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令和2年(わ)第50号被告人Aに対する住居侵入,強盗致死,被告人Bに対す
る住居侵入,強盗殺人被告事件
主文
被告人Aを懲役29年に,被告人Bを無期懲役に処する。
被告人らに対し,未決勾留日数中各180日を,それぞれその刑に算入
する。
理由
(罪となるべき事実)
被告人両名は,Cの不在時に同人方に侵入して金品を窃取し,また,仮に物色中に
同人が帰宅した場合には,同人から金品を強取し,又は金品を取り返されることを
防ぎ若しくは逮捕を免れるために暴行脅迫を加えることも想定し,共謀の上,令和
元年11月14日午後6時38分頃から同日午後9時9分頃までの間に,被告人B
が,愛知県岡崎市a町b番地cdマンションe号C方に,北側洋室掃出し窓の施
錠を外して侵入し,その頃,同所において,帰宅した同人(当時49歳)に対し,
殺意をもって,刃物様のものでその右頸部,後頸部及び背面上部等を突き刺すなど
し,よって,その頃,同所において,同人を右頸部刺切創及び内頸静脈切破による
出血性ショックにより死亡させて殺害した上,同人所有又は管理の財布1個,鍵複
数本等を強取し,さらに,前記dマンション敷地内において,同人所有の普通乗用
自動車1台(時価約90万円相当)を強取したが,被告人Aには殺意はなかったも
のである。
(争点に対する判断)
本件では,被告人両名が被害者方に侵入して金品を盗み出すことを合意したこと,
本件当日,その合意に基づき被告人Bが被害者方に侵入し,被告人Aが被害者方付
近で待機していたこと,被告人Bが被害者方で被害者を殺害し,財布や自動車を奪
ったことに争いはなく,争点は,被告人両名が,「場合によっては強盗すること」
を事前に合意したかである。
当裁判所は,判示のとおり,被告人両名には,事前に強盗の合意があったと判断
したので,以下その理由を説明する。
第1前提事実
関係証拠によると,以下の事実を認めることができ,これらの事実について
は概ね争いがない。
1被告人Aと被告人Bは,古くからの友人であり,また,被告人Bは,被告人
Aが営む事業の従業員でもあった。被告人Aは,令和元年10月(以下の日時
は,同年を示す。),知人のDに対し,事業の資金繰りが悪化したとして,誰
か金を貸してくれる人がいないかなどと相談をした。その相談をしている中で,
被告人Aは,Dの知人のEからの情報として,自宅に表に出せない金を保管し
ている闇金の人がおり,過去に二度空き巣に入られたが被害届を出していない
ことなどを聞くとともに,盗んでしまえばいいのではないかという話も聞いた。
被告人Aは,Dに対し,更に詳しい話を聞くためにEに会いたいと言い,その
後,実際にD,Eと共に被害者方を見に行くことになった。
2被告人Aは,10月27日,Eの案内で,Dと共に,被害者方を見に行った
際,Eから,被害者方の北側洋室にある机の中に多額の現金があること,被害
者は定職についておらず生活が不規則であること,空き巣被害の後セコムと契
約したことなどを聞いた。
3被告人Aは,10月31日,Dの仲介により,同人を保証人とし,返済期限
を11月29日,返済金額を650万円として,Fから500万円を借り受け
た。
4被告人Aは,11月初旬頃,被告人Bを被害者方へ侵入して現金を盗むこと
に誘ったが,被告人Bは,最初はこれを断った。しかし,その後も,被告人A
が何度も誘ってきたため,被告人Bは,これに協力することを決め,被告人A
と共に被害者方マンションを訪れ,侵入方法を考えるなどした。被告人らは,
被告人Aが見張りをし,被告人Bが被害者方マンション階段の踊り場から被害
者方ベランダに飛び移って侵入すること,その侵入の際には,ガラス飛散防止
のためにガムテープを貼って窓ガラスをハンマーで割ること,侵入後は,防犯
カメラのコードを切断し,その記録媒体を持ち帰ること,犯行中は携帯電話を
