弁護士法人ITJ法律事務所

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       主   文
原告の昭和三五年四月一日から昭和三六年三月三一日までの事業年度の法人税の更
正処分及び過少申告加算税と重加算税の各賦課決定の取消しを求める訴えを却下す
る。
原告の右事業年度の法人税の再更正処分及び過少申告加算税と重加算税の各賦課決
定の取消請求を棄却する。
訴訟費用は原告の負担とする。
       事   実
第一 当事者の申立て
(原告)
 「被告が原告に対し昭和三九年五月二八日付でした原告の昭和三五年四月一日か
ら昭和三六年三月三一日までの事業年度の法人税の更正処分及び過少申告加算税と
重加算税の各賦課決定(但し、留保所得に関する部分を除く。)ならびに、同年九
月二五日付でした同事業年度の法人税の再更正処分及び過少申告加算税と重加算税
の各賦課決定を取り消す。訴訟費用は被告の負担とする。」との判決
(被告)
 「原告の再更正処分及び過少申告加算税と重加算税の各賦課決定の取消しを求め
る訴えを却下する。原告の更正処分及び過少申告加算税と重加算税の各賦課決定の
取消請求を棄却する。訴訟費用は原告の負担とする。」との判決
第二 原告主張の請求原因
 原告は、青色申告書提出の承認を受けた法人であるが、昭和三五年四月一日から
昭和三六年三月三一日までの事業年度の法人税につき、青色申告書により、欠損三
万八、六六一円と確定申告したところ被告は、原告が昭和三五年一二月一二日日興
信用金庫から、後記約旨のもとに、別紙目録記載の土地を譲渡担保として一、九〇
〇万円を借り受け、右土地を同金庫に賃貸することの謝礼として、当時の原告会社
代表取締役A、専務取締役Bらが合計四〇〇万円を受領したことを否認し、これが
原告の日興信用に対する右土地の売買で、借受金一、九〇〇万円と謝金四〇〇万と
の合計二、三〇〇万円がその代金であり、原告会社の前記確定申告には該二、三〇
〇万円から一五七万二、八四二円の諸経費を控除した二、一四二万七、一五八円の
土地譲渡益の計上洩れがあると認定して、同年五月二八日付で所得金額を二、一三
三万八、四九七円、税額を八〇〇万八、五九二円、留保所得金額を一、〇七四万
七、三〇〇円、これに対する税額を一〇七万四、七三〇円(税額合計九〇八万二、
八三〇円)と更正するとともに、過少申告加算税額三八万九、三五〇円、重加算税
額六四万七、〇〇〇円の各賦課決定をなし、同年九月二五日にいたり、右留保所得
に対する税額を八〇万八、一〇〇円と、過少申告加算税額を三四万一、五〇〇円
と、重加算税額を五八万九、〇〇〇円とそれぞれ減額した。
 しかし、前記契約は、その約定が「甲(日興信用、以下同じ。)は、一、九〇〇
万円を乙(原告、以下同じ。)に貸し付け、乙は、右借入金の担保として別紙目録
記載の土地を譲渡担保の形式で提供するとともに、これを甲に賃貸し、その代償と
して、乙は、弁済期間二〇年間にわたり毎年均等割賦弁済をなし、借入金の利息を
土地の賃料で相殺し、また、右土地をもつて借入金の弁済に充てることができる等
の利益を受けるものとする」こととなつていたこと自体に徴して明らかなとおり金
銭消費貸借であるから、これを売買と誤認してなされた本件各課税処分は、違法た
るを免かれないのみならず、右更正処分の通知書は何故に前記契約を売買と認め、
賃貸借と認めることができなかつたかの具体的根拠を明示していない点において、
理由の附記を欠く違法をおかしたものであり、また、税務署長が法人の行為計算を
否認し得るのは、租税法律主義のもとにおいては、法律に明文の規定がある場合に
限られると解すべきところ、原告会社は、本件に適用されるべき旧法人税法(昭和
二二年法律二八号、以下同じ。)三一条の三にいう同族会社ではないのであるか
ら、被告税務署長のした行為計算の否認は、許されないものというべきである。
 仮りに、被告主張のごとく前記契約が売買であるとしても、被告は、さきに、原
告に対し原告の前記確定申告が正当である旨の申告是認通知書を発しておきなが
ら、原告において善後措置を講ずる余地のなくなつた段階に至り、しかも、他に何
らの合理的理由もないのに、本件各課税処分に及んだのであるが、かかる被告の行
為は、信義則に違反し、権利の濫用に当るというべきであり、さらに、そもそも、
前記契約は、譲渡所得の課せられることがないということを前提として締結された
ものであるから、法律行為の要素に錯誤があるものとして無効であり、課税の対象
とはなり得ないものである。
