弁護士法人ITJ法律事務所

裁判例


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            主        文
  1 原告の請求を棄却する。
  2 訴訟費用は原告の負担とする。
            事実及び理由
第1 請求
被告が原告に対し,平成11年10月15日付けでした,別紙1「甲第10号証に係る文書の内
容及び非公開事項等一覧表」記載の各文書に関する公文書一部公開決定処分のうち,同
別紙の非公開事項及び非公開該当事由(条例6条該当号)欄記載の各事項を非公開とし
た部分を取り消す。
第2 事案の概要
1 本件は,情報公開請求等の活動をしている団体である原告が,被告に対し,別府市情
報公開条例(平成11年3月23日別府市条例第1号。以下「本件条例」という。)に基づき,
大分県別府市の支出負担行為等に関する公文書の公開を求めたのに対し,その一部を公
開しない旨の決定(以下「本件処分」という。)をしたので,後に公開された部分を除く部分
(以下「本件非公開部分」という。)について,本件処分は本件条例の解釈を誤った違法な
処分であるとして,その取消しを求めている事案である。
 2 争いのない事実等(括弧内に証拠等を挙げたもの以外は争いがない。)
・ 原告は,「国及び地方公共団体等に市民の声を反映させ、行政の開かれた民主的な運
営を実現すること」を目的とする権利能力なき社団であり,被告は本件条例2条1号の実施
機関である(争いのない事実,甲1の1)。
・ 本件条例6条は,「実施機関は、公開の請求に係る公文書に次の各号のいずれかに該
当する情報が記録されているときは、当該公文書の公開をしないことができる。」と定めてお
り,その2号には,
 「個人に関する情報(事業を営む個人の当該事業に関する情報を除く。)であって、特定
の個人を識別することができるもの(他の情報と照合することにより、特定の個人を識別する
ことができることとなるものを含む。)又は特定の個人を識別することはできないが、公開する
ことにより、なお個人の権利利益を害するおそれがあるもの。ただし、次に掲げる情報を除
く。
 ア 法令等の規定により、何人でも閲覧することができるとされている情報イ 公表すること
を目的として作成し、又は取得した情報 
ウ 氏名その他特定の個人が識別され得る情報の部分を除くことにより、公開しても、本号
により保護される個人の利益が害されるおそれがないと認められることとなる部分の情報
エ 公務員(国家公務員法(昭和22年法律第120号)第2条1項に規定する国家公務員及
び地方公務員法(昭和25年法律第261号)第2条に規定する地方公務員をいう。)の職務
の遂行に係る情報に含まれる当該公務員の職及び氏名に関する情報
オ 総務庁設置法(昭和58年法律第79号)第4条第11号に規定する法人(他の法律の規
定により同号の規定の適用を受けない法人を除く。)又は地方自治法(昭和22年法律第67
号)第221条第3項の規定に基づき市長が調査権等を有する法人の役員又は職員の職務
の遂行に係る情報に含まれる当該役員又は職員の職及び氏名に関する情報
カ 法令等の規定により行われた許可、免許、届出その他これらに相当する行為に際して
実施機関が作成し、又は取得した情報であって、公開することが公益上必要と認められるも
の」と,
3号には,
「法人その他の団体(国及び地方公共団体その他公共団体を除く。以下本号において「法
人等」という。)に関する情報又は事業を営む個人の当該事業に関する情報であって、公開
することにより、当該法人等又は当該個人に明らかに不利益を与えると認められるもの。た
だし、次に掲げる情報を除く。
ア 事業活動によって生じ、又は生ずるおそれがある危害から人の生命、身体又は健康を
保護するために、公開することが必要であると認められる情報
イ 違法又は著しく不当な事業活動に関する情報であって、市民生活に支障が生ずるおそ
れがあるために、公開することが必要であると認められる情報
ウ ア又はイに掲げる情報に準ずる情報であって、公開することが公益上特に必要と認めら
れるもの
