弁護士法人ITJ法律事務所

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主文
1 承継人サークルケイ・ジャパンは,1審原告Aに対し,189万0762円及び
これに対する平成10年8月9日から支払済みまで年5分の割合による金員
を支払え。
2 1審原告A,同B及び1審被告Cは,承継人サークルケイ・ジャパンに対し,
連帯して,133万6752円及びこれに対する平成10年5月4日から支払済
みまで日歩5銭の割合による金員を支払え。
3 1審原告A及び承継人サークルケイ・ジャパンのその余の各請求をいずれ
も棄却する。
4 控訴費用の負担は次のとおりとする。
(1) 1審原告A及び同Bに生じたものの2分の1を同両名の,その余を承継
人サークルケイ・ジャパンの各負担
(2) 1審被告Cに生じたものの4分の1を同人の,その余を承継人サークル
ケイ・ジャパンの各負担
(3) 承継人サークルケイ・ジャパンに生じたものの11分の5を同承継人の,
11分の5を1審原告A及び同Bの,その余を1審被告Cの各負担
5 この判決は,上記1,2項に限り,仮に執行することができる。
事実及び理由
(略語は,原判決に準じる。)
第1 当事者の求めた裁判
1 1審原告A
(1) 承継人サークルケイ・ジャパンは,1審原告Aに対し,857万7004円及
びこれに対する平成10年8月9日から支払済みまで年5分の割合による
金員を支払え。
(2) 承継人サークルケイ・ジャパンの1審原告Aに対する請求を棄却する。
(3) 控訴費用は承継人サークルケイ・ジャパンの負担とする。
(4) (1)につき仮執行宣言
2 承継人サークルケイ・ジャパン
(1) 1審原告Aの承継人サークルケイ・ジャパンに対する請求を棄却する。
(2) 1審原告A,同B(両名を以下「1審原告ら」ともいう。)及び1審被告C(こ
の3名を以下「1審原告ら3名」ともいう。)は,承継人サークルケイ・ジャパ
ンに対し,連帯して646万9425円及びこれに対する平成10年5月4日
から支払済みまで日歩5銭の割合による金員を支払え。
(3) 控訴費用は1審原告ら3名の負担とする。
(4) 仮執行宣言
なお,承継人サークルケイ・ジャパンの承継参加申立書の参加の趣旨
の1項は請求権不存在確認請求との文言であるが,その趣旨は1審原告
Aの請求棄却を求めるものと解される(仮に,請求権不存在確認請求であ
るとしても,対象とする請求権につき1審原告Aから訴求されているもので
あるから,確認の利益がない。)。
3 1審被告C
(1) 承継人サークルケイ・ジャパンの1審被告Cに対する請求を棄却する。
(2) 控訴費用は承継人サークルケイ・ジャパンの負担とする。
4 1審原告B
本件口頭弁論期日に出頭せず,答弁書その他の準備書面を提出しない
(1審被告シーアンドエスの請求を争っていた原審口頭弁論の経緯に照ら
し,その承継人サークルケイ・ジャパンの請求を争うものと解される。)。
第2 事案の概要
1 本件の経緯及び各請求
本件は,愛知県に本店を置く1審被告シーアンドエス(旧商号サークルケ
イ・ジャパン株式会社)とフランチャイズ契約(本件契約)を締結して石川県
加賀市でコンビニエンス・ストア・サークルK加賀黒瀬店(本件店舗)を開店し
た1審原告Aらが,開店直後から売上が伸びず,経営に行き詰まって半年ほ
どで閉店に追い込まれたことに関し,各当事者が次の各請求をする事案で
ある。なお,フランチャイズ契約においては,商標やノウハウ等を提供してロ
イヤルティ等を得る事業者をフランチャイザー,それらの提供を受けて個々
のチェーン店を経営しロイヤルティ等を支払う事業者をフランチャイジーと呼
ぶ。
(原審甲事件)
1審原告らが,本件契約を締結するに当たって1審被告シーアンドエスに
おいて1審原告らに対し売上予測等に関し虚偽の事実を告げ,あるいは1審
