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平成29年10月26日判決言渡同日原本交付裁判所書記官
平成28年(ワ)第39789号不当利得返還請求事件
口頭弁論終結日平成29年8月31日
判決
原告A
同訴訟代理人弁護士野村吉太郎
被告サムスン電子ジャパン株式会社10
被告グーグル合同会社
上記両名訴訟代理人弁護士大野聖二
小林英了
木村広行
祝谷和宏20
主文
1原告の請求をいずれも棄却する。
2訴訟費用は原告の負担とする。
3この判決に対する控訴のための付加期間を30日と定める。
事実及び理由25
第1請求
1被告サムスン電子ジャパン株式会社(以下「被告サムスン」という。)は,
原告に対し,4575万6886円及びこれに対する平成28年12月17日
から支払済みまで年5分の割合による金員を支払え。
2被告グーグル合同会社(以下「被告グーグル」という。)は,原告に対し,
36万9763円及びこれに対する平成28年12月17日から支払済みまで5
年5分の割合による金員を支払え。
第2事案の概要
本件は,発明の名称を「実時間対話型コンテンツを無線交信ネットワーク及
びインターネット上に形成及び分配する方法及び装置」とする特許権の共有者
の一人である原告が,被告らによる別紙被告製品目録記載1~13の製品(以10
下「被告製品」と総称し,個別の製品をその番号に従い「被告製品1」などと
いう。)の製造販売等は上記特許権を侵害するものであり,被告らは上記特許
権の実施料相当額を不当に利得したと主張して,不当利得返還請求権に基づき,
上記特許権の実施料相当額(特許法102条3項)のうち原告の持分に対応す
る額として,被告サムスンに対しては4575万6886円,被告グーグルに15
対しては36万9763円及びこれらに対する各訴状送達の日の翌日である平
成28年12月17日から支払済みまで年5分の割合による遅延損害金の支払
を求める事案である。
1前提となる事実(当事者間に争いのない事実並びに後掲の証拠及び弁論の全
趣旨により容易に認められる事実)20
当事者
ア原告は,個人の発明家である。
イ被告サムスンは,有線,無線通信機器及び関連機器とその部品の製作,
輸出入販売等を目的とする株式会社である。
ウ被告グーグルは,情報処理サービス業及び情報提供サービス業等を目的25
とする合同会社である。
原告の特許権
ア原告は,プロント・ワールドワイド・リミテッドとの間で次の特許権
(以下「本件特許権」といい,その特許を「本件特許」という。また,そ
の特許出願の願書に添付された明細書及び図面を「本件明細書」とい
う。)を共有している。本件特許権の原告の持分は2分の1である。5
発明の名称実時間対話型コンテンツを無線交信ネットワーク及
びインターネット上に形成及び分配する方法及び装

特許番号第5033756号
出願日平成20年10月15日(特願2008-266410
32。特願2002-590620の分割)
原出願日平成14年5月13日
登録日平成24年7月6日
優先日①平成13年5月15日
優先日②平成13年9月25日15
イ本件特許権の特許請求の範囲の請求項1の記載は次のとおりである(以
下,この発明を「本件発明」という。)。
「ハンドヘルド装置であって,
操作者へ出力を提示する可視的ラスター・ディスプレイを含む少なく
とも一つの出力デバイスと,20
操作者から入力を受けるスイッチ配列を含む少なくとも一つの入力デ
バイスと,
無線トランスミッタと,
前記少なくとも1つの出力デバイス,前記少なくとも1つの入力デバ
イス及び前記無線トランスミッタの動作を制御する処理回路と,25
前記処理回路で実行可能なプログラムとを備え,そのプログラムは,
前記ハンドヘルド装置を操作者が操作する際に,操作者を支援するよ
うに,その操作に関する情報を前記可視的ラスター・ディスプレイを通
じて表示させ,
前記出力デバイスを通じて操作者へ,(a)前記ハンドヘルド装置か
ら空間的に離間した遠隔サーバー又は(b)取り外し可能なメモリ・デ5
バイスから与えられる第1のコンテンツの表現を提示させ,
操作者により決定された関係に従って第1のコンテンツの提示に時間
的に重なる第2のコンテンツと,少なくとも単独の受信者の識別子とを
前記入力デバイスを通じて操作者から受け取らせ,
前記無線トランスミッタを通じて,前記ハンドヘルド装置から空間的10
に離間した遠隔サーバーに対して第2のコンテンツの表現と少なくとも
単独の受信者の識別子とを送ると共に,この遠隔サーバーが,前記操作
者により決定された前記関係を保って配置された第1のコンテンツ及び
第2のコンテンツを表す更なる表現を前記少なくとも単独の受信者が受
信するように,前記更なる表現を送信させるように構成されているハン15
ドヘルド装置。」
ウ本件発明は,次の構成要件に分説される(以下,それぞれの構成要件を
「構成要件A」などという。)。
A:ハンドヘルド装置であって,
操作者へ出力を提示する可視的ラスター・ディスプレイを含む少な20
くとも一つの出力デバイスと,
操作者から入力を受けるスイッチ配列を含む少なくとも一つの入力
デバイスと,
無線トランスミッタと,
前記少なくとも1つの出力デバイス,前記少なくとも1つの入力デ25
バイス及び前記無線トランスミッタの動作を制御する処理回路と,
B:前記処理回路で実行可能なプログラムとを備え,
そのプログラムは,前記ハンドヘルド装置を操作者が操作する際に,
操作者を支援するように,その操作に関する情報を前記可視的ラスタ
ー・ディスプレイを通じて表示させ,
C:前記出力デバイスを通じて操作者へ,5
(a)前記ハンドヘルド装置から空間的に離間した遠隔サーバー又
は(b)取り外し可能なメモリ・デバイスから与えられる第1のコン
テンツの表現を提示させ,
D:操作者により決定された関係に従って第1のコンテンツの提示に時間
的に重なる第2のコンテンツと,少なくとも単独の受信者の識別子と10
を前記入力デバイスを通じて操作者から受け取らせ,
E:前記無線トランスミッタを通じて,前記ハンドヘルド装置から空間的
に離間した遠隔サーバーに対して第2のコンテンツの表現と少なくと
も単独の受信者の識別子とを送ると共に,
F:この遠隔サーバーが,前記操作者により決定された前記関係を保っ15
て配置された第1のコンテンツ及び第2のコンテンツを表す更なる表
現を前記少なくとも単独の受信者が受信するように,前記更なる表現
を送信させるように構成されているハンドヘルド装置。
エ原告は,本件特許の審査過程において,特許庁審査官から平成23年2
月25日付けで拒絶理由通知(乙7)を受けた。これに対し,原告は同20
年8月31日付けで意見書(乙5。以下「本件意見書」という。)及び
手続補正書(乙3)を提出し,特許請求の範囲について,請求項1の
「操作者により調節された時間的関係に従って」を「操作者により決定
された時間的関係に従って」とする旨の補正(以下「本件補正」とい
う。)を行うなどし,平成24年7月6日に本件特許の登録を受けた。25
被告製品にプリインストールされているプログラム等
ア被告製品はいずれもタッチパネル式ディスプレイを搭載したスマートフ
ォン(被告製品1~3,7及び8)又はタブレット端末(被告製品4~
6,9~13)である。
イ被告製品には,「ハングアウト」というプログラムがプリインストール
されている。ハングアウトは,複数の端末間で複数のユーザーに対してメ5
ッセージを送信したり,最大10人との間でビデオ通話(以下「ビデオハ
ングアウト」という。)をしたりすることができるプログラムである。被
告製品のユーザーがハングアウトを使用するためには,Googleアカ
ウントを取得する必要がある。(甲3,4の2,5の4,16,17,1
9)10
ウ被告製品において,ビデオハングアウトは次のように行われる。(甲7
の2,16,17)