エ 市の機関との契約に係る当該機関の支出に関する情報に含まれる当該支出の相手方
である法人等又は個人の情報であって、公開しても、当該法人等又は当該個人の事業に
著しい支障を生ずるおそれがないと認められるもの」と,
6号には,
「市の機関又は国等の機関が行う検査、監査、取締り、許可、争訟、交渉、入札、試験その
他の事務事業に関する情報であって、当該事務事業の性質上、公開することにより、当該
事務事業若しくは将来の同種の事務事業の目的を損ない、又は公正かつ円滑な執行に著
しい支障を生ずるおそれのあるもの」とそれぞれ規定されている(甲2)。
・ 別府市の交際費は,市交際費,市長交際費,助役交際費及び収入役交際費で構成さ
れている。上記各交際費は,会合の会費,協賛金,祝儀,香料等に充てられ,その支出
は,資金前渡の方法により,それぞれ3か月ごとに一定額の現金の前渡しを受け,これを資
金前渡職員である秘書広報課長において保管し,必要に応じて支払に充てられていた。そ
の前渡しに際しては,支出負担行為兼支出命令書又は支払依頼書兼領収書が作成され,
精算に際しては歳出戻入負担行為兼戻入命令書が作成されており,個々の支出について
は,交際費支出伺簿や前渡資金出納簿に,支払額とともに摘要,相手方の団体名,氏名,
所属,職,続柄,支払の目的,懇親会の開催場所等が記帳されていた。また,市交際費
は,スポーツ大会等で授与するトロフィーや贈呈品,来客等に対する贈答品,土産品等の
代金等にも充てられ,その場合の支出は,上記前渡とは別に,債権者からの請求を受け
て,支出命令によって債権者の金融機関の口座へ振り込む方法でされていた。この場合,
別府市は,債権者から,同人の振込口座に関する情報を記載した見積書及び請求書を収
受してこれを保管するとともに,債権者の金融機関名,預金種目及び口座番号を記載した
支出負担行為兼支出命令書を職員に起案,決裁させて債権者への振込を行っていた(甲
6の2,9の1の1ないし9の4の6,10の1の1ないし10の4の13,乙5)。
・ 別府市,同市長,同助役及び同収入役は,平成11年4月1日から同年9月30日までの
間,上記・の方法でそれぞれ交際費を支出した(9の1の1ないし4の6,10の1の1ないし4
の13)。
・ 本件処分の経緯
ア 原告は,被告に対し,平成11年10月1日,本件条例に基づき,同年4月ないし9月の
市・市長・助役・収入役の交際費支出に係る会計文書一切(前渡資金出納簿,支払命令
書,支払証明書,領収書,請求書等を含む。)の公開を請求した(甲3)。
イ 被告は,原告に対し,上記請求に基づき,同年10月15日付けで,別紙2記載の各文書
及び別紙3ないし6記載の各文書のうち「公開しない部分」欄記載部分を除いて公開し,上
記各「公開しない部分」欄記載の部分を,同各別紙の「公文書の一部を公開しない理由」欄
記載の理由で公開しないとの本件処分をした(争いのない事実)。
ウ 原告は,被告に対し,同年12月14日,本件処分について異議申立てをした。
  被告は,平成13年2月5日,上記異議申立てに基づき,非公開とした前記部分のうち,
「指定金融機関出納済印の個人名」,「請求書,領収書の責任者,担当者の個人名,印影
(公開することにより交際の相手方となった個人が識別され得る部分の情報を除く。)」,「法
人その他の団体に対する御祝(周年祝やこれに類するもの)に係る交際の相手方を識別し
得る部分の情報」及び「同種の団体に対する協賛金に関するもののうち,交際費の金額の
多寡に合理的な理由があるものに係る交際の相手方を識別し得る部分の情報」に関する事
項を非公開とした処分を取り消し,その余の部分については異議申立てを棄却する決定を
した。
  被告は,原告に対し,同月8日,本件処分で非公開とされた部分のうち,上記決定で非
公開処分を取り消した部分を開示する趣旨の公文書公開決定及び公文書一部公開決定
をした。その結果,本件非公開部分のみが非公開となり,非公開の対象となった文書名,非
公開事項及び非公開該当事由等は別紙1記載のとおりである(甲7,8,乙5,弁論の全趣
旨)。
 3 争点
別紙1の非公開事項及び非公開該当事由欄記載の各事項が,本件条例6条2号,3号,6
