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平成21年3月26日判決言渡
平成18年(行ウ)第589号停職処分取消等請求事件
平成18年(行ウ)第590号停職処分取消等請求事件
主文
1原告らの請求をいずれも棄却する。
2訴訟費用は原告らの負担とする。
事実及び理由
第1請求
1東京都教育委員会が原告Aに対してした平成18年3月31日付け停職処分
を取り消す。
2東京都教育委員会が原告Bに対してした平成18年3月13日付け停職処分
を取り消す。
3被告は,原告らに対し,それぞれ300万円及びこれに対する平成18年3
月31日から支払済みまで年5分の割合による金員を支払え。
第2事案の概要
原告Aは,当時勤務していた立川市立C中学校(以下「C中」という。)で
平成18年3月17日に行われた平成17年度卒業式において,同校校長から,
国旗に向かって起立し国歌を斉唱することという職務命令を受けていたのに,
国歌斉唱時に起立しなかったところ,東京都教育委員会(以下「都教委」とい
う。)は,これまでにも原告Aが同種の行為により複数の処分を受けており,
上記不起立は,地方公務員法(以下「地公法」という。)32条,33条に違
反するとして,原告Aに対し,平成18年3月31日付け停職3月の処分をし
た。
原告Bは,当時勤務していた東京都立D養護学校(以下「D養護学校」とい
う。)で平成18年1月25日に行われた同校創立30周年記念式典において,
同校校長から,国旗に向かって起立し国歌を斉唱することという職務命令を受
けていたのに,国歌斉唱時に起立しなかったところ,都教委は,これまでにも
原告Bが同種の行為により複数の処分を受けており,上記不起立は,地公法3
2条,33条に違反するとして,原告Bに対し,平成18年3月13日付け停
職1月の処分をした。
本件は,原告両名が,上記各処分は,憲法19条,教育基本法(平成18年
法律第120号による改正前のもの。以下「旧教育基本法」という。)10条
に反するなどとして,上記各処分の取消しを求め,また,上記各処分により精
神的苦痛を被ったとして,損害賠償を請求している事案である。
1前提事実(当裁判所に顕著な事実及び当事者間に争いのない事実並びに後掲
各証拠により認定できる事実)
(1)当事者等
ア原告A
原告A(昭和▲年▲月▲日生まれ)は,昭和46年1月に東京都公立学
校教員に任命された者であり,平成16年4月1日,立川市公立学校教員
に任命され,C中に補されて平成18年3月31日まで同校に勤務してい
た。
原告Aは,都教委から,以下のとおりの処分を受けている。
平成6年4月25日減給(10分の1)1月
平成14年3月27日減給(10分の1)3月
平成17年3月31日減給(10分の1)6月
平成17年5月27日停職1月
平成17年12月1日減給(10分の1)1月
イ原告B
原告B(昭和▲年▲月▲日生まれ)は,昭和50年4月1日に東京都公
立学校教員に任命された者であり,平成17年4月1日にD養護学校に補
されて平成18年3月31日まで同校に勤務していた。
原告Bは,都教委から,以下のとおりの処分を受けている。
平成16年4月6日戒告
平成16年5月25日減給(10分の1)1月
平成17年3月31日減給(10分の1)6月
ウ被告
被告は,地方自治法180条の5第1項1号,地方教育行政の組織及び
運営に関する法律(以下「地教行法」という。)2条に基づき,都教委を
設置する地方公共団体である。
都教委は,地教行法23条に基づき,学校その他の教育機関の設置管理
や,市町村立中学校の教諭も含めて(市町村立学校職員給与負担法1条,
地教行法37条1項)職員の任免等の事務を管理,執行する権限を有する
行政庁である。
都教委は,その権限に属する事務を処理させるため,事務局として東京
都教育庁を置いている(地教行法18条1項)。また,都教委が任命した
教育長(同法16条1項)は,都教委の指揮監督の下に,都教委の権限に
属するすべての事務をつかさどるほか(同法17条1項),東京都教育庁
の事務を統括し,所属の職員を指揮監督する。
(2)関連規定の定め
ア国旗及び国歌に関する法律
1条1項国旗は,日章旗とする。
(以下,日章旗を「日の丸」という。)
2条1項国歌は,君が代とする。
イ旧教育基本法
10条1項教育は,不当な支配に服することなく,国民全体に対し直接
に責任を負つて行われるべきものである。
2項教育行政は,この自覚のもとに,教育の目的を遂行するに必
要な諸条件の整備確立を目標として行われなければならない。
ウ学校教育法(平成19年法律第96号による改正前のもの。以下「旧学
校教育法」という。)
28条3項校長は,校務をつかさどり,所属職員を監督する。
6項教諭は,児童の教育をつかさどる。
(同条は,同法40条で,中学校について,同法76条で,養
護学校について準用されている。)
エ地教行法
23条教育委員会は,当該地方公共団体が処理する教育に関する事務で,
次に掲げるものを管理し,及び執行する。
3号教育委員会及び学校その他の教育機関の職員の任免その他の人
事に関すること。
5号学校の組織編制,教育課程,学習指導,生徒指導及び職業指導
に関すること。
8号校長,教員その他の教育関係職員の研修に関すること。
オ学習指導要領
平成元年3月15日に改訂された小学校,中学校及び高等学校について
の学習指導要領においては,特別活動において「入学式や卒業式などにお
いては,その意義を踏まえ,国旗を掲揚するとともに,国歌を斉唱するよ
う指導するものとする。」(以下「国旗・国歌条項」という。)と定めら
れた。(乙イ18の1ないし3)
平成元年10月24日に改訂された盲・ろう・養護学校の小学部・中学
部及び高等部の学習指導要領においては,特別活動については,小学校,
中学校及び高等学校の各学習指導要領に示すものに準ずるものと定められ
た。(乙イ18の4)
カ地公法
29条1項職員が次の各号の一に該当する場合においては,これに対し
懲戒処分として戒告,減給,停職又は免職の処分をすることが
できる。
1号この法律若しくは第57条に規定する特例を定めた法律又
はこれに基づく条例,地方公共団体の規則若しくは地方公共
団体の機関の定める規程に違反した場合
2号職務上の義務に違反し,又は職務を怠った場合
3号全体の奉仕者たるにふさわしくない非行のあった場合
32条職員は,その職務を遂行するに当つて,法令,条例,地方公共団
体の規則及び地方公共団体の機関の定める規程に従い,且つ,上司
の職務上の命令に忠実に従わなければならない。
33条職員は,その職の信用を傷つけ,又は職員の職全体の不名誉とな
るような行為をしてはならない。
(3)本件都教委通達
都教委のE教育長は,各都立学校長に対し,平成15年10月23日,各
都立学校長に対する職務命令として,以下のとおりの内容の「入学式,卒業
式等における国旗掲揚及び国歌斉唱の実施について(通達)」(以下「本件
都教委通達」という。)を発出した。
「1学習指導要領に基づき,入学式,卒業式等を適正に実施すること。
2入学式,卒業式等の実施に当たっては,別紙『入学式,卒業式等にお
ける国旗掲揚及び国歌斉唱に関する実施指針』のとおり行うものとする
こと。
3国旗掲揚及び国歌斉唱の実施に当たり,教職員が本通達に基づく校長
の職務命令に従わない場合は,服務上の責任を問われることを,教職員
に周知すること。」
「別紙
入学式,卒業式等における国旗掲揚及び国歌斉唱に関する実施指針
1国旗の掲揚について
入学式,卒業式における国旗の取扱いは,次のとおりとする。
(1)国旗は式典会場の舞台壇上正面に掲揚する。
(2)国旗とともに都旗を併せて掲揚する。この場合,国旗にあっては舞
台壇上正面に向かって左,都旗にあっては右に掲揚する。
(3)屋外における国旗の掲揚については,掲揚塔,校門,玄関等,国旗
の掲揚状況が児童・生徒,保護者,その他来校者が十分認知できる場
所に掲揚する。
(4)国旗を掲揚する時間は,式典当日の児童・生徒の始業時刻から終業
時刻とする。
2国歌の斉唱について
入学式,卒業式等における国歌の取扱いは,次のとおりとする。
(1)式次第には,「国歌斉唱」と記載する。
(2)国歌斉唱に当たっては,式典の司会者が,「国歌斉唱」と発声し,
起立を促す。
(3)式典会場において,教職員は,会場の指定された席で国旗に向かっ
て起立し,国歌を斉唱する。
(4)国歌斉唱は,ピアノ伴奏等により行う。
3会場設営等について
入学式,卒業式等における会場設営等は,次のとおりとする。
(1)卒業式を体育館で実施する場合には,舞台壇上に演台を置き,卒業
証書を授与する。
(2)卒業式をその他の会場で行う場合は,会場の正面に演台を置き,卒
業証書を授与する。
(3)入学式,卒業式等における式典会場は,児童・生徒が正面を向いて,
着席するように設営する。
(4)入学式,卒業式等における教職員の服装は,厳粛かつ清新な雰囲気
の中で行われる式典にふさわしいものとする。」
(4)本件立川市教委通達
立川市教育委員会(以下「立川市教委」という。)のF教育長は,立川市
立小・中学校長に対し,平成17年1月7日,本件都教委通達と同内容の「入
学式,卒業式等における国旗掲揚及び国歌斉唱の実施について(通達)」(以
下「本件立川市教委通達」という。)を発出した。
(5)本件各処分
ア本件A処分
C中のG校長は,原告Aに対し,平成18年3月15日,同月17日の
平成17年度卒業式において,「卒業式の式場において,式場内の指定さ
れた席で国旗に向かって起立し,国歌を斉唱すること。司会の着席の指示
があるまで起立していること。」等の内容の職務命令(以下「本件対A職
務命令」という。)を発出したが,原告Aは,同卒業式の国歌斉唱時に起
立しないで着席した(争いのない事実,甲8)。
都教委は,原告Aに対し,平成18年3月31日,これまでにも職務命
令違反により懲戒処分を受けてきたところ,原告Aの上記行為は,地公法
32条,33条に違反し,同法29条1項1ないし3号に該当するとして,
停職3月の懲戒処分(以下「本件A処分」という。)をした。(甲4)
イ本件B処分
D養護学校のH校長は,原告Bに対し,平成18年1月19日,同月2
5日の創立30周年記念式典において,「式典会場において,会場の指定
された席で国旗に向かって起立して国歌を斉唱すること」等の職務命令を
発出することとし,H校長から指示を受けたI副校長において,原告Bに
対し,同月20日,上記内容の職務命令書を手交することにより,職務命
令(以下「本件対B職務命令」といい,本件対A職務命令と総称して「本
件各職務命令」という。)を発出したが,原告Bは,同記念式典の国歌斉
唱の際,起立しなかった。
都教委は,原告Bに対し,平成18年3月13日,これまでにも職務命
令違反により懲戒処分を受けてきたところ,原告Bの上記行為は,地公法
32条,33条に違反し,同法29条1項1ないし3号に該当するとして,
停職1月の懲戒処分(以下「本件B処分」といい,本件A処分と総称して
「本件各処分」という。)をした。(甲11)
(6)東京都人事委員会に対する審査請求
原告らは,東京都人事委員会に対し,平成18年4月13日,それぞれ本
件各処分を取り消すよう求めて審査請求した。(甲421,422)
(7)訴えの提起
原告らは,平成18年10月30日,それぞれ本件各処分の取消しを求め
る訴えを提起した。
2争点
(1)本件各職務命令及び本件各処分は憲法19条に反するか。
(2)本件各職務命令及び本件各処分は旧教育基本法10条に反し,教師の教育
の自由を侵害するか。
(3)本件各処分は地公法の規定等に反するか。
(4)本件各処分は処分権の濫用か。