ハングアウトのアイコンをタップし,ハングアウト画面を開く。
ハングアウト画面において,検索ボックスにビデオハングアウトを行
いたい相手の名前,メールアドレス又は電話番号を入力するか,検索ボ15
ックスの下に表示される候補リストを用いて連絡先を選択し,画面上部
にあるビデオアイコンをタップする。選択したユーザーがハングアウト
に参加すると,ビデオハングアウトが開始される。
各ユーザーからの映像及び音声は,Googleサーバーを介して他
のユーザーに送られる。20
エ被告サムスンは,平成25年5月23日から被告製品1を,平成26年
5月15日から被告製品2及び3を販売している。
2争点
被告製品の本件発明の技術的範囲への属否
原告は,ビデオハングアウト(以下では,単に「ハングアウト」とい25
う。)を行う際の被告製品の構成が本件発明の技術的範囲に属し,被告製品
は本件特許を直接侵害すると主張する。これに対し,被告は,ハングアウト
を行う際の被告製品の構成について以下のア~カ以外の構成要件の充足性を
争わないが,ハングアウトはGoogleアカウントの取得及びサービスへ
のログインというユーザーの行為を介さない限り機能しないから,被告製品
は販売された時点では本件特許を直接侵害するものではないと主張する。5
ア「操作者から入力を受けるスイッチ配列」(構成要件A)の充足性
イ「操作者へ出力を提示する可視的ラスター・ディスプレイを含む少なく
とも一つの出力デバイスと,操作者から入力を受けるスイッチ配列を含む
少なくとも一つの入力デバイス」(構成要件A)の充足性
ウ「操作者により決定された関係」(構成要件D)の充足性10
エ「第2のコンテンツと,少なくとも単独の受信者の識別子とを前記入力
デバイスを通じて操作者から受け取らせ」(構成要件D)及び「第2の
コンテンツの表現と少なくとも単独の受信者の識別子とを送る」(構成
要件E)の充足性
オ「遠隔サーバーが・・・更なる表現を送信させる」(構成要件F)の充15
足性
カ「操作者により決定された前記関係を保って配置された第1のコンテン
ツ及び第2のコンテンツを表す更なる表現を・・・受信者が受信する」
(構成要件F)の充足性
本件特許の無効理由の有無(本件特許権の行使の可否。特許法104条の20
3第1項)
ア補正要件(同法17条の2第3項)及びサポート要件(同法36条6項
1号)の違反
イ特開平8-185192号公報(以下「乙4公報」という。)に記載さ
れた発明(以下「乙4発明」という。)に基づく進歩性の欠如(同法225
9条2項)
ウWO00/72303号公報(以下「乙10公報」という。)に記載さ
れた発明(以下「乙10発明」という。)に基づく進歩性の欠如
被告グーグルによる被告製品4~13の製造販売の有無
原告の損失額
3争点に対する当事者の主張5
争点ア(「操作者から入力を受けるスイッチ配列」(構成要件A)の充
足性)について
(原告の主張)
「操作者から入力を受けるスイッチ配列」とは,例えば押すことによって
電気回路を閉にして処理を開始させるスイッチが配列されたものをいう。本10
件明細書の段落【0048】の記載からも,「スイッチ配列」がボタンを押
すことにより起動等の処理を開始させるものを意味することは明らかである。
なお,上記段落に記載されているボタンは一例にすぎず,タッチパネル上の
アイコンもボタンといえる。
被告製品ではハングアウトを起動するアイコンやマイクのオン・オフを切15
り替える等が液晶ディスプレイに表示され,これらのアイコンをタッチする
と処理が開始されるようになっているから,これらのアイコンは構成要件A
の「スイッチ配列」に該当する。
(被告らの主張)
構成要件Aの「スイッチ配列」とは,複数のボタン式のスイッチが並べら20
れたものを意味するところ,各被告製品におけるタッチパネル式ディスプレ
イには,ボタン式のスイッチは設けられていない。したがって,被告製品は
構成要件Aを充足しない。
争点イ(「操作者へ出力を提示する可視的ラスター・ディスプレイを含
む少なくとも一つの出力デバイスと,操作者から入力を受けるスイッチ配列25
を含む少なくとも一つの入力デバイス」(構成要件A)の充足性)について
(原告の主張)
本件発明は,入力デバイスと出力デバイスが物理的に分離しているか否か
を特定していないし,本件明細書には入力デバイスと出力デバイスを兼ねる
構造を有する装置であるPDAを想定した記載もある。特許請求の範囲の記
載では,入力デバイスと出力デバイスが文言上分離されているが,これは,5
操作処理の観点から異なる要素として分離されて記述されているだけであり,
入力と出力という操作を両方実現することができるデバイスを排除していな
い。
被告製品は,出力デバイスと入力デバイスを兼ねたタッチパネル式液晶デ
ィスプレイ,出力デバイスであるスピーカーや入力デバイスであるカメラ及10
びマイク等を備えているから,「操作者へ出力を提示する可視的ラスター・
ディスプレイを含む少なくとも一つの出力デバイスと,操作者から入力を受
けるスイッチ配列を含む少なくとも一つの入力デバイス」を充足する。
(被告らの主張)
構成要件Aでは,「出力デバイス」及び「入力デバイス」が並立助詞であ15
る「と」で接続されており,出力デバイスと入力デバイスは,それぞれ対等
の関係にある別個のデバイスであることが文言上明らかである。また,本件
明細書の段落【0024】及び図1でも,これらのデバイスは別個独立のも
のとして記載されている。
被告製品は,出力デバイスであるタッチパネル式ディスプレイを備えるの20
みであり,出力デバイスと別個の入力デバイスを備えないから,構成要件A
を充足しない。
争点ウ(「操作者により決定された関係」(構成要件D)の充足性)に
ついて
(原告の主張)25
ア「操作者により決定された関係」における「決定」とは,操作者が第1
のコンテンツの表現の提示を受け,それに合わせるように第2のコンテン
ツのタイミングやテンポなどを調整して時間的な関係を決定しつつ,ハン
ドヘルド装置の入力デバイスを通じて第2のコンテンツを入力することを
意味し,操作者が第1のコンテンツに時間的に重ねて第2のコンテンツを
送信することを当然に予定している。本件明細書の段落【0034】や本5
件意見書の記載からしても,ハンドヘルド装置から出力された演奏(第1
のコンテンツ)にタイミングを合わせて歌(第2のコンテンツ)を歌うこ
とは,操作者による決定の典型例の一つである。
イ操作者が被告製品を用いてハングアウトを操作する状況として,次のよ
うな状況が考えられる。10
東京都在住のアキラ(操作者)が保持する被告製品に,神奈川県在住の
マリからハングアウトによるビデオ通話の呼び出しがあり,アキラが応じ,
音楽のセッションをすることとし,兵庫県在住のケンもハングアウトに参
加した。アキラは,ギターを弾き,入力デバイスであるビデオカメラやマ
イクに音楽・動画を入力することとした。アキラが保持する被告製品から15
「いくよー!」という掛け声とともにマリの歌声(第1のコンテンツ)が
聞こえ,それに合わせて,アキラがギターを弾き始め,音楽・動画を入力
した(第2のコンテンツ)。ケン(受信者)は,それらの第1のコンテン
ツ及び第2のコンテンツを見聞きすることができた。
ウ被告製品では,操作者が被告製品を通じて提示される第1のコンテンツ20
に合わせて,入力デバイスを通じて音楽や動画を入力するから,被告製品
は「操作者により決定された関係に従って」という構成を備える。
(被告らの主張)
「決定」とは「はっきり決めること」を意味する。本件意見書を参酌する
と,「操作者により決定された関係」を充足するには,伴奏にタイミングを25
合わせて歌を歌うことを超えて,何らかの「関係」が操作者により決定され
ることが必要であることは明らかであり,操作者が単に第2のコンテンツを
第1のコンテンツに時間的に重ねて送信することは,「操作者により決定さ