第三 被告の答弁
(本案前の抗弁)
 被告が昭和三九年九月二五日付でした再更正処分及び過少申告加算税と重加算税
の各賦課決定は、さきになされた更正処分及び過少申告加算税と重加算税の各賦課
決定額をそれぞれ減額したものであるから、原告には右更正処分等の取消しを求め
る法律上の利益がない。
 仮りに然らずとしても、右更正処分等は、後になされた再更正処分等によつてそ
の一部が取り消されるとともに残部が再更正処分等に吸収され、その存在を失なう
にいたつたのであるから、更正処分等の取消しを求める訴えは、その法律上の利益
を欠くものというべきである。
(請求原因に対する答弁)
 原告主張の請求原因事実のうち、その主張に係る契約が金銭消費貸借であつて、
原告会社の役員の受領した合計四〇〇万円が謝金であること、また、本件更正処分
の通知書に原告主張のごとき理由不備の違法があることは否認するが、その余の主
張事実はすべて認める。
 原告と日興信用金庫との間に原告主張のごとき内容を記載した金銭消費貸借書な
る公正証書が作成されているが、その条項を仔細に検討すれば(1)通常の譲渡担
保の場合と異なり、債権者たる日興信用が右契約の成立と同時に担保物件の用益権
を取得することになつていること、(2)年賦弁済によつて、貸付金の元本及び利
息が逐次減少するが、担保物件の範囲はその不可分性の故に縮少しないため、貸付
金の利息と担保物件の賃料との等価関係が破られてゆくにもかかわらず、全契約期
間を通じて利息と賃料とを対当額において相殺することとなつていること、(3)
担保物件たる別紙目録記載の土地が異常に高く評価されているのみならず、代物弁
債権が債権者たる日興信用のためではなく、債務者たる原告のために認められてい
ることに徴し、(4)また、賃貸借終了に伴う現状回復について何らの定めもされ
ていないばかりでなく、右契約書が公正証書でありながら、貸付金の返済について
執行認諾の条項が記載されていないことからみて、真実当事者に金銭消費貸借の意
思があつたかどうかが極めて疑わしかつたので、さらに調査したところ、(5)別
紙目録記載の土地につき、昭和三五年一二月一二日と昭和三六年五月一二日の二回
にわたり、売買を原因とする所有権移転登記が経由されており、(6)また、日興
信用は、右契約成立後間もなく、同地上に賃貸期間をはるかに超えて存続する鉄筋
コンクリート造り地上二階地下一階建ての建物を巨費を投じて建築し、動坂支店を
開設して営業を行なつており、原告においても、日興信用から借入金名義で取得し
た資金をもつて他に土地を購入し、別紙目録記載の土地の返還を受ける実質的必要
性がなくなつていること、(7)そればかりでなく、もともと、前記金銭消費貸借
書なる公正証書が作成されるにいたつた事情として、日興信用から別紙目録記載の
土地を支店開設用地として譲渡してもらいたい旨の申入れを受けた原告は、課税上
の理由で、一旦は、これを断わつたが、顧問税理士Cより右のごとき金銭消費貸借
の形式をとれば合法的に課税を免かれることができるとの示唆があり、その旨の日
興信用の了解もあつたので、該申入れを承諾し、その譲渡所得に対する課税を免か
れる目的のもとに、右Cと日興信用側の代理人である弁護士Dとが協議してその条
項をつくりあげた事実が判明するにいたつたので、被告は、前記契約が別紙目録記
載の土地についての売買契約であつて、原告主張の金銭消費貸借は、その譲渡益を
隠ぺいし、租税の回避を図るために行なわれた仮装行為であると判断し、本件各課
税処分を行つたのである。
 そして、更正処分の通知書には、前叙のごとき事情を具体的に列挙したうえで、
右の契約は「その法律形式に拘らず土地の譲渡を目的としたものとみるのが相当で
ある」との結論を示しているのであるから、理由附記として欠けるところはないも
のというべきである。また、被告が原告に対して申告是認通知書を発したのは、原
告と日興信用との間の前記契約が、帳簿等をみただけでは、容易にその真相を把握
しえないように作為されていたところから、当時の調査の結果に基づいて一応の判
断を示したまでであるが、もともと、申告是認通知なるものは、そのときまでに調
査したところでは、当該申告が正当と認められる旨を事実上通知するにすぎないも
のであつて申告書に記載された課税標準等が正当な所得金額でないことが判明した
場合には、更正等の処分を行なうことがありうることを留保してなされるものであ
るから、原告の信義則違反の主張は、当らず、権利濫用の主張も、本件各課税処分
が前叙のごとき理由に基づいて行なわれたものである以上、その理由のないこと明
