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○ 主文
一 原告の請求をいずれも棄却する。
二 訴訟費用は原告の負担とする。
○ 事実
第一 当事者の求める裁判
一 原告の求める裁判
1 被告らは、兵庫県三原郡<地名略>に対し、それぞれ金一七八万三、〇〇〇円
及びこれに対する被告A、同Bについては昭和四八年八月三日から、被告Cについ
ては同月四日から、各支払済まで年五分の割合による金員を支払え。
2 訴訟費用は被告らの負担とする。
二 被告らの求める裁判
(本案前の答弁)
1 本件訴を却下する。
2 訴訟費用は原告の負担とする。
(本案の答弁)
主文と同旨
第二 当事者の主張
一 原告の主張
(請求原因)
(一) 当事者および本件補助金の交付
原告は、肩書住所地に居住する兵庫県三原郡<地名略>の住民である。
被告Bは、三原町の長として、昭和四七年一一月一一日、農事組合法人淡路乳牛生
産出荷組合(以下「組合」という。)に対し、昭和四七年度家畜ふん尿処理施設設
置事業の補助金として金二一四万二、〇〇〇円を交付する旨決定し、同四八年三月
二四日、右事業計画変更承認にともなつて右補助金額を金一七八万三、〇〇〇円に
変更し、事業完了検査を経で、同年五月三〇日、変更後の右補助金(以下「本件補
助金」という。)金一七八万三、〇〇〇円を組合に交付した。被告C、同Aは組合
の構成員である。
(二) 本件補助金交付の違法性
本件補助金の交付には、次のとおりの違法事由がある。
1 補助事業による環境汚染(公益性の欠如)
三 原町の昭和四七年度家畜ふん尿処理施設設置事業費補助金交付細則(以下「町
細則」という。)等によれば、かかる補助金は、家畜ふん尿に起因する環境汚染を
防止し、健全な畜産振興を図るため、家畜ふん尿処理施設設置事業に要する経費に
対する補助を目的とするものである。ところが、本件補助金により補助される右事
業(以下「本件補助事業」という。)において設置される家畜ふん尿処理施設(以
下「本件施設」という。)は、その性能が不完全で、悪臭の除去等環境汚染防止に
効果がないものであるのみならず、かえつて、飼育牛の増加によるふん尿の増加と
あいまち、従前は他所で処理されたふん尿が本件施設で貯められ処理されることに
なつて、悪臭の増大、永続化、はえの異常発生等、近隣の住民の生活環境衛生、健
康に重大な被害を与えるものである。ことに、近隣の住民は、梅雨期ころは窓を開
けて生活することができず、食堂や学校等は、その業務に多大の支障をきたし、昭
和五〇年九月二〇日には悪臭防止法違反として、本件施設に改善命令が出されるほ
どに不衛生で、近隣住民の生活は、憲法の保障する健康で文化的な最低限度の生活
にもとるものである。
2 法律によらざる補助金交付
本件補助金の交付は、法律、条例に基づかずに単なる抽象的な予算措置(補正予
算)に基づくものであつて、法律による行政を要求する憲法の趣旨に反する。
3 本件事業地の農地法違反
本件施設の設置場所である三原郡<地名略>の土地(以下「本件事業地」とい
う。)は、本件補助金の交付決定がなされた昭和四七年一一月一一日当時、農地で
あつたにもかかわらず、農地転用の許可を受けないまま本件施設の工事が進められ
たものであつて、昭和四八年三月三一日に至つて、ようやく兵庫県知事の許可を得
たものの、農地転用許可申請には、法的慣行として隣接地住民の承諾が必要とされ
ているのにかかわらず、その承諾がないのに、これあるように装つて右の許可申請
がなされたものであり、しかも、被告Cが農業委員会の構成員として審議に関与し
ているのであるから、兵庫県知事の農地転用の許可も違法なものである。このよう
な、農地法違反を伴う本件施設について本件補助金を交付することは許されない。
4 補助事業者の不適格
町細則は、補助金交付の相手方を農業者の集団に限定している。本件補助金の交付
を受けた組合は、もと約九名で設立されたが、昭和四三年度決算において約一〇〇
万円の損失を出して事業を中止し、事実上解散したものである。しかるに畜産業を
営む被告C、同Aは、本件補助金を受ける資格がないにもかかわらず、これを取得
するために、右休止した組合がなお活動しており、その事業の一環として本件補助
金の交付を受けたように装い、組合の法人格を利用して、本件補助金の交付をうけ
たものである。
(三) 被告らの責任
被告Bは、本件補助金の交付について、前記のような違法事由があり公益上の必要
がなく、交付すべきでないことを知りながら、町長として、その自由裁量権を乱用
逸脱して、本件補助金金一七八万三、〇〇〇円の交付をし、右交付により三原町に
