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主文
1原告らの請求をいずれも棄却する。
2被告の請求をいずれも棄却する。
3訴訟費用は,原告Aと被告との関係では,第1事件
について生じた費用は原告Aの,第3事件について生
じた費用は被告の各負担とし,原告Bと被告との関係
では,第1事件について生じた費用は原告Bの,第3
事件について生じた費用は被告の各負担とし,原告会
社と被告との関係では,第2事件について生じた費用
は原告会社の負担とする。
事実及び理由
第1請求
1第1事件
(原告Aの請求)
(1)被告は,その経営するラーメン店の店舗の看板及び従業員の制服に別紙標
章目録記載の標章(以下「被告標章」という。)を使用してはならない。
(2)被告は,被告標章を付した店舗の看板及び従業員の制服を廃棄せよ。
(3)被告は,「元祖ラーメンN家」の商号を使用してはならない。
(4)被告は,別紙登記目録記載の登記中,「元祖ラーメンN家」の商号の抹消
登記手続をせよ。
(5)被告は,原告Aに対し,602万1270円及びこれに対する平成22年
4月6日から支払済みまで年5分の割合による金員を支払え。
(6)被告は,原告Aに対し,平成22年7月1日から被告が被告標章の使用を
停止するに至るまで,1日当たり4万0945円の割合による金員を支払え。
(7)上記(5)及び(6)につき,仮執行宣言
(原告Bの請求)
(1)被告は,原告Bに対し,736万6891円及びこれに対する平成22年
8月2日から支払済みまで年5分の割合による金員を支払え。
(2)仮執行宣言
2第2事件(原告会社の請求)
(1)被告は,その経営するラーメン店の店舗の看板及び従業員の制服に被告標
章を使用してはならない。
(2)被告は,被告標章を付した店舗の看板及び従業員の制服を廃棄せよ。
(3)被告は,「元祖ラーメンN家」の商号を使用してはならない。
(4)被告は,別紙登記目録記載の登記中,「元祖ラーメンN家」の商号の抹消
登記手続をせよ。
3第3事件(被告の請求)
(1)原告A及び原告Bは,被告に対し,連帯して,440万円及びこれに対す
る平成24年1月19日から支払済みまで年5分の割合による金員を支払え。
(2)仮執行宣言
第2事案の概要
1第1事件は,原告Aが,被告は原告Aの有する商標権に係る商標と酷似する
被告標章を使用することにより原告Aの商標権を侵害していると主張して,被
告に対し,商標法36条1項に基づき,被告標章及び「元祖ラーメンN家」と
いう商号(以下「本件商号」という。)の使用の差止めを,同条2項に基づき,
被告標章を付した店舗の看板及び従業員の制服の廃棄並びに本件商号の抹消登
記手続を,さらに,不法行為に基づく損害賠償請求として,602万1270
円及びこれに対する遅延損害金並びに平成22年7月1日から被告が被告標章
の使用を停止するに至るまで1日当たり4万0945円の割合による金員の支
払を,それぞれ求めるとともに,原告Bが,原告A及び原告Bが共同で経営す
るラーメン店の至近距離において被告標章を用いてラーメン店を営業する被告
の行為は不正競争防止法(以下「不競法」という。)2条1項1号の不正競争
行為に該当すると主張して,被告に対し,不法行為に基づく損害賠償請求とし
て,736万6891円及びこれに対する遅延損害金の支払を求めた事案であ
る。
第2事件は,原告A及び原告Bが上記ラーメン店の経営等を目的として設立
した株式会社である原告会社が,被告による上記不正競争行為を理由として,
被告に対し,不競法3条1項に基づき,被告標章及び本件商号の使用の差止め
を,同条2項に基づき,被告標章を付した店舗の看板及び従業員の制服の廃棄
並びに本件商号の抹消登記手続を,それぞれ求めた事案である。
第3事件は,被告が,原告A及び原告Bは共謀の上で被告に対して違法な脅
迫,強要行為を行っており,また,原告A及び原告Bが第1事件を提起したこ
とは不当訴訟に該当するなどと主張して,第1事件の反訴として,原告A及び
原告Bに対し,不法行為に基づく損害賠償請求として,440万円及びこれに
対する遅延損害金の支払を求めた事案である。
2前提事実(当裁判所に顕著な事実,当事者間に争いのない事実並びに証拠及
び弁論の全趣旨から容易に認定できる事実)
(1)当事者
ア原告Bは,平成21年12月12日,「元祖ラーメンN家」という屋号
のラーメン店(以下「原告店舗」という。)を開業した者であり,原告会
社は,平成22年8月2日に飲食店経営等を目的として設立され,同日以
降,原告店舗を経営している株式会社である。なお,原告会社の代表取締
役としてCが,取締役として原告A及び原告Bが,それぞれ登記されてい
る。
(弁論の全趣旨)
イ原告Aは,以下の商標権(以下,「本件商標権」といい,本件商標権に
係る商標を「本件商標」という。)を有する者である(争いがない。)。
(ア)登録番号第5327392号
(イ)出願年月日平成22年1月21日
(ウ)登録年月日平成22年6月4日
(エ)商品及び役務の区分第43類
(オ)指定役務ラーメンを主とする飲食物の提供
(カ)商標別紙商標目録記載のとおり
ウ被告は,平成22年4月6日,「元祖ラーメンN家」という屋号のラー
メン店(以下「被告店舗」という。)を開業した者である(争いがない。)。
(2)原告Bが原告店舗を開業するに至る経緯
原告Bは,昭和56年3月20日から,元祖N屋という屋号のラーメン店
(以下「元祖N屋」という。)に勤務していたが,経営者との経営方針に関
する見解の相違等を理由として,平成21年8月31日,他の従業員ら(1
5名程度)とともに元祖N屋を退職した。そして,原告Bは,上記退職者の
うちの数名(被告を含む。)の協力の下,新たにラーメン店を立ち上げるこ
ととし,平成21年12月12日,原告店舗の営業を開始した。被告は,原
告店舗の開業準備に当たり,取引業者の選定等の業務を行った。
なお,原告店舗は,平成22年5月に移転する前の元祖N屋から見て,道
路を挟んで斜め向かい側の位置にあり,原告店舗と元祖N屋との距離は直線
で約34メートルある。
(乙11,乙14,乙20,乙41,原告B本人,弁論の全趣旨)
(3)原告Bと被告の間における覚書
原告Bは,平成21年12月26日,被告との間において,①原告Bは,
被告が「元祖N家」という屋号のラーメン店を開店し営業することについて,
一切の異議申立てや損害賠償の請求をしない旨を記載した覚書(乙1,以下
「本件覚書①」という。)及び②被告は,原告Bが「元祖N家」という屋号
のラーメン店を営業していることについて,一切の異議申立てや損害賠償の
請求をしない旨を記載した覚書(甲10,以下「本件覚書②」といい,本件
覚書①と併せて「本件各覚書」ということがある。)を取り交わした(争い
がない。)。
(4)被告による被告店舗の開業
被告は,平成22年3月30日,本件商標と酷似する被告標章を使用した
看板を被告店舗に掲げ,同年4月6日から被告店舗の営業を開始した。被告
は,被告標章がプリントされたTシャツを被告店舗の従業員の制服として使
用するとともに,「元祖ラーメンN家」という名称を被告店舗の商号として
登記し,使用している。
なお,被告店舗は,原告店舗から見て,道路を挟んで斜め向かい側の位置
にあり,被告店舗と原告店舗との距離は直線で約100メートルある。