号に該当するか否かが争点である。
・ 別紙1の1頁ないし9頁記載の各文書及び同23頁記載の文書で書証番号欄に「甲第10
号証の2の17」と表示されているものの各非公開事項について
  (被告の主張)
上記各非公開事項には,債権者又は相手方の振込先,預金種目,口座番号,口座名義等
の振込銀行預金口座情報が記載されているが,これは本件条例6条3号に該当する。
本件条例6条3号は,法人等の事業活動の自由を保障するため,公開することにより,法人
等にとって不利益となると認められる情報が記載されている公文書について非公開とするも
のであるが,振込銀行預金口座情報は,事業者の事業活動に伴う金銭出納事務に関する
重要な内部管理情報であって,これがみだりに不特定又は多数に知られることになれば,
第三者が不正な方法によって口座の残高や入出金の明細などを容易に知ることも可能とな
り,本来,債権者の経営内部管理上,秘密であるべき資金繰りの状況,経営の実態,取引
先や顧客の状況などが明らかとなる危険性がある。しかも,債権者が振込銀行預金口座情
報を請求書に記載したのは,商取引上の必要に基づくものであって,広く公開することを予
定したものではない。
  (原告の主張)
本件条例6条3号は,公開により与えられる不利益が明らかであることを非公開の要件とし
ているのであるから,公開により生じる不利益が,抽象的かつ漠然とした危ぐや濫用のおそ
れにとどまらず,具体的な危険として存在することを要するところ,振込銀行預金口座情報
は,事業者にとって本質的な情報ではなく,事業活動による代金を払い込んでもらうために
広く取引先に公開しているものであって,これを公開することによって事業者に不利益が生
じることが明らかであるとはいえないから,本件条例6条3号に該当しないというべきである。
・ 別紙1の10頁以降に記載の各文書の「2号」欄記載の各非公開事項の本件条例6条2号
該当性
(被告の主張)
本件条例6条2号は,個人のプライバシーを最大限に保護する趣旨であるところ,プライバ
シーの内容及び範囲は必ずしも明確でないことから,一律に一切の個人に関する情報を非
公開にすることにより,実施機関の不統一な運用及び恣意的な運用を排除するため,個人
に関する情報であって,個人が識別され又は識別され得る情報については,ただし書に該
当しない限り非公開とすることを定めたものである。
そして,御見舞,香料,御祝及び懇親会会費等の支出は当該相手方個人の私生活等に関
連して行われたものであり,市長らの交際は,それが市長らの職務として行われたものであ
っても,私人である相手方からみた場合は私的な出来事である。したがって,交際内容が一
般に公表されることがもともと予定されているものを除いて,相手方の所属,職,氏名,続柄
等,個人が識別され又は識別され得る情報を非公開としたものである。
(原告の主張)
ア そもそも,市や市長,助役,収入役等の交際の相手方となる者の情報は個人に関する
情報に当たらない。
イ 本件条例は,市の保有する情報は公開することを原則とした上で,非公開が許される情
報を例外として限定列挙しており,また,前文や3条でも,市の保有する情報は公開を原則
とするとし,実施機関は,公文書の公開を求める権利が十分に尊重されるようにこの条例を
解釈し,運用に努めなければならないとした上で,プライバシーについて最大限に配慮をし
なければならないとしていることからすると,本件条例6条2号は,特定の個人を識別するこ
とができる情報の全てを非開示とできると解釈するのは相当でなく,そうした情報のうち,私
生活上の事実に関するもので,性質上公開に親しまないような個人情報に限り,非開示と
する趣旨と解するべきである。
そして,交際費に関しては,公務の相手方となるか否かについて私人に選択権があるし,祝
金や協賛金は,それによってその私人・私的団体の活動に対して金銭的かつ精神的に公
的支援がなされたと認識されるものであり,懇談は私人が市や市長などの政策形成に関与
する意味合いを持つものであるから,私生活上の事実には当たらないというべきである。
公開により不満,不快の念を抱く者が出ることが容易に予想されるとした最高裁平成6年1