らかであり、なお、原告は、前叙のごとく、真実別紙目録記載の土地を日興信用に
売却する目的をもつてその旨の契約を締結したのであるから、原告の錯誤の主張
も、その前提を欠くものというべきである。
第四 証拠関係(省略)
       理   由
(本案前の抗弁について)
 原告の昭和三五年四月一日から昭和三六年三月三一日までの事業年度の法人税に
ついて、昭和三九年九月二五日付で再更正処分及び過少申告加算税と重加算税の各
賦課決定があつたことは、原告の自認するところであるから、原告の同事業年度の
法人税につき同年五月二八日付でなされた更正処分及び過少申告加算税と重加算税
の各賦課決定(但し、留保所得に関する部分を除く。)の取消しを求める訴えは、
その対象を欠く不適法なものであつて、この点に関する被告の仮定的抗弁は、理由
があるが、原告の右更正処分及び過少申告加算税と重加算税の各賦課決定の取消請
求に対する被告の本案前の抗弁は、その理由がないものとして排斥を免かれないと
いうべきである(最高裁判所昭和三二年九月一九日第一小法廷判決・民集一一巻九
号一六〇八頁、同庁昭和四二年九月一九日第三小法廷判決・民集二一巻七号一八二
八頁参照)。
(再更正処分等の取消請求の本案について)
 原告が青色申告書提出の承認を受けた法人であること、本件再更正処分及び過少
申告加算税と重加算税の各賦課決定のなされるにいたつた経緯が原告主張のとおり
であること、また、昭和三五年一二月一二日原告と日興信用金庫との間に原告主張
のごとき内容を記載した金銭消費貸借書なる公正証書による契約が締結され、即
日、同契約に基づき、原告が一、九〇〇万円を、原告会社の当時の代表取締役A、
専務取締役Bらが合計四〇〇万円を受領したことは、いずれも、当事者間に争いが
ない。
 ところで、右の契約は、これを文字通り金銭の消費貸借であると解すれば、被告
の指摘するごとく、その条項自体において、通常の譲渡担保の場合と異なり、債権
者たる日興信用が契約の成立と同時に担保物件の用益権を取得しまた、代物弁済権
が債務者たる原告のために認められていること、また、年賦弁済によつて、貸付金
の元本及び利息は逐次減少するが、担保物件の範囲はその不可分性の故に縮少しな
いために、貸付金の利息と担保物件の賃料との等価関係が破られてゆくにもかかわ
らず、全契約期間を通じて利息と賃料とを対当額で相殺することとなつていること
等極めて不自然であると認められるばかりでなく、成立に争いのない乙第三号証、
乙第六ないし第一一号証、証人Eの証言により真正に成立したものと認める乙第四
号証、原告会社代表者B尋問の結果により真正に成立したものと認める甲第一七、
第一八号証、証人F、E、D、Cの各証言、原告会社代表者B尋問の結果(但し、
証人D、C、原告会社代表者Bの各供述中、後記の措信しない部分を除く。)によ
れば、次の事実を認めることができる。すなわち、別紙目録記載の土地の担保物件
としての価額一、九〇〇万円は、昭和三五年一二月当時における右土地の時価が
二、三〇〇万円程度であり、また、金融機関が土地を担保として金員を貸し付ける
場合、担保物件は時価の六ないし七割と評価されている実情からみて、著しく高額
に失すること、日興信用は、昭和三五年一一月一八日付で関東財務局長に宛て、原
告から右土地を代金二、四五七万四、二五〇円で買い受ける旨の事業用不動産取得
承認申請書を提出し、別紙目録記載の土地につき、自己のために、昭和三五年一二
月一二日と昭和三六年五月一二日の二回にわたり、売買を原因とする所有権移転登
記を経由していること、また、日興信用は、前記契約成立後間もなく、同土地の上
に鉄筋コンクリート造り地上二階地下一階建ての建物を多額の費用を投じて建築
し、動坂支店を開設して営業を続けており、原告においても、日興信用から借入金
名義で入手した資金をもつて東京都豊島区<以下略>に代替地を購入しているこ
と、そればかりでなく、もともと、前記契約が締結されるにいたつたのは、日興信
用がその旧動坂支店を都市計画事業のために撤去しなければならないところから、
その代替地として原告に対し別紙目録記載の土地の売却方を申し入れ、原告として
も、かねてから該土地を本店および営業所の敷地として使用していたところ、手狭
のためこれを売却して他に適当な土地を購入したいと考えてはいたものの、課税上
の理由から一旦右申入れを絶わつたが、仲介の労をとつていたGから税理士Cを紹
介され、同税理士から前記のごとき金銭消費貸借の形式をもつてすれば合法的に課
