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平成23年7月25日判決言渡
平成19年(行ウ)第591号懲戒処分取消等請求事件
主文
1原告らの請求をいずれも棄却する。
2訴訟費用は原告らの負担とする。
事実及び理由
第1当事者の求めた裁判
1原告ら
(1)東京都教育委員会が,別紙2懲戒処分等一覧表の「処分日」欄記載の日付
で,各原告らに対して行った同別紙の「処分内容」欄記載の各懲戒処分(た
だし,同別紙の番号「21-2」の懲戒処分を除く。)をいずれも取り消す。
(2)被告は,原告らに対し,各原告に対応する別紙2懲戒処分等一覧表の「請
求金額」欄記載の金員及びこれに対する平成19年10月11日(訴状送達
日の翌日)から支払済みまで年5分の割合による金員を支払え。
(3)訴訟費用は被告の負担とする。
(4)(2)項につき仮執行宣言
2被告
(1)本案前の答弁
上記1(1)の請求に係る訴えのうち,原告P1,原告P2,原告P3,原告
P4,原告P5,原告P6,原告P7,原告P8,原告P9,原告P10,
原告P11,原告P12,原告P13,原告P14,原告P15,原告P1
6,原告P17,原告P18,原告P19,原告P20,原告P21,原告
P22,原告P23,原告P24及び原告P25(以下,併せて「原告P1
ら25名」という。)に係る各懲戒処分の取消しを求める部分の訴えを却下
する。
(2)本案に対する答弁
原告らの請求をいずれも棄却する。
(3)訴訟費用は原告らの負担とする。
(4)上記1(4)につき担保を条件とする仮執行免脱宣言
第2事案の概要等
1事案の概要
本件は,東京都教育委員会(以下「都教委」という。)が,東京都内の都立
高等学校又は都立養護学校の教職員であった原告ら66名について,平成17
年3月4日から平成18年4月7日までの間に原告らの所属校で行われた卒業
式又は入学式(以下「卒業式等」という。)において,各所属校の校長(以下
「本件各校長」という。)から,事前に,①国旗に向かって起立し,国歌を斉
唱することを命ずる職務命令を受けていたにもかかわらず,国歌斉唱時に起立
せず(以上は,原告P21及び原告P26を除く原告らの関係),②国歌斉唱
時にピアノによる国歌の伴奏をすることを命ずる職務命令を受けていたにもか
かわらず,ピアノ伴奏を行わなかった(以上は,原告P21及び原告P26関
係)のは,地方公務員法(以下「地公法」という。)32条,33条に違反す
るとして,地公法29条1項1号ないし3号に基づき,原告らに対し,別紙2
懲戒処分等一覧表の「処分日」欄記載の日付に「処分内容」欄記載の各懲戒処
分(以下,各懲戒処分を併せて,「本件各処分」という。)をしたことから,
原告らが,本件各処分は憲法19条,20条,23条,26条,31条,教育
基本法(ただし,平成18年法律第120号による改正前のもの。以下同じ。)
10条1項に違反するなどと主張して,本件各処分の取消しを求めるとともに,
本件各処分により精神的苦痛を被ったと主張して,都教委の設置者である被告
に対し,国家賠償法に基づき,損害賠償(慰謝料)を求める事案である。
2前提事実(当事者間に争いのない事実及び掲記の証拠により容易に認定でき
る事実)
(1)当事者
ア原告ら
(ア)原告らは,いずれも,本件各処分を受けた当時,別紙2懲戒処分等
一覧表の「勤務学校」欄記載の学校に勤務する教職員(原告P27は実
習助手。その余の原告らはいずれも教員。)であった者である。
(イ)本件各処分として戒告処分の取消しを求める原告ら(ただし,戒告
処分と併せて,その後に受けた減給処分の取消しを求めている者を除
く。)のうち,原告P1ら25名は,本件訴訟の口頭弁論終結日までの
間に東京都を退職した。
イ被告は,地方自治法180条の5第1項1号,地方教育行政の組織及び
運営に関する法律(以下「地教行法」という。)2条に基づき,都教委を
設置する地方公共団体である。
都教委は,その権限に属する事務を処理させるため,事務局として東京
都教育庁(以下「都教育庁」という。)を置いている(地教行法18条1
項)。また,都教委が任命した教育長(地教行法16条1項)は,都教委
の指揮監督の下に,都教委の権限に属する全ての事務をつかさどるほか(地
教行法17条1項),都教育庁の事務を統括し,所属の職員を指揮監督す
る者である(地教行法20条1項)。
(2)本件に関係する法令等の規定内容
ア国旗及び国歌に関する法律(以下「国旗国歌法」という。)
1条1項国旗は,日章旗とする。
2条1項国歌は,君が代とする。
イ教育基本法
1条教育は,人格の完成をめざし,平和的な国家及び社会の形成者
として,真理と正義を愛し,個人の価値をたつとび,勤労と責任
を重んじ,自主的精神に充ちた心身ともに健康な国民の育成を期
して行われなければならない。
10条1項教育は,不当な支配に服することなく,国民全体に対し直
接に責任を負つて行われるべきものである。
2項教育行政は,この自覚のもとに,教育の目的を遂行するに
必要な諸条件の整備確立を目標として行われなければならな
い。
ウ学校教育法(ただし,平成19年法律第96号による改正前のもの。以
下同じ。)
第2章小学校
17条小学校は,心身の発達に応じて,初等普通教育を施すことを目
的とする。
18条小学校における教育については,前条の目的を実現するために,
次の各号に掲げる目標の達成に努めなければならない。
2号郷土及び国家の現状と伝統について,正しい理解に導き,
進んで国際協調の精神を養うこと。
20条小学校の教科に関する事項は,第17条及び第18条の規定に
従い,文部科学大臣が,これを定める。
28条3項校長は,校務をつかさどり,所属職員を監督する。
6項教諭は,児童の教育をつかさどる。
第3章中学校
35条中学校は,小学校における教育の基礎の上に,心身の発達に応
じて,中等普通教育を施すことを目的とする。
36条中学校における教育については,前条の目的を実現するために,
次の各号に掲げる目標の達成に努めなければならない。
1号小学校における教育の目標をなお充分に達成して,国家及
び社会の形成者として必要な資質を養うこと。
38条中学校の教科に関する事項は,第35条及び第36条の規定に
従い,文部科学大臣が,これを定める。
40条第18条の2,第21条,第25条,第26条,第28条から
第32条まで及び第34条の規定は,中学校に,これを準用する。
第4章高等学校
41条高等学校は,中学校における教育の基礎の上に,心身の発達に
応じて,高等普通教育及び専門教育を施すことを目的とする。
42条高等学校における教育については,前条の目的を実現するため
に,次の各号に掲げる目標の達成に努めなければならない。
1号中学校における教育の成果をさらに発展拡充させて,国家
及び社会の有為な形成者として必要な資質を養うこと。
43条高等学校の学科及び教科に関する事項は,前2条の規定に従い,
文部科学大臣が,これを定める。
51条第18条の2,第21条,第28条第3項から第12項まで及
び第34条の規定は,高等学校に,これを準用する。(以下略)
第6章特殊教育
71条盲学校,
ろう
聾学校又は養護学校は,それぞれ盲者(強度の弱視者
を含む。以下同じ。),
ろう
聾者(強度の難聴者を含む。以下同じ。)
又は知的障害者,肢体不自由者若しくは病弱者(身体虚弱者を含
む。以下同じ。)に対して,幼稚園,小学校,中学校又は高等学
校に準ずる教育を施し,あわせてその欠陥を補うために,必要な
知識技能を授けることを目的とする。
73条盲学校,
ろう
聾学校及び養護学校の小学部及び中学部の教科,高等
部の学科及び教科又は幼稚部の保育内容は,小学校,中学校,高
等学校又は幼稚園に準じて,文部科学大臣が,これを定める。
76条(略)第28条(第40条,第51条及び第82条において準
用する場合を含む。)(略)の規定は,盲学校,
ろう
聾学校及び養護
学校に,(略)これを準用する。
エ学校教育法施行規則(ただし,平成19年12月25日文部科学省令第
40号による改正前のもの。以下同じ。)
25条小学校の教育課程については,この節に定めるもののほか,教
育課程の基準として文部科学大臣が別に公示する小学校学習指導
要領によるものとする。
54条の2中学校の教育課程については,この章に定めるもののほか,
教育課程の基準として文部科学大臣が別に公示する中学校学習指
導要領によるものとする。
57条の2高等学校の教育課程については,この章に定めるもののほ
か,教育課程の基準として文部科学大臣が別に公示する高等学校
学習指導要領によるものとする。
73条の10盲学校,
ろう
聾学校及び養護学校の教育課程については,こ
の章に定めるもののほか,教育課程の基準として文部科学大臣が
別に公示する盲学校,
ろう
聾学校及び養護学校幼稚部教育要領,盲学
校,
ろう
聾学校及び養護学校小学部・中学部学習指導要領及び盲学校,
ろう
聾学校及び養護学校高等部学習指導要領によるものとする。
オ学習指導要領(本件の卒業式等当時のもの)
(ア)小学校学習指導要領及び中学校学習指導要領はそれぞれ第4章にお
いて,高等学校学習指導要領は第3章において,特別活動に関し,以
下のとおり規定している。[甲311,乙23]
「第2内容
A~C略
D学校行事
学校行事においては,全校又は学年を単位として,学校生活に
秩序と変化を与え,集団への所属感を深め,学校生活の充実と発
展に資する体験的な活動を行うこと。
(1)儀式的行事
学校生活に有意義な変化や折り目を付け,厳粛で清新な気分
を味わい,新しい生活の展開への動機付けとなるような活動を
行うこと。
(2)(以下,省略)」
「第3指導計画の作成と内容の取扱い
1・2略
3入学式や卒業式などにおいては,その意義を踏まえ,国旗を掲
揚するとともに,国歌を斉唱するよう指導するものとする。」(以
下,この定めを「国旗国歌条項」という。)
(イ)盲学校,
ろう
聾学校及び養護学校小学部・中学部学習指導要領,特別活
動に関し,以下のとおり規定している。[甲439,乙54]
「小学部又は中学部の特別活動の目標,内容及び指導計画の作成と内
容の取扱いについては,それぞれ小学校学習指導要領第4章又は中学
校学習指導要領第4章に示すものに準ずるほか,次に示すところによ
るものとする。
1略
2児童又は生徒の経験を広めて積極的な態度を養い,社会性や豊か
な人間性をはぐぐむために,集団活動を通して小学校の児童又は中
学校の生徒及び地域の人々などと活動を共にする機会を積極的に設
けるようにする必要があること。その際,児童又は生徒の障害の状
態や特性等を考慮して,活動の種類や時期,実施方法等を適切に定
めること。」
(ウ)盲学校,
ろう
聾学校及び養護学校高等部学習指導要領は,特別活動に関
し,以下のとおり規定している。[甲439,乙54]
「特別活動の目標,内容及び指導計画の作成と内容の取扱いについて
は,高等学校学習指導要領第4章に示すものに準ずるほか,次に示す
ところによるものとする。
1略
2生徒の経験を広めて積極的な態度を養い,社会性や豊かな人間性
をはぐぐむために,集団活動を通して高等学校の生徒及び地域の人
々などと活動を共にする機会を積極的に設けるようにする必要があ
ること。その際,生徒の障害の状態や特性等を考慮して,活動の種
類や時期,実施方法等を適切に定めること。
3知的障害者を教育する養護学校において,内容の指導に当たって
は,個々の生徒の知的発達の遅滞の状態や発達段階に応じて,適切
に指導の充填を定め,具体的に指導する必要があること。」
カ地教行法
23条教育委員会は,当該地方公共団体が処理する教育に関する事務
で,次に掲げるものを管理し,及び執行する。
3号教育委員会及び学校その他の教育機関の職員の任免その他
の人事に関すること。
5号学校の組織編制,教育課程,学習指導,生徒指導及び職業
指導に関すること。
8号校長,教員その他の教育関係職員の研修に関すること。
キ地公法
29条1項職員が次の各号の一に該当する場合においては,これに対
し懲戒処分として戒告,減給,停職又は免職の処分をするこ
とができる。
1号この法律若しくは第57条に規定する特例を定めた法律
又はこれに基く条例,地方公共団体の規則若しくは地方公
共団体の機関の定める規程に違反した場合
2号職務上の義務に違反し,又は職務を怠つた場合
3号全体の奉仕者たるにふさわしくない非行のあつた場合
30条すべて職員は,全体の奉仕者として公共の利益のために勤務し,
且つ,職務の遂行に当つては,全力を挙げてこれに専念しなけれ
ばならない。
32条職員は,その職務を遂行するに当つて,法令,条例,地方公共
団体の規則及び地方公共団体の機関の定める規程に従い,且つ,
上司の職務上の命令に忠実に従わなければならない。
33条職員は,その職の信用を傷つけ,又は職員の職全体の不名誉と
なるような行為をしてはならない。
(3)都教委の通達
ア都教委のP28教育長は,平成15年10月23日,都立高等学校長及
び都立盲・ろう・養護学校長(以下,これらの学校を併せて「都立学校」
と,その校長を「都立学校長」という。また,盲・ろう・養護学校を「養
護学校等」と,その校長を「養護学校等校長」と,都立盲・ろう・養護学
校を「都立養護学校等」と,その校長を「都立養護学校等校長」という。)
に対し,都立学校長に対する職務命令として,以下のとおりの内容の「入
学式,卒業式等における国旗掲揚及び国歌斉唱の実施について(通達)」
(以下「本件通達」といい,本件通達の別紙「入学式,卒業式等における
国旗掲揚及び国歌斉唱に関する実施指針」を「本件実施指針」という。)
を発出した。[甲1,乙14の3]
「1学習指導要領に基づき,入学式,卒業式等を適正に実施すること。
2入学式,卒業式等の実施に当たっては,別紙『入学式,卒業式等に
おける国旗掲揚及び国歌斉唱に関する実施指針』のとおり行うものと
すること。
3国旗掲揚及び国歌斉唱の実施に当たり,教職員が本通達に基づく校
長の職務命令に従わない場合は,服務上の責任を問われることを,教
職員に周知すること。」
「別紙
入学式,卒業式等における国旗掲揚及び国歌斉唱に関する実施指針
1国旗の掲揚について
入学式,卒業式等における国旗の取扱いは,次のとおりとする。
(1)国旗は,式典会場の舞台壇上正面に掲揚する。
(2)国旗とともに都旗を併せて掲揚する。この場合,国旗にあっては
舞台壇上正面に向かって左,都旗にあっては右に掲揚する。
(3)屋外における国旗の掲揚については,掲揚塔,校門,玄関等,国
旗の掲揚状況が児童・生徒,保護者その他来校者が十分認知できる
場所に掲揚する。
(4)国旗を掲揚する時間は,式典当日の児童・生徒の始業時刻から終
業時刻とする。
2国歌の斉唱について
入学式,卒業式等における国歌の取扱いは,次のとおりとする。
(1)式次第には,「国歌斉唱」と記載する。
(2)国歌斉唱に当たっては,式典の司会者が,「国歌斉唱」と発声し,
起立を促す。
(3)式典会場において,教職員は,会場の指定された席で国旗に向か
って起立し,国歌を斉唱する。
(4)国歌斉唱は,ピアノ伴奏等により行う。
3会場設営等について
入学式,卒業式等における会場設営等は,次のとおりとする。
(1)卒業式を体育館で実施する場合には,舞台壇上に演台を置き,卒
業証書を授与する。
(2)卒業式をその他の会場で行う場合には,会場の正面に演台を置
き,卒業証書を授与する。
(3)入学式,卒業式等における式典会場は,児童・生徒が正面を向い
て着席するように設営する。
(4)入学式,卒業式等における教職員の服装は,厳粛かつ清新な雰囲
気の中で行われる式典にふさわしいものとする。」
イ都教委は,同日,都立学校長を対象者として,「教育課程の適正実施に
かかわる説明会」(以下「本件説明会」という。)を開催した。その際,
P29都教育庁指導部長(以下「P29指導部長」という。)は,本件通
達は都立学校長に対する職務命令であると説明した。
(4)本件各処分
ア(ア)本件各校長は,原告らのそれぞれの所属校において,別紙2懲戒処
分等一覧表の「行為日」欄記載の日に行われた同別紙の「行事」欄記載
の学校行事(平成16年度卒業式,平成17年度入学式,同年度卒業式
又は平成18年度入学式)に先立ち,同別紙の「職務命令」欄記載のと
おり,原告P21及び原告P26に対しては,行事における国歌斉唱の
際に,楽譜に従ってピアノでの伴奏をすること(以下「ピアノ伴奏」と
略称する。)を内容とする職務命令を,その余の原告らに対しては,行
事における国歌斉唱の際に,会場内の指定された席で国旗に向かって起
立し,国歌を斉唱すること(以下「起立斉唱」と略称し,これとピアノ
伴奏とを併せて「起立斉唱等」と略称する。)を内容とする職務命令を,
それぞれ発令した(以下,これらの職務命令を併せて「本件各職務命令」
という。)。
(イ)原告らは,別紙2懲戒処分等一覧表の「行為日」欄記載の日に行わ
れた同別紙の「行事」欄記載の卒業式等において,本件各職務命令に従
わず,原告P21及び原告P26は国歌斉唱時にピアノ伴奏を行わず(以
下,これを「本件不伴奏」という。),その余の原告らは,国歌斉唱時
に起立しなかった(以下,国歌斉唱時に起立しないことを「不起立」と
略称し,上記原告らの不起立を「本件不起立」といい,これと本件不伴
奏とを併せて「本件不起立等」という。)。
イ都教委は,原告らに対し,平成16年度卒業式,平成17年度入学式,
同年度卒業式又は平成18年度入学式における原告らの本件不起立等は,
それぞれ地公法32条違反(職務命令違反)及び同法33条違反(信用失
墜行為)に当たるとして,別紙2懲戒処分等一覧表の「処分日」欄記載の
日付で「処分内容」欄記載の各懲戒処分を行った(以下,これらの懲戒処
分のうち,1か月間給料10分の1を減じる処分を「減給処分10分の1
・1月」と,6か月間給料10分の1を減じる処分を「減給処分10分の
1・6月」と,1か月間の停職処分を「停職処分1月」とそれぞれ略称す
る。)。
(5)東京都人事委員会に対する審査請求
原告らは,いずれも,本件各処分を不服として,それぞれ別紙2懲戒処分
等一覧表の「審査請求日」欄記載の日付で,本件各処分(ただし,同別紙の
番号「21-2」の減給処分10分の1・1月を除く。)の取消しを求めて
審査請求をしたが,いずれの審査請求についても,審査請求日から3か月が
経過しても裁決はされていない。
(6)訴えの提起
原告らは,平成19年9月21日,当庁に対し,本件訴訟を提起した。
3争点
(1)本案前の争点
戒告処分を受けた後に退職した者は戒告処分の取消しを求める訴えの利益
を有しているか
(2)本案の争点
ア本件通達,本件各職務命令及び本件各処分は原告らの思想・良心の自由
を侵害する憲法19条違反のものであるか
イ本件通達,本件各職務命令及び本件各処分は原告らの信教の自由を侵害
する憲法20条違反のものであるか
ウ本件通達及び本件各職務命令は原告らの教師の専門職上の自由を侵害す
る憲法13条,23条及び26条違反のものであるか
エ学習指導要領(国旗国歌条項)の法的拘束力の有無
オ本件通達及び本件各職務命令は教育基本法10条1項が禁止する「不当
な支配」に当たるものであるか
カ本件通達及び本件各職務命令は国際条約(自由権規約,児童の権利に関
する条約)に違反する無効なものであるか
キ原告らの本件不起立等は地公法32条,33条に違反する行為であるか
ク本件各処分は憲法31条の定める適正手続に違反するものであるか
ケ本件各処分は裁量権を逸脱又は濫用したものであるか
コ原告らの損害の有無及び額
第3争点に関する当事者の主張
1本案前の争点(戒告処分を受けた後に退職した者は戒告処分の取消しを求め
る訴えの利益を有しているか)
(1)被告の主張
公務員に対する懲戒処分としての戒告処分は,「その責任を確認し,及び
その将来を戒めるもの」であり(人事院規則12-10第4条参照),その
法的効果は,公務員が在職していることを前提として認められるものである
から,公務員が退職した場合には,当該公務員に対する戒告処分の法的効力
はないものとなる。したがって,既に東京都を退職して公務員の身分を失っ
た原告P1ら25名は,本件各処分(戒告処分)の取消しを求める法律上の
利益を有しておらず,原告P1ら25名に係る本件各処分の取消しを求める
部分の訴えは,不適法であり,却下されるべきである。
(2)原告らの主張
行政事件訴訟法(以下「行訴法」という。)9条は,処分の効果が期間の
経過その他の理由によりなくなった後においても,処分の取消しによって回
復すべき法律上の利益がある者は,訴えの利益を有する旨を定めている。東
京都においては,戒告処分を受けた教職員は,3か月の昇級延伸を受けるこ
ととなり(昭和52年3月22日付け51教人勤発第142号及び昭和63
年4月1日付け63教人勤発第5号),勤勉手当の支給においても,1年間
の勤勉手当が10%削減されることとなり(学校職員の勤勉手当に関する規
則。昭和54年3月20日付け教育委員会規則第16号及び平成15年7月
1日付け教区委員会規則第32号),また,懲戒処分を受けたことは,退職
後の再任用や再雇用の場面で,従前の勤務実績等の評価において不利に評価
される事由とされているところ,このように,当該処分によって不利益を被
る可能性が,法令上の仕組として予定されている場合には,当該処分の取消
しによってこれらの不利益が回復されることになる。したがって,原告P1
ら25名は,退職後においても,本件各処分(戒告処分)の取り消しによっ
て回復すべき法律上の利益があるから,戒告処分の取消しを求める訴えの利
益を有する。
2本件通達,本件各職務命令及び本件各処分は原告らの思想・良心の自由を
侵害する憲法19条違反のものであるか
(1)原告らの主張
ア原告らが本件不起立等を行った理由は,①日の丸・君が代は,戦前にお
ける日本の軍国主義の象徴であり,過去の歴史に対する反省,平和主義の
思想等から,起立斉唱等をすることはできない,②多様な価値観がある事
柄について,権力側が一律に一定の行動や思想を強制することは許される
べきではなく,国民の間に多様な考え方のある日の丸・君が代に対して起
立斉唱等をすることはできない,③教師が行政に服従し,軍国主義教育の
下で教え子を戦場に送り出したという戦前教育に対する反省等から,教師
として起立斉唱等をすることはできない,④権力的強制に屈して起立斉唱
等をすることは,人権尊重や自主的思考の重要性を強調する教育実践を否
定するものであり,教師として起立斉唱等をすることはできない,⑤生徒
の中には,その国籍,信仰,平和思想等から,日の丸・君が代を受け入れ
ることができない者が多数存在しており,これら生徒達の人権を最大限保
障するという教育信条から,教師として起立斉唱等をすることはできない
などといったものである。なお,原告らが本件不起立等を行った理由は,
各原告それぞれのものがあり,以上の理由に限定されるわけではなく,ま
た,いくつかの理由が複合したりしている。
原告らの上記本件不起立等の理由は,原告らの,日の丸・君が代が戦前
の日本の軍国主義とアジア諸国への侵略を支援したことを踏まえた日本の
歴史を反省するとともに,戦争と国家忠誠に反対する思想,平和を志向す
る思想,学校の現場で教え子を戦争に送ることに反対し,子ども達の教育
に日の丸・君が代を持ち込むことを否定する思想,一般的な日の丸・君が
代の意義は肯定しつつも,多種多様な価値観の存在を前提とする教育の現
場における強制は教育の本質にそぐわないとする教育観(教師としての良
心)等に基づくものである。そして,原告らは,以上の思想,信条等に根
ざした人格的核心として,「卒業式等において国旗に向かって起立し,国
歌を斉唱できないという考え」あるいは「卒業式等の国歌斉唱時にピアノ
伴奏できないという信念」を有している。
イ思想・良心の自由は,個人の内面的態様それ自体を保障する原理的保障
としての意味を強く持っているから,憲法19条による保障の対象は,人
の内心活動一般として広範かつ包摂的にとらえられるべきである。上記ア
で挙げたもの(以下「原告らの信念等」という。)は,いずれも原告らの
人生経験,教育経験などに基づく人格的発展とともに形成され確立された
ものであり,人格形成の核心を成す思想に当たり,思想・良心の内容とし
て,憲法19条の保障の対象となるものである。
思想・良心の自由を保障する憲法19条は,公権力が特定の思想の強制
又は勧奨を行うこと,すなわち,公権力が特定の思想を個人に注入するこ
とを絶対的に禁じている。したがって,国家が,特定の思想に沿った行為
を強制することや,特定の思想にそぐわない行為を禁止することを通じて
特定の思想を国民に広めていくことは,憲法19条が禁じる特定の思想の
強制又は干渉に当たる。
また,公権力が法令によって特定の行為を義務付けた場合,自己の思想
に反することを理由に当該法令への服従を拒むことができるかが問題とな
るが,①当該義務によって課されている行為が,その行為の客観的性質か
らして,個々人の自律的な価値判断に委ねられるべき事柄であるとき(例
えば,神社参拝の義務付け),又は,②当該義務が課されることによって,
個々人の人間性の核心が否定されることになると判断されるとき(例えば,
兵役)には,法令による義務付けは,憲法19条に違反し,自己の思想・
良心に反することを理由に当該法令に従うことを拒むことができると解す
べきである。
さらに,思想・良心の自由は,憲法19条によって保障された絶対的自
由であるところ,思想・良心と密接不可分な外部的行為を行うことを強制
することについても,当該行為が思想と直接矛盾抵触するような行為であ
る場合には,外部的行為を強制すること自体が内心に反する行為を強制す
ることとなるから,憲法19条に違反する。
ウ国家とどう向き合うかというのは,個々人の自律的な価値判断に委ねら
れるべき事柄であるところ,我が国のシンボルとされている国旗・国歌に
関して,国旗(日の丸)に正対しながら起立し,国歌(君が代)を斉唱す
るという行為(起立斉唱)は,以下(ア)~(ウ)のとおり,国家ないし天皇
に対して敬意を表し,賛美する性質を有するものであり,それ自体が国家
への帰属に肯定的な価値を認めるという特定の思想に基づくものである。
本件通達及び本件各職務命令は,国旗・国歌という国家シンボルに対する
特定の行為や態度を強制するものであり,原告らの内心(主観面)にかか
わらず,憲法19条に違反する。
(ア)明治以降,君が代・日の丸が国民の国家及び天皇制への統合のシン
ボル及び手段として利用されてきたという歴史的事実がある。
(イ)起立斉唱は,客観的には,国旗に対して敬意を表する姿勢をとり,
国歌の歌詞を発声する行為であり,国歌が表象する国家を賛美する性質
を有する。「君が代」が日本国を表象するのか,天皇を表象するのかは,
歌詞の解釈が分かれるところであるが,その解釈によっては,「君が代」
の起立斉唱が「天皇」を賛美する性質を帯びることとなる。
(ウ)起立斉唱は,国旗・国歌が象徴する国家への敬意を表明する行為で
あり,少なくとも国家を肯定的に受け入れることなくしてはできない行
為であり,国家に積極的な価値を認める思想の表明にほかならない。
エ本件通達及び本件各職務命令は,原告らの信念等と直接矛盾する行為を
強制するものであって,原告らの思想を直接侵害するものであるから,憲
法19条に違反する。
また,原告らが本件通達及び本件各職務命令が命じる起立斉唱等を拒否
する場合,それによって原告らが原告らの信念等を有していることが推知
されてしまうことになる。したがって,本件通達及び本件各職務命令は,
原告らの有する原告らの信念等の表明を迫るものであり,憲法19条が保
障する沈黙の自由を侵害するものでもある。
以上の点について,被告は,内心領域と外部的行為とを切り離せること
を前提として,本件各職務命令は,原告らの内心領域における精神的活動
においてまで国旗・国歌を尊重するよう強制しているわけではないから,
憲法19条に反するものではない旨主張する。しかしながら,内心と外部
的行為は不可分であり,これを形式的に分けることは不可能である。上記
主張によれば,いかなる外部的行為を命じても内心を侵害することはない
こととなり,憲法19条は全く無内容なものとなってしまう。
オ本件通達及びその発出後の都教委の一連の指導は,原告らの信念等ゆえ
に起立斉唱等を拒む教職員をあぶり出し,徹底的に排除することによって,
教職員の起立斉唱等の完全実施を実現し,更には,生徒に対して起立斉唱
を強制して,国旗・国歌を尊重する態度を強制的に注入するという目的で
行われたものである。本件各処分は,単なる形式的な職務命令違反を口実
にされているが,原告らは,原告らの信念等を有し,都教委の方針に従順
に従わないからこそ,本件各処分を科されたのであり,本件各処分は,一
連の都教委の施策に関する事実経過や起立斉唱等を強制することの性質,
効果に鑑みれば,実質的には原告らの思想及び信条に基づく不利益取扱い
にほかならない。
カ思想・良心の自由は,優越的地位を有する精神的自由の中核を占めるも
のであるから,その制約が憲法に適合するかの判断は,厳格な基準による
べきである。また,公務員であっても人権保障が及ぶというのが大原則で
あり,仮に公務員について人権制約を認める場合においても,その事件の
性質,公務員としての職務の内容・性質などを考慮し,人権ごとに具体的
な制約の正当化根拠が求められなければならない。
原告らの都立学校教員としての職務の内容,性質に鑑みれば,以下(ア)
のとおり,起立斉唱等を強制して原告らの思想・良心の自由を制約するこ
とが必要不可欠であるとする根拠はなく,以下(イ)及び(ウ)のとおり,原
告らが公務員であること(職務の公共性,全体の奉仕者性)は,その思想
・良心の自由の制約を正当化する根拠とはならない。
(ア)国旗国歌条項は,後記5(1)において主張するとおり,教職員に対し
て一律に起立斉唱等を義務付ける根拠となるものではない。また,職務
命令に重大かつ明白な瑕疵がある場合には,当該命令に従う義務はなく,
本件各職務命令が出されていることのみをもって,原告らの人権制約を
正当化することはできない。
教師の職責は,子どものしなやかで自由な精神の発達,人格の完成,
そのために必要な学びの権利を保障し,これに応えることである。被告
は,学校行事という教育活動における学校としての統一的な意思決定の
重要性に言及するが,そもそも統一的,画一的行動を求めることが教育
活動ではなく,学校としての統一的な意思決定に全て従うことが教師の
職責とされるわけでもない。学校行事における儀礼,儀式は統一的であ
るべきであるとか,組織としての学校の秩序を維持すべきであるなどと
いった観念的な理由によって,原告らの思想・良心の自由の制約を正当
化することはできない。
(イ)公共の福祉による内在的制約は,あくまでも個人の人権と他者の人
権との調整原理であるところ,思想・良心の自由に対する公共の福祉に
よる内在的制約が許されるのは,個人の思想・良心の自由によって他者
の人権に対する現実的,具体的害悪をもたらす場合でなければならず,
思想・良心の自由が精神的自由の中でも特に優越的地位を占める人権で
あることからすると,その制約が許容されるかどうかについては,厳格
な違憲審査基準(本件については,卒業式等において原告らに起立斉唱
をさせなければ,当該卒業式等が「明白かつ現在の危険」ないし「重大
かつ即時の危険」にさらされるかどうか)によって判断すべきであり,
許容されるのは極めて限定的な場合に限られる。
しかしながら,原告らの本件不起立行為等は,ただ単に着席している
又は伴奏をしないという消極的行為であり,これによっては,卒業式等
の運営,厳粛さを乱すことはなく,現実に,式典の進行や国歌斉唱に具
体的,現実的な害悪は何ら生じておらず,卒業式等は滞りなく終了して
いるのであり,この点は,被告も認めるところである。
被告は,卒業式等において起立斉唱等をしない教職員がいると,児童
・生徒において,国旗・国歌について正しい認識を持ち,国旗・国歌を
尊重する態度を学ぶことができなくなり,児童・生徒の学習権を侵害す
る旨主張する。しかしながら,国旗・国歌にどう向き合うかは子ども一
人一人の思想・良心の自由の問題であり,上記主張は,起立斉唱等を行
うことが国旗・国歌に対する正しい認識,態度であるという一方的な価
値判断を押しつけるものである。一方的な価値判断に基づく指導は,強
制ないし教化でしかなく,子どもの学習権から要請される教育ではない。
原告らは,その思想・良心の自由に従ってやむを得ず本件不起立等を行
ったのであり,子どもたちに不起立を積極的に呼びかけるわけでも,子
どもたちの起立斉唱を阻害するものでもない。
(ウ)公務員にも人権保障が及ぶのが大原則である。公務員であるから一
般的に人権制限が認められるというのは,特別権力関係を認める理論で
あり,法律の根拠なく人権制約を認めるものであるから,日本国憲法の
下では取り得ない考え方である。
キ本件は,国旗たる日の丸と国歌たる君が代という国家シンボルの強制が
問題となっている事案であるが,アメリカ憲法判例は,国旗・国歌の国家
的,国民的統合機能を踏まえ,これに対する儀礼的行為を行う儀式が本来
的に有する思想性,政治性を的確に捉えた上で,国旗・国歌に対する儀礼
的行為を尊重しつつも,その強制は憲法上許されないと判断している。す
なわち,アメリカ憲法判例は,1943年の連邦最高裁判決(WestVirgi
niaStateBoardofEducationv.Barnette,319U.S.624。以下「バーネッ
ト判決」という。)以来,国家シンボルとしての国旗・国歌に対する特定
の行為(国旗に対する起立や敬礼,忠誠の誓いの斉唱や国歌の斉唱など)
を強制することは,連邦憲法修正第1条に違反すると一貫して判断してい
る。また,国旗・国歌という国家シンボルが本来的に有する思想性,政治
性に着目し,アメリカ憲法判例は,強制を拒否する理由の真摯性,妥当性,
適正性を問題にしていない。
(2)被告の主張