(5)原告らの損害
3争点に関する当事者の主張
(1)争点(1)(本件各職務命令及び本件各処分は憲法19条に反するか。)
(被告の主張)
本件各職務命令は,以下のとおり,憲法19条に違反するものではないか
ら,本件各職務命令に反したことをもって,本件各処分をすることは適法で
ある。
ア本件各職務命令は,原告らに対し,敬礼などの特別な行為を求めている
わけではなく,国歌斉唱時に起立するという外部行為を命じるにとどまる
ものであって,原告らの内心における精神活動を否定したり,その思想・
良心に反する精神的活動を強制するものではないし,いかなる思想を抱い
ているかを露顕することを強制するものではない。
原告らは,日の丸・君が代は,皇国思想や軍国主義思想のシンボルとし
て用いられてきた経緯からして,君が代斉唱時に起立することはできない
と考えていると主張するが,日本国憲法では,天皇は日本国及び日本国民
統合の象徴であると定められているのであるから,現段階においても,日
の丸・君が代は,皇国思想や軍国主義を賛美するものであるとの解釈が一
般的であるとはいえない。そうすると,原告らの思想・良心の核心は,国
旗・国歌一般に対する拒否ではなく,皇国思想や軍国主義に対する拒否で
あるはずであるところ,君が代斉唱時に起立したとしても,そのような原
告らの思想・良心を否定したり,露顕することを強制するものとはいえな
いから,君が代斉唱時に起立を求めた本件各職務命令は,思想・良心の自
由を制約するものではない。
イ仮に,外部的行為についても,思想・良心の自由の保障が及ぶとしても,
公共の福祉による制約があるのであって,本件各職務命令は,憲法19条
に反するとはいえない。
原告らは,全体の奉仕者である地方公務員であり,公教育を行うという
公共の利益のために勤務し,かつ職務の遂行に当たっては全力を挙げて専
念する義務があるのであるから,思想・良心の自由も,公共の福祉の見地
から職務の公共性に由来する内在的制約を受ける。
前記1(2)オのとおり,学習指導要領において,入学式や卒業式などにお
いて,国旗を掲揚するとともに,国歌を斉唱するよう指導するものとされ
ているところ,G校長又はH校長は,原告らに対し,それぞれ本件都教委
通達又は本件立川市教委通達に基づき,式典における国歌斉唱時に国旗に
向かって起立することを内容とする本件各職務命令を発したのであるか
ら,本件各職務命令は適法である。
また,原告らは,自らの自由意思により,公立学校教職員という特別な
法律関係に入った者であることからしても,教育公務員として義務を履行
するに際し,思想・良心の自由が制約されたとしても,やむを得ない制限
であるというべきである。
ウ原告らは,本件各職務命令は,本件各処分の前提としてされており,そ
の後に再発防止研修の受講をしなければならず,さらに,同種の処分歴が
あるとさらに重い処分がされるという累積加重処分が予定されていること
からしても,原告らの思想・良心に対する重大な侵害であると主張するが,
前記イのとおり,適法な本件各職務命令に反した場合に,懲戒処分を受け,
再発防止のための措置を取られるのも当然であって,繰り返し服務上の義
務に違反すれば,加重された懲戒処分を受けるのも当然である。
上記のとおり,本件各職務命令に違反したことをもって,加重された本
件各処分を受け,また,再発防止研修の受講を義務づけられるのは当然で
あって,原告らの思想・良心の改変を目的としたものであるなどとはいえ
ない。
また,原告らは,国歌斉唱時に起立しなかったことにより,国歌斉唱の
指導を行わなかったのであり,児童・生徒において,国歌斉唱時に起立し
てもいいし,しなくてもよいと受け取らせ,国歌・国旗について正しい認
識を持ち,尊重する態度を学ぶことができなくなり,児童・生徒の学習権
を侵害したのであって,単なる消極的態度と評価することもできないから,
本件各処分が重きに失するとはいえない。
(原告らの主張)
本件各職務命令は,以下のとおり,憲法19条に違反するから,本件各職
務命令に反したことを理由としてされた本件各処分は取り消されるべきであ
る。
ア憲法19条によって保障される思想及び良心の自由は,憲法上最も強い
保障を受け,これに対する保障は絶対的なものと解すべきである。
原告らは,日の丸・君が代は,明治時代以降,第二次世界大戦終了まで
の間,皇国思想や軍国主義思想のシンボルとして用いられてきたのである
から,国民主権と平和主義に基づく現行憲法下において,学校行事におけ
る君が代斉唱時に起立することには同意できないと考えているのであり,
また,現在,学校において,生徒に対し,君が代について判断できる知識
も提供せずにただ斉唱時に起立を求めているところ,このような実施方法
は,唯一絶対の価値観を押しつける教育の本質に反する行為であることか
らしても,君が代斉唱時に起立することはできないと考えている。
このように,原告らの君が代斉唱時に起立できないとの考えは,民主主
義,平和,人権等についての価値観や,教育者としての良心,信念に深く
基づいており,個人の世界観・人生観,主義・主張など,人格形成の核心
をなす内面作用に深くかかわるものであって,君が代斉唱時の不起立は,
思想・良心の自由と密接な関係を有する行為であるから,君が代斉唱時に
起立しない自由は,憲法19条の思想・良心の自由によって絶対的に保護
されるべきである。
さらに,本件各職務命令は,原告らに対し,君が代に対する思想・良心
の立場を表明又は推知させるものであることからしても,憲法19条の思
想・良心の自由によって保障される,沈黙の自由を侵害するものである。
イ学習指導要領においては,入学式や卒業式などにおいて,国旗を掲揚す
るとともに,国歌を斉唱するよう指導するものとされているが,後記(2)
(原告らの主張)のとおり,このように内容が一義的な条項について,法
的拘束力があるとは解されないから,これを根拠に人権を制約することは
できない。
また,入学式や卒業式において,国歌を斉唱するよう指導する目的があ
ったとしても,教員に起立させずに国歌斉唱を行うことは可能であるから,
各教員に起立を強制する必要はなく,本件各職務命令を発する必要は認め
られない。また,式典における君が代斉唱を実施するにしても,教員に対
し君が代斉唱時に起立を強制する本件各職務命令を発せずに,事前に生徒
に対し,日の丸・君が代の歴史的意義と国民の間の多様な意見を教え,思
想・良心の自由を尊重することを指導する授業を行うなど,生徒の学習の
機会を保障した上で,式典において君が代斉唱を実施するという代替措置
が可能であったのである。
被告は,原告らが,自由意思で教育公務員になったことを理由に,人権
の制約が許されると主張するが,かかる特別権力関係論が妥当しないのは
明らかである。
以上のとおり,本件各職務命令は,根拠や必要性がなく,また他の代替
手段があったのに発せられたものである。
ウまた,本件各職務命令は,これに反した場合に懲戒処分という不利益処
分が課されることを前提とし,その後に再発防止研修の受講をさせている
のであり,同種の職務命令に反したことにより懲戒処分を受けてきた場合,
従前よりもさらに重い処分がされるという累積加重処分がされてきている
のであるから,原告らの思想・良心の自由に対する重大な侵害となってお
り,思想・良心の放棄・転向を迫り,日の丸,君が代に対する忠誠を強要
するものとなっていて,このような態様からしても,憲法19条に反する。
そして,原告らは,君が代斉唱時に起立しなかったが,そのことによっ
て,何ら式典の進行は妨げられなかったのに,本件各処分をするのは,重
きに失する。
(2)争点(2)(本件各職務命令及び本件各処分は旧教育基本法10条に反し,
教師の教育の自由を侵害するか。)
(被告の主張)
ア本件都教委通達及び本件立川市教委通達と旧教育基本法10条
教育基本法を中心とする現行教育法制は,①教育の地方自治,②教育へ
の外部的干渉の防止を基本原理とし,その基本原理を達成するために教育
委員会制度を設けているのであるから,地方公共団体の教育委員会(以下
「地教委」という。)に付与された固有の権限の行使は,原則として旧教
育基本法10条1項の「不当な支配」には該当しない。そして,地教委は,
学校の管理を行うこととされているところ(地教行法23条),「管理」
には,教育の内容・方法が含まれると解されるから,地教委は,学校に対
し,教育の内容・方法についても具体的な命令を発することができ(地教
行法23条5号),大綱的基準の設定にとどまらなければならないもので
はない。
本件都教委通達及び本件立川市教委通達は,学習指導要領を踏まえ,子
どもが,国旗・国歌に対する正しい認識を持ち,それらを尊重する態度を
育てるために発せられたものであって,学校管理機関としての都教委及び
立川市教委の権限に基づき発せられたものである。
原告らは,本件都教委通達は,国歌斉唱時に,生徒及び教職員に起立を
強制させることにより,生徒たちに偏狭な「愛国心」などの一定の国家主
義的価値観を一律に押しつけることを目的とすると主張するが,原告らの
主張は,以下のとおり,理由がない。すなわち,国旗・国歌の指導は,我
が国の国旗・国歌のみ尊重する態度を育てるために行われるものではなく,
他国の国旗・国歌も同様に尊重する態度を育てるために行われるものであ
って,このような態度を育てることは,国際社会で生きる日本人として学
んでおくべき基礎的知識であり,偏狭な「愛国心」や「ナショナリズム」
とは無縁のものである。
以上のとおり,本件都教委通達及び本件立川市教委通達は,旧教育基本
法10条に違反するものではない。
イ本件各職務命令と旧教育基本法10条
本件都教委通達は,各学校長に対して発令されたものであって,各学校
長において,教職員に対し,国歌斉唱時に起立するよう職務命令を発する
ことを義務付けたものではないところ,校長は,校務をつかさどり所属職
員を監督する権限を有し(旧学校教育法28条3項),その権限に基づき,
自らの判断において,本件各職務命令を発出しているのであるから,仮に
本件都教委通達が旧教育基本法10条に違反するとしても,本件各職務命
令が違法になる訳ではない。
また,本件各職務命令が,教師の教育の自由を侵害するとの原告らの主
張も,後記ウのとおり,理由がない。
ウ憲法23条,26条,13条
原告らは,本件各職務命令は,子どもの学習権保障の見地から認められ
るべき教師の教育の自由を侵害すると主張するが,普通教育における教育
の自由が一定の範囲で認められるとしても,教育を受ける子どもの利益の
ために認められるにすぎず,教師個人の人権として保障されているのでは
ないから,仮にそれが侵害されたとしても,教師がその違憲を主張するこ
とはできない。
そして,普通教育における国旗・国歌の指導は,子どもが,国旗・国歌
に対する正しい認識を持ち,それを尊重する態度を育てるためであって,
一方的観念の教え込みなどではない。また,学校単位で行われる儀式的行
事においては,個々の教師の教育の自由が妥当する領域ではない。
エ本件対A職務命令の違法性
本件立川市教委通達は,立川市の入学式,卒業式の実施態様には課題が
残っていると認識していたため,立川市教委としての判断を明確に示すた
めに発出したものであって,原告Aという特定の教員への対策として,発
出されたものではない。
オ本件対B職務命令の違法性
盲・ろう・養護学校に学ぶ児童生徒にとっても,入学式・卒業式などの
式典は,学校生活における重要な節目であり,厳粛で清新な気分を味わい,
新しい生活への動機付けとなるような活動に参加することは意義があるこ
とは明らかであり,本件都教委通達は,その趣旨目的に沿うものである。
