弁護士法人ITJ法律事務所

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       主   文
 被告が、参加人を申立人、原告を被申立人とする都労委昭和五二年(不)第一一
二号事件につき、昭和五四年九月四日付でした命令を取り消す。
 訴訟費用は被告及び参加人の負担とする。
       事   実
第一 当事者の求めた裁判
一 請求の趣旨
1 主文第一項と同旨。
2 訴訟費用は被告の負担とする。
二 請求の趣旨に対する答弁(被告及び参加人)
1 原告の請求を棄却する。
2 訴訟費用は原告の負担とする。
第二 当事者の主張
一 請求原因
1 参加人は、原告を相手方として被告に対し、支配介入を理由として不当労働行
為救済の申立をしたところ、被告は右申立にかかる都労委昭和五二年(不)第一一
二号事件について、昭和五四年九月四日付で別紙(一)のとおりの命令(以下「本
件命令」という。)を発し、右命令書は同月二一日原告に交付された。
2 本件命令には以下に述べるとおり事実を誤認し、判断を誤つた違法があるので
取り消されるべきである。
(一) 本件命令の事実認定について
(1) 本件命令の理由第1、2、(1)の認定について
 本件命令は原告が全日本航空労働組合(以下「全労」という。)育成、参加人の
拡大阻止の姿勢を取り続け、この姿勢は根本的には改まつていない旨認定している
が、原告は右の如き姿勢をとつてはいない。しかも被告の右認定は、被告が以前に
発した各救済命令によつてなされているが、これら救済命令によつて立証される事
実は命令が発せられた事実のみであつて、命令中の認定事実を客観的事実として認
定することは許されないのである。いわんや過去にそのような命令が交付されたこ
とから特段の反証のない限り現在もその姿勢が改まつていないという認定は採証法
則を誤つているというほかない。
 また被告は「かつては新人スチユワーデスは客室訓練所へ入所した時点では組合
に入らず、訓練が終了しラインアウト(客室乗務につくこと)してからその所属す
る組合を選択して」いた旨認定するが、昭和五〇年四月三〇日に原告と参加人との
間の試用期間中組合に加入できない旨の条項を含む労働協約が失効してからは右認
定の状況とは異り組合の選択加入が行われたのであつて、右認定は誤りである。
 そして被告は昭和五〇年一〇月一日原告が地上研修制度、新組織編成を実施して
からはある程度両組合の勢力比が接近する状況となつた旨認定しているが、原告の
行つている地上研修制度、新組織編成と組合の勢力比との間に何の因果関係もなく
右認定は誤りである。
(2) 本件命令の理由第1、2、(2)について
 被告は、原告が昭和五〇年末から同五一年一月にかけて実施した小田原MRAア
ジアセンターでの管理者研修においてa客室訓練所長(以下「a所長」という。)
やb客室乗員部次長(以下「b次長」という。)が、同年一月九日のグループ討議
の際、同人らが中心となつて参加人への非難と参加人所属の新任教官に対して集中
質問を行つた旨認定しているが、これは明白な事実誤認である。
 原告は管理者研修を行い、被告が、問題としている第二日目のグループ討議にa
所長やb次長が参加しているが、同人らは討議の際聞き役に回り殆んど発言はして
いない。しかもa所長らは討議後の自由時間の雑談中も被告認定の如き言動は行つ
ていないのである。
(3) 本件命令の理由第1、2、(3)①ないし⑤の認定について
① 本件命令の理由第1、2、(3)①のcが昭和五一年四月一六日全労への加入
届に署名した件であるが、これは勤務時間終了後の全労主催のオリエンテーシヨン
における全労組合員の発言であつて原告の全く関知しないことである。
② 同②のd課長が参加人を非難した旨の認定は全くの事実誤認であつて、そのよ
うな事実はない。
③ 同③認定のa所長及びF教官の発言も全くの事実誤認である。
 a所長が朝礼で述べたことは、かつて参加人がストライキを実施したときに後日
乗客から先日のストライキは何が目的だつたのか問われ、答えられなかつたスチユ
ワーデスがいたが、このような先輩になつてはいけないということであつて、その
趣旨は参加人組合員たる者広く社内外の事情に通じ単なる食事提供者であつてはな
らないというものであつた。そしてF教官の発言も、スチユワーデスの生理休暇の
取得に関し、休暇中に旅行するなど不適切な行動をとつたケースがあることを説明
し、訓練生を戒めたものであり、その際組合と組合員の関係について言及したこと
はあるが参加人を批難したことはない。
④ 同④の生産性研修が客室訓練所の訓練の一環である旨の認定は明らかな誤りで
ある。
 この生産性研修は、従前は参加人との協定に基づいて実施していたが、参加人分
裂後は全労との協定に基づいて全労組合員に対して行つてきたものである。そして
その実施は原告と全労が日本生産性本部に委託し、またその実施時期も配員の都合
上訓練期間中行われているにすぎず、新人養成訓練の一環としてこの研修が行われ
ているのではない。したがつてこの研修でe全労書記長が参加人を批判し、また全
労所属のNスケジユーラーがその認定の如き発言をしたとしても、原告の関与する
ところではない。
⑤ 同⑤のO教官の言動についても、全労の一組合員としてのO教官の発言であつ
て原告は一切関与していない。
(4) 本件命令の理由第1、4、(2)の認定について
 被告はクラス担任となる教官の影響力について認定しているが、被告のいう影響
力が一体何を意味するのか、何故訓練生の組合からの脱退に影響を与えるのか明ら
かでない上、本件において組合への加入、組合からの脱退について教官の影響力を
推認させるような事情も存しない。しかも現に全労を脱退した者は教官の存在を全
く気にもとめずまた教官の了解も得ることなく脱退し、かえつて全労所属の教官が
脱退後にその理由を質すという状況であり、被告が引用するc自身脱退にあたり教
官から何らの影響をも受けなかつたと述べているのである。
(二) 本件命令の判断について
(1) 本件命令の理由第2、2、(1)、①について
 被告は原告が客室訓練所教官の任命にあたりその組合所属いかんに多大の関心を
払つたであろうことは推認に難くない旨認定しているが、その根拠としてあげてい
る理由のうち、原告が組合分裂後全労育成、参加人の拡大阻止を図つてきたこと及
び教官の新人スチユワーデスに及ぼす影響が大きいとの認定が誤りであることは前
