弁護士法人ITJ法律事務所

裁判例


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         主    文
     本件上告を棄却する。
         理    由
 本件上告の趣意は弁護人谷忠治の提出した上告趣意書における記載を引用する。
之に対する当裁判所の判断は次の通りである。
 論旨第一点について
 按ずるに譲渡とは当事者の意思による各種の権利の移転を包括総称する概念であ
つて社会生活上具体的には贈与、売買、交換等の諸形態を探るものであるところ原
判決の挙示する各証拠によれば所説のような事実の認められることは明かなところ
である。然れども原判決が所論の本件米の返還を食糧管理法第九条同法施行規則第
二十二条の二所定の譲渡の一形態なりと認定判示したことはその判文自体に徴し明
らかに認められ又事実審としてはそれ以上右返還が所謂譲渡であることを特に説示
せねばならぬこともないので原判決には所説のように漫然証拠にそわない譲渡の事
実を認定した違法、証拠によらないで事実を認定した違法若くは理由にくいちがい
のある違法もなく、又審理不尽の廉も認められないので論旨は之を採用しない。
 論旨第二点について
 原判決が右に説明したように消費貸借における目的物の返還も食糧管理法第九条
同法施行規則第二十二条の<要旨>二所定の譲渡にあたるものと断じたことは明らか
なところである。而して貸借の中には消費貸借、使用貸借、賃貸借の区別が
あり、後の二者については消費貸借におけると異りその間その目的物の所有権の移
転を伴わないので単に貸借というだけでは之を所説のように一率に譲渡の観念の中
に包攝させることは誤りであるといわなければならないけれども消費貸借は借主が
貸主から一定の金銭その他の代替物を受取り之と同種、同等、同量の物を返還する
ことを約するによつて成立する契約(民法第五百八十七条)であり、その目的物の
所有権が貸主から借主に移転し、その返還にあたつてはその目的物の所有権が借主
から貸主に移転することが明らかであるので、此の返還を右のように譲渡であると
断じた原判決の解釈は正当でありこの間所説のように法令の解釈を誤つた違法の廉
は認められないので論旨は之を採用しない。
 論旨第三点について
 食糧管理法が主要食糧の供出完納前の譲渡を禁じた所以が所説のような理由にあ
ることは明らかなところである。しかしながら所謂結果犯でない犯罪については一
定の行為が結果から見て偶々右取締法規の所期するところに現実に抵触しなかつた
ということとその行為が右法規の規定する犯罪構成要件に該当することとは之を所
説のように混同して解釈することは誤りといわなければならない。即ち右構成要件
該当の行為は何れもその所期する法秩序を紊乱する危険性を持つ行為として取締の
対象たるものであつて、所説は要するに本件譲渡行為が所謂危険犯たること無視す
るものであり、誤つた見解といわなければならないので論旨は之を採用したい。
 論旨第四点について
 原判決の解釈に従えば消費貸借における貸与も亦食糧管理法第九条同法施行規則
第二十二条の二所定の譲渡となることはまことに所論の通りであり、且つその解釈
の正当であることも亦既になされた説示に徴して明らかである。而して消費貸借に
おける借りること自体は所説のように違反にならないものとしてもその供出前の返
還が右の譲渡にあたることは明らかである。蓋し一般的に借りたものを返えすこと
は社会生活上当然の行為には相違ないが、その具体的の返還が犯罪となる場合にも
強行せらるべきものでないことは常識からも明かなことであり、貸主側においても
場合によつてはその返還が法の保護を受けなくなるかも知れぬことは十分予知して
いる筈のもので所論は所謂過失ある法の不知に外ならず、従つて原判決には所説の
ように罪とならない事実を処罰した違法の廉を認めることができないので論旨は之
を採用しない。
 論旨第五点について
 保有米のない農家に対して主食の貸与が禁ぜられ且その配給もないならばその農
家は所説のように飢餓に瀕しなければならないけれども保有米のない農家に対して
は主食の配給の行われることは明らかなところであり、又被告人の部落において事
実上保有米が端境期に至つて欠乏するものは二、三の小農に限られしかもそれも少
量に止ることは原審における証人Aの供述によつて明らかなところであり、且つ同
証言によれば少量の稻の早刈によつてその端境期を切抜けることが出来るものと認
められ又二、三小農の少量の早刈のために米の供出にさして影響のないことは右説
示に徴して明らかなところであるばかりでなく、かかる事態は供出量の割当におい
て十分調節の操作ができる余地があるので所説の貸借の慣習は論旨第三点に対して
なした判断に徴し未だ必しも所説のような善隣共助のほむべき風習であるものとは
認めることはできなく、(尤も現在の差し迫つた飢餓についてその当座の必要量を
融通するような場合は格別であつて本件においてはその貸与量から見て右のような
場合でないことは容易に推察できるのみならず、特に必要ある場合は食糧管理法施
行規則第二十二条の二によつて地方長官の許可を得てこれをなし得べきことが認め
られている。)却つて食糧管理法の所期する法秩序を乱す虞のある危険な俗習とし
て否定せられなけばならないものと認められ、従つてかかる誤つたしきたりに従つ
てなされた本件譲渡の所為が反社会性を有し、食糧管理法違反罪を構成することは
明らかで、原判決には罪とならない事実を処罰した違法の廉はないので論旨は之を
採用しない。
 論旨第六点について
 被告人が原審において所説のように本件所為はその地方における風習に従つてな
された当然のことに属し何等犯罪を構成しない旨主張したこと及び原判決が被告人
の右主張に対して何等の判断をも示さなかつたことは記録上明らかなところであ
る。しかれども右風習は論旨第五点に対する判断における説示に徴し明らかなよう
に適法なものではなく、却つて違法な否定せられるべきものであつてかかる風習の
故をもつて所説のように被告人の本件所為に違法性、反社会性を欠きその犯罪の成
立を阻却すべきものとは認めることができないので、被告人の右主張を旧刑事訴訟
第三百六十条第二項に所謂犯罪の成立を阻却すべき原由たる事実上の主張と認める
ことができなく、従つて原判決が右主張に対して判断を示さなかつたことを捉えて
所説のようにとがめることはできないので論旨は之を探用しない。
 論旨第七点について案ずるに
 本件公訴事実の中食糧管理法第三条第一項違反の点は原審において無罪の言渡が
なされ該裁判の確定したことは記録上明らかである。しかるに本件公訴事実中には
原審において有罪の言渡をなした食糧管理法第九条違反の事実を含み以上両者につ
き本件公訴の提起せられたことは記録上明らかであつて、その公訴の提起がその前
者に重点をおいてなされた事実も所説のように推測しえられないこともないけれど
も、その点の無罪の故をもつて直ちに所説のように後者に対する公訴の提起が誤つ
ているものとは断ずることはできなく、仮りにその公訴の提起が結果からみて若干
批判の余地を存するものとするも一旦公訴の提起のあつた事実については裁判所は
その審判をなすの外なく所説のようにその公訴の提起の妥当なりや否やによつて或
は之を認容し或は之を認容すべからざるものとなすことはできなく、ただ所説のよ
うな事情は犯情としてその量刑の上に斟酌を加えることができるのに過ぎないもの
というべく、従つて原判決には所説のように憲法の精神に反した違法の廉を認める
ことができないので論旨は之を採用しない。
 よつて本件上告はその理由がないので刑事訴訟法施行法第二条旧刑事訴訟法第四
百四十六条によつて之を棄却すべきものとして主文のように判決する。
 (裁判長判事 山田市平 判事 茶谷勇吉 判事 小沢三朗)

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