れた関係に従って」という構成に含まれない。
被告製品では,第1のコンテンツの表示又は出力に対して第2のコンテン
ツに該当する音声及び映像を時間的に重ね合わせて入力することはできるが,5
第1のコンテンツと第2のコンテンツの関係について何らかの決定がされる
ことはないし,第1のコンテンツと第2のコンテンツの関係を示す情報が入
力されることもない。したがって,被告製品は第1のコンテンツと第2のコ
ンテンツとの関係につき「操作者により決定された関係」を満たさない。
争点エ(「第2のコンテンツと,少なくとも単独の受信者の識別子とを10
前記入力デバイスを通じて操作者から受け取らせ」(構成要件D)及び「第
2のコンテンツの表現と少なくとも単独の受信者の識別子とを送る」(構成
要件E)の充足性)について
(原告の主張)
「第2のコンテンツと,少なくとも単独の受信者の識別子とを前記入力デ15
バイスを通じて操作者から受け取らせ」とは,第2のコンテンツと受信者の
識別子とを一組のデータとして同時に受け取らせることを意味するものでは
ない。上記構成は,それぞれをいずれかのタイミングで入力デバイスを通じ
て受け取らせる機能を有していれば足り,第2のコンテンツと受信者の識別
子とを入力するごとに一組のデータとして複数回受け取らせることを要しな20
い。また,第2のコンテンツの表現を遠隔サーバーに送る際に,受信者を特
定する識別情報が送られることは,コンピュータによるデジタル情報通信の
方法として常識であり,公知の技術である。そして,これらの点は構成要件
Eについても同様に解される。
ハングアウトは,ハングアウトに招待したいユーザーの名前を入力するこ25
と等により,操作者に受信者を特定する識別情報を入力させる機能を有して
おり,●(省略)●から,構成要件D及びEを充足する。
(被告らの主張)
構成要件D及びEでは,第2のコンテンツと識別子が並立助詞である
「と」で接続されており,第2のコンテンツと受信者の識別子とを組み合わ
せて一団としたものを受け取らせ,送るものであることは文言上明らかであ5
る。また,本件明細書には,第1のコンテンツの提示に先立って受信者の識
別子が入力される旨の記載はないから,本件明細書の記載を考慮しても,第
1のコンテンツが提示される前の時点で受信者の識別子を入力する構成は,
本件発明に含まれない。
ハングアウトでは,●(省略)●操作者によるコンテンツ入力の際に改め10
て当該情報が入力されることはない。したがって,被告製品は上記構成を備
えない。
争点オ(「遠隔サーバーが・・・更なる表現を送信させる」(構成要件
F)の充足性)について
(原告の主張)15
ア「更なる」という文言は,「第1のコンテンツ及び第2のコンテンツ」
の重ね合わせ又は組合せという意味であり,「表現」とは「第1のコンテ
ンツ及び第2のコンテンツ」そのものではなく,これらが遠隔サーバーを
通じて伝達されるときに,電気信号のような様々な形式に変換され得るこ
とを意味する文言である。第1のコンテンツと第2のコンテンツは,遠隔20
サーバーにおいて重ね合わされ,又は組み合わされて配置され「更なる表
現」となる。したがって,「更なる表現」とは,「操作者により決定され
た前記関係を保って配置された第1のコンテンツ及び第2のコンテンツを
表すもの」ものである。
また,「遠隔サーバーが・・・送信させる」とは,ハンドヘルド装置か25
らの指令に基づいて遠隔サーバーが情報を受信者に送信すること,すな
わち,ハンドヘルド装置が遠隔サーバーを制御(使役)することを意味
する。
イ被告製品では,操作者が第1のコンテンツの「表現の提示に時間的に
重なる」ように第2のコンテンツを入力すると,第1のコンテンツ及び
第2のコンテンツがGoogleサーバーに伝達され,Googleサ5
ーバー内で第1のコンテンツと第2のコンテンツが重ね合わされ又は組
み合わされて配置される「更なる表現」を構成し,Googleサーバ
ーが当該「更なる表現」を受信者に送信する。
前記で述べた事例を前提とし,第1のコンテンツ及び第2のコンテ
ンツがGoogleサーバーにおいて重ね合わされ又は組み合わされて10
配置され,「更なる表現」となる状況をイメージとして示すと,次の図
のとおりである。
また,Googleサーバーが特定の受信者に各コンテンツを送信す
るのは,被告製品にインストールされたハングアウトプログラムによっ
て操作者のハンドヘルド装置から●(省略)●このことは,ハングアウ
トプログラムが被告製品を使役していることを意味する。被告製品がサ
ーバーに働きかけることは,あたかもGoogleサーバーの動作のト
リガーを引くようなものであるから,被告製品がGoogleサーバー5
を制御(使役)していることは明白である。
ウしたがって,被告製品は「遠隔サーバーが・・・更なる表現を送信させ
る」を充足する。
(被告らの主張)
ア「更なる表現」とは,第1のコンテンツ及び第2のコンテンツが配置さ10
れたものを表す。そして,「遠隔サーバーが・・・送信させる」とは,ハ
ンドヘルド装置が遠隔サーバーに対して使役的な制御をすることを意味す
る。このことは,特許請求の範囲の記載からして明らかである。
イ●(省略)●したがって,Googleサーバーが「第1のコンテンツ
及び第2のコンテンツを表す更なる表現」を送信することはない。15
ウ被告製品にインストールされた●(省略)●
仮に被告製品がGoogleサーバーの動作のトリガーを引くとしても,
そのことをもってGoogleサーバーによるコンテンツの送信を支配管
理することにはならない。
エしたがって,被告製品はGoogleサーバーに対して使役的な制御を20
行っておらず,構成要件Fの上記構成を充足しない。
争点カ(「操作者により決定された前記関係を保って配置された第1の
コンテンツ及び第2のコンテンツを表す更なる表現を・・・受信者が受信す
る」(構成要件F)の充足性)について
(原告の主張)25
ア「操作者により決定された前記関係」とは,操作者があらかじめ意図に
よって決めた「第1のコンテンツの提示に時間的に重なる第2のコンテン
ツ」の入力タイミング(時間的関係)であり,「前記操作者によって決定
された前記関係を保って配置された」とは,第1のコンテンツの提示に時
間的に重なる第2のコンテンツの入力タイミングに従って,第1のコンテ
ンツ及び第2のコンテンツが配置され,遠隔サーバーにより送信されるこ5
とを意味する。
イコンピュータネットワーク通信には伝達遅延がつきものであるところ,
本件発明においては,「使用された伝達方式に拘わらず,受信先がメッセ
ージの聴覚的コンテンツを最終的に受信するとき,・・・操作者コンテン
ツが最初に与えられたときに操作者により観察された時間的関係を実質的10
に保持」(段落【0046】)すればよいとされている。したがって,本
件発明は,伝達遅延が全くない状況と同等にすることはできないが,伝達
遅延による複数コンテンツ相互の時間的ズレをできるだけ少なくすること
によって,操作者が決定した各コンテンツの時間的関係と受信者が受信し
た各コンテンツの時間的関係が実質的に同一になる場合を含む。15
ウまた,コンテンツのパケットに時間情報(以下「タイムスタンプ」とい
う。)やパケットの順番を示すシーケンス番号が付されていれば,サーバ
ーは送られてきたパケットをシーケンス番号の順番やタイムスタンプの時
間的関係に従って配置し,受信者に転送するので,操作者が決定した第1
のコンテンツと第2のコンテンツの時間的関係が維持されて受信者に届く20
ことになる。仮にタイムスタンプ等に多少のずれがあっても,本件発明が
前提とする「既存の又は将来的に予想される標準に適合する,セルラーフ
ォン,公衆電話交換ネットワーク(PSTN),及びインターネット環境
並びにこれらとつながったサーバー環境」においては,受信者から見た第