(原告らの主張)
ア本件都教委通達及び本件立川市教委通達と旧教育基本法10条
旧教育基本法10条は,その立法趣旨の一つとして,地方官僚による教
育支配の排除があったのであり,地教行法も旧教育基本法の趣旨,目的に
反しないように解さなければならないから,地教行法の規定をもって,地
教委が,「不当な支配」の主体になり得ないと解することはできない。そ
して,教師による裁量の余地があることからすると,地教委の権限行使に
おいても,大綱的基準の設定にとどまるべきであり,具体的命令を発する
ことはできないと解すべきである。
そして,学習指導要領についても,大綱的基準にとどまる部分について
のみ,法規としての性質が認められているにすぎず,学習指導要領の国旗
・国歌条項は,大綱的基準にとどまらない一義的な条項であるから法的拘
束力がないと判断すべきであり,また,大綱的基準を逸脱する場合には,
「不当な支配」に該当することとなるところ,本件都教委通達及び本件立
川市教委通達は,以下のとおり,学校ごとの裁量を奪うものであって,「不
当な支配」に該当する。
すなわち,日の丸・君が代は,皇国思想や軍国主義思想のシンボルであ
ったために強いイデオロギー性を有するところ,儀式的行事において,国
旗へ正対して国歌を斉唱させることは,「愛国心」「ナショナリズム」な
どの一方的観念の教え込みの強制となるものである。本件都教委通達及び
本件立川市教委通達は,かかる強制を目的としてされたものであって,校
長に対し,国旗掲揚・国歌斉唱の実施方法や教職員に対する職務命令の発
出について裁量を許さないものであるから,旧教育基本法10条の「不当
な支配」となる。
以上のとおり,本件都教委通達及び本件立川市教委通達は,旧教育基本
法10条の「不当な支配」に該当し,違法である。
イ本件各職務命令と旧教育基本法10条
本件各職務命令は,本件都教委通達及び本件立川市教委通達に基づいて
発出されたもので,各校長には,職務命令を発出しないという裁量の余地
は全くなかったから,本件各職務命令も,旧教育基本法10条の「不当な
支配」に該当し,違法である。
また,各校長の発出した本件各職務命令は,後記ウのとおり,教師の教
育の自由を侵害するもので,不当な支配に該当し,違法である。
ウ憲法23条,26条,13条
憲法23条,26条,13条の要請から,教育は,個人の人格の成長完
成のために行わなければならず,そのためには教師との自由な関係が保障
されなければならず,子どもの学習権保障の見地からも教師の教育の自由
が認められる必要がある。
そして,日の丸・君が代のように社会的に意見の分かれるテーマについ
て指導する場合,その背景となる歴史的事実を教え,さまざまな価値判断
が国民の間に存することを教えた上で,子どもたちに自ら考えさせ,それ
ぞれが自分の判断で対応することができるように支援すべきである。しか
し,本件各職務命令により,教師に対し,君が代斉唱時に起立を強制すれ
ば,子どもたちに対し,異なる意見への不寛容の姿勢を示し,多様な意見
の存在する社会に適応する力を付けるという人格の発達を阻害し,その学
習権を侵害し,教師の教育の自由を否定することにもなる。
以上のとおり,本件各職務命令は,憲法23条,26条,13条の要請
する教師の教育の自由を侵害する。
エ本件対A職務命令の違法性
従前,立川市においては,卒業式,入学式に際し,校長から職務命令が
発出されたことはなかったのに,原告Aが,平成16年4月1日付けでC
中に異動して来るや,本件立川市教委通達が発出されることになったので
あり,職務命令が発出されているのは立川市内ではC中のみであったし,
多摩教育事務所からC中に対し,強力な指導がされたことからしても,本
件立川市教委通達が,原告Aを処分するために発出されたものであること
は明らかである。
オ本件対B職務命令の違法性
本件都教委通達以前においては,都立盲・ろう・養護学校における入学
式等では,フロア形式が多く採用されるなど,子どもを中心とした自由な
形式が比較的広く採用されていたが,本件都教委通達以後は,画一的に壇
上形式で行われるようになった。このような実態は,都立養護学校等の個
別事情を全く考慮せず,各校の裁量を許さず,教師の創意工夫の尊重と教
育の自主性を阻害するもので,この観点からしても,不当な支配に当たる。
(3)本件各処分は地公法の規定等に反するか。
(被告の主張)
ア校長は,校務をつかさどり所属職員を監督する権限を有している(旧学
校教育法28条3項)から,教育課程の編成等すべての校務を決定し,こ
れを各教職員に分掌させ,必要な指導を行うことができ,この校務には,
入学式,卒業式,周年行事等の特別活動としての儀式的行事の実施も含ま
れる。したがって,校長は,各教職員に対し,その実施に当たって,地公
法32条の上司として,職務命令を発することができる。
そして,原告ら教育公務員は,職務命令に重大かつ明白な違法がない限
り,これを遵守する義務を負うのであり,前記(1)(2)(被告の主張)のと
おり,本件各職務命令には,そのような違法はないから,本件各職務命令
に従わなかった原告らの行為は,地公法32条違反となる。
イ原告らは,本件各職務命令に公然と違反し,しかも児童・生徒・保護者
その他の学校関係者の面前で行ったものであるから,これらの行為が,地
公法33条に該当する信用失墜行為であることは明らかである。
ウ地公法に基づく懲戒処分をするに当たっては,憲法上,告知と聴聞の機
会を与える必要があるとまでは解されず,当該処分によって制限を受ける
権利利益の内容等を総合考慮して,告知と聴聞の機会を与えるか否かを決
すべきである。そして,手続的適正については,処分権者の判断の慎重,
適正を担保し,その恣意を抑制するため処分事由説明書の交付が法定され
ているから,相当の確保がされているのであって,告知と聴聞の機会を与
えなくても憲法31条の法意に反しない。
さらに,本件においては,都教委において,原告らから事情を聴取しよ
うとしたのに,原告らにおいて,代理人弁護士の立会いがなければ事情聴
取には応じないとして,これを拒否したのであるから,適正手続違反をい
う原告らの主張は理由がないし,本件各処分は,教職員懲戒分限審査委員
会の審議を経て,教育委員会議の議も経るという慎重な手続を経ているか
ら,手続が拙速であるということもできない。
(原告らの主張)
ア地公法32条の職務命令への服従義務は,権限ある上司から発せられる
必要があるところ,校長は,教職員に対し,国歌斉唱時に起立して斉唱す
るよう命ずる権限はない。すなわち,教師には,教授の具体的内容及び方
法につきある程度自由な裁量が認められなければならないが,校長には,
それを侵害する職務命令を発する権限はないと解すべきであり,本件各職
務命令が,それを侵害することは,前記(1)(2)(原告らの主張)のとおり
である。
また,職務命令に重大かつ明白な瑕疵がある場合には,教職員において
これに服従する義務は生じないところ,前記(1)(2)(原告らの主張)のと
おり,本件各職務命令は,違憲・違法なものであるから,原告らにおいて,
これに服従する義務はない。
そうすると,本件各処分は,本件各職務命令に従わなかったことが地公
法32条に該当するとしてされているが,同条に反しないことは明らかで
あって,違法なものである。
イまた,原告らは,本件各職務命令に従わず,君が代斉唱時に着席してい
たが,不起立行為それ自体によって,式典の進行が妨害されたことはなく,
保護者や子どもたちから苦情が寄せられたこともないのであるし,職務命
令に対する違反についても,本件各職務命令が違憲・違法なことは前記の
とおりであるから,原告らの行為は,信用失墜行為に該当せず,地公法3
3条に該当しない。
ウさらに,行政機関が公務員に対して懲戒処分をするに当たっては,憲法
31条の趣旨に照らし,手続的な適正が確保されるべきところ,本件各処
分をするに際し,都教委は,原告らが代理人弁護士の同席を求めてもこれ
を拒否するなど,事実上,聴聞,弁解の機会を与えていないのであるし,
緊急性もないのに拙速にしているのであるから,手続的にも適正とはいえ
ず,この点からも取消しを免れない。
(4)本件各処分は処分権の濫用か。
(原告らの主張)
ア公務員に対する懲戒処分については,裁量権を濫用してはならないとこ
ろ,本件各職務命令に違反したことをもって,停職という本件各処分をし
たことは,停職処分により,報酬を得られなくなるのみならず,生徒,児
童との人格的触れ合いを通じて成り立つ教育活動を強制的に中断させると
いう意味からしても,重大で過酷な処分であり,本件各処分には,裁量権
を濫用した違法がある。
イ都教委は,「教職員の主な非行に対する標準的な処分量定」を設けてい
るところ,国歌斉唱時の不起立という消極的行為にすぎない原告らの各行
為によって,何らの被害も生じていないのであるから,都教委の内部基準
に照らしても,本件各処分は過酷にすぎる。
また,都教委は,同種の職務命令に対する違反の反復を理由として,段
階的に重い処分を課していくという累積加重処分をしているが,このよう
に機械的に,かつ,同種の職務命令に従う義務のないことを確認した東京
地方裁判所判決等が言い渡されているにもかかわらず,これらを無視して
された本件各処分は違法である。
ウまた,都教委は,都立高等学校における未履修問題については,校長に
対して,戒告処分をしたほかは,それよりも軽い処分にとどめているし,
被告は,被告職員の争議行為についても,最も重くて停職8日にとどめて
いる。さらに,他県の教職員においては,本件と同種の国歌斉唱時の不起
立について,停職処分はされておらず,また,都教委のような累積加重処
分はされていない。
以上によれば,都教委による本件各処分は,比例原則に反して違法であ
るのは明らかである。
(被告の主張)
ア公務員に対する懲戒処分をするに当たっては,懲戒権者に裁量が認めら
れているところ,①原告らは,本件各職務命令に違反する行為を意識的に
行い,②しかもその行為を,児童,生徒,保護者その他学校関係者の面前
で公然と行い,③原告らは,これまでの指導や再発防止研修を受け,また
懲戒処分も受けているにもかかわらず,再び同種の行為を行っているので
あり,都教委は,これらの点を考慮して本件各処分をしたのであるから,
何ら裁量権を逸脱していない。
イそして,都教委は,内部準則として処分基準を有しているところ,これ
に違反にしたからといって,本件各処分が当然に違法となるものではない
上に,前記アのとおりの考慮要素に従い,処分基準に則して本件各処分を
したのであるから,本件各処分に違法はない。
また,原告らは,累積加重処分により処分量定が違法であると主張して
いるが,過去に処分歴があれば,加重された処分となるのは,公務員の懲
戒処分の本質からして当然であり,都教委には,本件各処分をするについ
て,何ら裁量の逸脱はない。
ウ原告らは,他種の非違行為による懲戒処分と本件各処分を比較し,他県
の教職員による同種行為に対する懲戒処分と比較して,本件各処分は重す
ぎ,比例原則違反があると主張するが,他種の非違行為と本件では事案が
異なり,また,教育には地方自治の保障があるから,各県ごとに懲戒処分
の量定が異なるのは当然であり,原告らの主張は理由がない。
(5)原告らの損害
(原告らの主張)
原告らは,本件各処分により,教師としての職業的良心を傷つけられ,著
しい精神的苦痛を被ったところ,これを金銭的に評価するならば,各300
万円を下らない。
(被告の主張)
争う。
第3争点に対する判断
1争いのない事実に証拠(各項に記載したもの)及び弁論の全趣旨を総合する
