弁護士法人ITJ法律事務所

裁判例


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主文
1被告は,原告に対し,6634万7000円及びこれに対する平成23年1
月26日から同年9月15日まで年2.875パーセント,同年9月16日か
ら支払済みまで年14パーセントの各割合による金員を支払え。
2訴訟費用は被告の負担とする。
3この判決は仮に執行することができる。
事実及び理由
第1請求
主文同旨
第2事案の概要等
1事案の概要
本件は,訴外Aコーヒー株式会社(以下「訴外会社」という。)に金銭を貸
し付けていた原告が,訴外会社から事業譲渡を受けた被告に対し,被告が訴外
会社の商号を続用していると主張し,会社法22条1項に基づき,上記貸金の
支払を求めた事案である。
2前提事実(争いのない事実及び証拠上容易に認定できる事実)
(1)原告は,銀行法所定の業務を行う金融機関である。
訴外会社は,コーヒー,紅茶を始めとする喫茶レストラン材料の製造及び
加工並びに販売等を目的とする株式会社であり,被告は,平成23年5月1
0日に設立された株式会社である。
(2)貸金
ア貸金1
(ア)原告は,訴外会社に対し,平成17年3月29日,3000万円を証
書貸付の方法により,下記の約定で貸し付けた。

最終弁済期限平成22年3月25日
利息年2.0%(年365日の日割計算)
損害金年14%(年365日の日割計算)
弁済方法元金60回に分割して平成17年4月25日か
ら1か月毎の25日に50万円を弁済する。
利息平成17年3月29日を第1回として,以
後毎月25日に1か月分を前払いする。
期限の利益喪失訴外会社が原告に対する債務の一部でも履行を遅
滞したときには,原告の請求によって期限の利益を
喪失し,直ちに債務を弁済する。
(イ)平成22年8月5日,原告と訴外会社は,同日以降の貸付金利息を年
2.875%とすることを合意した。
(ウ)原告と訴外会社は,平成22年12月29日,同日現在の残元金50
万円について下記のとおり借用金変更契約を締結した。

最終弁済期限平成23年1月25日
利息年2.875%
弁済方法平成22年10月から平成22年12月まで元金
据置とし,平成23年1月25日に50万円を支払
って完済とする。
(エ)訴外会社は平成23年1月25日を経過しても上記弁済を履行しなか
ったので,訴外会社は,原告の請求により,平成23年9月15日に期
限の利益を喪失した。
よって,訴外会社は,原告に対し,上記貸付金残元金50万円並びに
これに対する平成23年1月26日から同年9月15日までは年2.8
75%の利息及び同年9月16日から完済までは年14%の割合による
損害金の支払債務を負っている。
イ貸金2
(ア)原告は,訴外会社に対し,平成18年10月2日,5000万円を証
書貸付の方法により,下記の約定で貸し付けた。

最終弁済期限平成23年9月25日
利息年2.0%(365日の日割計算)
損害金年14%(365日の日割計算)
弁済方法元金平成18年10月25日から毎月25日に
83万3000円宛(ただし,最終回は8
5万3000円)を支払う。
利息平成18年10月2日を第1回として,以
後毎月25日に1か月分を前払いする。
期限の利益喪失訴外会社が原告に対する債務の一部でも履行を遅
滞したときには,原告の請求によって期限の利益を
喪失し,直ちに債務を弁済する。
(イ)平成22年8月5日,原告と訴外会社は,同日以降の貸付金利息を年
2.875%とすることを合意した。
(ウ)原告と訴外会社は,平成22年12月29日,同日現在の残元金15
84万7000円について下記のとおり借用金変更契約を締結した。

