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平成19年(行ケ)第10341号審決取消請求事件
平成20年4月9日判決言渡,平成20年2月25日口頭弁論終結
判決
原告ベアー,ユー,エス,エー,インコーポレーテッド
訴訟代理人弁護士吉武賢次,高田泰彦
訴訟代理人弁理士黒瀬雅志,塩谷信,宮城和浩,小泉勝義
訴訟復代理人弁護士渡辺志穂
被告株式会社セント・ローラン
訴訟代理人弁理士足立勉
訴訟復代理人弁護士水野健司
主文
特許庁が取消2005-31237号事件について平成19年6月5日にした
審決を取り消す。
訴訟費用は被告の負担とする。
事実及び理由
第1原告の求めた裁判
主文同旨の判決
第2事案の概要
,(「」。)本件は被告を商標権者とする後記1(1)記載の商標以下本件商標という
の登録について,原告が,通常使用権者による不正使用を理由として,商標法53
,,,条1項に基づき後記1(2)のとおり登録取消審判の請求をしたところ特許庁が
審判請求は成り立たないとの審決をしたため,原告が,その取消しを求める事案で
ある。
1特許庁における手続の経緯
(1)本件商標
本件商標は,登録出願人パスクベアカンパニが設定登録を受けた後,被告に対
し商標権の移転をしたものである。
商標登録番号:第4137882号
「,,,,,,指定商品:第25類被服ガーター靴下止めズボンつりバンドベルト
履物,運動用特殊衣服,運動用特殊靴」
出願人:パスクベアカンパニ
出願日:平成9年1月21日
登録日:平成10年4月17日
被告への移転登録日:平成12年5月17日
「商標の構成:

(2)登録取消審判手続
審判請求日:平成17年10月7日(取消2005-31237号)
審決日:平成19年6月5日
審決の結論:本件審判の請求は,成り立たない」「。
審決謄本送達日:平成19年6月15日(原告に対し。なお,出訴期間として9
0日が附加されている)。
2前提となる事実
甲第5号証,第24号証,第52号証,第53号証,第55号証,第64~第6
7号証及び弁論の全趣旨によると,株式会社岐阜武(以下「岐阜武」という)が。
下記(1)の構成により成る商標(以下,審決に従って「使用商標A」という)を商。
品ジャケットに使用していたこと及び原告が下記(2)の構成よりなる商標以「」,(
下,審決に従って「使用商標B」という)を「ジャケット」に使用していたこと。
が認められる。
(1)使用商標Aの構成


(2)使用商標Bの構成


3審決の理由の要旨
審決の理由は以下のとおりであるが,その内容は,要するに,岐阜武による商品
「ジャケット」についての使用商標Aの使用は,本件商標に係る指定商品について
の本件商標に類似する商標の使用であって「ジャケット」に使用商標Bを使用し,
ている請求人(原告)の業務に係る商品と混同を生じさせるというべきであり,本
件審判請求は,使用商標Aが使用されなくなってから5年を経過した後にされたも
のともいえないが,被請求人(被告)と岐阜武との間において,本件商標について
商標使用許諾契約が締結されたとは認められないから,岐阜武は本件商標の通常使
用権者と認められず,商標法53条1項の規定により本件商標の登録を取り消すこ
とはできないというものである。
「1商標法第53条は「専用使用権者又は通常使用権者が指定商品若しくは指定役務又は,
これらに類似する商品若しくは役務についての登録商標又はこれに類似する商標の使用であっ
て商品の品質若しくは役務の質の誤認又は他人の業務に係る商品若しくは役務と混同を生ずる
ものをしたときは,何人も,当該商標登録を取り消すことについて審判を請求することができ
る。ただし,当該商標権者がその事実を知らなかった場合において,相当の注意をしていたと
きは,この限りでない」と規定しているところ,本件が当該規定に該当するかどうかについ。