対し、本件補助金と同額の損害を被らしめたものであり、被告C、同Aは、前記違
法な補助金の交付を受けて右同額を不当に利得したものである。
(四) 結論
よつて、原告は、地方自治法二四二条の二第一項四号に基づき、三原町に代位し
て、被告Bに対し損害賠償として、被告C、同Aに対し不当利得返還として、各金
一七八万三、〇〇〇円及びこれに対する本訴状送達の翌日である昭和四八年八月三
日(但し被告Cについては同月四日)から支払済まで民法所定の年五分の割合によ
る遅延損害金の支払を求める。
(本案前の主張に対する反論)
(一) 本案前の主張(一)の事実中、原告が三回に亘り、概ね被告ら主張の趣旨
の監査請求をしたことは認めるが、その余の主張は争う。なお、第三回監査請求に
ついては、昭和四八年六月一九日付で理由なしとして、同月二一日その旨原告に通
知したものである。
三 原町監査委員は、右監査請求をいずれも別個のものとして取扱い、別個の観点
から判断しており、第三回監査請求についても適法な請求として受理し、昭和四八
年五月一七日、原告に陳述の機会を与えたうえ、内容に立入つて判断している。各
監査請求はいずれも適法なものであつて、本訴は出訴期間を徒過していない。
(二) 同(二)の事実中、県補助金、本件補助金の交付の経緯が被告ら主張のと
おりであることは認めるが、その余の主張は争う。
本件補助金は、地方自治の本旨からして、三原町がその責任において農業者の集団
に交付すべきものとして兵庫県から三原町に交付されたものである。そして、県か
ら三原町に交付された補助金は、一旦三原町の公金として収入保管されるものであ
つて、県の公金ではなく、また、目的外使用等で三原町から県へ補助金を返還する
事態が生じたとしても、三原町が補助事業実施主体から現実に返還を受けることが
できない場合がありうることからみても、本訴は住民訴訟の対象になりうるもので
あるし、また訴の利益も具備しているのであつて、適法な訴えである。
二 被告らの主張
(本案前の主張)
(一) 出訴期間徒過
本訴は、次のとおり出訴期間を徒過して提起されたものであるから、不適法であつ
て却下すべきである。
1 原告は、本訴提起前に三原町監査委員に対し、(1)昭和四八年一月二二日付
(同年二月五日受理)の書面をもつて、三原町の長である被告Bが、乳牛のふん尿
による悪臭を付近に発している沼田畜産に対して本件補助金の交付決定をしたこと
は、住民が健康で文化的な生活を営む憲法上の権利を侵害する違法な公金の支出で
あるとして監査を請求し(以下「第一回監査請求」という。)、(2)同年一月二
九日付(前同日受理)の書面をもつて、本件補助金の交付申請は組合名義でなされ
ているが、真実は、被告C、同Aらが補助事業を実施しているとして監査を請求し
(以下「第二回監査請求」という。)、(3)同年四月二三日付(同年五月一四日
受理)の書面をもつて、補助事業の実施される土地につき、農地法所定の農地転用
許可をえないまま施設設置工事が施工されているとして監査を請求(以下「第三回
監査請求」という。)した。三原町監査委員は、右各請求に基づき監査を行ない、
第一回監査請求については同年三月二一日付、第二回監査請求については同年三月
二八日付、第三回監査請求については同年六月一九日付で、いずれも監査請求を理
由がない旨原告に通知した。
そして、第一回監査請求に対する監査実施過程においては、すでに第二、第三回監
査請求において主張された諸点も事実上併せて主張されており、また、第一回監査
請求以前において、原告から三原町に提出された本件補助事業を排撃する多数の文
書で、第二、第三回監査請求における事実主張を含むものが、原告、三原町の双方
から監査委員に資料として提出され、これらの諸点についても十分に監査が尽くさ
れている。したがつて、第二、第三回監査請求においては、第一回監査請求に際し
て主張されなかつた新たな違法事由が主張されているわけではなく、本訴の前置手
続として要請される監査請求は第一回監査請求をもつて十分に充たされているので
あるから、本訴の出訴期間は第一回監査請求に対する結果の通知のあつた日から起
算すべきであり、本訴は右通知を受けた日から三〇日の出訴期間を徒過した不適法
な訴えである。
2 また、第三回監査請求は、次のとおり不適法なものであるから、本件訴えは適
法な監査請求の前置を欠くものであり、出訴期間についても、右監査請求に対する
結果通知の日から起算すべきでない。すなわち、第三回監査請求において公金支出
の違法原因として主張するところは、本件補助事業を遂行すべき用地について、農
地法所定の転用許可を受けずに農地を宅地に転用しているというものであるが右農
地転用許可は都道府県知事または農林大臣の権限に属するものであつて、三原町の