(被告店舗の商号の登記については,甲2。被告店舗と原告店舗の位置関係
については,乙20及び弁論の全趣旨。その余は,争いがない。)
(5)原告Bによる解除の意思表示
原告Bは,被告に対し,平成22年6月8日に開催された原告Bと被告の
間における福岡地方裁判所平成22年(ヨ)第a号仮処分申立事件の第5回審尋
期日において,本件覚書①は被告に対して無条件に「元祖ラーメンN家」と
いう名称,表示,看板等の使用を許諾したものではなく,上記表示等に付随
して存在する原告Bの信用を失墜せしめないという信義則上の義務を被告は
負っているところ,同年6月4日に覚せい剤取締法違反の疑いで逮捕される
などしたことにより,被告が上記信義則上の義務に違反したことは明らかで
あるとして,債務不履行に基づき,本件覚書①に基づく契約を解除する旨の
意思表示をした。
また,原告Bは,被告に対し,同月17日,上記解除の意思表示を記載し
た通告書(甲12の1)を改めて送付した。
(甲12の1及び2,弁論の全趣旨)
(6)原告A及び原告Bによる本件訴訟の提起
原告A及び原告Bは,平成22年7月20日,前記1のとおりの本件訴訟
(第1事件)を提起した(当裁判所に顕著な事実)。
3争点
(1)原告Aの被告に対する商標法36条1項及び2項に基づく請求について(第
1事件)
ア原告Aによる本件商標の使用許諾の有無
イ原告Aによる本件商標権の行使が信義則違反又は権利濫用に当たるか否

ウ本件商標が無効審判により無効にされるべきものであるか否か
(2)原告A及び原告Bの被告に対する不法行為に基づく損害賠償請求について
(第1事件)
ア不法行為の成否
イ損害発生の有無及びその額
(3)原告会社の被告に対する不競法3条1項及び2項に基づく請求について(第
2事件)
ア原告会社の商品等表示の有無
イ原告会社の商品等表示の周知性の有無
ウ原告会社による本件商標の使用許諾の有無
エ原告会社による不競法違反の主張が信義則違反又は権利濫用に当たるか
否か
オ被告の先使用権の有無
(4)被告の原告A及び原告Bに対する不法行為に基づく損害賠償請求について
(第3事件)
ア不法行為の成否
イ損害発生の有無及びその額
4争点に対する当事者の主張
(1)原告Aの被告に対する商標法36条1項及び2項に基づく請求について(第
1事件)
ア原告Aによる本件商標の使用許諾の有無
【被告の主張】
(ア)原告Bは,平成21年12月25日ころ,被告に対し,被告が「元祖
ラーメンN家」という商標を使用して,原告店舗の近くでラーメン店を
営業することを許諾した(以下「本件許諾」という。)。
原告Aは,本件覚書①に「元祖N家」という名称の使用を許諾する旨
が記載されていることをもって,原告Bは被告に対して「元祖N家」と
いう名称の使用は許諾したが,「元祖ラーメンN家」という名称の使用
は許諾していないと主張する。しかし,本件覚書②には,原告Bが「元
祖N家」という屋号のラーメン店を営業している旨が記載されていると
ころ,その当時,原告Bが経営していたのは「元祖ラーメンN家」とい
う屋号の原告店舗だけであったことなどからすると,原告Bは,本件許
諾の当時,「元祖N家」と「元祖ラーメンN家」を全く区別していない
といえる。したがって,原告Bが,被告に対し,「元祖ラーメンN家」
という名称の使用を許諾していたことは明らかであり,原告Aの上記主
張には理由がない。また,本件覚書①には,被告が新たに開業する店舗
と原告店舗との距離等について,限定する旨の記載はなく,他にこれを
うかがわせる事情もない。
(イ)そして,原告Bは,他人である原告Aに本件商標を登録させ,原告A
を通じて被告に対して本件商標権を行使することによって,本件許諾の
効力を失わせるという不当な目的の下に,正常な共同経営の関係にはな
い原告Aと通謀又は協力して,原告Aに本件商標を登録させている。こ
のような通謀又は協力関係が存在する以上,原告Bと原告Aは信義則上
同視されるべきであり,原告Bによる本件許諾は,原告Aによる本件商
標の使用許諾と同視されるべきである。
また,仮に,原告Bと原告Aとの間に正常な共同経営の関係があった
場合,原告Aは,共同経営者である原告Bが行った本件許諾の内容を実
現するため,被告に対して本件商標の使用を許諾する必要があるから,
原告Bと同様,当然に平成21年12月25日に本件商標の使用を許諾
していることになる。
さらに,原告Aが,本件各覚書を確認した後も,作ったものは仕方な
いという程度の認識しか有しておらず,被告に対し,異議を述べたり,
訂正の提案をしたりしていないことなどからすれば,原告Aが,被告に
よる本件商標の使用について許諾していたことは明らかである。
(ウ)なお,原告Aは,被告が違法薬物を使用し,原告店舗の屋号に対する
信用を失墜させないという本件許諾に付随する信義則上の義務に違反し
たため,原告Bは本件許諾を解除したと主張する。しかし,本件覚書①
において,被告の違法薬物使用の事実は解除事由として定められておら
ず,民法上も解除事由とされていない。また,被告が違法薬物を使用し,
執行猶予付きの有罪判決を受けたという事実によって,原告B及び原告
店舗の信用,評判が下がる可能性はないから,契約目的達成に重大な影
響を与える状況が全くなかったことは明らかである。したがって,被告
に要素たる債務の不履行は全く存在しないから,いわゆる信義則上の付
随義務違反を理由として,原告Bが本件許諾を解除した旨の原告Aの上
記主張には理由がない。
【原告Aの主張】
(ア)原告Bが,「元祖ラーメンN家」の商標を使用して,原告店舗の近辺
でラーメン店を営業することを許諾した事実はない。原告Bは,本件各
覚書の記載のとおり,被告に対し,「元祖N家」という屋号を使用する
ことは認めたが,「元祖ラーメンN家」という屋号の使用を認めたこと
は断じてない。被告は,本件覚書②(甲10)の記載を根拠に,「元祖
ラーメンN家」という屋号の使用の許諾があったと主張するが,本件覚
書②は,本件覚書①(乙1)と異なり,原告Bが被告と手を切りたいと
いう趣旨で作成されたものであり,屋号使用の許諾に係るものではない
から,被告の上記主張は失当である。被告は,「元祖ラーメンN家」の
成功を目の当たりにし,原告Bから「元祖N家」という屋号の使用許諾
を得ていたことを奇貨として,「元祖ラーメンN家」という屋号の使用
についても許諾を得たと強弁しているにすぎない。
また,原告Bは,被告に対し,原告店舗の近くで開店してもよいとは
言ったが,至近距離での開店を許容していたものではなく,当然合理的
な距離を空けることを予定していた。本件覚書①には距離制限に関する
記載はないが,その作成当時,原告Bと被告との間には深い確執があっ
たことなどからすれば,上記距離制限が黙示的に含まれていることは明
らかである。そうであるにもかかわらず,被告は,同じN地区にあり,
原告店舗からすぐに見える程度の距離しか離れていない場所に被告店舗
を開店しているから,本件許諾の効果は及ばないというべきである。
(イ)原告Aと原告Bは明らかに別人格であり,これを同一視する法理は存
在しない。両者は信義則上同視されるべきであるという被告の主張は,
独自の見解に基づくものであり,到底認められるものではない。
(ウ)なお,仮に,原告Bが本件許諾をしたとしても,被告は覚せい剤の自
己使用という反社会的な事実で有罪判決を受けたため,原告Bは,本件