て,以下検討する。
2岐阜武は,通常使用権者と認められるか否かについて
(1「商標使用許諾契約書(甲第2号証)には「甲株式会社セント・ローラン乙)」,
株式会社岐阜武以上甲乙間において,次のとおり商標の使用許諾に関する契約を締結す
る。1.甲が乙に対し,以下の約定により(以下「本件商標」という)の使用を許諾す,,。
る【商標権の表示】登録番号第4345622号商標USABEAR商標権者セ。
.,,ント・ローラン2甲が乙に本件商標使用を許諾する商品はメンズアウトウエアー類とし
乙の製品販売は日本国内に限定する」との記載があることから,被請求人は,岐阜武に対し。
て,登録第4345622号商標に係る指定商品中「メンズアダルトアウター類」についての
使用を許諾をしたことが認められる。
しかしながら,当該契約書では,本件商標について何ら言及されていない。
(2「念書(甲第3号証)には「商標及び商標USABEARの契約に基づく念書を差)」,
し入れます。商標名USABEAR登録番号第4345622号登録日平成11年
12月17日」との記載があることから,当該念書は,登録第4345622号商標に関して
の「念書」であると認められる。
しかしながら,当該念書では,本件商標について何ら言及されていない。
(3「見解書(甲第4号証)には「2.理由・・・中略・・・尚,上記パスクベア)」,()
カンパニーの上記登録商標(当審注:本件商標)は,株式会社セント・ローラン(当審注:被
請求人)に商標権を移転させる手続きを準備中であり,株式会社セント・ローランは,上記
(a(b(当審注:別掲(2)の商標(c)の図形について株式会社岐阜武に使用許諾),)),
を与えるとのことである」との記載があるが,その内容は「被請求人が,岐阜武に対し,本。,
。」。件商標についての使用許諾を与えるであろうとの予測を述べているにすぎないものである
(4)上記(1)ないし(3)の事実に照らせば,被請求人と岐阜武との間において,一定の
意図をもった行為があったことはうかがえる。
しかしながら,そのようにうかがえるのは,本件証拠上,あくまで第4345622号の商
標に関するものに限られており,その他,甲号証全体をみても,岐阜武と本件商標を結びつけ
る証拠は存在しない。
これらの事情を勘案すると,被請求人と岐阜武との間において,本件商標について商標使用
許諾契約が,明示的にせよ黙示的にせよ,締結された事実を推認するには足りないというほか
ない。
したがって,岐阜武が,本件商標の通常使用権者であると認めることはできない。
3使用商標Aの使用の時期について
甲第5号証は「ジャケット」を写した写真であるところ,当該「ジャケット」の表面胸の,
部分と内側襟の部分に,使用商標Bと社会通念同一と認められる商標が表示されている。
なお,被請求人は「甲第5号証の標章(当審注:使用商標A)は,使用されなくなってから
5年を経過しているものである」旨主張しているが,甲第5号証の撮影日は「平成12年1。,
0月19日」と記載されている。
また,第5号証の「ジャケット」は,大阪市西成区在のイズミヤ株式会社が販売していたも
のであり,請求人は,同社に対して,平成12年10月19日付けをもって,侵害の警告(甲
第67号証)をしていた事実を認めることができる。
したがって,甲第5号証及び甲第64号証ないし甲第67号証を総合勘案すれば,本件審判
の請求(請求日平成17年10月7日)は,使用商標Aが使用されなくなってから5年を経過
してなされたものとはいえない。
4本件商標と使用商標Aの類否について
本件商標と使用商標Aとは,黒地か白地かの相違はあるが,その外観において明らかに構成
の軌を一にする熊の図形よりなるといえるものであるから,類似する商標であるというべきで
ある。
5本件商標の指定商品と使用商標Aが使用されている商品の類否