長、その他の執行機関の行為に属さず、また転用自体、三原町の公金、財産に関す
るものではないから、右監査請求はその対象の点において不適法であり、さらに、
右監査請求の内容は、本件補助事業の中止を求めるものであるところ、本件補助事
業の実施主体は三原町の機関ではないので、いずれにせよ右監査請求は不適法であ
る。したがつて、第二回監査請求に対する結果通知の日から起算するにしても、右
通知の日は昭和四八年三月二八日であるから、本件訴は出訴期間を徒過している。
(二) 住民訴訟の対象性および訴えの利益
本件補助金は、兵庫県がその内部規程である農林畜水産業関係補助金等交付要綱
(以下「県要綱」という。)、昭和四七年度家畜ふん尿処理施設設置事業費補助金
交付細則(以下「県細則」という。)、昭和四七年度家畜ふん尿処理施設設置事業
実施要領に基づいて、組合が実施する本件補助事業について、その事業費の二分の
一以内の経費(本件の場合、金二一四万三、〇〇〇円が後日変更されて金一七八万
三、〇〇〇円)を補助するため、予め右事業計画を審査し承認のうえ補助対象を詳
細に限定して、前記県要綱、県細則に従うことを条件として組合の属する三原町に
対し、右同額を交付した。三原町は、これを昭和四七年度一般会計補正予算歳入の
部に農林水産業費、県補助金(特定財源)として計上するとともに、同予算歳出の
部に農林水産費(款)、農業費(項)、畜産費(目)、負担金補助及交付金(節)
として計上したうえ組合に対し家畜ふん尿処理施設設置事業補助金として右同額を
交付した。
このように、本件補助金に関しては、全額県が三原町に交付した補助金(以下「県
補助金」という。)を財源とする、間接補助によるものである。県補助金が交付さ
れるについては、これを財源として三原町が補助金を交付する事業主体、施設設置
計画、事業費等が全て特定され、県補助金の使途は詳細に限定され、目的外使用の
禁止された特定財源として交付される制度となつている。そして、三原町が本件補
助事業を補助することがなかつたならば、三原町もまた兵庫県から県補助金を受け
ることはないのであつて、三原町が本件補助金を交付しなければ、これと同額の公
金を保有するという関係にはない。したがつて、本件補助金の支出は、三原町の公
金、財産等に損失を与えるものではないから、本件補助金の支出は住民監査請求及
び住民訴訟の対象にはなりえない。
仮に本件補助金が三原町に返還されたとしても、右の財源の性質上、直ちに全額を
兵庫県に返還しなければならないのであるから、原告が本訴で勝訴しても三原町の
財務会計上何らの利益もなく、かえつて、県補助金の返還手続に要する事務費相当
額の損害を招く結果となる。したがつて、本訴は、客観的訴訟追行の利益を欠く。
(請求原因に対する認否及び主張)
(一) 請求原因(一)の事実は認める。
(二) 同(二)の本件補助金の交付が違法であるとの主張は争う。
1 同(二)1の事実中、本件施設が環境汚染防止に効果がなくむしろこれを増
大、永続化させた旨の事実は否認し、本件補助金の交付が町細則に違反し、これに
より設置された本件施設により近隣住民の健康、衛生に被害が与えられ、健康で文
化的な最低限度の生活が奪われた旨の主張は争う。
三 原町は、従来畜産酪農が盛んな所であるが、近時畜産酪農の集約化、専業化が
図られ、一か所の飼育施設で集約的に多頭飼育が行なわれることになり、そのた
め、飼育牛のふん尿による深刻な悪臭その他環境衛生上の問題を惹起するに至つ
た。そこで三原町は、飼育牛のふん尿に起因する環境汚染の防除を重要施策として
とりあげ、被害実状、加害施設の業態の調査あるいは飼育施設の計画的移転を勧告
する一方、当面の施策として、昭和四五年度以降、町費をもつて、ビニール天蓋に
よる推肥乾燥施設の設置に対する補助制度をもうけてこの助成普及を図り、昭和四
七年度において県の家畜ふん尿処理施設設置事業費補助金を受け入れ、これを特定
財源として、本件補助事業実施主体である組合に対し、前記のとおり、県補助金を
特定財源とする本件補助金を交付し、その飼育舎の改善・ふん尿乾燥室・畜ふん固
液分離機の設置による悪臭等の防除事業の実施を助成した。その結果、本件事業地
付近の悪臭、はえの群生等の環境汚染は大幅に改善され、すくなくとも県及び三原
町の承認した家畜ふん尿処理施設設置事業計画に従つて行われるかぎり、概ね規制
基準に合致することが可能となつた。本件飼育施設においては、時に悪臭が基準値
を越えることもあつたが、これは飼育成牛の出荷が市場の都合で遅れているうち
に、新たに仔牛を入荷する等、右事業計画に適合しない施設の利用により惹起され
たものであつて、本件施設の設備、性能の欠陥によるものではない。本件補助金