と,以下の事実が認められる。
(1)文部省(現在の文部科学省)は,平成元年3月15日,平成元年度以前に
おいては,特別活動において配慮する事項として,「国民の祝日などにおい
て儀式などを行う場合には,(児童)生徒に対してこれらの祝日などの意義
を理解させると共に,国旗を掲揚し,国歌を斉唱させることが望ましい」と
定められていた小学校,中学校及び高等学校の学習指導要領を改訂し,「入
学式や卒業式などにおいては,その意義を踏まえ,国旗を掲揚するとともに,
国歌を斉唱するよう指導するものとする。」と定めた。この改訂の前後を通
じて,盲・ろう・養護学校の小学部・中学部及び高等部の学習指導要領にお
いては,特別活動については,小学校,中学校及び高等学校の各学習指導要
領に示すものに準ずるものと規定されていた。
都教委の指導部は,上記改訂を受けて,平成2年2月3日,「新学習指導
要領の移行措置について-入学式・卒業式における国旗・国歌の取扱い-」
の中で,「各学校の入学式,卒業式などにおける国旗の掲揚,国歌の斉唱指
導が,平成2年度から新学習指導要領に即して行われるよう,区市町村教育
委員会並びに都立学校長に対して指導する。」とし,指導上の要点として「国
旗を掲揚し,国歌を斉唱するよう指導するに当たっては,校長を中心として,
教職員の共通理解の下に協力して実施するようにするが,共通理解が得られ
ず実施が困難な状況においては,学習指導要領の法的根拠を示し,校長の責
任により実施すること。」とした。
しかし,国旗掲揚・国歌斉唱を実施しようとする学校の中には,職員団体
の反対等により,実施できない学校もあった。都教委のJ教育長(当時)は,
都立学校長に対し,平成6年1月18日,「入学式や卒業式などにおける国
旗掲揚及び国歌斉唱の指導について(通知)」を発し,「児童・生徒が,国
際社会において尊敬され,信頼される日本人として成長していくためには,
学校教育において,国際社会における日本人としての自覚を培うとともに,
国旗及び国歌に対する正しい認識をもたせ,尊重する態度を養うことが極め
て大切」であるとして,平成元年改訂の高等学校学習指導要領に基づく指導
の徹底を求め,東京都教育庁指導部長は,各区市町村教育委員会教育長に対
し,同日,都立学校長に対して上記通知したことを周知した。(乙イ15の
1ないし4,18の1ないし4,20,22,44)
(2)文部省は,各都道府県教育委員会教育長に対し,平成10年10月15日,
全国の公立小,中,高等学校で行われた平成9年度卒業式及び平成10年度
入学式における国旗掲揚,国歌斉唱の実施状況に関する調査結果を記載した
「公立小・中・高等学校における入学式及び卒業式での国旗掲揚及び国歌斉
唱に関する調査について(通知)」を発し,平成7年春の調査に比べて全体
としては実施率が上昇しているものの,いまだ実施されていない学校がある
などとして,平成元年改訂の学習指導要領に基づき,国旗及び国歌に関する
指導を徹底することを求めた。
東京都教育庁指導部長は,この通知を受け,区市町村教育委員会教育長,
都立高等学校長等に対し,平成10年11月9日,「公立小・中・高等学校
における入学式及び卒業式での国旗掲揚及び国歌斉唱に関する調査について
(通知)」を発し,「これからの国際社会に生きていく国民として,我が国
の国旗・国歌はもとより諸外国の国旗・国歌に対する正しい認識と,それら
を尊重する態度を育てることは,重要なこと」であるとして,平成元年改訂
の学習指導要領に基づき,国旗及び国歌に関する指導を徹底することを求め
た。(甲61の1及び2)
(3)国旗及び国歌に関する法律は,平成11年に成立し,同年8月13日に公
布,施行された。文部省は,各都道府県教育委員会教育長に対し,同年9月
17日,全国の公立小,中,高等学校における平成10年度卒業式及び平成
11年度入学式での国旗掲揚,国歌斉唱の実施状況に関する調査結果を記載
した「学校における国旗及び国歌に関する指導について(通知)」を発し,
平成10年春の調査に比べて全体として実施率が上昇しているが,一部の都
道府県及び政令指定都市において依然として実施率が低い状況にあるとし
て,国旗及び国歌に関する指導が一層適切に行われるよう求めた。
東京都教育庁指導部長は,この通知を受け,区市町村教育委員会教育長,
都立学校長等に対し,平成11年10月1日,「学校における国旗及び国歌
に関する指導について(通知)」を発し,「児童及び生徒が,我が国の国旗
及び国歌の意義を理解し,諸外国の国旗及び国歌も含め,それらを尊重する
態度を育てることは重要なこと」であるとして,平成元年改訂の学習指導要
領に基づき,国旗及び国歌に関する指導が一層適切に行われるよう求めた。
(甲62の1及び2)
(4)東京都教育庁は,平成11年6月23日,都立学校の卒業式・入学式にお
ける国旗掲揚,国歌斉唱に伴う様々な問題への対応や学校長に対する支援等
を図るため,卒業式・入学式対策本部を設置した。都教委のK教育長(当時)
は,都立盲・ろう・養護学校長に対し,同年10月19日,「入学式及び卒
業式における国旗掲揚及び国歌斉唱の指導について(通達)」を発し,学習
指導要領及び下記の別紙「都立盲・ろう・養護学校における国旗掲揚及び国
歌斉唱に関する実施指針」に基づいて入学式や卒業式を実施するよう求め,
次の四点を具体的に示し,区市町村教育委員会指導事務主管課長にも写しが
送付された。
「1教職員に対しては,入学式及び卒業式における国旗掲揚及び国歌斉唱
の指導の意義について,学習指導要領に基づき説明し,理解を求めるよ
う努めるとともに,併せて,「国旗及び国歌に関する法律」制定の趣旨
を説明すること。
2児童・生徒に対しては,国際社会に生きる日本人としての自覚及び我
が国のみならず他国の国旗及び国歌に対する正しい認識とそれらを尊重
する態度が重要であることを,十分説明すること。
3保護者に対しては,学校教育において,児童・生徒に国旗及び国歌に
対する正しい認識や,それらを尊重する態度の育成が求められているこ
と,並びに入学式及び卒業式において,学校は国旗掲揚及び国歌斉唱の
指導を学習指導要領に基づき行う必要があることなどを,時機をとらえ
て説明すること。
4校長が国旗掲揚及び国歌斉唱の実施に当たり,職務命令を発した場合
において,教職員が式典の準備業務を拒否した場合,又は式典に参加せ
ず式典中の児童・生徒指導を行わない場合は,服務上の責任を問われる
ことがあることを,教職員に周知すること。」
「都立盲・ろう・養護学校における国旗掲揚及び国歌斉唱に関する実施指針
1国旗の掲揚について
入学式や卒業式などにおける国旗の取扱いは,次のとおりとする。な
お,都旗を併せて掲揚することが望ましい。
(1)国旗の掲揚場所等
ア式典会場の正面に掲げる。
イ屋外における掲揚については,掲揚塔,校門,玄関等,国旗の掲
揚状況が児童・生徒,保護者,その他来校者に十分に認知できる場
所に掲揚する。
(2)国旗を掲揚する時間
式典当日の児童・生徒の始業時刻から終業時刻までとする。
2国歌の斉唱について
入学式や卒業式などにおける国歌の取扱いは,次のとおりとする。
(1)式次第に「国歌斉唱」を記載する。
(2)式典の司会者が「国歌斉唱」と発声する。」
東京都教育庁指導部心身障害教育指導課は,都立盲・ろう・養護学校の教
職員に対し,平成12年1月,上記通達や実施指針等を記載した「入学式・
卒業式の適正な実施について」というリーフレットを配布し,国旗掲揚や国
歌斉唱について,学習指導要領の趣旨を踏まえた適切な指導の在り方を工夫
し,計画的に取り組むよう求めた。(乙イ26,28の2,30,45)
(5)文部科学省は,各都道府県教育委員会教育長に対し,平成13年5月25
日,全国の公立小,中,高等学校における平成12年度卒業式及び平成13
年度入学式での国旗掲揚及び国歌斉唱の実施状況に関する調査結果を記載し
た「学校における国旗及び国歌に関する指導について(通知)」を発し,国
旗掲揚と国歌斉唱に関しては,平成12年春の調査に比べて全体として実施
率が上昇しているが,全校実施が達成されていない都道府県教育委員会では,
域内のすべての学校で実施されるよう指導を徹底するよう求めた。
東京都教育庁指導部長は,この通知を受け,区市町村教育委員会教育長,
都立学校長等に対し,平成13年6月12日,「学校における国旗及び国歌
に関する指導について(通知)」を発し,平成12年度卒業式及び平成13
年度入学式においては,一定の改善が図られたが,今後とも,各学校におい
て,国旗及び国歌に関する指導を一層徹底するよう求めた。(甲63の1及
び2,乙イ31)
(6)東京都教育庁L指導部長は,都立学校長及び区市町村教育委員会教育長に
対し,平成15年3月6日,文部科学省の通知に基づき,「公立小・中学校
及び都立学校における入学式及び卒業式での国旗掲揚及び国歌斉唱に関する
調査について(依頼)」を発し,平成14年度卒業式及び平成15年度入学
式における都立学校の国旗掲揚,国歌斉唱の実施状況について報告を求めた。
その結果,国旗掲揚,国歌斉唱の実施率は100パーセントであるが,①
都立盲・ろう・養護学校で国旗を舞台壇上正面に掲揚していない学校があっ
たこと,②式次第に国歌斉唱と記載しなかった学校があったこと,③国歌斉
唱時に起立しない教員がいたり,司会者が起立を発声しない学校があったこ
と,④司会者が開式前に内心の自由について説明した学校があったことなど
が明らかとなった。(乙イ32の1及び2,69,70,92,証人M)
(7)ア都教委は,平成15年6月25日,都立学校等における卒業式及び入学
式が,学習指導要領に基づき,より適正に実施されるために,教育庁理事
を本部長とする「都立学校等卒業式・入学式対策本部」(以下「本件対策
本部」という。)を設置した。(乙イ33)
イ本件対策本部は,平成15年10月23日,それまでの検討結果を取り
まとめ,都教委の第17回定例会において,新たに発すべき通達案を報告
し,E教育長は,都立高等学校長及び都立盲・ろう・養護学校長に対し,
本件都教委通達を発した。(甲17,74,乙イ34)
ウ都教委は,同日,都立学校長を対象に「教育課程の適正実施にかかわる
説明会」を開催した。
E教育長は,同説明会において,①都教委は,教育目標及び基本方針の
中で,21世紀を担う児童・生徒に,世界の中の日本人としてのアイデン
ティティをはぐくむ教育が重要であることを示している,②卒業式等で着
席のままの教員や国歌斉唱を妨げるような運営をする教員がおり,実施態
様には様々な課題がある,③(卒業式等の適正な実施は)儀式的行事の問
題にとどまらず,学校経営の課題であるなどとあいさつした。
東京都教育長N人事部長は,同説明会において,①職務命令を出すに当
たっては,いつ,どこで,誰に向かって発したか記録すること,②国旗は
舞台壇上正面に掲揚すること,③屋外の国旗掲揚の時間帯は,始業時から
終業時まで,すなわち,全日制であれば8時15分から17時ころまでと
すること,④教職員には国旗に向かって起立し国歌を斉唱させること,⑤
教職員の座席を指定すること,⑥教職員が起立しない場合,現認確認をし,
都教委に報告をすること,都教委は報告を受けて,服務上の責任を問う,
教育庁を挙げて体制を作る,⑦(国歌斉唱時に)座っている人にその場で
職務命令を出すのは難しいから,必ず事前に職務命令を出すこと,⑧教職
員の服装は礼服がよい,礼服でないとしてもスーツにネクタイがふさわし
いと都教委は考えている,体育着上下とかポロシャツ,セーター,Gパン
はふさわしいとは考えていない,問題のある場合には教職員の服装を現認
し,報告すること,⑨職務命令についてはマニュアルを作成するので,そ