使用商標Aを使用した商品「ジャケット」は,本件商標の指定商品中の「被服」に含まれる
商品と認められる。
6他人(請求人)の業務に係る商品との混同について
請求人の主張の理由及び甲第24号証の請求人の登録商標が使用された「ジャケット,甲」
第52号証,甲第53号証及び甲第55号証の雑誌「streetJack(1999年」
1月号,1998年11月号及び1999年2月号)によれば,使用商標Bを付した請求人の
販売に係る「ジャケット」が,雑誌等に宣伝広告されていた事実が認められる。
次に,使用商標Aと使用商標Bとについてみるに,使用商標Aは,別掲(2)のとおり図形
と文字の組み合わせよりなるところ,中央に顕著に表示されている「USABEAR」の文字
部分について,その構成中の「USA」の文字は「米国」を意味するものとしてよく知られ,
ているといえるものであり,商品の生産地又は販売地を表示したものと認識されるものである
,,,「」から簡易迅速を尊ぶ取引の場においてこれに接する取引者需要者は構成中のBEAR
の文字部分に着目して,この部分をもって商品の取引にあたることも決して少なくないものと
みるのが相当である。
,,「」,「」してみれば使用商標Aからはその構成中のBEARの文字に相応して単にベア
又は「ベアー」の称呼及び「熊」の観念を生ずるものである。
他方,使用商標Bは,別掲(3)のとおりその構成中に表された「Bear」の欧文字部分
から「ベア」又は「ベアー」の称呼及び「熊」の観念を生ずるものであり,使用商標Aと使,
用商標Bとは「ベア」又は「ベアー」の称呼及び「熊」の観念を共通にするものである。,
また,外観においても,使用商標Aにおいて,外観上看者の目を惹く部分は,熊の図柄の後
方に「USABEAR」の文字を囲んだ枠を配置し,両者の輪郭線を連続させて両者を一体化
させたところであるが,使用商標Bも,同様に,熊の図形の後方に「Bear」の文字を囲ん
だ枠を配置して両者の輪郭線を連続させて一体化させたものとなっている。
そうすると,使用商標Aと使用商標Bとは,熊の図形が右向きか左向きか,また「USA,
BEAR」と「Bear」の文字の相違はあるものの,外観上の要部は,熊の図形の後方に欧
文字を囲んだ枠を配置して両者の輪郭線を連続させて一体化させたというべきであり,両商標
は全体として酷似した印象を受けるものであるから,時と所を異にして離隔観察するときは,
外観上彼此見誤るおそれがあるものといわなければならない。
したがって,使用商標Aと使用商標Bとは,称呼,観念及び外観において極めて紛らわしい
ものであり,使用商標Aは,使用商標Bを連想,観念させるものであるといわざるを得ない。
そして,使用商標Aを使用した商品「ジャケット」と使用商標Bを使用した「ジャケット」
とは,同一又は密接な関係がある商品といえるものである。
してみれば,岐阜武による商品「ジャケット」についての使用商標Aの使用は,使用商標B
を「ジャケット」に使用していた請求人の業務に係る商品であるかのように取引者,需要者に
おいて商品の出所の混同を生ずるというべきである。
7結び
岐阜武による商品「ジャケット」についての使用商標Aの使用は,本件商標に係る指定商品
についての本件商標に類似する商標の使用であって,請求人の業務に係る商品と混同を生じさ
せるというべきである。
また,本件審判の請求は,使用商標Aが使用されなくなってから5年を経過した後にされた
ものとはいえない。
しかしながら,岐阜武が本件商標の通常使用権者であると認められないことは,上記2で述
べたとおりであるから,商標法第53条第1項の規定により取り消すべき限りでない」。
第3審決取消事由(岐阜武が本件商標の通常使用権者ではないとの認定の誤り)
の要点
1原告は「BearU.S.A,Inc」の商号にて,その商号に由来す,..
る「BearU.S.A」の文字と,黒の輪郭線で描いた熊の図とを結合した.