原告らに経営実態を告げないように他の加盟店経営者に口止めをするなど
した等と主張して,1審被告シーアンドエスに対し,不法行為(詐欺,情報提
供義務違反及び独占禁止法違反),契約締結上の過失(情報提供義務違反
としての債務不履行),あるいは不当利得(詐欺取消,錯誤による契約無
効)に基づいて,同契約を締結したことによって生じた損害又は損失並びに
不法行為後又は催告後の民法所定の遅延損害金を請求したもの(各損害
等につきそれぞれの請求を順位的併合関係とする。)。
(原審乙事件)
1審被告シーアンドエスが,1審原告らにおいて店舗経営を24時間以上
放棄したことを理由に本件契約を解除したと主張して,共同フランチャイジー
である1審原告ら及び同契約の連帯保証人である1審被告Cに対し,本件契
約及び連帯保証契約に基づき,本件店舗の閉店に伴う清算金及び契約解
除の翌日からの約定遅延損害金の支払を求めたもの。
原審は,1審原告Aの不法行為及び契約締結上の過失に基づく各請求の
一部を認容し,1審被告Bの各請求を棄却し,1審被告シーアンドエスの本
件契約及び連帯保証契約に基づく各請求を一部認容したところ,1審被告B
を除く双方当事者がこれを不服として控訴したものである。
当審において,1審被告シーアンドエスから分割設立された承継人サーク
ルケイ・ジャパンが訴訟参加し,1審被告シーアンドエスが脱退し,1審原告
Aが承継人サークルケイ・ジャパンに対する3個の請求(不法行為,契約締
結上の過失及び不当利得)の関係を選択的と改めるとともに,それぞれの
請求の原因を明確にし,整理した。
なお,上記1審被告シーアンドエスの脱退により,1審被告シーアンドエス
に対する原審甲事件請求及び1審被告シーアンドエスからの原審乙事件請
求に関する訴訟はいずれも終了し,原判決主文の当該各請求に関する部
分は失効したものであり,上記承継人サークルケイ・ジャパンに対する請求
及び承継人サークルケイ・ジャパンからの請求が当審での請求として審判
の対象となる。
2 当事者間に争いのない事実及び証拠により容易に認めることができる事実
並びに争点は,次のとおり改めるほかは,原判決「事実及び理由」の第二の
二及び三のとおりであるから,これを引用する(ただし,1審原告Bの請求に
関する部分を除く。)。
(1) 引用範囲中の「被告会社の主張」をすべて「承継人サークルケイ・ジャ
パンの主張」と改める。
(2) 原判決3頁20行目から21行目にかけての「加盟者に経営させ,もしく
は自ら直営している株式会社である」を「加盟者に経営させ(オーナー店
又は加盟者経営店),もしくは自ら直営していた(直営店)株式会社である
が,平成13年7月2日,商号を株式会社シーアンドエスに変更すると共
に,商法373条に基づき承継人サークルケイ・ジャパンを分割設立し,営
業の全部を同社に譲渡して,同社の持株会社になった」と,24行目から2
5行目にかけての括弧内を「1審原告Bは,上記1審被告シーアンドエス
及び承継人サークルケイ・ジャパンの分割,営業譲渡等の事実を明らか
に争わず,その余は当事者間に争いがない。」と,6頁26行目の「合意解
約する」を「合意解約が成立する」とそれぞれ改める。
(3) 原判決9頁8行目の「本件契約を締結するに際し」を「本件契約締結前
の平成9年9月15日より前に」と,10行目の「その旨」を「本件店舗の日
商が50万円と予測される旨」と,12行目の「詐欺行為に該る。」を「詐欺
行為に当たるので,1審原告Aは1審被告シーアンドエスに対し,平成10
年8月28日の原審甲事件第1回口頭弁論期日において,本件契約を取
り消す旨の意思表示をした。」とそれぞれ改め,23行目の末尾に「承継人
サークルケイ・ジャパンは1審原告らが錯誤に陥ったことにつき重大な過
失があると主張するが,1審被告シーアンドエスは,1審原告らが売上予
測を調査してもこれを告知しない姿勢でおり,他の加盟店に対して売上実