は、環境汚染の防止というまさに公益上の必要により交付されたものであり、何ら
町細則、地方自治法二二三条の二、憲法二五条に違反しない。
また、地方自治法二三二条の二にいわゆる「公益上の必要」とは、行政の政策的な
いし専門技術的事項に関する不確定法概念であつて、自由裁量に委ねられているも
のであり、本件補助金の交付に何ら裁量の鍮越、濫用はない。
2 同(二)2の主張は争う。
各種の行政活動のなかで、国民の権利、自由、財産を侵害し、国民に新たな義務を
課し、あるいは既得の権利を奪う等、侵益的な権力作用については法律の根拠を要
するが、権力性をもたない給付、サービス行政や国民の権利義務に直接関係のない
種類の行政活動については個別的な法律の根拠は要しないというべきである。
なお、補助金の交付をなしうることについては、地方自治法二三二条の二が規定し
ている。
3 同(二)3の事実中、本件施設用地について、農地転用の許可がないまま本件
施設工事がなされた事実は否認する。
仮に原告主張のとおりの事実があるとしても、農地法違反があるからといつて、本
件施設について本件補助金を交付することが違法となるものではない。
4 同(二)4の事実中、町細則が補助金交付の相手方を農業者の集団に限定して
いることは認めるが、その余は否認する。
本件補助事業主体たる組合は、畜産経営を主たる目的として、昭和四三年一月二九
日、被告C、同Aを含む組合員一一名をもつて設立された農事組合法人であるが、
昭和四五年ころ、飼育牛の価値変動により業績が悪化し、一時的に事業活動を休止
したけれども、同四七年四月ころ、組合員協議の結果、事業活動を再開したもので
ある。本件補助事業は、まさしく組合の事業として実施され、本件補助金は組合に
対して交付されたものである。
(三) 同(三)の事実は否認する。
本件補助金は、前記のとおり、ふん尿処理施設の設置事業を対象にして交付された
ものであるが、それは本件飼育施設の改善とともに、本件飼育施設から発生する悪
臭等の防除を図るため、当面の対策として行なわれた行政指導の一部として、そし
て悪臭による生活環境の汚染防止という行政目標を達成するための一連の計画行政
の一環として行なわれたものである。かかる行政活動は優れて政策的ないし専門技
術的事項に属し、高度な合目的的公益判断にもとづいて行なわれるべきもので、町
長の自由裁量に委ねられるべきものであつて、本件補助金の交付には何ら自由裁量
の乱用逸脱はない。
(四) 同(四)は争う。
第三 証拠(省略)
○ 理由
一 本案前の主張について
(一) 本案前の主張(一)(出訴期間徒過)について各成立に争いがない甲第
一、第八号証、乙第二号証の一、二、第二五号証の一ないし八、一一ないし四一、
第二六号証の一ないし一九、弁論の全趣旨により真正に成立したものと認める乙第
二五号証の九、一〇、証人D、同Eの各証言及び原告本人尋問の結果を総合すると
次の事実が認められ、この認定を覆すに足る証拠はない。
原告は、訴外Eとともに、三原町監査委員に対し、昭和四八年一月二二日、同日付
書面をもつて、本件補助金の支出は、健康で文化的な生活を営む権利を保障する憲
法二五条に違反するので、補助金支出を中止するよう適正な措置をとることを請求
し(第一回監査請求)、さらに原告は同年一月二九日、同日付書面をもつて、組合
が補助事業の実施主体として申請がなされているが、真実は沼田畜産が実施するも
のであつて虚偽の申請であるから補助金交付を中止するよう適正な措置をとること
を請求した(第二回監査請求)。右第一回、第二回監査請求は、いずれも同年二月
五日受理され、三原町監査委員は、監査の対象事項を、第一回監査請求について
は、本件補助金交付が憲法二五条に違反する違法な公金の支出であるか、第二回監
査請求については、本件補助金申請者が真実組合であるか、に限定してそれぞれに
つぎ関係者、関係書類を調査して監査を実施し、第一回監査請求に対して同年三月
二〇日付で、第二回監査請求については同月二八日付で、いずれも請求は理由がな
い旨の結果を書面で原告に通知した。
同年四月二三日、原告はさらに、第三回監査請求として三原町監査委員に対し、本
件補助金は、農地法四条、五条による知事の許可を受けていない土地において実施
される事業につき交付されるものであつて違法な公金の支出であるから補助事業を
中止するよう適正な措置をとることを請求し、同監査委員は、同年五月一四日これ
を受理し、監査対象事項を、本件補助金は、農地法に違反する事業実施主体に交付
された違法な公金の支出であるか、に限定して、関係人、関係書類を調査し、請求
人の陳述を求めて監査を実施したうえ、同年六月一九日付で請求を理由なしとし