述のとおりである。原告は客室訓練所における訓練の目的や趣旨、教官の職責の重
大性に鑑み勝れた客室乗務員を教官に任命することに努めているのであつて、教官
の組合所属に関心を払つたことはない。
(2) 本件命令の理由第2、2、(1)、②について
 被告は、管理者研修で参加人を批判したb次長が本件教官選任に関与しているこ
と及び管理職や全労所属教官による一連の参加人批判の言動を原告が黙認・放置し
ていたことから、原告としては客室訓練所の教官としては参加人所属の者よりむし
ろ全労所属の者を好ましく思つていたと判断している。しかし、b次長がその認定
の如き発言をしていないことは前述のとおりであり、また人選過程の検討会議に同
次長が出席するのは職責上当然であり、しかも同次長の意向のみによつて人選が決
定されるものでもない。したがつてこれをもつて原告の姿勢を評価することは当を
得ないものといわざるを得ない。原告は常日頃から客室訓練所内での全労・参加人
所属教官の組合活動を厳禁する旨の示達をし、その徹底を図つているのであつて、
訓練所管理職による参加人批判の如き事実もないのであるから、本件命令がいうと
ころの参加人批判の言動を原告が黙認・放置したという事実もない。
(3) 本件命令の理由第2、2、(2)について
 被告は客室訓練所教官任用基準は、原告の職種別任用基準と類似していることや
教官の在職期間がそれ程長くなく絶えず交替していることから、客室訓練所教官の
任用はいわゆるエリートを選ぶのではなく、一定の水準に達している客室乗務員で
あればほぼその任に耐える性質のものと認定する。しかし、教官の職責と客室乗務
員の職責は異つており一定の水準にある客室乗務員であれば当然に教官の任に耐え
うるという性質のものではなく、原告は客室乗務員養成訓練の重要性に鑑み具体的
な任用指針を設けて人選を行つているのであつて、被告の右認定は誤りである。な
お教官の在職期間が短いことをもつて教官の水準が低いということもいえないこと
明らかである。
 次に被告は原告の教官任用基準は複数の該当者が存在した場合の優劣決定のため
の客観的基準としては不十分であると認定する。しかし原告の教官任用の指針は客
室訓練所の教官の職責に照らし合理的な内容を有しこれ以上に客観性を盛り込む必
要もない。
 更に、被告f(以上「f」という。)及びg(以下「g」という。)の人選につ
いて、評価の尺度が客観的に確立していない旨認定する。しかし従業員の勤務状況
に関する評価は日常観察の積み重ねからなるものでその手段として上司である客室
乗務員からの報告等があるのである。かような方法で得られた事情を総合して客室
乗務員の勤務状況が把握されるのであつて、これをもつて一時的断片的であつて客
観的尺度が確立していないということはできない。
(三) 以上のとおり本件命令は事実を誤認し判断を誤つているのであり、原告の
行つた教官の任用は合理的なものであり、被告認定の如き教官人事に職種別に組合
員数と教官数との比に不均衡がみられるのは、適材適所の結果にほかならないので
ある。
3 本件命令の内容の違法性
 本件命令は労働委員会の有する裁量の範囲を逸脱しており取り消さるべきであ
る。即ち、原告が本件命令を履行するためには本来考慮の外におくべき組合所属を
まずもつて配慮して教官を任用せざるを得ないのであつて、これは本来原告の有す
る自由な人事権を著しく拘束するものであつてその合理的範囲を逸脱しているもの
といわざるを得ないのである。
4 以上のとおりであるから、原告は本件命令の取消しを求める。
二 請求原因に対する認否(被告及び参加人)
1 請求原因1の事実は認め、同2、3は争う。
2 本件命令の事実認定及び判断に誤りはない。
三 参加人の主張
1(一) 原告の不当労働行為意思
 昭和五〇年五月全労客乗支部は参加人から分れて発足したが、この参加人の分裂
は原告と全労との緊密な連携の下に行われ、以後原告の全労育成、参加人敵視の方
針で様々な不当労働行為を行つてきている。本件の客室訓練所教官の不当配置もそ
の一環であり、管理者研修を利用して教官及び教官候補者を参加人から脱退させて
教官を全労組合員で占めることによつて地上業務研修制度で全労に加入した新人ス
チユワーデスの全労からの脱退を阻止するために原告が故意に行つているものであ
る。したがつて本件命令が原告は参加人の分裂以降全労育成、参加人の拡大阻止の
姿勢を採り続け、この姿勢が根本的に改まつているとは認められない旨認定してい
るのは正当である。
(二) 教官の影響力
 教官の影響力特に新人担当の教官の新人乗客乗務員に与える影響力は大きい。新
人客室乗務員は採用後約三か月の地上業務研修を経て訓練所に入所するが、新人客
室乗務員にとつて初めて接する客室乗務員が訓練所教官であり、接する時間も訓練
時間の大半がそうであり、訓練時間外にも及ぶのであつて、その接し方もこれから
客室乗務員になろうとしている新人に必要不可欠な業務知識を教えるという立場に
あるから学校の先生と生徒にも似た関係あるいはそれ以上の絶対的関係といつても
過言ではないのである。そしてかような関係は新人客室乗務員がラインアウトした
後も保たれ、乗務問題だけでなく、私的な問題も含め教官は影響力を及ぼすのであ
る。原告及び全労はこのような新人客室乗務員と教官の関係を巧みに利用して全労
育成を行つているのである。即ち、一つは教官の新人客室乗務員に対する反参加人
宣伝・全労教育であり、一つはその影響力を利用して全労からの脱退を阻止するこ
とである。そして原告が仮に新人客室乗務員に対する組合活動を禁止したとして
も、それは前者を禁じたにすぎないのであつて根本的解決には至らないのである。
そして新人客室乗務員は「世話になつた教官が全労所属である」というだけで全労
にとどまることになり、自由公正な選択が妨げられているのである。
(三) 教官選任の不合理性
(1) 教官の適性、能力として原告が定めている任用指針は抽象的であり、職種
別任用基準と截然と区別できるものではなく、結局は程度の差にすぎないものであ
つて、しかも訓練内容に応じた基準もないのである。
 選任がこのように程度の差にすぎないものであつて主観的要素の強いものであつ
てみれば、選任に関与する管理職に参加人所属の候補者に対する公正な評価は期待
できず、また全労所属のチーフパーサー等が選任に関与することにでもなればより
公正な判断は期待し得ない。
(2) 昭和五二年四月の教官選任について
