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平成一〇年(ワ)第三〇三〇二号特許権侵害差止等請求事件
口頭弁論終結日 平成一二年一月二八日
    判  決
原       告【A】
原       告    ノーカイ工業株式会社
右代表者代表取締役    【B】
右両名訴訟代理人弁護士田中信人
右補佐人弁理士    【C】
被      告    株式会社グリーンテック
右代表者代表取締役    【D】
右訴訟代理人弁護士 中田健一
右補佐人弁理士    【E】
    主  文
一 原告らの請求をいずれも棄却する。
二 訴訟費用は原告らの負担とする。
    事実及び理由
第一 請求
一 被告は別紙物件目録記載の温室内走行体移動装置を製造販売してはならない。
二 被告は、原告らに対し、連帯して、金一億四八六三万三一〇〇円及びこれに対
する平成一一年一月二一日から支払済みまで年六分の割合による金員を支払え。
第二 事案の概要
 本件は、散布及び電照設備に於ける走行体の移動装置に関する特許権の特許権者
及び専用実施権者である原告らが、被告に対し、被告による別紙物件目録記載の温
室内走行体移動装置の製造販売が右特許権を侵害すると主張して、その製造販売の
差止め及び損害賠償を求めているものである。
一 争いのない事実等(括弧内で証拠を摘示しない事実は当事者間に争いがな
い。)
1 原告【A】(以下「原告【A】」という。)は、次の特許権(以下「本件特許
権」といい、その発明を「本件発明」という。)を有し、原告ノーカイ工業株式会
社(以下「原告ノーカイ工業」という。)は、本件特許権の専用実施権者である
(甲一、弁論の全趣旨)。
特許番号  第一七三六四三〇号
発明の名称  散布及び電照設備に於ける走行体の移動装置
出 願 日  昭和六〇年二月一三日
公 告 日  平成四年四月一〇日
登 録 日  平成五年二月二六日
特許請求の範囲  本判決の末尾に添付した別紙訂正明細書の該当欄記載のとおり
(以下、別紙訂正明細書を「本件明細書」という。なお、本件明細書において説明
されている図面は、本判決の末尾に添付した別紙特許公報の図面と同じである。)
2本件特許権の出願経過は次のとおりである。
(一) 原告【A】は、昭和六〇年二月一三日、「人工照光機構を備えた散布装置」
についての特許出願(特願昭六〇─〇二五七三四)をした。右出願における特許請
求の範囲は別紙特許請求の範囲(一)のとおりであった。
 原告【A】は、同年七月一六日、右出願を分割して、「散布及び電照設備に於け
る走行体の移動装置」についての特許出願(特願昭六〇─一五六二二)をした。右
分割後の出願における特許請求の範囲は別紙特許請求の範囲(二)のとおりであっ
た。
(二) 原告【A】は、昭和六〇年一一月一一日、右分割出願に係る特許請求の範囲
を別紙特許請求の範囲(三)のとおり補正した。
(三) 特許庁審査官は、原告【A】に対し、平成三年四月四日、特許請求の範囲
(三)に記載された発明は、その出願前国内において頒布された刊行物(1実公昭五
九─六九三三号公報(噴射管をもつ支持体をレールに沿って往復走行可能に架設し
た構成の点)、2実公昭四二─一一〇〇号公報(移動車をロープ等の牽引によって
走行させる構成の点)、3実公昭四八─四二九九〇号公報(太陽灯及び散水器を架
台に取付けた構成の点))に記載された発明に基づいて、その出願前にその発明の
属する技術の分野における通常の知識を有する者が、容易に発明をすることができ
たものと認められるとの理由で、拒絶理由通知をした。
(四) 原告【A】は、平成三年七月一五日、右(三)の拒絶理由通知に対し、意見書
に代えて手続補正書を提出し、右特許請求の範囲を別紙特許請求の範囲(四)のとお
り補正した。
 平成四年九月一一日、右補正後の出願について特許査定がされ、平成五年二月二
六日登録がされた(本件特許権)。
(五) 原告【A】は、平成七年八月四日、本件特許について、訂正審判の請求を
し、これが認められて、特許請求の範囲は別紙特許請求の範囲(五)のとおりになっ
た。