て、同月二一日その旨原告に書面で通知した。
以上のとおり認められる。
地方自治法二四二条に基づいて、同一人の住民から、普通地方公共団体の長その他
の職員の違法もしくは不当な公金の支出などについてなされた監査請求が、その違
法または不当とする一個の行為または怠る事実について、複数回にわたりなされて
いても、すでに実質的な監査を経た監査請求と同一の事由をくり返して主張してい
るのであれば格別、そうでないかぎり、後になされた監査請求も適法なものである
と解すべきところ、右認定事実によれば、第一回監査請求と第二回監査請求は、そ
の日時が接近し、同一日に受理されているため、監査の実施は時間的には同時並行
的になされたものと推測されるが、それぞれにつき監査対象事項を限定しているこ
とからすれば、第一回監査請求に対する監査実施過程において、第二回監査請求に
おける監査対象事項を含めて監査しながら、さらにくり返して第二回監査請求に対
する監査をなしているものと認めることはできないし、同様に第三回監査請求に対
する監査が、第一、第二回監査請求に対する監査実施過程においてなされているも
のと認めることもできないから、第一回ないし第三回監査請求は、いずれも適法で
あるというべきである。
もつとも、前記乙第二五号証の一ないし四一は、第一回及び第二回監査請求に関す
る一件記録であることが同号証から明らかであるところ、そのうちには、昭和四八
年二月一〇日付の原告から三原町長、町議会議長、農業委員会長宛の、沼田畜産が
農地法に違反して牛を飼育している旨指摘する公開質問書(乙第二五号証の二四)
が存在するが、右は監査委員宛のものではないし、その入手の経過も明らかではな
く、また監査が前記のとおり監査対象事項を限定していることからすれば、右公開
質問書の存在をもつて、すでに第一、第二回監査請求に対する監査において、第三
回監査請求における監査対象事項についての監査が実施されていたものと認めるこ
とはできないし、さらに前記乙第二六号証の一ないし一九は、第三回監査請求に関
する一件記録であることは同号証自体から明らかであるが、右によれば、第三回監
査請求に対する監査においてはじめて、当該監査対象事項が実質的に検討されてい
ることが認められることからしても、監査が実質的に重複している旨の被告らの主
張は採用できない。本件全証拠によつても、監査請求の内容自体が重複している旨
の被告らの主張を認めるに足りない。
被告らは、また、原告の第三回監査請求は、その対象及び内容において不適法であ
る旨主張するが、前記乙第二六号証の一ないし一九によれば、原告の当該監査請求
の趣旨は、本件補助金を交付することを中止することにより本件補助事業の実施が
中止されることを求める趣旨も含んでいるものと解されるのであつて、請求の内容
自体が不適法とはいえず、また、本件事業実施主体の農地法違反あるいは農地転用
許可の違法それ自体を監査請求の対象とするのではなく、農地法に違反して本件事
業地において補助事業を実施する者に、補助金を当該事業のために交付すること
は、農地法違反の事実を是認し、これに協力するものであるから、補助金の交付自
体が違法である旨主張していると解されるのであり、監査請求の対象自体が不適法
であるということはできない。
(二) 本案前の主張(二)(住民訴訟の対象性、訴の利益)について
各成立に争いのない乙第一号証、第二ないし第一二号証の各一、二、第一三ないし
第一六号証、証人D、同Fの各証言を総合すると次の事実が認められる。
兵庫県が、本件補助金について、三原町に県補助金を交付するについては、県要
綱、県細則及び昭和四七年度家畜ふん尿処理施設設置事業実施要領に定めるところ
によつてなされたものであるが、これによれば、家畜ふん尿共同利用施設設置事業
を実施する農業者の集団等に補助する町は県補助金の交付を受けることができ、知
事に対し、事業実施主体、事業計画等を記載した事業計画申請書を提出して承認を
受けるとともに、補助金交付申請書を提出して交付決定を得、補助事業に変更があ
つた場合はその旨の決定を得、知事が必要と認める場合のほかは補助事業の完了後
の検査を受けて、知事に補助金の請求書を提出してその交付を受ける。また、知事
は、補助金を目的以外の目的に使用したとき、偽りその他不正な手段により補助金
の交付を受けた等、所定の要件に該当するときは、交付すべき補助金を交付せず、
又は期限を付して、すでに交付した補助金の全部若しくは一部を返還させることが
ある。
そして、補助金交付に関する知事の事務処理を農林事務所長が行うものとする。
以上のとおり定められていた。他方、三原町においても、本件補助金を組合に交付
