弁護士法人ITJ法律事務所

裁判例


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         主    文
     本件控訴を棄却する。
         理    由
 本件控訴の趣意は、弁護人加城千波及び被告人本人が提出した各控訴趣意書記載
のとおりであり、これに対する答弁は、検察官京秀治郎が提出した答弁書記載のと
おりであるから、これらを引用する。
 弁護人の控訴趣意第一訴訟手続法令の違反の主張及び被告人本人の控訴趣意のう
ち右同旨の点にっいて
 各所論は、原判決は被告人の有罪認定のために、Aの検察官に対する供述調書
(謄本)四通(以下、A調書という。)を採用したが、これらの採用は刑訴法三二
一条一項二号に違反する、すなわち、Aは原審の法廷に出廷しながら、証言拒否の
理由すら述べず証言拒否の態度に終始した、これは刑訴法一四六条の保護を受けな
い違法な証言拒否であり、かかる証言拒否は刑訴法三二一条一項二号にいう供述不
能には該当せず、仮に該当するとしても、本件では同人の供述を得ることが可能で
あったのに、原判決はこれらの事情の検討を怠り、安易に刑訴法三二一条一項二号
の適用を認めたのは、その訴訟手続に法令違反があり、かつ右違反が判決に影響を
及ぼすことは明らかである、というのである。
 そこで、検討すると、刑訴法三二一条一項二号にいう供述不能の事由は限定的列
挙ではなく例示的列挙であって、証言拒否の場合も含まれ、しかも、その証言拒否
が適法な場合に限られないと解される。記録によれば、原審証人Aは検察官の各事
項に対する尋問に対し、証言しなかったため、原審は検察官に三〇分の時間を与え
て同証人を説得させたうえ、検察官、弁護人、裁判所において証言するよう説得し
たが、同証人の証言拒否の態度は強く、原審は供述不能と認めてA調書を採用した
ものであるから、かかる原審の措置に違法はない。なお、弁護人の所論は、A調書
には信用性の情況的保障がないと主張するが、刑訴法三二一条一項二号前段の書面
については、刑訴法はそれが検察官によって作成されたこと以外に信用性の情況的
保障を必要としていないから、所論はその前提を欠くものである。結局、原判決に
は所論のような訴訟手続の法令違反はないから、各論旨は理由がない。
 弁護人の控訴趣意第二実体法令適用の誤りの主張及び被告人本人の控訴趣意のう
ち右同旨の主張について
 各所論は、原判決は被告人の第一及び第二の各所為に対し、刑法一五九条一項、
一六一条一項を適用しているが、自動車登録事項等証明書交付請求書(以下、本件
請求書という。)は、同条項にいう私文書ではないから、原判決には判決に影響を
及ぼすことの明らかな法令適用の誤りがある、というのである。
 そこで、記録を調査して所論に対し検討を加える。
 <要旨>道路運送車両法は、道路運送車両に関し、所有権について公証を行うこと
等を目的として定められた法律である(同法一条)が、同法は、自動車登録
の一般的効力として、自動車は自動車登録ファイルに登録を受けたものでなけれ
ば、運行の用に供してはならないと定め(同法四条)、登録を自動車の運行要件と
するとともに、登録を受けた自動車の所有権の得喪は登録を受けなければ第三者に
対抗することができない(同法五条一項)としている。その登録事項は、新規登録
の場合、車名及び型式等自動車の特徴に関する事項と所有者の氏名又は名称及び住
所、使用の本拠の位置、取得原因(同法七条一項)となっている。そして自動車の
自動車登録ファイルヘの登録は電子情報処理組織によって行う(同法六条一項)と
される関係上、自動車の所有権得喪の対抗要件制度として不可欠な原簿の公開につ
き、原簿自体を閲覧させたり、その謄・抄本を作成することが不可能であるため、
通常の原簿公開方法に代え、同法二二条一項は、何人も運輸大臣に対し登録事項等
証明書の交付を請求することができるものとしている。そして自動車登録規則二四
条及びこれに基づく運輸省令が登録事項等証明書交付請求書の様式等を定めてお
り、その請求書には請求者の住所氏名の記載と押印が求められている。そして右の
関連法令の趣旨に鑑れば、自動車登録事項等証明書に記載される事項が、実社会生
活に交渉を有する事項であることに疑いの余地はなく、このような事項に関する情
報を入手する目的で作成提出される自動車登録事項等証明書交付請求書は何某とい
う請求者がこれらの情報の入手を請求する意思を表示したことを証明するものとし
て、実社会生活に交渉を有する事項を証明するに足りる文書であって、刑法一五九
条にいう「事実証明ニ関スル文書」に当たるものと解されるから、本件請求書は刑
法一五九条一項にいう「事実証明ニ関スル文書」に該当するとした原判決の判断
は、結論において正当であるから、各論旨は理由がない。
 弁護人の控訴趣意第三事実誤認の主張及び被告人本人の控訴趣意のうち右同旨の
主張について
 各所論は、1 原判決冒頭の事実については、右事実認定の根拠となるのはA調