(六) 原告【A】は、平成九年四月一八日、本件特許について、発明の名称を「温
室等における散布体等のための走行体移動装置」に、特許請求の範囲を別紙特許請
求の範囲(六)のとおりに訂正することを求めて審判請求をした。
(七) 特許庁審判官は、平成九年七月三一日、右(六)の訂正審判請求について、次
のような理由で拒絶理由通知をした。
(1) ・・駆動車及び従動車は、いずれも走行レールの「下方」に位置するものであ
るが、該個所において「下方」を削除し、「走行レールの一端がわには・・・駆動
車を配設し」及び「走行レールの他端がわには・・・従動車を配設し」と訂正しよ
うとすることは、駆動車及び従動車の配設位置を走行レールの「下方」のみなら
ず、走行レールの「上方」等をも包含することになり、該訂正は、駆動車及び従動
車の配設位置を拡張することになるので、特許請求の範囲の減縮を目的とするもの
ではなく、実質上特許請求の範囲を拡張するものである。
(2) ・・「・・・散布体や、・・・照光機構」からなる構成は、散布体と照光機構
の両者を兼ね備えたもののみであるのに対し、訂正しようとする「・・・散布体
か、・・・照光機構」は、散布体又は照光機構をいずれか一方を設ければよいもの
であり、該訂正は、特許請求の範囲の減縮を目的にするものではなく、実質上特許
請求の範囲を変更するものである。
(3) ・・「散布及び電照設備に於ける」からなる構成は、散布体と電照設備の両者
を兼ね備えたもののみであるのに対し、訂正しようとする「散布体等のための」か
らなる構成は、両者を兼ね備えたもののみならず、散布体のみ、電照設備のみ、又
は、他の設備を設けたものをも包含するものであり、該訂正は、特許請求の範囲の
減縮を目的にするものではなく、実質上特許請求の範囲を変更するものである。
(八) 原告【A】は、平成九年一〇月一五日、右(七)の拒絶理由通知に対する意見
書及び本件発明の特許請求の範囲を本件明細書と同じ内容に変更する手続補正書を
提出したが、特許庁審判官は、同年一二月二六日、(1)右手続補正書による補正は、
訂正明細書の内容を変更して訂正を求めることになり、請求の趣旨の要旨を変更す
ることとなる、(2)右(六)の審判請求書による訂正は、右(七)の拒絶理由通知と同じ
理由で認められないとして、訂正審判請求が成り立たない旨の審決をし、平成一〇
年二月一三日、右審決は確定した。
(九) 原告【A】は、平成一〇年三月三日、本件特許について、特許請求の範囲及
び発明の詳細な説明を、本件明細書のとおり訂正することを求める訂正審判請求を
し、同年六月一二日、右訂正を認める旨の審決がされて、審決は同年七月一日に確
定した(以下、この訂正を「本件訂正」という。)。
3 本件発明の構成要件は、次のように分説することができる(以下「構成要件
(一)」などという。)。
(一) 適宜型材で構成される走行レールを、温室の天井中央の梁等から垂下せしめ
た複数のレール支持杆を介して温室内の長手方向に沿って架設すると共に、温室の
一端から他端まで及ぶように水平に配設したこと
(二) 走行レールの一端がわ下方には、駆動機構によって正逆回転可能な比較的大
径の駆動車を配設し、走行レールの他端がわ下方には、従動車を配設し、この駆動
車と従動車には、無端環状の伝動帯を巻き掛けたこと
(三) 駆動車の近傍には弛緩防止車を設けて、伝動帯の駆動車への巻き付き量が多
くなるように形成したこと
(四) 走行レールに対して略直交する方向に沿って略水平に配設される送液管を備
えると共に複数の照光ランプからなる照光機構を付設することが可能な散布体
(五) 該散布体を固定した走行体が、上記伝動帯に固着され、かつその走行体の上
部には、走行レールの両側縁に沿うように配置した少くとも左右二個づつの走行車
輪を備え、駆動機構の作動によって、伝動帯で牽引されて走行レールを往復移動自
在となるよう構成したこと
(六) 散布及び電照設備に於ける走行体の移動装置であること
4 被告は、別紙物件目録記載の温室内走行体移動装置(以下「イ号物件」とい
う。)を製造販売している(ただし、別紙物件目録の「二 構造の説明」中で傍線
を付した部分については争いがある。)