1のコンテンツと第2のコンテンツの時間的関係は実質的に維持されてい25
るといえる。
なお,そもそも,本件発明は遠隔サーバーがコンテンツを転送する時点
までのことを規定するのみであり,遠隔サーバーから受信者にコンテン
ツを送信する際の伝達遅延を考慮するものではないから,操作者が決定
した各コンテンツの時間的関係と受信者が受信する各コンテンツの時間
的関係が等しいことは要求されていない。5
エハングアウトは,UDP,RTP,RTCPのようなプロトコルを利用
しており,操作者が第1のコンテンツを受信した時点及び操作者が第2の
コンテンツを入力した時点の時間的関係をタイムスタンプなどにより把握
し,Googleサーバーは各コンテンツを上記時間的関係に従って配置
して転送している。また,ハングアウトは,NTPなどを用いて伝達遅延10
時間を計測して端末毎のシステム時刻を調整し,Googleサーバーが
RTP及びRTCPパケットに付されたシーケンス番号やタイムスタンプ
を参考に各コンテンツを配置して転送するという「三階層のメディア同
期」という技術を使用しているものと考えられる。
さらに,被告らの主張によれば,●(省略)●これらは伝達遅延による15
複数コンテンツ相互の時間的ズレをより小さくするための技術的工夫で
あるといえる。
オ以上のとおり,被告製品及びGoogleサーバーは,伝達遅延による
複数のコンテンツ相互の時間的ズレをできるだけ小さくするように構成さ
れており,構成要件Fの「操作者により決定された前記関係を保って配置20
された第1のコンテンツ及び第2のコンテンツを表す更なる表現を・・・
受信者が受信する」という構成を備える。
カなお,被告らは,●(省略)●などと主張する。しかし,被告らは,ハ
ングアウトがプリインストールされた被告製品について,遠く離れた複数
の仲間とセッションを共有することができる旨を宣伝しているのであるか25
ら,本件訴訟において,被告製品が現実的にはそのような機能を有しない
と主張することは,禁反言の原則により許されず,権利濫用に当たる。
(被告らの主張)
ア「保つ」とは,「ある状態をそのまま続ける」という意味であり,原告
が認めるところによれば,「関係」とは「時間的関係」を指す。そうする
と,本件発明では,第1のコンテンツと第2のコンテンツは「時間的関5
係」を「そのまま続ける」ように配置されなければならないことが文言上
明らかである。
また,本件発明は,ネットワークにおける複数のコンテンツを配置する
ことに関するものであるところ,本件明細書の記載(段落【0005】,
【0037】~【0040】)を前提とすると,複数のコンテンツの時10
間的関係がバラバラである場合には,ネットワーク間の音楽又は動画の
ようなコンテンツの形成及び分配を与えるという本件発明の目的を達成
することができない。さらに,本件明細書の上記記載は,伝達遅延を正
確に判定することができなければ時間的関係の正確な保存が妨げられる
ことを問題としているから,本件発明は,時間的関係を正確に保存して15
配置することにより上記目的を達成するものと理解される。
したがって,構成要件Fの「前記関係を保って配置」とは,時間的関係
を正確に保存して配置することを意味する。
原告は,構成要件Fについて,操作者により決定されたコンテンツ間の
時間的関係が実質的に同一となる場合を含むと主張するが,時間的関係20
が維持されていることが必須の条件であることは明らかであり,原告の
主張は特許請求の範囲に記載された文言を無視するものである。
イ●(省略)●
NTPを利用してシステムの時刻を調整することや,●(省略)●は,
Googleサーバーによるコンテンツの送信タイミングの調整とは無25
関係である。
ウ原告は,被告らの主張が禁反言の原則に反し,権利濫用であるなどと主
張するが,被告らは被告製品では複数の仲間とセッションを共有するこ
とができないなどとは主張していないから,原告の主張は前提を欠く。
争点ア(補正要件及びサポート要件違反)について
(被告らの主張)5
ア原告が本件特許に係る拒絶理由通知書に対して提出した意見書によれば,
「操作者により決定された関係」は「操作者により調節された関係」と
は異なる意義を有するものと理解されるが,本件明細書には「操作者に
より決定された関係」についての記載が全くない。
したがって,本件補正は新たな技術的事項を導入するものであり,補正10
要件に違反する。
イ上記のとおり,本件明細書には「操作者により決定された関係」につい
ての記載が全くないから,本件発明は発明の詳細な説明に記載された発
明ではなく,サポート要件に違反する。
(原告の主張)15
ア本件明細書の段落【0006】~【0008】,【0034】,【00
40】,【0046】及び【0050】の各記載によれば,操作者が何
らかの動作をして第2のコンテンツの入力を行うことは明らかであり,
このような操作者の動作が「決定」に当たることは明らかであるから,
上記明細書の各記載は,「操作者により決定された関係」という文言を20
実質的に裏付けている。
したがって,「操作者により決定された関係」という文言は,本件明細
書の全ての記載を総合することにより導かれる技術的事項であり,本件
補正は補正要件に違反しない。
イ上記アで述べたところによれば,本件発明はサポート要件に違反しない。25
争点イ(乙4発明に基づく進歩性の欠如)について
(被告らの主張)
ア本件特許の優先日前に公開されていた乙4公報には,①端末機であって,
CRTディスプレイ,スピーカを含む出力デバイスと,マイク,操作部
を含む入力デバイスと,無線数信用の回線制御部と,端末機の動作を制
御する制御部と,②端末機の動作を制御するための,制御部で実行可能5
なプログラムを備え,当該プログラムは,CRTディスプレイにカラオ
ケのキャプション表示としての文字のキャラクタを表示し,③スピーカ
を通じ端末機の使用者に対して,交換局及びセンターからカラオケ演奏
を出力させ,④端末機の使用者から操作部及びマイクを介して,カラオ
ケ演奏と時間的に重なる音声(使用者の歌声)と,他の端末機の電話番10
号とを入力させ,⑤無線通信用の回線制御部を通じて,交換局及びセン
ターに対して,使用者の歌声及び他の端末機の電話番号を送信し,⑥交
換局及びセンターが,他の端末機において,カラオケ演奏と相手方の歌
声が出力されるように,カラオケ演奏及び端末機の使用者の歌声の情報
を当該他の端末機に送信させる,端末機という構成を有する乙4発明が15
開示されている。
イ本件発明と乙4発明は,以下の点において相違し,その余の構成は一致
する。
本件発明の構成が「ハンドヘルド装置」であるのに対し,乙4発明
は「端末機」である点。20
本件発明は「スイッチ配列を含む」入力デバイスを備えるのに対し,
乙4発明の操作部はスイッチ配列を含むか否かが不明である点。
ウ操作部を備えたハンドヘルド装置を利用してコンテンツを入出力する技
術は,本件特許の優先日当時の周知技術であり,上記について,乙4
発明の端末機をハンドヘルド装置にする程度のことは,当業者が適宜行25
う設計事項にすぎない。また,電子機器において,スイッチ配列を備え
る入力デバイスを設けることは本件特許の優先日当時の周知技術であり,
上記について,操作部の構成にスイッチ配列を含めるか否かは,当業
者が適宜行う設計事項にすぎない。
エしたがって,本件発明は,乙4発明及び周知技術に基づき当業者が容易
に想到できたものであり,進歩性を欠く。5
(原告の主張)
ア本件発明は,ある観点から見れば,「双方向動画像通信技術」の「会
議」の技術分類に属するといえるところ,この技術分類に属する技術は,
クライアント分散型とサーバー集中型とに分類される。
クライアント分散型は,クライアントにおいて画像等を合成することに10
よってサーバーの負担を減少させ,実時間での会話を実現しようとする