許諾を解除した。すなわち,本件許諾は,社会的に周知され,ラーメン
店として高い評判を得ている原告Bの「元祖ラーメンN家」という商号
の使用を被告に認めるものであるから,その内容として,被告は,原告
Bが築き上げてきた上記商号に対する信用を失墜させない信義則上の義
務を有する。にもかかわらず,被告は,覚せい剤の自己使用という反社
会的な事実で有罪判決を受け,上記信義則上の義務に違反し,原告Bと
の信頼関係を破壊した。そこで,原告Bは,被告に対し,被告の上記信
義則違反及び信頼関係が破壊されたことに基づく債務不履行を理由とし
て,本件許諾を解除する旨の意思表示をしたものである。
イ原告Aによる本件商標権の行使が信義則違反又は権利濫用に当たるか否

【被告の主張】
仮に,原告Aによる本件商標の使用に関する許諾が存在しなかったとし
ても,上記のとおり,原告Bは,他人である原告Aに本件商標を登録させ,
原告Aを通じて被告に対して本件商標権を行使することによって,本件許
諾の効力を失わせるという不当な目的の下に,正常な共同経営の関係には
ない原告Aと通謀又は協力して,原告Aに本件商標を登録させたものであ
るから,信義則上,原告Aは原告Bと同視されるべきである。
そうすると,原告Bが本件許諾をしているにもかかわらず,原告Aが,
形式的に原告Bと別の法人格であることを奇貨として,被告に対し,本件
商標権に基づく請求をすることは,明らかな自己矛盾の行為であり,信義
則(禁反言の原則)に反すると同時に,正義に著しく反し,権利を濫用す
るものであるといえる。
【原告Aの主張】
原告Bは,経営に関して知識を持ち合わせていなかったため,それを補
う形で原告Aが原告店舗の共同経営者となったものである。そして,原告
Aは,平成21年9月ころから本件商標を商標登録する必要があると考え
ていたが,原告Bがラーメンの調理等に忙殺されており,同人名義で商標
登録の出願をする時間的余裕が全くなかったため,原告Aが出願をしたに
すぎない。また,原告Bはラーメン調理や接客を担当し,原告Aはその他
経営に関する環境整備事項を分担しており,原告Aはその分担に従って本
件商標の登録をしたのであって,原告Aが本件商標の登録を出願したこと
に関し,何ら不自然な点は存在しない。
また,一般に,いつ商標登録の出願を行うかは出願者の自由であるし,
原告Aは,本件商標の出願時に本件各覚書が作成されていたことを知って
いたが,本件各覚書に記載された「元祖N家」と本件商標の「元祖ラーメ
ンN家」は異なるものだと考えていた。したがって,本件商標について登
録を出願することが,本件各覚書の効力を潜脱するための手段となること
を認識してはいなかった。また,原告Aは,本件商標の出願時,被告がど
のようなデザインの看板を掲げるのかを知らなかった。このように,原告
Aには,被告による「元祖ラーメンN家」の使用を妨害する意図を抱く端
緒すらなかったのである。
以上の事情からすれば,原告Aの被告に対する本件商標権の行使は,正
当なものであり,信義則違反又は権利濫用に当たらないことは明らかであ
る。
ウ本件商標が無効審判により無効にされるべきものであるか否か
【被告の主張】
(ア)商標法3条1項4号について
本件商標の「元祖ラーメンN家」のうち,「元祖」は,それ自体では
自他役務識別標識としての機能を果たし得ない,単なる付記的表示であ
り,「ラーメン」は,提供される主たる飲食物の品目の普通名称である。
そして,「N家」は,ご当地ラーメンである「Nラーメン」の発祥の地
として全国的に有名なN地区を指す地理的名称の「N」と,一般的に屋
号,家号の略称として使用される「家」を結合したものにすぎない。
したがって,本件商標は,ありふれた名称を普通に用いられる方法で
表示する標章のみから成る商標であり,自他役務識別標識としての機能
を果たし得ないものであるから,商標法3条1項4号に該当し,商標登
録をすることができないものであることは明らかである。
(イ)商標法3条1項6号について
本件商標の重要部分である「N家」は,役務の質等を表示する「N」
に,屋号の略称たる「家」を付したものであって,単にNラーメンが提
供されるラーメン店という役務の質及び役務の提供場所等を表示してい
るにすぎない。したがって,本件商標は,需要者が何人かの業務に係る
商品又は役務であることを認識することができない商標であることは明
らかであり,商標法3条1項6号に該当し,登録することができないも
のである。
(ウ)商標法4条1項8号について
本件商標の出願前から,東京都八王子市及び神奈川県横浜市に「N家」
というラーメン店が存在しており,インターネット上の検索エンジンを
用いた検索の結果等によれば,これらの知名度は非常に高いといえるか
ら,本件商標が他人の著明な略称に当たることは明らかである。そして,
原告Aは,本件商標の登録を行うに当たって上記各「N家」の使用者か
ら承諾を得ていないから,本件商標は,商標法4条1項8号に該当する
といえ,商標登録を受けることができないものである。
(エ)以上のとおり,本件商標は,商標法3条1項4号及び6号並びに同法
4条1項8号に該当し,商標登録を受けることができないものであるか
ら,無効審判により無効とされるべきものであることは明らかである。
したがって,商標権者である原告Aは,被告に対し,本件商標権を行使
することはできない(商標法39条,特許法104条の3第1項)。
【原告Aの主張】
(ア)商標法3条1項4号について
本件商標は,上段の「元祖ラーメン」と下段の「N家」とでは,その
文字の大きさが著しく異なる。この点が,本件商標の際だった特徴の一
つである。また,白地の背景の上に,他の文字が黒色で記載されている
中,「ラーメン」の文字だけが赤色文字で記載されるという絶妙な調和
により本件商標は成立しており,この点が,見る者をして,原告店舗で
供されるラーメンを想起させるのである。したがって,本件商標には,
自他識別能力が十分に備わっている。
仮に,本件商標を構成する各要素がありふれた名称であるとしても,
商標法3条1項4号に該当するか否かは,当該商標を全体的に観察して
決せられなければならない。そうすると,「元祖ラーメンN家」という
名称は,インターネット上の検索エンジンによる検索によれば,原告店
舗及び被告店舗を除いて他にないのであるから,本件商標がありふれて
いるということはできない。
したがって,本件商標は,商標法3条1項4号に該当しない。
(イ)商標法3条1項6号について
本件商標は,一体不可分の屋号として認識されるべきものであり,「N」
が地名として理解される場合があったとしても,「N家」の文字に自他
識別能力が認められないということにはならない。そして,本件商標の
名称,文字の大きさ及び色からすれば,本件商標に自他識別能力が備わ
っていることは,上記(ア)のとおりである。
したがって,本件商標は,商標法3条1項6号に該当しない。
(ウ)商標法4条1項8号について
東京都八王子市と神奈川県横浜市に存在するラーメン店「N家」は,
いずれも著名性が認められないから,本件商標が他人の著明な略称であ
るということはできない。
したがって,本件商標は,商標法4条1項8号に該当しない。
(エ)以上のとおり,本件商標は,商標法3条1項4号及び6号並びに同法
4条1項8号に該当しないことは明らかである。なお,被告は,平成2
3年7月22日,特許庁に対し,本件商標登録を無効とする旨の審決を