れに従うこと等を説明した。
また,L指導部長は,本件都教委通達を読み上げた上,これは,E教育
長が各校長に対して発出した職務命令であると説明した。(争いのない事
実,乙イ37,68,69)
(8)東京都教育庁は,平成15年10月23日,「適格性に課題のある教育管
理職の取扱いに関する要綱」を決定し,教育管理職として必要な資質,能力
の改善が見込めない場合には,管理職から一般教員への降任の勧告等の措置
を講ずることを定めた。(乙イ38)
(9)都教委は,区市町村教育委員会教育長に対し,平成15年10月23日,
本件都教委通達の写しを参考として送付し,立川市教委は,立川市立の各学
校に対し,同月24日,同写しを通知した。
立川市教委は,各校長に対し,同年11月7日の定例校長会において,通
知を参考にして卒業式,入学式を適正に実施し,それに際しては校長の毅然
たる態度が大切であると指導した。(甲77,乙イ46,47,74)
(10)2校を除く都立学校(高等学校,盲・ろう・養護学校)の校長は,平成
15年度卒業式及び平成16年度入学式において,教職員に対し,国歌斉唱
の際,国旗に向かって起立し,国歌を斉唱するよう職務命令書により職務命
令を発し,他の2校の校長も,教職員に対し,口頭により同様の職務命令を
発した。
都教委は,平成16年3月30日,同月31日及び同年5月25日,平成
15年度卒業式において,式典会場に入場しなかった教職員,国歌斉唱時に
起立しなかった教職員及び国歌斉唱時のピアノ伴奏を拒否した教職員合計1
71名について,職務命令違反及び信用失墜行為を理由に戒告処分とした。
また,都教委は,平成16年4月6日,平成15年度卒業式において,国歌
斉唱時に起立しなかった公立小・中学校,ろう・養護学校の教職員19名に
ついて,職務命令違反及び信用失墜行為を理由に戒告処分,二度目の懲戒処
分となる養護学校教員1名について,職務命令違反及び信用失墜行為を理由
に減給1月の懲戒処分とした。
また,都教委は,平成16年5月25日,平成16年度入学式において,
国歌斉唱時に起立しなかった都立学校の教職員33名,公立小・中学校の教
職員4名に対し,職務命令違反及び信用失墜行為を理由に戒告処分をし,二
度目の懲戒処分となる都立学校等の教職員3名について,職務命令違反及び
信用失墜行為を理由に減給1月の懲戒処分とした。(争いのない事実)
(11)都教委は,平成16年8月2日及び同月9日,平成15年度卒業式及び
平成16年度入学式において,国歌斉唱時に起立しなかったことにより懲戒
処分を受けた教職員に対し,服務事故再発防止研修を実施した。また,都教
委は,同年8月30日,入学式,卒業式等の式典において,国歌斉唱時の不
起立等により懲戒処分が二度目となり,減給処分を受けた教職員に対し,専
門研修を実施した。(争いのない事実)
(12)立川市教委は,平成16年度入学式において,過半数の小学校に当たる
12校で演台を舞台下に設置するなど,前記(9)の通知に沿わない運営がされ
ていたことから,入学式,卒業式等の適正実施を図るため,本件都教委通達
を参考にして通達を発することとし,立川市教委教育長は,立川市立小・中
学校長に対し,平成17年1月7日,本件立川市教委通達を発した。(甲6,
77,乙イ74)
(13)立川市教委教育部長は,立川市立小・中学校長に対し,平成17年3月
16日,「卒業式,入学式の適正な実施と事故発生時の報告について(通知)」
により,卒業式,入学式等における国旗掲揚及び国歌斉唱を適正に実施する
よう本件立川市教委通達により通達したところであるが,教員の服務上の問
題が生じないように,明確な職務命令を出し,問題が生じた場合には,当該
教職員に対して事実の確認をし,職務命令発令の事実を確認して職務命令違
反を指摘し,立川市教委に速やかな事故報告をするよう求めた。(甲7)
2争点(1)(本件各職務命令及び本件各処分は憲法19条に反するか。)につい

(1)証拠(甲94,95,230,258,原告A本人,原告B本人)によれ
ば,原告らは,国歌斉唱時に国旗に向かって起立し,国歌を斉唱することを
拒否する理由として,①日の丸・君が代は,皇国思想や軍国主義思想のシン
ボルとして用いられてきたから,国民主権と平和主義に基づく現行憲法下に
おいて,学校行事における君が代斉唱時に起立することはできない,②現在,
学校において,生徒に対し,君が代について判断できる知識も提供せずにた
だ斉唱時に起立を求めているところ,このような実施方法は,唯一絶対の価
値観を押しつける教育の本質に反する行為である,との考えなどを有してい
ることが認められる。そして,原告らは,本件各職務命令に基づき,卒業式
等の国歌斉唱時に日の丸に向かって起立し,君が代を斉唱するという行為は,
日の丸・君が代に尊重の意を表するものであって,上記のような原告らの考
えとは根本的に相容れないものであるから,これらの行為を行うことができ
ないという信念を有しているという。
原告らのこのような考えは,日の丸や君が代が過去に我が国において果た
した役割についての原告らの歴史観ないし世界観又は教員としての職業経験
から生じた信条及びこれに由来する社会生活上の信念であるといえるもので
あり,このような考えを持つこと自体は,思想及び良心の自由として保障さ
れることは明らかである。
(2)本件各職務命令は,原告らに対し,周年行事又は卒業式において,国歌斉
唱時に国旗に向かって起立し,国歌を斉唱する行為を命じるものである。そ
こで,前記(1)のような考えを有する原告らに対し,このような行為を命じる
ことが原告らの思想や良心の自由を侵害するといえるかどうか,思想や良心
の自由を制約しあるいは思想や良心の自由と抵触するとしても,それが許さ
れるかどうかが問題となる。
ア一般に,自己の思想や良心に反するということを理由として,およそ外
部行為を拒否する自由が保障されるとした場合には,社会が成り立ちがた
いことは明らかであり,これを承認することはできない。
もとより,人の思想や良心は外部行為と密接な関係を有するものであり,
思想や良心の核心部分を直接否定するような外部的行為を強制すること
は,その思想や良心の核心部分を直接否定することにほかならないから,
憲法19条が保障する思想及び良心の自由の侵害が問題になるし,そうで
ない場合でも,思想や良心に対する事実上の影響を最小限にとどめるよう
な配慮を欠き,必要性や合理性がないのに,思想や良心と抵触するような
行為を強制するときは,憲法19条違反の問題が生じる余地があるといえ
るが,これらに該当しない場合には,外部行為が強制されたとしても,憲
法19条違反とはならないと解される。
イこれを本件についてみると,原告らが,卒業式等の国歌斉唱時に日の丸
に向かって起立し,君が代を斉唱すべきでないとして,これを拒否するこ
とは,原告らにとっては,原告らが有する前記の歴史観ないし世界観又は
信条に基づく行為であろうとはいえるが,本件各職務命令は,卒業式等に
おいて国歌斉唱時に国旗に向かって起立し,国歌を斉唱することを命じる
ものであって,原告らに対し,例えば,日の丸や君が代は国民主権,平等
主義に反し天皇という特定個人又は国家神道の象徴を賛美するものである
という考えは誤りである旨の発言を強制するなど,直接的に原告らの歴史
観ないし世界観又は信条を否定する行為を命じたり,思想や良心の内容を
確かめるための行為を命じるものではなく,また,卒業式等の儀式の場で
行われる式典の進行上行われる出席者全員による起立及び斉唱であること
から,前記のような歴史観ないし世界観又は信条と切り離して,不起立,
不斉唱という行為には及ばないという選択をすることも可能であると考え
られ,一般的には,卒業式等の国歌斉唱時に不起立行為に出ることが,原
告らの歴史観ないし世界観又は信条と不可分に結びつくものということは
できない。
ウ加えて,本件各職務命令が発出されるより前から,都立学校の卒業式等
において,国旗掲揚及び国歌斉唱は広く実施され始めており,全国の公立
学校の卒業式等においても広く実施されていた(前記1(5)(6))のである
から,本件各職務命令が発出された当時においても,客観的にみて,卒業
式等の国歌斉唱の際に日の丸に向かって起立し,君が代を斉唱するという
行為は,卒業式等の出席者にとって通常想定され,かつ期待されるものと
いうことができ,一般的には,これを行う教職員等が特定の思想を有する
ということを外部に表明するような行為であると評価することは困難であ
る。校長の職務命令に従ってこのような行為が行われる場合には,これを
特定の思想を有することの表明であると評価することは一層困難であると
いわざるを得ない。
本件各職務命令は,上記のように,公立学校における卒業式等の儀式的
行事において全国的に広く行われていた国歌斉唱に際し,出席者である教
職員等に国旗に向かって起立し,国歌の斉唱を命ずるものであって,原告
らに対し,特定の思想を持つことを強制したり,あるいはこれを禁止した
りするものではなく,特定の思想の有無について告白することを強要する
ものでもない。
エ以上のとおり,本件各職務命令は,原告らの思想及び良心の核心部分を
直接否定するものとは認められないが,本件各職務命令が命じる国旗に向
かって起立し国歌を斉唱することは,原告らの前記のような歴史観ないし
世界観又は信条と緊張関係にあることは確かであり,一般的には,本件各
職務命令が原告らの歴史観ないし世界観又は信条自体を否定するものとい
えないにしても,原告ら自身は,本件各職務命令が,原告らの歴史観ない
し世界観又は信条自体を否定し,思想及び良心の核心部分を否定するもの
であると受け止め,国旗に向かって起立し国歌を斉唱することは,原告ら
自身の思想及び良心に反するとして,不起立,不斉唱の行動をとったとも
考えられる。そうだとすると,本件各職務命令は,原告らの思想及び良心
の自由との抵触が生じる余地がある。
しかしながら,憲法15条2項は,「すべて公務員は,全体の奉仕者で
あって,一部の奉仕者ではない。」と定めており,地方公務員も地方公共
団体の住民全体の奉仕者としての地位を有するものである。このような地
方公務員の地位の特殊性や職務の公共性にかんがみ,地公法30条は,地
方公務員は,全体の奉仕者として公共の利益のために勤務し,かつ,職務
の遂行に当たっては全力を挙げてこれに専念しなければならない旨規定
し,同法32条は,地方公務員がその職務を遂行するに当たって,法令等
に従い,かつ,上司の職務上の命令に忠実に従わなければならない旨規定
しているところ,原告らは,いずれも都立学校又は東京都内の市立学校の
教員であって,法令等や上司の職務上の命令に従わなければならない立場
にあり,校長から学校行事である卒業式等に関して,それぞれ本件各職務
命令を受けたのである(なお,原告らは,校長には,本件各職務命令を発
する権限はないと主張するが,この主張が採用できないのは後記4のとお
りである。)。そして,国旗及び国歌に関する法律は,日の丸を国旗とし,
君が代を国歌とする旨明確に定め,また,旧学校教育法38条,73条に
基づき定められた中学校学習指導要領及び盲・ろう・養護学校の学習指導
要領は「入学式や卒業式などにおいては,その意義を踏まえ,国旗を掲揚
するとともに,国歌を斉唱するよう指導するものとする。」と定められ,
またこれに準ずるとされているところ,卒業式等に参列した教職員等が,
国歌斉唱時に国旗に向かって起立して,国歌を斉唱するということは,こ
れらの規定の趣旨にかなうものである。他方,本件各職務命令は卒業式等
の儀式を行うに際して発出されたものであり,このような儀式においては,