,(),,,,商標を使用し1994平成6年よりアメリカ日本においてジャケット
パーカ,靴等を製造,販売するとともに,その商品の普及のために,商品パンフレ
ットを作成してアメリカ国内はもとより,日本,イギリスの商社,バイヤー等を通
じて広く配布し「VIBE「ASAYAN「繊研新聞」等の雑誌,新聞に積,」,」
極的に広告を掲載してきた。
原告の商標を使用した商品が人気を博したことから,我が国において大量の偽物
が出回り,平成8年4月には,偽商品を販売していた業者が摘発されたという新聞
記事が掲載されるなどしたため,原告は,このころから,新聞,雑誌に偽商品につ
いての「警告広告」あるいは「注意広告」をたびたび掲載してきた。
また,原告は,商標をより商品に適した構成とするとともに,偽物対策を行うた
め,平成8年ころから,原告の使用する商標を,黒の輪郭線で特徴のある熊の図を
描き,その輪郭線を延長した横長の枠内に「Bear」の文字を書し,枠の外側に
「USA」の文字を書した構成よりなるものへと変更し,以来これを使用してきて
いる。
2被告と岐阜武の間の平成12年1月24日付け「商標使用許諾契約書(甲第」
2号証)には,使用許諾する商標として本件商標が明示されていないが,その商標
使用許諾契約に関して本訴における被告代理人が作成した同年4月21日付け見解
書(甲第4号証。以下,単に「見解書」という)には「また(a(b)の図。,,),
形部分は,パスクベアカンパニが登録済みの商標(商標登録第4137882号
…別紙(3)参照)を若干変更(aは,顔の部分のみとし,色彩を異にした,bは
),。」色彩を異にしたしたにすぎずこの程度では当然類似範囲に含まれるものである
と記載され,見解書の添付書類目録には「別紙(3」として,本件商標である商,)
標登録第4137882号の商標公報が添付されている。そして,本件商標につい
ては,見解書の作成日である平成12年4月21日付けの「譲渡証書」を添付した
商標権移転登録申請書により,パスクベアカンパニから被告に移転登録されてい
る(同月26日受付,同年5月17日に被告に移転登録。)
また,原告は,平成12年10月19日付け内容証明郵便により,被告の登録商
標の使用権者である岐阜武の製造に係る商品を販売していた業者に対して警告書を
送付するとともに,同日付けで,岐阜地方裁判所に対し,岐阜武を債務者として,
商標権侵害差止めの仮処分を申し立てた(以下「本件仮処分申立事件」という。。)
本件仮処分申立事件において,債務者である岐阜武及び債務者補助参加人である
被告は,商標権の使用許諾について「債務者標章(1)ないし(3)は,文字部分につ,
いては補助参加人が商標登録を受けており(登録第4345622号。以下登録商
標を「参加人登録商標(1)」といい,…,また,債務者標章(2)の図形部分は,補)
助参加人が同様に商標登録を受けている(登録第4137882号。以下登録商標
を「参加人登録商標(2)」といい,…。債務者標章(1)ないし(3)は,いずれも補助)
参加人が図案部分も含めて全部作成しているところ,債務者は補助参加人から使用
。」()。,「」許諾を受けたと主張している甲第59号証ここで債務者標章(1)ないし(3)
とは,見解書において岐阜武が使用することについて問題がないとされている見解
書別紙(1)の(a)~(c)の商標と同一のものであり,このうち同別紙(1)
の(b)の商標及び本件仮処分申立事件の「債務者標章(2)」は,ともに使用商標
Aのことである。また,本件仮処分申立事件の「参加人登録商標(1)(登録第43」
45622号とは上段にUSABEARの欧文字を左横書きし下段にア),「」,「
ズエーベー」の片仮名文字を左横書きしてなる商標であり,本件仮処分申立事件の
「参加人登録商標(2)」とは,本件商標のことである。
原告は,被告が岐阜武に対して,その指定商品中「メンズアダルトアウター類」
について,平成12年1月24日付けで通常使用権の使用許諾をしていた上記登録
(「」),第4345622号商標本件仮処分申立事件の参加人登録商標(1)について
使用権者が原告の登録商標に類似する商標の使用をすることにより,原告の業務に
係る商品と混同を生ずる行為をしているとして,平成13年11月19日,商標法
53条1項に基づく取消審判の請求をした。
,,,特許庁は同請求について取消2001-31307号事件として審理したが