求めて審判の請求をしたが,その請求は退けられている。
(2)原告A及び原告Bの被告に対する不法行為に基づく損害賠償請求について
(第1事件)
ア不法行為の成否
【原告A及び原告Bの主張】
(ア)被告は,本件商標に極めて酷似する被告標章を使用した看板を被告店
舗に掲げ,被告標章をプリントした制服を使用し,「元祖ラーメンN家」
という商号で被告店舗を営業し,原告Aの本件商標権を侵害している。
(イ)また,被告の上記行為は,需要者の間に広く認識されるに至っている
本件商標と極めて酷似する被告標章を使用することにより,消費者をし
て,被告店舗は原告店舗と営業主体が同一である又は原告店舗の2号店
が被告店舗であると誤認させ,混同を生じさせるものであるから,不競
法2条1項1号の不正競争に該当するものである。そして,被告は,上
記不正競争により,原告店舗の売上げを減少させるなどして原告Bの営
業上の利益を侵害している。
(ウ)原告Bは,被告に対し,「元祖ラーメンN家」という屋号の使用を許
諾していない。仮に,これを許諾していたとしても,被告が覚せい剤の
自己使用という反社会的な事実で有罪判決を受けたことにより,原告B
は,上記使用許諾を解除している。
また,原告Aは,原告Bと共同経営の関係にあり,原告Aが本件商標
の登録を行ったこと及びその時期等について,何ら不自然な点はない。
したがって,原告A及び原告Bによる本件損害賠償請求が,信義則違
反又は権利濫用に当たるということはできない。
【被告の主張】
(ア)原告Bは,被告に対し,「元祖ラーメンN家」の商標を使用して,原
告店舗の付近でラーメン店を営業することを許諾(本件許諾)している
から,被告による不法行為は成立しないというべきである。
原告Bは,本件許諾の解除を主張するが,被告には解除事由となり得
る債務不履行はなく,原告Bの主張には理由がない。
仮に,本件許諾が存在しないとしても,本件各覚書を締結するに至る
経緯等からすれば,原告Bの不法行為に基づく損害賠償請求は,信義則
(禁反言の原則)違反又は権利濫用に当たり,許されない。
(イ)原告Aは,原告Bと通謀し,本件許諾の効果を潜脱するという不当な
目的の下に本件商標の登録を行っているから,原告Bによる本件許諾は,
信義則上,原告Aによる本件商標の使用許諾と同視されるべきである。
仮に,これが認められないとしても,原告Bが本件許諾をしているに
もかかわらず,原告Aが,形式的に原告Bと別の法人格であることを奇
貨として,被告に対し,本件商標権に基づく請求をすることは,信義則
(禁反言の原則)に反すると同時に,正義に著しく反し,権利を濫用す
るものであり,許されない。
イ損害発生の有無及びその額
【原告A及び原告Bの主張】
(ア)原告Bの損害
原告店舗は,開店後からその知名度を高めていき,順調に売上げを伸
ばしていたが,被告店舗の開店により,不当に客を奪われた。被告店舗
の開店前の原告店舗の1日平均の売上げは約74万円であったが,被告
店舗開店後の1日平均の売上げは約55万円にとどまっており,1日当
たり約19万円売上げが減少している。したがって,被告店舗が開店し
た平成22年4月6日から同年8月2日までに確定した原告店舗の利益
減少額(売上減少額19万円×117日×原告店舗の利益率43.1%
=958万1130円)につき,原告A及び原告Bの損害を等分した4
79万0565円が,原告店舗の利益の減少に係る原告Bの損害となる。
また,原告A及び原告Bは,被告による本件商標の不正使用によって,
消費者から被告店舗との関係について幾度も問合せを受けたり,不本意
にもインターネット上で被告店舗が原告店舗の2号店と紹介されたりし
たため,精神的苦痛を被った。このような原告A及び原告Bの精神的苦
痛を慰謝するに足りる慰謝料は,それぞれ100万円を下らない。
さらに,原告A及び原告Bは,被告の商標権侵害行為及び不競法違反
行為の差止め及び損害賠償請求等を弁護士に委任せざるを得なかったも
のであり,本件訴訟の訴額及び難易等を考慮すると,弁護士費用300
万円を損害と認めるのが相当である。
以上のとおりであるから,原告店舗の利益の減少に係る原告Bの損害
に上記慰謝料100万円及び弁護士費用のうち原告Bの按分額150万
円を加えた729万0565円及びこれに対する遅延損害金が,原告B
の損害の合計額となる。
(イ)原告Aの損害
被告店舗が開店した平成22年4月6日から同年6月30日までの8
6日間の原告店舗の利益減少額(売上減少額19万円×86日×原告店
舗の利益率43.1%=704万2540円)につき,原告A及び原告
Bの損害を等分した352万1270円,及び,同年7月1日から被告
が被告標章の使用を停止するに至るまで1日当たり4万0945円(売
上減少額19万円×原告店舗の利益率43.1%×1/2)の割合によ
る金員が,原告店舗の利益の減少に係る原告Aの損害となる。
そして,これに上記慰謝料100万円及び弁護士費用のうち原告Aの
按分額150万円を加えた602万1270円及びこれに対する遅延損
害金並びに同年7月1日から被告が被告標章の使用を停止するに至るま
で1日当たり4万0945円の割合による金員が,原告Aの損害の合計
額となる。
【被告の主張】
原告A及び原告Bの上記主張は,争う。
原告店舗の近くにおいて,平成22年5月10日に元祖N屋がリニュー
アルオープンしている上,被告店舗の隣に新たに「名物元祖NラーメンN
屋台」という名称のラーメン店がオープンしており,同月ころから,被告
店舗の売上げも減少していることなどからすると,原告店舗の売上げ減少
は,被告店舗の開業が影響したものではないというべきである。
(3)原告会社の被告に対する不競法3条1項及び2項に基づく請求について(第
2事件)
ア原告会社の商品等表示の有無
【原告会社の主張】
原告店舗の屋号である「元祖ラーメンN家」は,原告会社の営業を示す
ものであり,不競法2条1項1号の商品等表示に当たることは明らかであ
る。
【被告の主張】
原告Bが,原告Aに対し,原告店舗の営業権を譲渡しているのであれば,
「元祖ラーメンN家」という表示は,不競法2条1項1号にいう原告Bの
商品等表示ではないということになる。そして,原告Bによる原告会社に
対する営業譲渡は,二重譲渡となり無効である。したがって,「元祖ラー
メンN家」という表示は,原告会社の商品等表示ではないことになる。
仮に,原告Bが原告Aに原告店舗の営業権を譲渡していないとしても,
原告Aは,「元祖ラーメンN家」という本件商標の登録を受け,本件商標
権が自己に帰属することを主張しているから,「元祖ラーメンN家」とい
う表示は,原告会社の表示ではないことになる。
イ原告会社の商品等表示の周知性の有無
【原告会社の主張】
他人の周知な商品等表示と同一又は類似する表示を使用して,需要者に
混同を生じさせることにより,当該表示により培われた他人の信用にただ
乗りして顧客を獲得することを防止するという不競法2条1項1号の趣旨
からすれば,混同の危険があれば救済されるべきであるから,周知性の意
義は広く解されるべきである。
本件において,「元祖ラーメンN家」という表示には,被告による商標
登録の異議申立てが棄却されたことからも明らかなように,自他役務識別
能力があり,原告A及び原告Bが「元祖ラーメンN家」という屋号を用い