 まずfについてみるに、その評価資料は初対面の際やグループミーテイングでの
印象、先任チーフパーサーの話、スチユワーデスの話程度であり、いずれも偶然に
見たことや印象を誇張過大に評価しているにすぎず、また指導力の評価についても
過大、誇張されていて他の選任されなかつたパーサーの評価が一面的皮相的で合理
性に乏しいのと比べ評価の仕方に著しい差が生じている。次にgの選任について
も、その評価資料はコメントカードという全くの乗客の主観に基づくものである等
資料として不適切であつてその評価の仕方も極めて主観的である。しかも他のアシ
スタントパーサーに対する評価も極めて主観的一面的で説得力に欠けるものであ
る。
 いずれにしても、昭和五二年四月のパーサー、アシスタントパーサーの教官選任
は主観的評価による選任の域を出ず合理性を欠くものであり、これらの事情に教官
数が組合間で不均衡であることに照らせば、教官選任の不合理性は明らかである。
2 本件命令の救済内容について
 本件命令は、①客室訓練所の教官の選任に当たつてその人選が参加人所属の者と
しからざる者との間で一方に偏することのないように留意することを命じ今後の教
官選任にあたつて本来考慮の枠外におくべき客室乗務員の組合所属の別を配慮する
ことを禁じた上で、②今後二年間に現に存在する不均衡を是正すべきことを命じた
のであつて、①は当然の救済方法であり、しかもこれのみでは不当労働行為によつ
てもたらされた不公正な状態を解消できるわけはなく、したがつて②の救済方法も
当然の結論であつてこれ以外に是正の方法は考えられないのである。しかも本件命
令は公正な教官人事を行うことによつて不均衡を是正せよと命じているにすぎず、
原告の人事権の制約としては極めて緩やかなものであつて何ら、裁量の範囲を越え
るものではない。
第三 証拠(省略)
       理   由
一 請求原因1の事実は当事者間に争いがない。
二 当事者等
 弁論の全趣旨によれば、以下の事実が認められ、この認定に反する証拠はない。
 原告は、肩書地に本社を置き、国際路線及び国内幹線における定期航空運送事業
を主たる目的とする会社である。
 参加人は原告に雇用される客室乗務員のうちチーフパーサー以下の職種に属する
者が組織する労働組合である。
 なお、原告には別に地上職を主体として組織される全労があり、その客室乗務員
によつて構成される客室乗務員支部がある。
三 原告は客室訓練所教官の選任は適材適所の観点から合理的になされたのであつ
て何ら参加人に対する支配介入に該当しない旨主張して、被告の事実認定及び判断
を争うのでこの点について判断するに、成立に争いのない乙第三八、三九号証、同
第九六号証、同第一〇一号証、同第一〇三号証の一、同第一一三、一一四号証、同
第一二六号証、同第一四一、一四二号証、同第一四四号証、同第一五七、一五八号
証、同第一六一号証、同第一六四号証ないし第一六七号証、右乙第一六五号証によ
り真正に成立したと認められる乙第四二号証、弁論の全趣旨により真正に成立した
と認められ甲第一六号証、同第四〇、四一号証の各一、二、同第四二号証、証人h
の証言に弁論の全趣旨を総合すると以下の事実が認められ、右認定を覆すに足りる
証拠はない。
1 原告は航空機による定期航空運送を営んでいること前記のとおりであるが、そ
の客室乗務員はチーフパーサー、パーサー、アシスタントパーサー、スチユワーデ
スから構成され、原告はこの客室乗務員を編成して機内における各種サービスの提
供等を行つている。そしてこのサービスの良否は乗客が利用する航空会社を選択す
る上で重要な要素となつているところがら、原告としては客室乗務員の行うサービ
ス内容によつて原告の評価ひいては原告の業績に大きく影響を及ぼすことから、よ
り質の高い優れたサービスを行う必要があり、また非常時に備えるために客室乗務
員の養成訓練が必要とされる。
 原告は右の要請に応ずるため昭和三四年に客室訓練所を設置し、その後訓練内
容、体制等を整備し、昭和五一年八月以降は客室乗員部の内部機構として位置づけ
られている。
 客室訓練所では、新人養成訓練(主に新規採用女子客室乗務員全員を対象とする
養成訓練であり、訓練期間は国内線スチユワーデス要員の場合約二・四か月間、国
際線スチユワーデス要員の場合約三・七か月間である。)、昇格訓練(上位職種へ
の昇格に際し行う訓練であり、訓練期間は上位職種に応じて一〇日間から約三週間
である。)、移行訓練(国内線乗務から国際線乗務へ、あるいは日本航空アジア株
式会社への移籍に際し行う訓練であり、訓練期間は約一・五か月間である。)及び
再訓練(チーフパーサー以下の全職種の客室乗務員を対象とし、その職務遂行能力
の一層の向上を図るためになされる訓練であり、訓練期間は一定しない。)が実施
されている。
 そして訓練の概要を女子新人国際線乗務員に対する養成訓練を例にとると、本件
命令の理由第1、3・(2)記載の表のとおりである。そして訓練は講義形式、ス
ライド・ビデオ機材の利用、LL教室の利用、教室内での実技訓練、モツクアツプ
訓練、見学等によつて行われている。
2 客室訓練所の教官制度
 客室訓練所において諸訓練を担当する教官は客室乗務員から任用される乗務員教
官のほか、英語や救急看護法を担当する常勤の教官や科目によつては社内講師、社
外講師によつて実施されている。そして乗務職教官はO・J・Tを除く地上訓練の
約五〇パーセント前後を担当しているが、同教官は専任教官、教官及び教官補の三
種類に区分される。現在専任教官の任用はなされていない。そして教官補は新人養
成訓練及びアシスタントパーサー以下の昇格訓練、再訓練を担当し、教官は客室訓
練所で実施する全ての訓練を担当する。
 次に右乗務職管の任用について原告は資格面と経験面の両面から基準を設けてい
る。まず資格面で専任教官の場合管理職客室乗務員又はチーフパーサー、教官の場
合チーフパーサー又はパーサー、教官補の場合アシスタントパーサーの各資格を有
する客室乗務員から任用するものとされている。経験面では専任教官は過去教官を
二年以上経験していることが必要であり、教官については乗務員経験三年以上、教
官補の場合には乗務員経験一年以上の実績を必要としている。原告は右資格及び経
験基準に合致する乗務員の中から適任者を選任するための指針として次の三点を設
定している。
(1) 専門知識、サービス技両、サービス精神等客室乗務員として備えるべき能
力に秀でていること、
(2) 原告の公共的輸送機関として社会的使命を踏まえた上で訓練生を教えるこ