被請求人である被告は,答弁書において「被請求人は,株式会社岐阜武に通常使,
(,)用権を許諾している点や株式会社岐阜武が甲第5号証の商標以下商標Aという
を使用している点については,認めるものである。しかし,株式会社岐阜武が使用
している商標Aによって,請求人の業務に係る商品と混同を生じるという点につい
ては,以下に述べるように認めることはできない。…商標Aは,図と一体になった
商標であり,図は登録第4137882号…として登録済みの商標である」と述。
べた(甲第60号証。ここで「甲第5号証の商標」及び「商標A」は使用商標A),
と同一のものであり「登録第4137882号…として登録済みの商標」とは,,
本件商標のことである。
特許庁は,平成15年7月10日,同請求について「登録第4345622号,
商標の登録は取り消す」との審決をした。被告は,同審決の取消訴訟を提起した。
,,,,が東京高等裁判所は平成15年12月24日原告の請求を棄却する判決をし
上記審決が確定したため,登録第4345622号商標の登録は,平成16年6月
4日に抹消されている。
3上記2の経過によると,被告が岐阜武に「メンズアダルトアウター類」につ,
いて,本件商標の使用を許諾していたことは明らかであり,岐阜武は使用許諾され
た本件商標を使用していたというべきである。
なお,本件商標の前商標権者(出願人)である「パスクベアカンパニ」の住所
は,被告の保有に係る登録第4762838号商標の登録無効審判事件(無効20
05-89025号)及びその審決の取消しを求めた知的財産高等裁判所平成17
年(行ケ)第10833号審決取消請求事件において,被告の提携先と主張された
登録第4260676号商標の商標権者である「キングスコートカンパニー,平」
成11年審判第35700号商標登録無効審判事件で無効とされた「IDUNH,
ILLI」の欧文字よりなる登録第4101020号商標の出願人である「イダン
ヒリカンパニ」及び商標法4条1項15号に該当するとして登録拒絶査定(商願
平9-13087号)を受けた「IARMANI」の文字よりなる商標の出願人で
ある「イアマーニカンパニ」の住所と同じである。しかも,これらの企業をイン
ターネットの「NATIONWIDE」及び「Delaware」で検索しても,
検出することができず,実在する企業であることが極めて疑わしいものである。
4ところで,被告は,本件の審判段階の平成18年1月13日付け答弁書におい
,「,,。てまず被請求人は本件商標を株式会社岐阜武に使用許諾をした事実はない
株式会社岐阜武に使用許諾をした商標は,甲第2号証に明示されているように,登
録第4345622号という全く別の商標である。…(中略)…また,請求人は,
甲第60号証の記載も根拠としているが,株式会社岐阜武は,甲第5号証に示す標
章を被請求人の正式な許諾なしに使用していたものであり,既にこの商標は使用さ
れていないものである」と主張し,本訴において,本件商標につき被告が岐阜武。
に使用を許諾していたという事実は明らかに否定されると主張するが,このような
被告の主張は,取消2001-31307号事件における被請求人としての主張及
び本件仮処分申立事件における債務者補助参加人としての主張と矛盾する。
また,被告は,岐阜地方裁判所平成15年(ワ)第62号商標権侵害差止等請求
事件の補助参加人として同事件の平成16年7月12日付け準備書面において被,「
告標章(4)は,原告の有する商標権とは明らかに非類似である。前記のように『B,
ear』の文字は識別力のないことから,被告標章(4)は,図形部分に識別力を有
するものである。ところで図形部分は,下記に示すように補助参加人が有する商標
権である。登録4137882号(丙第38号証)したがって,原告の有する
商標権とは何ら類似しないことは明らかである。補助参加人が有する商標権を被告
に使用させたところで何等問題はないものである」と主張しており,本訴におけ。
る被告の主張は,この主張とも矛盾するものである。
したがって,本訴における被告の上記主張は,信義誠実の原則に反し,禁反言の
法理に触れるものであるから,到底許されないというべきである。
5以上によると,被告が岐阜武に本件商標の使用を許諾し,岐阜武は使用許諾さ
れた本件商標を使用していたことが明らかであり,岐阜武が本件商標の通常使用権
者であることが明白であるから,その認定を誤った審決の結論は誤りであり,審決
は取り消されるべきである。
