弁護士法人ITJ法律事務所

裁判例


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         主    文
     原判決を破棄する。
     被告人を禁鋼四月に処する。
     ただし、本裁判確定の日から四年間右刑の執行を猶予する。
         理    由
 本件控訴の趣意については、弁護人横山勝彦、同牛島定が差し出した各控訴趣意
書の記載を引用する。
 弁護人横山勝彦の論旨第一点について
 所論は、原判決事実に対しては公職選挙法二三七条一項が適用せられるべきはず
であるのに、原判決が同条<要旨第一>二項を適用したのは、判決に影響を及ぼすこ
とが明らかな法令適用の誤を犯したものであると主張する。しかし、原
判示によれば、要するに被告人はAほか十名に対し、いずれも不在の選挙人である
Bほか十名の投票所入場券を交付し、同人らの氏名を詐称していわゆる替玉投票を
なすべき旨を教唆し、前記Aらは右教唆に基きそのとおり投票をしたというのであ
るから、右Aほか十名の行為は、公職選挙法二三七条一項に定めるような単に選挙
権がないのに投票をしたというにとどまらず、同条二項の氏名を詐称しその他詐偽
の方法をもつて投票した場合に該当することが明らかである。したがつて右行為を
教唆した被告人に対し公職選挙法二三七条二項刑法六一条一項を適用した原判決に
は何ら所論の違法はない。
 同第二点について
 所論は、本件不在者の投票所入場券なるものは入場券として無効であり、かよう
な無効な投票所入場券を使<要旨第二>用して投票した場合には公職選挙法二三七条
二項の適用はないと主張する。しかし、氏名を詐称しその他詐偽の方法
をもつて現に投票を完了した以上同条項違反の罪は成立するのであつて、右投票の
手段として使用した投票所入場券の効力の有無は当該犯罪の成否に何ら関係を有し
ないことはいうまでもない。論旨は全く理由がない。
 同第三点について
 所論は、被告人は、(1)C組千葉出張所労務係として飯場労務者の異動に伴う
選挙人名簿補充申告事務の担当者であつた、こと、(2)右出張所長Dから労務者
の投票についてとくに指示依頼を受けていたこと、(3)被告人が病気のため選挙
人名簿補充申告期日を一日経過したため申告に間に合わなかつたことの各事情から
すると、何人も被告人と同じ立場に置かれたならば、被告人と同様に不在者の投票
所入場券を流用せざるを得なかつたものということがてきる。すなわち被告人に本
件行為に出ないことを期待することは不可能といわなければならない。したがつて
被告人は無罪とせらるべきにかかわらず、これを有罪とした原判決は法令の解釈適
用を誤つたものであると主張する。しかし、所論の事情の下においていわゆる期待
可能性がないと言えないことはまことに明白で、多くこれを論ずる必要を見ない。
所論は理由がない。
 同第四点について
 所論は、本件において、被告人は、同一日時に同一場所において十一枚の投票所
入場券を交付したのであつて、十一回犯行を反覆しようとする意思はない、被教唆
者の投票行為が十一人によつて別々に行われたとは言え、教唆者の意思は一括して
入場券を交付した点において一個である、のみならず公職選挙法二三七条二項の規
定する法益は選挙の公正という一個のものである、にかかわらず、原判決か教唆者
たる被告人に対し投票者の数に応じ十一個の犯罪が別々に成立するものとしこれを
併合罪として処断したのは、法令の解釈適用を誤つ<要旨第三>たもので失当である
と主張する。しかし、なるほど、原判示によれば、本件において被告人が十一名の
者に十一枚の投票所入場券を交付して各詐欺投票を教唆した日時と場所
は同一であるけれども、それから当然に右教唆行為が一個であつたと認めなければ
ならないものではなく、記録と対照すれば、原判示の趣意は、被告人がたまたま時
と場所を同じうして十一名の者に順次各別に同様の詐欺投票を教唆したと認めたも
のであると解するのが相当であるし、また選挙法違反の罪はすべて究極において選
挙の公正という一の法益の侵害に連るとしても、その侵害の態様ないし対象の異る
によりおのずからその罪も相違するものといわなければならないから、同一人が数
個の詐欺投票の罪を教唆した場合にあつても、個々の投票ごとに各別に独立して犯
罪が成立し、包括して一個の犯罪となるものではないと解すべきである。したがつ
て原判決が本件十一個の詐欺投票の教唆を併合罪として処断したのは正当であつ
て、論旨は理由がない。
 (その他の判決理由は省略する。)
 (裁判長判事 兼平慶之助 判事 足立進 判事 関谷六郎)

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