ア本件各職務命令は,以下(ア)~(ウ)のとおり,原告らに対し,一定の外
部的行為を命ずるものにすぎず,原告らの思想・良心を侵害するものでは
ない。
(ア)憲法19条が保障する思想・良心とは,世界観,人生観などの個人
の内面的な精神活動を指すものであり,事物の是非,善悪の判断などは
含まない。そして,憲法19条が思想・良心の自由を侵してはならない
とする意味は,国民がいかなる世界観,人生観を持とうとも,それが内
心の領域にとどまる限りは絶対的に自由であり,特定の思想を内心に抱
くこと自体を禁止することができないということを意味するほか,国家
権力が思想の露顕を強制することは許されず,人の内心を強制的に告白
させることはできないという,思想についての沈黙の自由を保障するも
のである。
この点,原告らは,国歌斉唱時に起立しない,ピアノ伴奏をしないと
いう信念が,その根底にある原告らの思想・良心や歴史観・教育観とは
別に,憲法19条の思想・良心として保護される旨主張するが,それら
は思想・良心の核心部分とは解されないから,憲法19条にいう思想・
良心には該当しないというべきである。
(イ)思想が内部にとどまらず,外部に行動となって現れたときは,その
ような外部的行為の規制の問題は,精神的活動の規制の問題ではないか
ら,少なくとも憲法19条が保障する思想・良心の自由の問題ではない。
外部的行為が人の内心領域の精神活動と密接な関連を有することは否定
できないが,外部的行為を制約することが人の人格の核心を形成する世
界観,人生観を持つこと自体を禁止することにはならないから,上記規
制は,思想・良心の自由を制約するものではない。したがって,法律が
一定の作為・不作為を命じるときにそれに服しないことは,内心にとど
まらない外部的な行動となるのであり,思想・良心の自由固有の問題で
はない。
(ウ)本件各職務命令は,卒業式等において,児童・生徒に国旗・国歌に
対する正しい認識を持たせ,尊重する態度を育てるために,教職員に対
し,起立斉唱等を命じるというものであり,そのこと自体は,一定の外
部的行為を命じるにとどまるものであって,原告らの内心における精神
活動を否定したり,その思想・良心に反する精神的活動を強制するもの
ではないし,いかなる思想を抱いているかを露顕することを強制するも
のでもない。
イ原告らの本件不起立等について,仮に思想・良心の自由の保障が及ぶか
どうかが問題になるとしても,外部的行為である以上,公共の福祉による
制約を受けるというべきであり,以下(ア)及び(イ)によれば,本件各職務
命令は憲法19条に違反しない。
(ア)原告らは,全体の奉仕者である地方公務員であり(憲法15条2項),
公教育を行うという公共の利益のために勤務し,かつ,職務の遂行に当
たっては,全力を挙げてこれに専念する義務がある(地公法30条)。
原告らの思想・良心の自由は,公共の福祉の見地から職務の公共性に由
来する内在的制約を受け,原告らが本件各職務命令を受け,起立斉唱等
を行う義務を負うことにより,これが制約されるとしても,原告らにお
いて受忍すべきものである。
(イ)原告らの本件不起立等は,式典が滞りなく終了しているという結果
から見れば,格別,妨害の事実がなかったともいえるが,それは,単に
物理的な妨害行為がなかったというだけにすぎない。原告らは,本件不
起立等によって国歌斉唱に関する指導を行わなかったのであるから,児
童・生徒が学校教育法等の法規や学習指導要領に基づいた教育,指導を
受けられなかったという意味で,児童・生徒の教育を受ける権利を侵害
したものであるし,職務命令違反,更には信用失墜行為という服務事故
を発生させたことにより,公務員の服務上の規律を害することとなった
ものである。
ウ原告らは,自らの自由意思で公立学校教職員という特別な法律関係に入
った者である。本件各職務命令は,国旗国歌条項に基づき,卒業式等にお
ける国旗・国歌の指導を適正に実施するために発せられたものであり,敬
礼など特別の行為を求めるものではない。仮にこれにより原告らの思想・
良心の自由が制約される点があったとしても,それは自らの自由意思によ
って教育公務員という特別な法律関係に入った原告らにとってやむを得な
い制限である。
エ原告らは,本件各職務命令を受けたことにより,国旗・国歌の指導の一
環として国歌斉唱等をすべき義務を負う。本件各処分は,本件各職務命令
に違反したことを理由とするものであり,原告らがその内心に国歌斉唱等
をしないとする思想,信条等を有していることを理由とするものではない
から,本件各処分が原告らの思想・良心の自由を侵害することになるもの
ではない。
3本件通達,本件各職務命令及び本件各処分は原告らの信教の自由を侵害す
る憲法20条違反のものであるか
(1)原告らの主張
ア原告らのうち,少なくとも,原告P30,原告P31及び原告P32(以
下「原告P30ら3名」という。)は,キリスト教を信仰する者であり,
起立斉唱ができない理由として,キリスト教の信仰がある。
憲法20条に定める信教の自由には,①信仰の自由,②宗教的行為の自
由,③宗教的結社の自由が含まれるところ,信仰の自由は,憲法19条が
保障する思想・良心の自由の宗教的側面であり,その保障の効果も,憲法
19条と同様に絶対的に保障されるものである。
イ日の丸・君が代が,戦前及び戦中において,国家神道と強く結び付いた
神的,宗教的存在としての天皇崇拝のシンボルであり,皇国思想及び軍国
主義思想の精神的支柱として用いられたことは,歴史的事実である。原告
P30ら3名においては,日の丸に向かって起立し,君が代を斉唱するこ
とを強制されることは,自らの信仰で禁じられている偶像崇拝を強制され,
また,唯一の主であるイエス・キリスト以外の「君」を讃えることを強制
されることとなる。これは,信仰上禁じられている行為を強制されるとい
う点において,宗教上の行為の自由(自らの信仰に反する宗教上の行為を
行わない自由)を侵害するものであり,また,「君」を讃えることを強制
されることは,キリスト教の信仰の核心部分を否定されるという点におい
て,信仰の自由(特定の宗教の信仰を否定されない自由)を侵害するもの
である。日本のキリスト教界は,戦前,軍部や政府の圧力の前に屈服し,
神社参拝の要請を行うなど,戦時体制に貢献した歴史があり,その過ちに
対する悔悟と再び過ちを繰り返すことは許されないという思いが特別に強
く,天皇崇拝及び国家神道のシンボルというべき日の丸に向かって起立し,
君が代を斉唱することを強制されることによる苦痛は非常に大きい。以上
のとおり,原告P30ら3名は,本件通達及び本件各職務命令により起立
斉唱等を強制されることによって,キリスト教が禁じている偶像崇拝を強
制され,又は天皇を讃えることを強制されることになるのであるから,本
件通達及び本件各職務命令並びにその違反に対して行われた本件各処分
は,原告P30ら3名の関係では,その信仰の自由あるいは宗教的行為の
自由を侵害するものである。
ウ被告は,国旗国歌法によって日の丸・君が代が国旗・国歌であることが
定められたのであり,それ自体宗教的意味合いを持つものではないと主張
する。しかしながら,前述のとおり,日の丸・君が代が国家神道と結び付
いて天皇崇拝のシンボルとして,また,皇国思想や軍国主義思想の精神的
支柱として利用されたことは歴史的事実であるし,日の丸・君が代に対す
る考え方は個人の判断に委ねられるべき世界観や歴史観であり,日の丸・
君が代が意味するものは公権力によって決められるものでもない。また,
信仰に基づき,日の丸・君が代を天皇崇拝のシンボルと考える者が少数で
あり,政府や与党の解釈と異なるものであるとしても,憲法上の人権保障
の問題である以上,その考え方は尊重されなければならない。
(2)被告の主張
ア日の丸・君が代は,国旗国歌法によって,日本の国旗・国歌と定められ
たものであり,それ自体,宗教的な意味合いを持つものではない。なお,
国旗・国歌は,国民統合の象徴の役割を持つものであり,国旗・国歌を取
り巻く政治状況や文化的環境などから,過去に日の丸・君が代が皇国思想
や軍国主義思想に利用されたことがあったとしても,また,これを理由と
して,日の丸・君が代に対して嫌悪の感情を抱く者がいたとしても,日の
丸・君が代が,国旗・国歌として定められたということは,日の丸・君が
代に憲法が掲げる平和主義,国民主義の理念の象徴としての役割を期待し
ているということである。
イ卒業式等の儀式的行事における起立斉唱は,出席する教職員にとって通
常想定される卒業式等における儀式的所作であるから,宗教上の行為とし
ての意味を持つものではない。本件各職務命令は,一定の外部的行為を命
ずるというものであり,原告らの内心における精神的活動である信教の自
由を否定したり,信教の自由に反する精神的活動を強制するものでもない
し,いかなる信仰を抱いているかを露見させることを強制するものでもな
い。
ウ原告らにおいても,個人として信教の自由は保障されている。しかしな
がら,原告らは,公務員として全体の奉仕者としての地位にあり,その職
務内容が公教育を行うという公共性を有するものである以上,原告らが個
人的な宗教上の理由から,教育(国旗・国歌の指導)を行うことを拒否す
ることは許されない。憲法20条の保障する信教の自由は,内心の信仰に
とどまる限り,絶対不可侵のものといえるが,それが宗教的行為として積
極的又は消極的な形で外部に表明され,法令に基づく規制や社会的規範と
衝突する場合には,一定の制約を免れないというべきである。教職員は,
職務命令として起立斉唱を命じられた場合,仮に,信教の自由の問題が生
じるとしても,教職員において受忍すべき範囲内の制約であるというべき
である。
4本件通達及び本件各職務命令は原告らの教師の専門職上の自由を侵害する
憲法13条,23条及び26条違反のものであるか
(1)原告らの主張
ア子どもの成長,発達のためには,憲法13条が保障する幸福追求権を基
礎として,教育を受ける権利(憲法26条)が保障されなければならず,
教育の場の自由を確保するためには,教育の自主性,自立性(憲法23条)
が保障されなければならない。
イ国旗・国歌については多様な考え方があり,多様性を認め合う子どもた
ちを育てるためには,教師の専門的判断が必要であるほか,卒業式等の内
容は,各学校単位で,そこで学ぶ子どもたちや地域の実情にみあった創意
工夫のもとに決定する必要があり,特に,養護学校等においては,各学校
の実情や創意工夫を踏まえて,卒業式等を壇上方式で行うのかフロア方式
で行うのかを決めるべきであり,卒業式等の最中の子どもたちの体や心の
動きに常に敏感に対応するために,教師の専門的判断が必要である。また,
国旗・国歌を教える際にも,子どもたちの発達段階にふさわしい教育方法
について,教師の専門的判断が必要である。このように,卒業式等の内容
を決めるに当たっては,教師の専門的判断が必要である。
また,高等学校学習指導要領は,「各学校においては,(中略)生徒の
人間として調和のとれた育成を目指し,地域や学校の実態,課程や学科の
特色,生徒の心身の発達段階及び特性等を十分考慮して,適切な教育課程
を編成するものとする。」(第1章「総則」第1款「教育課程編成の一般
的方針」)としており,教育課程の編成権限は各学校が有するものとして
いる。そして,教育課程は,児童(生徒)の教育をつかさどる教諭(学校
教育法51条,28条6項)が,教育条理によって認められる職員会議に
おける集団的討議を経て,全校的に決定されるべきものである。
したがって,都教委及び本件各校長は,国旗国歌条項を根拠として,教
育課程の一環である卒業式等の実施方法を一方的に決定,強制することは
できないにもかかわらず,学校現場の教師及び教師集団の意見を卒業式等
の内容に反映させることを一切認めず,各学校の教師の関与も一切させず
に,卒業式等の実施方法を一方的に決定し,これを強制させる内容の本件
通達を発出し,本件各校長をしてその内容を実行させる本件各職務命令を
発令させ,その内容どおりの卒業式等の実施を強制した。
ウ本件通達及び本件各職務命令は,子どもの学ぶ権利を充足するために不
可欠なプロセスとして憲法及び教育基本法上保障されている,教師集団の
各学校単位での創意工夫とその実情に応じた創造的,弾力的な教育内容の
決定の余地を完全に奪うものであり,教師の専門職上の自由を侵害するも
のとして,憲法13条,23条,26条に違反する違憲無効なものである。
(2)被告の主張
原告らは,本件通達及び本件各職務命令によって,教師の専門職上の自由
(憲法13条,23条,26条)が侵害された旨主張するが,以下ア~オの
とおり,同主張には理由がない。
ア憲法26条,13条は,教師の個人的人権を保障しているものではなく,
子どもが適切な教育を受ける権利を保障しているものである。また,憲法
23条は,学校において子どもの教育の任に当たる教師が教育の自由を有
し,公権力による支配,介入を受けないで自由に子どもの教育内容を決定
することができることを保障したものではない。教師が職務として教育活
動を行うのは権限としてであり,個人的権利として行うのではなく,普通
教育の場において,教師に教育内容,方法について一定範囲の裁量権が認
められるとしても,それは,子どもに適切な教育を受ける権利を保障して
いることの反射的効果であって,教師個人の人権として保障されているも
のではない。したがって,教師が子どもの学ぶ権利を主張して本件通達及
び本件各職務命令の違法を主張することは,「自己の法律上の利益に関係
のない違法」(行訴法10条1項)を主張するものとして許されない。
イ本件通達は,卒業式等における国旗掲揚及び国歌斉唱の実施を適正にす
るために発出されたものであり,卒業式等の運営全般に関して発出された
ものではなく,学校現場における創意工夫や裁量の余地は残されている。
ウ卒業式等の儀式的行事は,その意義を踏まえて,学校という教育組織の
中で法令に基づく意思決定により,統一的に実施される必要があり,その
内容,方法を個々の教師が決定できるものではない。なお,教育課程の編
成に係る権限は,学校教育法28条,40条,51条,76条に基づき「校
務」をつかさどる権限を有する校長及び地教行法23条5号に基づき,「学
校の教育課程に関すること」を管理,執行する権限を有する学校設置団体
の教育委員会にある。
エ学校現場の教師に教育の専門家として一定の裁量権が認められるとして
も,全てが教師の裁量に委ねられるものではない。養護学校等の特殊性か
ら教師の専門的判断が必要となる場面があるとしても,全てが教師の専門
的な判断に委ねられるものでもない。教育の内容は,教育の機会均等と全
国的な一定水準を確保するために学習指導要領に定められており,教師は,
学習指導要領の内容に従って子どもたちに教育を行う責務がある。
オ起立斉唱等を命ずる職務命令を受けた教職員が不起立,不伴奏に及ぶと
いうことは,国旗・国歌の指導を行わないということであるから,それは
教育的目的を阻害するものであり,ひいては,国旗・国歌の指導という教
育を受ける子どもの権利を侵害するものである。
5学習指導要領(国旗国歌条項)の法的拘束力の有無
(1)原告らの主張
都教委は,本件通達の本文第1項において,「学習指導要領に基づき,入
学式,卒業式等を適正に実施すること」とし,本件通達及びそれに基づく本
件各職務命令の適法性,有効性の根拠を学習指導要領(国旗国歌条項)に求
めている。しかしながら,学習指導要領(国旗国歌条項)は,以下ア~ウの
とおり,法的拘束力を有しないというべきである。
ア学習指導要領は,学校教育法を授権規定とし,同法施行規則を受任規定
とする文部科学省告示であり,行政が定立した要領にすぎない。戦後,教
育行政の役割は,指導行政にとどまるものとされ,学習指導要領は,元来,
小・中及び高等学校等の教師が児童・生徒の学習を指導する際の手引書な
いし指導書であり,法的拘束力や強制の契機を有するものではなかった。
文部省は,その改訂のたびにその基準性(拘束性)を強調し,昭和33年
に学習指導要領を文部省告示として公示し,法的拘束力を主張するように
なったが,その授権規定である学校教育法自体に変更はなく,一方的に行
政解釈を変えるだけで,学習指導要領を異質なものとすることが許される
わけがない。したがって,学習指導要領は法的拘束力を有しない。
イ最高裁昭和51年5月21日大法廷判決・刑集30巻5号615頁(以
下「昭和51年大法廷判決」という。)は,学習指導要領の法的拘束力
を全面的に否定していないものの,同時に,その法的拘束力を無制限に
認める立場でもない。昭和51年大法廷判決は,学習指導要領について,
教育における機会均等の確保と全国的な一定水準の維持という目的のた
めに必要かつ合理的と認められる大綱的な基準にとどまる限度において
のみ,遵守すべき基準として認められるとする一方,教師による創造的
かつ弾力的な教育の余地や地方ごとの特殊性を反映した個別化の余地が
十分に残されておらず,又は教師に対して一方的な一定の理論ないしは
観念を教え込むことを強制するような点が含まれている場合には,必要
かつ合理的な大綱的基準として是認できないとしている。したがって,
学習指導要領が上記の点を含むものであるときは,教育基本法10条1
項の「不当な支配」に該当するかを問うまでもなく,法律の授権の範囲
を逸脱するものとして法的拘束力を持ち得ない。国旗国歌条項は,教育
の内容や方法に直接にかかわるものであり,教育行政による干渉がより
厳格に回避されるべきものであるが,これを国旗・国歌を一律に強制す
るための根拠条項と解した場合,「教師による創造的かつ弾力的な教育
の余地」や「地方ごとの特殊性を反映した個別化の余地」を残さないも
のであるから,その法的拘束力を認めることはできない。また,国家の
象徴である国旗・国歌に敬意を表明したり,国旗・国歌に肯定的な態度
をとるべきことを強制することは,国家に対してすべからく肯定的な態
度を示すべきであるとの一方的な理論ないし観念を生徒に教え込むこと
を強制するものともなる。したがって,国旗国歌条項は,必要かつ合理
的と認められる大綱的な基準として是認できるものではないから,これ
を根拠として,本件通達及び本件各職務命令により各教員個人に対して
国旗・国歌を強制することはできない。
なお,我が国の法令用語法によれば,「~ものとする。」とは,原則と
してすべきであるが,合理的な例外を認める趣旨の文言として用いられて
いる。国旗国歌条項は,「入学式や卒業式などにおいては,その意義を踏
まえ,国旗を掲揚するとともに,国歌を斉唱するよう指導するものとする。」
という規定であり,これは,学校現場に国旗・国歌を一律に強制する趣旨
の規定ではなく,卒業式等の指導内容,方法を一義的に定めて義務付けた
規定と解することもできない。
ウ国旗国歌条項の解釈に当たっては,国旗国歌法制定の趣旨等が参考にさ
れるべきである。国旗国歌法に義務付け条項や尊重条項が入らなかったの
は,国旗・国歌を日の丸・君が代とすることは確定するものの,国旗・国
歌に対して国民がどのように考え,どのような行動をとるかは,基本的に
は個々人が自ら判断することであると政府が考えたからにほかならない。
政府は,国旗国歌法の制定前後で教育現場の指導内容に何ら変更はないと
答弁していたのであり,この立法者意思を踏まえると,国旗・国歌につい
てより厳しい指導ないし責務を課すことは許されず,国旗国歌法は本件通
達を正当化するものではない。また,国旗国歌法は,国民に対する一切の
義務付けがないものとして国会で成立したのであるから,これよりも下位
の法形式である学習指導要領(国旗国歌条項)によって国旗・国歌を国民
(教職員)に義務付けることはできない。
(2)被告の主張
学習指導要領(国旗国歌条項)は,以下ア~ウのとおり,法的拘束力を有
するものである。
ア昭和51年大法廷判決は,学習指導要領が教育基本法10条の禁止する
「不当な支配」に該当するかどうかの点について,学習指導要領を全体と
して検討し,その全体について法規としての法的拘束力を認めたものであ
る。なお,最高裁が学習指導要領の全体について法規としての効力を認め
ていることは,最高裁平成2年1月18日第一小法廷判決からも明らかで
ある。
イ学習指導要領は,教育の内容,方法に関する国の介入であり,大綱的基
準の範囲内にとどめられなければならないことは当然であるが,以下(ア)
及び(イ)によれば,国旗国歌条項に法的拘束力があることは明らかである。
(ア)国旗国歌条項は,日本人としての自覚を養い,国を愛する心を育て
るとともに,生徒が将来,国際社会において尊敬され,信頼される日本
人として成長していくためには,生徒に国旗・国歌に対する正しい認識
を持たせ,それらを尊重する態度を育てることが重要なことであること,
卒業式等は,学校生活に有意義な変化や折り目を付け,厳粛かつ清新な
雰囲気の中で,新しい生活への展開への動機付けを行い,学校,社会,
国家等の集団への所属感を深める上でよい機会となることから,このよ
うな卒業式等の意義を踏まえたうえで,卒業式等の式典において,国歌
斉唱等を行うとの趣旨で設けられた規定である。このような趣旨で定め
られた国旗国歌条項は,教職員に対しても,儀式的行事における常識的,
一般的な行為を求めるものにすぎず,一方的な理論ないし観念を生徒に
教え込むことを強制するものではない。
(イ)国旗・国歌に関する定めは,その性質上,全国的にされることが望
ましく,教育における機会均等の確保と全国的な一定の教育水準の維持
という目的のために,国旗国歌条項を学習指導要領の一部として規定す
る必要性及び合理性がある。国旗国歌条項は,国旗・国歌について,具
体的にどのような指導,教育をするかについてまでは定めておらず,国
歌斉唱等の具体的方法等について指示するものではないから,その内容
は,一義的なものではなく,大綱的基準にとどまっている。したがって,
弾力的な教育の余地や地方ごとの特殊性を反映した個別化の余地が十分
残されてないとはいえない。
ウ国旗国歌法は,国旗・国歌を日の丸・君が代と規定するものであり,国
旗国歌法の制定によって教職員に新たな義務が課せられることになったわ
けではない。しかし,国旗・国歌の指導に際して職務命令を発することが
できないとか,当該職務命令違反に対して懲戒処分を行い得ないとする趣
旨を含むものではない。教職員は,関係法令や上司の職務上の命令に従っ
て教育指導を行うべき職務上の責務を負い,各学校の教育課程の基準とし
て,法規としての性質を有する学習指導要領(国旗国歌条項)及びこれを
基準として校長が編成した教育課程に基づいて学習指導を実施するという
職務上の責務を負っている。
6本件通達及び本件各職務命令は教育基本法10条1項が禁止する「不当な
支配」に当たるものであるか
(1)原告らの主張
ア教育行政機関が教育の内容,方法について基準を設定する場合,その基
準が教育基本法10条1項が禁止する「不当な支配」に当たらず適法なも
のであるといえるためには,以下(ア)~(ウ)の要件を満たすことが必要で
ある。
(ア)教育における機会均等の確保と全国的な一定の水準の維持という目
的のために必要かつ合理的と認められる大綱的な基準にとどまっている
こと
(イ)教師による創造的かつ弾力的な教育の余地や,地域ごとの特殊性を
反映した個別化の余地が十分残されていること
(ウ)教職員に対し一方的な一定の理念や観念を生徒に教え込むことを強
制するものでないこと
イ本件通達は,以下(ア)~(オ)のとおり,教育基本法10条1項が禁止す
る「不当な支配」に当たり,無効である。また,本件各校長は,本件通達
どおりに卒業式等を実施するように職務命令を受けていたのであり,本件
各職務命令を発令しないという選択肢はなかったから,本件各職務命令も,
本件通達と一体のものとして違法かつ無効である。
(ア)昭和51年大法廷判決は,「許容される目的のために必要かつ合理
的と認められる」介入は,たとえ教育の内容及び方法に関するものであっ
ても,必ずしも教育基本法10条の禁止するところではないと判示してい
る。しかしながら,本件通達及び本件各職務命令は,以下a~cのとおり,
許容される目的のために必要かつ合理的な介入であるとはいえない。
a本件通達及び本件各職務命令は,卒業式等において国家シンボルに
敬意を表する特定の具体的行為(起立斉唱等)を教師に義務付けて,個
人の尊厳よりも国家への統合を重視する愛国主義又は全体主義的な教育
を行うことを目的としており,それ自体許容されるものではない。
b被告は,上記(ア)の目的を覆い隠すため,本件通達及び本件各職務
命令の必要性及び合理性を,教育に関する地方自治の原則,国旗国歌条
項の適正実施に求めているが,以下(a)及び(b)のとおり,いずれも理
由がない。
(a)教育委員会が,地方の実情に適応した学習権を子どもに保障する
ため,学習指導要領より個別具体的な基準を教育委員会規則等によ
り設定するということはあり得るものの,国旗・国歌は,国家のシ
ンボルの問題であり,全国的一定水準としての国旗国歌条項よりも
個別具体的な内容の指示を出す必要性は考えられない。
(b)国旗国歌条項は,卒業式等における国旗掲揚及び国歌斉唱の実施
を求めるものであり,その実施方法まで指示するものではない。東
京都においては,平成13年以降,全ての都立学校の卒業式等にお
いて,国旗掲揚及び国歌斉唱が実施されていたのであり,国旗国歌
条項の適正実施は,本件通達を発出するための目的とはなり得ない
ものである。
c仮に本件通達及び本件各職務命令の目的が国旗国歌条項の趣旨に沿
ったものであるとして許容されるとしても,本件通達の具体的内容(本
件実施指針)は,以下(a)~(d)のとおり,その目的達成のために必要
かつ合理的なものとはいえない。
(a)国旗国歌条項は,国旗掲揚及び国歌斉唱の具体的方法等を指示す
るものではなく,起立斉唱等の義務を教職員に負わせるものではな
い。
(b)卒業式等は,単なる卒業証書授与式等ではなく,高等学校学習指
導要領第4章「特別活動」において「学校行事」の中の「儀式的行事」
として位置付けられる教育活動であり,学校ごとの創意工夫を生かす
とともに,学校の実態や生徒の発達段階及び特性等を考慮したもので
なければならない。そして,教育内容についての第1次的裁量権は,
子どもとの人格的接触を通じ,その発達段階や個性に応じて創造的教
育活動を行う教諭で構成される学校にあるところ(学校教育法28条
3項,6項),本件通達の具体的内容(本件実施指針)は,以下ⅰ~
ⅴのとおり,いずれも学校(校長)の裁量権に属する事項についての
ものであり,本件通達で指示する必要性及び合理性はない。
ⅰ本件実施指針は,「国旗は,式典会場の舞台壇上正面に掲揚す
る。」と指示するが,国旗をどのように掲揚するかは,学校(校
長)の裁量権に属する。
ⅱ本件実施指針は,会場設営について,「卒業式を体育館で実施
する場合には,舞台壇上に演台を置き,卒業証書を授与する」,
「式典会場は,児童・生徒が正面を向いて着席するよう設営する」
と指示するが,卒業式等の会場設営を壇上式にするか,フロア式
・対面式にするかは,生徒の発達状況や自主性を踏まえ,学校ご
との創意工夫に基づき決定されるべきものであり,学校(校長)
の裁量権の範囲内に属することである。
ⅲ本件実施指針は,「式次第には,『国歌斉唱』と記載する」,
「国歌斉唱に当たっては,式典の司会者が,『国歌斉唱』と発声
し,起立を促す」と指示するが,これは生徒に対する強制の契機
を一層強めるものである。生徒及び式典参加者の内心に配慮して
式次第に「国歌斉唱」と記載しないこと,司会者が「国歌斉唱」
と発声して起立を促さないこと,また,起立斉唱に先立ち,内心
の自由の説明をすることも,学校(校長)の裁量権の範囲内に属
する。
ⅳ本件実施指針は,「式典会場において,教職員は,会場の指定
された席で国旗に向かって起立し,国歌を斉唱する。」と指示す
るが,国旗国歌条項は,教職員に対し,起立斉唱を義務付けるも
のではない。生徒には,自己の信念に基づいて起立斉唱しない自
由があるところ,教職員全員が起立斉唱する中で生徒が自己の信
念に基づいて起立斉唱を拒否することは事実上困難であり,教職
員に起立斉唱を義務付けないことは,学校(校長)の裁量権の範
囲内に属する。
ⅴ本件実施指針は,「国歌斉唱は,ピアノ伴奏により行う。」と
指示するが,国旗国歌条項は,音楽科の教師にピアノ伴奏を義務
付けるものではない。国歌斉唱をピアノ伴奏で行うことは,むし
ろ一般的でなく,国歌斉唱の際の伴奏をピアノで行うか,CDで
行うかを決めることは,学校(校長)の裁量権の範囲内に属する。
(c)式典会場のどこからでも十分に確認できる場所に国旗を掲揚す
ることが必要であるとしても,その方法は,各学校ごとの会場設営
の状況等によって当然異なり得るし,そのような掲揚方法をしてい
ない学校があれば,当該学校(校長)に対して正すように指示すれ
ば良いのであるから,全ての都立学校長に対して本件通達を発出す
る必要性及び合理性はない。
(d)校長が個々の教職員に対し,卒業式等における起立斉唱等につ
いて職務命令を発令するか否かは,その裁量に属することであり,
都教委が,校長に対し,所属校の全ての教職員に対して当該職務命
令を発令するように命令すべき必要性及び合理性はない。
(イ)公の儀式において国家シンボルに敬意を表すること(起立斉唱)が
礼儀だと考えるのは,愛国の感情を重視する愛国主義的な見解であり,
一方的な観念である。昭和51年大法廷判決は,「子どもが自由かつ
独立の人格として成長することを妨げるような国家的介入,例えば誤
った知識や一方的な観念を子どもに植えつけるような内容の教育を施
すことを強制することは,憲法26条,13条の規定上からも許され
ない」としており,本件通達及び本件各職務命令は,愛国の感情を重
視する一方的な観念を子どもに教え込むことの強制に当たるものであ
り,許されない。
(ウ)昭和51年大法廷判決を参考にすれば,教育基本法10条1項が禁止
する「不当な支配」に該当するかは,①教育内容や指導方法にどの程度
踏み込んでいるかという内容介入の深さの程度と,②どの程度の強制を
行っているかという強制の程度の2つの基準によって判断すべきであ
る。本件通達は,以下a及びbのとおり,いずれの基準からも「不当な
支配」に当たる。
a本件通達(本件実施指針)は,特別活動として一般教科以上に学校
ごとの創意工夫が要請される卒業式等の実施について,上記(ア)c(b)
ⅰ~ⅴのとおり,学校(校長)の裁量の余地を奪ったものであり,本件
通達及びそれに基づく本件各職務命令は,創造的かつ弾力的な教育活動
の余地や学校ごとの特殊性を反映した個別化の余地を十分に残したもの
とはなっておらず,大綱的基準の範囲にとどまらないものである。
b本件通達及びそれに基づく本件各職務命令は,教育内容が具体的な
レベルまで事前に決定されており,これに反すると制裁を伴うという点
で,強制の程度は最も強い。
(エ)被告は,許容された目的の下,その目的達成のため必要,合理的なも
のであれば,教育委員会は教育の内容,方法についても関与,介入でき,
具体的な命令を発することもできる旨主張するが,以下a及びbのとお
り,同主張は誤っている。
a教育行政機関の教育の内容,方法についての関与,介入について,
昭和51年大法廷判決が「教育における機会均等の確保と全国的な一
定の水準の維持という目的のために必要かつ合理的と認められる大綱
的な範囲にとどめられるべき」とした第一の理由は,「子どもの教育
は,教師と子どもとの間の直接の人格的接触を通じ,子どもの個性に
応じて弾力的に行われなければならないから,教師の自由な創意と工
夫の余地が要請される」という本質的要請によるものであり,これは,
国,地方を問わず,教育行政機関一般についてその介入を制限する根
拠となっているものである。むしろ,教育委員会は,教師に対する人
事権を有することにより,より一層直接に教育に介入し得る危険があ
り,その介入に関する「不当な支配」の審査基準が,国の場合よりも
緩和される理由はない。
教育委員会は,地方公共団体の執行機関として,管理事務を行うの
であるが,教育内容についての第一次的裁量権は,教諭は児童・生徒
の教育をつかさどり(学校教育法51条,28条6項),校長は校務
をつかさどる(学校教育法51条,28条3項)とされているように,
子どもとの人格的接触を通じ,その発達段階や個性に応じて創造的教
育活動を行う学校(校長)にこそある。
b昭和51年大法廷判決は,教育における地方自治の原則について,
教育行政機関の介入を制限する文脈で述べているものであり,これを
教育行政機関の介入を拡大する根拠とするのは誤りである。教育委員
会が,地方の実情に適応した学習権を保障するため,当該地方におけ
る「教育における機会均等の確保」と当該地方全体の「一定の水準の
維持という目的のために必要かつ合理的」な大綱的基準を教育委員会
規則等によって設定し,その内容が学習指導要領より個別具体的とな
ることはあり得るが,大綱的範囲を超えて,必要かつ合理的であれば
制裁を伴う具体的な命令をも発することができるなどということはな
い。
昭和51年大法廷判決は,教育委員会が「特に必要な場合」には,
手続上適法に「具体的な命令を発することができる」と判示している
が,ここにいう「特に必要な場合」とは,教育委員会の生徒に対する
安全保護義務に基づく場合や,法令,学習指導要領,教育委員会規則
等が遵守されていない特定の学校の校長に対し,事後的に,適法性の
コントロールのために,まず懲戒処分等ではない具体的命令を発する
というような場合である。また,上述のとおり,地方の実情に適応し
た大綱的基準を定める場合において,その大綱的基準が学習指導要領
と比較してより具体的となることは考えられるが,具体的命令まで発
することは,上記aで述べた教育の本質的要請に反するというべきで
ある。
(オ)仮に,被告が主張するとおり,教育委員会が許容された目的の下そ
の目的達成のため必要,合理的なものであれば教育の内容,方法について