月27日判決以後,情報公開が自治体行政の適正化,住民の信頼確保にとって必要不可
欠であるとする住民の感覚とこれに対応した自治体行政の意識が反映され,現在,全国都
道府県中16都道県において首長交際費情報が全面的又はほぼ全面的に公開されてい
る。
本件処分がなされた平成11年10月当時においては,交際費の公開という情報公開条例の
解釈,運用は,国民一般及び自治体行政の常識として定着した。
・ 別紙1の10頁以降に記載の各文書の「6号」欄記載の各非公開事項の本件条例6条6号
該当性
(被告の主張)
本件条例6条6号は,別府市の行う一切の事務事業の公正かつ円滑な執行を確保するとの
見地から,公開されることにより,市民全体の利益を損ない,特定の者に利益を与えるなど
して,事務事業の公正かつ円滑な執行を著しく困難にする情報について非公開とするもの
であり,同号に「おそれ」とあるとおり,そのような事態の生じる可能性が認められれば当該
情報を非公開とすることができるということを定めたものである。
そして,市長らの交際事務は,同号にいう「交際」又は「その他の事務事業」に該当するとこ
ろ,市長らの交際は,相手方との間の信頼関係ないし友好関係の維持増進を目的として行
われるものであり,交際費の支出の要否,金額,内容等は,別府市と相手方との関わり等を
考慮して個別に決定される性質のものである。したがって,相手方の氏名等の公表・披露が
当然予定されるような場合等は別として,相手方を識別し得るような公文書の公開によって
相手方の氏名等が明らかにされることになれば,相手方に他との比較による不快や不信の
念を抱く者が出,交際の相手方との間の信頼関係ないし友好関係を損なうおそれがあり,
交際それ自体の目的に反し,ひいては交際事務の目的が達成できなくなるおそれがあると
いうべきであるし,市長らにおいても,かような事態をおそれて,本来必要な交際費の支出
を差し控えたり,支出を画一的にすることも考えられ,市長らの交際事務を適切に行うことに
著しい支障を及ぼすおそれがあるというべきである。
上記各文書の非公開部分は,いずれもこうした交際費である,・御祝,・協賛金,せん別及
び贈答品,・会費,・御見舞,・香料に係るものであるから,本件条例6条6号により非公開と
した。
(原告の主張)
本件条例6条6号によって非公開とされる情報は,「検査,監査,取締り,許可,争訟,交
渉,入札,試験」という例示がなされていることから明らかなように,当該事務事業の性質
上,公開によって当該事務事業若しくは将来の同種の事務事業の目的を損ない又は公正
かつ円滑な執行に著しい支障を生ずるおそれのある情報であり,主観的に不満や不快を
感じる者もいるというような情報は含まないと解するべきである。
被告が主張する相手方の不満,不快の念は,その多寡や一部の者との特別な関係が明ら
かになることによるものであって,その事務の性質に起因するものではないし,そもそも,抽
象的な危ぐ又は杞憂にすぎない上,多数の地方公共団体において交際費の公開が行わ
れているのに,それによって交際事務に何らの支障も生じていないのであるから,被告の主
張は根拠を欠いている。
第3 当裁判所の判断
 1 争点・について
別紙1の1ないし9頁記載の各文書及び同23頁記載の文書で書証番号欄に「甲第10号証
の2の17」と表示されているものに記載されている債権者の振込先金融機関名及び口座番
号等は,当該法人等及び個人事業者が事業活動を行う上での重要な経理等の内部管理
に関する情報であって,当該法人等及び個人事業者は,別府市に対し,取引上の必要性
から請求書等に記載して同情報を示したものにすぎず,取引関係にない者にまで積極的に
公表しているものではなく,広く一般に知られているものでもない。そして,これらの情報をど
の範囲で誰に開示するかは当該法人等及び個人事業者が自由に選択決定し得るものであ
り,法人等及び個人事業者の同意もなく,その事業活動とも無関係に広くこれを開示すれ
ば,本来,法人等及び個人事業者の経営内部管理上,秘密であるべき資金繰りの状況,
経営の実態,取引先や顧客の状況などが明らかとなる危険性があるなど,当該法人等及び