第4被告の反論の要点
1原告は,本件商標につき,岐阜武が通常使用権者であるから,審決の判断は誤
りであると主張するが,被告が岐阜武に本件商標の使用を許諾した事実はなく,岐
阜武は本件商標の通常使用権者ではないのであるから,原告の主張は失当である。
2原告は「商標使用許諾契約書」及び念書の存在を指摘しているが,これらは登
録第4345622号商標に関するものであって,本件商標(登録第413788
2号)とは何の関係もない。
本件商標について被告が岐阜武に使用を許諾したというのであれば,この点につ
いての契約書がなければならない。
3また,原告は,見解書から,本件商標についての使用許諾が証明されるとする
が,失当である。
見解書は,被告訴訟代理人らがその別紙(1)に掲げられている文字及び図形の
使用について見解を述べたものである。その「2.理由」欄には「尚,株式会社セ
ント・ローランは株式会社岐阜武に,上記登録商標について使用許諾を与えている
とのことである」と記載されているが,ここにいう上記登録商標とは,登録第4。
345622号商標のことである。
「.」,「,,見解書の2理由には尚上記パスクベアカンパニの上記登録商標は
株式会社セント・ローランに商標権を移転させる手続きを準備中であり,株式会社
セント・ローランは上記(a(b(c)の図形についても株式会社岐阜武に),),
使用許諾を与えるとのことである」と記載されており,この記載から「上記登録。
商標」すなわち本件商標(登録第4137882号)について,パスクベアカン
パニから被告会社に対して商標権を移転させる手続きを準備中であること,別紙
(1)に掲げられている(a(b(c)の図形について将来,被告が岐阜武),),
に対して使用許諾を与える予定であることまでは読み取ることができる。
しかしながら,この記載から,本件商標について被告が岐阜武に使用許諾を与え
ることやその予定があることについては,全く読み取ることはできず,むしろ同時
期に使用許諾を与えていたなら,登録第4345622号商標のように,使用許諾
を与えていると記載しているはずである。
ちなみに,見解書の作成年月日は平成12年4月12日であり,少なくとも本件
の審判段階において,本件商標について被告の使用許諾があったと原告が主張して
いた日(平成12年1月24日)より2か月以上も後である。
本訴において,原告は,被告が岐阜武に使用許諾を与えた日時について,はっき
りとは主張をしていないようであるが,被告による使用許諾があるというのであれ
ば,何時ころそのような事実があったというのか明確にすべきである。
4本件仮処分申立事件の決定によれば,被告及び岐阜武が「債務者標章(1)ない
し(3)は,いずれも補助参加人が図案部分も含めて全部作成しているところ,債務
者は補助参加人から使用許諾を受けた」と主張したと記載されている。ここでい。
う「補助参加人」は被告であり「債務者」は岐阜武である。,
もっとも「債務者標章(1)ないし(3)」というのは,同決定に係る決定書(甲第,
59号証)添付の標章目録に記載されている図形及び文字(1)ないし(3)のこ
とを指しており,これは見解書別紙(1)記載の図形(a(b(c)と同じ),),
ものであって,本件商標を指しているものではない。上記決定には本件商標(登録
第4137882号商標)について使用許諾を与えたなどとは記載されていないの
である。
5以上のとおり,原告の主張はいずれも失当であり,岐阜武は本件商標の通常使
用権者ではないから,審決の判断に誤りはない。
第5当裁判所の判断
1取消事由(岐阜武が本件商標の通常使用権者ではないとの認定の誤り)につい

(1)上記第2の1,2の各事実に,以下に掲記の各証拠及び弁論の全趣旨を総合
すると,以下の各事実を認めることができる。
ア登録第4345622号商標の使用許諾
被告は上段に左横書きでUSABEARの欧文字を下段に左横書きでア,「」,「
ズエーベーの片仮名文字をそれぞれ書してなり指定商品を第25類被服ガー」,「,
ター,靴下止め,ズボンつり,バンド,ベルト,履物,仮装用衣服,運動用特殊衣
服,運動用特殊靴」とする登録第4345622号商標(設定登録日平成11年1
2月17日。以下「USABEAR/アズエーベー』商標」という)の商標権者『。
であったところ,平成12年1月24日,岐阜武との間で「USABEAR/ア,
ズエーベー」商標につき,メンズアダルトアウター類の日本国内の販売に使用する