ものである。一方,サーバー集中型は,サーバーに高い処理速度が求め
られるものの,クライアントの処理を軽くし,特に据え置き型のコンピ
ュータと比較すれば処理能力の低い携帯端末であっても,クライアント
分散型と同様の効果を実現しようとするものである。15
イ乙4発明は,端末においてコンテンツを合成するものであり,クライア
ント分散型の技術分類に属するが,本件発明は,サーバーに高い処理速度
が求められる一方で,携帯端末でも実時間での会話等の音声や映像などの
コンテンツを無線ネットワーク又はインターネット上で形成分配すること
ができるようにしたものであり,サーバー集中型の技術分類に属する。20
このように,乙4発明と本件発明とは全く技術分類及びアイデアが異な
るから,乙4発明に基づく進歩性の欠如に関する被告の主張は失当であ
る。
争点ウ(乙10発明に基づく進歩性欠如)について
(被告らの主張)25
ア本件特許の優先日前に公開されていた乙10公報には,①携帯型電子楽
器であって,スピーカ,小型ディスプレイ,マイクロフォン,指操作式
制御スイッチ,ボタン,ダイヤル及びI/Rポートと,これらの動作を
制御する電子回路と,②電子回路で実行可能な制御ソフトウェアを備え,
制御ソフトウェアは,演奏者がパラメータを選択し及び/又はどのパラ
メータが設定されているかの情報を,前記小型ディスプレイを通じて表5
示させ,③一つ又は複数のスピーカを通じて演奏者へ,携帯型電子楽器
から空間的に離間したHumServerから与えられる伴奏を出力さ
せ,④伴奏の提示に同期して行った演奏を,マイクロフォンを通じて演
奏者から受け取らせ,さらに聴衆を識別するランクを演奏者から受け取
らせ,④´伴奏の提示に同期して行った演奏を,マイクロフォンを通じて10
演奏者から受け取らせ,さらに電子メールの受信先である友人の識別情
報を演奏者から受け取らせ,⑤携帯型電子楽器から空間的に離間したH
umServerに対して,演奏と聴衆を識別するランクの情報を送る,
⑤´携帯型電子楽器から空間的に離間したサーバに対して,演奏と友人の
識別情報を送る,⑥HumServerが,伴奏の提示に同期して行わ15
れた演奏を,適切に時間を合わせて伴奏に組み合わせ,完全に同期され
た伴奏及び演奏を,聴衆が受信するように構成されている,携帯型電子
楽器,⑥´サーバが,伴奏の提示と演奏が組み合わされた楽曲を,電子メ
ールとして友人が受信するように構成されている,携帯型電子楽器とい
う構成を有する乙10発明が開示されている。20
イ本件発明と乙10発明は,以下の3点において相違し,その余の構成は
一致する。
本件発明では「可視的ラスター・ディスプレイを含む少なくとも一
つの出力デバイス」を備えるが,乙10発明では出力デバイスとして備
える小型ディスプレイが可視的ラスター・ディスプレイかどうか不明で25
ある点。
本件発明は受信者の識別子を「前記入力デバイスを通じて操作者か
ら受け取らせ」るものであるのに対し,乙10発明では聴衆を識別する
ランク又は友人の識別情報を入力させる手段が明記されていない点。
本件発明は無線トランスミッタを通じて第2のコンテンツの表現と
受信者の識別子を送るものであるのに対し,乙10発明では送信する手5
段が明記されていない点。
ウ本件明細書には,可視的ラスター・ディスプレイに「LCDディスプ
レイ」が含まれることが記載されているところ,本件特許の優先日当時
において,ディスプレイとしてLCDディスプレイを用いることは周知
技術である。したがって,上記について,小型ディスプレイを可視的10
ラスター・ディスプレイとしての「LCDディスプレイ」とすることは,
周知技術に基づき当業者が適宜なし得る設計事項である。
乙10公報には,聴衆を識別するランクを選択することができること
や,指定された友人に対して演奏を電子メールで送ることができること
が開示されているから,聴衆を識別するランク及び友人の識別情報とし15
ての宛先を入力する手段としての入力デバイスが実質的に開示されてい
る。したがって,上記に係る相違点は,実質的な相違点ではない。
仮にこの点が相違点となるとしても,電子機器においてどのような手
段により情報を入力するかは,当業者が適宜なし得る設計事項にすぎな
い。20
乙10公報には,無線トランスミッタとしてのI/Rポートが開示さ
れており,演奏と聴衆を識別するランク又は友人の識別情報をI/Rポ
ートを通じて送信することが実質的に開示されているから,上記に係
る相違点は実質的な相違点ではない。
仮にこの点が相違点となるとしても,電子機器において赤外線通信に25
より情報を伝送することは,本件特許の優先日当時における周知技術で
ある。したがって,上記について無線トランスミッタを通じて第2の
コンテンツの表現と受信者の識別子を送るという構成は,周知技術に基
づき当業者が適宜なし得る設計事項である。
エ以上のとおり,本件発明は乙10発明及び周知技術に基づき当業者が容
易に想到できたものであり,進歩性を欠く。5
(原告の主張)
乙10発明は,前記において述べたクライアント分散型の技術分類に
属するものであるが,本件発明はサーバー集中型に技術分類に属するもので
ある。また,そもそも乙10発明においては,ネットワークへの拡張という
機能は任意であり,ネットワーク接続も有線ネットワークを前提としている10
ようみられるところ,本件発明では,ハンドヘルド装置が無線ネットワーク
に接続することは必須の事項であるから,この点においても乙10発明と本
件発明の技術的事項は大きく異なる。
したがって,乙10発明に基づく進歩性の欠如に関する被告らの主張は失
当である。15
争点(被告グーグルによる被告製品4~13の製造販売の有無)につい

(原告の主張)
被告グーグルは,被告製品4~13にハングアウトをプリインストールし
て販売している。20
(被告グーグルの主張)
被告グーグルは,ハングアウトをプリインストールした被告製品4~13
の製造販売を行っていない。
争点(原告の損失額)について
(原告の主張)25
被告製品1~3の売上額は合計で366億0550万9200円を下らず,
被告製品4~13の売上額は合計で2億9581万1500円を下らない。
そして,被告製品における本件特許の寄与率及び本件特許の実施料率はそれ
ぞれ5%を下らず,本件特許権に関する原告の持分は2分の1であるから,
被告サムスンは被告製品1~3の販売により4575万6886円の,被告
グーグルは被告製品4~13の販売により36万9763円を法律上の原因5
なく利得し,原告は同額の損失を被った。
(被告らの主張)
争う。
第3当裁判所の判断
1本件発明の意義10
本件明細書(甲2)には,以下の記載がある。
ア発明の分野
「本発明はコンピュータ及びネットワークを用いるメッセージの形成及
び分布に関し,更に詳しくは,モバイルテレホンなどの手持型装置を使
用する操作者により形成された聴覚的又は視覚的コンテンツを有するメ15
ッセージを操作者が分配することを可能にする方法及びシステムに関す
る。」(段落【0001】)
イ発明の背景
「専門的なソースにより記録又は分配される音楽及び動画はポップカル
チャーの重要な部分である。しかしながら,個人が自分自身の聴覚的又は20
視覚的コンテンツを形成し,それを友人らと共有する趣味が広がっている。
残念ながら,音楽及び動画のような聴覚的及び視覚的コンテンツの形成及
び分配には,小型でない即ちセルラーフォンのようには容易に持ち運べな
い装置の使用が要求される。セルラーフォンのようなモバイル装置を用い
て聴覚と視覚のうちの少なくとも一方又は双方を形成及び分配させる能力25
が要請される。」(段落【0004】)
ウ本発明の開示
「本発明の目的はモバイル装置を用いる音楽又は動画のようなコンテン
ツの形成及び分配を与えることである。」(段落【0005】)