常に通話状態にしておくこと,自動車内に現金が保管されている可能性もある
ので,あれば自動車の鍵も盗むことなどを話し合った。被告人Aは,被害者方
の下見を時間帯を変えたりしながら複数回行うとともに,自動車を盗んだ場合
に車内を物色する場所の下見などを行ったが,被害者がいつ不在となるかなど
被害者の行動パターンを把握することはできず,被害者の人相等も確認してい
なかった。また,本件犯行の時間帯と同じ時間帯に被害者方を下見した際には,
被害者方の電気は消えていることもあれば,点いていることもあった。
5被告人らは,11月14日午後6時過ぎに被害者方マンションを訪れ,それ
ぞれの携帯電話を通話状態にした。被告人Aは,同マンション前で被告人Bを
降ろし,しばらくその場で待機した。被告人Bが被害者方にベランダから窓を
割って侵入したが,事前情報とは異なり,被害者はセコムと契約をしておらず,
警報が鳴ることはなかった。被告人Bは,現金があると聞いていた北側洋室の
机を物色したが,現金は見つからなかったため,被告人Aに対し,セコムの警
報が鳴っていないこと,部屋には誰もいないこと,あると聞いていた場所で現
金が見つからないことを電話で伝えたところ,被告人Aは,被告人Bに対し,
引き続き探すよう指示した。被告人Bが物色を続けていると,被害者が帰宅し,
被告人Bともみ合いとなり,被告人Bは,刃物様のもので被害者を刺した。
6被告人Bは,その後,少なくとも金庫を物色し,防犯カメラの記録媒体や車
の鍵等を持ち去った。その後,被告人らは,いったんその場を離れ,奪ってき
たものを確認したが,被害者の車を奪うため,再度被害者方マンションに戻り,
被告人Bが被害者の車を運転し,あらかじめ下見していた公園に移動し,車内
を物色した。
第2検討
1被告人らの窃盗の計画等について
被告人らは,被害者が闇金であるため,自宅に置いている現金を盗まれても
被害届は出さないことを前提に被害者方から現金を盗むことを決めた。被告人
らは,被害者方における現金の在り処を聞いていたことから,セコムの警報装
置が作動して警備員が来る前に逃げられる程度の短時間で犯行を終えることが
できるであろうと考えた。前記のとおり,被害者の行動パターンは把握できて
いなかったが,被告人Aは,資金繰りに切羽詰まっていたことから,被告人B
に対し,犯行の実行を迫った。被告人らは,本件当日,被害者方マンションま
で行ったところ,被害者の車は駐車されていたものの,被害者方の電気が点い
ていなかったことから,被害者が不在と考えて侵入することとした。
2被告人らは被害者が帰宅する可能性を想定していたか
⑴前記のとおり,被告人らは,被害者の行動パターンを把握しておらず,下
見の際には,本件犯行時間帯に被害者方の電気が点いていたこともあったこ
とからすると,被害者が夜間には必ず不在であると認識していたわけではな
い。本件当日も,前記のような事情から被害者は不在であると判断したにす
ぎず,被害者がいつ外出したのかという点やその外出理由,帰宅の見込み時
間については把握していなかった。
以上からすると,いくら短時間で犯行を終えるつもりだったとはいえ,被
害者が帰宅する可能性を考えるのが普通である。
⑵これに対し,被告人Aは,公判で,被害者が帰宅する可能性は考えていな
かったと供述する。しかし,前記のとおり,被告人らは,被害者の普段の行
動パターンはおろか本件当日の行動すら把握していなかったのであるから,
被害者が帰宅する可能性がないと考える根拠はない。被告人Aは,マンショ
ンに出入りする人を見張ることになっていたというのであるから,被害者の
人相を知らないにしても,この出入りする人から被害者のみが除外されてい
たとも考えられない。また,被告人Bは,被害者が帰宅することも考えたが,
被告人Aが被害者を見張ると言っていたのでこれを信じた旨も述べており,
被害者が帰宅する可能性があることを前提とした供述をしている。被告人A