するについては、県要綱の例によるものとし、補助金交付に関する事務処理を三原
町長が行うものとするほか、ほぼ県細則と同様の手続を規定する町細則を定め、こ
れによつてなされた。すなわち、三原町は県補助金の交付を受けるについて、知事
の事務を処理する洲本農林事務所長に対し、昭和四七年七月二七日、事業主体を組
合とし、本件補助事業内容、経費等を記載した事業計画承認申請書を提出して同年
九月三〇日承認を受け、同年一〇月五日、補助金交付申請書を提出して、同年一一
月一〇日、県補助金金二一八万五、〇〇〇円を交付する旨の決定通知を受けたが、
昭和四八年二月二六日、事業計画を変更して補助金金一七八万三、〇〇〇円の交付
を受けたい旨の事業計画変更申請書を提出し、同年三月二〇日には、補助金変更交
付申請書を提出して、同日付で右事業計画変更の承認及び右補助金交付決定の金額
を金一七八万三、〇〇〇円に変更する旨の決定を受け、同年三月三一日事業完了届
を提出し、同年五月二四日、県補助金金一七八万三、〇〇〇円を請求してそのこ
ろ、同額の補助金の交付を受けた。他方、組合は、昭和四七年七月二七日、三原町
長に対して事業計画承認書を提出して、同年一〇月四日、承認を受け、同日、三原
町長に対して補助金交付申請書を提出し、同年一一月一一日補助金金二一四万二、
〇〇〇円を交付する旨の決定を受けたが、組合は昭和四八年二月二六日、同町長に
対して事業計画を変更して、補助金金一七八万三、〇〇〇円の交付を受けたい旨の
事業計画変更申請書を提出し、同年三月二四日承認を受け、同月三一日、補助事業
完了の旨を三原町に届出るとともに工事完了検査を受け、同日補助金金一七八万
三、〇〇〇円の請求書を提出し、同年五月三〇日、三原町から右同額の本件補助金
の交付を受けた。そして、三原町長は同町議会に対し、昭和四七年九月一一日、歳
入子算九款県支出金、二項県補助金、四目農林水産業費県補助金、四節農業施設改
良補助金のうちに糞尿公害対策事業費金二一四万二、〇〇〇円を加え、歳出予算五
款農林水産業費、一項農業費、五目畜産業費、一九節負担金補助及交付金に糞尿公
害対策事業費金二一四万二、〇〇〇円を財源内訳を国、県支出金として加える旨の
昭和四七年度三原町一般会計補正予算(第二号)案を提出し、さらに昭和四八年三
月一〇日、歳入予算前同農業施設改良補助金のうちに糞尿公害対策事業費金四万
三、〇〇〇円を加え、歳出予算前同負担金補助及交付金に糞尿公害対策費金四万
三、〇〇〇円を財源内訳を国県支出金として加える旨の同補正予算(第六号)案を
提出し、いずれもそのころ可決されたものである。
以上のとおり認めることができる。右認定の事実によれば、本件補助金は、県補助
金を特定財源とするものであるが、県補助金は三原町に交付されることにより同町
の公金となり、同町の公金支出として本件補助金が組合に交付されたものであるか
ら、これが特定財源によるものであると否とにかかわらず、本件補助金の交付によ
り三原町の公金が減少したことは明らかである。被告らはこの点につき、三原町が
本件補助金を交付することがなかつたならば、県補助金の交付を受けることはな
く、また県補助金が三原町に交付されても、三原町がこれを交付しなければ、これ
を県に返還すべきものであるから、三原町が本件補助金を交付するにせよ、しない
にせよ、同町がこれと同額の金員を保有することはなく、したがつて、三原町の組
合に対する本件補助金の交付自体によつて同町に損失を与えることはない旨主張す
る。しかし、前記認定のとおり、三原町から組合への本件補助金の交付は、兵庫県
から三原町へ交付される県補助金を特定財源とし、その使用目的が詳細に限定され
ているのであるから、三原町から組合への本件補助金の交付は県補助金交付の趣旨
を実現するものではあるけれども、本件補助金は、三原町と組合との間における補
助金交付申請、交付決定の過程を経て形成された法律関係に基づいて交付されるべ
きものである以上兵庫県と三原町の間における法律閏係とは別個独立の法律関係に
もとづいて交付されるべきものであり、三原町が、組合との法律関係に基づいて、
組合に対し本件補助金を交付しなければならないものであるならば、県補助金が交
付された場合であると未だ交付されていない場合であるとにかかわりなく本件補助
金を組合に交付しなければならないのであるから、三原町が組合に本件補助金を交
付すれば、それが特定財源によるものか一般財源によるものかにかかわりなく三原
町の同額の公金が減少することにかわりはないのであつて、三原町が県補助金ある
いは本件補助金相当額の金員を最終的にも保有するものであるか否かは問題になら
ないというべきである。この点についての被告らの主張は採用できない。また、被