出席者に対して一律の行為を求めること自体には合理性があるといえる
し,前記のとおり,卒業式等における国旗掲揚や国歌斉唱は,全国的には
従前から広く実施されていたのである。このような諸事情も総合すると,
本件各職務命令には,その目的及び内容において合理性,必要性が認めら
れるというべきである。
以上のとおり,本件各職務命令は,その内容において合理性,必要性が
認められるのであるから,原告らの前記のような歴史観ないし世界観又は
信条と緊張関係にあるとしても,あるいは,原告ら自身としては思想及び
良心の核心部分を直接否定するものであると受け止めたのだとしても,そ
のことによってただちに,本件各職務命令が原告らの思想及び良心の自由
を制約するものである,あるいはその制約は許されないものであるという
ことはできない。
(3)前提事実(1)アイ,(5),前記1(10)(11)のとおり,都教委は,平成15年
度卒業式及び平成16年度入学式において,校長から国歌斉唱の際,国旗に
向かって起立し,国歌を斉唱するよう職務命令を受けていたのに,これに従
わなかった教職員に戒告処分等の懲戒処分をし,特に二度目の懲戒処分とな
る場合には,より重い減給1月の懲戒処分をしているところ,原告らに対し
ては,懲戒処分の回数を重ねるごとに重い懲戒処分をし,本件各処分はそれ
ぞれ停職3月と停職1月となっているし,都教委は,このように職務命令違
反を理由に懲戒処分を受けた教職員に対し,再発防止研修をしている。
前記(2)に説示したとおり,本件各職務命令は,原告らの思想及び良心の自
由を制約するものであるとはいえず,また,その制約は許されないものであ
るともいえないから,本件各職務命令と同様の職務命令に違反するたびに従
前よりも重い処分がされても,それによって思想及び良心の自由が制約され
ることになったり,制約が許されなくなるものではなく,累積加重処分がさ
れたことをもって,本件各処分が違憲となるとはいえない。また,再発防止
研修についても,これが原告らの思想及び良心の放棄や転向を迫り,日の丸,
君が代に対する忠誠を強要するものであったと認めるに足りる証拠はない
し,そもそも事後的に再発防止研修がされることにより,本件各処分等の懲
戒処分が違憲となる関係にあるとは解されないから,この点から,本件各処
分が違憲となるともいえない。
もっとも,本件各職務命令と同様の職務命令に違反するたびに従前よりも
重い処分がされる場合に,当該処分が,非違行為の内容等からして重すぎる
と評価される場合はあり得るのであり,この点は,後記5で争点(4)について
検討する。
(4)以上によれば,本件各職務命令及び処分は,原告らの思想及び良心の自由
を侵すものとして憲法19条に反するとはいえないと解するのが相当であ
る。
3争点(2)(本件各職務命令及び本件各処分は旧教育基本法10条に反し,教師
の教育の自由を侵害するか。)について
(1)本件各職務命令は,旧学校教育法40条,76条により準用される同法2
8条3項の所属職員に対する監督権限に基づいて発せられたものである。他
方,本件都教委通達は,地教行法23条5号の教育委員会の教育課程に関す
る管理,執行権限に基づいて発せられたものであり,本件対B職務命令とは
異なる法的根拠を有する別個の行為であって,この通達の違法性は,当然に
本件対B職務命令に承継されるものではない。
しかし,前記1(7)(10)で認定したとおり,本件都教委通達は,都立学校の
各校長に対する職務命令として発せられており,各校長は,一校の例外もな
く,教職員等に対して,国歌斉唱時に国旗に向かって起立し,国歌を斉唱す
ることを命ずる職務命令を発していることからすると,形式的には,職務命
令を発すべき必要性の判断は,各校長が有していたとしても,事実上,本件
都教委通達により,校長にその裁量を働かせる余地はなく,本件対B職務命
令を発することを余儀なくされていたものと評価することもできる。
このように,都教委は,本件都教委通達を定めた上,都立学校における卒
業式等を本件都教委通達のとおり実施させるため,各校長をして,本件都教
委通達を発出させたといえるから,本件対B職務命令の発出についても,実
質的にみると,都教委が行ったものと評価することもできる。
そうすると,本件対B職務命令の発出は,本件都教委通達と一体のものと
いうこともできるから,本件都教委通達の発出が旧教育基本法10条1項に
いう「不当な支配」に該当するか否かは,本件対B職務命令の違法性に影響
する余地があるというべきである。
なお,本件対A職務命令については,前提事実(4)のとおり,本件立川市教
委通達は,本件都教委通達と同様の内容であるものの,証拠(証人G)によ
れば,立川市教委から校長に対する職務命令として発せられたものではない
と認められ,原告らの主張によると,立川市内で職務命令が発出されたのは
C中のみであるから,各校長において,職務命令を発するかどうかを判断す
る余地がなかったと認めるのは困難である。この場合,本件立川市教委通達
の違法性が,本件対A職務命令の違法性に影響する余地はないとも考えられ
るが,以下,本件都教委通達の違法性について検討するので,併せてこれと
同内容の本件立川市教委通達の違法性についても検討することとする。
(2)そこで,以下,本件都教委通達及び本件立川市教委通達の発出が「不当な
支配」に該当するかどうかを検討する。
ア旧教育基本法は,その前文において,「われらは,さきに,日本国憲法
を確定し,民主的で文化的な国家を建設して,世界の平和と人類の福祉に
貢献しようとする決意を示した。この理想の実現は,根本において教育の
力にまつべきものである。われらは,個人の尊厳を重んじ,真理と平和を
希求する人間の育成を期するとともに,普遍的にしてしかも個性ゆたかな
文化の創造をめざす教育を普及徹底しなければならない。」と規定してい
る。これは,戦前のわが国の教育が,国家による強い支配の下で形式的,
画一的に流れ,時に軍国主義的又は極端な国家主義的傾向を帯びる面があ
ったことに対する反省によるものであり,この理念は,これを具体化した
旧教育基本法の各規定を解釈するに当たっても念頭に置くべきものである
といえる(最高裁昭和51年5月21日大法廷判決・刑集30巻5号61
5頁)。
イ旧教育基本法10条は,「教育は,不当な支配に服することなく,国民
全体に対し直接に責任を負って行われるべきものである。」(1項),「教
育行政は,この自覚のもとに,教育の目的を遂行するに必要な諸条件の整
備確立を目標として行われなければならない」(2項)と規定していると
ころ,前記アのとおり,旧教育基本法が,戦前における教育に対する過度
の国家的介入,統制に対する反省から生まれたものであることに照らすと,
同条は,教育に対する権力的介入,特に行政権力による介入を警戒し,こ
れに対して抑制的態度を表明したものと解される。
また,同条1項は,教育は,国民から信託されたものであるから,国民
全体に対して直接責任を負うように行われるべく,その間において不当な
支配によってゆがめられることがあってはならないとして,教育が専ら教
育本来の目的に従って行われるべきことを示したものと考えられるから,
同条項が排斥しているのは,教育が国民の信託にこたえて自主的に行われ
ることをゆがめるような「不当な支配」であり,そのような支配と認めら
れる限り,その主体のいかんは問うところでないので,ここには,教育行
政機関や地方公共団体も含まれると解するのが相当である。
しかし他方で,憲法上,国は,適切な教育政策を樹立,実施する権能を
有し,国会は,国の立法機関として,教育の内容及び方法についても,法
律により直接又は行政機関に授権して,必要かつ合理的な規制を施す権限
を有するだけでなく,子どもの利益のため又は子どもの成長に対する社会
公共の利益のために規制を施すことが要請される場合もあり得るのであ
り,旧教育基本法がこのような権限の行使を限定したものと解すべき根拠
はない。むしろ旧教育基本法10条は,国の教育統制権能を前提としつつ,
教育行政の目標を教育の目的の遂行に必要な諸条件の整備確立に置き,そ
の整備確立のための措置を講ずるに当たっては,教育の自主性尊重の見地
から,これに対する「不当な支配」となることのないようにすべき旨の限
定を付したところにその意味があるといえる。
したがって,教育に対する行政権力の不当,不要の介入は排除されるべ
きであるとしても,許容される目的のために必要かつ合理的と認められる
介入は,たとえ教育の内容及び方法に関するものであっても,必ずしも同
条の禁止するところではないと解するのが相当である(前掲最高裁昭和5
1年5月21日大法定判決)。この点は,国にだけでなく,地方公共団体
においても異なるところはない。
ウそして,国の教育行政機関が法律の授権に基づいて義務教育に属する普
通教育の内容及び方法について遵守すべき基準を設定する場合には,子ど
もの教育は,教師と子どもとの間の直接の人格的接触を通じ,子どもの個
性に応じて弾力的に行わなければならないから,教師の自由な創意と工夫
の余地が要請されることを考慮した上で,教育に関する地方自治の原則を
考慮し,教育における機会均等の確保と全国的な一定の水準の維持という
目的のために必要かつ合理的と認められる大綱的な範囲にとどめられるべ
きものであるが,地方公共団体が設置する教育委員会が,教育の内容及び
方法について遵守すべき基準を設定する場合には,公立学校を所管する行
政機関として,その管理権に基づき,学校の教育課程の編成や学習指導等
に関して基準を設定し,一般的な指示を与え,指導,助言を行うとともに,
必要性,合理性が認められる場合には,適正でかつ許容される目的のため
に必要かつ合理的と認められる範囲内において,具体的な命令を発するこ
ともできると解される。
この点に関し,原告らは,教育委員会による教育の内容及び方法に対す
る介入についても大綱的基準にとどまるべきであると主張する。しかしな
がら,国の教育行政機関が法律の授権に基づいて義務教育に属する普通教
育の内容及び方法について遵守すべき基準を設定する場合には,教育に関
する地方自治の原則を考慮し,教育における機会均等の確保と全国的な一
定の水準の維持という目的のために必要かつ合理的と認められる大綱的な
基準にとどめられるべきものであるが,地方公共団体が設置する教育委員
会が教育の内容や方法に関して行う介入については,教育に関する地方自
治の原則に反することはあり得ないし,教育委員会は地教行法23条5号
により学校の組織編成,教育課程,学習指導等に関して管理,執行すると
され,文部科学大臣が同法48条2項2号により学校の組織編成や教育課
程等について指導,助言又は援助をすることができるとされているのとは
異なることに照らすと,教育委員会による教育の内容や方法に関する介入
を大綱的基準の設定にとどめるべき理由はないというべきである。
エそこで次に,本件都教委通達及び本件立川市教委通達について,これを
発すべき必要性,合理性があったと認められるか否かを検討する。
上記各通達を発出するに至った経過は,前記1(1)ないし(7),(9)(12)
のとおりであって,概要は次のとおりである。
平成元年に小学校,中学校及び高等学校の各学習指導要領が改訂され,
「入学式や卒業式などにおいては,その意義を踏まえ,国旗を掲揚すると
ともに,国歌を斉唱するよう指導するものとする。」と定められ,東京都
教育庁は,区市町村立教育委員会や都立学校長に対し,卒業式等がこの学
習指導要領に即して行われるよう求めていたが,徹底せず,平成11年,
都立盲・ろう・養護学校長に対し,実施指針を示し,区市町村教育委員会
にもその写しを交付した。この実施指針では,式典会場の正面に国旗を掲