税を免かれることができる旨の示唆があり、その旨日興信用の了解もあつたので、
代金二、三〇〇万円ということで、右申入れを承諾し、同税理士と日興信用顧問弁
護士Dとの協議によつて前記金銭消費貸借書の条項が作成され、代金二、三〇〇万
円は、前叙のごとく、そのうちの一、九〇〇万円を貸付金として、残額四〇〇万円
を謝金として処理することとなつたが、日興信用は、後日右四〇〇万円を不動産勘
定に計上していること、なお、いわゆるC事件の発生を契機として、C税理士の関
与していた納税者について一斉調査が行なわれた結果、以上のような事情が判明し
て本件更正処分がなされるに至つたことを認めることができ、右認定に反する甲第
六、第七号証、第九、第一〇号証の各記載、証人C、D、原告会社代表者Bの各供
述部分は、前掲各証拠と対比してたやすく措信することができず、原告及び日興信
用が前記条項に相応するような帳簿上の処理をなし、また、原告会社の代表者が謝
金の申告をしているとしても、かかる事実は、右認定を左右するに足りる資料とは
なし難く、他に右認定を覆えす的確な証拠はないので、むしろ、前記契約は、その
法形式の如何にかかわらず、別紙目録記載の土地の売買であつて、原告は、その代
金として二、三〇〇万円を受領したものであると認めるのが相当であるというべき
である。
 次に、本件再更正処分の理由附記の適否について判断するのに、本件再更正処分
は、更正処分の留保所得を減額した処分であるが、右更正処分の通知書たる成立に
争いのない甲第五号証によれば、被告が前記契約を売買と認定し、また、その間に
授受された一、九〇〇万円と四〇〇万円をすべて売買代金として原告が受領してい
ると認めるに至つた具体的根拠を列挙しているのであるから、法の要求する理由附
記に欠けるところはないものというべきである。
 また、原告は、税務署長が法人の行為計算を否認し得るのは、法律に明文の規定
がある場合に限られると主張し、そのことを前提として、原告会社が旧法人税法三
一条の三にいう同族会社に該当しないから、被告税務署長のした行為計算の否認は
違法であるという。しかし、前記契約は、前段説示のごとく、別紙目録記載の土地
の売買であつて、原告の援用に係る金銭消費貸借書なる公正証書は、右の譲渡所得
を免かれるための手段として作成されたにすぎないものであるから、被告税務署長
が原告の確定申告にかかわらず本件更正処分を行なつたことは、もともと、行為計
算の否認に当らないというべきである。また、仮りにこれが行為計算の否認に当る
としても、法人税法は、法人が純経済人として経済的合理的に行為計算を行なうこ
とを予定して、かような合理的行為計算に基づいて生ずる所得に課税し、租税収入
を確保しようとするものであるから、法人が租税の回避若しくは軽減の目的で、こ
とさらに不自然、不合理な行為計算をすることにより、不当に法人税の負担を免か
れる結果を招来した場合には、税務署長は、かような行為計算を否認し、経済的合
理的に行動したとすれば通常とつたであろうと認められる行為計算に従つて課税し
得るものと解するのが相当であり、原告の右主張は、この点においても失当たるを
免かれないものというべきである。
 なお、原告の信義則違反の主張は、そもそも、申告是認通知なるものが、そのと
きまでに調査したところでは当該申告が正当と認められる旨を事実上通知するにす
ぎないものであつて、もとより以後更正等をなしえなくなる法的効果を伴うもので
ないばかりでなく、被告税務署長が原告に交付した申告是認通知書たる成立に争い
のない甲第二号証には、「現在までの調査したところによれば、その申告が正当と
認められます…」との記載のあることが認められるので、所詮、排斥を免かれず、
権利濫用の主張も、本件再更正処分が、前叙のごとき理由によつてなされたもので
あつて、原告主張のごとく単にC税理士に対する報復のみを目的として行なわれた
ものであるのと認めるに足りる証拠がない以上、採用の限りにあらずというほかな
く、なお、要素の錯誤の主張が失当であることも、前段説示理由によつておのずか
ら明らかである。
 よつて、原告の更正及び過少申告加算税と重加算税の各賦課決定の取消しを求め
る訴えは、不適法として却下し、再更正処分及び過少申告加算税と重加算税の各賦
課決定の取消請求は理由がないものとして棄却することとし、訴訟費用の負担につ
き行訴法七条、民訴法八九条を適用して、主文のとおり判決する。
(裁判官 渡部吉隆 渡辺昭 竹田穣)
(別紙)(省略)

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