二 争点
1 イ号物件が本件発明の技術的範囲に属するかどうか
(原告らの主張) 
(一) イ号物件の構成を、本件発明の構成要件に対応するように分説すると、次の
ようになる(以下「構成(1)」などという。)。
 (1) 型材である長尺横架体Aを、温室Fの天井中央の梁9から垂下した複数の吊
下げ杆10を介して温室Fの長手方向に沿って、その一端から他端に及ぶようにして
かつ水平に横架している。
(2) 長尺横架体Aの走行体装架部aの一端がわと他端がわとには、駆動機構Dによ
り水平面内で正逆回転する比較的大径の駆動車bと、従動機構Eに同じく水平面内
で回転するように軸支した従動車cとを、これら駆動車b及び従動車cの索条巻回
部・、・を走行体装架部aの変形凹部3、3と同じ高さになるようにして配設する
と共に、その駆動車bと従動車cとの伝動索条eを巻回張架している。
(3) 右駆動車bの近くに二個のワイヤーガイド車dを設置し、それによって伝動索
条eの駆動車bへの巻き付き長さが多くなるようにしている。
(4) 走行体Cが、長尺横架体Aに対して直交する方向にしてかつ水平に配置された
比較的口径の大きな金属製の送液管体14に多数のノズル15を列設してなる散布体B
を固定している。
(5) 右走行体Cに前記伝動索条eの両端を固着し、かつ、その走行体Cの上部に、
走行体装架部aの水平主板1に乗載する左右各二個の走行車輪12を備え、駆動機構
Dの作動で伝動索条eが牽引されるのにともない走行体Cが長尺横架体Aに沿って
往復移動するようになっている。
 (6) 散布及び電照設備における走行体の移動装置である。
 (二) 本件発明の構成要件(一)について
 イ号物件の構成(1)の長尺横架体A、吊下げ杆10は、それぞれ本件発明の構成要件
(一)の走行レール、レール支持杆に相当するから、イ号物件の構成(1)は本件発明の
構成要件(一)を充足する。
(三) 本件発明の構成要件(二)について
 「下方」は、当該部材の下半部又は下端部を指称するのに使用される言葉でもあ
るから、本件発明の構成要件(二)の「下方」は、そのような意味を含んでいる。
 イ号物件において、長尺横架体Aの走行体装架部aは、吊下支持部・の垂直壁4
の下端に水平主板1が連続し、しかも、その水平主板1の長手側縁部2、2より下
方に変形凹部3、3が位置しているから、その変形凹部3、3と同じ高さになるよ
うに、走行体装架部aの一端がわと他端がわに配設されている駆動車bと従動車c
は、走行レールに相当する長尺横架体Aの一端がわと他端がわにあり、かつ、長尺
横架体Aの下半部又は下端部、すなわち「下方」に配設されている。
 また、イ号物件の駆動車bと従動車cに巻回張架した伝動索条eは、本件発明の
構成要件(二)の伝動帯に該当する。
 したがって、イ号物件の構成(2)は、本件発明の構成要件(二)を充足する。
(四) 本件発明の構成要件(三)について
 イ号物件の構成(3)と本件発明の構成要件(三)は同じである。
(五) 本件発明の構成要件(四)について
イ号物件の構成(4)の散布体Bは、長尺横架体Aに対して直交する方向にしてかつ
水平に配置された比較的口径の大きな金属製の送液管体14に多数のノズル15・・・
を列設してなるものであり、これに必要に応じて電気配線を装架することにより、
本件発明の構成要件(四)の「複数の照光ランプからなる照光機構」を付設すること
が可能である。このことは、右散布体Bの構造及び形態から当業者であれば容易に
理解できるものである。
 したがって、イ号物件の構成(4)は、本件発明の構成要件(四)を充足する。
(六) 本件発明の構成要件(五)について
イ号物件の構成(5)の伝動索条e、走行車輪12は、それぞれ本件発明の構成要件
(五)の伝動帯、走行車輪に相当するから、イ号物件の構成(5)と本件発明の構成要件
(五)は同じである。
(七) 本件発明の構成要件(六)について
 イ号物件の構成(6)は本件発明の構成要件(六)と同じである。
(被告の主張)
(一) 本件発明の構成要件(一)について
 イ号物件の構成(1)の長尺横架体A、吊下げ杆10は、それぞれ本件発明の構成要件