個人事業者に明らかに不利益を与えると認められる。そうすると,債権者又は相手方の振
込先,預金種目,口座番号,口座名義等は本件条例6条3号に該当すると解される。
 2 争点・について
・ 本件条例6条2号は,個人のプライバシーを保護する観点から,個人に関する情報であ
って,特定の個人が識別され又は識別され得るもの等について非開示とすることを定めたも
のである。そして,保護すべき個人のプライバシーの範囲を一律に決定することは極めて困
難であることから,同号は,同号アないしカの除外自由に当たらない限り,非開示としている
ものである。
・ 原告は,特定の個人を識別することができる情報のうち,私生活上の事実に関するもの
で,性質上公開に親しまないような個人情報に限り,非開示とする趣旨と解するべきである
と主張する。しかしながら,情報公開請求権は実定法上の根拠に基づいて具体的に発生
するものであり,いかなる要件のもとに情報公開請求を認めるかは,立法政策の問題という
べきであるところ,本件条例6条2号の文言等からすると,前記のような趣旨のもとに,原告
の主張するような限定を付することなく,個人に関する情報であって,特定の個人が識別さ
れ又は識別され得るもの等について非開示とするものと解するのが相当であり,原告の前
記主張は採用することができない。
・ また,市や市長,助役,収入役等の交際の相手方となる者の情報であっても,個人に関
する情報であることに変わりはない(なお,本件条例6条2号は,その文言上,相手方が公
務員であると非公務員であるとを問わないと解すべきである。)から,これらの者の情報が個
人に関する情報に当たらないとの原告の主張も理由がない。
・ 原告の主張するように,本件処分当時,16都道府県において交際費の相手方の氏名を
公開しているとしても,証拠(甲12ないし15,26の1の1ないし26の5の6、乙6)によれば,
そうした運用をしていない自治体の方が未だ多いことが認められ,交際費の全面公開という
情報公開条例の解釈,運用が,国民一般に対する常識として定着しているとは認められな
い。また,前記・で判示したとおり,情報公開請求権をいかなる要件のもとに付与するかは
立法政策の問題であって,具体的な情報公開請求権の内容,範囲等は各条例に定めると
ころによると解するのが相当であるから,交際費の全面公開という運用が一部の自治体でさ
れているとしても,そのことが,本件条例の解釈として原告にそのような情報公開請求権が
あることの根拠となるものではない。
・ 別紙1の10頁以降に記載の各文書のうち,本件条例6条2号を非公開該当事由とする非
公開事項は,相手方の所属,職,氏名,続柄,印影であり,いずれも個人に関する情報で
あって,特定の個人が識別され又は識別され得るものというべきであるから,同号の非開示
事由に該当する。
3 争点・について
市長らの交際は,本件条例6条6号の交渉その他の事務に該当すると解されるところ,市長
らの交際事務は,相手方との信頼関係ないし友好関係の維持増進を目的として行われるも
のであり,相手方の氏名等の公表,披露が当然に予定されているような場合等は別として,
相手方を識別し得るような公文書の公開によって相手方等の氏名等が明らかにされること
になれば,懇親会や懇談会については,相手方に不快,不信の感情を抱かせ,今後別府
市の行うこの種の会合への出席を避けるなどの事態が生ずることも考えられるし,また,一
般に,交際費の支出の要否,内容等は,別府市の相手方とのかかわり等をしんしゃくして個
別に決定されるという性質を有するものであることから,不満や不快の念を抱く者が出ること
が容易に予想され,かかる事態は,交際の相手方との間の信頼関係あるいは友好関係を
損なうおそれがあり,交際それ自体の目的に反し,ひいては交際事務の目的が達成できな
くなるおそれがあるというべきである。さらに,これらの交際費の支出の要否やその内容等
は,支出権者である市長ら自身が,個別,具体的な事例ごとに,裁量によって決定すべきも
のであるところ,交際の相手方や内容等が逐一公開されることとなった場合には,市長らに
