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主文
1本件訴えを却下する。
2訴訟費用は原告の負担とする。
事実及び理由
第1請求
処分行政庁が原告に対して,平成15年5月16日付けでした,原告の運転
免許の効力を同日から同年6月14日までの30日間停止する処分を取り消
す。
第2事案の概要
本件は,原告が交差点において後方の安全確認を十分に行うことなく,普通
乗用自動車を後退させたため,同車両の後方に立っていた歩行者に同車両の後
部を衝突させ傷害を負わせる交通事故を発生させたなどとして,処分行政庁が
運転免許の効力を30日間停止する処分をしたのに対し,同車両を後退させる
に当たり後方確認等十分な注意を払っており,また,歩行者の負った傷害は同
車両との衝突により生じたものではなく,その傷害の程度も15日以上の加療
期間を要するものではなかったと主張する原告が,同処分の取消しを求めてい
る事案である。
1前提事実(当事者間に争いのない事実,当裁判所に顕著な事実並びに掲記の
証拠及び弁論の全趣旨により容易に認められる事実)
(1)原告は,東京都公安委員会から,平成××年×月×日,有効期間を平成
××年×月×日までとする第2種普通自動車等の運転免許証の交付を受けた
者であり,関東運輸局長から,平成××年××月××日までを期限とする期
間5年間の一般乗用旅客自動車運送事業の許可を受け,個人タクシー営業を
行っている(甲1,2の1・2,4の1。)
(2)処分行政庁は,平成15年5月16日,原告に対し,同年×月××日午
後××時××分ころ,東京都東村山市α××番地先の交通整理の行われてい
ない丁字路交差点において,原告が自己の運転する事業用普通乗用自動車を
方向転換のために後退させるに当たり,後方の安全確認を十分に行うことな
く同車両を後退させたため,後方に立っていた歩行者に同車両の後部を衝突
させ,同人に約20日間の安静加療を要する腰椎捻挫の傷害を負わせる交通
事故を発生させたとして,道路交通法36条4項違反,違反行為に付する基
礎点数2点交差点安全進行義務違反交通事故の場合の付加点数6点負(),(
傷者の治療に要する期間が15日以上30日未満であって,当該交通事故が
専ら違反行為をした者の不注意によって発生したものである場合,累積点)
数8点であって,原告に前歴がないことから,同法103条1項5号,施行
令38条5項2号に該当するとして,平成15年5月16日から30日間運
転免許の効力を停止する処分をした(以下「本件処分」という。。)
(3)処分行政庁は,原告が,平成15年5月16日,道路交通法103条8
項及び108条の2第1項3号に規定する講習を受講したことから,本件処
分の運転免許の効力停止期間を29日間短縮した(乙1。)
(4)原告は,本件処分による運転免許の効力停止期間が経過した後,違反行
為をせず,かつ,運転免許に係る行政処分を受けることなく1年以上が経過
した(乙1。)
(5)原告は,平成15年7月7日,東京都公安委員会に対し,本件処分を不
服として審査請求をしたところ,東京都公安委員会は,平成17年7月15
日,審査請求を棄却する裁決をした(甲5,6。)
(6)原告は,平成17年12月27日,本件訴えを提起した。
2争点
(1)原告は,本件処分の取消しを求める訴えの利益を有するか(本案前の争
点)
(2)原告に運転免許の効力停止事由となる道路交通法等の違反行為があった
か(本案の争点(被告の主張する違反行為は,前記前提事実(2)のとおり))
第3争点に対する判断
1争点(1)(本案前の争点)について
(1)道路交通法103条1項柱書及び同項5号並びに同法施行令(以下「施
行令」という)38条5項は,運転免許を受けた者が道路交通法の規定等。
に違反した場合に,免許の効力の停止等の処分を行うときの基準について規
定しているところ,施行令別表第3(平成16年政令第390号による改正
前は別表第2)の備考1では,累積点数に係る違反行為をした日から起算し
て過去3年以内の処分前歴の有無及び回数に基づいて免許の効力の停止等の
処分を行うかどうか,どのような内容の処分を行うかが決せられることとさ
れているものの,同備考1ただし書において,当該処分期間満了日の翌日か
ら違反行為をせず,かつ,処分を受けないで免許を受けていた期間が通算し
て1年となった場合は,当該処分歴は前歴として考慮しないものとされてい
る。
前記第2の1(4)のとおり,原告は,本件処分が終了した後1年以上,無
違反かつ無処分で経過したことから,将来道路交通法上の処分を行われる際
に,本件処分が前歴として考慮されるおそれは消滅しており,少なくともそ
の限りにおいては,本件処分により生ずる法律上の不利益は解消しているも
のということができる。
これに対して,原告は訴えの利益について,以下二つの視点から,主張を
しているので,それぞれについて検討する。
(2)道路交通法等における免許更新時の運転者の区分による不利益について
ア原告は本件違反行為処分行政庁が本件処分の理由とした第2の1(2),(