績の教示を口止めしていたのであるから,1審原告らの誤信について調
査不足による重大な過失があるとすることはできない。」を加え,24行目
の「(三) 不法行為」を「(三) 情報提供義務違反等」と改める。
(4) 原判決10頁7行目末尾に「1審原告らが片山津インター店などへ聞き
当たり調査をした際に1審被告シーアンドエスが口止めをしたのが本件契
約締結後であったとしても,その口止めという積極的な欺罔行為のため
に,1審原告らは1審被告シーアンドエスによる詐欺行為を本件契約締結
後早期に知ることができず,本件契約を解除する時期が遅れて膨大な損
害を被った。」を加え,11頁11行目の「サークルK店舗」を「本件店舗」
と,16行目から17行目にかけての「無効又は違法」を「違法」とそれぞれ
改め,12頁13行目の次に改行して「(四) 1審原告らに錯誤が認められ
るとすれば,それは重大な過失によるものである。」を加える。
(5) 原判決12頁16行目から13頁21行目までを次のとおり改める。
「(一) 損害ないし損失
(1) ロイヤルティ
 平成9年10月から平成10年4月までに支払った本件契約に基
づくロイヤルティ438万6254円
(2) 成約預託金
 本件契約締結に当たって支払った成約預託金306万5000円
(3) 人件費
 1審原告Aが,1審被告シーアンドエスの同意を得て,本件店舗
の人件費をサークルK勘定に計上せず個人資金から支出した14
2万5750円
(4) 合計 887万7004円
(二) 1審原告Aの各請求の原因である損害ないし損失
(1) 不法行為責任(本件契約締結前後の詐欺,情報提供義務違反
及び独占禁止法違反)に基づく損害は上記3(一)の(1),(2)及び(3
)である。
(2) 契約締結上の過失(情報提供義務違反としての債務不履行)に
基づく損害は同(一)の(1)及び(2)である。
(3) 不当利得(本件契約締結前の詐欺による取消,錯誤無効)に基
づく損失は同(一)の(1),(2)及び(3)である。
(なお,1審原告Aは,本件店舗閉店の際に釣銭30万円を1審被告
シーアンドエスへ返還する義務があったので,30万円を1審原告A
に生じた損害ないし損失から控除した残金857万7004円を請求す
る。)」
(6) 原判決13頁24行目の「指導援助等の」を「指導援助に対する」と,14
頁19行目の「前記1のとおり」を「前記1(承継人サークルケイ・ジャパンの
主張)の(六)のとおり」と,21行目から22行目にかけての「放置したものと
して」を「放置したものと判断されるものとして」と,22行目から23行目に
かけての括弧部分を「〔本件契約書(甲1)45条1項(4),以下単に条項の
みを表示する場合は本件契約書の条項である。〕」と,16頁5行目の「権
利の濫用である。」を「信義則上許されず,その権利を濫用するものであ
る。」とそれぞれ改め,9行目末尾に「また,自ら説明義務に反する状況が
存在する以上,1審原告らの軽微な契約義務違反を主張するのは,クリ
ーンハンズの原則に反し,許されない。」を,20行目の次に改行して次を
いずれも加える。
「6 相殺
(1審原告ら3名の主張)
(1) 1審被告シーアンドエスが1審原告らに対し上記5(承継人サー
クルケイ・ジャパンの主張)の(二)(1)①のサークルK勘定(FC勘
定)346万7400円の清算金請求権を有するとしても,同清算金
は立地判断の誤りが先行した結果の加盟店に対する高度の指導
援助義務違反という1審被告シーアンドエスの債務不履行により1
審原告らが被った損害に当たる。
(2) そこで,1審原告らは1審被告シーアンドエスに対し,平成13年
2月9日の原審甲事件第7回口頭弁論期日において,1審被告シ
ーアンドエスの主張する清算金債務のうち346万7400円につ
き,1審原告らが有する上記損害賠償請求権をもって対当額で相
殺する旨の意思表示をした。