も関与,介入できると解するとしても,本件通達及びそれに基づく本件各
職務命令がこの場合に該当しないことは,上記(ア)~(ウ)で述べたことか
ら明らかである。さらに,上記(エ)のとおり,本件通達及びそれに基づく
本件各職務命令は,創造的かつ弾力的な教育活動の余地や学校ごとの特殊
性を反映した個別化の余地を奪い,教育活動に甚大な影響を与えるもので
あり,教育基本法10条1項が禁止する「不当な支配」に該当する。
(2)被告の主張
ア教育委員会(都教委)は,以下(ア)~(ウ)のとおり,子ども自身の利益
の擁護のため,また,子どもの成長に対する地域社会,公共の利益と関心
にこたえるため,必要かつ合理的と認められる範囲で,教育の内容及び方
法に関して国に比してより具体的な基準を設定し,必要な場合には具体的
な命令を発する権能を有し,その責務を負っている。したがって,教育委
員会は,許容された目的の下,その目的達成のため必要かつ合理的なもの
であれば,教育の内容,方法についても関与,介入できるのであり,本件
通達及び都教委の一連の指導が教育基本法10条1項に違反するかはこの
審査基準により判断されるべきである。
(ア)教育基本法10条1項が禁止する「不当な支配」とは,国民全体で
はない一部の勢力(政党,官僚,政界,労働組合等)による介入である。
教育は国民全体に対して直接に責任を負って行われるべきものであるた
め,国民の意思と教育が直結し,国民の教育に対する意思が表明され,
それが教育の上に反映するような組織として,それぞれの地方に固有の
権限を有する教育委員会が設置されている。そして,各地方の実情に適
応した教育を行わせるのが教育の目的及び本質に適合するとの観念(地
方自治の原則)に基づき,公立学校の教育に関する権限は,地方公共団
体の教育委員会に属している(地教行法23条,32条等)。
(イ)昭和51年大法廷判決は,国の教育行政機関が普通教育の内容及び
方法について遵守すべき基準を設定する場合には,教育に関する地方自
治の原則をも考慮しなければならないから,教育における機会均等の確
保と全国的な一定の水準の確保という目的のために必要かつ合理的と認
められる大綱的基準にとどめられるべきであるとした。これに対し,公
立学校を設置する地方公共団体は,上記地方自治の原則のもとに,国が
設定した大綱的基準の範囲で,より具体的かつ詳細な基準を設定するこ
とができ,またそれが要請されている。現に,昭和51年大法廷判決は,
学校設置者たる地方公共団体の教育委員会は,学校を所管する行政機関
として,その管理権に基づき,学校の教育過程の編成について基準を設
定し,一般的な指示を与え,指導,助言を行うとともに,必要な場合に
は具体的な命令を発することもできると判示している。
(ウ)地教行法23条5号は,学校の組織編制,教育課程,学習指導,生
徒指導及び職業指導に関することを教育委員会の職務権限としており,
教育委員会は,上記事項について管理し,執行することができると規定
している。また,地教行法17条1項は,教育長は,教育委員会の指揮
監督の下に,教育委員会の権限に属する全ての事務をつかさどると規定
しており,教育長は,教育課程等に関する事項に関して,校長に対し,
通達等により個別具体的な職務の遂行について職務命令を発することが
できる。したがって,教育基本法10条1項が禁止する「不当な支配」
と地教行法23条5号及び同法17条1項との理論的整合性の観点から
すると,教育委員会がその権限の行使として発出する通達ないし職務命
令に関しては,大綱的基準にとどまるべきものと解することはできない。
イ本件通達は,以下(ア)及び(イ)のとおり,許容された目的の下になさ
れ,必要かつ合理的なものであり,教育基本法10条1項が禁止する「不
当な支配」には該当しない。
(ア)本件通達は,国旗・国歌に関しては,都立学校において学ぶ児童・
生徒に国旗・国歌に対して正しい認識を持たせ,それらを尊重する態度
を育てるという目的の下で,普通教育において指導すべき国旗・国歌に
関する基礎的知識を指導するために,また,その余の事項に関しては,
卒業式,入学式,周年行事等の学校行事(儀式的行事)を学習指導要領
に則して適正に実施するために発せられたものであって,まさに学校管
理機関としての都教委がその権限を行使する許容された目的の下に発せ
られたものである。なお,都教委は,地教行法23条5号により都立学
校の教育課程等に関する権限(編成権限)を有しており,国旗国歌条項
の具体化として,上記の学校行事における国旗・国歌の指導の内容,方
法を校長に指示できるのは当然のことである。
(イ)本件通達は,本件実施指針において,卒業式等の式典の実施方法を
定めているが,以下a及びbのとおり,その内容は,必要かつ合理的な
ものである。
a卒業式等は,特別活動のうちの儀式的行事として実施されるもの
であるが,学習指導要領は,儀式的行事について,「学校生活に有意
義な変化や折り目を付け,厳粛で清新な気分を味わい,新しい生活の
発展への動機付けとなるような活動を行うこと。」と定め,「入学式
や卒業式などにおいては,その意義を踏まえ,国旗を掲揚するととも
に,国歌を斉唱するよう指導するものとする。」(国旗国歌条項)と
定めており,本件通達は,学習指導要領の上記規定に沿って卒業式等
を実施する上で,必要かつ合理的なものである。本件においては,本
件実施指針のうち,①「国歌斉唱に当たっては,式典の司会者が『国
歌斉唱』と発声し,起立を促す。」,②「式典会場においては,教職
員は,会場の指定された席で国旗に向かって起立し,国歌を斉唱する。」
の2項目が問題となるところ,儀式的行事における国歌斉唱は起立し
て行うことが国際儀礼上の常識であって,我が国に限らず通例であり,
教職員がそれに沿った行動をとるものとしても不合理なものではな
い。また,学校における教育活動のうち卒業式等の儀式的行事は,各
クラス単位での授業とは異なり,学校全体として行うものであり,そ
の意義からしても,その実施方法についても,全校的に統一性をもっ
て整然と行われる必要がある教育活動である。上記各項目は,いずれ
も学習指導要領の内容,趣旨に沿ったものであり,都教委が,その判
断に基づき,卒業式等などの式典を厳粛かつ清新なものとし,併せて
国旗・国歌の指導をするための方式を示したものとして,必要かつ合
理的な範囲を超えたものとはいえない。
b都立学校の卒業式等における国旗掲揚及び国歌斉唱の実施状況
は,実施率こそ100%となっていたが,校長が学習指導要領に沿っ
て国旗・国歌の指導を含む適正な卒業式等の実施を教職員に指導ない
し指示して実施しようとしてもそれができず,国歌斉唱時に職員が起
立しない,三脚で国旗を掲揚して舞台の袖の見えないところに設置す
る,音楽科担当の教員がいるのに国歌のピアノ伴奏をしない,式次第
に国歌斉唱と明記しない,国歌斉唱が終わってから教員が式場に入場
するなど,卒業式等における国旗・国歌の適正な指導がなされていな
い状況が続いていた。都教委は,都立学校における国旗・国歌の指導
に関してこのような不適切な実態があったことから,都立学校におい
て国旗・国歌の指導が適正に行われるようにするため,本件通達を発
出して儀式的行事の在り方を明確に示す必要があった。
ウ(ア)原告らは,本件通達によって,卒業式等に関する学校の裁量
の余地が奪われる,教育活動への影響が甚大である旨主張する。しかし
ながら,教育委員会は,前述のとおり,大綱的基準の限度にとどまらず,
必要な場合には具体的な命令を発することもできるのであり,原告ら主
張の理由によって本件通達が教育基本法10条1項が禁止する「不当な
支配」に該当することになるわけではない。また,本件通達は,以下a
~cのとおり,学校の創意工夫を一切奪うものではなく,学校の教育活
動に甚大な影響を及ぼすものでもない。
a本件通達は,卒業式等などの儀式的行事に限ってその実施方法を示
しているものにすぎないものであって,年間を通じての国旗・国歌の
指導について指示するものではなく,学校の日常的教育活動に大きく
影響するものでもない。
b儀式的行事に限ってみても,本件通達は,本件実施指針の限度で指
示するものであって,式典全体のうち国旗・国歌の指導及び会場設営
に関してのみ指示するものであり,いつ国歌斉唱を行うかを始めとし
て,それ以外の式典の進行等は各学校の創意工夫に任されており,実
際に各学校において様々な創意工夫がされている。
c卒業式等における起立斉唱は,国旗・国歌に関する国際的儀礼にも
合致する常識的なものであり,その指導内容は,都立学校に学ぶ児童
・生徒が多様であっても共通して学ぶべき事柄である。
(イ)原告らは,本件通達が教師に対して一方的な理論ないし観念を生
徒に教え込むことを強制するものであると主張する。しかしながら,国
旗国歌法は,日の丸・君が代を国旗・国歌として定めており,国際社会
においても,国旗・国歌は尊重されるべきとの共通の認識が存在してい
る。そして,我が国だけでなく,他国の国旗・国歌も同様に尊重する態
度を育てるべく児童・生徒に指導することは,普通教育において当然の
ことであるから,これが一方的な理論や観念を児童・生徒に教え込むも
のとはいえない。
エ校長は,校務をつかさどり所属職員を監督する権限を有しており(学
校教育法28条3項,51条,76条),教育課程の編成等全ての校務を
決定し,これを各教職員に分掌させ,必要な指導を行い,職務命令を発す
ることができる(地公法32条)。原告らの主張は,本件通達が教育基本
法10条1項に違反するから,本件通達に基づく本件各職務命令も違法で
あるというものであるが,本件各校長は,卒業式等を学習指導要領に則っ
て適正に実施すべく,自らの権限と責任に基づき,本件各職務命令を発し
たのであるから,仮に本件通達や都教委の指導等が教育基本法10条1項
に違反するものであったとしても,本件各職務命令は,手続的にも実体的
にも違法となるものではない。
7本件通達及び本件各職務命令は国際条約(自由権規約,児童の権利に関す
る条約)に違反する無効なものであるか
(1)原告らの主張
ア日本国が締結し批准した条約は,内容が自働執行力のあるものである限
り,立法化を待たずに国内法としての効力が認められ,国内法的効力を有
するに至った条約は,国内法に優位する。
イ本件通達及び本件各職務命令は,以下(ア)及び(イ)のとおり,我が国が
締結,批准した国際条約に違反する違法なものというべきである。
(ア)起立斉唱等を強制することは,市民的及び政治的権利に関する国際
規約(自由権規約)18条が保障する思想・良心の自由及び信教の自由
を侵害する。本件通達は,起立斉唱等を強制するものであり,上記条約
に違反する違法なものであり,本件各職務命令は,本件各校長が自らの
権限で独立して発出したものではなく,校長に対する職務命令である本
件通達に基づいて発出したものであるから,本件通達と一体として違法
となる。
(イ)本件通達は,卒業式等の在り方について生徒の意見を反映させる余
地をなくし,また,卒業式等において生徒の創作物を掲示するなどの余
地をなくし,さらに,日の丸・君が代について一つの価値観のみを強制
するものであって,子どもの意見表明権を保障し,思想・良心の自由及
び宗教の自由を保障している児童の権利に関する条約12条,14条1
項に違反する。このことは,原告らが教師として子どもの権利侵害に加
担できないという内心の自由,子どもの権利侵害を拒否するという教育
の自由を侵害することを意味する。
(2)被告の主張
ア本件通達が,思想・良心の自由,信教の自由を侵害するものでないこと
は,既述のとおりであり,自由権規約18条に違反する旨の原告らの主張
には理由がない。仮に本件通達が自由権規約18条に違反するとしても,
本件各職務命令は,本件各校長がその固有の権限に基づいて発出したもの
であり,これにより本件各職務命令が無効となるわけではない。
イ原告らは,本件通達が児童の権利に関する条約12条,14条に違反す
ると主張するが,自己の法律上の利益に関係のない違法を理由とするもの
であり,本件各処分の取消事由として主張することはできない(行訴法1
0条1項)。また,本件通達は,卒業式等における各学校の裁量,工夫を
禁止するものではなく,国旗・国歌の指導は,生徒に対する関係ではあく
まで教育上の指導として行うものであって,生徒の思想・良心及び信教の
自由を侵害することはないし,国旗・国歌を尊重する態度を育てるための
指導は,一方的な理論や観念を教え込むことに当たるものでもない。
8原告らの本件不起立等は地公法32条,33条に違反する行為であるか
(1)原告らの主張
ア本件各処分の処分理由として,地公法32条違反が挙げられているが,
同条にいう職務命令とは,①職務上の上司がその職務権限に属することに
関して発した職務命令であること,②部下の職務に関する命令であること,
③部下の独立の職務に関するものでないこと,④その職務命令の内容が,
憲法,法律,条例等に違反しないものであること,以上の要件を満たした
ものであることが必要である。しかしながら,以下(ア)及び(イ)のとおり,
本件各職務命令は,これらの要件を満たさないから,原告らの不起立行為
等は,職務上の義務の違反には当たらない。
(ア)学校教育法は,教諭については「児童の教育をつかさどる」とする
のに対し(同法28条6項,51条),校長については「校務をつかさ
どり,所属職員を監督する」と規定しており(同法28条3項,51条),
このような学校教育法の規定の仕方からすると,校長の教職員に対する
監督権限には,教師の教育活動の内容に関わる職務命令を出す権限は含
まれないと解すべきである。したがって,学校行事において起立斉唱等
を行うことは,教師の教育活動の内容に関わる事項であるから,校長が
教職員に対して起立斉唱等を命じることは,校長の権限を逸脱した権限
外の行為であり,本件各職務命令の命令事項については,校長は教職員
との関係において職務上の上司に該当しない。
(イ)本件通達は,既述のとおり,教育基本法10条1項が禁止する「不
当な支配」に該当し,国旗国歌条項の授権範囲を逸脱するものであり,
憲法19条,20条に違反する違憲違法な職務命令であるから,重大か
つ明白な瑕疵があるものとして,原告らは本件通達に基づく本件各職務
命令に服従すべき義務はない。
イ本件各処分の処分理由として,地公法33条違反が挙げられており,
同条にいう「その職の信用を傷つけ,又は職員の全体の不名誉となるよう
な行為」とは,世間のひんしゅくを買う行為などと説明されている。しか
し,国民の間では起立斉唱等を強制することに反対する考え方の方が多く,
原告らの不起立等は,決して世間のひんしゅくを買っているわけではない
から,同条違反になるものではない。
(2)被告の主張
ア原告らは,本件各職務命令が地公法32条の要件を満たさない職務命令
である旨主張するが,以下(ア)及び(イ)のとおり,理由がない。
(ア)学校教育法28条3項,51条,76条は,高等学校及び養護学校
等における校務は,その校長がつかさどるものとしており,そこにいう
「校務」とは,教諭のつかさどる教育を含む学校の果たすべき仕事全体,
すなわち学校教育の事業を遂行するために必要とする一切の事務を指す
ものである。この校務には,学習指導要領に基づく教育課程の計画及び
実施についての責務と権限も当然に含まれ,本件各校長が国旗国歌条項
の適正実施について本件各職務命令を発する権限があることは明らかで
ある。
(イ)本件通達が違憲違法でなく,重大かつ明白な瑕疵があるものといえ
ないことは既述のとおりである上,本件通達が違法であるとの上記主張
を前提としても,校長が,自らの権限により,本件通達の内容に沿った
卒業式等の実施内容を決定し,これを各教職員に分掌させ,その実施に
必要な職務命令を発した場合,それは各校長が自らの判断と権限に基づ
き職務命令を発したということに帰着し,手続上も実質上も違法はない。
本件各職務命令は,本件各校長がそれぞれ自らの判断でその権限に基づ
いて卒業式等における国旗国歌条項の適正実施のために発したものであ
るから,手続上も実体上も適法なものである。
イ原告らが行った本件不起立等は,本件各職務命令に違反し,しかも卒
業式等という重要な学校行事において,生徒,保護者,来賓の面前で行わ
れたものであり,教育公務員の職に対する信用を傷付ける行為というを妨
げないものであるから,地公法33条違反に該当することは明らかである。
9本件各処分は憲法31条の定める適正手続に違反するものであるか
(1)原告らの主張
憲法31条の適正手続の保障は,行政手続にも及ぶところ,本件各処分に
至る手続は,以下ア及びイのとおり,公正かつ適正な手続が確保されていた
とはいい難く,手続上の違法があるというべきである。
ア原告らの多くは,事情聴取に当たり,弁護士の立会いやメモ,録音を求
めたが,いずれも拒否され,本件各処分の前提としての告知及び聴聞の手
続は,その機会が奪われたり,不十分なものであった。原告らの中には,
都教委から「事情聴取を拒否したものとみなす。」と一方的に宣告された
者も少なくない。
イ本件各処分における事故報告から諮問,答申を経て本件各処分に至るま
での期間は,あまりにも短期間であった。また,処分審査の過程では,原
告らや校長からの事情聴取の内容などの個別の事情は一切考慮されず,本
件各処分は,一律,画一の処分となっている。さらに,不起立等を行った
者に対して懲戒処分をすることは,いわば見せしめであり,本件通達の発
出時から既に決まっていた。このように,本件各処分は,あまりにもずさ
んな手続によって行われたものであった。
(2)被告の主張
本件各処分に至る手続が違法である旨の原告らの主張は,以下ア及びイの
とおり,いずれも理由がない。
ア東京都では,地公法29条2項を受けて,「職員の懲戒に関する条例」
(昭和26年9月20日条例84号)及び「職員の分限,懲戒に関する条
例の施行について」(昭和26年10月15日総人発秘164号)を定め
ているが,事情聴取の方法については何ら規定していないから,弁護士の
立会い,メモ,録音を認めなかったことに違法はない。都教委は,非違行
為を行った原告らからそれぞれ直接に事実関係を確認し,弁明を聴くため
に事情聴取を行っており,本件各処分の手続は公正に行われたというべき
である。なお,原告らの一部に実際に事情聴取ができなかった例があるが,
それは,都教委が当該原告らに対して事情聴取の場を提供し,事情聴取に
応じるよう説得したが,当該原告らが弁護士の立会等を求めることに固執
して事情聴取に応じなかったことによるのであり,当該原告らが事情聴取
を拒否したものといわざるを得ないものである。
イ都教委は,懲戒処分の事由たる事実について,職務命令違反の現認の報
告や違反者本人及び関係者の事情聴取などにより適正に事実の確認をした
上で,先行事案を参考に,処分量定について懲戒分限審査委員会の答申を
受け,教育委員会の議を経て本件各処分を行ったものであり,手続に要す
る十分な時間を取っている。また,懲戒処分は,過去に処分歴等がない限
り,同一内容の非違事実であれば同内容の処分量定となるべきものであり,
一律,画一の処分になっているとの非難は当たらない。また,非違行為が
あれば懲戒処分を科すべきことは当然であり,都教委が本件各処分を見せ
しめの趣旨で行ったという事実はない。
10本件各処分は裁量権を逸脱又は濫用したものであるか
(1)原告らの主張
本件各処分は,以下ア~オのとおり,裁量権を逸脱又は濫用した違法な処
分であり,取り消されるべきものである。
ア本件各処分は,懲戒権の目的を逸脱する。
すなわち,地公法が任命権者に懲戒処分の権限を付与した目的は,公務
員秩序を維持することにある。公務員秩序とは,単に階層的な命令伝達機
能(上命下服)の整備又は徹底を意味するのではなく,公務員の勤務にお
いて国民全体に最大の利益を実現するシステムを意味し,その具体的な在
り方は,各部門によって異なる。また,教育は,教師と生徒との全人格的
な触れあいを通じて,生徒の人格形成を目指す営為であり,命令と服従か
らなる公務員秩序は,そのような教育部門にはなじまない。教育部門にお
いては,生徒に対し,価値観の多様性と個性の尊重を保障する教育本来の
在り方に適合したシステムとしての公務員秩序が形成されなくてはならな
い。しかるに,都教委は,特定の価値観(国旗国歌の尊重等)及び教育観
を持ち,教育を支配,統制するという違法な意図と動機から,懲戒処分を
濫発したのであり,本件各処分は,あるべき公務員秩序の形成に背馳し,
地公法における懲戒制度の趣旨,目的を逸脱するものである。
イ本件各処分は,以下(ア)及び(イ)のとおり,その処分理由とした原告
らが本件各職務命令に違反して本件不起立等に及んだことの非違性の程度
と制裁措置による不利益の程度との権衡を著しく失し,比例原則に違反す
るものである。
(ア)本件不起立等の非違性は,以下のとおり,ごく小さいものである。
a本件各職務命令は,仮に違憲違法との評価を免れたとしても,憲法
や教育基本法の趣旨に違背した内容のものであるから,本件不起立等
の非違性の程度は極めて軽度なものと評価すべきである。
b原告らは,真摯に自らの生き方を探り,教員としての良心に忠実で
あろうとしたからこそ,本件不起立等に至ったのであり,その動機の
真摯性を踏まえて本件不起立等の非違性の軽重が判断されるべきであ
る。
c原告らの本件不起立等は,国旗掲揚及び国歌斉唱という卒業式等の
進行を殊更妨害するなどの積極的な行為に出たものでも,生徒達に国
歌斉唱の拒否をあおるものでもなく,国歌斉唱時のわずか数十秒の間,
静かに着席していたというものであり,自らの思想・良心の自由を防
衛する以上の積極的行為を伴わない極めて平穏かつ消極的なものであ
った。そして,実際にも,卒業式等の進行及び厳粛さに具体的な支障
が生じるなどの影響はなかった。被告は,本件不起立等が生徒及び保
護者の面前で行われていることは重大であるなどと主張するが,その
時間は1分間に満たない消極的態様によるものであり,卒業式等への
影響は限りなく小さい。
(イ)本件各処分により原告らが受ける不利益は,以下のとおり重大なも
のである。
a原告らは,本件各職務命令により,憲法で保障されるべき思想・良
心の自由を侵害され,本件各処分を受けたことにより,全体の奉仕者
たるにふさわしくない,職の信用を傷付けた,職全体の不名誉などと
言われて教師としての自尊心や誇りを全面的に否定され,甚大な精神
的苦痛を受けた。
b原告らは,本件各処分によって,以下(a)~(d)のとおり,大きな
経済的不利益を受けた。
(a)原告らは,本件各処分を受けたことにより,3か月の昇給延伸,
勤勉手当の10%削減などといった経済的不利益を受けた。
(b)東京都においては,平成18年度まで,校長の推薦に基づき,
各学校ごとに一定比率の職員を対象にして3~12か月間の昇給時
期の短縮を行うという運用がされていたが,原告らは,昇給時期の
短縮を受ける対象者から除外される欠格基準とされている懲戒処分
である戒告以上の本件各処分を受けたため,上記推薦を得ることが
できなかった。
(c)東京都には,教職員を定年退職した者が希望すれば嘱託として
再雇用や再任用される制度があるが,定年退職した原告らは,嘱託
採用を希望しても採用を拒否された。また,定年退職前の原告らに
ついても,定年退職後に嘱託採用を希望しても採用されないという
不利益を受けている。
(d)勤続25年以上の者は,永年勤続者感謝要綱に基づき,永年勤
続表彰(「感謝」)の対象となるが,懲戒処分を受けた者は,処分
発令から2年間,同表彰の対象から除外される。原告らの中には,
同表彰の対象者がいたが,本件各処分を受けたため,当該原告は,
同表彰を受けられなかった。また,当該原告は,同表彰に伴う東京
都福利厚生事業団からの旅行券(金5万円)の不支給及び長期勤続
休暇(在職25年目に4日間)の取得資格停止という不利益も受け
ている。
c原告らは,本件各処分だけではなく,本件各処分に関連して,以下
(a)~(e)の特別の制裁措置を受けた。
(a)本件不起立等によって懲戒処分を受けた者は,各年7月下旬に
服務事故再発防止研修の基本研修を受講させられ,減給処分を受け
た者は,更に専門研修(個別研修)を受講させられた。
(b)被処分者が在籍する各学校の管理職は,都教委が主催する研修
を受講させられ,卒業式等における起立等を徹底するよう指導され,
当該学校において,管理職により,卒業式等における起立等を徹底
するため,①全員研修(校内の教職員全員を招集して実施),②グ
ループ研修(分掌等を単位として実施),③個別研修(被処分者を
対象として実施)の三つの校内研修が実施された。
(c)被処分者は,教職員に対する業績評価制度において,「学校運
営」の項目について,例外なく「C」以下の評価を受けることとな
る。
(d)原告らの中に,本件各処分を受けたことを理由として,学級担
任の業務を委嘱されないなど,学校内の校務分掌の上で,不当な取
扱いを受けた者がいる。
(e)原告らの中に,本件各処分を受けた者であることを理由として,
人事異動上の不当な取扱い(通常よりも早期に異動させられる,遠
隔地の学校に異動させられるなど)をされた者がいる。
d原告らが,今後,「転向」や「改宗」をし,又は面従腹背の屈辱を
甘受して卒業式等において起立等をするようにしない限り,本件各処
分と同様の原告らの思想及び良心そのものを対象とする懲戒処分が繰
り返され,累積,加重されることとなるが,その不利益は計り知れな
い。
ウ都教委は,本件各処分において,最も重視すべき事項である原告ら教
職員及び生徒の精神的自由の尊重,教育に対する不当な支配の抑制を不当
かつ安易に軽視し,原告らが本件不起立等を除いたその余の面では教師と
して優秀であることを考慮せず,他方,本来考慮すべきではない事項であ
る都知事や一部の都議会議員の意向を考慮して,卒業式等の進行が妨害さ
れる抽象的可能性を過大に評価した。
エ都教委は,職務命令違反1回目は戒告,同2回目は減給処分10分の
1・1月,同3回目は減給処分10分の1・6月,同4回目は停職処分1
月というように,非違行為の回数のみで処分量定を重くするという取扱い
をしている。
オ最高裁平成8年3月8日判決・民集50巻3号469頁は,宗教上の信
条に基づいて剣道実技を拒否した学生が,学校長から原級留置処分及び退
学処分を受けたという事案において,これら処分に係る裁量権の逸脱又は
濫用を認めているところ,同判決との比較においても,上記ア~エの事情
に鑑みれば,本件各処分は,社会観念上著しく妥当を欠くものというべき
である。
(2)被告の主張
ア本件不起立等は,以下(ア)~(エ)のとおり,公務の適正な遂行を妨げる
ものであって,都民に対する重大な背信的行為であり,職場内においても,
職場内の秩序維持の観点から見過ごすことができないものであって,公務
員の服務の根幹に係わる重大な非違行為というべきである。したがって,
本件不起立等に対してされた本件各処分における処分量定は適正であり,
本件各処分が社会観念上著しく妥当を欠くものでないことは明らかであ
る。
(ア)本件不起立等は,公教育を担う教育公務員が,卒業式等の場におい
て,公教育の根幹である学習指導要領に基づき教育課程を適正に実施す
るために発せられた重要な職務命令に違反するという重大な非違行為で
ある。
(イ)本件不起立等は,卒業式等の来賓,保護者はもとより,適正に国旗
・国歌の指導を受けることとされている児童・生徒を目の前にしてあえ
て起こされた非違行為であり,教育上好ましくないものである。
(ウ)本件不起立等は,都教委教育長が平成11年10月19日付け都立
高等学校長宛ての「入学式及び卒業式における国旗掲揚及び国歌斉唱の
指導について(通達)」(以下「平成11年通達」という。)を発出し
た以降,校長が繰り返し指導し,本件通達発出後も校長が指導したにも
かかわらず発生した職務命令違反行為である。
(エ)学校も組織である以上,その教師の職にある原告らは,上司である
校長の命令に従うことは当然であるにもかかわらず,本件不起立等は,
組織人として職務上の義務違反を行ったものである。
イ原告らは,本件通達及び本件各職務命令が違憲違法であることを前提と
して,本件各処分が裁量権の逸脱又は濫用に該当する旨主張するが,そ
の前提が誤りであることは,既述のとおりであり,上記主張は理由がな
い。
11原告らの損害の有無及び額
(1)原告らの主張
原告らは,教師としての教育観,職業倫理を獲得した結果として,起立斉
唱等ができない教師となった者であり,起立斉唱等の強制は,原告らの教育
観や職業倫理を全面的に否定するものである。原告らは,本件通達及び本件
各職務命令により,起立斉唱等を強制され,また,自己の信条等に忠実にな
ろうとすれば懲戒処分という不利益を受けざるを得ず,この不利益を回避し
ようとすれば自己の信条等に反する行為を余儀なくされるという矛盾と葛藤
を余儀なくされ,さらに,自己の信条等に忠実に真摯な動機から本件不起立
等に出たことによる制裁として本件各処分を受けたことによって大きな精神
的苦痛と様々な不利益(上記10(1)イ(イ))を受けた。原告らの受けた精神
的苦痛に対する慰謝料の額は,各懲戒処分ごとに少なくとも50万円を下ら
ない。また,損害に含まれるべき弁護士費用は,それぞれ上記慰謝料の額の
1割に相当する5万円を下らない。
(2)被告の主張
争う。本件通達,本件各職務命令及び本件各処分が違憲,違法なものでな
いことは,既述のとおりであり,原告らの損害賠償請求は理由がない。
第4争点に対する判断
1判断の前提となる事実関係
上記第2の2の前提事実(以下「前提事実」という。),以下に記載の各証
拠及び弁論の全趣旨を総合すると,以下の事実が認められる。
(1)学習指導要領の改訂
ア小学校,中学校及び高等学校の各学習指導要領では,平成元年3月まで,
特別活動の目標,内容及び指導計画の作成と内容の取扱いについて,「国
民の祝日などにおいて儀式などを行う場合には,児童(生徒)に対してこ
れらの祝日などの意義を理解させるとともに,国旗を掲揚し,国歌を齊唱
させることが望ましいこと。」と定められていたが,同月15日,学習指
導要領が改訂され,「入学式や卒業式などにおいては,その意義を踏まえ,
国旗を掲揚するとともに,国歌を斉唱するよう指導するものとする。」と
の国旗国歌条項が定められた。なお,国旗国歌条項は,その後改訂されて
いない。
養護学校等の小学部・中学部・高等部の学習指導要領では,同年10月
まで,特別活動の目標,内容及び指導計画の作成と内容の取扱いについて,
それぞれ小学校,中学校,高等学校の学習指導要領に準ずるものとしてい
たほか,「児童又は生徒の経験を広め,社会性を養い,好ましい人間関係
を育てるため,特に特別活動においては,小学校の児童又は中学校の生徒
(高等学校の生徒)及び地域社会の人々と活動を共にする機会を積極的に
設けることが必要である。」と定められていたが,同年10月24日,各
学習指導要領が改訂され,上記定めのうち,「特に特別活動においては,」
の次に「集団活動を通じて」が加えられ,また,上記定めに続けて,「そ
の際,児童又は生徒の心身の障害の状態及び特性等を考慮して,活動の種
類や時期,実施方法等を適切に定めるものとする。」が加えられたが,上
記取扱いについての小学校,中学校及び高等学校の各学習指導要領の定め
を準用する旨の規定に改訂はなかった。
[乙19,20,23,53,54]
イなお,文部省作成の「高等学校学習指導要領解説特別活動編」(平成
11年12月)には,国旗国歌条項について,以下の解説(以下「指導要
領解説」という。)がされている。
「国際化の進展に伴い,日本人としての自覚を養い,国を愛する心を育
てるとともに,生徒が将来,国際社会において尊敬され,信頼される日
本人として成長していくためには,国旗及び国歌に対して一層正しい認
識をもたせ,それらを尊重する態度を育てることは重要なことである。
学校において行われる行事には,様々なものがあるが,この中で,入
学式や卒業式は,学校生活に有意義な変化や折り目を付け,厳粛かつ清
新な雰囲気の中で,新しい生活の展開への動機付けを行い,学校,社会,
国家など集団への所属感を深める上でよい機会となるものである。この
ような意義を踏まえ,入学式や卒業式においては,『国旗を掲揚すると
ともに,国歌を斉唱するよう指導するものとする』こととしている。
入学式や卒業式のほかに,全校の生徒及び教職員が一堂に会して行う
行事としては,始業式,終業式,運動会,開校記念日に関する儀式など
があるが,これらの行事のねらいや実施方法は学校により様々である。
したがって,どのような行事に国旗の掲揚,国歌の斉唱指導を行うかに
ついては,各学校がその実施する行事の意義を踏まえて判断するのが適
当である。
なお,入学式や卒業式などにおける国旗及び国歌の指導に当たっては,
国旗及び国歌に対する正しい認識をもたせ,それらを尊重する態度を育
てることが大切である。」
[甲501,乙61]
(2)東京都における国旗・国歌の指導状況等(平成10年まで)
ア(ア)都教育庁指導部は,上記(1)アの学習指導要領の改訂を受けて,平成
2年2月3日,「新学習指導要領の移行措置について-入学式・卒業式
における国旗・国歌の扱い-」を作成した。これには,国旗・国歌の扱
いに関する都教委の基本的な考え方として,「都教育委員会は,かねて
から国旗及び国歌について,学習指導要領の趣旨に即してこれを尊重す
る態度を育てるよう指導してきたところである。児童・生徒が,国際社
会において尊敬され,信頼される日本人として成長していくためには,
学校教育において,国際社会に生きる日本人としての自覚を培うととも
に,国旗及び国歌に対する正しい認識をもたせ,尊重する態度を養うこ
とが極めて大切であると考える。都教育委員会は,各学校の入学式,卒
業式などにおける国旗の掲揚,国歌の斉唱指導が,平成2年度から新学
習指導要領に即して行われるよう,区市町村教育委員会並びに都立学校
長に対して指導する。」とし,都教委の指導上の要点として,「学校に