て原告店舗を開店してから約3年が経過し,この間,原告会社は,着実に
営業規模を拡大し,積極的にタクシーや駅付近案内図に広告を出すなどし
ている。その上,本件訴訟に関する多数の報道がされるなどしていること
などからすれば,「元祖ラーメンN家」という名称が周知性を獲得してい
ることは明らかである。
【被告の主張】
そもそも「元祖ラーメンN家」という表示は,需要者が何人かの業務に
係る役務であるかを認識することができない商標であるから,このような
表示に顕著性がないことは明らかである。また,原告店舗の営業期間は短
く,規模も市場占有率も小さい上,原告会社による原告店舗に関する広告
は宣伝効果の乏しいものである。さらに,原告店舗に関する記事が新聞や
インターネットに掲載されている程度では,原告店舗が周知性を有してい
るということはできない。
ウ原告会社による本件商標の使用許諾の有無
【被告の主張】
原告会社の取締役である原告B又は原告Aによる本件商標の使用許諾が
存在している以上,信義則上,原告会社の許諾もあったというべきである。
したがって,原告会社による不競法違反の主張は,全く理由がないという
べきである。
【原告会社の主張】
原告Bは,被告に対し,「元祖N家」という屋号の使用は許諾したが,
本件商標である「元祖ラーメンN家」という屋号の使用の許諾(本件許諾)
はしていない。したがって,原告Bが,本件許諾をしたことを前提とする
被告の上記主張には理由がない。
仮に,原告Bが本件許諾をしたとしても,被告が覚せい剤の自己使用と
いう反社会的な事実で有罪判決を受け,上記商号に対する信用を失墜させ
ないという本件許諾に付随する信義則上の義務に違反し,原告Bとの信頼
関係を破壊したため,原告Bは,本件許諾を解除した。
エ原告会社による不競法違反の主張が信義則違反又は権利濫用に当たるか
否か
【被告の主張】
原告会社の取締役である原告Bによる本件許諾が存在しているにもかか
わらず,原告会社が,形式的に原告Bと別の法人格であることを奇貨とし
て,被告に対し,不競法違反を理由とする請求をすることは,明らかな自
己矛盾の行為であり,信義則(禁反言の原則)に反すると同時に,正義に
著しく反し,権利を濫用するものであるといえる。
【原告会社の主張】
原告Bは,被告に対し,「元祖N家」という屋号の使用を許諾したが,
「元祖ラーメンN家」という屋号の使用を許諾したことはない。そうであ
るにもかかわらず,被告は,「元祖ラーメンN家」という表示で被告店舗
の営業を行った結果,消費者や取引業者をして原告店舗との混同を生じさ
せており,これが不競法に違反することは明らかである。したがって,原
告会社の権利行使は正当なものであり,信義則違反又は権利濫用には当た
らない。
オ被告の先使用権の有無
【被告の主張】
原告会社は,平成23年5月20日をもって,「元祖ラーメンN家」と
いう表示が周知性を獲得したと主張するようであるが,被告は,平成22
年4月6日から「元祖ラーメンN家」という商号を使用して,被告店舗の
営業を開始している。そして,被告に不正の目的がないことは明らかであ
るから,被告には,不競法19条の先使用権が成立する。
【原告会社の主張】
被告の上記主張は,争う。
(4)被告の原告A及び原告Bに対する不法行為に基づく損害賠償請求について
(第3事件)
ア不法行為の成否
【被告の主張】
(ア)原告A及び原告Bは,共謀の上,平成22年3月9日,原告Aにおい
て,被告に対し,武力を行使するとの威嚇を行って,「元祖ラーメンN
家」という本件商標の使用の中止を要求した。このような行為は,被告
に対しその生命,身体等に対し害を加える旨を告知するものであり,違
法な脅迫,強要行為であるから,共同不法行為(民法719条1項)を
構成するというべきである。
(イ)原告Bは,被告に対し「元祖ラーメンN家」の屋号を使用して原告B
の店舗の付近でラーメン店を経営することを許諾したにもかかわらず,
不当にも,被告が「元祖ラーメンN家」の商標を使用できないようにす
るために本件訴訟を提起した。これは,故意に,自らの行為と矛盾する
行為を行って,違法に被告に損害を与えるものであり,不法行為に当た
る。また,原告Aについても同様である。そして,原告A及び原告Bは,
本件訴訟を提起するに当たり共謀しているから,共同不法行為に該当す
る。
【原告A及び原告Bの主張】
(ア)原告Aは,被告に対し,「武力で行使する」と発言したのは,被告が
原告Aを嘲笑するような言動をしていたからである。原告Aは,被告に
対し,本件商標に関する問題について,話合いを求めていたが,被告か
ら小馬鹿にされ,冷静さを失い,図らずも上記発言をしてしまったもの
であり,これは売り言葉に買い言葉の域を出ないものであるから,不法
行為を構成するような違法性を帯びるものでないことは明らかである。
(イ)訴えの提起が違法な行為になるのは,当該訴訟において提訴者の主張
した権利等が根拠を欠くものであることにつき提訴者が悪意・重過失で
ある場合など,訴え提起が裁判制度の趣旨・目的に照らして著しく相当
性を欠くと認められるときに限られる。
原告A及び原告Bは,商標権又は不競法に基づき訴えを提起しており,
確たる法的根拠に基づくものである。また,原告A及び原告Bは,本件
覚書①の法的解釈を争っているのであり,被告が主張するような自己矛
盾行為は何ら認められない。したがって,原告A及び原告Bによる本件
訴訟の提起が,裁判制度の趣旨・目的に照らして著しく相当性を欠くと
認められることなどあり得ず,被告の上記主張は,的外れなものである。
イ損害発生の有無及びその額
【被告の主張】
(ア)被告は,原告A及び原告Bによる上記強要行為により,多大な精神的
苦痛を受けたのであり,これによる被告の損害を金銭的に評価すると2
00万円を下らない。
(イ)また,被告は,不当な本件訴訟を提起するという原告A及び原告Bの
行為により,多大な精神的苦痛を受け,うつ病を患った。これによる被
告の損害を金銭的に評価すると200万円を下らない。
(ウ)そして,これらの共同不法行為に基づく損害賠償請求を追行するため
の弁護士費用は,上記損害の合計額の10%である40万円を下らない。
【原告A及び原告Bの主張】
被告の上記主張は,争う。
第3当裁判所の判断
1認定事実
(1)原告店舗の開業等
前提事実(2)のとおり,原告Bは,平成21年8月31日に元祖N屋を退職
後,同時に元祖N屋を退職した被告らとともに原告店舗の開業の準備に当た
り,同年12月12日に原告店舗を開業したところ,開業のための資金は,
すべて原告Bが自らの名義で銀行等から融資を受けるなどして準備したもの
であり,原告店舗に係る不動産の賃貸借契約も,原告Bの名義で締結された。
また,原告Bは,同年10月16日,福岡市中央保健所長に対し,営業所
の名称,屋号又は商号を「元祖ラーメンN家」として,原告店舗における飲
食店営業の許可を求める旨の申請をしたところ,同所長から,同年12月4
日付けでこれを許可する旨の処分を受けた。
(甲32,原告B本人,弁論の全趣旨)
(2)本件各覚書を作成するに至る経緯等
被告は,平成21年12月12日から原告店舗において勤務していたが,
原告Bとの間で,原告店舗の売上金の管理等をめぐってトラブルとなった。
同月25日,被告が原告Bに対して原告店舗の帳簿を見せるように求めるな
どしたところ,原告Bは,被告に対し,そんなに帳簿を見たいのであれば,