(承継人サークルケイ・ジャパンの主張)
1審原告ら3名の主張する相殺の自働債権の発生は争う。また,
成約預託金の一部とサークルK勘定の一部には重複があるから,重
複部分についての相殺の抗弁は,成約預託金を損害とする甲事件
請求と二重係属の関係になり許されない。」
第3 当裁判所の判断
 1 はじめに
当裁判所は,1審原告ら3名が主張する詐欺取消及び錯誤無効は認めら
れないが,情報提供義務違反の不法行為が肯定でき,これによる1審原告
Aの損害の一部を認められ(契約締結上の過失を肯定しても不法行為によ
る損害を超えては認定できない。),承継人サークルケイ・ジャパンの主張す
る清算金請求権の一部も認められるものと判断する。その理由は以下のと
おりである。
2 判断の前提となる事実経過(争点1)についての判断は,次のとおり改める
ほかは,原判決16頁23行目から26頁22行目までのとおりであるからこれ
を引用する。
(1) 原判決16頁23行目の「甲1の1」から25行目の「24ないし31,」まで
を「甲1の1,2,甲2の1ないし7,甲13,14の1ないし3,甲15,17の1
ないし8,甲20,24,25,29,乙1,2,乙3及び4の各1,2,乙5の1な
いし3,乙6,7の1ないし4,乙15,16の1,2,乙20,24ないし29,乙3
0及び31の各1,2,乙49,」と,17頁5行目の「締結した。」を「締結し,
店舗は同年10月に新築した。」とそれぞれ改め,6行目の「D」を削る。
(2) 原判決23頁22行目の「本件契約を解除する旨の意思表示をした。」を
「1審被告シーアンドエスは同月3日に到達した内容証明郵便で本件契約
を解除する旨の意思表示をした。」と改め,26頁17行目末尾に次のとお
り加える。
「当審で提出された甲第38号証の1,2(Eの陳述書)も,その内容の基本
は明確な記憶がないというものであり,一方当事者代理人との面接により
作成されたものであることを考慮すると,上記認定を左右するものというこ
とはできない。」
 3 争点2(責任原因)について
(1) 詐欺について
1審原告ら3名の主張する詐欺の事実を認めることができないことは,
次のとおり改めるほかは原判決26頁25行目から28頁3行目までのとお
りであるからこれを引用する。
原判決26頁25行目及び27頁26行目の各「原告ら」並びに28頁2行
目の「原告」をいずれも「1審原告ら3名」と,27頁12行目の「石川県内の
サークルK既存店舗の平均日商値に達せず,」を「上記の方法で算出した
日商予測32万5000円に達せず,現実の日商が平均16万円に満たな
い額に低迷して,」と,22行目の「とは認められない。」を「と認めるには足
りない。」と,24行目の「原告らを欺罔する認識が」を「既に判示の1審原
告らに対して本件店舗の売上予測を具体的に告知しないで本件契約を締
結した経過を考慮すると,1審原告らを欺罔する故意が」とそれぞれ改め
る。
(2) 錯誤について
1審原告ら3名の錯誤無効の主張については,動機の錯誤の存在を認
めることができるが,これを要素の錯誤と解することはできず,仮にこれを
肯定するとしても,重過失の存在が認められる結果,本件契約につき無
効であるということはできないと判断する。その理由は,次のとおり改める
ほかは,原判決28頁5行目から29頁5行目までのとおりであるからこれ
を引用する。
原判決28頁5行目及び29頁5行目の各「原告ら」を「1審原告ら3名」
と,28頁14行目の「上記」から15行目の「としても,」までを「上記の動機
が1審被告シーアンドエスに対して表示されていたことを認めることのでき
る証拠はないし,」と,25行目の「また,」を「また,上記のとおり,1審原告
Aは,喫茶店やソープランド等を経営したことのある事業家であり,新規店
舗を開店するには,その収益予測は容易ではなく,見込みの変動すること