「本発明の1つの観点によれば,操作者が指示及び第1のコンテンツの
表現の提示を受けるハンドヘルド装置を使用し,このハンドヘルド装置5
を介して少なくとも1つの受信者の識別と,操作者により制御された時
間的関係に従って第1のコンテンツの提示に時間的に重なる第2のコン
テンツとを与え,遠隔サーバーに対して第2のコンテンツの表現と受信
者の識別とを与え,遠隔サーバーに少なくとも1つの受信者へ時間的関
係に従って配置された第1のコンテンツと第2のコンテンツとを表すメ10
ッセージを送らせる。」(段落【0006】)
「本発明の他の観点によれば,システムは,ハンドヘルド装置を含み,
この装置は無線機と処理回路とを有し,その処理回路は,ハンドへルド
装置に操作者へ指示を表す出力と,第1のコンテンツの表現とを与えさ
せ,少なくとも1つの受信者の識別を表す入力と,操作者により制御さ15
れた時間的関係に従って第1のコンテンツの提示に時間的に重なる第2
のコンテンツとを操作者から受け取って,無線機を通じて第2のコンテ
ンツの表現と少なくとも1つの受信者の識別とを送り,第2のコンテン
ツの表現及び少なくとも1つの受信者の識別とを受信して保存するサー
バー・サブシステムを含み,少なくとも1つの受信者へ,時間的関係に20
従って配置された第1のコンテンツと第2のコンテンツとを表すメッセ
ージとを送る。」(段落【0007】)
「本発明の他の観点によれば,ハンドヘルド装置の操作者の制御の下に
生成されたハンドへルド装置のからの少なくとも1つの信号を受信する
サーバー・システムを備え,そのハンドヘルド装置は,第1のコンテン25
ツの識別子と,操作者により制御された時間的関係に従って第1のコン
テンツのハンドヘルド装置による提示に時間的に重なる第2のコンテン
ツと,少なくとも1つの受信者の識別とを搬送し,サーバー・システム
は,時間的関係を識別する情報を得て,少なくとも1つの受信者へ第1
のコンテンツと,時間的関係に従って配置された第2のコンテンツとを
表すメッセージを受信する。」(段落【0008】)5
エ本発明の実施形態
「A.概観
図1は,モバイル装置10の操作者がサーバー30と対話して,聴
覚的コンテンツと視覚的コンテンツとの少なくとも一方又はその両方に
ついてのオリジナルのコンテンツと予め存在するコンテンツとの組み合10
わせを有するメッセージを生成し,これらのメッセージの受信者42,
52,62のような少なくとも1つの受信者への分配を制御できるシス
テムの模式図である。」(段落【0010】)
「1.アプリケーション
本発明の2つのアプリケーションは本明細書においてはSongM15
ail及びMusicDIY(doityourself)と称する。SongMa
il及びMusicDIYは,装置10の操作者に,予め存在するコン
テンツ(例えばバックグラウンド・ミュージックや,操作者により与え
られた付加的なコンテンツなど)を含むメッセージの形成を可能とし,
次いでこのメッセージを受信者が聞くことが可能な形態で少なくとも120
つの受信者へ送信することを可能とさせる。SongMailアプリケ
ーションにおいては,操作者は音声発話などの聴覚的コンテンツを与え
る。MusicDIYアプリケーションにおいては,操作者は,装置1
0の少なくとも1つの入力デバイスを起動することにより音楽機器を再
生するのと同様な方式で聴覚的コンテンツを与える。」(段落【00125
2】)
「b)形成
ステップ114において,操作者はそのメッセージについての「バ
ックグラウンド・ミュージック(背景音楽)」を選択する。好適な実施
形態においては,操作者は,タイトル,アーティスト,音楽のタイプ,
または,この音楽により搬送されるメッセージ又は雰囲気によりバック5
グラウンド・ミュージックを選択することができる。また,このシステ
ムは,記憶デバイス33に記憶された操作者の嗜好に従ってフィルタリ
ングされて配置されたコンテンツ・データベースにおける幾つかのみを
操作者へ示すようにしてもよい。」(段落【0032】)
「用語「バックグラウンド・ミュージック」は,操作者により与えられ10
た「操作者コンテンツ」に対してシステムにより与えられた予め存在す
るコンテンツを指すものとして用いる。この予め存在するコンテンツは
バックグラウンド・ミュージックとする必要はないが,このような音楽
は人気のある選択となるであろう。1つの実施においては,サーバー3
0は,予め存在するコンテンツを記憶デバイス33上のデータベースに15
記憶させ,操作者が選択したコンテンツを装置10へ送信する。他の実
施においては,予め存在するコンテンツは,例えば取り外し式ソリッド
ステート・メモリ・デバイスにより装置10に記憶される。」(段落
【0033】)
「ステップ115において,システムは,選択されたバックグラウン20
ド・ミュージックの演奏を聴覚出力トランスデューサ23を通じて提示
し,操作者から聴覚入力トランスデューサ22を通じて操作者コンテン
ツを受け取る。ステップ116は操作者がバックグラウンド・ミュージ
ックを聞きながら,例えば歌うことを可能とする。これは操作者に,操
作者コンテンツをバックグラウンド・ミュージックの提示に時間的に重25
畳させ,この重畳の時間的関係を制御させることを可能にする。」(段
落【0034】)
「好ましくはサーバー30は記憶デバイス30に,操作者コンテンツを
含むが,操作者により選択されたバックグラウンド・ミュージックを含
まないメッセージの表現を記憶する。サーバー30は,選択されたバッ
クグラウンド・ミュージックの識別と,これら2つのコンテンツの間の5
時間的関係の指標とのみを記憶する。バックグラウンド・ミュージック
それ自身は,他の場合にはコンテンツ・データベースに記憶される。メ
ッセージは受信先へ或いは操作者へ校閲するために送信され,バックグ
ラウンド・ミュージックと操作者コンテンツとの表現は,これら操作者
コンテンツが与えられたときに操作者により観察された2つのコンテン10
ツの間の時間的関係を実質的に保存する方式で組み合わせられる。」
(段落【0036】)
「c)聞く
ステップ124において,操作者は既に形成されたメッセージを校
閲の為に選択する。ステップ125においては,装置10は,操作者コ15
ンテンツと,そのメッセージについて選択されたバックグラウンド・ミ
ュージックとの表現を提示する。その提示は,操作者コンテンツが初め
に与えられたときに操作者により観察された時間的関係を実質的に保存
する方式で,操作者コンテンツの表現とバックグラウンド・ミュージッ
クの表現とを重ね合わせる。この提示は,ステップ126が,提示が終20
了したか,或いは例えばボタンを押すことにより操作者が提示の終了を
要請したかを判断するまで継続する。この処理はステップ103へ続
く。」(段落【0041】)
「使用された伝達方式に拘わらず,受信先がメッセージの聴覚的コンテ
ンツを最終的に受信するとき,メッセージ・コンテンツの提示は,操作25
者コンテンツが最初に与えられたときに操作者により観察された時間的
関係を実質的に保持する方式で,選択されたバックグラウンド・ミュー
ジックの表現を有する操作者コンテンツの表現を含む。」(段落【00
46】)
本件発明の意義
個人が自分自身の聴覚的又は視覚的コンテンツを形成し,これを友人らと5
共有する趣味が広がっているが,従来技術では,音楽及び動画のような聴覚
的及び視覚的コンテンツの形成及び分配には,容易に持ち運べない装置の使
用が要求されるという課題があった(発明の背景,段落【0004】)。本
件発明は,モバイル装置を用いた音楽又は動画等のコンテンツの形成及び分
配を目的としたものであり(本発明の開示,段落【0005】),ハンドヘ10
ルド装置を使用し,遠隔サーバーを介して操作者が複数のコンテンツを組み
合わせて形成した音楽等のコンテンツを受信者に受信させることを可能とす