おいては,入学式や卒業式などの意義を踏まえ,学習指導要領改訂の趣
旨及び移行措置に基づいて,国旗を掲揚するとともに,国歌を斉唱する
よう指導するものとすること。」,「入学式や卒業式の実施に当たって
は,各教科等における指導との関連を図り,教育活動全体を通じて国旗
及び国歌に対する正しい認識をもたせ,それらを尊重する態度を育てる
ようにすること。」,「国旗を掲揚し,国歌を斉唱するよう指導するに
当たっては,校長を中心として,教職員の共通理解の下に協力して実施
するようにするが,共通理解が得られず実施が困難な状況においては,
学習指導要領の法的根拠を示し,校長の責任により実施すること。」,
「校長は,国旗の掲揚場所について,入学式や卒業式の意義を踏まえ,
そのねらいが達成できるよう適切に定めること。」などを挙げている。
[乙25]
(イ)また,都教委教育長は,同月20日,都立高等学校長及び都立高等
専門学校長に対し,「平成元年度の卒業式における国旗及び国歌の取扱
いについては,新学習指導要領に明示された趣旨を踏まえ,一層適切に
行うようにする。平成二年度の入学式における国旗及び国歌の取扱いに
ついては,新学習指導要領に則して行う。」と記載した「学年末・学年
始めの生活指導について(通知)」を発した。
[乙26]
イ都教委教育長は,平成6年1月18日,都立学校長に対し,「入学式や
卒業式などにおける国旗掲揚及び国歌斉唱の指導について(通知)」を発
出し,「児童・生徒が,国際社会において尊敬され,信頼される日本人と
して成長していくためには,学校教育において,国際社会における日本人
としての自覚を培うとともに,国旗及び国歌に対する正しい認識をもたせ,
尊重する態度を養うことが極めて大切であります。」として,卒業式等に
おける国旗・国歌の取扱いについて,平成元年改訂の高等学校学習指導要
領に基づく遺漏のない実施を求めた。
しかし,東京都内の公立小・中・高等学校の平成5年度卒業式,平成6
年度入学式における国旗掲揚・国歌斉唱の実施状況の調査結果は,以下(ア)
及び(イ)のとおりであった。なお,都教育庁指導部長は,同年5月13日,
文部省に対して同調査結果を回答するに当たり,実施状況に関する特記事
項として,「職員団体の反対があり,十分な実施状況にない。」,「国歌
斉唱の際,一部の教員が意識的に着席したままの学校があった。」,「職
員団体等を中心に,各学校の教職員に国旗掲揚及び国歌斉唱に反対するよ
う呼びかける文書や電話連絡等があった。実施しようとする校長に対して
は,抗議電報等が集中するなどで実施できない学校が多くあった。」等を
記載している。
(ア)平成5年度卒業式
a国旗掲揚の実施率
小学校98.4%(1385校/1407校)
中学校99.5%(662校/665校)
高等学校70.5%(148校/210校)
b国歌斉唱の実施率
小学校83.8%(1179校/1407校)
中学校81.2%(540校/665校)
高等学校4.8%(10校/210校)
(イ)平成6年度入学式
a国旗掲揚の実施率
小学校98.2%(1382校/1407校)
中学校99.5%(663校/666校)
高等学校83.7%(175校/209校)
b国歌斉唱の実施率
小学校81.0%(1140校/1407校)
中学校82.1%(547校/666校)
高等学校4.3%(9校/209校)
[乙28,29]
ウ文部省は,平成6年10月,国会における国旗・国歌に関する質疑応答
を踏まえた指導方針の確認文書として,「学校における国旗・国歌の指導
について」を作成し,衆議院予算委員会において配布しているところ,同
文書には,「学習指導要領は,学校教育法の規定に基づいて,各学校にお
ける教育課程の基準として文部省告示で定められたものであり,各学校に
おいては,この基準に基づいて教育課程を編成しなければならないもので
ある。」,国旗国歌条項について,「校長教員は,これに基づいて児童生
徒を指導するものである。」,「このことは,児童生徒の内心まで立ち入
って強制しようとする趣旨のものではなく,あくまでも教育指導上の課題
として指導を進めていくことが必要である。」などと記載されている。
[乙30]
エ(ア)文部省初等中等教育局長は,平成10年10月15日,各都道府県教
委教育長等に対し,全国の公立小・中・高等学校で行われた平成9年度
卒業式及び平成10年度入学式における国旗掲揚,国歌斉唱の実施状況
に関する調査結果を記載した「公立小・中・高等学校における入学式及
び卒業式での国旗掲揚及び国歌斉唱に関する調査について(通知)」を
発出し,平成7年春の調査に比べて全体としては実施率が上昇している
ものの,いまだ実施されていない学校があるなどとし,「これからの国
際社会に生きていく国民として,我が国の国旗・国歌はもとより諸外国
の国旗・国歌に対する正しい認識と,それらを尊重する態度を育てるこ
とは重要であ」り,このような考え方に基づき,国旗国歌条項が定めら
れているとして,平成元年改訂の学習指導要領に基づき,国旗及び国歌
に関する指導が適切に行われるよう指導の徹底を求めた。上記の調査結
果(平成6年度卒業式及び平成7年度入学式の調査結果を含む。)は,
以下a~dのとおりである。
a平成6年度卒業式
(a)国旗掲揚の実施率
全国東京都
小学校98.4%97.7%
中学校98.0%98.3%
高等学校97.8%84.7%
(b)国歌斉唱の実施率
全国東京都
小学校87.7%83.0%
中学校84.2%81.5%
高等学校77.6%4.8%
b平成7年度入学式
(a)国旗掲揚の実施率
全国東京都
小学校98.4%97.7%
中学校98.0%98.5%
高等学校97.9%84.5%
(b)国歌斉唱の実施率
全国東京都
小学校85.8%80.0%
中学校84.0%81.5%
高等学校78.4%4.4%
c平成9年度卒業式
(a)国旗掲揚の実施率
全国東京都
小学校99.0%98.9%
中学校98.5%99.4%
高等学校98.1%84.0%
実施率が100%であったのは,47都道府県のうち,小学校3
9府県,中学校40府県,高等学校40府県である。
(b)国歌斉唱の実施率
全国東京都
小学校88.2%85.8%
中学校84.8%85.3%
高等学校80.1%3.9%
実施率が100%であったのは,47都道府県のうち,小学校2
9県,中学校33県,高等学校32県である。
d平成10年度入学式
(a)国旗掲揚の実施率
全国東京都
小学校98.8%98.6%
中学校98.4%99.1%
高等学校98.1%85.0%
都立養護学校等94.6%
実施率が100%であったのは,47都道府県のうち,小学校3
8府県,中学校40府県,高等学校38府県である。
(b)国歌斉唱の実施率
全国東京都
小学校86.6%83.8%
中学校84.7%86.0%
高等学校80.6%3.4%
都立養護学校等23.2%
実施率が100%であったのは,47都道府県のうち,小学校2
5県,中学校32県,高等学校32県である。
[乙1,2の1,70,85]
(イ)都教育庁指導部長は,上記(ア)の通知を受け,平成10年11月9
日,都立高等学校長等に対し,「公立小・中・高等学校における入学式
及び卒業式での国旗掲揚及び国歌斉唱に関する調査について(通知)」
を発出し,「これからの国際社会に生きていく国民として,我が国の国
旗・国歌はもとより諸外国の国旗・国歌に対する正しい認識と,それら
を尊重する態度を育てることは,重要なことであ」るとして,平成元年
改訂の学習指導要領に基づき,国旗及び国歌に関する指導が適切に行わ
れるように指導を徹底することを求めた。
[乙1,2の2,70]
(ウ)また,平成9年及び平成10年当時,都立高等学校における国旗掲
揚及び国歌斉唱の実施率は,全国の公立高等学校の中で1番ないし2番
目に低かった。そこで,都教委は,都立高等学校に対して学習指導要領
に基づいた国旗・国歌の指導を行うよう指導,助言することとし,都教
育庁指導部長は,同年11月20日,都立高等学校長に対し,以下の内
容の実施指針(以下「平成10年実施指針」という。)を添付した「入
学式及び卒業式などにおける国旗掲揚及び国歌斉唱の指導の徹底につい
て(通知)」を発出した。
「都立高等学校における国旗掲揚及び国歌斉唱に関する実施指針
1国旗の掲揚について
入学式や卒業式などにおける国旗の取扱いは,次のとおりとする。
なお,都旗を併せて掲揚することが望ましい。
(1)国旗の掲揚場所等
ア式典会場の正面に揚げる。
イ屋外における掲揚については,掲揚塔,校門,玄関等,国旗
の掲揚状況が生徒,保護者,その他来校者に十分に認知できる
場所に掲揚する。
(2)国旗を掲揚する時間
式典当日の生徒の始業時刻から終業時刻までとする。
2国歌の斉唱について
入学式や卒業式などにおける国歌の取扱いは,次のとおりとする。
(1)式次第に「国歌斉唱」を記載する。
(2)式典の司会者が「国歌斉唱」と発声する。」
[甲3,乙1,3,70]
(3)東京都における国旗・国歌の指導状況等(平成11年から平成12年ま
で)
ア都教育庁は,平成11年6月23日,都立学校の卒業式等における国旗
掲揚・国歌斉唱に伴う様々な問題への対応や学校長に対する支援等を図る
ため,「卒業式・入学式対策本部」を設置した。
[乙1,32,70]
イ国旗国歌法の制定
(ア)平成11年8月13日,国旗国歌法が公布,施行された。
(イ)国旗国歌法については,その法案の検討過程において,国旗・国歌
の尊重義務,国や地方公共団体の国旗掲揚義務等を定める条項を設ける
ことも検討されたが,最終的には,国旗・国歌の定義規定を置くことの
みを内容とする法案が国会に提出,審議され成立した。なお,同法案の
国会における審議過程における政府関係者の発言内容として以下のもの
がある。
a内閣総理大臣による発言
(a)「今回の法制化の趣旨は,これまで長年の慣行により,国民の間
に広く定着している国旗と国歌を成文法で明確に規定するものであ
ります」,「政府としては,今回の法制化に当たり,国旗の掲揚等
に関し義務付けを行うことは考えておらず,したがって,国民の生
活に何らの影響や変化が生ずることとはならないと考えている」,
「学校における国旗と国歌の指導は,児童生徒が国旗と国歌の意義
を理解し,それを尊重する態度を育てるとともに,全ての国の国旗
と国歌に対して,ひとしく敬意を表する態度を育てるために行って
いるものであります。このような,学校における国旗と国歌の指導
の重要性に鑑み,今後とも,これまでと同様に適切に実施すること
といたしており,今回の法制化に伴い,その方針に変更が生ずるも
のではないと考えております。」(同年6月29日開催の衆議院本
会議)
(b)「学習指導要領に基づいて,校長,教員は,児童生徒に対し国旗
・国歌の指導をするものであります。このことは,児童生徒の内心
にまで立ち入って強制しようとする趣旨のものでなく,あくまでも
教育上の課題として指導を進めていくことを意味するものでありま
す。」(同年7月21日衆議院内閣委員会)
b文部大臣による発言
(a)「今回の法案は,国旗・国歌の根拠について,慣習であるものを
成文法としてより明確に位置づけるものであり,これによって,学
校教育において,国旗・国歌に対する正しい理解がさらに促進する
ものであると考えており,(…中略…)文部省といたしましては,
法制化が行われた場合においても,学習指導要領に基づき,学校に
おけるこれまでの国旗・国歌の指導に関する取り扱いを変えるもの
ではないと考えており,今後とも,学校における指導の充実に努め
てまいります。」(同日開催の衆議院本会議)
(b)「学校における国旗・国歌の指導は,児童生徒に我が国の国旗・
国歌の意義を理解させまして,そしてこれを尊重する態度を育てる
とともに,諸外国の国旗と国歌も同様に尊重する態度を育てるとい
うことが重要なことでございます。学習指導要領に基づきます国旗
・国歌の指導は,憲法,教育基本法に基づきまして,人格の完成を
目指し,平和的な国家及び社会の形成者としての国民を育成するこ
とを目的として行っているものでございまして,憲法に定めており
ます思想及び良心の自由を制約するものではないと考えておりま
す。」,「学校教育において,国民としての基本的なマナーとして
国旗・国歌に対する正しい認識とそれらを尊重する態度を育てるこ
とは,私は極めて重要であると考えております。」,「学校におい
て,校長の判断で学習指導要領に基づき式典を厳粛に実施するとと
もに,児童生徒に国旗・国歌を尊重する態度を指導する一環として
児童生徒にみずから範を示すことによる教育上の効果を期待して,
教員に対しても国旗に敬意を払い国歌を斉唱するよう命ずること
は,学校という機関や教員の職務の特性にかんがえてみれば,社会
通念上合理的な範囲内のものと考えられます。そういう点から,こ
れを命ずることにより,教員の思想,良心の自由を制約するもので
はないと考えております。」,「国旗・国歌の指導は,国民として
必要な基礎的,基本的な内容を身につけることを目的として行われ
ているものでございまして,(…中略…)児童生徒の内心にまで立
ち入って強制するものではございません。あくまでも教育指導上の
課題として行われるものでございます。」(同年7月21日開催の
内閣委員会文教委員会連合審査会)
(c)「教員は,関係の法令や上司の職務上の命令に従いまして教育指
導を行わなければならないものでございまして,各学校においては,
法規としての性質を有する学習指導要領を基準といたしまして,校
長が教育課程を編成し,これに基づいて教員は国旗・国歌に関する
指導を含め教育指導を実施するという職務上の責務を負うものでご
ざいます。」,「(国旗国歌条項について)校長,教員はこれに基
づいて児童生徒を指導するものであります。このことは児童生徒の
内心にまで立ち入って強制しようとする趣旨のものではなく,あく
までも教育指導上の課題として指導を進めていくことを意味するも
のであります。」(同年8月2日開催の参議院・国旗及び国歌に関
する特別委員会)
c内閣官房長官による発言
(a)「君が代の歌詞は,我が国憲法のもとでは,天皇を日本及び日本
国民統合の象徴とする我が国の末永い平和と繁栄を祈念したものと
理解することが適当と考えており,憲法の主権在民の精神に合致す
るものである」(同年6月29日開催の衆議院本会議)
(b)「政府といたしましては,法制化に伴いまして,国民に対し,国
旗の掲揚,国歌の斉唱等に関し,義務付けを行うことは考えておら
ないわけでございまして,現在の運用に変更が生ずることにはなら
ないわけでございます。法制化によりまして,先ほど申し上げまし
たように,内心の自由との関係で問題が生ずるとは承知していませ
ん。」(同年7月21日開催の衆議院内閣委員会文教委員会連合審
査会)
(c)「かつてこの五十年間,教育の現場におきまして指導要領等が定
められました後におきましても,法制化がないじゃないか,法的根
拠がないじゃないかということが入学式あるいは卒業式の国旗・国
歌のありようについて争いの起きるもととなってきた(…中略…)
生徒の内心に入るものではございませんけれども,この法制化によ
って根拠を得るということの成果はあると考えております。」(同
日開催の衆議院内閣委員会)
(d)「国旗・国歌の法制化と憲法19条の思想及び良心の自由との関
係につきましては,政府といたしましては,法制化に当たりまして,
国旗の掲揚及び国歌の斉唱に関しまして義務付けを行うようなこと
は一切考えていないところでございまして,各人の内心にまで立ち
入って国旗・国歌に対する思いを強制するものではない」(同年8
月2日開催の国旗及び国歌に関する特別委員会)
[甲2,168,169,554,564の1~10]
ウ(ア)文部省初等中等教育局長及び文部省高等教育局長は,各都道府県教
育委員会教育長等に対し,平成11年9月17日,全国の公立小・中・
高等学校における平成10年度卒業式及び平成11年度入学式での国旗
掲揚,国歌斉唱の実施状況に関する調査結果を記載した「学校における
国旗及び国歌に関する指導について(通知)」を発出し,国旗国歌法の
制定に触れ,「国旗及び国歌の指導については,児童生徒に我が国の国
旗と国歌の意義を理解させ,これを尊重する態度を育てるとともに,諸
外国の国旗と国歌も同様に尊重する態度を育てるために,学習指導要領
に基づいて行われているところであり,この法律の施行に伴って,この
ような学校におけるこれまでの国旗及び国歌に関する指導の取扱いを変
えるものではありません。」とした上で,平成10年春の調査に比べて
全体として実施率が上昇しているが,一部の都道府県及び政令指定都市
において依然として実施率が低い状況にあるとして,国旗及び国歌に関
する指導が一層適切に行われるように指導することを求めた。上記の調
査結果は,以下のとおりである。
a平成10年度卒業式
(a)国旗掲揚の実施率
全国東京都
小学校99.0%99.4%
中学校98.6%99.8%
高等学校98.8%92.3%
都立養護学校等98.2%
実施率が100%であったのは,59都道府県・指定都市のうち,
小学校49府県・指定都市,中学校49府県・指定都市,高等学校
49府県・指定都市である。
(b)国歌斉唱の実施率
全国東京都
小学校90.5%87.7%
中学校87.1%88.4%
高等学校83.5%7.2%
都立養護学校等26.8%
実施率が100%であったのは,59都道府県・指定都市のうち,
小学校39県・指定都市,中学校40県・指定都市,高等学校38
県・指定都市である。
b平成11年度入学式
(a)国旗掲揚の実施率
全国東京都
小学校99.0%99.4%
中学校98.6%99.8%
高等学校99.0%95.0%
都立養護学校等98.2%
実施率が100%であったのは,59都道府県・指定都市のうち,
小学校46府県・指定都市,中学校49府県・指定都市,高等学校
49府県・指定都市である。
(b)国歌斉唱の実施率
全国東京都
小学校89.2%85.6%
中学校87.2%87.0%
高等学校85.2%5.9%
都立養護学校等28.6%
実施率が100%であったのは,59都道府県・指定都市のうち,
小学校36県・指定都市,中学校40県・指定都市,高等学校39
県・指定都市である。
[乙1,4の1,70,85]
(イ)都教育庁指導部長は,上記(ア)の通知を受け,平成11年10月1
日,都立学校長等に対し,「学校における国旗及び国歌に関する指導に
ついて(通知)」を発出し,「児童及び生徒が,我が国の国旗及び国歌
の意義を理解し,諸外国の国旗及び国歌も含め,それらを尊重する態度
を育てることは,重要なことです。」として,平成元年改訂の学習指導
要領に基づき,国旗及び国歌に関する指導が一層適切に行われるように
指導の徹底を求めた。
[乙1,4の2]
エ(ア)都教委教育長は,平成11年10月19日,都立高等学校長に対し,
平成11年通達(入学式及び卒業式における国旗掲揚及び国歌斉唱の指
導について)を発出し,卒業式等を学習指導要領及び平成10年実施指
針に基づき実施することを命ずるとともに,実施に当たっては,①教職
員に対しては,卒業式等における国旗掲揚及び国歌斉唱の指導の意義に
ついて,学習指導要領に基づき説明し,理解を求めるよう努めるととも
に,併せて,国旗国歌法制定の趣旨を説明すること,②児童・生徒に対
しては,国際社会に生きる日本人としての自覚及び我が国のみならず他
国の国旗及び国歌に対する正しい認識とそれらを尊重する態度が重要で
あることを十分説明すること,③保護者に対しては,学校教育において,
児童・生徒に国旗及び国歌に対する正しい認識や,それらを尊重する態
度の育成が求められていること,並びに卒業式等において,学校は国旗
掲揚及び国歌斉唱の指導を学習指導要領に基づき行う必要があることな
どを,時機をとらえて説明すること,④校長が国旗掲揚及び国歌斉唱の
実施に当たり,職務命令を発した場合において,教職員が式典の準備業
務を拒否した場合,又は式典に参加せず式典中の生徒指導を行わない場
合は,服務上の責任を問われることがあることを教職員に周知すること
を踏まえる必要がある旨通達した。
[甲4,乙1,5,70,85]
(イ)都教委教育長は,同日,都立養護学校等校長に対し,「入学式及び
卒業式における国旗掲揚及び国歌斉唱の指導について(通達)」を発出
し,平成10年実施指針と同内容の「都立盲・ろう・養護学校における
国旗掲揚及び国歌斉唱に関する実施指針」に基づき,卒業式等を実施す
ることを命ずるとともに,実施に当たっては,上記(ア)①~④の点を踏
まえる必要がある旨通達した。
[乙1,55,70,85]
(ウ)都教育庁指導部は,平成12年1月,都立学校の全教職員向けに「入
学式や卒業式における体験を通して,自国の国旗・国歌を尊重する態度
を養い,それを通して,他の国の国旗・国歌も尊重する態度を身に付け,
国際社会において信頼され,尊敬される日本人を育成することが重要で
す。学習指導要領の趣旨を踏まえた適切な指導の在り方を,校長を中心
に全教職員で工夫し,計画的に取り組んでください。」などと記載する
とともに,国旗国歌条項,指導要領解説,平成10年実施指針,平成1
1年通達を掲載するなどした「入学式・卒業式の適正な実施について」
と題するリーフレットを作成し,全職員に配布した。なお,このリーフ
レットは,高等学校教育指導課が作成した都立高等学校向けのものと,
心身障害教育指導課が作成した都立養護学校等向けのものがあり,都立
高等学校向けのものには,全国の公立高等学校の卒業式における国旗掲
揚及び国歌斉唱の実施状況の推移(表),ある保護者の抗議文(平成1
1年3月のある都立高等学校の卒業式において,教員が校長の指示に従
わず,卒業式の実施に協力しなかったことについて,保護者が当該学校
に提出した抗議文)などが,都立養護学校等向けのものには,「入学式
や卒業式などにおける国旗及び国歌の取扱い」と題して,指導要領解説
の「特別活動編」第4章「指導計画の作成と内容の取扱い」第3節「入
学式や卒業式などにおける国旗及び国歌の取扱い」の中から「3入学
式や卒業式においては,その意義をふまえ,国旗を掲揚するとともに国
歌を斉唱するよう指導するものとする」の部分を抜粋したものなどが掲
載されていた。
[甲234,乙1,6,7,70,85]
オ平成11年度卒業式及び平成12年度入学式における国旗掲揚・国歌斉唱
の実施率は以下のとおりであった。
(ア)平成11年度卒業式
a国旗掲揚の実施率
全国東京都
小学校99.7%99.9%
中学校99.3%100%
高等学校99.7%99.0%
都立養護学校等100%
実施率が100%であったのは,59都道府県・指定都市のうち,
小学校50府県・指定都市,中学校50都府県・指定都市,高等学校
54府県・指定都市である。
b国歌斉唱の実施率
全国東京都
小学校95.4%93.2%
中学校93.6%94.9%
高等学校96.2%88.5%
都立養護学校等98.2%
実施率が100%であったのは,59都道府県・指定都市のうち,
小学校42県・指定都市,中学校43県・指定都市,高等学校45県
・指定都市である。
(イ)平成12年度入学式
a国旗掲揚の実施率
全国東京都
小学校99.6%99.7%
中学校99.4%100%
高等学校99.8%100%
都立養護学校等100%
実施率が100%であったのは,59都道府県・指定都市のうち,
小学校50府県・指定都市,中学校51都府県・指定都市,高等学校
56都府県・指定都市である。
b国歌斉唱の実施率
全国東京都
小学校94.7%91.8%
中学校94.0%95.6%
高等学校98.1%99.0%
都立養護学校等98.2%
実施率が100%であったのは,59都道府県・指定都市のうち,
小学校41県・指定都市,中学校44県・指定都市,高等学校48県
・指定都市である。
[乙8の1,85]
(4)東京都における国旗・国歌の指導状況等(平成13年から平成14年ま
で)
ア(ア)文部科学省初等中等教育局長は,平成13年5月25日,各都道府県
教育委員会教育長等に対し,全国の公立小・中・高等学校における平成
12年度卒業式及び平成13年度入学式での国旗掲揚及び国歌斉唱の実
施状況に関する調査結果を記載した「学校における国旗及び国歌に関す
る指導について(通知)」を発出し,国旗掲揚と国歌斉唱に関しては,
平成12年春の調査に比べて全体として実施率が上昇しているが,全校
実施が達成されていない都道府県教育委員会等では,域内の全ての学校
で実施されるように指導を徹底するように求めた。上記の調査結果及び
都立養護学校等における実施率は,以下のとおりである。
a平成12年度卒業式
(a)国旗掲揚の実施率
全国東京都
小学校99.9%100%
中学校99.9%100%
高等学校100%100%
都立養護学校等100%
実施率が100%であったのは,59都道府県・指定都市のうち,
小学校55都府県・指定都市,中学校54都府県・指定都市,高等
学校全都道府県・指定都市である。
(b)国歌斉唱の実施率
全国東京都
小学校98.8%98.6%
中学校98.2%99.5%
高等学校99.5%100%
都立養護学校等100%
実施率が100%であったのは,59都道府県・指定都市のうち,
小学校47県・指定都市,中学校48県・指定都市,高等学校53
都県・指定都市である。
b平成13年度入学式
(a)国旗掲揚の実施率
全国東京都
小学校99.9%100%
中学校99.9%100%
高等学校100%100%
都立養護学校等100%
実施率が100%であったのは,59都道府県・指定都市のうち,
小学校55都府県・指定都市,中学校54都府県・指定都市,高等
学校全都道府県・指定都市である。
(b)国歌斉唱の実施率
全国東京都
小学校98.7%98.9%
中学校98.4%100%
高等学校99.6%100%
都立養護学校等100%
実施率が100%であったのは,59都道府県・指定都市のうち,
小学校46県・指定都市,中学校49都県・指定都市,高等学校5
4都県・指定都市である。
[甲5,6,乙8の1,33,85]
(イ)都教育庁指導部長は,上記(ア)の通知を受け,平成13年6月12
日,都立学校長等に対し,「学校における国旗及び国歌に関する指導に
ついて(通知)」を発出し,平成12年度卒業式及び平成13年度入学
式においては,一定の改善が図られたが,今後とも,各学校において,
国旗及び国歌に関する指導が一層適切に行われるよう指導を徹底するよ
うに求めた。
[甲5,乙1,8の2]
イ(ア)都立高等学校における国旗掲揚,国歌斉唱の実施率は,平成12年
度卒業式から100%となったものの,国旗を掲揚した三脚を舞台袖の
見えないところに置く,国歌斉唱を式次第に明記しない,国歌斉唱は単
にCD等により曲を流すだけである,国歌斉唱時には,多くの教員が式
典会場の外におり,国歌斉唱が終わってから,外にいた教員が式典会場
内に入ってくる,国歌斉唱時に教員が起立しないなどの実態があり,都
教委は,その実施方法に課題があると考えていた。
[乙62,70,72~79,84,85,86の1・3~5]
(イ)都教育庁指導部長は,平成14年4月11日,都教委定例会におい
て,小・中・高等学校における平成13年度卒業式及び平成14年度入
学式での国旗掲揚及び国歌斉唱の実施率が昨年同様100%であったこ
とを報告するとともに,昨年度よりは改善されていはいるが,実施上の
課題が残っているとして,その具体例として,国歌斉唱時に一部の教員
及び生徒が起立していない,音楽科担当の教師がピアノ伴奏を拒否する,
教員の服装が不適切であるといった具体例を紹介した上で,「今後解決
すべき課題が,まだかなり残っているわけでございますが,今後とも指
導の徹底を図ってまいりたいと思っております。」と説明した。
[乙67]
ウ(ア)文部科学省初等中等教育局長は,平成14年7月31日,各都道府
県教育委員会教育長等に対し,全国の公立小・中・高等学校における平
成13年度卒業式及び平成14年度入学式での国旗掲揚及び国歌斉唱の
実施状況に関する調査結果を記載した「学校における国旗及び国歌に関
する指導について(通知)」を発出し,国旗掲揚と国歌斉唱に関しては,
平成13年春の調査に比べて全体として実施率が上昇しているところ,
卒業式等における国旗掲揚,国歌斉唱について,児童・生徒に我が国の
国旗と国歌の意義を理解させ,これを尊重する態度を育てるという学習
指導要領の趣旨を踏まえ,域内の全ての学校で適切に実施されるように
指導を徹底するように求めた。上記の調査結果及び都立養護学校等にお
ける実施率は,以下のとおりである。
a平成13年度卒業式
(a)国旗掲揚の実施率
全国東京都
小学校99.9%100%
中学校99.9%100%
高等学校100%100%
都立養護学校等100%
実施率が100%であったのは,59都道府県・指定都市のうち,
小学校56都府県・指定都市,中学校57都府県・指定都市,高等
学校全都道府県・指定都市である。
(b)国歌斉唱の実施率
全国東京都
小学校99.3%100%
中学校99.2%100%
高等学校99.8%100%
都立養護学校等100%
実施率が100%であったのは,59都道府県・指定都市のうち,
小学校51都県・指定都市,中学校52都県・指定都市,高等学校
56都府県・指定都市である。
b平成14年度入学式
(a)国旗掲揚の実施率
全国東京都
小学校99.9%100%
中学校99.9%100%
高等学校100%100%
都立養護学校等100%
実施率が100%であったのは,59都道府県・指定都市のうち,
小学校55都府県・指定都市,中学校57都府県・指定都市,高等
学校全都道府県・指定都市である。
(b)国歌斉唱の実施率
全国東京都
小学校99.2%100%
中学校99.3%100%
高等学校99.8%100%
都立養護学校等100%
実施率が100%であったのは,59都道府県・指定都市のうち,
小学校50都県・指定都市,中学校53都県・指定都市,高等学校
56都府県・指定都市である。
[乙33,67]
(イ)都教育庁指導部長は,平成14年11月1日,都立高等学校長に対
し,平成13年度卒業式及び平成14年度入学式の国旗掲揚及び国歌斉
唱はほぼ全校で実施されたが,国旗掲揚及び国歌斉唱の実施態様につい
ては,平成11年通達に即していない学校もあったとして,同通達を添
付して,同通達に基づいて一層の改善を図るよう依頼する「入学式及び
卒業式における国旗掲揚及び国歌斉唱の指導の徹底について(通知)」
を発出した。
[乙33]
(5)東京都における国旗・国歌の指導状況等(平成15年から平成16年ま
で)
ア(ア)文部科学省初等中等教育局教育課程課長は,平成15年3月5日,
各都道府県教育委員会教育長等に対し,「公立小・中・高等学校におけ
る入学式及び卒業式での国旗掲揚及び国歌斉唱に関する取扱いについて
(照会)」を発出し,域内の公立の小・中・高等学校における平成14
年度卒業式及び平成15年度入学式での国旗掲揚及び国歌斉唱の実施状
況の報告を求めた。
[乙9の1,70]
(イ)都教育庁指導部長は,上記(ア)の照会を受け,同月6日,都立学校
長に対し,「公立小・中学校及び都立学校における入学式及び卒業式で
の国旗掲揚及び国歌斉唱に関する調査について(依頼)」を発出し,平
成14年度卒業式及び平成15年度入学式における公立小・中学校及び
都立学校の国旗掲揚,国歌斉唱の実施状況について報告を求めた。
従来の調査においては,①国旗掲揚をしたか否か,②国歌斉唱をし
たか否か,③斉唱しなかった場合,メロディーを流したか否かのみが調
査事項とされていたが,平成14年度卒業式以降,国旗掲揚の方法(式
典会場内か否か,壇上か否か,正面か三脚かなど)や,式次第に国歌斉
唱と記載したか否かも調査事項とされた。また,卒業式等の実施に関す
るトラブルの有無・内容,マスコミ等の取材の有無・内容等についても
併せて報告することとされた。
[乙9の2,56]
(ウ)上記(イ)の調査により,国旗掲揚,国歌斉唱ともに100%の実施
率であったものの,前記(4)イ(ア)と同様,卒業式等の実態は,国歌斉唱
時に起立しない教員がいる,司会者が「起立」を発声しない学校がある,
司会者が開式前に内心の自由について説明する学校があるなどの状況で
あることが確認された。
なお,都立高等学校(全日制)及び養護学校等の平成14年度卒業式
及び平成15年度入学式における国旗掲揚の方法及び式次第における
「国歌斉唱」の記載の有無に関する調査結果は,以下のとおりである。
a式典会場内における国旗掲揚の方法
(a)平成14年度卒業式(卒業式の実施校数は,高等学校が合計2
00校,養護学校等が合計56校である。)
高等学校養護学校等
正面壇上・掲揚78校43校
壇上・三脚118校6校
会場内・掲揚0校2校
会場内・三脚4校5校
(b)平成15年度入学式(入学式の実施校数は,高等学校が合計1
85校,養護学校等が合計55校である。)
高等学校養護学校等
正面壇上・掲揚82校47校
壇上・三脚102校4校
会場内・掲揚0校0校
会場内・三脚1校4校
b式次第における「国歌斉唱」の記載の有無
(a)平成14年度卒業式
高等学校養護学校等
記載あり197校56校
記載なし3校0校
(b)平成15年度入学式
高等学校養護学校等
記載あり184校55校
記載なし1校0校
[甲11,557,乙15,36,37,70]
(エ)都教育庁指導部長は,平成15年4月10日,都教委定例会におい
て,小・中・高等学校における平成14年度卒業式及び平成15年度入
学式での国旗掲揚及び国歌斉唱の実施率が昨年同様100%であったこ
とを報告するとともに,卒業式等における実施上の課題が残っていると
し,その具体例として,国歌斉唱時に一部の教員や生徒が起立しない,
司会が国歌斉唱時に内心の自由の説明をするといった例を紹介した上
で,「この問題につきましては教育指導上の課題といたしまして,これ
までも各学校に対して指導してきたところでございますけれども,依然
としてこうした実態がございますので,大きな課題として受けとめまし