告らは、原告が本訴で勝訴して本件補助金が三原町に返還されることになつても、
三原町はその全額を兵庫県に返還しなければならない旨主張するけれども、兵庫県
が、その返還を要求しない可能性もないではなく、また三原町が違法事由の除去さ
れた時点で再び返還を受けた補助金の全部または一部を補助金として交付すること
もありうるのであるから、仮に被告ら主張のとおりに返還を受けた補助金を最終的
に三原町において保有することがなくとも、本訴の訴の利益に影響を及ぼさないと
いうべきである。
(三) よつて、本訴は適法であつて、被告らの本案前の主張は、いずれも採用で
きない。
二 本案について
請求原因(一)の事実は当事者間に争いがない。以下、本件補助金の交付に原告主
張のような違法性があるか否かについて検討する。
1 補助事業による環境汚染(公益性の欠如)の主張について
各成立に争いのない乙第三号証の一、乙第一八、第一九号証、証人E、同D、同F
の各証言、原告及び被告C各本人尋問の結果を総合すると次の事実が認めちれ、こ
の認定を覆すに足りる証拠はない。
三 原町は、従来畜産酪農が盛んな所であるが、昭和四〇年ころより、農業構造改
善事業の一環として、飼育牛頭数多頭化がすすめられ、酪農、畜産業は同町の重要
な産業となりつつあつたが、それにつれて昭和四六年ころより、飼育牛のふん尿に
よる深刻な悪臭、はえの発生等の環境汚染が問題となつていた。そこで同町は飼育
牛のふん尿に起因する環境汚染の防除施策として、昭和四六年、町の一般財源で、
ビニール天蓋による堆肥乾燥施設設置経費を補助したが、右施設は自然乾燥方法に
よるもので効果は充分ではなかつたため、昭和四七年度において、県補助金を財源
として、家畜ふん尿に起因する環境汚染を防止し、健全な畜産振興をはかることを
目的として、農業者の集団等に焼却、乾燥施設等の家畜ふん尿処理施設の設置経費
を補助することとした。
被告Cは、本件事業地付近において、かねてより牛の飼育をしていたが、昭和四六
年ころから飼育頭数が増加し、昭和四七年四月ころには組合の牛もあわせて同人の
畜舎において飼育されるに至つて、飼育牛のふん尿による強烈な悪臭、はえの異常
発生等の環境汚染は甚だしく、近隣住民の生活に対する影響も深刻となつた。そこ
で組合はこの対策として三原町の補助を受けて本件施設を設置した。
しかし、本件施設は、飼育牛頭数が一五〇頭程度であることを予定していたもので
あるのに、販売牛の市場価格が低いときは、出荷しないままさらに購入することも
あつて、本件施設の処理能力、組合の管理能力の限度を越えたために、ふん尿処理
が充分になされない事態を生じ、また、本件施設のうち、乾燥室は円滑に利用され
たが、固液分離機は、試運転時には所期の効果があげられたものの、開発まもない
機械であつて、敷わらがからんで充分な効果があがらぬこともあつたため、本件施
設による環境汚染防止の効果は必ずしも充分なものではなかつた。
以上のとおり認められる。
右認定事実によれば、本件補助金は、家畜ふん尿による環境汚染防止を目的として
交付されたものであつて、まさに町細則の趣旨に沿うものであるし憲法二五条に違
反するものでないことはもちろん、これが公益上必要がある場合に当たることも明
らかである。
原告は、本件施設を設置することにより、かえつて環境汚染が継続、増大すること
は予見され、あるいは予見可能であつた旨主張するが、本件補助金は、さしあた
り、現に発生している環境汚染を防止することを目的として交付されたものである
ことは前記認定のとおりであり、原告の右主張の如き趣旨で交付されたと認めるに
足りる証拠はなく、むしろ成立に争いのない乙第二五号証の一一によれば、組合は
三原町長に対し、昭和四八年八月二三日ころ、昭和五〇年を目標に移転する旨の誓
約書を提出していることが認められることからしても右主張は失当である。そして
本件施設のうち、固液分離機については所期の効能はあげられなかつたが、これは
実際に使用する段階で初めて明らかになつたものであり、また環境汚染の改善が充
分でなかつたのは、これのみを原因とするものでないことも前記認定のとおりであ
るから、この点についての原告の主張は理由がない。
2 法律によらざる補助金交付の主張について
本件補助金交付につき、昭和四七年度三原町一般会計補正予算第二号、同第六号に
より予算措置がとられ、右予算の範囲丙で支出がなされていることは既に認定した
とおりである。そうすると、本件補助金を交付するにあたつては、地方自治法二三
二条の二に基づきこれをなしうるものと解され、さらに具体的な法律または条例に
よらなければならないものではない。原告の右主張も採用できない。
3 本件事業地の農地法違反の主張について