とのできる健全な常識と円満な性格を有していること、
(3) 指導教育に適性を有していること、
 なお訓練内容に応じた形での任用基準は設定されていないし、原告の職種別任用
基準も表現上右任用基準と似たものとなっている。
3 任用手続
(一) 客室訓練所において教官、教官補(以下単に「教官」という。)任用が必
要となつた場合、客室訓練所長から教官の任用権者である客室乗員部長に対して任
用の要請がなされる。その際には予定されている訓練内容等を勘案して任用すべき
客室乗務員の職種、人数、発令時期及び乗務経験の程度や教官経験の有無などの付
随条件について訓練所側の意向も伝えられる。そこで客室乗員部長は教官の選考手
続を業務課長に命じ選考を行う。業務部長は客室訓練所側の意向を検討した上、経
験年数に一定の条件を付したりして(選考枠の選定)、具体的に国内客室乗員室、
国際第一客室乗員室、国際第二客室乗員室に職種別選考人数を割り振り、人選を行
う。そして各客室乗員室での人選が終了した後、その結果は同室長から客室乗員部
長に対して人選リストとして提出され、同部長主催の検討会議が開催され、任命の
可否が最終的に検討される。同会議には客室乗員部長、同次長、業務担当課長、各
客室乗員室長、同課長、客室訓練所長が出席する。
 そして選任された教官に対しては約一週間の任用訓練が実施され、施設の概要、
各種機材の取扱要領の説明のほか授業の進め方についての教授がある。
 また教官の任期は、客室乗務から長く遠ざかることは好ましくないとの見地か
ら、原則としで男子教官は二年、女子教官は一年とされている。また教官に任用さ
れることによつて賃金等の労働条件に格別の差は生じない。
(二) 昭和五二、五三年の教官任用について
(1) 昭和五二、五三年の教官の組合別職種別発令状況は別紙(二)、(三)の
とおりであり、その従業員との対比は昭和五二年一一月末日現在別紙(四)のとお
りである。
(2) 昭和五二年四月の教官任用の経緯
① 昭和五二年二月末、h客室訓練所長はi客室乗員部長に対しチーフパーサー二
名、パーサー(男)五名、アシスタントパーサー(女)四名計一一名の教官の任用
を要請した。その際、チーフパーサー一名については教官経験者、パーサーについ
ては以前教官であつたj及び経験豊かな者四名、アシスタントパーサーについては
二名を国内客室乗員室からとの条件が示された。これら条件は前任者の関係や予定
されている訓練の関係で付されたものであつた。
 そこでi客室乗員部長は右要請を業務課長に伝えて検討を行つた結果、国際第一
客室乗員室からチーフパーサー(男)一名、パーサー(男)三名、アシスタントパ
ーサー(女)一名、国際第二客室乗員室からチーフパーサー(男)一名、パーサー
(男)一名、アシスタントパーサー(女)一名、国内客室乗員室からアシスタント
パーサー(女)二名を選出することとした。
 なお、選考枠としてチーフパーサーについては、チーフパーサー職経験三年以
上、パーサーについては指名されたjを除く他の者については客室訓練所からの要
請をも考慮の上パーサー職経験五年以上との選考枠を設定した。アシスタントパー
サーについては特段の選考枠は設定されなかつた。
② 国際第二客室乗員室における教官の人選
 k室長は右の如く割り振られた教官要員についてl第一課長とm第二課長と協議
の上、第二課では、右基準該当者はjを除きいずれも、客室訓練所から復帰して間
がないことやスケジユール調整の必要のあること等の事情があることから、jを除
く三名をいずれも第一課から選出することとし、以後右l第一課長を中心に人選が
進められた。
③ fの人選について
 国際第二客室乗員室第一課には、同課所属の男子パーサーのうち現職経験五年以
上の選考枠に該当する者は二〇名いた。そのうち八名は既にチーフパーサーへの昇
格が内定していて昇格訓練予定であつたことから教官選考から除外され、残り一二
名について選考がなされた。一二名のうち三名については病気であつたり、全労の
執行委員であつてスケジユール調整が困難といつた事情や、業務研修生として派遣
される予定があつたことから、選考からはずされた。なお、残り九名の組合所属は
参加人六名、全労一名、無所属二名であり、fは全労に所属していた。
 人選にあたつてl第一課長は、部下であるチーフパーサー等からの日常における
配下乗務員の勤務態度や接客技両等に関する報告、日常の配下乗務員との会話、各
人の人事調査表の記載内容や記載の仕方、査察乗員室の査察レポートやグループミ
ーテイングにおける参加者の態度等を考慮して、残りの九名について検討した結果
fについては性格的にも真面目で規律正しい上、業務遂行面でも指導統率力を有
し、機内業務全体の円滑で効率的な運営を図る等積極的な姿勢がみられ、また配下
スチユワーデスに対しても親身な指導態度が認められたことから、他の候補のパー
サーに比し最適任者と評価し、fが第一課から選出されることになつた。
 なおグループミーテイングはチーフパーサー以下の客室乗務員が参加し、業務上
の連絡事項の伝達、日頃の業務を通じての問題提起、意見交換を行うもので各人に
とつて年数回参加する程度のものであつた。また査察レポートは、機内業務におけ
る知識・能力、サービス技両の保持状態をチエツクし、併せてそれらの上達向上の
度合いを適正に評価指導する査察制度の一環として、管理職乗務員(乗務経験年数
一六年以上の者から選任)が機内での構成乗務員グループ全体、チーフパーサー、
パーサーを対象として査察した結果を記載したものである。
④ gの人選について
 昭和五二年当時、第一課には八五名のアシスタントパーサーが合計二〇のユニツ
トに配属され、管理職である一〇人の先任チーフパーサーが二人一組で四つのユニ
ツトを一グループとして管理していた。そこでl第一課長はその全員を完全に把握
することは困難なのでアシスタントパーサーの教官選考については先任チーフパー
サーにその管理するグループの中から教官としての適任者一名をそれぞれ推薦さ
せ、それを比較検討した上で一名を選出することにした。その結果五つのグループ
の先任チーフパ一サーからn、o、g、p、qがそれぞれ推薦された。
 gの所属するグループはr及びs先任チーフパーサーが管理していた。このグル
ープに所属する女子アシスタントパーサーは一七名で、うちgを含む三名が全労所
属、残り一四名は参加人所属であつた。そしてr及びs両先任チーフパーサーは右