の違反行為をいう。以下同じ)の存在により,次回の運転免許の更新時。
に,優良運転者として運転免許証の交付を受け得る地位を喪失することに
なるところ,本件処分が取り消されるならば,その取消判決理由中の判断
の拘束力により,原告には本件違反行為がなかったものとして扱われ,優
良運転者として運転免許証の交付を受け得ることになるから,本件処分の
取消しを求めるにつき法律上の利益を有すると主張している。
イ(ア)そこで,道路交通法等における免許更新時の優良運転者その他の運
転者の区分についてみると,同法は,更新日等までに継続して免許(仮
免許を除く)を受けている期間が5年以上である者のうち,自動車等。
の運転に関する道路交通法等の遵守の状況が優良な者として政令で定め
る基準に適合する者を「優良運転者」に,その状況が不良な者として政
令で定める基準に適合する者及び当該期間が5年未満である者を「違反
運転者等」に,これら以外の者を「一般運転者」に区分している(同法
92条の2第1項。)
また,施行令は,上記政令で定める基準として,①「優良運転者」に
は,更新前の免許証の有効期間が満了する日の直前のその者の誕生日の
40日前の日前5年間(以下「考慮期間」という)において違反行為。
又は施行令別表第4(平成16年政令第390号による改正前は別表第
2の2)に掲げる行為(以下「違反行為等」という)をしたことがな。
い者が「違反運転者等」には,同期間において違反行為等をしたこと,
がある者(軽微違反行為(これによって人身交通事故等を起こした場合
。),。)を除く1回のほかこれらの違反行為をしたことがない者等を除く
が,それぞれ該当する旨規定している(施行令33条の7。)
そして,①免許証の有効期間(優良運転者及び一般運転者であって更
新日等における年齢が70歳未満である者にあっては,免許証の有効期
間の末日が「満了日等の後のその者の5回目の誕生日から起算して1月
を経過する日」とされているのに対し,違反運転者等については,これ
が「満了日等の後のその者の3回目の誕生日から起算して1月を経過す
る日」とされている。道路交通法92条の2第1項,②更新時講習の。)
手数料(優良運転者が700円,一般運転者が1050円,違反運転者
等が1700円とされている。施行令43条1項表の「手数料の種別」
講習手数料「区分」法108条の2第1項11号に掲げる講習の欄),。
等において,運転者の区分により異なる扱いがされている。
(イ)上記(ア)の規定に従うと,原告は,本件違反行為があったとされる
ならば,違反運転者等に区分され,更新時の免許証の有効期間を3年余
の短期とされることになるので,この点においては,法律上の不利益を
被ることは明らかである(なお,原告は,優良運転者に区分されないこ
との不利益をいうが,上記のとおり,違反運転者等に区分されることの
不利益の方がより顕著であって,優良運転者及び違反運転者等の各該当
要件に照らすと,原告は,違反運転者等に区分されることの不利益をも
当然に含意して主張するものと解される。。)
(ウ)aしかしながら,免許更新時における違反運転者等の認定は,所定
の期間中に「違反行為等をしたことがあること」に該当するか否かに
よって決せられるのであって「違反行為により処分がされたこと」,
はその要件とはされていない。そうすると,たとえ本訴において本件
処分が取り消されたとしても,それによって本件違反行為の有無が確
,(。。)定されるわけではなく被告東京都公安委員会を含む以下同じ
において,免許更新時に,本件違反行為を理由にして原告を違反行為
者等に区分することが妨げられるわけではないから,違反運転者等に
区分されるという不利益をもって,本件処分の取消しを求める訴えの
利益の根拠とすることはできないものというべきである(優良運転者
の区分も「違反行為等をしたことがないこと」を要件とするもので,
あって「違反行為により処分がされたことがないこと」はその要件と
はされていないから,やはり,優良運転者に区分されないことの不利
益をもって,訴えの利益の根拠とすることはできないものである。。)
bこれに関して,原告が本件処分の取消判決理由中の判断(本件違反
行為の不存在)の拘束力をいう点については,本件違反行為を理由と
した本件処分と免許更新時の違反運転者等又は優良運転者の認定とは
,(,別個独立のものであり両者を直接関連付けた規定もないかえって
道路交通法及び施行令が,免許更新時の運転者の区分を専ら違反行為
等の有無に係らしめており,違反行為による処分と関連付けていない
ことは,上記のとおりである)ことからすると,本件処分の取消判。
決中の「本件違反行為が存在しない」という判断が,免許更新時の運
転者の区分に係る認定において被告を拘束すると解すべき根拠は存し
ないというべきである。
cまた,そもそも免許更新時に違反運転者等,優良運転者又は一般運
転者のうちのいずれに区分されるかは,本件違反行為以外の違反行為
等も含め,考慮期間が経過するまでの間に違反行為等があったか否か
に基づいて最終的に確定されるものである。したがって,あらかじめ
特定の違反行為の存否について審理し,その判断がされたとしても,