の上記公判供述は信用できない。
⑶以上によれば,被告人らは,被害者方に侵入するに当たり,被害者が帰宅
する可能性を想定していたものと認めることができる。
3被害者が帰宅した場合に備えて,護身用に刃物を持っていくことを話したか
について
⑴被告人らは,被害者について,どのような人相風体であるか把握していな
かった上,闇金の怖い人物であるというイメージを共有し,少なくとも,一
度は,制圧するにはスタンガンや護身用の刃物が必要だという話をしたこと
があった。これに加え,前記のとおり,被告人らが被害者の帰宅を想定して
いたことからすると,あらかじめ護身用として刃物を持っていこうという話
が出るのは自然な流れといえる。被告人Aは,捜査段階で,被告人Bと話し
た犯行計画の内容について,被害者方への侵入方法や被告人Aが被害者が帰
ってこないか監視をすることなどのほか,被告人Bとの間で,「護身用のナ
イフを持っていった方がいいよね。」という話も出たと供述するが,その供
述内容は,これまで検討した事実関係と整合する自然な内容であり信用性が
高いといえる。
⑵アこれに対し,被告人Aは,公判では,被告人Bとの間で,スタンガンや
刃物を持っていくという話は出たが,これは,当初,被害者からセコムの
解除キーを奪うという計画を検討していた際に出たものであり,セコムの
解除キーを奪うという計画は無理であるという話になった後は,短時間で
空き巣ができることを前提にしていたので,被害者が帰宅することは全く
考えておらず,護身用に刃物を持っていくという話が出たこともない,な
どと供述する。この被告人Aの公判供述のとおり,解除キーを奪うという
話が立ち消え,空き巣の計画に変わっていたとしても,前記のとおり,被
告人らが前記のような被害者像を共有し,被害者が帰宅することもあると
想定していたのに,被害者が帰宅した場合の対策について全く考えていな
かったというのは不合理である。
イまた,被告人Aの弁護人は,被告人Aの捜査段階の供述は,時系列に沿
って聴取されたわけではないし,逮捕されて極度の緊張状態の中で録取さ
れたものであるから信用できないなどと主張する。
この取調べについて,被告人Aは,強盗ではなく空き巣の計画だったと
いう点にこだわっていたと述べる。そうだとすれば,スタンガンや刃物の
話は解除キーを奪う話の中でしか出ておらず,解除キーを奪う話が消えた
時点で一緒になくなったというのは,被告人Aにとって非常に重要な部分
だったはずである。このことに全く触れることなく,スタンガンや刃物の
話だけをしたというのは不自然である。したがって,上記の被告人Aの公
判供述は信用できず,捜査段階の供述の信用性を左右するものではない。
⑶以上によれば,被告人らは,空き巣の計画の中で護身用に刃物を持ってい
くという話をしていたことが認められる。
4被告人Bが刃物を持参したかについて
被害者が帰宅したことに気付き,もみ合いになってから被告人Bが現場で刃
物を探す余裕があったとはいえないこと等からすると,被害者に発見される前
に,被告人Bが刃物を携帯していたと認められる。これに加えて,被告人らの
間で,前記のとおり,護身用として刃物を持っていくという話がされていたに
もかかわらず,これに反してあえて刃物を持って行かずに,被害者方に侵入し
た後に刃物を探す理由はないことからすると,被告人Bがあらかじめ刃物を持
参して被害者方に侵入したものと推認することができる。
被告人Bは,公判で,被害者方で刃物を見つけて手に取ったような気がする
旨供述する。しかし,被告人B自身,その刃物で刺したとまでは供述していな
いし,そもそも,被告人Bの刃物に関する供述は,公判の中でも大きく変遷し
ており,これを前提とすることはできない。
以上によれば,被告人Bは,被害者方に侵入するに当たり,刃物を持参した
ものと認められる。
5仮に被害者が帰宅した場合の対応に関する合意内容