るものである。
本件発明において,操作者は,手持型装置であるハンドヘルド装置の出力
デバイスを通じて遠隔サーバー又は取り外し可能なメモリ・デバイスから与15
えられる第1のコンテンツの提示を受け,同装置の入力デバイスを通じて,
操作者により決定された関係に従って上記第1のコンテンツの提示に時間的
に重なる第2のコンテンツと,少なくとも単独の受信者の識別子をハンドヘ
ルド装置のプログラムに与える。ハンドヘルド装置のプログラムは,操作者
から受け取った上記第2のコンテンツの表現と受信者の識別子を遠隔サーバ20
ーに送り,遠隔サーバーに,前記操作者により決定された関係を保って配置
された第1のコンテンツ及び第2のコンテンツを表す更なる表現を上記受信
者が受信するように送信させる。
本件発明は,上記のような構成を採用することによって,ハンドヘルド装
置の操作者において,ハンドヘルド装置の操作によって,ハンドヘルド装置25
に第1のコンテンツの提示を受け,第1のコンテンツに時間的に重なる第2
のコンテンツを作成,決定するなどし,操作者が決定した関係に従って配置
された第1のコンテンツと第2のコンテンツを表す更なる表現を,遠隔サー
バーから受信者に送信させることにより,更なる表現を受信者に対して分配
することができるという作用効果を奏するものである。
本件発明の実施形態の例においては,予め存在し,システムにより与えら5
れたコンテンツである第1のコンテンツとして「バックグラウンド・ミュー
ジック(背景音楽)」が挙げられ(段落【0032】,【0033】),操
作者がシステムにより提示されたバックグラウンド・ミュージックを聴きな
がら,例えば歌うことによって,操作者が,操作者コンテンツである第2の
コンテンツを第1のコンテンツであるバックグラウンド・ミュージックに時10
間的に重畳させること(段落【0034】),時間的に重畳させた後に,そ
のメッセージを校閲したり,削除したり,送信を選択したりすることができ
ること(段落【0041】~【0043】),遠隔サーバーは,選択された
第1のコンテンツの識別と,第1のコンテンツと第2のコンテンツの間の時
間的関係の指標を記憶するが,好ましくは,第1のコンテンツの表現を記憶15
しないこと(段落【0036】)が記載されている。

F)の充足性)について
本件発明の特許請求の範囲の記載によれば,「更なる表現」とは,「前記20
操作者により決定された前記関係を保って配置される第1のコンテンツ及び
第2のコンテンツを表す」ものであるところ,「保つ」とは一般に「同じ状
態でつづける」「維持する」という意味を有し,「配置」とは一般に「それ
ぞれの位置に割り当てること」という意味を有する。
構成要件Fにおける「操作者により決定された前記関係」が構成要件Dに25
おける「操作者により決定された関係」を指すことは特許請求の範囲の記載
からして明らかであるところ,構成要件Dでは「操作者により決定された関
係に従って第1のコンテンツに時間的に重なる第2のコンテンツ」とされて
おり,「関係」が第1のコンテンツと第2のコンテンツに関する「関係」を
指すことは明らかであり,また,その関係が第1のコンテンツと第2のコン
テンツの時間的な重なりについての関係を示すことが記載されているといえ5
る。本件明細書(甲2)を見ると,第1のコンテンツと第2のコンテンツの
関係に関し,「操作者により制御された時間的関係」,「時間的関係に従っ
て配置された第1のコンテンツと第2のコンテンツ」(本発明の開示,段落
【0006】~【0008】),「操作者コンテンツをバックグラウンド・
ミュージックの提示に時間的に重畳させ,この重畳の時間的関係を制御させ10
ることを可能にする」,(本発明の実施形態,段落【0034】)などの記
載があり,操作者がバックグラウンド・ミュージック(第1のコンテンツ)
を聞きながら歌うことは,操作者コンテンツ(第2のコンテンツ)をバック
グラウンド・ミュージック(第1のコンテンツ)の提示に時間的に重畳させ,
この重畳の時間的関係を制御させるものであるという趣旨の記載がある(段15
落【0034】)。これらによれば,構成要件Dの「関係」とは,第1のコ
ンテンツと第2のコンテンツの時間的な重なりに関する関係,すなわち,操
作者に提示された第1のコンテンツのうち,時間的にどの部分において第2
のコンテンツが重なるかについての関係(以下「重畳についての時間的関
係」ということがある。)を意味するものと解される。20
そして,「操作者により決定された前記関係」の上記意義を踏まえると,
「更なる表現」とは,操作者に提示された第1のコンテンツに対して操作者
が決定した重畳についての時間的関係を維持して第2のコンテンツが割り当
てられて形成された新たな表現であり,第1のコンテンツ及び第2のコンテ
ンツの表現により構成されるものをいうと解される。25
本件発明の特許請求の範囲には「遠隔サーバーが・・・更なる表現を送
信させるように構成されているハンドヘルド装置」と記載されているため,
構成要件Fは,ハンドヘルド装置において「遠隔サーバーが・・・更なる
表現を送信させる」構成を備えていることを要するものといえる。また,
「させる」とは一般に「するようにしむける」という使役の意味を有する
用語であるから(広辞苑第六版),「遠隔サーバーが・・・更なる表現を5
送信させる」とは,ハンドヘルド装置が遠隔サーバーに対して「更なる表
現」を送信するように働きかけることを意味するものと解される。
た第1のコンテンツに対して操作者が決定した重畳についての時間的関
係を維持して第2のコンテンツが割り当てられて形成された新たな表現10
であり,第1のコンテンツ及び第2のコンテンツの表現により構成され
るものであることに照らせば,本件発明において,第1のコンテンツは,
「更なる表現」を形成するために操作者に対して提示され,操作者によ
り第2のコンテンツとの重畳についての時間的関係が決定されて「更な
る表現」を形成するものであり,「更なる表現」を構成する要素として,15
操作者のハンドヘルド装置からの働きかけによって遠隔サーバーから送
信されるものである。そして,ハンドヘルド装置からの働きかけにより
遠隔サーバーが「更なる表現」を送信するというのは,第2のコンテン
ツだけでなく「更なる表現」を構成する第1のコンテンツが,操作者に
より決定された重畳についての時間的関係を保った状態で,操作者のハ20
ンドヘルド装置からの働きかけによって,受信者に対して送信されるこ
とをいうものであると認めることができる。
なお,本件明細書には,「更なる表現」を構成する第1のコンテンツの
保存先に関する記載があり,遠隔サーバーが「更なる表現」を送信する
に当たっては,必ずしも第1のコンテンツ及び第2のコンテンツの両方25
を遠隔サーバー上に保存するとは限らず,遠隔サーバーが,他のコンテ
ンツ・データベース上に保存されている第1のコンテンツと,遠隔サー
バー上の記憶デバイスに保存されている第2のコンテンツのそれぞれを
「操作者が決定した関係」を保って送信することにより「更なる表現」
を送信することも本件発明に含まれるものと解される(段落【003
3】,【0036】)。しかし,このように第1のコンテンツ自体が遠5
隔サーバー以外のデータベース上に保存されている場合であっても,
「更なる表現」がハンドヘルド装置からの働きかけによって送信される
ものである以上,第1のコンテンツは「更なる表現」を構成する要素と
して,操作者のハンドヘルド装置からの働きかけによって送信されるも
のであり,「更なる表現」が送信されるというのは,「更なる表現」を10
構成する第1のコンテンツ及び第2のコンテンツが,操作者により決定
された重畳についての時間的関係を保った状態で,いずれも操作者のハ
ンドヘルド装置からの働きかけによって,受信者に対して送信されるこ