一七名のうち昇格予定の一名、教官経験者一名、客室訓練所から復帰後間がない者
一名及び病気の者二名を除く一二名について更に検討を加え、日頃業務を通じて知
り得た各人の勤務態度、サービス技両(特に言葉使い、身だしなみ、基本的な知識
等)、性格、業務や後輩スチユワーデスの指導に対する意欲、乗客からのコメント
カード等も勘案した結果、gが教官として適任と判断し、l第一課長に推薦した。
 l第一課長は各先任チーフパーサーと共に、各グループから推薦を受けた前示n
ら五名から一名を選出すべく検討を加えた。その際nについては腰痛が完治してい
ないことoについては結婚による退職の可能性があつたことから右二名をまず除外
し、残り三名について比較検討した結果、積極性指導面においてgが教官として最
適任と評価してgを選出した。なおgを選出するについて他の先任チーフパーサー
から異論はなかつた。
⑤ i客室乗員部長は右選出結果を受けて昭和五二年三月に二回にわたつて検討会
議を開き検討を行つたが、教官としての適性、能力について特段の異論もなく、推
薦された者がそのまま承認され、同年四月客室訓練所勤務が発令された。
 右検討会議にはi客室乗員部長、b同部次長、各室長、課長、h客室訓練所長な
どが参加した。
 以上の事実に基づいて検討する。
 客室訓練所は右のとおり新人養成訓練をはじめとして各種訓練を行う教育、訓練
機関であつて一定の期間内にその職種に応じた能力・適性を備えさせる必要がある
とともに、特に新人養成訓練では技両や知識面での充実を図ることはもとより、親
身の指導が必要となるのであつて、教官については能力・技両はもちろんのこと、
教育、指導に対する意欲や個別的指導、集団的指導についての能力及びその人格が
重視されるのである。したがつて上位職が下位職に対して業務を通して行う指導と
は自ずと異なるのであつて、教官と上位職を同視することはできず、選任基準に似
た表現があるからといつて上位職基準に該当すれば当然に教官としての適性、能力
を有しているとはいえないのである。それ故、被告認定の如く上位職としての一定
の水準の乗務員であれば当然に教官としての適性や能力があるというものではな
く、単純に組合員数比により教官を選任し得るものではないものというべきであ
る。そしてこのことは教官の在職期間が比較的短いことと直接関係のないことであ
つて、その期間の長短は専ら教官を乗務員として客室乗務に戻す必要性に基づくも
のというべきである。
 次に教官任用基準について検討するに、原告は資格及び経験面から基準を設ける
とともに、訓練所の目的を考慮して任用指針を策定した上、具体的選任の際には、
訓練の種類等訓練所側の要請やラインの状況等現場の要請を勘案して具体的選考を
行つているのである。しかも教官の選任は、昇給、昇格等におけるいわゆる考課基
準が労働の質量に対する評価であつて基準自体の客観性がある程度要求されるのに
対し、右のとおり教育的側面を重視して行うことから、人格的側面も評価せざるを
得ず、選任者の主観によつて左右されるところが多くなることは止むを得ないとこ
ろといわざるを得ない。また教官職と乗務員職との間で賃金等の労働条件に格別の
差がないことからすれば、本来原告において適材適所の見地から合理的範囲内にお
いて人選し得るものと認められる。この点に関し被告は複数の者が基準に該当した
場合に何ら客観的基準とならない旨判断しているが、右教官選任の性格によれば原
告は訓練所の目的に照らし最適任者と考えられる者を選任すれば足りるのであつ
て、かような相対的、人格的評価についてまで客観的基準を設けることはその性質
上困難であり、またその必要性もないのであつて被告の右判断は誤りといわざるを
得ない。そして人選の合理性については、具体的人選にあたつて任用基準に該当す
る者のうち、最適任者がいるにもかかわらず、他の者を選任した場合にその人選は
合理性を欠き、しかもその理由が組合所属の有無によるものであるときに、組合運
営に対する支配介入に該当するという評価をうけるものというべきである。そこで
昭和五二年四月のf及びgの選任については検討するに、その人選にあたつての訓
練所側からの要請や客室乗員部側で設定した選択枠や人員の割り振り方に別段不合
理な点は認められない。そこで人選にあたつて使用された判断資料について検討す
るに、fやgの人選に用いられた資料は各人共通のものではなく一時的、断片的な
ものであつて主観によつて左右される評価であることは否めないものであるが、し
かし一時的、断片的であつてもそれは各人の一側面であることに変りはなく、管理
職において適切に判断される限り判断資料とすることも、その評価が日常観察の集
積の結果になる以上止むを得ないものと認められる。そこで管理職の評価について
検討するに右fらの選任は第一課においてまずなされたが、その選出にあたつたr
及びs両チーフパーサー、他のチーフパーサー、l第一課長らの判断資料の評価に
は主観的な側面が入りこむことは止むを得ないものの、その判断に合理性を疑わせ
るほどの特段の事情も存しないし、その後の検討会議にもそのような事情は存しな
い。しかも右fらよりも適任者がいるにもかかわらずあえて同人らを選任したとい
う事情も認められない。したがつて右fらの選任は合理的なものであつたといわざ
るを得ない。なお被告及び参加人主張の如く昭和五二年度、昭和五三年度の各教官
発令の総数において参加人と全労との間に差があり、所属組合員と対比して参加人
組合員からの発令が大体において低いことが認められるが、もともと、前示のとお
りの教官の職責の重要性から、単に組合員数に応じた教官の人選というようなこと
は許されないものというべきところ、時期や職種によつては参加人所属の教官が多
いことや同等の場合もあり、これら事情に前示fらの人選に合理性があることを考
慮すると、右の時点における不均衡をもつて直ちに原告が教官発令を不合理に参加
人に不利に行い、参加人組合に対する支配介入を図つているとはいえない。
 したがつて昭和五二年、同五三年の原告の教官発令をもつて参加人に対する支配
介入と判断した本件命令は右の点において取り消しを免れないものというべきであ
る。
四 以上のとおりであるから、原告の請求は理由があるからこれを認容すべく、訴
訟費用(参加によつて生じた分を含む。)の負担につき行政事件訴訟法七条、民事
訴訟法八九条、九三条一項本文を各適用して、主文のとおり判決する。
(裁判官 渡邊昭 近藤壽邦 遠山廣直)