も少なくないと考えられること等に加えて,」とそれぞれ改める。
(3) 情報提供義務違反等の不法行為について
1審原告ら主張の本件契約の締結とその履行に関する1審被告シーア
ンドエスの情報提供義務違反の不法行為については,これが認められる
と判断する。その理由は次のとおり改めるほかは原判決29頁7行目から
33頁26行目までのとおりであるからこれを引用する。
原判決33頁21行目の「しかも,」から26行目までを次のとおり改め
る。
「フランチャイズ契約は,自らの商標やノウハウ等を基にフランチャイズシ
ステムを構築するフランチャイザーが,その指導と援助の下に資金を投下
して同システム傘下の加盟店を経営しようとする者(フランチャイジーとな
ろうとする者)との間に,加盟店経営に関する継続的取引関係の合意をす
る契約である。フランチャイジーは,この契約により,フランチャイザーの
商標やノウハウを利用して営業し,その指導や援助を受けられるメリット
があり,フランチャイザーは,フランチャイジーの資金や人的資源を活用し
て,自己の事業を拡大し,収益を得ることを目的としているものである。そ
して,多くの場合,フランチャイザーが予め作成している統一的契約書に
より契約する一種の附合契約であって,フランチャイジーとなろうとする者
は,通常,小規模の事業者かこれを志す者であり,資金力も小さく,同シ
ステムによる営業についての知識や情報がフランチャイザーに比べて極
めて少ない。これらを考慮すれば,信義則上,予定店舗を指定して加盟を
勧誘するフランチャイザーは,フランチャイジーとなろうとする者に対して,
予定店舗についての的確な情報を収集するとともに,収集して保有する
に至った情報を,特に秘匿すべき事情のない限り,フランチャイジーとなろ
うとする者に開示し,フランチャイズ契約を締結するか否かの判断の資料
として提供すべき義務,すなわち情報提供義務があると解するのが相当
である。既に判示の経緯からすれば,1審被告シーアンドエスと1審原告
らとの関係についても同様であったことは,容易に推認できるところであ
り,1審被告シーアンドエスには,1審原告らに対する情報提供義務を肯
定できるところ,同1審被告は,不正確な売上予測情報の収集しかしなか
った上に,収集した情報を1審原告Aに提供しなかったものであって,1審
被告シーアンドエスにおいて特にこれを秘匿すべき事情は認められない
から,上記情報提供義務違反は明らかである。同提供義務違反は1審原
告らに対する不法行為を構成するといわねばならない。」
(4) 独占禁止法違反について
1審原告ら主張の本件契約の締結について独占禁止法違反は認めら
れないと判断する。その理由は原判決36頁10行目から38頁22行目ま
でのとおりであるからこれを引用する。
4 争点3(損害)について
(1) ロイヤルティについて
ア ロイヤルティの性質,及びその支払が直ちに情報提供義務違反の不
法行為に基づく損害とはいえないことについては,次のとおり改めるほ
かは,原判決39頁2行目から14行目までのとおりであるからこれを引
用する。
原判決39頁12行目の「これをもって」から14行目までを次のとおり
改める。
「同支払相当額全額を,上記不法行為と相当因果関係のある損害と認
めることはできない。また,1審原告Aは,ロイヤルティ相当額は逸失利
益損害に当たるとも主張するが,同原告において同額の利益を上げら
れたことを認めることのできる証拠はない。」
イ しかし,証拠(甲2の1ないし7)によると,1審原告Aが本件店舗を営
業した6か月と8日間に1審被告シーアンドエスへ支払ったロイヤルティ
の総額は438万6254円であるところ,この間の本件店舗の営業によ
り1審被告シーアンドエスが掌握する経理において合計235万1271
円の赤字が発生した事実が認められる。そして,既に判示の事実関係
によれば,1審被告シーアンドエスの情報提供義務違反がなければ,1