ことを岐阜武に許諾する旨の商標使用許諾契約を締結した。
(甲第2号証,第63号証)
イ見解書の作成
本訴における被告訴訟代理人であり,本件の審判における被告の代理人でもあっ
た足立勉弁理士(以下「足立弁理士」という)外1名は,平成12年4月21日。
付けで見解書を作成した。見解書は「結論」として,その別紙(1)に表示され,
た3個の「文字及び図形(そのうち(b)の符号が付されたものは,使用商標Aと」
同一構成のものである)を岐阜武が第25類の商品に使用することは問題がない。
とし,その理由として「別紙(1)に示す文字中『USABEAR『アズエー,』,
ベー』の文字は,株式会社セント・ローランにおいて登録済みの商標である(商標
(判決注・USABEAR/アズエーベー」商標のこと登録第4345622号・・・)「
。実際,使用する文字の大きさ,配置は異なるものの,このような変更はである。)
社会通念上,商標の使用と認められるものであり,問題とならない。(b)の『US
A』の文字は,識別力を有しない文字であり『アメリカ製』の商品に使用するに,
際しては問題とならない。尚,株式会社セント・ローランは株式会社岐阜武に,上
記商標について使用許諾を与えているとのことである。また・・・(b)の図形部,
分は,パスクベアカンパニが登録済みの商標(商標登録第4137882号・・
・を若干変更(・・・bは色彩を異にした)した)(判決注・本件商標のことである)。
にすぎず,この程度では当然類似範囲に含まれるものである・・・尚,上記パス。
クベアカンパニの上記登録商標は,株式会社セント・ローランに商標権を移転さ
せる手続きを準備中であり,株式会社セント・ローランは上記・・・(b)・・・の
図形についても株式会社岐阜武に使用許諾を与えるとのことである」と記載され。
ている。
(甲第4号証)
ウ本件商標の移転登録
上記第2の1の(1)のとおり,パスクベアカンパニは被告に対し,本件商標に
係る商標権の移転(移転登録日平成12年5月17日)をしたが,当該商標権の移
転は,見解書の作成日付と同一の平成12年4月21日付け譲渡証書による商標権
の譲渡を原因とするものであり,かつ,商標権移転登録は,足立弁理士外1名の代
理作成に係る同月24日付け移転登録申請書(特許庁受付同月26日)に基づいて
なされた。
(甲第1号証,第130号証の1,2)
エ本件仮処分申立事件における被告及び岐阜武の主張
原告は,平成12年10月18日ころ,岐阜武を債務者として,岐阜地方裁判所
に本件仮処分申立事件の申立てをした。同申立ては,3個の標章を付した被服を債
務者が販売すること等の差止めの申立て含むものであったところ,当該3個の標章
(仮処分申立書及び仮処分決定書において「債務者標章(1)~(3)」との略称が付,
されている)は,見解書の別紙(1)に表示された3個の「文字及び図形」と同。
一構成のものであり,このうち債務者標章(2)が使用商標Aと同一の構成のもので
ある。被告は,本件仮処分申立事件において,債務者(岐阜武)側に補助参加し,
岐阜武とともに「債務者標章(1)ないし(3)は,文字部分については補助参加人が,
(判決注・USABEAR商標登録を受けており(登録第4345622号・・・。)「
,また,債務者標章(2)の図形部分は補助参加人/アズエーベー」商標のことである。)
(判決注・本件が同様に商標登録を受けている(登録第4137882号・・・。)
。債務者標章(1)ないし(3)は,いずれも補助参加人が図案部分も商標のことである。)
含めて全部作成しているところ,債務者は補助参加人から使用許諾を受けた」と。
主張した。
(甲第58号証,第59号証)
オ取消2001-31307号事件における被告の主張
原告は,平成13年11月19日,被告を商標権者とする「USABEAR/ア
ズエーベー」商標につき,通常使用権者である岐阜武の不正使用を理由として,商
標法53条1項に基づく登録取消審判の請求をした(取消2001-31307号
事件。原告の請求の理由は「USABEAR/アズエーベー」商標の通常使用権),
者である岐阜武が「USABEAR/アズエーベー」商標と類似する使用商標A,
を「ジャケット」に使用し,原告の業務に係る商品と混同を生ずる行為をしたとい
うものである。これに対し,足立弁理士は,審判被請求人である被告の審判代理人
として,平成14年3月25日付け答弁書により「被請求人は,株式会社岐阜武,