(一)の走行レール、レール支持杆に相当し、イ号物件の構成(1)は本件発明の構成要
件(一)を充足することは認める。
(二) 本件発明の構成要件(二)について
 原告【A】は、別紙特許請求の範囲(三)から同(四)への補正によって、駆動車と
従動車の配設位置を走行レールの「一端がわ」と「他端がわ」から「一端がわ下
方」と「他端がわ下方」へと限定する補正をしたのであり、特許公報の第一図ない
し第三図では、伝動帯7、駆動車4及び従動車5が走行レールの下方に位置する状
態が図示されている。
 本件特許の本件訂正前の明細書では、「発明の効果」として、「走行体10の殆ど
の部分や、伝動帯7や、駆動車4や、従動車5が走行レール1の下方に位置するよ
うになり、走行体10を安定的に且つバランス良く移動せしめることができる」、
「伝動帯7を走行レール1に接近させて配置できるようになり、走行体10を走行レ
ール1に沿って牽引するように伝動帯7による力が効率よく走行体10に伝達される
ようになる」と説明されており、本件明細書では、実施例の項に同様の記載があ
る。
 以上の事実からすると、本件発明の構成要件(二)にいう「下方」とは、走行レー
ルの下端を基準として、それよりも下側を意味するところ、イ号物件においては、
駆動車bと従動車cは、走行レールの下端よりも下側にない。
 また、イ号物件の伝動索条eは有端であるから、本件発明の構成要件(二)の無端
環状の伝動帯ではない。
 したがって、イ号物件は本件発明の構成要件(二)を充足しない。
(三) 本件発明の構成要件(三)について
 本件発明の構成要件(三)では「伝動帯の駆動車への巻き付き量が多くなるように
形成し」とされ、弛緩防止車の具体的な作用効果が明確にされている。
 また、発明の詳細な説明の実施例においては、「弛緩防止車8により、伝動帯7
の弛緩を防止すると共に、伝動帯7の駆動車4への巻き付き量(接触量)が多くな
るようにして、駆動車4と伝動帯7との間に生じるスリップ等を防止し、駆動車4
の回転力を伝動帯7に確実に伝達できるように構成してある」と説明されている。
 イ号物件は、伝動索条eを駆動車bに二回巻回張架することによって、弛緩防止
車が目的とした右作用効果を達成しているのであり、ワイヤーガイド車bは、変形
凹部3を走る伝動索条eが走行レールの端部等に接触して摩耗することを防止する
ためのものであって、駆動車への巻き付き量を多くすることを目的としていないか
ら、弛緩防止車には該当しない。
 したがって、イ号物件は、本件発明の構成要件(三)を充足しない。
(四) 本件発明の構成要件(四)について
 本件発明において、「複数の照光ランプからなる照光機構が付設可能な走行体」
は、従来技術の欠点を克服し、温室の隅々にまで散布及び照射を行うために不可欠
の構成要件である。このことは、右一2(七)の拒絶理由通知において、構成要件
(四)が散布体と照光機構を兼ね備えたものであるとされていることからも分かる。
 しかるに、イ号物件は「複数の照光ランプからなる照光機構」を付設している装
置ではなく、構造上その付設を予定している装置でもない。
 また、イ号物件の送液管体は、消毒、細霧冷房、灌水などの用途に応じて、塩化
ビニール管、ナイロン管を用いているから、「比較的口径の大きな金属製」ではな
い。
 したがって、イ号物件は、本件発明の構成要件(四)を充足しない。
(五) 本件発明の構成要件(五)について
 イ号物件の伝動索条eは有端環状の伝動帯であり、走行車輪12は走行レールの両
側縁ではなく、中央垂直壁4に沿って走行するものであるから、これらは本件発明
の構成要件(五)にいう無端環状の伝動帯及び走行車輪に該当せず、イ号物件は本件
発明の構成要件(五)を充足しない。
(六) 本件発明の構成要件(六)について
 右(四)のとおり、イ号物件は「散布及び電照設備」における走行体の移動装置で
はないから、イ号物件は本件発明の構成要件(六)を充足しない。
2 原告らの損害
(原告らの主張)
 被告は平成一〇年一〇月までに三〇八レーン以上のイ号物件を製造販売してい
る。
 原告ノーカイ工業の一レーン当たりの販売価格は九一万〇五二〇円を下ることは
