六〇条二項及び三四条一項九号の規定による処罰を免
れることはできないものであること(もっとも、本件児童が「満一八歳に満たない
者」であることを知らなかったことについて被告人に過失がない場合は、同法六〇
条三項但書により処罰を免れるが、被告人が同児童の年齢確認について無過失であ
ったと認めることができないことは前記のとおりである。)、すなわち、使用者で
ある被告人には本件児童の年齢についての認識は不要であるから、被告人に本件児
童の年齢が一八歳未満であるとの認識がなかったとしても、このことが本件共謀の
成否に影響を及ぼすことはないこと、また、被告人は、前記のとおり、本件児童と
専属契約を結び同児童の心身に有害な影響を与える行為をさせる目的で同児童をそ
の支配下に置いていたDとの間で(関係証拠によれば、同人も、本件児童の使用者
であり、かつ同児童が「満一八歳に満たない者」であることを知らなかったことに
つき無過失であったと認めることはできないものである。)、それぞれにおいてそ
の従業者を介して、具体的に同児童の心身に有害な影響を与えることが明らかな原
判示ビデオ録画に同児童を主演女優として出演させる目的で同児童を実質上被告人
の支配下に置いたものであるから、それがDとの間の契約によったものであるとし
ても、従業者を通じて、Dと、同児童の心身に有害な影響を与える行為をさせる目
的で同児童を実質上自己の支配下に置くことの意思を相通じたものであるというべ
きであり、この点において両名間に共謀が成立したことは明らかである。
 以上の次第であって、原判決に所論の事実誤認、刑法六〇条の解釈適用の誤りが
あるということはできず、また、共謀成立の理由を説明することなどは、もともと
有罪判決の理由として必ずしも必要でないばかりでなく、原判決は、被告人とDと
の間に本件共謀の成立を認めた理由を示しており、理由不備の違法があるというこ
とはできない。論旨は理由がない。
 よって、刑訴法三九六条により本件控訴を棄却することにして、主文のとおり判
決する。
 (裁判長裁判官 大久保太郎 裁判官 小林隆夫 裁判官 生島三則)

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