成立に争いのない乙第一七号証によれば、本件事業地につき、昭和四八年三月二二
日付で兵庫県知事が農地法五条一項の許可をなした事実が認められ、右認定を覆す
に足りる証拠はない。
そして、補助金交付決定が昭和四七年一一月一一日になされ、昭和四八年五月二四
日、本件補助金が交付されたことは既に認定したとおりである。
そうすると、本件補助金交付時においては、原告主張の農地法違反の事実は存在し
ないのであるし、また、これまで認定にかかる本件補助金交付の目的、経緯に照ら
せば、本件事業地についての農地法違反が本件補助金交付自体を違法ならしめるも
のでないことは明らかである。原告の右主張は採用できない。
なお、近隣住民の承諾がないのにこれあるように装つて許可申請をなした旨の原告
の主張は、これを認めるに足りる証拠はなく、むしろ前記乙第二五号証の九、一〇
によれば、近隣住民の多数が本件施設設置に同意していたことが認められる。
4 事業実施者の不適格性の主張について
前記乙第三号証の一、第八号証の一、第一一号証の一、成立に争いのない乙第二〇
号証、前記第二五号証の一五、同号証の三〇、同号証の三一ないし三八、証人Dの
証言、被告C本人尋問の結果を総合すると次の事実が認められる。
組合は、昭和四三年一月二九日、組合員の農業にかかる共同利用施設の設置及び農
作業の共同化に関する事業並びに農業の経営及びこれとあわせて行なう畜産の経営
を目的とする農事組合法人として設立され、当初、組合員は一一名で、三原郡農業
協同組合の預託事業として牛飼育をしたが、昭和四四年損失を出し、事業は事実上
中止していた。しかし、昭和四七年二月六日、総会においてGほか四名の脱退を承
認するとともに、その余の六名(うち一名は同年九月に脱退した。)で牛肥育事業
を再開することを決議し、新たに理事、監事を選出した。そして、同年四月五日の
通常総会において、乳牛牡の肥育を開始するにつき、五ないし六ヶ月哺育牛の飼育
目標頭数を二〇〇頭とし、肥育牛頭数は三〇〇頭を限度とすること、昭和四八年三
月末日までは哺育牛については被告Cに管理を委託すること等具体的方法が決定さ
れ、同年四月中に右組合は乳牛牡を一二八頭、以降同年一一月までに累計一九二頭
を購入し、その後も頭数には増減あるも昭和四九年ころまで被告Cの施設を借用し
て飼育事業を継続した。昭和四七年七月一〇日、組合臨時総会において、町補助金
を受入れて本件補助事業を実施することとし、組合員相互の負担割合は、被告Cは
個人としても牛飼育業を経営し、これにより生ずる家畜ふん尿を処理するにつき組
合員として組合の設置する家畜ふん尿処理施設を共同利用する予定であつたことか
ら、同被告の負担部分を二分の一、他の五名を各一〇分の一とした。そして昭和四
七年一一月一八日、本件施設であるふん尿乾燥施設一棟及び固液分離機一台の設置
事業に着手し、昭和四八年三月三一日これを完了し、以降組合及び被告Cにおいて
本件施設を利用した。
以上の事実が認められる。もつとも、証人Eの証言及び原告本人尋問の結果中に
は、補助事業地付近で牛飼育業を実施しているのは被告C個人のみであり、組合と
は関係のないものである旨の供述部分があるが、右は推測による確たる根拠のない
ものであつて、たやすく採用できず、他に前記認定を覆すに足りる証拠はない。
右認定事実によれば、組合は昭和四七年四月ころから昭和四九年ころまで、現に牛
飼育業を実施しており、また補助事業も被告組合により実施されたことが明らかで
ある。そして被告Cは個人としても本件施設を利用していたが、同被告は組合の組
合員であるから、右施設を共同使用しうるものであるし、また組合自身も本件施設
を使用していたのであるから、被告Cが、事実上解散していた組合の法人格を利用
して、個人として本件補助金の交付を受けたとする原告の主張は採用できない。被
告Aについては本件全証拠によるも右主張を認めるに足りない。
三 むすび
したがつて、被告Bが町長として本件補助金を交付したことについて、原告主張の
ような違法性はなく、裁量権を逸脱乱用して三原町に損害を被らせたということは
できないし、また、被告C、同Aも、実質的にも何ら本件補助金の交付を受けてい
ないものであつて、本件補助金を不当に利得したものということはできないから、
原告の本訴各請求は、いずれも、
その余の点を判断するまでもなく理由がない。
よつて、原告の本訴請求は、いずれも失当として、これを棄却することとし、訴訟
費用の負担につき行政事件訴訟法七条、民事訴訟法八九条を適用して主文のとおり
判決する。
(裁判官 阪井 朗 森脇 勝 高野 伸)

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