なく、粗利は五三%以上であるから、一レーン当たりの原告らの逸失利益は四八万
二五七五円を下らない。
 したがって、原告らの得べかりし利益は(四八万二五七五円×三〇八レーン=)
一億四八六三万三一〇〇円であり、これが原告らの被った損害である。
(被告の主張)
 原告らの主張を争う。
第三 争点に対する判断
一 本件明細書には、発明の詳細な説明として、次の各項目について、それぞれ次
のように記載されている。
1 産業上の利用分野
「本発明は、主に、大型の温室内に於ける散水、防除、消毒、電照等が効率良く行
えるように、水、液肥、薬液等の散布液の散布や電照用の光線の照射が可能な散布
体が固定される走行体を、温室の端から端まで確実に且つ安定的に移動させること
ができるようにした散布及び電照設備に於ける走行体の移動装置に関するものであ
る。」
2 従来の技術
「従来、大型の温室内に於いて散水や防除や消毒や電照等を行う場合、水や液肥や
薬液等の散布液の散布を行ったり、電照用の光線の照射を行ったりできるように形
成される適宜散布体を走行体に固定して移動させることで、温室内隅々に散布や照
射等が効率良く行えるように構成されたものがある。例えば、特公昭五八─三〇四
四号公報に記載されているような電照装置における光源照射方法が開示されてい
る。これは送水管を兼ねるアームが、その一端の送水管センターを中心として温室
内で水平に回転するように構成し、散布液の散布及び人工照明の照射が送水管セン
ターを中心とし、且つアームを半径とする円内部分に行えるようにしたものであ
る。」
3 発明が解決しようとする課題
「ところが、前述のような電照装置における光源照射方法にあっては、平面円形に
形成された温室に使用した場合であれば、温室内の隅々にまで散布及び照射が行え
るが、通常多くの温室は、平面矩形状であるため、これをそのまま使用した場合
は、温室内の隅々にまで散布及び照射が行えない欠点があった。」
4 課題を解決するための手段
「そこで、本発明は、従来存した如上の如き難点等を解消すると共に、走行体10を
確実に且つ安定的に移動できるように・・・すること等を目的として創出され
た・・・具体的には・・・走行レール1の一端がわ下方には、駆動機構3によって
正逆回転可能な比較的大径の駆動車4を配設し、走行レール1の他端がわ下方に
は、従動車支持体6に回動自在に軸支される従動車5を配設する。・・・また、走
行レール1に対して略直交する方向に沿って略水平に配設される送液管31を備える
と共に複数の照光ランプ50からなる照光機構を付設することが可能な散布体30を固
定した走行体10が、上記伝動帯7に固着され・・・るよう構成する手段を採用し
た。」
5 実施例
(一) 「走行レール1に対して略直交する方向に沿って略水平に配設される送液管
31を備えると共に複数の照光ランプ50からなる照光機構を付設することが可能な散
布体30を固定した走行体で、それは、上部に左右二個づつの走行車輪11を、横断面
略逆V字状をなす走行レール1の傾斜上面夫々に密接するような傾斜角度で軸支し
ている。」
(二) 「ところで、前記散布体30には複数の照光ランプ50からなる照光機構が付設
される。51は照光ランプ50のソケットで、52は電源から照光ランプ50に電気を供給
するための電線で、この電線52は、送液管31やホース25等に沿うようにして適宜固
定されている。尚、照光ランプ50の数や散布体30に於ける配置位置等は、効率の良
い照射が行えるようなものであれば、図示例に限定されることなく適宜自由に設定
できる。」
(三) 「特に、走行レール1の一端がわ下方に駆動車4を配設し、走行レール1の
他端がわ下方に従動車5を配設し、この駆動車4と従動車5に無端環状の伝動帯7
を巻き掛け、走行レール1の両側縁に沿うように少くとも左右二個づつの走行車輪
11が上部に配置されている走行体10を伝動帯7に固着したので、走行体10の殆どの
部分や、伝動帯7や、駆動車4や、従動車5が走行レール1の下方に位置するよう
になり、走行体10を安定的に且つバランス良く移動せしめることができるようにな