て,今後とも引き続き指導の徹底を図ってまいりたい」と説明した。ま
た,都教育庁指導部長は,同年5月22日,都教委定例会において,上
記(ウ)の調査結果を報告するとともに,卒業式等が学習指導要領に基づ
き適正に実施されるように指導を継続する旨説明した。
[甲9,10]
イ(ア)都教委は,平成15年6月25日,都立学校等における卒業式及び
入学式が学習指導要領に基づきより適正に実施されるために,都教育庁
理事を本部長とする「都立学校等卒業式・入学式対策本部」(以下「本
件対策本部」という。)を設置した。
本件対策本部の第1回会合及び第1回幹事会は,同年7月9日に開催
され,その際に配布された資料の一つである「卒業式・入学式の課題と
適正実施に向けての対策(案)」と題する書面には,以下の内容が記載
されている。
「平成14年度卒業式及び平成15年度入学式実施上の課題
1国旗掲揚
・実施指針どおり,国旗を舞台壇上正面に掲揚していない。高
等学校で舞台壇上正面国旗掲揚は卒業式78校(39%),入
学式82校(44%),盲・ろう・養護学校は,卒業式43校
(77%),入学式47校(85%)である。
2国歌斉唱
・卒業式や入学式の開式前などに,司会が「内心の自由」につ
いて説明する学校がある。
・国歌斉唱時に,司会が「起立」を発声しない学校がある。
・国歌斉唱時に,起立しない教員がいる。
3卒業式・入学式全般
・校長の指示に従わない教員がいる。
平成15年度卒業式及び平成16年度入学式に向けての目標(案)
○すべての学校で,国旗を舞台壇上正面に掲揚する。
○国歌斉唱時に,司会が「起立」を発声し,全教員が起立する。
平成15年度卒業式及び平成16年度入学式に向けての対策(案)
1都立学校における卒業式・入学式の適正実施
卒業式・入学式における国旗掲揚・国歌斉唱の適正実施を図る
とともに,教職員の服務の厳正を図るために通達を出す。
2都立学校における国旗掲揚及び国歌斉唱に関する実施指針の改

平成11年10月の通達「入学式及び卒業式における国旗掲揚
及び国歌斉唱の指導について」に示された実施指針を改訂する。
3国旗掲揚及び国歌斉唱に関する実施状況調査
卒業式・入学式における国旗掲揚及び国歌斉唱に関する実施状
況を調査し,その結果を都立学校においては学校別に,区市町村
立学校においては区市町村別に都民に公表する。
4都立学校における卒業式における教育長職員の出席
設置者である東京都教育委員会が都立学校の卒業式に出席し,
祝意を表する。」
[甲11,453,乙1,11,12の1,70,85]
(イ)平成15年7月2日に開催された東京都議会平成15年第2回定例
会において,P33議員が,都教委に対し,国歌斉唱時に内心の自由に
ついて説明すること,国歌斉唱時に起立をしない教職員がいることにつ
いて見解を求めたところ,P28教育長は,「国歌斉唱時に関し内心の
自由を説明することについてでございますが,卒業式や入学式等におき
ましては,学習指導要領に示された意義を踏まえまして,国旗を掲揚す
るとともに,国歌を斉唱するよう児童生徒に対して指導しなければなら
ないものでございます。卒業式や入学式等は,厳粛かつ清新な雰囲気の
中で,新しい生活への展開への動機づけを行うための儀式的行事でござ
いまして,国歌斉唱に当たって,司会者が教員に対し内心の自由につい
て説明することは,極めて不適切であると考えております。」,「卒業
式,入学式において,児童・生徒に我が国の国旗・国歌の意義を理解さ
せ,これを尊重する態度を育成すべき教員が,国歌斉唱時に起立しない
ということは,あってはならないことでございます。都教育委員会は,
今後,卒業式,入学式における国歌斉唱の指導を適正に実施するよう,
各学校や区市町村教育委員会を強く指導してまいります。」と答弁した。
[甲88]
(ウ)本件通達案の作成
本件通達案には,当初,「国旗掲揚及び国歌斉唱等の実施に当たり,
校長が職務命令を発した場合において,教職員がこれに従わない場合は,
服務上の責任を問われることを,教職員に周知すること。」と記載され
ていたが,同年10月1日に開催された本件対策本部の第2回会合及び
第3回幹事会において,「職務命令を発した場合において」との記載が
あると,職務命令を発しなければ処分しないということになるとの意見
が出され,上記一文は削除された。しかし,同月9日に開催された本件
対策本部の第4回幹事会において,幹事から,本件通達は校長に対して
の職務命令であるから,教職員への周知は必要である,卒業式等の適正
実施に向けて,教職員に対し繰り返し指導していただき,それでも校長
の指導に従わないときは職務命令を発するということである旨の発言が
された結果,本件通達の文言となった。
[甲13,14,乙1,12の2,70,71]
ウ本件通達の発出
(ア)本件対策本部は,平成15年10月17日に開催された第3回会合
において,それまでの検討結果を取りまとめ,同月23日,都教委の平
成15年第17回定例会において,新たに発すべき通達案を報告し,P
28教育長は,同日,都立学校長に対し,本件通達を発出した。
[前提事実(3)ア,甲1,15,272,乙1,12の3,13,14の3,
70,71]
(イ)都教委は,同日,本件説明会を開催した。
P28教育長は,本件説明会において,①都教委は,教育目標及び基
本方針の中で,21世紀を担う児童・生徒に,世界の中の日本人として
のアイデンティティをはぐくむ教育が重要であることを示している,②
卒業式等で着席したままの教員や国歌斉唱を妨げるような式の運営をす
る教員がおり,実施態様には様々な課題がある,③卒業式等の適正な実
施は儀式的行事の問題にとどまらず,学校運営に対しての校長の経営方
針が明確に反映され,教育課程が適切に実施されることを意味するなど
とあいさつした。
その後,P29指導部長が,本件通達を読み上げた。
次に,東京都教育長P34事部長は,本件説明会において,①職務命
令を出すに当たっては,いつ,どこで,誰に向かって発したか記録する
こと,②国旗は舞台壇上正面に掲揚すること,③屋外の国旗掲揚の時
間帯は,始業時から終業時まで,例えば,全日制であれば午前8時15
分から午後5時ころまでとすること,④教職員には国旗に向かって起立
し国歌を斉唱させること,⑤教職員の座席を指定すること,⑥教職員
が起立しない場合,現認確認をし,都教委に報告をすること,⑦都教委
は,同報告を受けて,服務上の責任を問うこととし,都教育庁を挙げて
体制を作ること,⑧国歌斉唱時に座っている教職員にその場で職務命令
を発するのは難しいので,職務命令を発する場合は,事前に発すること,
⑨国歌斉唱のピアノ伴奏は,会場にピアノがあれば,専科の教員に命ず
ることとし,いつ,どこで,誰に向かって命令したのか記録すること,
⑩教職員が,ピアノを弾きたくないとの意思を示した場合には,職務命
令違反として,現認確認をし,都教委に報告をすること,⑪会場設営に
ついては,児童・生徒が正面を向くようにすること,⑫教職員には,厳
粛かつ清新な雰囲気の中で行われる儀式に相応しい服装をさせること,
⑬都教委において,職務命令の発出の方法,手順に関する手順書を示す
ことなどを説明した。
最後に,P29指導部長は,本件通達は,都立学校長に対する職務命
令であると説明した。
[前提事実(3)イ,甲20~24,46,47,303,304,401,
453,乙1,14の1・2,36~40,41の1~11,41の12
の1・2,41の14~22,42の1・2,62,70,72,77~
79,85,86の1,95]
エ本件説明会後における指導等
(ア)都教委は,平成15年10月23日,本件説明会の終了後,地区(通
称「学区」)ごとに連絡会を実施し,主任指導主事らが,校長に対し,
①国旗を掲揚する「舞台壇上正面」とは,壇上正面の壁面であり,上か
ら吊り下げる場合を含むが,三脚による掲揚は不可である,②国旗及び
都旗は,各学校の予算で購入してもらいたい,国旗が3000円~40
00円程度,都旗は2万円程度する,③国旗,都旗,校旗の3枚を掲揚
する場合は,正面に国旗,向かって左に都旗,向かって右に校旗とする,
④国歌斉唱時に起立していればよく,入場,一同起立,開式の辞,国歌
斉唱の順に起立のまま通して行うことでよい,⑤内心の自由を説明する
ことによって,立ちにくい,歌いにくい状況を作らない,⑥教職員は,
式場内に可能な限り入れるようにする,⑦ピアノ伴奏できる者がいない
場合には,CD等を流す場合もあるので,ピアノ伴奏ができない場合に
は,その理由を都教委に文書で提出し,都教委に相談すること,⑧何が
式典に相応しい服装であるかは社会通念上の判断である,⑨本件通達の
「入学式,卒業式等」の「等」には,周年行事(創立記念式典),開校
式,閉校式,落成式が含まれる,⑩平成15年度卒業式には,全ての都
立学校に教育庁職員を派遣するなどの指導(説明)を行った。
[甲22~24,47,303,304,313,乙14の1・2,38,
70,72]
(イ)P29指導部長は,同年11月11日,都立高等学校と都立養護学
校等の合同の校長連絡会において講話し,都議会議員から卒業式等の実
施態様について問題が指摘されている,本件通達は職務命令である,本
件通達を卒業式等の適正実施のために校長のツールとして活用してもら
いたい,卒業式等については,まず形から入り,形に心を入れればよい,
形式的であっても,立てば一歩前進であるなどと話した。また,同連絡
会においては,本件要綱が配布され,その内容の説明が行われた。
[甲22,48,53,乙70,86の1,86の5]
(ウ)東京都教育長指導部のP35高等学校教育指導課長(以下「P35
指導課長」という。)は,同年12月9日,都立高校校長連絡会におい
て,教職員に対する職務命令は,書面により立会人を付けて行うこと,
教務主任研修会で本件実施指針が憲法違反ではないかと発言した教務主
任がいたが,教務主任の発言として不適切であることなどを話した。
[甲22,48,54,68]
(エ)なお,P28教育長は,同月10日,都議会本会議第4回定例会に
おいて,本件通達に関し,「都教育委員会は,これまでも学習指導要領
に基づき,入学式,卒業式等を適正に実施するよう学校を指導してまい
りました。その結果,平成12年度卒業式より,全ての都立高等学校,
都立盲・ろう・養護学校で国旗掲揚,国歌斉唱は実施されましたが,国
旗が参列者から確認できない位置に掲揚されたり,指導すべき立場の教
員が国歌斉唱時に起立しなかったりするなど,実施対応にさまざまな課
題がございます。今回の通達は,こうした状況を改善し,入学式や卒業
式などの儀式的学校行事が適正に実施されるよう,新たな通達を行った
ところでございます。」,「(国旗・国歌の指導は)児童生徒の内心に
まで立ち至って強制しようとする趣旨のものではなく,あくまでも教育
指導上の課題として進めているものでございます。」と説明した。
[甲260]
(オ)都教育庁指導部のP36副参事は,同月12日に開催された都立養
護学校等校長の事務連絡会において,舞台壇上での卒業証書授与は,各
学校において,児童・生徒一人一人の障害の状況や,施設,設備の状況
に応じて個別に配慮していくこと,周年行事における国歌斉唱時に不起
立の教員がいたことについて,本件通達に基づき適切に対応していくこ
と,必要な場合には職務命令を確実に出すこと,職務命令を出す場合に
は文書で個別に出すことなどの話をした。
[乙85,86の1]
(カ)P35指導課長は,平成16年1月13日,都立高校校長連絡会に
おいて,校長に対し,同年3月中に,同年4月に実施される入学式に関
し,教職員に対して職務命令を出しておくように指導した。また,学区
ごとの連絡会が開催され,例えば,第5学区の連絡会においては,担当
指導主事が,校長に対し,①卒業式の実施要項の中には会場の配置図,
教員の座席図,司会の進行台本,教員の役割分担表を必ず入れること,
②式次第には都教委の挨拶を必ず入れること,③実施要項ができたらす
ぐに担当指導主事に提出すること,④教職員に対しては,口頭及び文書
で職務命令を出すことなどを内容とする指導を行った。
[甲22,48,55]
(キ)都教育庁指導部のP37主任指導主事は,同日,都立養護学校等校
長の連絡会において,平成15年度卒業式及び平成16年度入学式の適
正実施をするために本件通達を教職員へ周知徹底すること,本件実施指
針に基づいて卒業式等を実施するについて,肢体不自由養護学校におけ
るスロープ設置等の個別の適正な対応をしてほしいなどの話をした。
[乙85,86の1]
(ク)平成16年1月30日,学区ごとの臨時校長連絡会が開催され,例
えば,第5学区の連絡会においては,P35指導課長が,校長に対し,
「卒業式・入学式の実施に当たって(A高校の周年行事の実施例)」と
題する資料を配付し,同資料に基づき指導を行った。なお,同資料には,
①2週間前までに式の実施要項(会場図,座席表,式次第,役割分担表
等を含む。)を作成すること,②1週間前までに教職員全体に対して口
頭で包括的な職務命令を発令すること,③前日までに教職員個人に対し
て文書で職務命令を発令すること,④式当日は,国歌斉唱状況を確認し,
職務命令違反があった場合には,校長がその事実を確認し,報告書を作
成することなどが記載されていた。また,同連絡会では,校長に対して,
卒業式等の実施に関するQ&Aも配付されたが,終了後に回収された。
[甲22,23,52]
(ケ)同年2月10日,都立高校校長連絡会が開催され,その後,学区ご
との連絡会が開催された。例えば,第5学区の連絡会では,担当指導主
事らが,校長に対し,教職員に対する職務命令は文書で一人ひとりに手
渡すように指導するとともに,卒業式等の実施に関するQ&A等が記載
された「卒業式・入学式の適正な実施のために~新実施指針に関する質
問に答えて~」と題する校長手持の資料(冊子)を配布した(なお,同
資料は,上記(ク)のQ&Aを一部変更したものである。)。
[甲22,23,48,51]
(コ)都教育庁の担当指導主事らは,同月から同年3月にかけて,校長に
対し,平成15年度卒業式の実施について,直接又は電話等で指導を行
い,事前に卒業式実施要項(式場図,進行表,教職員の座席一覧表等)
を提出させるとともに,必要があれば修正等を指導するなどし,卒業式
等が終了次第,電話や所定の様式の書面により実施状況等を報告するこ
とを求めた。また,都教委は,各校長に対し,卒業式で国歌斉唱時の不
起立等の服務事故が発生した場合,速やかに都教委の人事部担当管理主
事に対し,電話連絡をするとともに,人事部職員課に事故報告書を提出
することなどを指示した。
[甲22~24,68,100,219,235,304,465の1,
乙40]
(サ)都教育庁指導部高等学校教育指導課長は,平成16年3月11日,都立
高等学校長に対し,「入学式・卒業式の適正な実施について(通知)」を
発し,一部の学校の卒業式において,生徒のほとんどが国歌斉唱時に起立
しなかったりするなどの不適正な事態が生じているとして,校長が自らの
権限と責任の下に,教育課程の適正な管理を図り,卒業式等の儀式的行事
の適正な実施について,以下のとおり教職員への指導を徹底するよう依頼
した。
「1ホームルーム活動や入学式・卒業式等の予行等において,生徒に
不起立を促すなどの不適切な指導を行わないこと。
2生徒会や卒業式実行委員会等の場で,生徒に不起立を促すなどの
不適切な指導を行わないこと。
3式典の妨げになるような行動に生徒を巻き込まないこと。」
[乙59,70]
(シ)P28教育長は,同月16日,平成16年度東京都議会予算特別委
員会において,P33議員から,①校長が指導を繰り返しても,国旗・
国歌に対する不適切な指導が続く場合は,校長は職務命令を発するべき
ではないか,②学習指導要領に基づく教育が行われていなければ,処分
の対象になるのではないかとの質問を受け,①当然,校長の権限に基づ
いて職務命令を出すことになる,②研修命令を含めた処分の対象となる
のは当然である旨答弁した。
[甲121]
オ平成15年度の周年記念式典,平成15年度卒業式及び平成16年度入
学式における職務命令違反に関する事実経過等
(ア)全ての都立学校において,各校長から教職員に対し,口頭又は文書
によって,国歌斉唱の際の起立斉唱又はピアノ伴奏を命ずる職務命令が
発令された。都教委は,本件通達の発出後,平成15年度中に実施され
た周年記念式典,平成16年3月に都立学校(ただし,一部島しょを除
く。)において行われた平成15年度卒業式にそれぞれ職員を派遣し,
各職員は,「国歌斉唱」の式次第への記載の有無,「国歌斉唱」の発声
や「起立」の号令の有無,国歌斉唱時の教職員や生徒の起立状況等を,
所定の報告用メモに記入する形で都教委に報告した。また,卒業式等で
不起立等を行った教職員がいた都立学校においては,校長が所定のひな
形を使用して,服務事故報告書を作成して都教委人事部職員課に提出し
た。都教委は,同報告書による事故報告を受けた後,各校長等から事情
聴取を行った。
[甲25,75,76,211,220,231の1,404,405,
418,453,464の2,乙70~72,85,86の1]
(イ)a都教委は,本件通達の発出後,平成15年度に実施された都立学
校の周年記念式典において都立学校長の職務命令に違反して国歌斉唱
時に起立しなかった又は式典会場から退場した教職員10名につい
て,それぞれ事情聴取を行い,その懲戒処分を,平成16年2月4日
開催の教職員懲戒分限審査会に諮問した。同審査委員会は,同教職員
10名について,戒告処分を相当とする旨の答申を行い,都教委は,
同年3月12日,上記答申と同内容の処分(戒告処分)を決定し,同
月17日,各処分を発令した。
b都教委は,同月に都立学校で行われた平成15年度卒業式において
都立学校長の職務命令に違反して国歌斉唱時に起立しなかった,式典
会場に入場しなかった,式典会場から退場した,又はピアノ伴奏を拒
否した教職員について,同月26日までにほとんどの事情聴取を行っ
た。
c都教委は,第一次分として,都立高等学校在籍者及び平成15年度
末退職予定者の合計171名の懲戒処分について,平成16年3月2
9日開催の教職員懲戒分限審査会に諮問した。同審査委員会は,同教
職員171名について,戒告処分を相当とする旨の答申を行い,都教
委は,同月12日,上記答申と同内容の処分(戒告処分)を決定し,
同日に14名,同月31日に157名について各処分を発令した。ま
た,同戒告処分を受けた現職の教職員のうち再雇用職員採用選考(新
規)合格者3名について,その合格が取り消された。
なお,都教育庁は,同日,都立学校ごとに,上記懲戒処分の内容,
国歌斉唱時の不起立の有無等を公表した。
d都教委は,上記cに続く第二次分として,都立養護学校等在籍者1
0名について,その懲戒処分を同年4月5日開催の教職員懲戒分限審
査委員会に諮問した。同審査委員会は,①初めての懲戒処分となる9
名については戒告処分を相当とする,②過去に同様の非違行為により
戒告の懲戒処分を受け,再び職務命令違反を行った1名については,
減給処分10分の1・1月の処分を相当とする旨の答申を行い,都教
委は,同日開催の臨時会において,上記答申と同内容の懲戒処分を行
うことを決定し,同日,各処分を発令した。
なお,都教育庁は,同月6日,都立学校ごとに,上記懲戒処分の内
容,国歌斉唱時の不起立の有無等を公表した。
e都教委は,同月に都立学校で行われた平成16年度入学式において
都立学校長の職務命令に違反して国歌斉唱時に起立しなかった,式典
会場に入場しなかった,又はピアノ伴奏を拒否した教職員(合計36
名)について,それぞれ事情聴取を行った。都教委は,同教職員36
名と,上記dに続く第三次分の2名について,その懲戒処分を同年5
月17日開催の教職員懲戒分限審査委員会に諮問した。同審査委員会
は,①初めての懲戒処分となる35名については戒告処分を相当とす
る,②過去に同様の非違行為により戒告の懲戒処分を受け,再び職務
命令違反を行った3名については,減給処分10分の1・1月の処分
を相当とする旨の答申を行い,都教委は,同月24日開催の定例会に
おいて,上記答申と同内容の懲戒処分を行うことを決定し,同月25
日,各処分を発令した。
なお,都教育庁は,同日,都立学校ごとに,上記懲戒処分の内容,
国歌斉唱時の不起立の有無等を公表した。
f都教育庁は,同日,懲戒処分の内容の公表と併せて,今後は,不起
立等により懲戒処分を受けた教職員について,適正な教育課程の実施
及び再発防止に向けて,以下の内容の研修を行うことを発表した。
(a)研修センター等における研修
①懲戒処分を受けた学校の校長,副校長及び主幹
「適正な教育課程の管理に向けた研修」として,「学習指導要
領に基づく適正な教育課程の編成・実施及び管理の在り方」に関
する研修を実施
②戒告処分を受けた教職員
「服務事故再発防止研修」として,「基本研修」(「教育公務
員の服務義務と関係法令等」に関する研修を実施
③減給処分を受けた教職員
「基本研修」に加えて,課題に応じた個別の「専門研修」を実

(b)学校における校内研修
校長は,上記(a)①の研修終了後,全教職員に対する育成計画を
立てて,課題校として進行管理を行うとともに,適正な教育課程の
実施に向けた校内研修を行う。
[甲17,77~79,82,83,274の1~4,275の1~4,
276の1~3,乙71,86の1・2]
カP28教育長は,平成16年6月8日,同年東京都議会第2回定例会に
おいて,平成15年度卒業式及び平成16年度入学式について,「通達後
初めて行われたものでございまして,学習指導要領や通達に基づいて適正
に実施するよう,都教育委員会は全校全教職員に対して,包括的職務命令
に加え,個別的職務命令を発出するよう指導したところでございます。」,
「都立高校におきましては,なお適正化への途上にあるという現状に鑑み
まして,来春の卒業式,入学式におきまして,個別的職務命令を発出する
よう指導してまいります。」と答弁した。
[甲89]
キ(ア)都教委は,同月28日,平成15年度に実施された周年記念式典,
平成15年度卒業式及び平成16年度入学式における職務命令違反によ
り懲戒処分を受けた都立学校教職員のうち退職者を除く212名に対す
る服務事故再発防止研修の実施を都立学校長宛に通知した。
(イ)都教委は,平成16年8月2日及び同月9日,服務事故再発防止研
修(基本研修)を実施し,合計205名が受講した。
(ウ)都教委は,同月30日,服務事故再発防止研修(専門研修)を実施
し,年度途中退職者1名を除く対象者3名が受講した。
(エ)病気等による未受講者4名は,平成17年1月21日に追加実施し
た服務事故再発防止研修を受講し,育児休業による未受講者1名は,平
成17年度に受講することとなった。
[乙71]
ク都教育庁指導部長は,平成16年12月10日,都立学校長に対し,「学
校から児童・生徒及び保護者に配布する文書の取扱いについて(通知)」
を発出し,配布物については,全て校長が責任を負うこと,職員団体など,
学校及び都教委以外の機関が作成した文書で,校長が配布を許可していな
い文書,校長が決定又は承認していない文書等を配布してはならないこと,
都立学校のレターボックス(配布物を入れるためにクラスないし学年ごと
に設置している箱)を公務以外の目的で使用してはならないことなどを通
知した。
[甲243]
(6)東京都における国旗・国歌の指導状況等(平成17年以降)
ア都教委教育長(P28教育長)は,平成17年1月24日,「再任用及
び再雇用職員の任用について(通知)」を発出し,定年退職予定者が再任
用及び再雇用の選考に合格した場合であっても,当該合格者が退職日まで
に服務事故等を起こした場合には,在職期間中の勤務成績不良として任用
しないことがあるとして,再任用及び再雇用選考合格者にする服務指導等
の周知徹底を改めて求めた。
[甲280]
イ平成16年度卒業式及び平成17年度入学式における職務命令違反に関
する事実経過等
(ア)全ての都立学校において,各校長から教職員に対し,口頭又は文書
によって,起立斉唱又はピアノ伴奏を命ずる職務命令が発令された。
(イ)同年3月に都立学校で行われた平成16度卒業式において校長の職
務命令に違反して国歌斉唱時に起立しなかった教職員合計48名(原告
らのうち合計37名を含む。)について,それぞれ事情聴取が行われ,
その懲戒処分が教職員懲戒分限審査委員会に諮問された。同審査委員会
は,①初めての懲戒処分となる教職員37名(別紙2懲戒処分等一覧表
の原告番号(以下,単に「原告番号」という。)でいうと,1,3,4,
6~14,16~20,21-1,22,23,26~29,30-1,
32-1,33,34及び37の原告29名を含む。)については,戒
告処分を相当とし,②既に職務命令違反により戒告処分を受けた後,再
び職務命令違反を行った教職員9名(原告番号でいうと,2,5,15,
24,25,31-1及び35の原告7名を含む。)については,減給
処分10分の1・1月を相当とし,③既に職務命令違反により戒告処分,
減給処分10分の1・1月をそれぞれ受けた後,再び職務命令違反を行
った教職員2名(原告P38を含む。)については,減給処分10分の
1・6月とする旨の答申を行い,都教委は,同月30日開催の定例会に
おいて,上記答申と同内容の各懲戒処分を決定し,同日に合計8名(上
記原告ら37名のうち,原告P11,原告P12及び原告P17の3名
を含む。)について,同月31日に合計40名(その余の上記原告ら3
4名を含む。)について,各懲戒処分を発令した。
(ウ)平成17年4月に都立学校で行われた平成17年度入学式において
校長の職務命令に違反して国歌斉唱時に起立せず,または,ピアノ伴奏
をしなかった教職員合計9名(原告らのうち合計8名を含む。)につい
て,それぞれ事情聴取が行われ,その懲戒処分が教職員懲戒分限審査委
員会に諮問された。同審査委員会は,①初めての懲戒処分となる教職員
6名(原告P19,原告P39,原告P40,原告P20及び原告P2
1の5名を含む。)については,戒告処分を相当とし,②既に職務命令
違反により戒告処分を受けた後,再び職務命令違反を行った教職員3名
(原告P41,原告P42及び原告P43)については,減給処分10
分の1・1月を相当とする旨の答申を行い,都教委は,同年5月26日
開催の定例会において,上記答申と同内容の各懲戒処分を決定し,同月
27日,各懲戒処分を発令した。
(エ)a都教委は,同年6月8日,平成16年度卒業式及び平成17年度
入学式において職務命令違反により懲戒処分を受けた都立学校教職員
のうち退職者を除く45名及び平成16年度服務事故再発防止研修を
育児休業中のため未受講であった者1名について,服務事故再発防止
研修の実施を都立学校長宛に通知した。
b都教委は,平成17年7月21日,服務事故再発防止研修(基本研
修)を実施し,44名が受講した。家庭の都合により欠席した1名は
同年8月31日に受講した。
c都教委は,同年9月7日,同月9日,同月13日及び同月14日,
服務事故再発防止研修(専門研修)を実施し,11名が受講した。
[前提事実(4),乙71,86の1・2]
ウ都教委教育長は,平成17年12月8日,同年第4回東京都議会定例会
において,「学習指導要領や通達に基づきまして卒業式及び入学式等を適
正に実施するために,全校全教職員に対しまして,包括的職務命令に加え,
個別的職務命令を発出するよう校長を指導してまいりました。職務命令は,
あくまでも校長の権限と責任に基づいて発出されるものでありますが,今
後は,職務命令として必要な要件を参考として通知するとともに,校長連
絡会等におきまして周知を図るなど,卒業式,入学式等の適正な実施に向
けて校長を支援してまいります。なお,職務命令の発出に課題のある学校
につきましては,個別に指導の徹底を図ってまいります。」と答弁した。
[甲90]
エ都教育庁指導部長は,平成18年2月10日,都立学校長及び都立中学
校・中等教育学校長に対し,「入学式・卒業式等の適正な実施について(通
知)」を発し,校長が教職員に対して個別に職務命令を発出する場合には,
①各教職員に対し,児童・生徒への指導,司会,ピアノ伴奏等の具体的な
職務内容を,実施要項とは別の文書によって個別に示すこと,②児童・生
徒への指導に当たり,学習指導要領に基づき適正に指導することを明示す
ること,③本件通達及び本件実施指針に示された内容に従うことの3点に
留意して,校長の権限と責任に基づき,職務命令書を適切に作成するよう
依頼した。
[甲111]
オ平成17年度卒業式及び平成18年度入学式における職務命令違反に関
する事実経過等
(ア)全ての都立学校において,各校長から教職員に対し,口頭又は文書
によって起立斉唱又はピアノ伴奏を命ずる職務命令が発令された。
(イ)平成18年3月に都立学校で行われた平成17度卒業式において校
長の職務命令に違反して国歌斉唱時に起立せず,または,ピアノ伴奏を
しなかった教職員合計30名(原告らのうち21名を含む。)について,
それぞれ事情聴取が行われ,その懲戒処分が教職員懲戒分限審査委員会
に諮問された。同審査委員会は,①初めての懲戒処分となる教職員19
名(原告P44,原告P22,原告P45,原告P46,原告P47,
原告P26,原告P48,原告P49,原告P24,原告P25,原告
P50及び原告P51の12名を含む)については,戒告処分を相当と
する,②既に職務命令違反により戒告処分を受けた後,再び職務命令違
反を行った教職員10名(原告P52ことP53,原告P54,原告P
55ことP56,原告P57,原告P58,原告P59,原告P60及
び原告P61の8名を含む。)については,減給処分10分の1・1月
を相当とし,③既に職務命令違反によって,戒告処分,減給処分10分
の1・1月及び減給処分10分の1・6月をそれぞれ受けた後,再び職
務命令違反を行った教職員原告P62については,停職処分1月を相当
とする旨の答申を行い,都教委は,同月30日開催の臨時会において,
上記答申と同内容の各懲戒処分を決定し,同日に合計3名(原告P62
を含む。)について,同月31日に合計27名(上記原告ら21名のう
ち原告P62を除く20名を含む。)について,各懲戒処分を発令した。
(ウ)都教委教育長は,同月13日,都立学校長及び都立中学校・中等教
育学校長に対し,「入学式,卒業式等における国旗掲揚及び国歌斉唱の
指導について(通達)」を発出し,「今般,一部の都立高等学校定時制
課程卒業式において,国歌斉唱時に学級の生徒の大半が起立しないとい
う事態が発生した」として,本件通達及び平成16年3月11日付け通
知の「趣旨をなお一層徹底するとともに,校長は自らの権限と責任にお
いて,学習指導要領に基づき適正に児童・生徒を指導することを,教職
員に徹底する」ことを求めた。
(エ)平成18年4月に都立学校で行われた平成18度入学式において校
長の職務命令に違反して国歌斉唱時に起立しなかった教職員(原告らの
うち5名)について,それぞれ事情聴取が行われ,その懲戒処分が教職
員懲戒分限審査委員会に諮問された。同審査委員会は,①初めての懲戒
処分となる教職員2名(原告P63及び原告P64ことP65)につい
ては,戒告処分を相当とし,既に職務命令違反により戒告処分を受けた
後,再び職務命令違反を行った教職員3名(原告P66,原告P45及
び原告P67)については,減給処分10分の1・1月を相当とする旨
の答申を行い,都教委は,同年5月25日開催の定例会において,上記
答申と同内容の各懲戒処分を決定し,同月26日,各懲戒処分を発令し
た。
[前提事実(4),甲91,乙71]
2本案前の争点(戒告処分を受けた後に退職した者は戒告処分の取消しを求め
る訴えの利益を有しているか)について
原告P1ら25名は,本件訴訟の口頭弁論終結日までの間に東京都を退職し
た者であるところ(前提事実(1)ア(イ)),被告は,原告P1ら25名に係る本
件各処分(戒告処分)の取消しを求める訴えについて,戒告処分は,その責任
を確認し,将来を戒めるという内容の処分であり,公務員が在職していること
を前提として認められるものであるから,既に東京都を退職して公務員の地位
を失った原告P1ら25名は,本件各処分(戒告処分)の取消しを求める利益
を有していない旨主張する。
一般職に属する地方公務員に対する戒告処分は,公務員が地公法29条1項
各号に該当する場合において,その責任を確認し,将来を戒めるという内容の
処分であり,公務員たる地位にある者に対して行われ,戒告を受けることによ
り完結するものであるから,戒告処分を受けた公務員がその地位を有しなくな
った場合には,その効力自体はその時点で失われるものと解される。
しかしながら,証拠(甲215)及び弁論の全趣旨によれば,東京都におい
ては,戒告処分を受けた場合,必然的に昇給期間が3か月延伸され,それが退
職時までの昇給時期に影響することが認められる。また,証拠(甲280)及
び弁論の全趣旨によれば,東京都は,定年退職者等について,従前の勤務実績
等に基づく選考により,1年を超えない範囲内で任期を定め,常時勤務を要す
る職又は短時間勤務の職に採用することができると定める地公法28条の4,
28条の5に基づき,再任用及び再雇用の制度を採用し,東京都公立学校再雇
用職員設置要綱(昭和60年3月23日付59教人職第554号第5第1項
(1))において,「正規職員を退職又は再任用職員を任期満了する前の勤務成績
が良好であること」を再雇用の要件の一つとしていることが認められるところ,
上記1で認定した事実(以下「認定事実」という。)(5)オ(イ)cのとおり,再
雇用職員の採用選考に合格した後,戒告処分を受けたことを理由に合格が取り
消された者がいたことが認められる。
以上によれば,東京都においては,戒告処分を受けた者は,戒告処分を前提
として,給与上及び人事上の不利益を受ける制度となっているということがで
き,戒告処分が取り消されれば,昇給予定時期に昇給することが期待できた地