店の名前を使っていいから,近くにラーメン店を出して自分で経営すればい
い旨の発言をした。
これを受けた被告は,翌26日,前提事実(3)のとおりの記載のある本件覚
書①(乙1)を持参し,原告Bに対し,口約束では信用できないから書面を
作成して欲しい旨を述べて本件覚書①への署名・押印を求めたところ,原告
Bは,これに応じて本件覚書①に署名・押印した。
他方,原告Bが,被告に対し,被告が原告Bに対して原告店舗の営業に関
するクレーム等を言わないことを約する書面も作成して欲しいと要求したた
め,被告は,本件覚書①の記載のうち,「「元祖N家」という屋号のラーメ
ン店を開店し営業すること」とある部分を「「元祖N家」という屋号のラー
メン店を営業していること」と訂正するなどした書面を作成し,これに被告
及び原告Bが署名・押印して,前提事実(3)のとおりの本件覚書②(甲10)
が作成された。
なお,本件覚書①作成当時,原告Bが経営していたラーメン店は原告店舗
のみであり,また,本件覚書①を作成する際,原告Bが,被告に対し,被告
が開業する店舗の屋号及び原告店舗との距離について,何らかの制限を加え
る趣旨の発言をすることはなかった。
(乙11,乙14,原告B本人,被告本人,弁論の全趣旨)
(3)原告Aによる本件商標の商標登録の出願等
ア被告は,前記(2)のとおり,原告Bとの間で本件各覚書を取り交わした
後,被告店舗開業のための準備に着手し,平成21年12月末ころには,
被告店舗の入るテナントを見つけるなどした。一方,原告Bは,平成22
年1月初めころ,被告が原告店舗の近くにラーメン店を出そうとしている
ことを知った。
(乙14,被告本人,弁論の全趣旨)
イ原告Aは,平成22年1月初旬から中旬ころ,原告Bから話を聞くとと
もに本件各覚書を確認し,原告Bと被告の間において,前提事実(2)のと
おりの本件各覚書が取り交わされたこと,及び,そのことについて原告B
が後悔していることを知った。
原告Aは,同月21日,本件商標について,自らの名義で商標登録の出
願をしたところ,同年6月4日,前提事実(1)イのとおりの本件商標の登録
を受けた。なお,上記商標登録に必要な費用は,原告Bが拠出した。
(甲3,甲27,原告B本人,原告A本人,弁論の全趣旨)
(4)原告Aによる被告に対する警告等
ア原告Aは,平成22年3月9日,被告と電話で会話した際,本件覚書①
を締結したのは原告Bであり,原告店舗の名義は原告Aになっているから,
その効力は及ばない旨を述べるなどして,被告に対し,原告店舗の屋号を
使用しないように求めた。その際,原告Aは,原告店舗への立入りを禁ず
る旨を申し向けたところ,被告がこれに納得せず,その理由を説明するよ
うに求めるなどしたため,被告に対し,「力ずくで武力行使するぞ。」な
どと発言した。
(甲27,乙11,乙18の1及び2,原告A本人,被告本人,弁論の全
趣旨)
イ原告Aは,平成22年3月19日,被告が「元祖N家」という商号を使
用することは,原告Aの商標権の侵害となり,不競法にも違反することと
なるため,上記商号を用いてラーメン店の営業を開始しないよう警告する
旨,及び,これに応じない場合には法的措置を取る旨,などを記載した警
告書(乙16)を,その代理人(弁護士)を通じて被告に送付した(乙1
6,弁論の全趣旨)。
2原告Aの被告に対する商標法36条1項及び2項に基づく請求について(第
1事件)
(1)争点(1)ア(原告Aによる本件商標の使用許諾の有無)について
ア被告は,原告Bが被告に対して「元祖ラーメンN家」という屋号の使用
の許諾(本件許諾)をしており,原告Aは,本件許諾の効力が及ぶのを免
れるという不当な目的の下,原告Bと通謀して,自己の名義で本件商標の
登録を受けているから,原告Bと原告Aは同視されるべきであり,したが
って,原告Bによる本件許諾は,原告Aによる本件商標の使用許諾と同視
されるべきであると主張する。
イ(ア)そこでまず,原告Bによる本件許諾の存在が認められるか否かについ
て検討するに,前記1(2)のとおり,原告Bは,被告に対し,店の名前
を使っていい旨を告げているところ,その当時原告Bが経営していたラ
ーメン店は原告店舗のみであったことからすると,原告Bの上記発言は,
被告に対し,原告店舗において原告Bが現に使用している「元祖ラーメ
ンN家」という屋号の使用を許諾したものと捉えるのが自然である。し
たがって,原告Bによる本件許諾があったことが認められる。
(イ)この点,原告Aは,本件覚書①の記載のとおり,原告Bは被告に対し
て「元祖N家」という屋号の使用を許諾したものであり,「元祖ラーメ
ンN家」という屋号の使用は許諾していないと主張する。
確かに,前提事実(3)のとおり,本件覚書①には「元祖ラーメンN家」
ではなく「元祖N家」と記載されている。しかしながら,両者は「ラー
メン」という文字の有無に違いがあるにすぎない上,原告B及び被告が,
本件覚書①を作成するに当たり,「元祖N家」と「元祖ラーメンN家」
を意識的に区別していたことをうかがわせる資料は見当たらない。かえ
って,前記1(2)のとおり,本件覚書①は,前記(ア)のとおりの意味に捉
えることができる原告Bの発言を受けた被告が,その存在及び内容を明
確にするためにその文面を考案したものであることや前提事実(3)及び前
記1(2)のとおりの本件覚書②の記載内容及びその作成経緯からすると,
原告B及び被告は,原告店舗が現に使用している屋号は「元祖N家」で
あると認識していたことがうかがわれる。これらの事情を踏まえると,
原告B及び被告は,本件覚書①を作成する際,原告Bが原告店舗におい
て現に使用している屋号を示すものとして「元祖N家」という表示を用
いたことが認められるというべきである。
したがって,原告Aの上記主張は,これを採用することができない。
(ウ)また,原告Aは,原告店舗の至近距離において被告がラーメン店を営
業することを原告Bは許容していたものではなく,当然合理的な距離を
空けることを予定していたと主張する。
しかしながら,前記1(2)並びに証拠(乙1)及び弁論の全趣旨によれ
ば,原告Bは,被告に対し,原告店舗の近くにラーメン店を出すことを
勧める趣旨の発言をしているところ,本件覚書①には,原告店舗と被告
が開業するラーメン店の距離について何らかの制限を設ける旨の記載は
ないことが認められ,本件証拠上,原告Bと被告の間で,その旨の会話
がされたこともうかがわれない。これに加えて,前提事実(2)のとおり,
原告Bは,元々勤務していた移転前の元祖N屋から見て,道路を挟んだ
斜め向かい側,直線距離で約34メートルの位置に原告店舗を開業して
おり,原告店舗の開業に携わった被告は当然このことを知っていたと考
えられる。これらの事情を踏まえると,原告Bの内心は別として,外部
に表示された当事者の意思を合理的に解釈すれば,原告Bと被告の間に
おいて,移転前の元祖N屋よりも原告店舗から離れている前提事実(4)
のとおりの位置において,被告店舗が開業することは十分に想定されて
いたというべきである。
したがって,原告Aの上記主張を採用することはできない。
なお,仮に,原告Aの上記主張を,原告Bの動機の錯誤を主張するも
のと捉えるとしても,上記のとおり,合理的な距離を空けるのであれば
営業を許容するという原告Bの動機が明示的に表示されていたとは認め
られず,これが黙示に表示されていたことを根拠付ける事実を認めるに