る。しかも、伝動帯7を走行レール1に接近させて配置できるようになり、走行体
10を走行レール1に沿って牽引する伝動帯7による力が効率良く走行体10に伝達さ
れるようになる。すなわち、走行体10の走行レール1に近い部分を伝動帯7で牽引
できるようになるので、走行車輪11を支点として走行体10を牽引方向斜め上方に揺
動させようとする力を極力低減でき、伝動帯7による牽引力の殆どを、走行体10を
走行レール1に沿って牽引する方向の力として発揮させることができるようにな
る。」
6 発明の効果
「以上説明したように本発明によれば、走行体の移動動作が確実に且つ安定的に行
え、大型の温室内等への設置も容易となり、更に、温室内で邪魔にならずに、温室
内を無駄なく有効に利用でき、しかも、構成が簡素で、軽量となり、安価に提供で
き、経済的となる等の優れた諸効果を奏するものとなる。」
二 イ号物件の本件発明の構成要件(二)該当性について
1 本件発明の構成要件(二)において、駆動車が配設されるのは、走行レールの一
端がわ「下方」であり、従動車が配設されるのは他端がわ「下方」であるところ、
「下方」を文字どおり解すると「下の方」という意味になる。
2 右一5(三)の実施例の記載に別紙特許公報の図面を総合すると、本件明細書の
実施例では、「走行レール」の下端よりも下側に、縦に駆動車及び従動車が配設し
た装置が示されており、そのような構成を採ったことにより、「走行体10を安定的
且つバランス良く移動せしめることができるようになる」、「伝動帯7を走行レー
ル1に接近させて配置できるようになり、走行体10を走行レール1に沿って牽引す
る伝動帯7による力が効率良く走行体10に伝達されるようになる」と説明されてい
る。
 本件明細書では、「発明の効果」について、右一6のとおり記載されているが、
ここには、「走行体の移動動作が確実に且つ安定的に行え」という記載がある。こ
の記載と右実施例の記載を総合すると、特許請求の範囲において、走行レールの一
端がわ「下方」に駆動車を、他端がわ「下方」に従動車をそれぞれ配設しているこ
とによる効果は、「走行体の移動動作が確実に且つ安定的に行え」るということで
あり、その具体的な意味は、右実施例記載のようなものであると認められ、これ以
外に本件明細書中に「下方」に関する効果の記載があるとは認められない。
3 以上述べたところからすると、本件発明にいう「走行レール」の「下方」と
は、「走行レールの下端よりも下側」であることを意味するものというべきであ
る。
4 イ号物件において長尺横架体Aが本件発明の「走行レール」に相当すること、
長尺横架体Aが少なくとも垂直壁4の上端に角形扁平枠5を形成してなる吊下支持
部・、垂直壁4の下端に上面中央を連続させた水平主板1の長手側縁部2、2、長
手側縁部2、2の外側に沿って位置する変形凹部3、3、水平主板1の下面中央に
連続させた逆T字型部6からなることは当事者間に争いがない。
 しかるところ、弁論の全趣旨によると、イ号物件において駆動車b及び従動車c
はいずれも走行体装架部aの変形凹部3、3とほぼ同じ高さに配設されているもの
と認められるから、長尺横架体Aの下端よりも下側には配設されていない。
 したがって、イ号物件は本件発明の構成要件(二)を充足しない。
5 なお、前記第二(事案の概要)一(争いのない事実等)2(六)ないし(八)のと
おり、原告【A】が、本件特許の特許請求の範囲の記載を、別紙特許請求の範囲
(四)から同(五)に訂正することを求めた訂正審判請求は、本件発明の構成要件(二)
に相当する部分の「下方」を削除することを求める部分については、「「上方」
等」も包含することになり、実質上特許請求の範囲を拡張するものであるとの理由
で認められなかったのであるが、イ号物件が本件発明の構成要件(二)を充足するこ
とを認めることは、本件発明が右の「「上方」等」を包含することを認めることに
ほかならず、右訂正審判請求によって認められなかった特許請求の範囲の変更を認
めるに等しいというべきである。
三 イ号物件の本件発明の構成要件(四)及び(六)該当性について