揚することや,式次第に司会者が「国歌斉唱」と発声することなどが定め
られた。東京都教育庁は,その後も学習指導要領に基づく卒業式等の実施
をするようにさらに指導に取り組んだ結果,国旗掲揚,国歌斉唱の実施率
は100パーセントとなっていたものの,国旗が舞台壇上正面に掲揚され
ていなかったり,「国歌斉唱」を式次第に明記しなかったり,国歌斉唱時
に教員が起立せず,司会者が起立を発声しないという学校もあったことが
みられた。本件都教委通達は,このような状況下において,これらの課題
を解決するためには,各学校で,国旗掲揚及び国歌斉唱の実施について,
より一層の改善,充実を図る必要があるとして発出された。また,本件立
川市教委通達は,立川市教委が,各校長に対し,本件都教委通達の写しを
通知し,これを参考にして卒業式,入学式を適正に実施するよう指導した
が,これに沿わない運営がされていたことから発出された。
本件都教委通達及び本件立川市教委通達が発出された経緯は以上のとお
りであって,上記のような国旗掲揚,国歌斉唱の実施状況に照らせば,国
旗・国歌の指導について,卒業式等で指導するものとしていて大綱的基準
を定めている学習指導要領に基づいて,卒業式等を実施するよう改善,充
実を図るという本件都教委通達及び本件立川市教委通達の目的には合理性
があるといえるし,これを実現するため,卒業式等における国旗掲揚,国
歌斉唱の実施方法等を定める通達を特に発すべき必要性もあったといえ
る。
オそして,本件都教委通達及び本件市教委通達に基づき発出された本件各
職務命令が思想及び良心の自由を侵害するものとはいえないことは,前記
2のとおりである。また,本件都教委通達及び本件立川市教委通達は,卒
業式等における国旗掲揚及び国歌斉唱に関する実施指針のみを定めるもの
であって,教職員が生徒に対して日の丸,君が代に関する歴史的な事実等
を教えることを禁止するものではないし,教職員に対し,国旗,国歌につ
いて,一方的に一定の理論を生徒に教え込むことを強制するものとはいえ
ない。教師の教育の自由は後記(3)のとおりであり,本件都教委通達及び本
件立川市教委通達が教師の教育の自由を侵害するとはいえない。したがっ
て,これらの点においても,本件都教委通達及び本件市教委通達が合理性
を欠くとはいえない。
カなお,本件立川市教委通達は,原告Aが平成16年4月1日に異動した
後である平成17年1月7日に発出されている。しかし,本件立川市教委
通達が発出されたのは,前記1(12)のとおり,平成16年4月に行われた
入学式で,交付されていた本件都教委通達に沿わない運営がされていたた
め,入学式,卒業式の適正実施を図るためであったのであって,原告Aが
異動してきて直ちに発出されたのではないことからすると,殊更に原告A
を処分するために発出されたとは認められない。
キ以上によれば,本件都教委通達及び本件市教委通達は,旧教育基本法1
0条1項にいう「不当な支配」に該当するとは認められない。
(3)続いて,本件各職務命令が,教師の教育の自由を侵害するかを検討する。
ア普通教育の場面において,教師が公権力によって特定の意見のみを児童,
生徒に教授することを強制されないという意味や,児童,生徒の教育が教
師と児童,生徒との間の直接の人格的接触を通じ,その個性に応じて行わ
れなければならないという本質的要請に照らし,教授の具体的内容及び方
法について,ある程度自由な裁量が認められるという意味では,教師につ
いて,一定の範囲における教授の自由が保障されるべきであるといえるが,
大学の教育の場合には,学生が一応教授内容を批判する能力を備えている
と考えられるのに対し,普通教育においては,児童,生徒にこのような能
力はなく,教師が児童,生徒に対して強い影響力,支配力を有しているこ
とや,普通教育では,児童,生徒の側に学校や教師を選択する余地が乏し
く,教育の機会均等を図る上からも全国的に一定の水準を確保すべき要請
があることなどからすると,普通教育において,教師に完全な教授の自由
を認めることはできないと解するのが相当である(前掲最高裁昭和51年
5月21日大法廷判決)。
そして,日の丸や君が代についての歴史観ないし世界観については,様
々な意見があることは公知の事実であるが,本件各職務命令によっても,
原告らにおいて,生徒に対し,日の丸や君が代について様々な意見がある
ことを教えることを禁じられるものではなく,公立学校の卒業式等の儀式
的行事において,教職員等に対し,国歌斉唱時に日の丸に向かって起立し,
君が代を斉唱することを求めることが,生徒に対して特定の思想のみを教
授することを強制する性質を有するものであるとはいえないし,教職員等
や生徒,保護者や来賓等多数の人が参列する集団的行事である卒業式等に
おいて,校長がその権限に基づき,国歌斉唱を含む式次第やその進行を予
め一律に定め,これを実施しようとすることは,儀式としての性質上その
必要性はあるといえるから,本件各職務命令が,原告らに認められる教授
の自由を侵害するものであるとは認められない。
イなお,原告Bは,都立盲・ろう・養護学校における入学式等では,従前
フロア形式で子どもを中心とした自由な形式が比較的広く採用されていた
が,本件都教委通達以後は,画一的に壇上形式で行われるようになり,養
護学校等の個別事情を全く考慮せず,各校の裁量を許さなくなったと主張
する。
しかし,原告Bは,H校長からの「式典会場において,会場の指定され
た席で国旗に向かって起立して国歌を斉唱すること」という職務命令に違
反したために,本件B処分を受けたのであって,周年行事がフロア形式又
は壇上形式のいずれにより行われたかと本件B処分は何ら関係がないし,
前記アに説示したとおり,儀式としての性質上,式次第やその進行を予め
一律に定め,これを実施しようとすることは,その必要性があり,会場設
営等について定めることも必要性があるといえるから,教師の教授の自由
を侵害するとはいえず,不当な支配に当たるともいえない。
4争点(3)(本件各処分は地公法の規定等に反するか。)について
(1)地公法32条は,地方公務員は,上司の職務上の命令に従わなければなら
ないと規定しているところ,旧学校教育法28条3項により,校長は,校務
をつかさどり所属職員を監督する権限を有しており,校務を決定し,これを
各教職員に分掌させ,必要な指導を行うことができると解されるから,校長
は,当該学校に属する教職員の上司として,職務上の命令を発することがで
きる。
そして,校長は,教職員に対し,卒業式等の儀式的行事の実施に当たって
も,地公法32条の上司として,職務命令を発することができるところ,本
件各職務命令は,前記3(3)に説示したとおり,教師の教育の自由を侵害する
とはいえないから,この点の考慮により,校長に本件各職務命令を発する権
限がないと解することはできない。
したがって,原告らにおいて,本件各職務命令に従わなかったことは,地
公法32条違反に該当する行為である。
(2)原告らは,本件各職務命令に違反し,卒業式等における国歌斉唱時に起立
しなかったところ,本件全証拠によるも,原告らの不起立行為それ自体によ
って,式典の進行が具体的に妨害されたとは認められない。
しかし,原告らによる不起立行為は,児童・生徒らに対して指導すべき事
項である国旗,国歌の尊重に反するから,教育公務員として負う職務上の義
務に違反し,また,上司の職務上の命令に公然と違反したものとして,その
職の信用を傷つける行為であると評価することができ,地公法33条違反に
も該当する。
(3)また,本件においては,原告らにおいて,事情聴取の機会があったのに,
代理人弁護士の同席を求めた結果,事情聴取がされなかったことは当事者間
に争いがなく,このような事実経過に照らせば,原告らに告知と聴聞の機会
が与えられていなかったと評価することはできず,告知と聴聞の機会がなか
ったとして,憲法31条に定める法定手続の保障がされていなかったとはい
えない。
また,本件各処分について,必要な手続を踏まずにされたことを認めるに
足りる証拠はなく,緊急性もないのに拙速にされたということもできない。
(4)よって,本件各処分が地公法の規定等に反するとはいえない。
5争点(4)(本件各処分は処分権の濫用か。)について
(1)原告らは,本件各処分として,原告Aについては停職3月,原告Bについ
ては停職1月の処分を受けている。これら本件各処分が,重きに失し,処分
権を濫用したものとして,違法であるかを検討する。
裁判所が懲戒権者の裁量権の行使としてされた公務員に対する処分の適否
を審査するに当たっては,懲戒権者と同一の立場に立って懲戒処分をすべき
であったかどうか又はいかなる処分を選択すべきであったかについて判断
し,その結果と懲戒処分とを比較してその軽重を論ずべきものではなく,懲
戒権者の裁量権の行使に基づく処分が社会観念上著しく妥当を欠き,裁量権
を濫用したと認められる場合に限り違法であると判断すべきものである(最
高裁昭和52年12月20日第3小法廷判決・民集31巻7号1101頁参
照)。
(2)争いのない事実に証拠(各項に記載したもの)を総合すると,以下の事実
が認められる。
ア(ア)都教委は,入学式,卒業式などの国歌斉唱時に校長の職務命令に違反
して不起立等をした教職員に対する懲戒処分につき,以下の点を考慮し
て,懲戒処分である戒告を相当であるとしたと説明している。(乙イ9
6,97)
①当該行為は,児童・生徒にとって学校生活に有意義な変化や折り目
を付けるための重要な学校行事である入学式,卒業式等の場において,
公教育を担う教育公務員が,公教育の根幹である学習指導要領に基づ
き教育課程を適正に実施するために発せられた重要な職務命令に違反
するという重大な非違行為であること。
②当該行為は,入学式,卒業式等の来賓,保護者はもとより,適正に
国旗・国歌指導を受けることとされている児童・生徒を目の前にして
教職員が行ったものであり,教育上好ましくないこと。
③当該行為は,校長が適正に卒業式等を実施するよう指導を繰り返し
行い,さらに,学校設置団体の教育委員会から通達が発せられた後に
も,その通達に基づいて校長が教職員に対して,適正に卒業式等を実
施するよう指導を行った経過があったにもかかわらず,発生した職務
命令違反行為であること。
④学校も組織である以上,上司の職務上の命令に従うことは当然のこ
とであり,当該行為は,組織人としての職務上の義務違反であること。
(イ)また,都教委は,職務命令に違反して不起立等をした教職員のうち,
過去に非違行為を行って懲戒処分を受けている者については,次の理由
により処分量定を加重したと説明している。(乙イ96,97)
①従来から,過去に非違行為を行い,懲戒処分を受けたにもかかわら
ず,再び同様の非違行為を行った場合には,処分量定を加重してきた
こと。
②当該非違行為が,上記(ア)①ないし④に該当するとともに,他の教職
員の前で校長の職務命令を公然と無視するという看過できない行為で
あり,過去に非違行為を行って懲戒処分を受けながらかかる行為を行
っていること。
イ都教委の教育長は,平成18年4月27日,教職員の主な非行について
類型化し,それぞれに対する標準的な処分量定を定めた。これによると,
処分量定の決定に際しては,①非違行為の態様,被害の大きさ及び司法の
動向など社会的重大性の程度,②非違行為を行った職員の職責,過失の大
きさ及び職務への影響など信用失墜の度合い,③日常の勤務態度及び常習
性など非違行為を行った職員固有の事情のほか,適宜非違行為以後の対応
等も含め,総合的に考慮の上判断するものとされ,過去に非違行為を行い