とをいうと認められる。
イ「更なる表現」の送信と第1のコンテンツの関係やハンドヘルド装置か15
らの働きかけの点について,本件明細書の記載をみても,本件明細書には,
第1のコンテンツ及び第2のコンテンツは「更なる表現」である「メッセ
ージ」として受信者に送信されると記載されていて(段落【0007】,
【0035】,【0036】,【0043】【0046】,【006
5】),「更なる表現」を構成する第1のコンテンツ及び第2のコンテン20
ツが操作者の働きかけに基づき送信されると解するのが自然なものである
一方,第1のコンテンツが本件発明のハンドヘルド装置以外の構成又は装
置からの働きかけにより個別に受信者に対して送信されることをうかがわ
せる記載は一切ない。
また,本件明細書における本件発明の実施形態をみると,操作者が第125
のコンテンツの提示を受け(ステップ115),第2のコンテンツを時
間的に重畳させた(ステップ116)後,操作者が形成したばかりのコ
ンテンツを送信することを可能にするステップに続けてよいとの記載
(段落【0035】)はあるが,そこに「更なる表現」を構成する第1
のコンテンツが本件発明のハンドヘルド装置以外の構成又は装置からの
働きかけにより個別に受信者に対して送信されることをうかがわせる記5
載はない。したがって,上記記載は,「更なる表現」が形成された後,
操作者が第1のコンテンツ及び第2のコンテンツを構成要素とする「更
なる表現」をすぐに遠隔サーバーから送信させるという構成を採用する
こともできることをいうものであると認められる。他方,操作者が第2
のコンテンツを第1のコンテンツに時間的に重畳させて(ステップ1110
6)コンテンツが形成された後,操作者は,重畳についての時間的関係
を保持した第1のコンテンツと第2のコンテンツの提示を受け,校閲を
したり(ステップ124,125),既に形成されたメッセージを削除
したりすることもでき(ステップ134,135),また,上記校閲や
削除とは別に送信を選択することができることが記載されている(段落15
【0041】~【0043】)。これらの実施形態においては,操作者
が「更なる表現」の送信を選択し,ハンドヘルド装置からの働きかけに
より遠隔サーバーにより「更なる表現」が送信されるまでは第2のコン
テンツだけでなく第1のコンテンツも送信されず,「更なる表現」を構
成する第1のコンテンツ及び第2のコンテンツが,いずれもハンドヘル20
ド装置からの働きかけにより遠隔サーバーから送信されるものであるこ
とを当然の前提としている。
上記で説示したところによれば,本件発明において,第1のコンテンツは,
「更なる表現」を形成するために操作者に対して提示され,操作者により第
2のコンテンツとの重畳についての時間的関係が決定されて「更なる表現」25
を形成するものであり,「更なる表現」を構成する要素として,操作者のハ
ンドヘルド装置からの働きかけによって遠隔サーバーから送信されるもので
ある。また,本件発明の「遠隔サーバーが・・・更なる表現を送信させる」
とは,操作者が決定した重畳の時間的関係を維持して第1のコンテンツ及び
第2のコンテンツを割り当てることにより形成される新たな表現である「更
なる表現」を受信者が受信するように,操作者のハンドヘルド装置からの働5
きかけにより,遠隔サーバーに「更なる表現」を構成する第1のコンテンツ
及び第2のコンテンツを送信させることを意味すると解される。
アハングアウトは,最大10人との間でビデオ通話を行うことができるプ
ログラムであり,2名以上の者が参加する
ことによりビデオ通話が可能となるものであるところ,ハングアウトの10
参加者は,ハングアウトを通じて他の参加者が入力した画像や音声等
(以下「コンテンツ」という。)を視聴することができ,また,自らも
コンテンツを入力することができる。ハングアウトにおいては,各参加
者が入力したコンテンツは,Googleサーバーを通じて他の参加者
に送信されており(同ウ),操作者のほかに2名の参加者(以下,そ15
れぞれ「第1の参加者」及び「第2の参加者」という。)がハングアウ
トに参加している場合を想定すると,第1の参加者が入力したコンテン
ツは操作者及び第2の参加者にそれぞれ送信され,操作者が入力したコ
ンテンツは第1の参加者及び第2の参加者にそれぞれ送信される。そし
て,操作者が第1の参加者によるコンテンツの入力に時間的に重ねた状20
態でコンテンツを入力した場合には,第1の参加者が入力したコンテン
ツと操作者が入力したコンテンツが時間的にも重なった状態で例えば第
2の参加者(受信者)に送信されることとなる。
しかし,ハングアウトがビデオ通話を目的とするプログラムであること
に照らせば,ハングアウトにおいては,第1の参加者が入力したコンテン25
ツは,操作者からのコンテンツの入力の有無にかかわらず,Google
サーバーを通じて第2の参加者に対して送信されるものであることは明ら
かである。そうすると,ハングアウトにおける操作者に対するコンテンツ
の提示は,「更なる表現」を形成して受信者に送信することを目的とする
ものではなく,また,操作者が使用するハンドヘルド装置がGoogle
サーバーに対して働きかけているのは,操作者が入力したコンテンツの送5
信のみであり,第1の参加者が入力したコンテンツは,当該参加者が用い
ているハンドヘルド装置からの働きかけによりGoogleサーバーが送
信するものであると認められる。そうすると,「更なる表現」は,第1の
コンテンツと第2のコンテンツによって構成されるものであるところ,操
作者が使用するハンドヘルド装置が働きかけているのは,上記のとおり,10
操作者が入力した第2のコンテンツの送信のみであるから,同ハンドヘル
ド装置は「更なる表現」の送信を働きかけているとはいえない。
イ以上によれば,ハングアウトを行う際の被告製品の構成においては,ハ
ンドヘルド装置である操作者の被告製品が第1のコンテンツの送信につい
てGoogleサーバーに働きかけを行っているとは認められず,受信者15
に「更なる表現」を送信させているとはいえないため,「遠隔サーバー
が・・・更なる表現を送信させる」という構成を満たさない。
ウ原告は,被告製品では,操作者が第1のコンテンツの「表現の提示に時
間的に重なる」ように第2のコンテンツを入力すると,第1のコンテンツ
及び第2のコンテンツがGoogleサーバーに伝達され,Google20
サーバー内で第1のコンテンツと第2のコンテンツが重ね合わされ又は組
み合わされて配置される「更なる表現」を構成し,Googleサーバー
が当該「更なる表現」を受信者に送信すると主張するが,上記に照らし,
採用することができない。
したがって,被告製品は構成要件Fを充足しない。25
3以上によれば,その余の点を判断するまでもなく,原告の請求はいずれも理
由がない。
東京地方裁判所民事第46部
裁判長裁判官柴田義明
裁判官林雅子
裁判官大下良仁
別紙
被告製品目録
1GalaxyS4(SC-04E)
2GalaxyS5SC-04F(ドコモ)
3GalaxyS5SCL23(KDDI)
4Nexus7(2013)ME571-16G
5Nexus7(2013)ME571-32G(ブラック,ホワイト)
6Nexus7(2013)ME571-LTE
7Nexus5(LG-D821)16GB
8Nexus5(LG-D821)32GB
9Nexus916GB(黒)(99HZF035-00)
10Nexus916GB(白)(99HZF034-00)
11Nexus932GB(黒)(99HZF051-00)
12Nexus932GB(白)(99HZF050-00)
13Nexus932GB(黒)LTE(99HZJ004-00)

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