考慮期間経過前に別の違反行為等があれば,その判断は免許更新時の
運転者の区分に係る認定において,意味を失うことになる。
dこのような違反行為等と免許更新時の運転者の区分に係る認定との
関係からすれば,仮に,違反運転者等と認定されたことや優良運転者
,,と認定されなかったことにより法律上の利益が損なわれるとしても
その場合には,端的に,免許更新時の運転者の区分に係る認定自体を
処分ととらえ,過去の違反行為等の不存在を理由としてその取消しを
求めるべきものであって,本件違反行為の存否と運転者の区分に係る
認定との間の条件関係が未確定の段階で,しかも,判決の理由中の判
断の拘束力をよりどころにして,本件違反行為を理由とする本件処分
の取消しの訴えの利益を導くのは本末転倒といわざるを得ない。
この意味で,本件処分の取消しの訴えが認められなければ,優良運
転者として運転免許証の交付を受ける利益の保護を求める方途が封じ
られることになるとする原告の主張にも理由がないというべきであ
る。
(3)一般乗用旅客自動車運送事業の許可の更新上の不利益について
アさらに,原告は,本件処分の存在により,一般乗用旅客自動車運送事業
の許可の更新を受けるに当たり,その期間を通常の5年間から3年間に短
縮される不利益を被るものであり,この点からも,原告は,本件処分の取
消しを求める法律上の利益がある旨主張している。
,,(,イそこで上記許可の更新の具体的な基準についてみると証拠甲10
乙4)によれば,次のとおり認めることができる。
まず,関東運輸局長は,平成13年12月27日付けで「一般乗用旅客
自動車運送事業(1人1車制個人タクシー事業に限る)の許可等に付さ。
」(「」。)れた期限の更新申請の審査及び取扱基準以下本件審査基準という
を定めて公示しており,そこでは,別表「個人タクシー事業の期限更新基
準表」を定め,その区分に応じた更新後の許可期限を付した上,更新を認
めるものとしている。
そして,更新前の許可に付された期間(審査期間)が5年間である者の
基準をみると,①「道路交通法違反による反則点の合計が4点以上若しく
は4回以上の道路交通法の違反による処分がある者」の更新後の許可期限
を1年,②「①に該当しない者で,許可期限が満了する日以前の3年間に
おいて無事故無違反であり,かつ,その前の2年間における道路交通法の
違反が1回以下で当該違反が反則点3点以下である者」の更新後の許可期
限を5年,③①及び②に該当しない者の更新後の許可期限を3年と規定し
ている。
ウこれらの基準によれば,原告は,少なくとも,本件違反行為及び本件処
分がいずれもなければ,上記②に該当して5年の許可期限を与えられ得る
ところ,本件違反行為及び本件処分があったことになれば,上記①に該当
して1年の許可期限しか与えられないことになるものということができ
る。ここで,上記①及び②が,違反行為歴を要件とするのか,処分歴を要
件とするのか,いささかその文言が不明確であるといえるものの,本件審
査基準の本文には,3(1)の「期限更新に当たっての審査」において,審
査期間における法令違反行為の有無等を審査する旨規定しており,上記別
表でも「審査期間における法令違反行為等の状況」欄に上記①から③まで
の各基準が掲げられていることからすれば,違反行為歴を要件とする趣旨
と解するのが自然というべきである。
加えて,道路交通法上の処分と道路運送法上の事業許可とが趣旨を異に
する全く別個の制度であること,他に道路交通法上の処分を受けないまま
現在の許可期限が満了する日を経過するまでは,本件処分と更新時の許可
期限の定めとの間の条件関係が確定しないことにかんがみると,前記(1)
のとおり,本件処分が,道路交通法上は前歴として考慮される余地がなく
なっており,その不利益も解消された状態にあるにもかかわらず,道路運
送法上の事業許可の更新時の許可期限の定めにおいて不利益を受けないた
めには,本件処分の取消しを求め,その効力を排除しなければならないと
するのは,必ずしも合理的な解釈とはいい難い。また,そうした解釈によ
ると,かえって,事業許可の更新時に違反行為の存否自体を争う途を閉ざ
,,す結果になることにもなりかねないことをも勘案すると本件審査基準は
許可を受けた者の処分歴ではなく,違反行為歴を要件として定めたもので
,,あってたとえ道路交通法上の処分が取り消されていない場合であっても
事業許可の更新時には,当該処分の理由となった違反行為の存否を争うこ
とができるものと解するのが相当である。
エそうすると,原告は,道路運送法上の事業許可の更新との関係において
も,本件処分の取消しを求めるにつき,法律上の利益を有するとは認めら
れないというべきである。
2以上によれば,争点(2)(本案の争点)について判断するまでもなく,本件
訴えは不適法なものであるから,これを却下することとして,主文のとおり判
決する。
東京地方裁判所民事第2部
大門匡裁判長裁判官
田徹裁判官吉
小島清二裁判官

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