位や再雇用されることを期待し得る地位を回復することになると解される。そ
して,これらの地位は,一定の法的保護に値するものというべきであり,退職
によって当然に失われるものとはいえない。そうすると,既に東京都を退職し
た原告P1ら25名についても,本件各処分(戒告処分)の取消しを求める法
律上の利益があるというべきであるから,被告の本案前の申立ては理由がない。
3本件通達,本件各職務命令及び本件各処分は原告らの思想及び良心の自由を
侵害する憲法19条違反のものかについて
(1)証拠(甲465の6,582の2・5,583の1・2・3の1・4~8,
589の174~180・182~190・192~206・209・21
1・214~221・223~229・231・232・234~236・
238~240,原告P68,原告P32,原告P69,原告P39,原告
P40,原告P26,原告P49,原告P51の各本人尋問の結果)によれ
ば,原告らは,上記第3の2(1)アに記載の,①日の丸・君が代は,我が国の
戦前の軍国主義等の象徴としての役割を果たしたものであり,過去の歴史に
対する反省等から,起立斉唱等をすることには反対である,②日の丸・君が
代に対しては,多様な考え方があるにもかかわらず,起立斉唱等を一律に強
制することには反対である,③戦前教育と同様の過ちを繰り返すべきではな
く,起立斉唱等を一律に強制することには,教師として反対である,④一律
の起立斉唱等に応じることは,自らの教育実践を否定するものであり,起立
斉唱等に応じることはできない,⑤日の丸・君が代を受け入れることができ
ない生徒らの人権を最大限保障する必要があるから,教師として,起立斉唱
等に応じることはできないといった考え,信念,信条等を有していることが
認められる。そして,原告らのこれらの考え等は,日の丸・君が代に関わる
原告らの歴史観ないし世界観及びこれに由来する社会生活上ないし教育上の
信念等ということができる。
(2)原告らは,卒業式等における起立斉唱等を義務付けることは,憲法19条
に違反する旨主張しているところ,憲法19条は,人の内心の精神活動を保
障するものであり,人の内心における精神活動が外部に現れる行為までも保
障するものではないが,人の外部的行為には,思想・良心と密接に関係する
ものがあることは否定できず,その人の思想・良心の本質又は核心部分を直
接否定するような外部的行為を強制することは,その人の思想・良心を侵害
することにほかならないというべきであるから,このような場合には,憲法
19条違反の問題が生じ得ると解される。もっとも,上記の思想・良心の本
質又は核心部分を直接否定する外部的行為であるかどうかは,各人が自己の
思想・良心の本質又は核心部分に反すると独自に考え,主張することによっ
て外部的行為を強制されない自由が一般的に認められるならば,社会生活が
成り立たないことは明らかであり,これを承認することはできないことから
すると,ある外部的行為を強制することが思想・良心の本質又は核心部分を
直接否定し,ひいては思想・良心の自由を侵害することになるかどうかは,
その外部的行為自体を客観的な見地から判断して行うのが相当であると解す
る。
以上の観点から検討するに,現在の主権国家を主体として構成されている
国際関係の下では,国旗・国歌はそれぞれの国又は国民全体の象徴として扱
われ,相互にこれを尊重し,儀礼の場において,国家又は国民全体への一般
的敬意を表すものとして国旗・国歌を尊重することが国際慣習となっている
ことは周知の事実であること,前提事実(2)ア,認定事実(3)イ~オ,同(4)
ア,ウによれば,平成11年に,我が国を示す一般的な象徴としての国旗を
日の丸(日章旗),国歌を君が代と定める国旗国歌法が制定され,本件通達
及び本件各職務命令が発令された時点以前において,全国の公立学校におけ
る卒業式等において,国歌の起立斉唱が広く実施されていたことが認められ
ることからすると,卒業式等における国歌斉唱時に起立斉唱する行為は,一
般的,客観的に見て,出席する教職員にとっては通常想定される行為であり,
卒業式等における慣例上の儀礼的所作としての性質を有する行為ということ
ができ,かつ,そのような所作として外部からも認識されるものというべき
である。また,音楽科担当の教員が卒業式等における国歌斉唱時にピアノ伴
奏する行為についても,一般的,客観的に見て,音楽科担当の教員としての
職務上の行為として通常想定され期待されるものであるということができ,
かつ,そのような行為として外部からも認識されるものいうべきである。そ
うすると,卒業式等における国歌斉唱時に起立する行為やピアノ伴奏する行
為は,その性質の点から見て,原告らの有する上記の歴史観ないし世界観及
びこれに由来する社会生活上ないし教育上の信念等それ自体を否定すること
と不可分に結び付くものとはいえず,国歌斉唱時に起立斉唱等を行うことを
定める本件通達及び原告らに対して国歌斉唱時に起立斉唱等を行うことを求
める内容の本件各職務命令は,原告らの有する上記の歴史観ないし世界観及
びこれに由来する社会生活上ないし教育上の信念等それ自体を否定するもの
ということはできない。また,国歌斉唱時の起立斉唱等の行為は,その外部
からの認識という点から見ても,特定の思想又はこれに反する思想を有する
ことを外部に表明する行為に当たると評価することは困難であり,特に,職
務上の命令に従ってこのような行為が行われる場合には,上記のように評価
することは一層困難であるといわざるを得ない。そして,以上のことからす
ると,卒業式等における国歌斉唱時に教職員が起立する行為及び音楽科担当
の教員がピアノ伴奏する行為は,特定の思想と結び付くものであると評価す
ることはできないから,本件各職務命令の発令が直ちに,偏った特定の観念
を教授することになるとか,児童・生徒に対して一方的な思想,理念等を教
え込んだり植え付けたりすることを強制することになるということはできな
い。
以上によれば,卒業式等における国歌斉唱時の起立斉唱等は,儀式的行事
における学校職員という社会的な立場にある者としての行動にすぎず,国歌
斉唱時に起立斉唱等を行うことを定める本件通達及び原告らに対して起立斉
唱等を命ずる本件各職務命令が,原告らの有する上記歴史観ないし世界観及
びこれに由来する社会生活上ないし教育上の信念等それ自体を直ちに否定す
るものと断ずることはできず,また,特定の思想の有無について告白を強要
するものであるということも,児童・生徒に対して一方的な思想や理念を教
え込むことを強制するものであるということもできない。
(3)もっとも,卒業式等の国歌斉唱時における起立斉唱については,儀式的行
事である卒業式等の場面における儀礼的所作に当たる行為ではあるものの,
一般的,客観的に見れば,国旗及び国歌に対する敬意の表明の要素が含まれ
ることを否定することはできない。そうすると,自らの歴史観ないし世界観
及びこれに由来する社会生活上ないし教育上の信念等との関係で否定的な評
価の対象となる日の丸や君が代に対して敬意を表明することには応じ難いと
考える者が,これらに対する敬意の表明の要素を含む行為を求められること
は,その行為が個人の歴史観ないし世界観に反する特定の思想の表明に係る
行為そのものではないとはいえ,個人の歴史観ないし世界観及びこれに由来
する社会生活上ないし教育上の信念等に由来する行動(敬意の表明の拒否)
と異なる外部的行動を求められることとなり,その限りにおいて,その者の
思想及び良心の自由についての間接的な制約となる面があることは否定し難
い。個人の歴史観ないし世界観及びこれに由来する社会生活上ないし教育上
の信念等には多種多様なものがあり得るのであり,それが内心にとどまらず,
それに由来する行動の実行又は拒否という外部的行動として現れ,当該外部
的行動が社会一般の規範等と抵触する場面において制限を受けることがある
ところ,それが必要かつ合理的なものである場合には,その制限によっても
たらされる上記の間接的な制約も許容され得るものというべきである。そし
て,ある職務命令が,個人の歴史観ないし世界観及びこれに由来する社会生
活上ないし教育上の信念等に由来する行動と異なる外部的行為を求めること
となる要素を含んでおり,その限りにおいて,当該職務命令が個人の思想及
び良心の自由についての間接的な制約となる面があると判断される場合,こ
のような間接的な制約が許容されるか否かは,当該職務命令の目的及び内容
並びに上記の制約を許容し得る程度の必要性及び合理性が認められるか否か
という観点から判断するのが相当である。
本件通達及び本件各職務命令が求める国歌斉唱時の起立斉唱行為は,上記
(1)の内容の原告らの歴史観ないし世界観及びこれに由来する社会生活上な
いし教育上の信念等との関係で否定的な評価の対象となるものに対する敬意
の表明の要素を含むものであることから,そのような敬意の表明には応じ難
いと考える原告らにとって,その歴史観ないし世界観及びこれに由来する社
会生活上ないし教育上の信念等に由来する行動(敬意の表明の拒否)と異な
る外部的行為となるものである。この点に照らすと,本件各職務命令は,一
般的,客観的な見地からは儀式的行事としての卒業式等における慣例上の儀
礼的所作を求めるものであるが,それが結果として上記の要素との関係にお
いて,原告らの歴史観ないし世界観及びこれに由来する社会生活上ないし教
育上の信念等に由来する行動との相違を生じさせることとなるという点で,
その限りで原告らの思想及び良心の自由についての間接的な制約となる面が
あるものということができる。
他方,卒業式等の教育上の特に重要な節目となる儀式的行事においては,
生徒等への配慮を含め,教育上の行事にふさわしい秩序を確保して式典の円
滑な進行を図ることが必要であるといえる。学校教育法は,小・中・高等学
校における教育目標として,国家の現状と伝統についての正しい理解と国際
協調の精神の涵養を掲げ(18条2号,36条1号,42条1号),国旗国
歌条項も学校の儀式的行事の意義を踏まえて国旗掲揚及び国歌斉唱による教
育指導を行う旨を定めており,国旗国歌法は,従来の慣習を法文化して,日
の丸を国旗とし,君が代を国歌とする旨を定めている。そして,卒業式等に
おける国歌斉唱時の起立斉唱は,教員が日常担当する教科等や日常的に従事
する業務ではないものの,児童・生徒に対する学習指導要領(国旗国歌条項)
に沿った教育指導の一つとして行われるものである以上,その実行が求めら
れるというべきであり,住民全体の奉仕者として法令等及び上司の職務上の
命令に従って職務を遂行すべきこととされる地方公務員の地位の性質及びそ
の職務の公共性(憲法15条2項,地公法30条,32条)に鑑みると,都
立学校の教職員である原告らは,法令及び職務上の命令に従わなければなら
ない立場にあり,地公法に基づき,学習指導要領に沿った卒業式等の実施の
指針を示した本件通達(本件実施指針)を踏まえて,本件各校長から学校行
事である卒業式等に関して本件各職務命令を受けたものである。
これらの点に照らすと,本件通達及び本件各職務命令は,都立学校の教職
員である原告らに対して卒業式等の式典における慣例上の儀礼的所作とし
て,かつ,国旗国歌条項に沿った教育指導の一つとして,国歌斉唱時の起立
斉唱を求めるものであって,学校教育の目標や卒業式等の儀式的行事の意義,
在り方等を定めた関係法令等の諸規定の趣旨に沿い,地方公務員の地位の性
質及びその職務の公共性を踏まえ,生徒等への配慮を含め,教育上の行事に
ふさわしい秩序の確保とともに卒業式等の円滑な進行を図るものであるとい
うことができる。
以上の諸事情を踏まえると,本件通達及び本件各職務命令については,前
記のように外部的行動の制限を介して原告らの思想及び良心の自由について
の間接的な制約となる面はあるものの,本件通達及び本件各職務命令の目的
及び内容並びに上記の制限を介して生ずる制約の態様等を総合的に衡量すれ
ば,上記の制約を許容し得る程度の必要性及び合理性が認められるものとい
うべきである。
(4)本件通達及び本件各職務命令が憲法19条に反するとする原告らの個別
の主張(上記第3の2(1)ウ~キ)の検討
ア上記第3の2(1)ウの主張について
本件通達及び本件各職務命令が憲法19条に違反するものではないこと
については,上記(2)及び(3)で述べたとおりであり,これと異なる見解を
前提とする原告らの上記主張は,採用することができない。
なお付言するに,卒業式等の国歌斉唱時における起立斉唱は,国旗及び
国歌に対する敬意の表明の要素が含まれることは否定できないものの,儀
式的行事における儀礼的所作に当たる行為であるということを超えて,国
家や天皇を賛美する性質を有する行為であると解することはできない。こ
の点,日の丸・君が代を否定的に評価する考えや,これらを国旗・国歌と
することについて異論があることは事実であるが,国旗国歌法は,我が国
の過去の歴史における日の丸・君が代の扱い等にかかわらず,日本国憲法
の下において,国民が形成していくべき我が国の国旗を日の丸(日章旗)
とし,国歌を君が代とするものと定め,一般的にも,日の丸・君が代は,
現に存在し,今後も我が国の国旗・国歌であると意識されているものであ
り,国家又は天皇を賛美するものであると一般的に認識されているもので
あると解することはできない。また,国家とどう向き合うかは個々人の自
律的な判断に委ねられるべき事柄であるということは,一般的,抽象的な
意味において,これを否定すべき理由はない。しかしながら,本件は,学
校教育における儀式的行事として行われる卒業式等において,学習指導要
領(国旗国歌条項)に沿った教育指導を担う立場にある教職員に対し,儀
式的所作としての行為である国歌斉唱時の起立斉唱を義務付けることがで
きるかが問題となっているのである。そして,儀式的行事における儀式的
所作としての行為である起立斉唱が国家とどう向き合うかを明らかにする
行為であると解することはできず,そうである以上,教職員としての立場
で卒業式等に参加している原告らの自律的な判断に委ねられるべきもので
もないことは明らかである。
イ上記第3の2(1)エの主張について
本件通達及び本件各職務命令が原告らに対して求める行為の性質等につ
いては,上記(2)及び(3)で述べたとおりであり,これが憲法19条に違反
するものではないことについても,上記(2)及び(3)で述べたとおりであり,
これと異なる見解を前提とする原告らの上記主張は,採用することができ
ない。
なお付言するに,原告らは,本件通達及び本件各職務命令による卒業式
等における国歌斉唱時の起立斉唱等の義務付けは,起立斉唱等をすること
ができないという原告らの信念等と直接矛盾する行為を強制するものであ
るから,憲法19条に違反する旨主張する。しかしながら,日の丸・君が
代に関わる原告らの歴史観ないし世界観及びこれに由来する社会生活上な
いし教育上の信念等から,卒業式等における国歌斉唱時に起立斉唱等をす
ることができないという考えが不可分に導き出されるものではないし,原
告らの真摯さの程度等にかかわらず,そのような考えが思想・良心の本質
又は核心部分であると解することはできない。仮に,上記主張が,本件通
達及び本件各職務命令が客観的には違憲違法と評価できない場合であって
も原告らが主観的に憲法上問題があると判断したときには,すべからく本
件通達の発出及び本件各職務命令の発令により原告らの思想・良心の自由
が侵害されるということをいうものであるとすると,外部的行為を強制さ
れない自由を一般的に認めることとなるものであって,その帰結自体相当
でないといわざるを得ず,採用の限りではない。
また,原告らは,原告らが本件通達及び本件各職務命令が命ずる起立斉
唱等を拒否する場合,それによって原告らが原告らの信念等を有している
ことが推知されることになるから,本件通達及び本件各職務命令は,原告
らの有する原告らの信念等の表明を迫るものであり,憲法19条が保障す
る沈黙の自由を侵害するとも主張する。しかしながら,上記アで説示した
とおり,本件通達及び本件各職務命令は,学校教育における儀式的行事と
して行われる卒業式等において,教職員である原告らに対し,儀礼的所作
としての行為である国歌斉唱時の起立斉唱を求めるものであることからす
ると,原告らの信念等の表明を迫るものであると解することはできず,上
記主張も採用することができない。
ウ上記第3の2(1)オの主張について
同主張は,本件通達及びその後の都教委の一連の指導について,原告ら
の信念等ゆえに起立斉唱等を拒む教職員をあぶり出し,国旗・国歌を尊重
する態度を強制的に注入するという目的で行われたものであるなどとし
て,本件各処分は,原告らの思想及び信条に基づく不利益取扱いにほかな
らないというものである。
しかしながら,後記7(2)アで説示するとおり,本件通達は,学習指導要
領(国旗国歌条項)に基づく卒業式等における国旗・国歌の指導をより一
層改善,充実することを目的として発出されたものであると認められるも
のである。そして,本件通達及びその後の都教委の一連の指導が,原告ら
の主張するような目的・意図で行われたものであることを認めるに足りる
証拠はない。また,本件各職務命令が原告らの有する特定の思想・良心の
抑圧等の意図をもって発令されたものであるとか,本件各処分が,職務命
令違反ではなく,原告らの有する思想及び信条を理由として行われたもの
であるといった事情を認めるに足りる証拠はない。
よって,原告らの上記主張は採用することができない。
エ上記第3の2(1)カの主張について
本件通達及び本件各職務命令が憲法19条に違反するものではないこ
と,本件通達及び本件各職務命令が原告らの思想・良心の自由との関係で
間接的な制約となる面はあるとしても,本件通達及び本件各職務命令には
その制約を許容し得る程度の必要性及び合理性が認められることについて
は,上記(2)及び(3)で述べたとおりであり,これと異なる見解を前提とす
る原告の上記主張は,採用することができない。
オ上記第3の2(1)キの主張について
同主張は,アメリカでは,連邦最高裁判所が1943年に出したバーネ
ット判決以来,一貫して,国旗・国歌に対する特定の行為を強制すること
は連邦憲法修正第1条に違反するとの判断が出されていることを指摘し,
本件通達及び本件各職務命令においても同様に解されるべきであるという
ものである。
しかしながら,証拠(甲154)及び弁論の全趣旨によれば,バーネッ
ト判決は,ウエストバージニア州教育委員会が,同州の公立学校の生徒に
対し,学校の課程の中の儀式において,国旗への敬礼(右腕をしっかり伸
ばし,掌を上に向けて挙げる行為)及び忠誠の誓約(「私はアメリカ合衆
国の国旗と,それが象徴する共和国,すなわち全ての人々に自由と正義を
もたらす不可分一体の国家に対して忠誠を誓います。」という言葉を唱和
すること)を義務付け,教員と生徒の全てが儀式に参加すること,国旗敬
礼等を拒否することに対しては不服従行為として退学処分,刑事処罰等の
処置が科されることを決議し,国旗敬礼を拒否した生徒が退学処分を受け
たという事例について,合衆国国旗に向けて一定の敬礼の姿勢をとること
を,退学処分という罰則のもとに要求し,その結果,生徒及び両親が不法
な欠席という理由で起訴される可能性を必然的に生じさせることは,憲法
上の制約を逸脱し,連邦憲法修正第1条及び14条が保障する知的・精神
的自由権を侵すものであると判断したものである。我が国においても,公
立学校において上記のような敬礼行為や上記の文言のような誓約を唱和す
るように義務付け,これに従わない者を退学処分等にするという行為は,
憲法違反の行為と評価されるものと考えるが,本件通達及び本件各職務命
令が原告らに求めた行為は,卒業式等において国旗に向かって起立して国
歌を斉唱するというものであって,一般的,客観的に見て儀式的行事にお
ける慣例上の儀礼的所作であると認識されている行為をすることを求める
にとどまるものであるから,バーネット判決とは事案を異にするものであ
り,バーネット事件判決の判断は直ちに参考となるものではない。
(5)以上の次第であるから,本件通達,本件各職務命令及び本件各処分が,原
告らの思想及び良心の自由を侵害し,憲法19条に違反するものであるとい
うことはできない。
4本件通達,本件各職務命令及び本件各処分は原告らの信教の自由を侵害する
憲法20条違反のものであるかについて
原告らは,起立斉唱等を強制されることによって,キリスト教が禁じている
偶像崇拝を強制され,また,天皇を讃えることを強制されることになり,原告
P30ら3名の信仰の自由あるいは宗教的行為の自由が侵害されている旨主張
する。
しかしながら,上記3(2),(3)において説示したとおり,卒業式等における
起立斉唱等は,儀式的行事における学校職員という社会的な立場にある者とし
ての行動にすぎず,本件通達及び本件各職務命令が,原告P30ら3名の有す
る信仰を否定したり,その信仰の有無について告白を強要したりするものであ
るということはできない。また,原告P30ら3名が信仰するキリスト教が,
その教義上,起立斉唱等を禁じていることを認めるに足りる証拠はない。なお,
上記3(3)で説示したとおり,卒業式等における国歌斉唱時の起立斉唱は,国旗
及び国歌に対する敬意の表明の要素が含まれることは否定できないものの,一
般的,客観的に見て,儀式的行事における儀礼的所作に当たる行為であり,そ
れを超えて,宗教的意味合いを持つ行為であるということはできない。
また,原告P30ら3名が,本件通達及び本件各職務命令によって,その信
仰に由来する行動(敬意の表明の拒否)と異なる外部的行動を求められること
となり,その限りにおいて,その信教の自由についての間接的な制約となる面
があることは否定し難いものの,上記3(3)で説示したとおり,本件通達及び本
件各職務命令の目的及び内容並びに上記の制限を介して生ずる制約の態様等を
総合的に衡量すれば,上記の制約を許容し得る程度の必要性及び合理性が認め
られるものである。
原告P30ら3名に対する関係で本件通達及び本件各職務命令が信教の自由
を侵害するものでない以上,原告P30ら3名に対する本件各職務命令違反を
理由としてされた本件各処分が信教の自由を侵害するものであるということは
できない。
以上によれば,本件通達,本件各職務命令及び本件各処分が,原告P30ら
3名の信教の自由を侵害し,憲法20条に違反するものであるということはで
きない。
5本件通達及び本件各職務命令は原告らの教師の専門職上の自由を侵害する憲
法13条,23条及び26条違反のものであるかについて
(1)原告らは,①教育課程の編成は,児童・生徒の教育をつかさどる教師の専
門的判断が必要であり,職員会議の集団的討議を経て全校的に決定されるべ
きものであるにもかかわらず,都教委及び本件各校長は,教育課程の一環で
ある卒業式等の内容を,教師の関与なく,一方的に決定し,これを強制させ
る本件通達を発出し,本件各校長をしてその内容を実行させる本件各職務命
令を発令させ,その内容どおりの卒業式等の実施を強制した,②本件通達及
び本件各職務命令は,各学校単位での創意工夫とその実情に応じた創造的・
弾力的な教育内容の決定の余地を完全に奪うものであり,教師の専門職上の
自由を侵害するものであるとして,本件通達及び本件各職務命令は,教師の
専門職上の自由を定める憲法13条,23条及び26条に違反する旨主張す
る。
(2)しかしながら,以下ア及びイのとおり,原告らの上記主張はいずれも理由
がなく,採用することはできない。
ア上記①の主張について
後記7(1),(2)で説示するとおり,地方公共団体の教育委員会は,その
管理権(地教行法23条5号)に基づき,公立学校の教育課程,学習指導,
生徒指導等に関して基準を設定し,一般的な指示を与え,指導,助言を行
うとともに,特に必要な場合には具体的な命令を発出することもできると
解するのが相当であり,本件通達は,学習指導要領(国旗国歌条項)に基
づく卒業式等における国旗・国歌の指導をより一層改善,充実することを
実現するという目的から発出されたものであって,その内容も,当該目的
のために必要かつ合理的なものであるということができる。また,都立学
校長は,校務をつかさどり,所属職員を監督する権限を有する者であり(学
校教育法28条3項,40条,51条,76条),校務の一つである卒業
式等の特別活動における国旗掲揚及び国歌斉唱の方法についても,当該権
限の一環として,具体的な内容を伴う職務命令を発令する権限を有してい
ると解され,そのような職務命令を発令するに当たり,教職員の意見,判
断を徴求することが必要条件となっているものではない。
そして,原告らは,学習指導要領(国旗国歌条項)に沿った教育指導を
行うべき立場にあり,かつ,後記7(2)で説示するとおり,本件通達は,学
習指導要領(国旗国歌条項)に基づく卒業式等における国旗・国歌の指導
をより一層改善,充実することを目的として発出されたものであると認め
られるものであり,原告らは,本件各校長が本件通達を受けて発令した本
件各職務命令に従うべき義務を負っている以上,本件通達及び本件各職務
命令によって教師の専門職上の自由を侵害されたということはできず,原
告らの上記主張は理由がない。
イ上記②の主張について
本件通達は,卒業式等における国歌斉唱時の起立斉唱等を命じるだけで
なく,国旗の掲揚位置や掲揚方法,国歌斉唱の方法,式次第の記載方法,
会場設営等について相当程度具体的な内容を定めた実施指針(本件実施指
針)を示し,これに沿った卒業式等の実施を命じているものであり(前提
事実(3)ア),この限りにおいては,教職員の裁量的行為が制限される。し
かしながら,学習指導要領は,儀式的行事について,「学校生活に有意義
な変化や折り目を付け,厳粛で清新な気分を味わい,新しい生活の展開へ
の動機付けとなるような活動を行うこと」と規定しているところ,卒業式
等は厳粛さが要求される儀式的行為であるから,その中では一定の形式に
沿った実施が必要な部分があり,この観点からみて,本件実施指針が定め
る式典形式が不相当なものとはいえない。そして,本件実施指針が定める
式典形式と原告ら教職員が考えているそれとが異なるものであるとして
も,そのことから直ちに教職員の教育実践上の裁量を侵害するものという
ことはできない。そして,本件実施指針に定められていないことについて
は,教職員や児童・生徒の自主的工夫の余地は何ら制限されておらず,弾
力的な実施が可能であるということができる。
また,教師は,教育活動を担う専門職であり,限られた一定の範囲で教
授の自由があることは肯定されるが,学校行事を実施するに際しては,関
係法令等を遵守し,学習指導要領(国旗国歌条項)に沿った教育指導を行
うべき立場にあるのであって,その教育活動の全てを教師が自由に決め,
その全てが教師の裁量に委ねられているということはできない。特に,教
育上の重要な節目となる卒業式等は,各教師が個別に担当する一般の教科
と異なり,全校的な規模でとり行われる儀式的行事であって,その基本的
な進行については,個々の教師がそれぞれの創意工夫に基づいて自由に児
童・生徒を指導すればよいというものではなく,全校的に決定されたとこ
ろに従って統一のとれた行動が教師に要請されるといわなければならな
い。児童・生徒に対する指導教育の効果を高めるという観点からも,教育
上の行事にふさわしい秩序を確保して式典の円滑な進行を図ることが重要
であり,そのためにも学校単位での統一的な意思決定とこれに準拠した活
動が必要となる場面であるから,教職員は,自らが考える卒業式等の在り
方いかんにかかわらず,儀式的行事として決定された内容の卒業式等の実
施に協力し,学習指導要領(国旗国歌条項)に沿った教育指導を行うべき
義務を負っているというべきである。そうである以上,本件通達(本件実
施指針)において定められた内容の卒業式等が,原告らそれぞれが相当と
考える卒業式等の実施方法と一致しないとしても,そのことが,原告らの
教員としての専門職上の自由を侵害するということはできない。
原告らの上記主張は,採用することができない。
(3)以上によれば,本件通達及び本件各職務命令は,原告らの教師の専門職上
の自由を侵害し,憲法13条,23条及び26条に違反するものということ
はできない。
6学習指導要領(国旗国歌条項)の法的拘束力の有無について
(1)ア認定事実(1)イによれば,国旗国歌条項は,国際化の進展に伴い,日本
人としての自覚を養い,国を愛する心を育てるとともに,児童・生徒が,
将来,国際社会において尊敬され,信頼される日本人として成長していく
ためには,国旗・国歌に対して一層正しい認識を持たせ,それらを尊重す
る態度を育てることは重要なことであり,卒業式等は,学校生活に有意義
な変化や折り目を付け,厳粛かつ清新な雰囲気の中で,新しい生活の展開
への動機付けを行い,学校,社会,国家など集団への所属感を深める上で
よい機会となるものであるという意義を踏まえて定められたものであるこ
とが認められる。
学校教育法18条2号は,小学校における教育の目標として,「郷土及
び国家の現状と伝統について,正しい理解に導き,進んで国際協調の精神
を養うこと。」を,学校教育法36条1号は,中学校における教育の目標
として,「小学校における教育の目標をなお充分に達成して,国家及び社
会の形成者として必要な資質を養うこと。」を,学校教育法42条1号は,
「中学校における教育の成果をさらに発展拡充させて,国家及び社会の有
為な形成者として必要な資質を養うこと。」をそれぞれ規定しているとこ
ろ,現在の主権国家を主体として構成されている国際関係の下では,国旗
・国歌はそれぞれの国又は国民全体の象徴として扱われ,相互にこれを尊
重し,儀礼の場において,国家又は国民全体への一般的敬意を表すものと
して国旗・国歌を尊重することが国際慣習となっていることは周知の事実
であることに鑑みると,自国の国旗・国歌について,式典等の場において
これを尊重する儀礼を学ぶことは,国家及び社会の形成者として,また,
国際社会においても活躍し得る個人として必要とされる基本的資質を養
い,国際協調の精神を養うことに資するということができる。
以上によると,上記認定の趣旨で定められた国旗国歌条項は,上記学校
教育法の各規定が定める教育の目標事項に適った合理的なものであるとい
うことができる。
イ高等学校学習指導要領は,学校教育法43条,同法施行規則57条の2
に基づいて文部科学大臣が定めて公示したものであり,それが教育におけ
る機会均等の確保と全国的な一定水準の維持という目的のために必要かつ
合理的な大綱的基準として是認することができるものは,法規としての性
質を有し,遵守すべき基準として拘束力が認められるものと解される(昭
和51年大法廷判決参照)。
この点について国旗国歌条項をみると,その制定趣旨は,上記アで認定
したとおりのものであり,全国一律の教育が施される必要のあるものを対
象としたものであるということができる。また,その文言も,「入学式や
卒業式などにおいては,その意義を踏まえ,国旗を掲揚するとともに,国
歌を斉唱するよう指導するものとする。」というものであり,大綱的な基
準を定めたものということができる。以上によれば,国旗国歌条項は,普
通教育の内容及び方法について遵守すべき大綱的基準を定めるものとし
て,拘束力を有するものというべきである。
なお,原告らは,国旗国歌条項の「指導するものとする」という表現に
よれば,学校現場における国旗・国歌の指導の強制,義務付けをする趣旨
を有していない旨主張するが,学習指導要領が上述したとおりの性質を持
つものであって遵守すべき基準として拘束力が認められるものであること
に鑑みると,国旗国歌条項の上記文言は,「指導しなければならない。」
よりは緩やかな表現であるということはできるとしても,国旗掲揚及び国
歌斉唱による教育指導を義務付ける趣旨のものと解するのが相当である。
(2)原告らの主張(前記第3の5(1))の検討
ア原告らは,学習指導要領について,法的拘束力や強制の契機を有するも
のではない旨主張する(前記第3の5(1)ア)。しかしながら,大綱的基準
としての学習指導要領の拘束力を否定すべき事情は何ら認められず,同主
張は採用することができない。
イ原告らは,国旗国歌条項について,①教職員に対して国歌斉唱時におけ
る起立斉唱等を一律に強制するための根拠条項と解した場合,教師による
創造的かつ弾力的な教育の余地や地方ごとの特殊性を繁栄した個別化の余
地が残されないこととなる,②起立斉唱等を義務付けることは,国家に対
してすべからく肯定的な態度を示すべきであるとの,一方的な理論ないし
観念を生徒に教え込むことを強制するものであるから,国旗国歌条項は必
要かつ合理的と認められる大綱的な基準に当たらず,その法的拘束力を認
めることはできない旨主張する(前記第3の5(1)イ)。
まず,上記①について検討するに,国旗国歌条項は,上記(1)イで説示し
たとおり,普通教育の内容及び方法について遵守すべき大綱的基準として
拘束力を有するものであり,児童・生徒に対する教育指導を担うべき教職
員が卒業式等における国旗掲揚及び国歌斉唱による教育指導を行う責務を
負っていることを定めたものと解されるものの,国旗国歌条項自体から教
職員の特定の具体的義務内容が直ちに導き出されるわけではなく,原告ら
が卒業式等において国歌斉唱時に起立斉唱等をすることを義務付けられた
のは,本件各校長が本件通達を受けて発令した本件各職務命令によるので
ある。したがって,国旗国歌条項は,教職員に対して国歌斉唱時における
起立斉唱等を一律に強制するための直接の根拠条項と解することはできな
い。
また,国旗国歌条項は,卒業式等以外の場面における国旗・国歌の教育
指導の内容又は方法を具体的に定めるものではなく,卒業式等の場面に関
しても,国旗掲揚及び国歌斉唱による教育指導を定めるのみであることか
らすると,国旗国歌条項があることにより,教師による創造的かつ弾力的
な教育の余地や地方ごとの特殊性を反映した個別化の余地が十分に残され