(別紙(一))
 命令書
東京地労委昭和五二年(不)第一一二号
昭和五四年九月四日 命令
申立人 日本航空客室乗務員組合
被申立人 日本航空株式会社
       主   文
 被申立人日本航空株式会社は、客室訓練所の教官(教官と教官補の総称)の選任
にあたつて、その人選が、申立人日本航空客室乗務員組合所属の者としからざる者
との間で一方に偏することのないよう留意し、今後二年間に各職種別書の人数比
が、申立人組合としからざる者との各職種別人数比におおむね準ずるものとなるよ
うに是正しなければならない。
       理   由
第1 認定した事実
1 当事者等
(1) 被申立人日本航空株式会社(以下「会社」という。)は、肩書地に本社を
置き、従業員約二万名を雇用して、国際路線および国内幹線における定期航空運送
事業を主たる目的とする会社である。
(2) 申立人日本航空客室乗務員組合(以下「客乗組合」という。)は、会社に
雇用される客室乗務員約四、〇〇〇名のうち、チ―フ・パーサー以下の職種に属す
る者が組織する労働組合であつて、組合員数は二、五五二名(昭和五三年一一月末
日現在)である。
(3) なお、会社には別に地上職を主体として、組織される全日本航空労働組合
がありその客室乗務員支部(以下「全労」または「全労支部」という。)には、
一、三六五名(昭和五三年一一月末日現在)の客室乗務員が所属している。
2 組合分裂以降の労使関係
(1) 申立人客乗組合は、昭和四九年春闘において初めてストライキを行つた
が、翌五〇年五月同じ客室乗務員をもつて組織される全労客乗支部が結成され、一
部客乗組合員も組合を脱退して全労に加入し、ここに組合は事実上分裂し、両組合
はその勢力拡大の最重点を新人スチユワーデス獲得におき相きつ抗している。会社
は、分裂以降、全労育成、客乗組合の拡大阻止の姿勢をとりつづけているが、この
姿勢が根本的に改まつているとは認められない。かつて新人スチユワーデスは、客
室訓練所へ入所した時点では組合に入らず、訓練が終了しラインアウト(客室乗務
につくこと)してからその所属する組合を選択しており、その際多くの者は客乗組
合に加入したので、両組合の所属の比較では大多数が客乗組合員であつた。しか
し、五〇年一〇月一日会社が後記の地上研修制度、新組織編成を実施してからは、
ある程度両組合の勢力比が接近する状況になつた。そして、同時に当委員会におい
て不当労働行為と認定された以下の事実が発生した。①地上研修とは、新人スチユ
ワーデスを客室訓練所入所前の約三ケ月程度各事業所での地上勤務につかせる制度
であるが、会社はこの間全労組合員を世話役としてつかせ、全労の組合活動を助勢
した(昭和五二年不第一二七号事件、五二年五月一〇日決定、この地上研修中に新
人スチユワーデスは全員が全労に加入するようになつた)。また②新組織編成と
は、新人スチユワーデスを客乗組合員と接する機会がなくなるような内容の組織編
成であり、会社は、とくに客乗組合から脱退したチーフパーサーのグループに新人
スチユワーデスを配属させた(①に同じ)。③当時客乗組合を脱退したチーフパー
サーが客乗組合員に対し、脱退を勧誘したりした(①に同じ)。④五一年に会社が
実施したパーサーへの昇格選考に際し、客乗組合員を不平等に取扱つた(昭和五一
年不第九九号事件、五三年七月四日決定)。⑤管理職が所属スチユワーデス(客乗
組合員)に対し組合からの脱退工作を行つた(昭和五二年不第四三号事件、五三年
五月二三日決定)。そして、以上の救済命令のうち④を除き確定している。
(2) 会社は、五〇年末から五一年一月にかけて四回小田原MRAアジアセンタ
ーにおいて管理者研修を実施した。これは客室乗員部管理職、客室訓練所管理職の
ほか教官、教官候補をも対象とするものであつた。そのうち一月九日からの研修に
おける第二日目のグループ討議の際、a客室訓練所長、b客室乗員部次長などが中
心となつて客乗組合への非難と客乗組合からの参加者への集中質問をした。
(3) 以上のような一連の会社の行為の中で、新人スチユワーデスが組合問題で
どのような体験をしたか、以下cの場合についてみる。
① cは五一年四月一日入社し、地上研修として東京支店国内予約課に配属され
た。四月一六日、東京支店所属の研修生に対し会社の研修が行われたが、その際引
き続き全労のオリエンテーションが行われ、全労についての説明があつたあといく
つかのグループに分れて懇談会になり、「全労に入らなければクビになる」といっ
たリーダーの話もあり、そこで全労の加入届に署名した。
② 四月下旬から国内予約課で業務の研修に入つたがd課長から研修生一五、六名
に対し、日本航空における組合変遷の歴史についての説明があつたが、それは客乗
組合はストばかりする組合であるということを非難する趣旨のものであつた。
③ 八月二六日から訓練所における訓練となつた。朝礼の時間、a訓練所長は「赤
バツジ(客乗組合を示すもの)をつけてワイワイ騒でいるやからがいるけれども、
君たちはああいうふうにならないでくれ」といつた。
 また、F教官(全労所属)は、訓練も最終段階のレギユレーシヨンの時間に「こ
んなもの(レギユレーシヨン)は、テキストを見ればわかるから授業はやつたこと
にしておいてくれ」といつて、組合の話になり、そこでは客乗組合はストばかりや
つて乗客に迷惑ばかりかける組合であり、全労は会社と話合いにより問題解決して
いく組合であるといつた趣旨の話をした。
④ 研修もあとはOJTだけという段階の一二月一五日から二泊三日の合宿で、訓
練の一環としての生産性研修が小田原MRAセンターで行われた。この研修は、会
社と全労の共催になるもので全労の歴史、産業民主主義の話があり、講師のe全労
書記長が客乗組合を批判した。また、数名ずつの懇談会に出席したNスケジユーラ
ー(乗務日程を決める係で全労所属)は、「僕はスケジユーラーだから、君たちが
全労を抜けるとどうなるかわかるだろう」などといつた。
⑤ ラインアウト後五二年一月三一日、cは全労を脱退した。するとすぐ訓練所の
担当教官だつたOチーフパーサー(全労所属)から「びつくりしたよ、どうして移
つたのか理由を聞かせてくれ」との電話があり、これを断ると、後日さらに自宅近
くの駅から「組合の話をぜひしたい」との電話で呼び出され、喫茶店で会うと「ス
トばかりする客乗組合になぜ入ったか、どうして僕に相談しなかったのか」と質問
された。
3 客室乗務員の職種および客室訓練所
