弁護士法人ITJ法律事務所

裁判例


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         主    文
     本件上告を棄却する。
     上告費用は上告人の負担とする。
         理    由
 上告代理人荻野弘明の上告理由第一点について。
 論旨は、要するに、原判決が、朝鮮民主主義人民共和国の法令上の根拠を審究す
ることなく、たやすく、上告人の母Dが日本国との平和条約の発効により朝鮮の国
籍を取得したと判断したことに審理不尽、理由不備の違法がある、と主張する。
 原判決の確定した事実によれば、上告人は、本籍を朝鮮黄海道信川郡ab番地と
して朝鮮戸籍に登載されていたEを父とし、同Dを母として、昭和二九年一〇月一
日日本国において出生したものであるが、その後右Eを被告とする親子関係不存在
確認の訴を提起し、昭和三三年三月一八日勝訴の判決を受け、該判決は上訴なくし
て確定した、というのである。そして、朝鮮戸籍令の適用を受けて朝鮮戸籍に登載
されていたものは、日本国との平和条約二条(a)項の規定により、集団的かつ当
然に、日本の国籍を離脱すること、当裁判所昭和三六年四月五日大法廷判決(民集
一五巻四号六五七頁)の示すところである。かように領土の割譲、併合、復帰等国
際法上のいわゆる領土変更に伴なう国籍の変動にあたつては、当該領土に属すべき
ものは、旧国籍を離脱するにとどまらず、その変動が主権の移転によるものである
から、当事国ないし相手国の国内法の規定の如何を問わず、旧国籍の離脱と同時に
新国籍を取得するものといわなければならない。
 それ故、原判決が、上告人の母Dの朝鮮国籍の取得につき朝鮮の国内法上の根拠
を挙示しなかつたのは、むしろ、当然であり、これをもつて所論の違法あるものと
はなし得ない。されば、論旨は、理由がない。
 同第二点について。
 論旨は、原判決が上告人の母Dの意思に反して同人の日本国籍の離脱を認めたこ
とが憲法二二条二項に違反する、と主張する。
 しかし、右Dの日本国籍離脱が日本国との平和条約の規定に基づくものであるこ
とは、上告理由第一点において説示したところであり、同条約の規定に基づく日本
国籍の離脱が本人の意思に反するものであつても憲法二二条二項に違背しないこと
は、前示大法廷判決の趣旨に徴して明らかである。
 されば、論旨は、採用することができない。
 よつて、民訴法四〇一条、九五条、八九条に従い、裁判官全員の一致で、主文の
とおり判決する。
     最高裁判所第二小法廷
         裁判長裁判官    奥   野   健   一
            裁判官    山   田   作 之 助
            裁判官    草   鹿   浅 之 介
            裁判官    城   戸   芳   彦
            裁判官    石   田   和   外

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