審原告Aにおいて,損失を生じさせてまで本件店舗の営業を開始したと
は考えられないところであって,1審原告Aが1審被告シーアンドエスへ
支払ったロイヤルティ総額438万6254円のうち上記赤字に相当する
金額は,1審被告シーアンドエスの情報提供義務違反の不法行為がな
ければ1審原告Aに生じなかった負担として同不法行為と相当因果関
係のある損害と認めるのが相当である。この赤字経営の期間は,上記
のとおり本件店舗の営業開始から6か月と8日間という短期間にとどま
るものであって,1審原告Aにおいて本件店舗の収支を見極めるべき期
間と考えられ,事業者の自己責任があるからといって,上記損害につき
上記不法行為との因果関係を否定するのは相当でない。
(2) 成約預託金について
証拠(甲1の1の26頁,乙35)によると,本件契約締結に際して1審原
告らが1審被告シーアンドエスへ差し入れた成約保証金300万円の内訳
は,①開業準備手数料100万円,②研修費用30万円,③加盟証拠金5
0万円及び④商品等買取代金120万円であるところ,③は契約終了時に
返還されるものであり,④はサークルK勘定に繰入れられて清算されるこ
とが認められるから,③と④は1審原告Aに生じた損害に当たらないもの
である。①と②の合計130万円については,1審原告Aの損害であると認
められる。
(3) 人件費について
従業員給与を原告Aが個人資金から支出したことについての的確な証
拠はないうえ,これを支出したのであれば損益計算書において明確にさ
れるべきであるのにこれをした節もなく,上記人件費分のみを取り上げて
情報提供義務違反に基づく損害であると認めることはできない。
(4) 損害の合計
以上のとおり,1審原告Aが1審被告シーアンドエスの不法行為により
被った損害は,ロイヤルティのうちの235万1271円及び成約預託金関
係の130万円の合計365万1271円となる。
5 争点4(過失相殺及び認容額)について
  (1) 当裁判所は,1審原告らについても過失が認められ,4割の限度で過失
相殺すべきものと判断する。その理由は,次のとおり改めるほかは原判
決40頁13行目から41頁10行目までのとおりであるから引用する。
原判決41頁6行目の「ないし契約締結上の過失」を削り,9行目の「30
6万5000円」を「365万1271円」と,10行目の「183万9000円」を「2
19万0762円」とそれぞれ改める。
(2) 1審原告Aは,本件店舗開店に際して預かった釣り銭用現金30万円を
閉店に際して返還すべきものとして,これを控除して本件請求をするの
で,上記請求の認容額はこれを控除した189万0762円となる。
6 争点5(解除事由の存否並びに清算金の有無及び額)
上記についての判断は,次のとおり改めるほかは原判決41頁17行目か
ら45頁7行目までのとおりであるからこれを引用する。
(1) 原判決42頁1行目の次に行を改め,「 1審原告ら3名は,1審被告シ
ーアンドエスが自らの説明義務を怠りながら,1審原告らの軽微な契約違
反を主張するのはクリーハンズの原則に反すると主張するが,既に判示
の事実経緯によれば,1審被告シーアンドエスの解除と清算の主張がクリ
ーハンズの原則に反するということはできない。」を加え,2行目の「そこ
で,清算金の額について検討するに,」を削り,3行目の「弁論の全趣旨に
よれば,」の次に「契約が解除された場合には,本件契約によりそれぞれ
の債務について清算を要することとなるところ,」を加え,43頁10行目の
「原告ら」を「1審原告ら3名は,本件契約が詐欺取消,錯誤無効等により
効力がないとして,解約違約金等の請求ができないと主張するが,本件
契約について無効事由を認めることができないことは既に判示のとおりで
ある。また,1審原告ら3名は,」と改める。
(2) 原判決44頁16行目から17行目にかけての「上記解約違約金(553万