(1) 客室乗務員の職種は、先任チーフパーサー(管理職)、チーフパーサー
(男)、パーサー(男、女)、アシスタントパーサー(男、女)、そしてスチユワ
ーデス(女)からなり、職務内容は、これら職種、性別および乗務する機種に応じ
て定められている。
(2) 客室訓練所は昭和三四年に設置され、その後訓練内容、体制も整備され
て、五一年八月以来客室乗員部の内部機構として位置づけられている。そして、こ
こにおいて(ア)新人養成訓練(新規採用した客室乗務員に対し、前記地上研修終
了後乗務前に行う訓練)、(イ)昇格訓練(上位職種への昇格に際し行う訓練)、
(ウ)移行訓練(国内線乗務から国際線乗務へ、あるいは日本アジア航空株式会社
への移籍に際し行う訓練)および(エ)再訓練などが実施されている。訓練の概要
を本件で最も問題となる新人養成訓練に例をとると、つぎの表のとおりである。
<06253-001>
4 客室訓練所教官とその任用
(1) 以上の各訓練を実施するために、会社は常時二〇名ないし四〇名程度の教
官(教官と教官補の総称)を客室訓練所に配置しており、その任期は男は二年、女
は一年を原則としている。これら教官は客室乗務員のうちチーフパーサー、パーサ
ー(男、女)、アシスタントパーサー(女)から選任されるもので、五二年一二月
末(本件申立時)の教官数は四一名であり、管理職は含まれていない。そして、教
官として任用されるための資格および経験の基準は、教官の場合、チーフパーサ
ー、またはパーサーで乗務経験三年以上の者とされ、また教官補の場合アシスタン
トパーサーで乗務経験一年以上の者とされ、教官に任用された者は、訓練を担当す
る前約一週間の任用訓練をうけるものとされている。会社は、以上の資格および経
験基準に合致する乗務員のうちから、①専門知識、サーヴイス技倆、サーヴイス精
神等客室乗務員として備えるべき能力に秀でていること、②会社の公共的輸送機関
として社会的使命を踏まえた上で訓練生を教えることのできる健全な常識と円満な
性格を有していること、③指導教育に対する適性を有していることといつた任用指
針を策定し、訓練の種類、ラインの事情などを勘案の上教官を任用している。
(2) 教官は、以上のような基準に合致する経験および識見をもつた客室乗務員
であり、とくにクラスの担任となる教官は、それぞれ約二○名のクラスの訓練生に
とつて、ただ職場の良い先輩として業務上の知識を教えてくれる者というにとどま
らず、あらゆる面で頼られ、これに対し職務の内外を問わず有形無形の影響を与え
る存在である。そして、このことは上記のように複数の組合が存する本件の場合、
組合の選択ないし加入脱退などの問題についもて同様の影響の及ぶことは自然のな
りゆきである。例えば、担当教官が全労組合員である場合、いつたんは全労に所属
した訓練生が、訓練所をはなれてラインアウトした後でも全労を脱退して客乗組合
に加入することは「教官の顔をつぶすこと」であり、「教官の出世に差し支えるの
ではないか」と新人スチユワーデスは思うほどであつて、現にいつたん加入した全
労を脱退して客乗組合に加入した新人スチユワーデスの何人かは、前記、cの例で
みるようにかつての担当教官から「なぜ組合を移つたのか」、「なぜ移る前に自分
に相談してくれなかつたのか」などと問い質されている。
5 組合別、職種別の教官数
(1) 会社は、各種訓練の実施状況などに応じ、昭和五二年の一年間に五回の教
官人事(任用、解任)を行つたが、その結果同年末における教官四一名を組合別、
職種別にその従業員数と対比してみるとつぎの表のとおりとなる。
<06253-002>
(2) 会社は、本件が申立てられて後五三年には五回の教官人事を行つたが、そ
の結果同年末における教官四二名を組合別、職種別にその従業員と対比してみると
つぎの表のとおりとなり、前表と比較し申立人組合所属の教官が若干増加し、とく
にアシスタントパーサーに著しい。
<06253-003>
<06253-004>
6 昭和五二年四月の教官任用の経緯
(1) 昭和五二年四月発令の教官は一一名であつた。まず同年二月客室訓練所長
から教官の任用権者である客室乗員部長に対して、チーフパーサーから二名、パー
サー(男)から五名、アシスタントパーサー(女)から四名の計一一名を同年四月
に教官として選出して欲しいという要請(職種別に教官歴の有無、乗務職の経験程
度、国際線、国内線の別についての要請と併せて)があつた。客室乗員部では、チ
ーフパーサーの場合現職経験三年以上、パ一サーの場合現職経験五年以上など訓練
所長からの要請も考慮して一一名の選出を国際第一乗員室、同第二乗員室、国内乗
員室に割りふり、さらに前二者の場合これをそれぞれの第一課および第二課に割り
ふつた。その結果、国際第二乗員室第一課の場合、チーフパーサー、パーサー、ア
シスタントパーサー各一名を選出することとなり、結局、パ一サーでf(全労所
属)、アシスタントパーサーでg(全労所属)がそれぞれ選出された。
(2) fおよびgの選出経緯は以下のとおりである(なお、同課には客乗組合員
で現職経験三年以上かつ教官経験者という条件をみたすチーフパーサーはいなかつ
たのでこれの選出経緯については検討から除外する)。
① 国際第二乗員室第一課には、前述の条件をみたすパーサー(男)一二名がお
り、うち三名は病気など選任されなかつたことに特別の理由があるのでこれを除き
残る九名につき、その所属組合をみると客乗組合六名、全労一名、無所属二名とい
うことになる。結果として唯一の全労組合員fが選出されたのは、配下乗務員に対
する指導力、統率力や機内業務の効率的運営(このことは査察レポートも高く評価
している)さらにグループミーテイングでの発言からみて、九名の候補者中教官と
して最適任と会社から評価されたためとされている。
② さらに同課からのアシスタントパーサー(女)教官選出について、課長は課内
各グループの長たる先任チーフパーサー(管理職)に推せんを依頼した。gを推せ
んしたr先任チーフパーサーのグループには、除かれることに病気など特別の理由
ある者のほか一二名のアシスタントパーサーがおり、所属組合別は客乗組合一〇名
全労二名であつた。r先任チーフパーサーはその中からgを課長に推せんしたが、
他グループからTとNの各アシスタントパーサーが推せんされ、同課としては結局
三名のうちgを教官として選出することとした。gは全労組合員でT、Nはともに
客乗組合員であつた。r先任チーフパーサーがgを推せんしたこと、さらに課とし