十分な証拠もない。
(エ)さらに,原告Aは,被告は本件許諾に付随して原告Bの信用を失墜せ
しめないという信義則上の義務を負っていたにもかかわらず,覚せい剤
取締法違反で逮捕されて有罪判決を受けるなどして上記信義則上の義務
に違反したことは明らかであり,原告Bは債務不履行に基づいて本件許
諾を解除した,と主張する。
しかしながら,本件証拠上,原告B及び被告が,本件許諾をするに当
たり,被告が原告Bの信用を失墜させない義務を負うことを明示的に約
したことを認めるに足りる証拠はない。また,原告Bが,被告に対し,
その経営する原告店舗の屋号の使用を許諾していることからすると,道
義的・抽象的には被告は当該屋号の価値を失墜させないように努力する
ことが求められるといえるとしても,前記1(2)のとおりの本件許諾に至
る経緯及びその内容から,当該義務に違反した場合には債務不履行とな
り解除権が生じるような具体的な信義則上の義務を被告が原告Bに対し
て負っていると直ちに解することはできず,他にこれを根拠付ける事情
を認めるに足りる資料は見当たらない。
また,仮に,被告が原告Bに対して上記信義則上の義務を負っており,
被告が覚せい剤取締法違反で逮捕されて有罪判決を受けたことによって,
一定程度原告店舗やそれを経営する原告Bに対する取引先や客からの信
用を失墜させたり,その社会的評価を低下させたりすることがあり得る
としても,そのことから当然に解除権が生じるというべき根拠は見いだ
せず,他にこれを根拠付ける事実を認めるに十分な客観的証拠はない。
したがって,原告Bの上記主張を採用することはできない。
ウ次に,原告Bによる本件許諾をもって,原告Aによる本件商標の使用許
諾と同視することができるか否かについて検討する。
原告Aは,原告Bと別個独立の法人格であるから,原告Bがした本件許
諾をもって,直ちに原告Aによる許諾と同視することはできない。そして,
そもそも原告Bが本件許諾を行ったのは,原告Aによる本件商標が登録さ
れる前である上,前記1(4)のとおり,原告Aは,被告に対し,原告店舗の
屋号を使用しないように求めるなどしていることを踏まえると,原告Aが
事前又は事後に原告Bの本件許諾を承認したということはできない。そし
て,他に原告Bによる本件許諾が,原告Aによる本件商標の使用許諾と同
視されるべきことを根拠付ける事情を認めるに足りる資料もない。
エ以上のとおりであるから,被告の上記アの主張を採用することはできな
い。
(2)争点(1)イ(信義則違反又は権利濫用の成否)について
アまず,前提事実(1)イ並びに前記1(1)及び(3)のとおり,原告Bが原告
店舗を立ち上げ,その営業をしているにもかかわらず,原告Aがその名義
で本件商標の登録を出願して本件商標権を取得している。
イこれに対し,原告Aは,①原告Bと共同して原告店舗を経営しており,
②原告Bには本件商標の登録を出願する時間的余裕がなかったため,原告
Aが出願したにすぎないと主張し,これに沿う原告A及び原告Bの各供述
並びに両者作成の確認書(甲1)があるが,以下の理由で採用できない。
(ア)①原告Aと原告Bの共同経営関係の有無について
原告A及び原告Bが供述するところの原告Aが原告店舗の共同経営者
として行った業務とは,原告Bが原告店舗を立ち上げるに当たり,資金
の借入先,飲食物の仕入れ先,建築業者及び看板業者等の紹介又はこれ
らに関するアドバイスをしたこと,原告店舗の従業員に対し,その服装
等について指導したこと,客との間の釣銭をめぐるトラブルに対応した
ことなどであるが,これらは一従業員でもなし得る業務にすぎないとい
うべきであり,経営者として原告店舗の経営方針や業務執行に関する意
思決定に関与したものと評価することはできない。
また,原告A及び原告B作成の確認書(甲1)には,両者が原告店舗
を共同で経営している事実を確認する旨などが記載されているが,同書
面は,前記1(4)のとおり,原告Aと被告との間で原告店舗の屋号の使用
をめぐるトラブルが生じた後に,原告Bと原告Aによって作成されたも
のであることからすると,両者が原告店舗の共同経営者の関係にあるこ
とを客観的に裏付けるものということはできない。
そして,他に原告Aが原告店舗の経営者たる実態を有していたことを
根拠付ける事実を認めるに足りる証拠は見当たらない。
かえって,証拠(原告B本人,原告A本人)及び弁論の全趣旨によれ
ば,原告Aは,原告Bが原告店舗を立ち上げた当時,株式会社H商会に
勤務し,主として同社の業務に従事していたこと,その後も,原告店舗
の製麺所で働きつつ,同社の業務に従事していること,原告Aが原告店
舗又は原告会社の設立の際に出資しておらず,原告会社の株式を所有し
ていないこと,原告Aは原告会社から原告店舗の製麺所における業務に
対する給与の支払は受けているが,取締役としての報酬の支払は受けて
いないこと,原告Aが原告店舗又は原告会社の経理には一切関与してい
ないこと,がそれぞれ認められる。
これらの事情を踏まえると,前提事実(1)アのとおり,原告Aは原告会
社の取締役として登記されているものの,原告Aが原告Bと共同して原
告店舗を経営しているという実態がなかったことは明らかである。
(イ)②原告Bによる出願の可否について
原告A及び原告Bが供述するところによれば,原告A及び原告Bは,
商標登録の重要性を認識しており,原告店舗の開業準備をしていた平成
21年9月ころから商標登録について話し合っていたというのである。
そうであるならば,前記1(1)のとおり,原告Bが原告店舗を開業する同
年12月12日までの間に,原告Bが本件商標を登録するのが自然であ
り,これが不可能であったことをうかがわせる客観的資料は見当たらな
い。かえって,前記1(1)のとおり,原告Bは,同年10月16日に屋号
又は商号を「元祖ラーメンN家」として自ら営業許可の申請をしており,
上記の時点で少なくとも原告店舗の店名を決めていた上,自ら上記申請
をする時間的余裕もあったといえる。したがって,原告Bは,原告店舗
を開業するまでの間に,自らの名義で本件商標の登録を申請することは
客観的に可能であったということができる。
また,前記1(2)並びに証拠(甲6の1及び2,原告B本人,原告A本
人)及び弁論の全趣旨によれば,原告Bは,原告店舗を開業した後,原
告店舗の広告について広告会社の担当者と打合せをしたり,被告からの
本件各覚書の作成の要求に応じるなどしており,また,原告Aは,本件
商標登録の具体的な手続について弁理士に委任していることが認められ
る。これらの事情からすると,原告Bが,少なくとも本件商標の登録を
弁理士に委任する時間的余裕すらなかったということはできない。加え
て,原告B自身が,やろうと思えば自らの名義で本件商標の登録を行う
ことはできた旨の供述をしていることを踏まえると,原告Bが,本件店
舗の開業後,自らの名義で本件商標の登録をすることは客観的に可能で
あったということができる。
(ウ)したがって,上記のとおり,原告Aの上記各主張を採用することはで
きない。
ウ上記アについては,上記イのほか,原告Aが本件商標の登録をすべき合
理的な理由が存したことをうかがわせる資料は見当たらない。その上,前
記1(2)から(4)までのとおり,原告Bは,平成22年1月初めころ,被告
が原告店舗の近くにラーメン店を出そうとしていることを知ったこと,原