利息年2.875%
弁済方法平成22年10月から平成22年12月まで元金
据置とし,平成23年1月25日から1か月毎の2
5日に176万1000円宛返済する(ただし,最
終回は175万9000円)。
(エ)訴外会社は平成23年1月25日を経過しても上記弁済を履行しなか
ったので,訴外会社は,原告の請求により,平成23年9月15日に期
限の利益を喪失した。
よって,訴外会社は,原告に対し,上記貸付金残元金1584万70
00円並びにこれに対する平成23年1月26日から同年9月15日ま
では年2.875%の利息及び同年9月16日から完済までは年14%
の割合による損害金の支払債務を負っている。
ウ貸金3
(ア)原告は,訴外会社に対し,平成22年8月6日,下記の約束手形を訴
外会社に振り出させて,手形貸付の方法により5000万円を貸し付け
た(利息は年2.875%,損害金は年14%)。

金額5000万円
支払期日平成22年10月25日
支払場所株式会社B銀行C支店
(イ)平成22年12月29日,原告は,上記約束手形の支払期日を平成2
3年1月25日まで延期した。
(ウ)訴外会社は,上記約束手形の延期後の満期である平成23年1月25
日を経過しても上記手形金を弁済せず,訴外会社は,原告の請求により,
平成23年9月15日に期限の利益を喪失した。
よって,訴外会社は,原告に対し,上記貸付金残元金5000万円並
びにこれに対する平成23年1月26日から同年9月15日までは年2.
875%の利息及び同年9月16日から完済までは年14%の割合によ
る損害金の支払債務を負っている。
(3)事業譲渡
訴外会社と被告とは,平成23年5月20日,以下の内容による事業譲渡
契約を締結し,同契約に基づき,被告は訴外会社の事業を譲り受けた(以下
「本件事業譲渡」という。)。
ア訴外会社は,平成23年5月20日をもって,訴外会社の下記事業を無
償で被告に譲渡し,被告はこれを譲り受ける。