被告人らは,被害者が帰宅した場合に備えて,護身用に刃物を持っていくと
いう話をしていたのであるから,仮に被害者が帰宅して,被害者と対面した場
合に,この刃物を何らかの方法で使用することは,被告人らの間で当然に想定
していたといえる。被告人Aの資金繰りのために金が必要であったこと,可能
であれば自動車の鍵を盗むことも予定していたところ,自動車の鍵は被害者本
人が携帯していることも予想できること,結果的に被害者と遭遇した際に,被
告人Bは,刃物を使用してその場から逃げるのではなく,被害者を刺してから
も物色行為を続けていることなどからすると,被害者が帰宅した場合に,成り
行きによっては,刃物を示して逃走したり,既に確保した金品を取り返される
ことを防いだり,金品を強取したりするということも,被告人らが共通して想
定していた範囲内にあったといえる。
6結論
以上からすれば,被告人らは,空き巣を行うに当たり,被害者が帰宅した場合に備
えて護身用に刃物を持って行くこととし,被害者が帰宅した場合には,これを示し
て逃げたり,金品の取り返しを防いだり,奪ったりすることを合意していたと認め
られる。
したがって,被告人らには,強盗についての共謀があったと認められる。
(量刑の理由)
1犯罪行為全体に関する事情
被告人らは,被害者の情報を得ると,被害者方に狙いをつけ,複数回下見をす
るなどして侵入方法等を考えた上,発覚を免れるために防犯カメラの記録媒体を
持ち去ることも考えるなど,空き巣に関しては相当の計画をしていたといえる。
しかし,刃物を持参したとはいえ,あくまで空き巣が主目的であって,強盗の計
画性は高くない。殺害行為の態様は,頸部付近を中心に9回以上刺すなどしてお
り,その危険性は大きく,殺意にも強いものがある。また,被害者を刺した後も,
最も重要な救命には目もくれず,金品を奪うことに執着して物色を続けるなど,
自らの欲求を優先し,人命を軽視する態度が明らかである。被害者は,安心でき
るはずの自宅で突然その命を奪われたものであり,遺族である被害者の母親が極
刑を望むと述べるのも当然である。
被告人Aは,自らの資金繰りのため安易に犯行を計画したのであり,被告人B
も,結局は,被告人Aの計画に安易に加担したのであって,いずれの動機にも特
に酌むべき点はない。
2被告人両名の役割の大きさ等
被告人Aは,本件犯行の発案者であり,被告人Aの資金繰りのための犯行であ
るのに,嫌がる被告人Bを引き入れた上で,被告人Bに危険な役を全て任せたの
であり,被告人Aが主導的立場であったといえる。他方,被告人Bは,引き込ま
れたとはいえ,本件犯行に協力することを自ら決断した上,実際に被害者方に侵
入して被害者を殺害したのであるから,その役割は大きい。以上からすると,被
告人両名の役割の大きさはほぼ同等であるが,被告人Aに殺意がなかったという
点に関しては差があると見なければならない。
3その他の事情
被告人Aは,真摯に事件に向き合っているとは言い難いものの,自らが発案し
た計画で被害者が死亡する重大な結果が生じたことについては後悔する気持ちを
示している。また,被告人Aの妻が今後も離婚せず被告人Aを支える旨述べてお
り,そのような家族の存在は被告人Aの今後の更生の一助になり得ると考えられ
る。被告人Bは,殺害の記憶がなく,実感がないため罪に向き合えているとはい
えないが,自身の罪を認め,刑罰を受け入れると述べており,その身を案じてく
れる母もいる。
4結論
そこで,これらの事情を併せて考慮し,過去の強盗致死及び強盗殺人の事案も
参考に検討した結果,被告人Aについては酌量減軽を行い,被告人らに対し,そ
れぞれ主文の刑を科すのが相当であると判断した。
(求刑いずれも無期懲役)
令和3年3月16日
名古屋地方裁判所岡崎支部刑事部
裁判長裁判官石井寛
裁判官溝田泰之
裁判官田中香里

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