ないことになるということはできない。
次に,上記②について検討するに,上記(1)アで説示した国旗国歌条項の
趣旨及び文言に加えて,上記3(3)で説示した国歌斉唱時における起立斉唱
等の意義を併せ考えれば,国旗国歌条項が一方的な理論ないし観念を生徒
に教え込むことを強制するものであるといえるものではない。
以上によれば,原告の上記主張は採用することができない。
ウ原告らは,国旗国歌法が,国旗・国歌に関し,国民に対する一切の義務
付けがないものとして成立したことに鑑みれば,学習指導要領である国旗
国歌条項によって起立斉唱等を教職員に義務付けることはできない旨主張
する(前記第3の5(1)ウ)。
しかしながら,上記イで説示したとおり,国旗国歌条項は卒業式等にお
ける起立斉唱等を直接義務付けたものではない。したがって,国旗国歌条
項が当該義務付けをしていることを前提とした原告らの上記主張は,その
前提を欠くというべきである。
なお,国旗国歌条項が,国旗国歌法の制定過程に照らし,卒業式等にお
ける国歌斉唱時の起立斉唱等を教職員に義務付けることを許容しない趣旨
であるかどうかについて,以下検討しておく。
国旗国歌条項が大綱的基準として拘束力を有するものであり,教職員が,
卒業式等における国旗掲揚及び国歌斉唱による教育指導を行う一般的責務
を負っていることを前提としているものと解されることは,上記イで説示
したとおりである。そして,認定事実(1)アのとおり,国旗国歌条項は,国
旗国歌法が制定される以前から定められており,教職員は,国旗国歌法の
制定前後を通じ,国旗国歌条項に沿った教育指導を行うべき立場にあった
というべきである。国旗国歌法が,国旗掲揚及び国歌斉唱について,国民
に対する義務付けを予定したものではないことは,原告らが指摘するとお
りであるが,認定事実(3)イによれば,政府関係者は,教職員が学習指導要
領(国旗国歌条項)に基づいて教育指導を実施すべき職務上の責務を負っ
ていることを明言しており,職務命令が発令される可能性にも言及するな
どしていたのであって,国旗国歌法の制定過程において,教職員が国旗国
歌条項に基づく教育指導を行うべき責務を負っていることは当然の前提と
されており,また,その教育指導の具体的内容として,教職員による起立
斉唱等をあえて除外して考えていたものとは解されない。以上によれば,
国旗国歌法の制定過程に照らしても,教職員が国旗国歌条項に基づく教育
指導を実施すべき一般的責務を負っていることを否定しておらず,卒業式
等の適正実施を目的として校長が教職員に対して国歌斉唱時の起立斉唱等
について職務命令を発令することを許容しない趣旨で国旗国歌法が立法さ
れたものと認めることはできない。
(3)以上によれば,学習指導要領(国旗国歌条項)は,普通教育の内容及び方
法について遵守すべき大綱的基準として拘束力を有するものであり,その適
正実施のための通達や職務命令の発出,発令根拠となるものということがで
きる。
7本件通達及び本件各職務命令は教育基本法10条1項が禁止する「不当な支
配」に当たるものであるかについて
(1)教育基本法10条1項は,教育が不当な支配によってゆがめられることな
く,専ら教育本来の目的に従って行われるべきことを示したものであり,地
方公共団体の教育行政機関の法令に基づく行為にも適用があると解される。
また,同項は,教育行政の目標を教育の目的の遂行に必要な諸条件の整備確
立に置き,その整備確立のための措置を講ずるに当たっては,教育の自主性
尊重の見地から,これに対する不当な支配となることのないようにすべき旨
の限定を付したものであり,教育に対する行政権力の不当,不要の介入は排
除されるべきであるとしても,許容される目的のために必要かつ合理的と認
められるものは,教育の内容及び方法に関するものであっても,必ずしも同
項の禁止するところではないものと解するのが相当である(昭和51年大法
廷判決参照)。
国の教育行政機関が法律の授権に基づいて義務教育に属する普通教育の内
容及び方法について遵守すべき基準を設定する場合には,子どもの教育が,
教師と子どもとの間の直接の人格的接触を通じ,子どもの個性に応じて弾力
的に行われなければならず,そこに教師の自由な創意と工夫の余地が要請さ
れることのほか,教育に関する地方自治の原則(地教行法23条,32条,
43条)を考慮し,教育における機会均等の確保と全国的な一定の水準の維
持という目的のために必要かつ合理的と認められる大綱的なそれにとどめら
れるべきものと解されるが,地方公共団体が設置する教育委員会が教育の内
容及び方法について遵守すべき基準を設定する場合には,国の教育行政機関
の設けた基準の範囲内でより具体的に国の実施指針の実現を図るという地方
公共団体の教育委員会の機能を考慮すると,その管理権(地教行法23条5
号)に基づき,公立学校の教育課程,学習指導,生徒指導等に関して基準を
設定し,一般的な指示を与え,指導,助言を行うとともに,特に必要な場合
には具体的な命令を発出することもできると解するのが相当である(昭和5
1年大法廷判決参照)。
(2)ア前提事実(3),認定事実(2)エ,(3)ア,ウ~オ,(4),(5)ア~ウによれ
ば,都教委は,平成9年及び平成10年当時,都立高等学校における国旗
掲揚及び国歌斉唱の実施率が全国の公立高等学校の中で1番目ないし2番
目に低かったことから,都立高等学校長に対し,学習指導要領に基づいた
国旗・国歌の指導を行うよう指導,助言することとし,同年11月に平成
10年実施指針を添付した通知を発出し,平成11年6月に卒業式・入学
式対策本部を設置し,同年10月には平成10年実施指針に基づき卒業式
等を実施することを命ずる平成11年通達を発出するなどしたこと,その
結果,平成12年度卒業式から国旗掲揚及び国歌斉唱の実施率は100%
となったものの,国旗を掲揚した三脚を舞台袖の見えないところに置いた
り,国歌斉唱時に教員が起立しないなどの実態があったというものであっ
たこと,都教委は,このような実態を踏まえ,平成14年11月には平成
11年通達に基づいて一層の改善を図るよう依頼する通知を発出するなど
して指導を継続したが,平成14年度卒業式及び平成15年度入学式にお
ける国旗掲揚の方法等についての調査結果は,平成10年度実施指針で定
められた方針どおりに国旗掲揚等を行った都立学校等は全体の半分にも満
たないものであり,また,国歌斉唱時に起立をしない教員がいるなどの実
態がなおあったこと,都教委は,平成15年6月に本件対策本部を設置し,
卒業式等の適正実施について検討した結果をとりまとめ,以上の課題を解
決するためには各学校で国旗掲揚及び国歌斉唱の実施についてより一層の
改善,充実を図る必要があるとして,同年10月23日,都立学校長に対
し,本件通達が発出されたものであることが認められる。
イ都教委が本件通達を発出するに至る以上の経緯によれば,本件通達は,
学習指導要領(国旗国歌条項)に基づく卒業式等における国旗・国歌の指
導をより一層改善,充実することを目的として発出されたものと認められ
る。そして,国旗国歌条項に基づく国旗・国歌の指導とは,上記6(1)アで
説示したとおり,国旗・国歌の意義を理解させ,他国の国民と相互にそれ
らを尊重する態度を育てることを実現することであるから,上記目的は,
国際社会における主権国家の構成員として成長することが期待される児童
・生徒の教育目的として許容される範囲内のものということができる。
本件通達の発出以前の卒業式等における国旗掲揚及び国歌斉唱の実施状
況並びに実態(認定事実(4)イ(ア)及び同(5)ア(ウ))に照らすと,本件通
達を発出する必要性も認められ,また,校長を通じて平成10年実施指針
の徹底を指導したにもかかわらず,これが徹底されていない実態が広く見
られたことに照らせば,これを実現するために,卒業式等における国旗掲
揚及び国歌斉唱の実施方法等も定めた通達により具体的な命令を発するこ
とが特に必要であったという事情も認めることができる。
さらに,国旗掲揚及び国歌斉唱によって国旗・国歌を尊重する態度を育
てることが求められている卒業式等の学校行事において,児童・生徒に範
を示すべき立場にある教職員らに対して儀式的行事における儀礼的所作と
して国歌斉唱時に起立を求めることについては,卒業式等における国旗・
国歌に関する教育指導の方法として合理性を認め得るものであるから,本
件通達の内容の合理性も認められる。
ウ以上によれば,本件通達の目的は許容されるものであって,その内容は,
当該目的のために必要かつ合理的なものであるということができる。
(3)本件通達が教育基本法10条1項が禁止する「不当な支配」に該当すると
の原告らの主張(前記第3の6(1)イ)の検討
ア原告らは,本件通達について,愛国主義又は全体主義的な教育を行うこ
とを目的とするものであるから,許容されない旨主張する(前記第3の6
(1)イ(ア)a)。
しかしながら,本件通達の目的は,上記(2)で説示したとおり,学習指導
要領(国旗国歌条項)に基づく卒業式等における国旗・国歌の指導をより
一層改善,充実することであると認められるものであり,本件全証拠によ
っても,本件通達が愛国主義又は全体主義的な教育を行うことを目的とし
て発出されたものであると認めることはできない。したがって,原告らの
上記主張は採用することができない。
イ原告らは,本件通達について,国旗・国歌は国家のシンボルの問題であ
り,全国的一定水準としての国旗国歌条項よりも個別具体的な指示を出す
必要性はない旨主張する(前記第3の6(1)イ(ア)b(a))。
しかしながら,国旗・国歌の教育指導の実態は,地域等によって異なり
得るものであり,当該実態に応じて,国旗・国歌の指導をより一層改善,
充実しようとすることは,地方公共団体の教育委員会としての機能・責務
を果たすものということができる。そして,本件通達を発出する必要性が
認められることは,上記(2)で説示したとおりである。したがって,原告ら
の上記主張は採用することができない。
ウ原告らは,本件通達について,国旗国歌条項は卒業式等における国旗掲
揚及び国歌斉唱の実施を求めるものにすぎず,平成13年以降,全ての都
立学校の卒業式等において国旗掲揚及び国歌斉唱が実施されているから,
国旗国歌条項の適正実施は本件通達の目的として許容されない旨主張する
(前記第3の6(1)イ(ア)b(b))。
しかしながら,国旗国歌条項の制定趣旨等は,上記6(1)アで説示したと
おり,国旗・国歌に対して一層正しい認識を持たせ,それらを尊重する態
度を育てることなどを目的として,卒業式等における国旗掲揚及び国歌斉
唱による教育指導を求めるということにあることからすると,国旗国歌条
項が,単に国旗掲揚及び国歌斉唱を実施すれば足りるという趣旨で定めら
れたものであると解することはできない。平成13年以降全ての都立学校
の卒業式等において国旗掲揚及び国歌斉唱を実施しているとはいえ,国旗
を掲揚した三脚を舞台袖の見えないところに置く,国歌斉唱時に教員が起
立しないなどといった実態があったというのであり(上記(2)の説示参照),
このような実態は,上記の国旗国歌条項の制定趣旨等に鑑みると,国旗・
国歌に関する教育,指導の在り方として望ましくないものというべきであ
り,このような実態を踏まえて国旗・国歌の指導をより一層改善,充実す
ることを目的として本件通達を発出することは,合理的な理由があり,許
容されるものというべきである。したがって,原告らの上記主張を採用す
ることはできない。
エ原告らは,国旗国歌条項は教職員に起立斉唱等の義務を負わせるもので
はないので,本件通達(本件実施指針)で起立斉唱等を指示する必要性,
合理性はない旨主張する(前記第3の6(1)イ(ア)c(a))。
しかしながら,国旗国歌条項は,国際化の進展に伴い,日本人としての
自覚を養い,国を愛する心を育てるとともに,児童・生徒が,将来,国際
社会において尊敬され,信頼される日本人として成長していくために,国
旗・国歌に対して一層正しい認識を持たせ,それらを尊重する態度を育て
ることの重要性を理由として定められたものであり,卒業式等は,厳粛か
つ清新な雰囲気の中で,学校,社会,国家など集団への所属感を深める上
でよい機会となるものであることから(上記6(1)ア参照),卒業式等にお
ける国旗掲揚及び国歌斉唱による教育指導を求めているものであるとこ
ろ,式典における慣例上の儀礼的所作である卒業式等における国歌斉唱時
の起立斉唱は,上記教育指導として不相当なものとはいえず,教職員が学
習指導要領(国旗国歌条項)に沿った教育指導を行うべき立場にあること
に鑑みれば,教職員に対して国歌斉唱時の起立斉唱を求めることは,学習
指導要領(国旗国歌条項)に基づく卒業式等における国旗・国歌の指導を
より一層改善,充実するという目的にとって,必要かつ合理的なものであ
るということができる。
また,卒業式等における国歌斉唱時にピアノ伴奏をするという行為は,
音楽科担当の教員にとって,通常想定され期待されるものであり,また,
卒業式等に参列する児童・生徒に対し,厳粛かつ清新な気分を味わせて教
育効果を高めるという観点からも通常望ましい行為であるということがで
きるから,学習指導要領(国旗国歌条項)に沿った教育指導を行うべき立
場にある音楽科担当の教員に対し,卒業式等における国歌斉唱時にピアノ
伴奏を求めることは,学習指導要領(国旗国歌条項)に基づく卒業式等に
おける国旗・国歌の指導をより一層改善,充実するという目的にとって,
必要かつ合理的なものであるということができる。
したがって,原告らの上記主張は採用することができない。
オ原告らは,本件通達の具体的内容(本件実施指針)について,卒業式等
の実施方法等に関する学校(校長)の裁量権に属する事項である国旗の掲
揚方法,会場設営方法,式次第の記載内容及び国歌斉唱に関する司会者の
言動,国歌斉唱の仕方,伴奏の方法について,本件通達(本件実施指針)
で指示する必要性,合理性はない旨主張する(前記第3の6(1)イ(ア)c
(b))。
しかしながら,以下(ア)~(カ)のとおり,原告らの上記主張は採用する
ことができない。
(ア)国旗掲揚の方法
本件実施指針は,国旗掲揚の方法について,「国旗は,式典会場の舞
台壇上正面に掲揚する。」等としており,相当程度具体的に指示する内
容のものである。国旗掲揚の方法としては,これ以外の方法も考え得る
ところではあるが,上記(2)アで説示した本件通達(本件実施指針)発出
前の国旗掲揚の実態に照らすと,国旗国歌条項の趣旨に沿う国旗掲揚の
方法として,上記指示内容が不相当なものであるということはできず,
また,国旗掲揚の方法を具体的に命じることが,卒業式等の実施におけ
る学校(校長)の裁量権を不当に制約するものということはできない。
(イ)会場設営の方法
本件実施指針は,会場設営の方法について,「卒業式を体育館で実施
する場合には,舞台壇上に演台を置き,卒業証書を授与する」,「入学
式,卒業式等における式典会場は,児童・生徒が正面を向いて着席する
ように設営する。」等としており,相当程度具体的に指示する内容のも
のである。会場設営の方法としては,これ以外の方法(いわゆるフロア
方式等)も考え得るところではあるが,卒業生に対する卒業証書の授与
を式典会場の正面舞台の壇上において行い,参列者が当該授与の場面(正
面舞台)を注目するという形式の会場設営の方法は,卒業式等に参列す
る児童・生徒(特に卒業生)に対して,厳粛かつ清新な気分を味わせて
教育効果を高めるという観点から,通常想定される設営方法であるとい
うことができることに鑑みれば,上記指示内容が不相当なものであると
いうことはできず,また,会場設営の方法を具体的に命じることが,卒
業式等の実施における学校(校長)の裁量権を不当に制約するものとい
うことはできない。
(ウ)起立斉唱開始の方法等
本件実施指針は,起立斉唱開始の方法等について,「式次第には『国
歌斉唱』と記載する。」,「国歌斉唱に当たっては,式典の司会者が,
『国歌斉唱』と発声し,起立を促す。」としている。
国旗国歌条項は,卒業式等における国歌斉唱による教育指導を求めて
おり,実際に国歌斉唱が実施される以上,式次第に「国歌斉唱」と記載
することは至極当然のことであるというべきである。
また,前記6(1)アで説示したとおり,国旗・国歌はそれぞれの国又は
国民全体の象徴として扱われ,相互にこれを尊重し,儀礼の場において,
国家又は国民全体への一般的敬意を表すものとして国旗・国歌を尊重す
ることが国際慣習となっており,自国の国旗・国歌について,式典等の
場においてこれを尊重する儀礼を学ぶことは,国家及び社会の形成者と
して,また,国際社会においても活躍し得る個人として必要とされる基
本的資質を養い,国際協調の精神を養うことに資するものであるという
ことができる。そして,国旗国歌条項は,卒業式等における国歌斉唱に
よる教育指導を求めているが,卒業式等の場面における教育指導の具体
的方法としては,起立斉唱を求めること以外の方法はおよそ考え難い。
そうすると,卒業式等の国歌斉唱の場面において,「国歌斉唱」と発声
して卒業式等の参列者に対して起立を促すことの必要性及び合理性はあ
るというべきであり,これを求める上記指示内容が不相当なものである
ということはできず,また,このことを具体的に命じることが,卒業式
等の実施における学校(校長)の裁量権を不当に制約するものというこ
とはできない。
なお,原告らは,児童・生徒及び式典参加者の内心に配慮し,式次第
に「国歌斉唱」と記載しないこと,司会者が起立を促さないことなどが
必要であるという趣旨の主張もしている。児童・生徒や参列者の中には,
国歌斉唱時に起立斉唱することができないという考えを持っている者や
国歌斉唱時に起立斉唱を促されること自体に嫌悪感ないし精神的葛藤を
抱く者が含まれていること自体は否定できず,児童・生徒や参列者に対
し,国歌斉唱時に起立を促すことを超えて,起立斉唱を強制するといっ
たことは許容されるものではないし,また,このような児童・生徒に対
する教育上の配慮が望まれるというべきである。しかしながら,卒業式
等における国歌斉唱は,上述したとおり,自国の国旗・国歌について,
式典等の場において国旗・国歌を尊重する儀礼を児童・生徒に学ばせる
教育指導として行われるものであるから,そのような児童・生徒が含ま
れるであろうことに対する配慮の必要性から,当然に国歌斉唱時におけ
る起立を促すことをしないということにはならないし,教育指導の方法
として起立斉唱を促すことの必要性及び合理性自体が否定されるという
ことはできない。
(エ)起立斉唱の方法
本件実施指針は,起立斉唱の方法について,「式典会場において,教
職員は,会場の指定された席で国旗に向かって起立し,国歌を斉唱する。」
としている。教職員に対して国歌斉唱時の起立斉唱を求めることは,学
習指導要領(国旗国歌条項)に基づく卒業式等における国旗・国歌の指
導をより一層改善,充実するという目的にとって,必要かつ合理的なも
のであることは,上記エで説示したとおりであり,卒業式等において国
歌斉唱をする場合,本件実施指針が指示する上記方法により行うことは,
一般的な方法であって,これが不相当であるということはできず,また,
起立斉唱の方法を具体的に命じることが,卒業式等の実施における学校
(校長)の裁量権を不当に制約するものということはできない。
(オ)伴奏の方法
本件実施指針は,伴奏の方法について,「国歌斉唱は,ピアノ伴奏等
により行う。」としている。上記エで説示したとおり,卒業式等の国歌
斉唱時におけるピアノ伴奏は,卒業式等に参列する児童・生徒に対し,
厳粛かつ清新な気分を味わせて教育効果を高めるという観点からも通常
望ましいものであり,また,音楽科担当の教員にとって通常想定され期
待される行為であり,音楽科担当の教員がいる場合に卒業式等の国歌斉
唱時にピアノ伴奏を命じることが不相当なものということはできず,ま
た,卒業式等の実施における学校(校長)の裁量権を不当に制約するも
のということはできない。
(カ)本件実施指針は,上記(ア)~(オ)の事項につき相当程度具体的な内
容の指示をし,これに沿って卒業式等を実施することを求めているもの
であり,硬直的であるとの評価もあり得るところではある。
しかしながら,学習指導要領は,儀式的行事について,「学校生活に
有意義な変化や折り目を付け、厳粛で清新な気分を味わい、新しい生活
の展開への動機付けとなるような活動を行うこと。」と規定していると
ころ,卒業式等は厳粛さが要求される儀式的行事であるから,その中で
は一定の形式に沿った実施が必要な部分があり,上記(ア)~(オ)で説示
したところを併せ考えれば,本件実施指針が定める式典形式が不相当な
ものであるということはできない。そして,本件実施指針が定める式典
形式が教職員が相当と考える式典形式と異なるものであるとしても,そ
のことから直ちに学校(校長)の裁量権を侵害するものということはで
きず,本件実施指針が定めていない部分の卒業式等の進行,内容等につ
いては,教職員や児童・生徒の自主的工夫の余地があることも併せ考え
ると,本件実施指針が当然に又は直ちに卒業式等の実施における学校(校
長)の裁量権を侵害するものであるということはできない。
カ原告らは,式典会場のどこからでも十分に国旗が確認できる場所に掲揚
することについて,各学校ごとの会場設営の状況等により異なり得るし,
そのような掲揚方法をしていない学校に対してのみ,それを正すように指
示すれば足りるから,全ての都立学校長に対して本件通達を発出する必要
性,合理性はない旨主張する(前記第3の6(1)イ(ア)c(c))。
しかしながら,教育委員会が都立学校長に対して指導又は命令をする場
合において,全ての都立学校長に対する通達,通知の形式で行うか,個々
の都立学校長に対する個別命令の形式で行うかの決定は,教育委員会がそ
の状況等に応じて適宜判断すべき事柄であると解される。上記(2)アで説示
したとおり,都教委が全ての都立学校長に対して平成10年実施指針及び
平成11年通達による指導等を行ってきたにもかかわらず,国歌斉唱時に
起立しない教師がなおいたなどの実態があったという経緯,状況に鑑みれ
ば,本件通達を全ての都立学校長に対する職務命令という形式で発出する
ことについて相応の理由があったということができる。そうすると,国旗
掲揚の方法を通達の形式で都立学校長全員に発出したことについて,その
必要性及び合理性がないということはできない。
キ原告らは,教職員に対して卒業式等における起立斉唱等を命ずる職務命
令を発令するか否かは校長の裁量に属することであるから,都立学校長に
対し,所属校の全ての教職員に対して当該職務命令を発令するように命令
すべき必要性,合理性はない旨主張する(前記第3の6(1)イ(ア)c(d))。
しかしながら,本件通達(本件実施指針)は,都立学校長に対する職務
命令として発出されたものであるが,その内容に照らすと,校長が所属校
の全ての教職員に対して起立斉唱等を命ずる職務命令を発令すべきことを
明示的に命じているとまでは認められない。
もっとも,認定事実(5)ウ,エ,オ(ア),カ,(6)イ(ア),オ(ア)によれ
ば,都教委は,都立学校長に対し,本件通達を発出するとともに,本件説
明会や校長連絡会等において,教職員に対して個別に文書により職務命令
を発令する場合の方法,留意点等について指導し,本件通達発出後初めて
都立学校で行われた周年記念行事及び平成15年度卒業式において,全て
の都立学校長が教職員に対して本件各職務命令と同内容の職務命令を発令
したこと,P28教育長は,東京都議会第2回定例会において,平成15
年度卒業式及び平成16年度入学式について,「学習指導要領や通達に基
づいて適正に実施するよう,都教育委員会は全校全教職員に対して,包括
的職務命令に加え,個別的職務命令を発出するよう指導したところでござ
います。」,「都立高校におきましては,なお適正化への途上にあるとい
う現状に鑑みまして,来春の卒業式,入学式におきまして,個別的職務命
令を発出するよう指導してまいります。」と答弁しており(認定事実(5)
ウ,エ,オ(ア),カ),都教委は,都立学校長に対し,本件通達の発出だ
けにとどまらず,所属校の全ての教職員に対して起立斉唱等を命じる職務
命令を発令するように指導していたこと,平成16年度卒業式及び平成1
7年度入学式並びに平成17年度卒業式及び平成18年度入学式では,全
ての都立学校において各校長から所属校の全ての教職員に対して口頭又は
文書によって国歌斉唱時の起立斉唱又はピアノ伴奏を命ずる職務命令が発
令されたことが認められる。しかしながら,前記(2)アで説示したとおり,
平成10年実施指針及び平成11年通達等による指導にもかかわらず,国
歌斉唱時に教職員が起立しないなどの実態があったことから,本件通達(本
件実施指針)の発出に至ったという経緯に照らせば,都教委が,本件通達
の発出だけにとどまらず,都立学校長に対して上記内容の指導をしたこと
にも相応の理由があるということができる上,上記指導は,その内容に照
らすと,当該職務命令の発令を都立学校長に強制する内容のものとはいえ
ない。また,証拠(乙41の1~11,41の12の1・2,41の13
~25,42の1・2,62,72,74~79,95)によれば,複数
の都立学校長が,本件通達発出後,本件実施指針の定める卒業式等の実施
のために職務命令の発出の必要性を自ら判断して教職員に対する職務命令
を発令していることが認められる。この事実関係に照らすと,本件通達と
都教委による上記の指導とを一体的に見た場合でも,本件通達が,都立学
校長に対し,所属校の全ての教職員に対して起立斉唱等を命ずる職務命令
を発令すべきことまでも職務命令として命じたものということはできな
い。
したがって,原告の上記主張は,その前提を欠くものであり,採用する
ことができない。
ク原告らは,公の儀式において国家シンボルに敬意を表すること(起立斉
唱)が礼儀だと考えるのは,愛国の感情を重視する愛国主義的な見解であ
り,本件通達及び本件各職務命令は,愛国の感情を重視する一方的な観念
を子どもに教え込むことの強制であって許されない旨主張する(前記第3
の6(1)イ(イ))。
しかしながら,この点に関する当裁判所の判断は,上記3(2)で説示した
とおりであり,原告の上記主張は採用することができない。
ケ原告らは,本件通達及び本件各職務命令について,①卒業式等の実施方
法に関する学校の裁量を奪い,創造的かつ弾力的な教育活動の余地や学校
ごとの特殊性を反映した個別化の余地を十分に残したものとなっておら
ず,②制裁を伴う方法によって教育内容を事前に決定するものであり,内
容介入の深さと強制の程度に鑑みれば,教育基本法10条1項の「不当な
支配」に該当する旨主張する(前記第3の6(1)イ(ウ))。
しかしながら,①の点は,上記オで説示したこと,本件通達(本件実施
指針)に定められていないことについては,教職員や児童・生徒の自主的
工夫の余地があることからすると,採用することができない。
②の点は,上記エで説示したとおり,学習指導要領(国旗国歌条項)に
沿った教育指導を行うべき立場にある教職員に対して起立斉唱等を求める
ことには必要性及び合理性が認められるものであり,地方公務員である教
職員は,そのような起立斉唱等を命じる職務命令に従わなければならない
(地公法32条)ことからすると,採用することができない。
コ原告らは,①教育行政機関の教育の内容,方法についての関与,介入に
ついて,昭和51年大法廷判決が大綱的な範囲にとどめられるべきと判断
した第一の理由は,「子どもの教育は,教師と子どもとの間の直接の人格
的接触を通じ,子どもの個性に応じて弾力的に行われなければならないか
ら,教師の自由な創意と工夫の余地が要請される」という教育の本質的要
請からであり,これは,国,地方を問わず,教育行政機関一般についてそ
の介入を制限する根拠となるものであるから,教育委員会による介入につ
いても妥当する,②教育における地方自治の原則をもって教育委員会によ
る介入を拡大する根拠とすることは間違っており,教育委員会が具体的な
命令を発することができる場合は限られており,上記の教育の本質的要請
にも反する旨主張する(前記第3の6(1)イ(エ))。
しかしながら,上記(1)で説示したところによれば,教育委員会が教育の
内容及び方法について遵守すべき基準を設定する場合において,当該基準
が大綱的基準にとどめられなければならないと解することはできず,また,
教育委員会が具体的な命令を発することができる事柄が限定されていると
解することもできない。したがって,原告らの上記主張は採用することが
できない。
(4)以上によれば,本件通達及び本件各職務命令は,教育基本法10条1項の
禁止する「不当な支配」に当たるものということはできない。
8本件通達及び本件各職務命令は国際条約(自由権規約,児童の権利に関する
条約)に違反する無効なものであるかについて
(1)原告らは,①本件通達及び本件各職務命令は,思想・良心の自由及び信教
の自由を保障する市民的及び政治的権利に関する国際規約(自由権規約)1
8条に違反する,②本件通達は,子どもの意見表明権,思想・良心の自由及
び信教の自由を保障している児童の権利に関する条約12条,14条1項に
違反する旨主張する。
(2)本件通達及び本件各職務命令が,憲法19条及び20条に違反するもので
あるということができないことは,上記3及び4において説示したとおりで
ある。したがって,本件通達及び本件各職務命令が,自由権規約18条に違
反するものであるということもできず,原告らの上記①の主張は採用するこ
とができない。
児童の権利に関する条約は,子どもの権利について定めたものである。そ
うすると,原告らが,同条約12条及び14条1項に違反する旨を主張する
ことは,自己の法律上の利益に関係のない違法を理由とするものであるとい
わざるを得ない(行訴法10条1項)。また,上記5(2)イで説示したとおり,
本件通達は,本件実施指針に定められていないことについては,教職員や児
童・生徒の自主的工夫の余地があり,弾力的な実施が可能であり,卒業式等
の実施方法について,各学校の裁量の余地を残しているということができる
から,本件通達(本件実施指針)に基づいて国旗・国歌の指導を行うことが,
児童・生徒の思想・良心の自由又は信教の自由を侵害するという関係にある
ということもできない。したがって,原告らの上記②の主張も採用すること
ができない。
(3)以上によれば,本件通達及び本件各職務命令が,国際条約(自由権規約,
児童の権利に関する条約)に違反するということはできない。
9原告らの本件不起立等は地公法32条,33条に違反する行為であるかにつ
いて
(1)地公法32条違反について
ア都立学校長は,校務をつかさどり,所属職員を監督する権限を有する者
である(学校教育法28条3項,40条,51条,76条)。都立学校長
がつかさどる校務については,特段の限定はされておらず,当該学校自体
及び当該学校の所属職員が処理している仕事の全てが含まれるものと解さ
れる。そうすると,都立学校長は,上記内容の校務を遂行するための監督
権限の発動として,所属職員に対し,職務命令を発令する権限を有してお
り,校務の一つである卒業式等における国旗掲揚及び国歌斉唱の方法につ
いても,当該権限の一環として,具体的な内容を伴う職務命令を発令する
権限を有しているものと解され,本件各校長は,同権限に基づいて,本件
各職務命令を発令したものと認められる。
他方,本件各職務命令が憲法19条,20条に違反し,教育基本法10
条1項が禁止する「不当な支配」に当たるものであって,重大かつ明白な
瑕疵のある無効なものであるとの原告らの主張が採用できないものである
ことは,上記3,4及び7で説示したとおりであり,他に本件各職務命令
の効力を否定すべき理由を認め得る証拠はない。
以上によれば,本件各職務命令は有効なものであるというべきであるか
ら,原告らが本件各職務命令に違反して本件不起立等に及んだのは,上司
の職務上の命令違反に当たり,地公法32条違反を構成する。
イ原告らの主張(上記第3の8(1))の検討
(ア)原告らは,校長の教職員に対する監督権限には,教育活動の内容に
かかわる職務命令を出す権限は含まれていない旨主張する(上記第3の
8(1)ア(ア))。
しかしながら,この点は上記アで説示したとおりであり,原告らの上
記主張は,校長が,学校の本来的活動である教育活動について何らの監
督権限を行使し得ないことを内容とする独自の見解であって,採用する
ことができない。
(イ)原告らは,本件通達が,教育基本法10条1項の禁止する「不当な
支配」に該当し,憲法19条及び20条にも違反するから,本件通達に
基づく本件各職務命令も重大かつ明白な瑕疵があり,原告らは本件各職
務命令に服従すべき義務はないと主張する(上記第3の8(1)ア(イ))。
しかしながら,以上の主張が採用できないものであることは,上記3,
4及び7で説示したとおりである。
(2)地公法33条違反について
ア原告らは,地方公務員として職務命令に従う義務を負い,かつ,児童・
生徒の範となるべき都立学校の教職員であって,学習指導要領(国旗国歌
条項)に沿った教育指導を行うべき立場にあるにもかかわらず,児童・生
徒や保護者等の参列する卒業式等において,上記(1)アで説示したとおり,
適法であると認められる本件各職務命令に違反して本件不起立等に及んだ
のであるから,それは,教職員の職の信用を傷付ける行為に当たり,また,
教職員全体の不名誉となる行為であるというべきであるから,地公法33
条違反を構成する。
イ原告の主張(上記第3の8(1)イ)の検討
原告らは,起立斉唱を強制することには反対の考えも多く,本件不起立
等が世間のひんしゅくを買っているわけではないなどと主張する。
しかしながら,児童・生徒を教育指導すべき立場にあるにもかかわらず,
適法な本件各職務命令に公然と違反したこと自体が,教職員の信用を傷付