・訴外会社の福岡市博多区ab丁目c番d号所在の本社において経営
するコーヒー関連商品販売業の一式
・訴外会社が所有する喫茶・レストラン事業(西部ガスビル)の1店
舗の運営権
・上記に付帯するサービス等の一切の業務
・Aコーヒーの商標権及びロゴの使用権利
イ被告は,訴外会社の商号及び本契約成立前の訴外会社の上記事業に関す
る債務を承継しない。
3争点
会社法22条1項の適用の有無
第3当事者の主張
1原告の主張
被告の商号は,訴外会社の商号に「九州」の2文字が付加されているもので
あるが,訴外会社の商圏はもともと九州一円を対象としたものであって,訴外
会社の商号に「九州」の2文字が付加されたとしても何ら新規性はなく,訴外
会社の商号と被告の商号は極めて類似性が高い。さらに,被告は訴外会社の商
標権及びロゴも引き続き使用しているものであるから,会社法22条1項の商
号を続用する事業譲受人として,訴外会社の原告に対する前記前提事実の各債
務を弁済する責任を負う。
2被告の主張
以下の点に照らし,本件に会社法22条1項は適用されない。
(1)訴外会社は現在も存在しているところ,本件事業譲渡においては,被告は
訴外会社の商号及び本件事業譲渡前の訴外会社の事業に係る債務を承継しな
いものとされている。
(2)被告の商号に付加された「九州」の文字は,地域を表すものであり,何ら
継承的意義を有しない。
また,訴外会社は,全国にあるAコーヒーグループのひとつであったとこ
ろ,他の地域のAコーヒー株式会社の商号はいずれも「Aコーヒー株式会社」
である。
(3)訴外会社の本店所在地は「福岡市博多区ab丁目c番d号」であるのに対
し,被告の本店所在地は「福岡県大野城市ef丁目g番h号」であり,両社
の本店所在地は同一市内ですらない。
また,訴外会社の代表取締役と被告の代表取締役は異なり,経営主体が異
なることは明らかである。さらに,訴外会社の発行済み株式の総数は800
0株,資本金の額は1000万円であるのに対し,被告の発行済み株式の総
数は180株,資本金の額は900万円であって,経営規模も異なる。
(4)原告は,平成22年8月5日に貸付2の金利変更に同意し,また,平成2
2年12月29日に同貸付の変更契約をするとともに,同日,貸付3の支払
期日の変更にも応じているのであるから,原告は,訴外会社の経営が困窮し
ていることを知っていた。
第4当裁判所の判断
1会社法22条1項は,事業譲渡契約において,譲受会社が譲渡会社の商号を
続用する場合には,譲受会社も譲渡会社の事業によって生じた債務を弁済する
責任があると規定しているところ,ここにいう商号の続用とは,譲受会社が事
業譲渡前の譲渡会社の商号と全く同一の商号をそのまま使用する場合のほか,
取引通念上,従前の商号と同一の商号を継続して使用したとみられる場合もこ
れに当たると考えられる。
本件事業譲渡において,譲渡会社である訴外会社の商号が「Aコーヒー株式
会社」であるのに対し,譲受会社である被告会社の商号は「九州Aコーヒー株
式会社」であるから,本件において会社法22条1項が適用されるか否かを判
断するに当たっては,これら商号が,取引通念上,従前の商号と同一の商号を
継続して使用したとみられるか否かを検討することになる。
2被告の商号は,訴外会社の商号である「Aコーヒー株式会社」の冒頭に「九
州」の2文字を付加したものであるところ,「九州」という文字は特定の地域
を表す文字であって,それ自体をみる限り,譲渡会社の債務についての継承的
意義を有するものではない。
しかしながら,訴外会社は,もともと九州一円を商圏とする会社であったか
ら(乙1及び弁論の全趣旨),訴外会社の商号に「九州」の2文字が付加され
たとしても,訴外会社において使用していた商号に特段の新規な意味を付与し
たとはいえない。
さらに,被告は,訴外会社が使用していた商標権及びロゴの使用権利の譲渡
を受け,これを対外的に使用することを許されていることをも考慮すると,取
引通念上,被告は,訴外会社が本件事業譲渡前に使用していた商号と同一の商
号を継続して使用したものと認めるのが相当である。
被告は,全国にあるAコーヒーグループに属する他の地域の会社の商号がい
ずれも「Aコーヒー株式会社」であることをもって,「九州」という2文字が
付加されれば商号の続用性が否定される旨主張するかのようであるが,問題は,
Aコーヒーグループに属する特定の地域の会社の商号に当該地域の名称が付加
された場合に商号の続用性が否定されるかということであり,和歌山市に本社
を有するAコーヒー株式会社のホームページに掲載された本社建物の写真に
「和歌山Aコーヒー本社」というタイトルが付けられていること(乙1の3)
からしても,上記のような場合に商号の続用性が否定されるとは解しがたい。
また,被告は,訴外会社と被告は,本社の所在地や代表取締役及び経営規模
が異なるし,原告は本件事業譲渡当時訴外会社の経営が困窮していたことを知
っていた旨主張するが,会社法22条1項が適用されるか否かは,飽くまでも
商号の同一性を中心に判断すべきものである上,仮に,上記のような実質的な
事情を考慮するというのであれば,被告が訴外会社が行う全事業を無償で訴外
会社から譲り受けたものであり(前記前提事実及び甲3(臨時株主総会議事録)),
訴外会社の債権者は,本件事業譲渡により債権の担保をすべて失うことになる
ことや,被告が本件事業譲渡のわずか10日前に設立された会社であって,本
件事業譲渡の受皿として設立された可能性が大きいことなども同様に考慮され
るべきである。
なお,会社法22条1項における商号の続用性の有無は客観的に判断される
べきものであるから,本件事業譲渡契約において商号を承継しない旨が合意さ
れている事実は,当裁判所の判断を左右しない。
3以上によれば,被告は,会社法22条1項の商号を続用する事業譲受人とし
て,訴外会社の原告に対する前記前提事実(2)の各債務を弁済する責任を負
うから,原告の被告に対する本件請求はすべて理由がある。
仮執行免脱宣言は相当でないから付さない。
福岡地方裁判所第6民事部
裁判官山之内紀行

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