おいても前記のような事態が生じることを懸念して,必要な交際費の支出を差し控えたり,あ
るいは画一的にすることを余儀なくされたりすることも考えられ,市長らの交際事務の公正か
つ円滑な執行に著しい支障を及ぼすおそれがあるといえる。なお,こうしたおそれは,交際
それ自体が内包しているものであって,交際事務の性質によるものというべきであるから,こ
の点に関する原告の主張は失当である。
したがって,別紙1記載の文書の非公開事項のうち,交際の相手方が識別され得るものは,
相手方の氏名等が外部に公表,披露されることがもともと予定されているもの等,相手方の
氏名等を公表することによって上記のおそれがあるとは認められないようなものを除き,本
件条例6条6号により,公開しないことができる文書に該当するというべきである。
そこで,以下,個別の非公開事項について同号に該当するか否かを判断する。
・ 香料
香料は,葬儀の際に一般参列者等にこれが贈られた事実やその具体的な金額が披露され
るようなものではなく,香料贈呈の事実又は少なくともその具体的金額が不特定の者に知ら
れ得るものであったとはいえないから,これらの香料に係る市長らの交際は,少なくともその
内容が不特定の者に知られ得る状態でなされたものということはできず,その交際の性質,
内容等からして交際内容等が一般に公表,披露されることがもともと予定されているものとい
うことはできない。
そして,証拠(甲10の1の172ないし181,10の2の1ないし3,5,10の3の1ないし3,5,
7,12,13,15,16,18,19,10の4の1,2,5ないし8)によれば,香料については,その
金額が,市交際費及び市長交際費に係るものについては5000円及び1万円の2種類,助
役交際費及び収入役交際費に係るものについては3000円,5000円及び1万円の3種類
がそれぞれあったことが認められるから,これら香料の金額は別府市の相手方とのかかわり
等をしんしゃくして個別に決定されていたということができる。そうすると,これらの香料につ
いて,その相手方の氏名等が外部に公表,披露されることがもともと予定されているものな
ど,相手方の氏名等を公表することによって前記のおそれがあるとは認められないようなも
のということはできない。したがって,別紙1の10ないし15,17,18,20,21,24ないし31
頁記載の各文書の各非公開事項のうち,文書の内容欄に「交際の相手方に対し弔意を表
すための香料を前渡資金で支出するに当たり,支出金額等を判断するための伺い」又は
「交際の相手方に対し弔意を表すために贈られた香料の支出に係る前渡し資金の経理状
況の記録」とあるものは本件条例6条6号に該当するものというべきである。
・ 見舞金
見舞金に係る市長らの交際は,その相手方にとって私的な出来事というべきであり,交際の
性質,内容等からして交際内容等が一般に公表,披露されることがもともと予定されている
ものということはできない。
そして,証拠(甲10の1の174,10の1の180,10の2の2,10の2の5,10の2の6,10の3
の12,10の3の14)によれば,見舞金の額は,5000円,1万円及び2万円の3種類があっ
たことが認められ,その金額は別府市の相手方とのかかわり等をしんしゃくして個別に決定
されていたと推認することができる。また,見舞金は病気など望ましくないことに遭った人に
対して贈るものであり,故に相手方は公表をそもそも望まないものであることからすれば,交
際の相手方となりかつ評価・位置づけが高かった者を含めて前記のおそれがあるとは認め
られないということはできない。したがって,別紙1の11,14,17,18,20,21,26,28頁
記載の各文書の各非公開事項のうち,文書の内容欄に「交際の相手方に対する見舞金を
前渡資金で支出するに当たり,支出金額等を判断するための伺い」又は「個人に対する見
舞金の支出に係る前渡資金の経理状況の記録」とあるものは本件条例6条6号に該当する
ものというべきである。
・ 懇談会,懇親会等の会費及び負担費用
証拠(甲6の3,乙5)及び弁論の全趣旨によれば,別府市が会費及び負担費用を支出した