告Aは,同月初旬から中旬ころ,原告Bと被告の間で本件各覚書が取り交
わされたこと及びそのことを原告Bが後悔していることを知り,それから
1か月も経たない同月21日に本件商標の登録の出願を行っていること,
原告Aは,本件商標の登録出願後,被告に対し,原告店舗の名義は原告A
になっているため,原告Bが締結した本件覚書①の効力は及ばない旨を述
べるなどして,「元祖N家」という商号を使用しないように求めているこ
と,本件商標の登録に係る費用は原告Bが拠出していること,などの事情
がある。これらを踏まえると,原告A及び原告Bは,原告Bと被告の間で
本件覚書①が作成されていることから,原告Bの名義で本件商標を登録す
ると,被告に対して商標権に基づく請求をすることができないが,原告A
の名義で本件商標を登録すれば,原告Bがした本件許諾の効力は原告Aに
は及ばないとして,被告に対し,商標権に基づき,被告が原告店舗の近く
において原告店舗の屋号を用いたラーメン店を開業することを阻止するこ
とができると考え,その意思を通じ,専ら上記目的のために原告Aの名義
で本件商標の登録をしたことを推認することができる。
エ以上のように,原告Bは,前記2(1)イ(ア)のとおり,被告に対して原告
店舗の屋号を使用して,原告店舗の近くでラーメン店を開業することを許
諾しておきながら,原告Aと意思を通じ,形式的に原告Aの名義で本件商
標の登録をさせることにより,被告による被告店舗の開業を阻止しようと
している。このような原告Bの行為は,本件許諾により被告に生じた原告
店舗の屋号の使用等に係る信頼を不当な方法で裏切るものであって,信義
則に反するといわざるを得ない。そして,原告Aは,原告Bと意思を通じ
て,上記のとおりの不当な目的の下に本件商標権を取得しているから,被
告に対してその権利を行使することは,権利の濫用に当たり許されないと
いうべきである。
(3)小括
以上のとおりであって,その余の争点について判断するまでもなく,原告
Aの商標法36条1項及び2項に基づく請求は理由がない。
3原告A及び原告Bの被告に対する不法行為に基づく損害賠償請求について(第
1事件)
(1)争点(2)ア(不法行為の成否)について
ア原告Bの請求について
前提事実(4)のとおり,被告は,被告標章を用いて被告店舗を営業するな
どしているが,前記2(1)イのとおり,原告Bから本件許諾を受けており,
その解除は認められないことからすると,被告の上記行為が,原告Bに対
する不法行為を構成するということはできない。
イ原告Aの請求について
前提事実(4)のとおり,被告が本件商標と酷似する被告標章を用いて被告
店舗を営業する行為は,形式的には,原告Aの本件商標権を侵害する行為
に当たるといえる。しかしながら,前記2(2)のとおり,原告Aは,原告B
と意思を通じ,形式的に名義人を原告Aとすることにより原告Bの被告に
対する本件許諾の効力が本件商標に及ぶことを免れさせ,被告による被告
店舗の開業を阻止するという不当な目的の下,自己の名義で本件商標の登
録を出願して本件商標権を取得している。このような事情からすると,被
告の上記行為は,実質的にみて,原告Aの本件商標権を違法に侵害するも
のということはできず,原告Aに対する不法行為を構成しないというべき
である。
(2)小括
以上のとおりであって,その余の争点について判断するまでもなく,原告
A及び原告Bの各不法行為に基づく損害賠償請求は,いずれも理由がない。
4原告会社の被告に対する不競法3条1項及び2項に基づく請求について(第
2事件)
(1)争点(3)エ(信義則違反又は権利濫用の成否)について
証拠(原告B本人,原告A本人)及び弁論の全趣旨によれば,原告会社は,
原告Bにより設立され,その実質的な経営は原告Bが行っていることが認め
られる。
そうすると,原告店舗の実質的な経営主体に変更はないにもかかわらず,
原告会社が,原告Bとは別個独立の法人格であることを利用して,被告に対
し,不競法違反を主張して本件商標の使用の差止め等を請求することは,前
記2(1)イ(ア)のとおりの原告Bが被告に対してした本件許諾と実質的に矛盾
する行為であり,本件許諾により被告に生じた信頼を不当に裏切るものであ
るから,信義則に反して許されないというべきである。
(2)小括
以上のとおりであって,その余の争点について判断するまでもなく,原告
会社の不競法3条1項及び2項に基づく請求は理由がない。
5被告の原告A及び原告Bに対する不法行為に基づく損害賠償請求について(第
3事件)
(1)争点(4)ア(不法行為の成否)について
ア前記1(4)ア及び証拠(乙18の1及び2)によれば,原告Aは,電話
で被告と会話した際,被告に対し,「力ずくで武力行使するぞ。」などと
発言し,声を荒げることもあったことが認められる。このような原告Aの
言動は極めて不適切なものではあるが,それ自体,具体的な内容を伴う表
現ではなく,直ちに原告Aが被告の生命又は身体に危害を加える具体的な
行動に出ることを想起させるものとはいえない。その上,証拠(乙18の
1及び2)によれば,上記発言を受けた被告が,その意味内容を確認しよ
うとしたり,自己の立場や言い分を述べるなどしていることが認められ,
原告Aの言動によって畏怖しているとはいえないことを踏まえると,原告
Aの上記言動が,被告に対する不法行為を構成するほどに違法なものであ
るということはできない。
イまた,訴えの提起が相手方に対する違法な行為といえるのは,当該訴訟
において提訴者の主張した権利又は法律関係が事実的,法律的根拠を欠く
ものである上,提訴者が,そのことを知りながら又は通常人であれば容易
にそのことを知り得たといえるのにあえて訴えを提起したなど,訴えの提
起が裁判制度の趣旨目的に照らして著しく相当性を欠くと認められるとき
に限られるものと解するのが相当である(最高裁昭和63年1月26日第
三小法廷判決・民集42巻1号1頁参照)。
これを本件についてみると,前記2及び4のとおり,原告A及び原告B
の各請求はいずれも理由がないというべきであるが,前提事実(1)及び(4)
のとおり,原告Bは原告店舗を経営しており,原告Aは本件商標権を取得
しているところ,被告は,原告店舗と同じ屋号を用い,かつ,本件商標と
酷似する被告標章を掲げて被告店舗を営業している上,証拠(乙30,乙
32)及び弁論の全趣旨によれば,被告は平成22年6月4日に覚せい剤
の自己使用の事実で逮捕され有罪判決を受けたことが認められることから
すると,原告A及び原告Bの主張する権利が事実的,法律的根拠を欠くと
まではいえず,本件訴訟(第1事件)の提起が裁判制度の趣旨目的に照ら
して著しく相当性を欠くということはできない。
したがって,原告A及び原告Bによる本件訴訟(第1事件)の提起が,
被告に対する不法行為に当たるということはできない。
(2)小括
以上のとおりであって,その余の争点について判断するまでもなく,被告
の原告A及び原告Bに対する不法行為に基づく損害賠償請求は,いずれも理
由がない。
第4結論
以上のとおり,原告らの請求及び被告の請求は,いずれも理由がないから,
これらをすべて棄却することとして,主文のとおり判決する。
福岡地方裁判所第5民事部
裁判長裁判官岩木宰
裁判官池田聡介
裁判官鈴木拓磨

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