書のみであるところ、右A調書の内容は信用性がない、2 原判決第一の車両は、
茨城県警所有の車両であり、これらの車両に対する登録事項等証明書の交付請求が
冒頭の目的となんら関係がないことは明らかであり、A調書にもなんら触れられて
おらず、これを結びつけた原判決は証拠に基づかない事実認定をしている、3 本
件における筆跡鑑定は全く信用性のないものであり、これを信用して有罪認定の基
礎とした原判決は、事実誤認の顕著なものである、以上の通り原判決には事実誤認
があり、これが判決に影響を及ぼすことは明らかである、というのである。
 そこで、記録を調査して検討すると、原判決の挙示する関係証拠によれば、優に
原判示第一及び第二の事実を認めることができ、原判決には所論のような事実誤認
はない。所論に鑑み若干補足して説明を加える。
 まず、所論1については、関係証拠によれば、Aは、C同盟(以下、同派とい
う。)の千葉地区の指導者的立場にあり、毎週火曜日に埼玉県蕨市にある同派の本
部で開かれる定例会議に出席していたものであるが、本件と同様の私文書偽造・同
行使被疑事件で逮捕勾留中に、自分の妻子の将来や父母・祖母などのことを考え、
同派を離脱することを決意し、この際真実を話そうという気持ちから一切を包み隠
さず検察官に供述したものであって、その信用性は高く、原判決が、A調書等をも
とに「罪となるべき事実」冒頭の部分を認定したことに事実誤認はない。次に2に
ついては、原判決は、その冒頭の部分において、「被告人は、いわゆるC同盟の組
織に所属する者であるが、同組織に所属する数名の者と共謀の上、警察関係者、い
わゆる成田第二期工事関係の業者等が使用する自動車に関して、偽名を用いて自動
車登録事項等証明書の交付を受けようと企て」と認定しているのであるから、冒頭
記載の企ての内容と茨城県警所有車両に関する本件請求書の交付請求が、関連性が
あることは明らかである。そして関係証拠によれば、原判示第一のように被告人が
Bなる偽名を用い本件請求書七通を偽造・行使したことは明らかであるから、原判
決には、なんら事実誤認はない。3については、関係証拠によれば、関係証拠中に
筆跡鑑定書は二通存在し、一通は原判示第一事実の本件請求書と同第二事実の本件
請求書の筆跡の異同に関する鑑定書であり、一通は第一及び第二の本件請求書の筆
跡と被告人にかかる履歴書、入学申込書、現金封筒の筆跡の異同に関する鑑定書で
あるところ、前者の鑑定結果は「同一人による筆跡と推定する」、後者の鑑定結果
は「同一人による記載の可能性が強い」というものであるが、原審証人Dの証言に
よれば、同人の行う鑑定の結論は、同一人の筆跡に間違いないという確率の高い順
に、1同一人の筆跡と推定する、2同一人の筆跡の可能性が強い、3類似した筆跡
である、4不明、5類似性が低い、6別人の可能性が強い、7別人の筆跡と推定す
る、という結論を出しており、「推定する」というのは「と認める」という趣旨で
あり、後者の鑑定で一段下げてあるのは、資料の質的な差と特徴の量的な差による
ものであって、同証人としては同一人の筆跡と考えたことが認められるから右鑑定
書はそれなりの信憑力があるばかりでなく、原判決は右鑑定書だけで原判示第一及
び第二の事実を認定しているのではなく、原判決の挙示する関係証拠を総合して前
記事実を認定しているのであるところ、関係証拠によれば、B名義の本件請求書か
ら被告人の左栂指の指紋が検出されていること、被告人は、同派の茨城地区の責任
者として平成元年四月下旬の火曜日に、埼玉県蕨市にある同派の本部において開催
された定例会議に出席し、同派幹部のEから成田第二期工事に関係している業者の
住所・氏名を登録事項等証明書を取って調べるよう指示され、同年五月一〇日の定
例会議で結果を報告していること、被告人がB名でクリーニングの依頼をしてお
り、被告人の居室からB名義のクリーニング引換証が押収されていること、同派の
アジトであるa荘から本件で使用されたのと同種のB名の印鑑が押収されているこ
と、被告人の父親宛の現金封筒の住所が、本件第一の各請求書のBの住所と同じ
「水戸市b町c―d―e」となっていることなどが認められこれらを前記二通の鑑
定書と総合すると、優に原判示第一及び第二の事実を認定しうるから、原判決には
事実誤認はない。各論旨は理由がない。
 被告人本人の控訴趣意三訴訟手続の法令違反の主張について
 所論は、本件は違法な家宅捜索によって収集された押収物によって作り上げられ
たものであるから、原判決には判決に影響を及ぼす訴訟手続の法令違反がある、と
いうのである。
 そこで、記録を調査して検討すると、本件において違法な家宅捜索が行われたと
は認められないから、所論はその前提を欠き採用できない。
 よって、刑訴法三九六条により本件控訴を棄却することとし、主文のとおり判決
する。
 (裁判長裁判官 時國康夫 裁判官 小田健司 裁判官 神作良二)

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