会合は,いずれも地方公共団体特別職,政界関係者,福祉関係者又は経済関係者等であ
る個人や報道関係団体との懇談会,懇親会及び祝賀会であり,市長らが公務との兼ね合い
をみながら出席するか否かを判断し,市長らと相手方とのかかわり等をしんしゃくして個別に
決定して会費又は負担費用を支出したものであること,上記懇談会等の開催自体が公表さ
れておらず,交際の相手方となった者の氏名等も公表,披露されることが当然に予定されて
いたものではないことが認められる。そうすると,上記会合は,いずれも相手方にとっては私
的な出来事ということができ,交際内容などが一般に公表,披露されることがもともと予定さ
れているものということはできない。
そして,上記認定事実によれば,市長らがこれら会合に出席してその費用を負担した事実
又は少なくともその具体的負担額が不特定の者に知られ得るものであったとは通常は考え
られない。そうすると,これら会合に係る市長らの交際は,少なくともその内容が不特定の者
に知られ得る状態でされたものということはできず,その交際費に関する情報は,相手方の
氏名等が外部に公表,披露されることがもともと予定されているものなど,相手方の氏名等
を公表することによって,前記のおそれがあるとは認められないようなものということはできな
い。
したがって,別紙1の11,14,16ないし26,28頁記載の各文書の各非公開事項のうち,文
書の内容欄に,「懇親会会費」,「懇親会に係る会費」,「懇親会に係る負担費用」,「祝賀会
に係る負担費用」,「祝賀会会費」,「祝賀会に係る会費」の記載があるもの(書証番号欄に
「甲10号証の2の17」と記載されているものを除く。)は本件条例6条6号に該当するものと
いうべきである。
・ 協賛金,せん別及び贈答品
協賛金,せん別及び贈答品は,その贈呈の事実やその具体的金額が一般に公表,披露さ
れるようなものであるとは認め難く,またそれらの事実が不特定の者に知られ得るものであっ
たとはいい難い。そうすると,これら協賛金等に係る市長らの交際に関する情報は,少なくと
もその内容が不特定の者に知られうる状態でされたものということはできず,これらの交際費
に関する情報は,相手方の氏名等が外部に公表,披露されることがもともと予定されている
ものなど,相手方の氏名等を公表することによって前記のおそれがあるとは認められないよ
うなものということはできない。
したがって,別紙1の11,14,16,18,19,21,24,25,27,29ないし32頁記載の各文
書の各非公開事項のうち,文書の内容欄に,「協賛金」,「せん別」,「物品の代金」の記載
があるものは本件条例6条6号に該当するものというべきである。
・ 祝金
祝金は,その贈呈の事実やその具体的金額が一般に公表,披露されるようなものであった
とは考え難く,また,それらの事実が不特定の者に知られ得るものであったとはいい難い。
そうすると,これらの祝金に係る市長らの交際に関する情報は,少なくともその内容が不特
定の者に知られうる状態でされたものということはできず,これらの交際費に関する情報は,
相手方の氏名等が外部に公表,披露されることがもともと予定されているものなど,相手方
の氏名等を公表することによって前記のおそれがあるとは認められないようなものということ
はできない。
したがって,別紙1の11,14,16,17,19,20,22ないし26,28,30,31頁記載の各文
書の各非公開事項のうち,「文書の内容」欄に「御祝」の記載があるものは本件条例6条6号
に該当するものというべきである。
4 以上によれば,本件処分は適法であって,原告の請求は理由がないから,棄却すること
とし,訴訟費用の負担につき行政事件訴訟法7条,民事訴訟法61条を適用して,主文のと
おり判決する。
(口頭弁論終結の日 平成14年4月23日)
   大分地方裁判所民事第1部
 
 
          裁判長裁判官 須 田 啓 之
 
 
             裁判官 細 野 高 広
 
 
             裁判官 宮 本 博 文
別紙省略

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