弁護士法人ITJ法律事務所

裁判例


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         主    文
     本件控訴を棄却する。
         理    由
 弁護人江口三五の控訴趣意は末尾添付の控訴趣意書と題する書面記載の通りであ
る。よつて次の通り判断する。
 論旨は原判決は罪とならない事実を有罪と認定した違法があると断じ論点を分け
てその事由を述べるものである。
 そのAについて。
 <要旨第一>所論は本件の記事並に絵画は刑法に所謂猥褻と認定さるべき程度のも
のではないと主張する。按ずるに性慾が生物の本能であつてその性的生
活が生存の根本条件であることは所論の通りであるが、人間日常生活において性行
為が公然と表現され又は描写されることは通常人が羞恥嫌悪するところであり、こ
れまた人間本然の良俗であつて如何なる時代においても変りはない。さればその記
事、絵が性行為を露骨に表現描写したものであつて一般大衆をして羞恥嫌忌の情を
起させるものであるときは即ち猥褻文書図画というべきである。尤もそれが<要旨第
二>芸術的作品として羞恥嫌悪の情が緩和され或は消失される場合あることは首肯し
得るけれども、具体的場合において芸術的作品であるか否かの判定はこ
れをみる人の教養程度、主観によつて違うのであるから芸術的価値の有無は猥褻文
書図画であるか否かを決める表準とはならないものと解される。蓋し刑法上の猥褻
文書図画とは、その時代の一般社会大衆の教養の水準を洞察しその文書図画が頒布
販売又は公然陳列された場合、これらの人々をして性生活に対する正しい認識を誤
らせ引いては善良な風俗(性行為を公然表現することを羞恥嫌悪する人間本然の
姿)を破壊するに到る虞れあるものをいうと解すべきである。いま本件の雑誌につ
いてみるにその掲載された原判示の記事並に絵は現代一般社会大衆の性慾を刺戟し
性生活に対する正しい認識を誤らせるものであつて、羞恥嫌悪の情を起させるに過
ぎないものである。されば原判決がこれを刑法第百七十五条に該当する猥褻記事絵
画と認定したのは正当であつてその判断を誤つたものではない。また所論は被告人
は本件の如き軟派雑誌の発行によつて反共産思想の昂揚を意図したものであるとい
うのであるが、その根拠を理解し難い。また本件雑誌は量の点から観察して善良の
風俗を害する程度に到つていないと主張するけれども、これが発行されたのは一万
五千二百部であり岐阜市甲書房外三名に販売されたことが原判決挙示の証挙によつ
て明白であるのであるから所論の主張は到底肯定し得ないものである。よつて論旨
は理由がない。
 そのBについて。
 所論は本件雑誌の記事、絵について被告人において猥褻の認識がなかつたと主張
するのである。しかしながら本件犯罪の成立には被告人が原判示の如き記事並に絵
を掲載したことについて認識を有すれば足りるのであつて、それが猥褻であるとの
認識までも必要とするものではないと解すべきであるから論旨は理由がない。
 そのCについて。
 所論は、要するに「エロ雑誌」の存在は善良な風俗を助長するワクチン的作用を
為すものであるから、本件の如き雑誌の存在もまた許さるべきであるという趣旨で
あるが、いまだ皮相の見解というべく到底採用するに由ないものである。
 右の通り論旨は何れも理由がないから刑事訴訟法第三百九十六条に則り主文の通
り判決する。
 (裁判長判事 杉浦重次 判事 若山資雄 判事 石塚誠一)

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