1 本件発明の構成要件(四)の散布体は、「走行レールに対して略直交する方向に
沿って略水平に配設される送液管を備え」たものであり、かつ、「複数の照光ラン
プからなる照光機構を付設することが可能な」ものでなければならない。
2 本件発明の名称は「散布及び電照設備に於ける走行体の移動装置」であり、こ
の名称は構成要件の一部になっていること(本件発明の構成要件(六))、前記一1
ないし4のとおり、本件発明は、従来技術では、平面矩形状の温室に使用した場合
には、温室内の隅々にまで散布及び照射が行えない欠点があったのを解消して、そ
のような散布及び照射を行うことができるようにしたものであること、前記一5
(一)及び(二)のとおり、実施例においても、送液管やホースに沿うように固定され
た電線、ソケット及び照光ランプを備えたものが示されており、それ以外のものが
示されているとは認められないこと、本件発明に係る散布体に照光機構を付設する
ことがおよそ不可能であるという事例は通常想定し難いから、右の「複数の照光ラ
ンプからなる照光機構を付設することが可能な」という構成要件を照光機構を付設
することを妨げないという意味に解すると、前記第二(事案の概要)一(争いのな
い事実等)2(四)ないし(九)のとおり右の構成要件を追加して設けた意味が失われ
ることを総合すると、右の「複数の照光ランプからなる照光機構を付設することが
可能な」とは、そのような照光機構を付設することを妨げないことを意味するので
はなく、複数の照光ランプからなる照光機構が付設されているか又は付設されてい
ないとしても、そのための何らかの機構が存しなければならないというべきであ
る。
3 イ号物件の散布体Bに、複数の照光ランプからなる照光機構が付設されている
こと又はそのための何らかの機構が存することを認めるに足りる証拠はないから、
イ号物件の散布体Bは、右2のような意味における「複数の照光ランプからなる照
光機構を付設することが可能な」ものとは認められない。
 したがって、イ号物件は、本件発明の構成要件(四)を充足しない。
4 また、イ号物件の散布体が「複数の照光ランプからなる照光機構を付設するこ
とが可能な」ものとは認められない以上、イ号物件は「散布及び電照設備に於ける
走行体の移動装置」に当たらないから、本件発明の構成要件(六)を充足しない。
5 なお、前記第二(事案の概要)一(争いのない事実等)2(六)ないし(九)のと
おり、原告【A】は、本件特許の特許請求の範囲の記載を、別紙特許請求の範囲
(五)から同(六)に訂正することを求めて訂正審判請求を行ったところ、特許庁審判
官は、特許請求の範囲(五)中の本件発明の構成要件(四)及び同(六)に相当する部分
(「走行レールに対して略直交する方向に沿って略水平に配設される送液管を備え
た散布体や、複数の照光ランプからなる照光機構が付設可能な走行体」、「散布及
び電照設備に於ける走行体の移動装置」)の記載が、散布体と照光機構の両者を兼
ね備えたもののみを意味し、別紙特許請求の範囲(六)への変更(「走行レールに対
して略直交する方向に沿って略水平に配設される送液管を備えた散布体か、複数の
照光ランプからなる照光機構を付設することを可能にした走行体」、「温室におけ
る散布体等のための走行体移動装置」)は、実質上特許請求の範囲を変更するもの
であるとの理由で、右訂正審判請求を認めなかったのであるが、イ号物件が本件発
明の構成要件(四)及び(六)を充足することを認めることは、右訂正審判請求によっ
て認められなかった特許請求の範囲の変更を認めるに等しいというべきである。
四 以上の次第で、イ号物件は、本件発明の構成要件(二)、(四)及び(六)を充足し
ないから、イ号物件が本件発明の技術的範囲に属するということはできない。
 したがって、その余の点について判断するまでもなく、原告らの請求はいずれも
理由がない。
 東京地方裁判所民事第四七部
裁判長裁判官 森 義之
裁判官 榎戸道也
裁判官 杜下弘記
                                   

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