てgを選出したことにつき、会社はその理由としてgは、上司に接するときの態度
や乗客からのコメントカードなどからみて明朗さ、業務への姿勢、後輩の指導など
の面で、他の候補者に比較して相対的に優れていたと評価したことを挙げており、
そのことはT、Nを推せんした先任チーフパーサーにも異論がなかつたとされてい
る。
(3) 以上の経緯で選出されたf、gを含め客室乗員部各室各課より推せんをう
けたチーフパーサー、パーサー、アシスタントパーサー計一一名について五二年三
月二五日、三〇日の両日客室乗員部長、同次長、各室長、各課長および客室訓練所
長などによる最終的な検討会議が開催され一一名全員が教官としての適性を有する
ものとしてそのまま承認され、同年四月教官として発令された。
第2 判断
1 当事者の主張
(1) 申立人の主張はつぎのとおりである。
 職種別にみて教官数が組合人数比と全く不均衡になつているのは、会社が地上研
修制度導入以来、全労に加入した新人スチユーワーデスがラインアウト後も全労に
とどまるよう新人スチユワーデスに影響力の大きい訓練所教官の発令に際し、客乗
組員を不利に扱い、組合の弱体化を企図したものであり、教官の職種別所属組合比
に均衡した教官配置がなされるべきである。
2 被申立人の主張はつぎのとおりである。
 会社は、教官任用にあたり、各候補とされた者につき所属組合などは全く考慮せ
ず各々適正、能力、業務上の都合などを検討し決定したもので、会社の当然の人事
権の行使である。もともと組合間の人数割に応じて教官の適格者が存在するという
ものではないから、本件にはいわゆる大量観察の適用はない。さらに本件教官配置
が組合活動の弱体化につながるとする申立人の主張は、全く理解できない。したが
つて本件救済は許さるべきでない。
2 当委員会の判断
(1)① 前記認定のとおり、会社は、組合分裂以降一貫して全労育成、客乗組合
の拡大阻止を図り、とりわけ、五〇年一〇月、地上研修制度、新組織編成の実施以
後は、両組合の勢力比も接近してきている。このような事情のもとで、客室訓練所
教官の新人スチユワーデスに及ぼす大きな影響力からみて(第1、4(2))、会
社としては、同教官の任命にあたり、その組合所属の如何について多大の関心を払
つたであろうことは推認に難くない。
② そして五一年一月行われた管理者研修において、客乗組合を非難したb客室乗
員部次長が、本件教官の選任に関与していたとみられること(第1、2、
(2))、とくに、五一年四月に入社した新人スチユワーデスに対する訓練中ない
し、その前後における管理職および全労所属の教官による一連の客乗組合批判の言
動について、会社はこれを黙認ないし放置していること(第1、2(3))などか
らすれば、会社は、客室訓練所の教官としては客乗組合所属の者より、むしろ全労
所属の者を好ましく思つていたとみられる。
(2) 他方、①本件教官人事は、当該職種における一定の経験基準に合致する者
のうち、専門知識、サーヴイス技倆に秀で、指導の適性を有する者が選任されるこ
とになつている(第1、4(1))が、この基準はおおむね職種別任用基準に類似
している。それは、いわゆるエリートを選ぶのではなく、一定の水準に到達してい
る客室乗務員であれば、ほぼその任に耐えるものとみなされる性質のものであり、
このことは教官としての在職期間がそれほど長期でなく、たえず交替していること
(五二年、五三年の例では各年五回の発令)からもうかがえる。したがつて、本件
教官の任用に際しても、一定の水準にある者は、同一の選考対象になりうると解さ
れるものであつて、前記候補にのぼつた他の中にも適任者がいなかつたとはいえ
ず、それ以上にこれら複数の該当者が存在した場合における優劣決定のための客観
的基準としては、前記会社の定めた基準は不十分である。
② ところで、五二年四月におけるfパーサーの選任状況をみると、会社は、「グ
ループミーテイングでのf発言などに対する課長の評価」「乗務後のチーフパーサ
ーの報告」「同乗のスチユワーデスの話」「査察レポート」などを総合し、fが指
導面、業務遂行面およびコミユニケーシヨン面で、九名の候補者中最も優れていた
ので同人を選任したという。しかしこれら評価の対象とされた事項は、かなり一時
的、断片的なもので各候補者に対し共通のものとは認められないことからすれば、
評価の尺度が客観的に確立されていたわけではなく、評価する者の主観により結論
が左右されがちな側面をかなり有しているものとみられる。
③ gアシスタントパーサーの選任についても②と同様である。もつとも、会社が
fおよびgを選任したことは、それ自体不適切な者を選任したというごときもので
ないであろう。
④ しかし、そのこととは別に、前記第2、2(1)で判断したように、会社が両
組合の一方を有利に取扱う態度が認められる本件においては、会社の上記選考判断
のなかで、いずれかの組合員であることによる積極・消極の評価が混入したものと
推認せざるをえない。
(3) 以上(1)、(2)を総合すれば、昭和五二年四月の教官人事において、
職種別に組合員数と教官数との人数比に著しい不均衡がみられるのは、会社の公正
かつ客観的な人選の結果たまたまそうなつたものであるとは認め難く、むしろ会社
が申立人組合所属の者としからざる者とを差別し、申立人組合の弱体化を意図した
ことによる結果であると判断せざるをえず、これをくつがえすに足る特段の事情も
認められない。
3 救済の程度
(1) 会社は、第1、5(2)で認定したとおり、その後の教官発令において申
立人組合所属の者を多く採用しており(とくにアシスタントパーサー)、結果とし
て五三年末現在の教官数は両組合員数の対比でかなり接近してきている。
(2) 以上の事情を考慮すると、会社に対し、今直ちに職種別教官の人数比の不
均衡是正を命ずることは相当ではなく、教官の任期が二年であることにかんがみ今
後二年間、会社が教官の選任を行う機会に逐次これらが不均衡にならないよう留意
しつつ、教官の発令人事を行うならば、本件の目的は十分達しうるものと思料され
る。
第3 法律上の根拠
 以上の次第であるから、会社がなした本件客室訓練所教官の発令は、労働組合法
第七条第三号に該当する。よつて、同法第二七条および労働委員会規則第四三条を
適用して主文のとおり命令する。
別紙(二)~(四)(省略)

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