け,教職員全体の不名誉となる行為であることは,上記アで説示したとお
りであり,それが,教職員に起立斉唱等を義務付けることに反対する意見
があることや,世間のひんしゅくの有無,程度により左右されるものでは
ない。
(3)以上のとおり,原告らの本件不起立等は,地公法32条,33条に違反す
るものである。
10本件各処分は憲法31条の定める適正手続に違反するものであるかについて
(1)原告らは,本件各処分の前提としての告知及び聴聞の機会が奪われたり,
不十分であったりしたとして,本件各処分が憲法31条の定める適正手続に
違反する旨主張する(上記第3の9(1)ア)。
しかしながら,地公法31条1項所定の地方公務員には,懲戒処分に際し
て聴聞又は弁明の機会の付与は法律上要求されておらず(行政手続法3条1
項9号,13条1項),地方公務員である原告らについて,本件各処分を受
けるについて事前の聴聞又は弁明の機会がなかったとしても,そのこと自体
から,本件各処分の手続に重大な違法があるということはできない。
また,認定事実(6)イ,オによれば,原告らは,本件各処分に先立ち,事情
聴取を受けているものと認められる。なお,原告らの中には,弁護士の立会
いやメモ・録音を拒否されたことから,具体的な事情説明には至らなかった
者が含まれているものと認められるが,事情聴取に当たって,弁護士の立会
いやメモ・録音を求める権利が被聴取者に保障されていることを認め得る根
拠はなく,原告らが弁護士の立会いやメモ・録音を許容されない限り事情聴
取を受けることができないことについて客観的合理的な理由があったことを
うかがわせる事情もない。したがって,上記の点をもって,本件各処分の手
続上の違法があるということはできない。
(2)原告らは,①事故報告から本件各処分までの期間があまりにも短期間であ
る,②原告らの個別的事情は一切考慮されることなく,一律,画一の処分と
なっている,③本件各処分は,いわば見せしめであり,本件通達の発出時か
ら懲戒処分は既に決まっていたとして,本件各処分に至る手続がずさんであ
った旨主張する(上記第3の9(1)イ)。
そこで検討するに,上記①の主張については,認定事実(6)イ,オによれば,
本件各処分は,いずれも教職員懲戒分限審査委員会に対する諮問,同委員会
による答申,都教委における決定という一連の手続を経て発令されているこ
とが認められる。この点に加えて,本件不起立等は,それ自体は単純な行為
であって,必ずしも事実確認等に時間を要するような非違行為の事案とは解
されないことを併せ考えれば,本件各処分を発令するまでの期間が短かった
からといって,そのこと自体から本件各処分がずさんであるということはで
きず,その他これを認めるに足りる証拠はない。
上記②の主張については,上記(1)で説示したとおり,都教委は,教職員懲
戒分限審査委員会に対する諮問,同委員会による答申,都教委における決定
という一連の手続に先立ち,原告らに対して事情聴取の機会を付与している
ことに鑑みれば,本件各処分に至るまでの検討過程において,原告らの個別
的事情を一切考慮していないということはできず,また,本件不起立等は,
それ自体は単純な行為であることに鑑みれば,本件不起立等に係る事実関係,
動機等を適切に把握すべきということはいえるとしても,個別的事情の相違
が必ずしも処分の量定に大きく影響するとまでは解されないことを併せ考え
れば,処分内容が事実上共通しているからといって,そのことが本件各処分
の手続的違法性を疑わせる事情であるとまではいうことができない。
上記③の主張については,本件各処分が見せしめであり,本件通達の発出
時から懲戒処分が既に決まっていたという事実を認めるに足りる証拠はな
い。
(3)以上によれば,本件各処分が適正手続(憲法31条)に違反する旨の原告
らの上記主張は採用することができない。
11本件各処分は裁量権を逸脱又は濫用したものであるかについて
(1)地方公務員に対する懲戒処分は,地方公務員としてふさわしくない非行が
ある場合に,その責任を確認し,地方公務員関係の秩序を維持するために科
せられる制裁である。このような懲戒制度の趣旨に照らすと,地方公務員に
地公法所定の懲戒事由がある場合に,懲戒処分を行うかどうか,懲戒処分を
行うときにいかなる処分を選ぶかは,平素から事情に通暁し,職員の指揮監
督の衡にあたる懲戒権者の裁量に任されていると解される。そうすると,裁
判所が懲戒処分の適否を審査するに当たっては,懲戒権者と同一の立場に立
って懲戒処分をすべきであったかどうか又はいかなる処分を選択すべきであ
ったかについて判断し,その結果と懲戒処分とを比較してその軽重を論ずべ
きものではなく,懲戒権者の裁量権の行使に基づく処分が社会通念上著しく
妥当を欠き,裁量権の範囲を逸脱してこれを濫用したと認められる場合に限
り,違法であると判断すべきである(最高裁昭和47年(行ツ)第52号同5
2年12月20日第三小法廷判決・民集31巻7号1101頁,最高裁昭和
59年(行ツ)第46号平成2年1月18日第一小法廷判決・民集44巻1号
1頁参照)。
(2)証拠(甲278)によると,都教委は,教職員の非違行為への対応として,
過去の非違事例を類型化し,これらに対する懲戒処分の標準的な処分量定を
作成して公表していること,本件各処分当時の当該処分量定の内容(以下「本
件処分量定基準」という。)の内容は,概要,以下のとおりであることが認
められる。
ア処分量定の決定
以下①~③のほか,適宜,非違行為後の対応等も含め総合的に考慮のう
え判断するものとする。処分量定を定める表(省略)における処分量定は,
あくまで標準であり,個別の事案の内容や処分の加重によっては,同表に
掲げる処分量定以外とすることもあり得る。また,同表に掲げられていな
い非違行為についても,懲戒処分の対象となり得る。
①非違行為の態様,被害の大きさ及び司法の動向など社会的重大性の程

②非違行為を行った職員の職責,過失の大きさ及び職務への影響など信
用失墜の度合い
③日常の勤務態度及び常習性など非違行為を行った職員固有の事情
イ処分量定の加重
過去に非違行為を行い懲戒処分を受けたにもかかわらず,再び同様の
非違行為を行った場合は,量定を加重する。
ウ職務命令違反に関する処分量定
上記表では,職務に伴う非行としての勤務態度不良(職務命令違反,
職場離脱等)についての処分量定は,減給と戒告としている。
(3)証拠(乙71,86の2)及び弁論の全趣旨によると,以下の事実が認め
られる。
ア都教委は,原告らの本件不起立等について,以下(ア)~(エ)の4事項を
考慮するともに,過去の同種事案(ピアノ不伴奏)に関する処分内容を参
考として処分量定を行っており,都教育庁人事部職員課における事情聴取,
処分量定案の検討,教職員懲戒分限審査委員会に対する諮問,同委員会に
よる答申,都教委における決定という一連の手続を経て本件各処分を行っ
た。
(ア)本件不起立等は,児童・生徒にとって学校生活に有意義な変化や折
り目をつけるために重要な学校行事である卒業式等の場において,公教
育を担う教育公務員が,公教育の根幹である学習指導要領に基づき教育
課程を適正に実施するために発せられた重要な職務命令に違反するとい
う重大な非違行為であること。
(イ)本件不起立等は,卒業式等の来賓,保護者はもとより,適正に国旗
・国歌指導を受けることとされている児童・生徒を目の前にして教職員
が行ったものであり,教育上好ましくないこと。
(ウ)本件不起立等は,平成11年通達以後,校長が適正に卒業式等を実
施するよう指導を繰り返し行い,さらに,本件通達が発せられた後にも,
本件通達に基づいて校長が教職員に対して適正に卒業式等を実施するよ
うに指導を行った経過があったにもかかわらず,発生した職務命令違反
であること。
(エ)学校も組織である以上,上司の職務上の命令に従うことは当然のこ
とであり,本件不起立等は,組織人としての職務上の義務違反であるこ
と。
イ国歌斉唱時の国旗に向かって起立して国歌を斉唱することを命ずる職務
命令に違反した教職員に対して減給処分又は停職処分の懲戒処分がされた
事案があるが,これは,当該被処分者が,過去に非違行為を行って懲戒処
分(戒告処分)を受けたにもかかわらず,再び同様の非違行為を行った事
案であり,このような非違行為には処分量定を加重するという運用をして
いること,当該違反者は,上記アの4事項に該当するとともに,他の教職
員の前で校長からの職務命令を公然と無視したという看過できない非違行
為であること,児童・生徒の教育を行う教育公務員は他の公務員より高い
行為規範と自覚が求められるのであって,繰り返し同様な非違行為を行っ
た責任は重いことが考慮されたことによる。
(4)以上を前提として,本件各処分における裁量権の逸脱又は濫用の有無につ
いて検討する。
ア本件各処分のうち戒告処分について
(ア)前提事実(4)イによれば,本件不起立等について戒告処分を受けた原
告は48名(原告番号でいうと,1,3,4,6~14,16~20,
21-1,22,23,26~29,30-1,32-1,33,34,
37~42,45,48,49-1,52,53,55,56,58~
63及び65の原告)いるところ,認定事実(6)イ,オ並びに証拠(甲5
83の1・2・3の1・4~8,589の174・176・177・1
79・180・183~187・189・190・192~196・1
99~203・205・206・211・214・215・221・2
26・227・229・232・234~236・239,原告P68,
原告P32,原告P39,原告P40,原告P26,原告P49,原告
P51)及び弁論の全趣旨によれば,これらの原告らは,当該戒告処分
が初めて受けた懲戒処分であることが認められる。
他方,上記原告らについて,本件不起立等以外に非違行為と評価され
るような業務実態があったことをうかがわせる証拠はない。
(イ)上記原告らの処分理由となった本件不起立等の非違性の程度につい
て検討するに,上記3~9で説示したとおり,本件各職務命令は,国旗
国歌条項の定める卒業式等における国旗掲揚及び国歌斉唱を適正に実施
するために発令された適法なものであるところ,上記原告らは,いずれ
も都立学校の教職員として,本件各職務命令に従わなければならない立
場にあったにもかかわらず,これに従わずに本件不起立等に及んだので
あり,上記原告らによる本件不起立等は,生徒や保護者が参列し,厳粛
かつ清新な雰囲気で挙行されるべき卒業式等の場面において,公然とな
されたものであることに照らせば,上記原告らの本件不起立等によって
卒業式等の進行自体に具体的な支障がなかったとしても,本件不起立等
を軽微な非違行為であるということはできない。
(ウ)以上によれば,上記原告らの本件不起立等は,それ自体軽微な非違
行為とはいえないものであること,上記原告らは,本件不起立等以外に
問題となるような業務実態がない者であるが,このことは本件不起立等
自体の非違性を減殺するものではないこと,上記原告らに対する戒告処
分は,懲戒処分の種類の中で最も軽いものであることを併せ考慮すると,
上記原告らの本件不起立等に対して戒告処分を科したことが社会通念上
著しく妥当を欠くとはいえない。したがって,都教委の上記原告らに対
する本件各処分(戒告処分)について,裁量権の逸脱又は濫用があると
認めることはできない。
イ本件各処分のうち減給処分10分の1・1月について
(ア)前提事実(4)イによれば,本件不起立について減給処分10分の1・
1月を受けた原告は21名(原告番号でいうと,2,5,15,21-
2,24,25,30-2,31-1,32-2,35,43,44,
46,47,49-2,50,51,54,57,64及び66の原告)
いるところ,認定事実(6)イ,オ並びに証拠(甲465の6,582の2
・5,583の3の1,589の175・178・188・194・1
97・198・203~205・209・216・217・219・2
20・225・228・231・238・240,原告P69)及び弁
論の全趣旨によれば,原告番号2,5,15,24,25,31-1及
び35の原告7名は,平成16年度卒業式(平成17年3月実施)にお
ける本件不起立の前に,平成15年度卒業式(平成16年3月実施)に
おける職務命令違反(国歌斉唱時の不起立)で戒告処分を受けているこ
と,原告番号の21-2,30-2及び32-2の原告3名は,平成1
7年度入学式(同年4月実施)における本件不起立の前に,その直前で
ある平成16年度卒業式(平成17年3月実施)における職務命令違反
(国歌斉唱時の不起立)で戒告処分を受けていること,原告番号43,
47,50,57,64及び66の原告6名は,平成17年度卒業式(平
成18年3月実施)における本件不起立の前に,平成15年度卒業式(平
成16年3月実施)における職務命令違反(国歌斉唱時の不起立)で戒
告処分を受けていること,原告番号46の原告は,平成17年度卒業式
(平成18年3月実施)における本件不起立の前に,平成15年度周年
行事(同年11月実施)における職務命令違反(国歌斉唱時に会場から
退場)で戒告処分を受けていること,原告番号51の原告は,平成17
年度卒業式(平成18年3月実施)における本件不起立の前に,平成1
6年度入学式(同年4月実施)における職務命令違反(国歌斉唱時に会
場から退場)で戒告処分を受けていること,原告番号44及び54の原
告2名は,平成18年度入学式(同年4月実施)における本件不起立の
前に,平成15年度卒業式(平成16年3月実施)における職務命令違
反(国歌斉唱時の不起立)で戒告処分を受けていること,原告番号49
-2の原告は,平成18年度入学式(同年4月実施)における本件不起
立の前に,その直前である平成17年度卒業式(平成18年3月実施)
における職務命令違反(国歌斉唱時の不起立)で戒告処分を受けている
ことが認められる。
他方,上記原告らについて,前回の処分の対象とされた非違行為及び
本件不起立以外に非違行為と評価されるような業務実態があったことを
うかがわせる証拠はない。
(イ)本件各職務命令が適法であり,上記原告らが本件各職務命令に従う
べき立場にあった者であること,本件不起立が軽微な非違行為であると
いうことができないものであることについては,上記ア(イ)で説示した
とおりである。
(ウ)以上によれば,上記原告らは,既に本件不起立と同様の職務命令違
反により戒告処分を受けていた者であり,職務命令違反行為である本件
不起立が懲戒処分の対象となることを十分認識していたにもかかわら
ず,同種の非違行為である本件不起立をあえて繰り返したと評価される
者であり,その非違性の程度は,1回目のそれより重いといわざるを得
ない。そして,都教委においては,上記(2)及び(3)で認定したとおり,
過去に非違行為を行い懲戒処分を受けたにもかかわらず,再び同様の非
違行為を行った場合には,原則として量定を加重して対応する運用をと
っていることが認められるところ,このような運用が不相当なものであ
るとは認められない。以上に加えて,減給処分は,戒告処分の次に重い
懲戒処分として定められている懲戒処分であり,減給処分10分の1・
1月は,減給処分の中でも比較的軽いものであること,上記原告らは,
前回の処分の対象とされた非違行為及び本件不起立以外に問題となるよ
うな業務実態はない者であるが,このことは本件不起立自体の非違性を
減殺するものではないことを併せ考慮すると,上記原告らの本件不起立
に対して減給処分10分の1・1月を科したことが社会通念上著しく妥
当を欠くとまではいい難い。したがって,都教委の上記原告らに対する
本件各処分(減給処分10分の1・1月)について,裁量権の逸脱又は
濫用があると認めることはできない。
ウ原告P38に対する減給処分10分の1・6月について
(ア)前提事実(4)並びに証拠(甲129,589の209,乙41の9)
及び弁論の全趣旨によれば,原告P38は,①P70養護学校の平成1
4年度入学式において,日の丸の掲揚及び君が代奏楽が行われることに
対する抗議の意思を表明するため,縦約10センチメートル,横約15
センチメートルの黒の枠と,その枠内の中央に直径約3センチメートル
の塗りつぶした赤い丸を描き,この絵柄に向かって左上から右下方向に
黒色の斜線を入れた模様が右胸部分に,直径約20センチメートルのハ
ートの絵柄に鎖を重ねた模様が背中側に描かれた白無地のブラウスを着
用して上記入学式に出席しようとし,上記学校の校長から上着の着用を
命じる職務命令を受けたにもかかわらず,これに従わないまま入学式に
臨席し,さらに,同校長から事情聴取のために校長室に来るように命じ
る職務命令を受けたにもかかわらず,これに従わなかったことを処分事
由として,平成14年11月6日付けで戒告処分(以下「本件P38先
行戒告処分」という。)を受けたこと,②その後,平成15年度卒業式
において,事前に国歌斉唱時に起立斉唱することを命ずる職務命令を受
けていたにもかかわらず起立しなかったことを処分事由として,平成1
6年4月6日付けで減給処分10分の1・1月の懲戒処分(以下「本件
P38先行減給処分」という。)を受けたこと,③その後,平成16年
度卒業式における本件不起立を処分事由として,減給処分10分の1・
6月の懲戒処分を受けたことが認められる。
他方,原告P38について,本件各処分以前の各懲戒処分の対象とさ
れた非違行為及び本件不起立以外に非違行為と評価されるような業務実
態があったことをうかがわせる証拠はない。
(イ)原告P38に対する本件各職務命令が適法であり,同原告が本件各
職務命令に従うべき立場にあった者であること,卒業式等における不起
立(上記(ア)の②及び③)が軽微な非違行為であるということができな
いものであることについては,上記ア(イ)で説示したとおりである。ま
た,本件P38先行戒告処分の処分事由(上記(ア)の①)についても,
厳粛かつ清新な雰囲気で挙行されるべき卒業式に上記(ア)の①で認定し
たような服装で臨席することは不相当というべきであり,それへの対応
として校長が発令した上着着用を命じる職務命令は,その必要性及び合
理性の認められる相当な職務命令であると解されるところ,同原告は同
職務命令に従わなかったというものであるから,これだけを取り上げて
も,軽微な非違行為であったということはできない。
(ウ)上記(ア)で認定した処分経緯によれば,原告P38は,卒業式等に
おける不起立を処分事由とする懲戒処分としては,本件P38先行減給
処分が初めてのものであり,本件不起立に対するものが2回目のもので
あるが,これらに先立って本件P38先行戒告処分を受けていること,
上記(イ)で説示したとおり,本件不起立の非違性は軽微なものではない
上,同原告は,本件P38先行戒告処分及び本件P38先行減給処分を
受け,職務命令違反行為である本件不起立が懲戒処分の対象となること
を十分認識していたにもかかわらず,あえて同種の非違行為を繰り返し
たものというべきであって,本件不起立の非違性の程度が相対的に重く
評価され得る事情があること,過去に非違行為を行い懲戒処分を受けた
にもかかわらず,再び同様の非違行為を行った場合には,量定を加重し
て対応する運用が不相当であるとはいえないこと,同原告は,本件各処
分以前の各懲戒処分の対象とされた非違行為及び本件不起立以外に問題
となるような業務実態はない者であるが,このことは本件不起立自体の
非違性を減殺するものではないことを併せ考えると,同原告の本件不起
立に対して減給処分10分の1・6月を科したことが社会通念上著しく
妥当を欠くとまでは断じ難い。したがって,都教委の同原告に対する本
件各処分(減給処分10分の1・6月)について,裁量権の逸脱又は濫
用があると認めることはできない。
エ原告P62に対する停職処分1月について
(ア)証拠(甲589の204)及び弁論の全趣旨によれば,原告P62
は,①平成16年3月に実施された平成15年度卒業式において事前に
国歌斉唱時に起立斉唱することを命ずる職務命令を受けていたにもかか
わらず起立しなかったことを処分事由として,平成16年3月31日付
けで戒告処分(以下「本件P62先行戒告処分」という。)を受けたこ
と,②平成17年3月に実施された平成16年度卒業式において事前に
国歌斉唱時に起立斉唱することを命ずる職務命令(本件各職務命令)を
受けていたにもかかわらず起立しなかったことを処分事由として,平成
17年3月31日付けで減給処分10分の1・1月の懲戒処分(本件各
処分のうちの別紙2懲戒処分等一覧表の番号31-1のもの。以下「本
件P62先行減給処分1」という。)を受けたこと,③同年9月13日
開催の服務事故再発防止研修(専門研修)への参加を命ずる職務命令を
受けていたにもかかわらず同研修に参加しなかったこと(以下「本件研
修不参加」という。)を処分事由として,同年12月1日付けで減給処
分10分の1・6月の懲戒処分(以下「本件P62先行減給処分2」と
いう。)を受けたこと,④平成18年3月30日,同月10日に実施さ
れた卒業式において事前に起立行為を命ずる職務命令(本件各職務命令)
を受けていたにもかかわらず起立しなかったことを処分事由として停職
処分1月の懲戒処分(本件各処分のうちの別紙2懲戒処分等一覧表の番
号31-2のもの)を受けたことが認められる。
他方,原告P62について,本件各処分以前の各懲戒処分の対象とさ
れた非違行為及び本件不起立以外に非違行為と評価されるような業務実
態があったことをうかがわせる証拠はない。
(イ)原告P62に対する本件各職務命令が適法であり,原告P62が本
件各職務命令に従うべき立場にあった者であること,卒業式等における
不起立(上記(ア)の①,②及び④)が軽微な非違行為であるということ
はできないことについては,上記ア(イ)で説示したとおりである。また,
本件研修不参加についてみても,本件不起立に対する懲戒処分(上記(ア)
の②)を原因として命じられた研修への参加を拒絶して職務命令違反を
さらに重ねたという態様に照らして,その非違性は小さくないといわざ
るを得ない。
(ウ)上記(ア)で認定した処分経緯によれば,原告P62は,本件各処分
(停職処分1月)の前に,2度にわたり卒業式等における不起立を処分
事由として懲戒処分(本件P62戒告処分と本件P62減給処分1)を
受けていたほか,その後にも職務命令に違反して本件研修不参加をして
減給処分10分の1・6月の懲戒処分(本件P62減給処分2)を受け
ていた者であること,上記(イ)で説示したとおり,本件不起立の非違性
は軽微なものではない上,同原告は,上記のとおり3度にわたって懲戒
処分を受けており,職務命令違反行為である本件不起立が懲戒処分の対
象となることを十分認識していたにもかかわらず,あえて同種の非違行
為を繰り返したものであって,本件不起立の非違性の程度が相対的に重
く評価され得る事情があること,過去に非違行為を行い懲戒処分を受け
たにもかかわらず,再び同様の非違行為を行った場合には,量定を加重
して対応する運用が不相当であるとはいえないこと,都教委が定める本
件処分量定基準では,職務命令違反に対する処分量定は減給又は戒告と
されているが,これはあくまで標準を定めるものであり,個別の事案の
内容や処分の加重に当たっては,これと異なる処分量定があり得るもの
とされていること(上記(2)),4度にわたって同種の職務命令違反を繰
り返すということは通常想定し難い事態であり,同原告の本件不起立は
確信的な職務命令違反行為であると評価せざるを得ないこと,同原告は,
本件各処分以前の各懲戒処分の対象とされた非違行為及び本件不起立以
外に問題となるような業務実態はない者であるが,このことは本件不起
立自体の非違性を減殺するものではないことを併せ考えると,同原告の
本件不起立に対して停職処分1月を科したことが社会通念上著しく妥当
を欠くとまではにわかに断じ難い。したがって,都教委の同原告に対す
る本件各処分(停職処分1月)について,裁量権の逸脱又は濫用がある
と認めることはできない。
オなお,証拠(甲281の1~3,385の1~4)及び弁論の全趣旨に
よれば,東京都は,他の地方公共団体に比べて,卒業式等における国歌斉
唱時の起立斉唱等を命じる職務命令に対する違反行為について厳しい姿勢
で臨んでいることがうかがわれ,例えば,広島県においては,同種の非違
行為を繰り返した場合であっても,懲戒処分としては戒告処分を繰り返し
科していることが認められる。しかしながら,教職員の非違行為にどの程
度厳しい姿勢で臨むかという姿勢ないし考えは,各地方公共団体及びその
教育委員会が,当該地域の実情等をも踏まえながら,それぞれ検討すべき
教育行政,管理政策上の問題であり,その姿勢ないし考えが全国的に一律,
一様のものでなければならないというものではない。したがって,同種の
非違行為について,東京都とその他の地方公共団体との間で懲戒処分の量
定が異なっているからといって,直ちに東京都における懲戒処分について
裁量権の逸脱又は濫用があったものと認めることはできない。東京都にお
いては,国旗国歌条項に基づく卒業式等における国旗掲揚及び国歌斉唱の
実施に向けた都教委による取組とその実施場面における実態は概要上記7
(2)アのとおりのものであり,都教委は,この実態を踏まえて,卒業式等に
おける国旗・国歌の指導をより一層改善,充実することを目的として本件
通達を発出し,また,都立学校長は,その実施のために本件各職務命令を
発令したという状況の下で,原告らが本件不起立等の職務命令違反行為を
行い,これに対して本件各処分がされているという事実関係があるのであ
るが,このような点に関する広島県における実情をうかがい知る証拠はな
く,広島県との比較において,都教委の原告らに対する処分量定が裁量権
の範囲を逸脱し又は濫用したものということはできない。
(5)本件各処分が裁量権を逸脱又は濫用したものであるとする原告らの個別
の主張(上記第3の10(1))の検討
ア原告らは,命令と服従からなる公務員秩序は,教育部門になじむもので
はないところ,都教委は,特定の価値観や教育観によって教育を支配,統
制するという意図と動機から懲戒処分を濫発したものであって,本件各処
分は,懲戒制度の趣旨及び目的を逸脱したものであると主張する(上記第
3の10(1)ア)。
確かに,教育は,教師と生徒との全人格的な触れ合いを通じて,生徒の
人格形成を目指す営為であり,このような教育の本来的性質は,教育部門
における公務員秩序の在り方を検討する上でも重要な要素となるものであ
るということはできる。しかしながら,原告らは,公立学校の教育を担う
地方公務員である以上,適法な職務命令に従うべき義務があることはいう
までもなく,そのことは,教育の上記本来的性質と矛盾抵触するものでは
ない。そして,原告らは,本件各処分が特定の価値観や教育観によって教
育を支配,統制するという意図と動機から濫発されたものであるとも主張
するが,同事実を認めるに足りる証拠はない。したがって,原告らの上記
主張は採用することができない。
イ原告らは,①本件各職務命令は,仮に違憲違法でないとしても,憲法及
び教育基本法の趣旨に反するものであり,原告らが真摯な動機から本件不
起立等に至ったこと,本件不起立等による卒業式等への影響は限りなく小
さいことからすると,本件不起立等の非違性の程度は軽い,②原告らは,
本件各職務命令及び本件各処分によって,甚大な精神的苦痛を被った,③
原告らは,本件各処分によって,昇給延伸などの経済的不利益を被った,
④原告らは,本件各処分だけではなく,各種研修の受講を義務付けられ,
教職員に対する業績評価において不利益な評価を受けるなどの人事上の不
利益を被った,⑤不起立等に対する懲戒処分は,原告らが転向ないし改宗
しない限り,幾度も繰り返されることとなり,その不利益は甚大であると
して,本件不起立等の非違性の程度と本件不起立等に対する制裁措置とし
ての本件各処分により受ける原告らの不利益の程度との権衡を著しく失し
ている旨主張する(上記第3の10(1)イ)。
しかしながら,以下(ア)~(オ)で説示するとおり,原告の上記主張を採
用することはできない。
(ア)上記①の点について
本件不起立等を軽微な非違行為であるということができないことは,
上記(4)ア(イ)で説示したとおりである。なお,上述のとおり,本件各職
務命令は適法なものであり,原告らが教職員として学習指導要領(国旗
国歌条項)に沿った教育指導を行うべき立場にあるにもかかわらず,学
校行事である卒業式等において公然と職務命令違反行為である本件不起
立等を行ったことに鑑みれば,原告らが本件不起立等を行った動機の真
摯性の程度,本件不起立等により卒業式等の進行に影響がなかったこと
を踏まえてもなお,その非違性が軽いものと評価することはできない。
(イ)上記②の点について
本件各職務命令が適法なものであり,原告らは教職員として起立斉唱
等を行うべき義務を負っていたのであるから,本件不起立等が懲戒処分
の対象となり得ることは当然であって,原告らが,本件各処分を受けた
ことによって精神的苦痛を受けたとしても,それは本件各処分に伴う事
実上の影響にすぎず,本件各処分の適法性ないし相当性を左右する事情
には当たらないというべきである。
(ウ)上記③の点について
原告らは,本件各処分を受けたことにより,昇給延伸や勤勉手当の削
減等に加えて,定年退職後に嘱託を希望しても採用されないなどの経済
的不利益を受け得ることが認められる(上記2参照)。しかしながら,
これらは,本件各処分自体が予定し,また,本件各処分自体によって直
接に生じる経済的不利益ではなく,上記の昇給等や再雇用は,それらを
定める給与制度や人事制度等において,懲戒処分を受けていないこと,
勤務成績が良好であることなどを要件としていることによって生じるも
のである。したがって,これらの経済的不利益は,本件各処分自体の適
法性ないし相当性を直接左右する事情には当たらないというべきもので
ある。
(エ)上記④の点について
不起立等によって懲戒処分を受けた者が,各種研修等への参加を義務
付けられたからといって,これを制裁措置と評価することはできないし,
これが制裁としてされたことを認めるに足りる証拠もない。また,教職
員に対する業績評価において,本件各処分を受けたという事実を考慮に
入れることは至極当然であるし,原告らが,本件各処分を受けたことを
理由として不当な取扱いを受けたことを客観的に認めるに足りる証拠は
ない
(オ)上記⑤の点について
ある非違行為を行って懲戒処分を受けたにもかかわらず,その後も同
種非違行為を繰り返した場合,後の非違行為の非違性が相対的に重く評
価されることになることは不相当であるとはいえず,後の非違行為に対
する懲戒処分の量定が加重されることも不相当であるとはいえない。ま
た,上記3及び4で説示したとおり,本件各職務命令は,原告らの思想
及び良心の自由又は信教の自由を侵害するものではないから,本件各職
務命令に従うためには原告らが転向ないし改宗しなければならない旨の
主張は,本件各職務命令と思想・良心の自由及び信教の自由との関係に
ついて上記と異なる見解を前提としたものであり,採用することができ
ない。
ウ原告らは,①都教委が,本件各処分において,原告ら教職員及び生徒の
精神的自由の尊重,教育に対する不当な支配の抑制といった事情を軽視し
た,②原告らが,本件不起立等を除いたその余の面では,教師として優秀
であることを考慮していない,③本来考慮すべきではない都知事や一部の
都議会議員の意向を考慮して卒業式等の進行が妨害される抽象的可能性を
過大に評価しており,本件各処分は,重視すべき事項を軽視し,本来考慮
すべきではない事項を考慮したものであると主張する(上記第3の10(1)
ウ)。
しかしながら,以下(ア)~(ウ)で説示するとおり,原告の上記主張を採
用することはできない。
(ア)上記①の点について
上記3,4及び7で説示したとおり,本件各職務命令及び本件各処分
が,憲法19条,20条,教育基本法10条1項に違反するものである
ということはできず,上記主張事実を認めるに足りる証拠はない。
(イ)上記②の点について
本件不起立等がそれ自体軽微な非違行為といえないことは,上記(4)
ア~エの各(イ)で説示したとおりであるところ,原告らが教師として優
秀であるかどうかという事情は,本件不起立等自体の非違性を減殺する
ものではない。そして,懲戒処分の要否,処分量定を検討するに当たり,
普段の勤務態度,勤務成績等も考慮要素になり得るものであるが,原告
らの本件不起立等に対する本件各処分が社会通念上著しく妥当を欠くも
のといえないことは,上記(4)ア~エの各(ウ)で説示したとおりである。
(ウ)上記③の点について
本件各処分において,都知事や一部の都議会議員の意向が影響してそ
の処分量定が決められた事実を認めるに足りる証拠はない。なお,本件
不起立等は,卒業式等における国旗掲揚及び国歌斉唱を学習主導要領(国
旗国歌条項)の趣旨に則って適正に実施するために発令された本件各職
務命令に対する違反行為であるから,それに対する処分を検討するにつ
いて,卒業式等の進行等への影響を考慮に入れるのは当然のことである
ところ,本件処分においてこれを過大に評価したとことを認めるに足り
る証拠もない。
(6)以上によれば,都教委が原告らに対して行った本件各処分が裁量権を逸脱
又は濫用したものということはできない。
12原告らの損害賠償請求について
上記2~11で検討説示したところによれば,本件各処分には実体上及び手続
上の違法性は認められない。したがって,原告らの国家賠償法に基づく損害賠
償請求は,その余の点について判断するまでもなく理由がない。
第5結語
以上によれば,原告らの請求はいずれも理由がないから棄却することとし,
主文のとおり判決する。
東京地方裁判所民事第19部
裁判長裁判官青野洋士
裁判官渡邊和義
裁判官村田一広は,差し支えにつき署名押印することができない。
裁判長裁判官青野洋士

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