に通常使用権を許諾している点や株式会社岐阜武が甲第5号証の商標(以下,商標
A」というを使用している点については,認め)(判決注・使用商標Aのことである)。
るものである。しかし,株式会社岐阜武が使用している商標Aによって請求人の業
務に係る商品と混同を生ずるという点については,以下に述べるように,認めるこ
とはできない「商標Aは,図と一体となった商標であり,図は登録第4137。」,
882号・・・として登録済みの商標である」と(判決注・本件商標のことである。)。
主張した。
(甲第60~第62号証)
(2)上記(1)の各事実によれば,以下のとおり認めることができる。
被告は,平成12年1月24日,岐阜武との間で「USABEAR/アズエー,
ベー」商標につき使用許諾契約の締結をしたものであるが,平成12年4月21日
には,岐阜武が使用商標Aと同一の構成よりなる「文字及び図形」を第25類の商
品に使用することに問題がないとする見解書を足立弁理士が作成していることにか
んがみて,岐阜武が実際に使用するものと想定されていた商標には使用商標A(見
解書別紙(1)に表示された「文字及び図形」のうち(b)の符号が付されたもの,
本件仮処分申立事件における債務者標章(2),取消2001-31307号事件に
おける商標A)が含まれていたものと推認することができ,現に岐阜武はこれを実
際に使用していたことが認められる。
しかるところ,使用商標Aの構成は,本件商標を構成する図形の色彩を反転させ
た上「USABEAR/アズエーベー」商標の「USABEAR」の文字部分と,
組み合わせてなるものであり,このことは,足立弁理士が見解書で指摘し,また,
被告及び岐阜武が本件仮処分申立事件において主張するところであるから,被告と
岐阜武の共通の認識であったものと認められる。
そして,そうであれば,岐阜武が使用商標Aを使用し得るというためには「U,
SABEAR/アズエーベー」商標について使用許諾を受けたのみでは不十分であ
り,本件商標についても使用権限を取得する必要があるものというべきところ,こ
のことに,本件商標に係る商標権をパスクベアカンパニから被告に移転する手続
の準備中である旨が見解書に記載されており,現に見解書の作成の直後にその旨の
移転登録申請がなされていること,また,本件仮処分申立事件や取消2001-3
1307号事件において,被告及び岐阜武は,使用商標Aの図形部分をなす本件商
標が被告の登録商標である旨を主張しているが,この主張は,本件商標の商標権者
である被告が岐阜武にその使用を許諾しているとの趣旨を含むものとして理解しな
ければ,意味をもたないことを併せ考えれば,被告と岐阜武との間には,被告が本
件商標に係る商標権を取得したとき(パスクベアカンパニから被告に対する移転
登録がされた平成12年5月17日)と同時に,又はその後間もなく,本件商標に
ついての使用許諾契約が明示的又は黙示的に締結されたものと推認することができ
る。
被告は,見解書の記載から,本件商標について被告が岐阜武に使用許諾を与える
ことやその予定があることを読み取ることができないとか,本件仮処分申立事件に
おける被告及び岐阜武の主張は,債務者標章(1)ないし(3)について岐阜武が被告か
ら使用許諾を受けたということであって,被告が本件商標について使用許諾を与え
たとの主張は記載されていないなどと主張する。しかしながら,上記のとおり,見
解書の記載内容や本件仮処分申立事件における被告及び岐阜武の主張内容を含む各
事実を総合すれば,被告と岐阜武との間に,本件商標についての使用許諾契約が明
示的又は黙示的に締結されたものと推認することができるのであるから,被告の上
記主張は失当である。
2結論
以上のとおりであるから,審決が「被請求人と岐阜武との間において,本件商標
について商標使用許諾契約が,明示的にせよ黙示的にせよ,締結された事実を推認
するには足りないというほかない。したがって,岐阜武が,本件商標の通常使用権
者であると認めることはできない」とした認定判断は誤りであるというべきであ。
り,この誤りが審決の結論に影響を及ぼすことは明らかであるから,審決は取消し
を免れない。
知的財産高等裁判所第4部
裁判長裁判官
石原直樹
裁判官
杜下弘記
裁判官古閑裕二は,転補のため,署名押印することができない。
裁判長裁判官
石原直樹

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