6474円)については,」を「上記2(一)(3)の解約違約金(553万6474
円)及び同(5)の24時間補助違約金(100万8000円)については,」と,
25行目の「日商50万円」から26行目の「なっていることなど,」までを「日
商50万円はもちろんのこと,1審被告シーアンドエスが予測した日商32
万5000円には遠く及ばず,同1審被告も様々な支援をしたのに,6か月
余の間の平均日商が16万円に満たない低額(原判決22頁に認定の売
上の平均)であったことが主な原因であって,同1審被告もそのような著し
い売上げの低迷は予想外であったことを認めていることなど,」と,45頁2
行目の「その」を「上記解約違約金(553万6474円)及び24時間補助違
約金(100万8000円)の」と,7行目の「清算金の額は234万4752円」
を「清算金の額は1,336,752円」とそれぞれ改める。
7 争点6(相殺) 
1審原告ら3名は,1審被告シーアンドエスの主張する上記2(一)(1)のサ
ークルK勘定上の債務相当額は1審被告シーアンドエスの指導援助義務違
反の債務不履行によって生じたものであり,同債務不履行による損害賠償
請求権によって相殺されたと主張する。しかし,既に判示のとおり,1審被告
シーアンドエスに情報提供義務違反は認められるものの,指導援助につい
てはこれを尽くしていたと認められ,証拠(甲1の1)によれば,サークルK勘
定とは,1審被告シーアンドエスとフランチャイズ加盟者との間で,開業後に
加盟店経営に関する継続的取引によって生じた債権債務を交互計算の方
法により決済する計算方法であり,これにより生じた清算金が上記情報提
供義務違反と相当因果関係のある損害ということもできず,1審原告ら3名
の主張する相殺の自働債権の発生の主張を認めることはできない。
したがって,上記相殺の主張は理由がない。
承継人サークルケイ・ジャパンは,上記相殺の自働債権である損害賠償
請求権については,1審原告らが甲事件において請求する損害賠償請求権
と一部重複するので許されないと主張する。たしかに,証拠(甲1の1)及び
弁論の全趣旨によれば,成約預託金には商品等買取代金の前払分120万
円も含むものであり,商品代金はサークルK勘定により清算されるものでは
あるが,成約預託金の支払自体を損害としている甲事件請求と清算後の残
金を損害として構成している上記自働債権とは重複するということはできな
い(なお,甲事件の請求権につき,上記前払代金分がサークルK勘定にお
いて清算対象となるもので損害と認められないことは既に判示のとおりであ
る。)。
第4 結論
以上のとおりであるから,1審原告Aの不法行為に基づく損害賠償請求は
損害金189万0762円及びこれに対する平成10年8月9日から支払済み
まで民法所定年5分の割合による遅延損害金の支払を求める限度で理由
があり,承継人サークルケイ・ジャパンの請求は,清算金133万6752円及
びこれに対する平成10年5月4日から支払済みまで約定の日歩5銭の割合
による遅延損害金の支払を求める限度で理由がある。1審原告Aの請求に
つき,本件契約が無効であるとはいえないもので不当利得返還請求は理由
がなく,契約締結上の過失を理由とする債務不履行に基づく請求は,この責
任を肯定できるとしても,上記不法行為に基づく損害を超える損害を認める
ことはできない。
よって,双方当事者の各請求につき,上記理由のある限度でこれを認容
し,その余を棄却することとし,控訴費用の負担割合を定め,仮執行宣言を
付して,主文のとおり判決する。
なお,1審被告シーアンドエスの脱退により原判決は失効した。
名古屋高等裁判所民事第1部
裁判長裁判官      田村洋三
裁判官      小林克美
裁判官      戸田 久

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