懲戒処分を受けたにもかかわらず,再び同様の非違行為を行った場合は,
量定を加重するとされているところ,個別の事案の内容や処分の加重によ
っては,標準とされる処分量定以外とすることもありうるとの留保の下,
教職員の主な非行の一つの類型である職務命令違反等の勤務態度不良の場
合には,減給又は戒告とするとされている。(甲101の5)
ウ原告Aの処分歴
(ア)原告Aは,都教委から,本件A処分を受けるまでに,次の各処分を受
けていた。
平成6年4月25日,同年3月18日の当時勤務していた中学校卒業
式において,同校校長が国旗を国旗掲揚塔に掲揚するのを妨害し,掲揚
された国旗を引き降ろしたとして,減給(10分の1)1月の処分を受
けた。
平成14年3月27日,市教委の指導主事による原告Aの授業観察後
の協議会に出席するようにとの校長からの職務命令に違反したとして,
減給(10分の1)3月の処分を受けた。
平成17年3月31日,同月18日のC中卒業式において,国歌斉唱
の際,起立して国歌を斉唱し,司会から着席の指示があるまで起立して
いることとの職務命令を受けていたのに,国歌斉唱の際,いったん起立
したが途中で着席し,その後,起立してくださいと言われ一度起立した
が再び着席したとして,減給(10分の1)6月の処分を受けた。
平成17年5月27日,同年4月7日のC中入学式において,国歌斉
唱の際,起立して国歌を斉唱し,司会から着席の指示があるまで起立し
ていることとの職務命令を受けていたのに,国歌斉唱の際,起立しなか
ったとして,停職1月の処分を受けた。
平成17年12月1日,受講を命ぜられて同年7月21日に受講した
服務事故再発防止研修において,日の丸,君が代強制反対と書かれたゼ
ッケンを着用し,同研修の担当者から再三ゼッケンを取るよう言われた
にもかかわらず,同ゼッケンを着用し続け,また,同研修担当者に対し,
ゼッケンを取るようにとの発言を撤回しろ等の発言を繰り返すなどし
て,同研修の進行を妨げたとして,減給(10分の1)1月の処分を受
けた。(争いのない事実,乙イ95)
(イ)原告Aは,このほかに,八王子市教育委員会から,次の訓告を受けて
いた。
平成7年11月16日,同年3月22日の当時勤務していた八王子市
立O中学校において,朝の学級活動等の時間に,校長が卒業式において
日の丸を掲揚したことに抗議する内容の「職員会議の決定を踏みにじっ
た校長先生の行為を私は決して忘れはしない」と題する印刷物を生徒に
配布して読み上げるなどしたとして,文書による訓告を受けた。
平成11年8月,同年2月16日から19日にかけて,同中学校の家
庭科の授業時間に,国旗・国歌に対する指導が,あたかもPと同じマイ
ンドコントロールされた命令・服従の指導であるとしたプリントを配布
し,職員会議の内容を生徒に示し,校長の学校運営方針を批判するに等
しい授業を行ったとして,文書による訓告を受けた。(甲244,乙イ
2,3の1)
エ原告Bの処分歴
原告Bは,都教委から,本件B処分を受けるまでに,次の処分を受けて
いた。
平成16年4月6日,同年3月24日の当時勤務していた養護学校の卒
業式において,国歌斉唱の際,起立して斉唱することとの同校校長の職務
命令を,その命を受けた同校教頭から受けていたのに,国歌斉唱の際,起
立しなかったとして,戒告の処分を受けた。
平成16年5月25日,同年4月6日の当時勤務していた養護学校の入
学式において,国歌斉唱の際,起立して斉唱することとの職務命令を,同
校校長職務代理である同校副校長から受けていたのに,国歌斉唱の際,起
立しなかったとして,減給(10分の1)1月の処分を受けた。
平成17年3月31日,同月16日の当時勤務していた養護学校の卒業
式において,国歌斉唱の際,起立して斉唱することとの職務命令を,同校
校長から受けていたのに,国歌斉唱の際,起立しなかったとして,減給(1
0分の1)6月の処分を受けた。(争いのない事実)
(3)本件における原告らの職務命令違反行為は,国歌斉唱時に起立をしなかっ
たことと国歌を斉唱しなかったというものであり,児童・生徒らに対して指
導すべき事項である国旗,国歌の尊重に反するし,卒業式等の円滑な進行を
妨げるおそれがあるから,決して軽微な非違行為であるということはできな
い。特に,職務命令違反行為が,多数の者が集まる重要な行事である卒業式
や創立記念式典の場において,教員から指導を受けるべき生徒や他の教員,
保護者及び来賓の前で,公然と行われたものである上,職務命令の内容や趣
旨は原告らに明確に伝えられ,原告らは職務命令の内容を認識していたにも
かかわらず,意図的にこれを拒否しているのは明らかであり,非違行為とし
て軽微と評価することはできない。
もっとも,原告らの職務命令違反行為は,積極的に式典の進行を妨害する
行動に出たり,国歌斉唱を妨げたりするものではなく,現に,原告らの職務
命令違反行為によって,具体的に卒業式等の進行に支障が生じた事実は認め
られないから,この点からすると,本件各職務命令違反行為だけをみる限り,
非違行為の態様が極めて悪質であるとか,その結果が非常に重大であるとま
ではいえない。また,本件各職務命令自体は,他の職務命令とは異なる特別
の意味を持つとは認められないから,本件各職務命令に違反したことが,そ
れだけで重大な非違行為ということもできない。前記(2)イのとおり,都教委
が定めている主な非行に対する標準的な処分量定では,職務命令違反につい
ては減給又は戒告とされているところ,前記1(12),前記(2)アイに認定した
とおり,都教委は,卒業式等において国歌斉唱時に起立して国歌を斉唱する
ことという職務命令に違反した場合,1回目の違反であれば,地公法で定め
る戒告,減給,停職又は免職の4種の懲戒処分のうち,最も軽い戒告を相当
として,現に戒告処分としていたのであり,このような都教委の方針は,当
該非違行為自体の態様や結果等からして相当なものと評価することができ
る。
ただし,前記(2)イのとおり,都教委が定めている標準的な処分量定におい
ては,処分の対象となった当該行為だけでなく,日常の勤務態度及び常習性
などの職員固有の事情などを含めて総合考慮するとされ,過去に非違行為を
行い懲戒処分を受けたにもかかわらず,再び同様の非違行為を行った場合は,
量定を加重するとされている。公務員に対する懲戒処分は,公務員としてふ
さわしくない非行がある場合に,その責任を確認し,公務員関係の秩序を維
持するため,科される制裁であることからすれば,同種の非違行為に対する
懲戒処分が重なった場合,過去の懲戒処分等の処分歴に応じ,より重い懲戒
処分を科すことは,非違行為に対する措置として不相当ではないし,懲戒処
分の対象となった行為以外の事情を含めて総合考慮することも正当といえ
る。したがって,都教委が,入学式,卒業式などの国歌斉唱時に校長の職務
命令に違反して不起立等をして懲戒処分を受けた教職員が,同様の非違行為
をした場合に処分量定を加重することとしていること(前記(2)イ)は不相当
とはいえない。
そうであるとしても,原告らは卒業式等における不起立の職務命令違反を
繰り返したことにより,それぞれ停職処分を受けている。
懲戒処分は,重い順に免職,停職,減給,戒告の4種類があるところ,戒
告は別にして,それ以外の処分は,いずれも処分自体により,当該職員に対
し,財産上の不利益を課すものである上,停職は,減給と異なり,一定期間
自己の職務に従事する機会を奪われる点において,単に経済的不利益を課さ
れるというにとどまらないから,停職処分を科するについては,慎重に臨ま
なければならない。
そこで,原告A及び同Bについて,それぞれ停職3月,停職1月としたこ
とに裁量権の濫用がないかどうか,個別の事情を含めてさらに検討する。
まず,原告Aについては,前記(2)ウのとおり,卒業式における不起立とい
う本件A処分と同種の非違行為により,減給(10分の1)6月及び停職1
月の2回の処分を受けている上,卒業式における国旗の引降ろし,協議会出
席の拒否,研修の進行妨害といういずれも積極的行動による職務命令違反行
為により減給(10分の1)1月ないし3月の3回の処分を受けている。さ
らに,八王子市教育委員会から,校長が行った卒業式における国旗,国歌の
扱いを授業等で批判等した行為で文書訓告を2回受けている。このほか,証
拠(甲57,244,乙イ94,証人G)によれば,原告Aは,平成16年
3月の卒業式では校長から会場の入口で受付を担当するように要請されてい
たにもかかわらず,あえて卒業式場に入って国歌斉唱時に不起立を行ったこ
と,平成17年4月の入学式における不起立による1か月の停職期間中,連
日出勤し,生徒が通る校門前で校長の職務命令は間違っているとするプラカ
ードを掲げたことなどの事実が認められる。本件A処分は停職3月であり,
懲戒処分の中でも相当に重く,安易に選択してよいというものではないが,
上記のとおり,原告Aは,本件A処分と同種の職務命令違反行為を複数行っ
てすでに停職1月の処分まで受けているほか,本件A処分の非違行為に関連
する内容の非違行為を行うなどにより多数の懲戒処分や訓告を受け,さらに,
卒業式等における国旗掲揚,国歌斉唱に抗議する積極的な行為を続けている
のであって,このような事情を総合すると,原告Aに対する処分を加重して
停職3月としたことが,社会観念上著しく妥当性を欠き,裁量権の濫用であ
るということはできない。
次に,原告Bについては,前記(2)エのとおり,卒業式,入学式における不
起立という本件B処分と同様の非違行為により,戒告,減給(10分の1)
1月及び同6月の3回の処分を受けている。証拠(原告B本人)によれば,
原告Bは,平成17年3月まで勤務したQ養護学校において,日の丸,君が
代に否定的な見解に偏した授業をしていたことが窺え,また,卒業式等にお
いて起立して国歌を斉唱することという校長の職務命令にこれまで全く従っ
たことがなく,一貫して拒否する姿勢でいることが認められる。本件B処分
は,停職1月であり,決して軽い処分ではなく,同種の非違行為をしたこと
により処分量定を加重するとしても,減給処分は6月以下の範囲で5分の1
以下とされている(東京都職員の懲戒に関する条例3条)ことから,3回目
の懲戒処分である減給(10分の1)6月より重い減給処分とする選択もあ
り得るといえるが,財産上の不利益という観点からすれば,減給処分の中で
最も重い減給(5分の1)6月と停職1月の軽重は付けがたいし,原告Bは,
上記のとおり,同様の職務命令違反行為を複数行っていること等の事実や,
停職処分として1か月という期間自体は,停職3か月のようにほぼ1学期の
すべての期間について勤務できないのとは異なり,長期間とまではいえない
こと等の事情を考慮すると,原告Bに対する処分を停職1月としたことが,
社会観念上著しく妥当性を欠き,裁量権の濫用であるとまではいえない。
よって,都教委の原告らに対する本件各処分は,裁量権を濫用したものと
はいえない。
(4)以上によれば,都教委の原告らに対する本件各処分違法とはいえないか
ら,原告らの請求はいずれも理由がない。
6争点(5)(原告らの損害)について
これまで説示してきたとおり,本件各処分は,違法とはいえないから,本件
各処分により,教師としての職業的良心を傷つけられ,著しい精神的苦痛を被
ったとして損害賠償を求める原告らの主張は理由がない。
第4結論
以上によれば,原告らの請求は,いずれも理由がないので,これらを棄却す
ることとして,主文のとおり判決する。
東京地方裁判所民事第19部
裁判長裁判官中西茂
裁判官松本真
裁判官荒谷謙介

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