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○ 主文
一 原告の請求を棄却する。
二 訴訟費用は、参加によって生じた部分は補助参加人らの負担とし、その余は原
告の負担とする。
○ 事実及び理由
第一 当事者の求めた裁判
一 原告
1 平成七年七月二三日に行われた参議院(選挙区選出)議員選挙の神奈川県選挙
区における選挙を無効とする。
2 訴訟費用は、被告の負担とする。
二 被告
1 主文第一項と同旨
2 訴訟費用は、原告の負担とする。
第二 事案の概要
一 本件は、平成七年七月二三日に行われた参議院(選挙区選出)議員選挙(以下
「本件選挙」という。)の議員定数配分規定が憲法に違反するものであるとして、
神奈川県選挙区の選挙人である原告が、その選挙区における選挙の無効を求めた訴
訟である。
二 本件選挙は、公職選挙法の一部を改正する法律(平成六年法律第四七号。以下
「平成六年改正法」という。)により改正された公職選挙法(以下「公選法」とい
う。)の参議院議員定数配分規定(公選法一四条及び別表第三並びに平成六年改正
法附則。以下「本件議員定数配分規定」という。)に基づいて施行されたものであ
る。
三 争点
本件議員定数配分規定は、投票価値の平等を要求している憲法一四条一項等に違反
するものといえるか。
この点に関する原告の主張は別紙一、原告補助参加人らの主張は別紙二記載のとお
りであり、被告の主張は別紙三記載のとおりである。
第三 争点に対する判断
一 選挙権の平等と国会の裁量権
本件訴訟に関する当裁判所の基本的な考え方は、一連の最高裁判所判決とその趣旨
を同じくするものである。その要旨は、次のとおりである。
1 国会議員を選挙する権利は、国民の国政への参加の機会を保障する基本的権利
であって、国民固有の権利であり、憲法一四条一項の規定及びその政治の領域にお
ける適用としての憲法一五条三項、四四条ただし書の規定は、右権利につき、選挙
人資格における差別の禁止にとどまらず、選挙権の内容の平等、換言すれば、議員
の選出における各選挙人の投票の有する影響力の平等、すなわち投票価値の平等を
も要求するものと解される。しかし、憲法は、議員の定数、議員及び選挙人の資
格、選挙区、投票の方法その他選挙に関する事項は法律で定めるものとし(四三
条、四四条、四七条)、どのような選挙の制度が国民の利害や意見を公正かつ効果
的に国政に反映させることになるのかの決定を国会の広い裁量にゆだねている。し
たがって、投票価値の平等は、憲法上、唯一、絶対の基準ではなく、国会が正当に
考慮することのできる他の政策的目的ないし理由との関連において調和的に実現さ
れるべきものと解さなければならない。
2 憲法が国会を衆議院と参議院とで構成するものとし(四二条)、各議院の権限
及び議員の任期等に差異を設けているが(四五条、四六条、五四条、五九条から六
一条まで等)、その趣旨は、両議院がそれぞれ特色のある機能を発揮することによ
り国会を公正かつ効果的に国民を代表する機関たらしめようとするところにある。
右趣旨を受けて参議院議員選挙法(昭和二二年法律第一一号)は、参議院議員を全
国選出議員と地方選出議員とに区分し、後者については都道府県を単位とする選挙
区において選出されるものとしているが、各選挙区ごとの議員定数については、憲
法が三年ごとにその半数を改選すべきものとしていることに応じて、各選挙区を通
じてその選出議員の半数が改選されることになるよう配慮し、これを偶数としてそ
の最小限を二人とする方針の下に昭和二一年当時の各都道府県の人口に比例する形
で二人ないし八人の議員数を配分し(同法の別表)、昭和二五年に制定された公選
法の一四条、別表第二の議員定数配分規定はこれをそのまま引き継いでいる(な
お、改正経過については後に述べる。)。
右のような参議院議員の選挙制度の仕組みは、地方選出議員(又は後述の選挙区選
出議員)について、都道府県が歴史的にも政治的、経済的、社会的にも独自の意義
と実体を有し、政治的に一つのまとまりを有する単位としてとらえ得ることに照ら
し、これを構成する住民の意思を集約的に反映させるという意義ないし機能を加味
しようとしたものであると解することができ、国会の有する立法裁量権の合理的な
行使の範囲を逸脱するものであるとはいえないから、その結果として各選挙区の議
員定数と選挙人数又は人口との比率に較差が生じ、そのために選挙区間における選
挙人の投票価値の平等がそれだけ損なわれることとなったとしても、直ちに選挙権
の平等を侵害したものとすることはできない。
3 議員定数配分規定の制定又は改正の後、人口の異動が生じた結果、それだけ選
挙区間における議員一人当たりの選挙人数(又は人口)の較差が拡大するなどし
て、当初における議員定数の配分の基準及び方法と現実の配分の状況との間にそご
を来したとしても、その一事では直ちに憲法違反の問題が生ずるものではなく、そ
の人口の異動が当該選挙制度の仕組みの下において投票価値の平等の有すべき重要
性に照らして到底看過することができないと認められる程度の投票価値の著しい不
平等状態を生じさせ、かつ、それが相当期間継続して、このような不平等状態を是
正する何らの措置も講じないことが複雑かつ高度に政策的な考慮と判断の上に立っ
て行使されるべき国会の裁量的権限に係るものであることを考慮してもその許され
る限界を超えると判断される場合に、初めて議員定数の配分の定めが憲法に違反す
るに至るものと解される。
二 本件議員定数配分規定の合憲性
1 証拠(甲一、乙一、二、丙二、三)及び弁論の全趣旨によれば、本件議員定数
配分規定の改正経過等として次の事実を認めることができる。
参議院議員選挙法は、参議院議員の総数を二五〇人とし、それを全国選出議員(な
お、全国選出議員は、全都道府県の区域を通じて選出されるから、各選挙人の投票
価値には差異がない。) 一〇〇人と地方選出議員一五〇人とに区分し、同法の別
表の議員定数配分規定は、地方選出議員について、選挙区を都道府県単位とし、昭
和二一年四月二六日施行の臨時統計調査に基づく総人口を議員総定数一五〇で除し
て得られる数値で各選挙区の人口を除し、その結果得られた数値を基準とする各都
道府県の大小に応じ、これに比例する形で二人ないし八人の偶数の議員を配分した
ものである(ちなみに、当時の最大格差は宮城県対鳥取県の一対二・六二であっ
た。)。昭和二五年に制定された公選法の一四条及び別表第二の議員定数配分規定
は右の参議院議員選挙法の別表の定めをそのまま引き継いだものであり、その後沖
縄返還に伴って昭和四六年法律第一三〇号により沖縄県選挙区の議員定数二人が付
加された以外は、平成六年改正法による改正に至るまで右定数配分規定に変更は加
えられなかった。なお、昭和五七年法律第八一号による公選法の改正により、拘束
名簿式比例代表制が導入され、比例代表議員(なお、比例代表議員は、全都道府県
を通じて選出されるから、各選挙人の投票価値に差異がない点においては、従来の
全国選出議員と同じである。
)一〇〇人と都道府県を単位とする選挙区ごとに選出される選挙区選出議員一五二
人とに区分されることとなったが、議員総定数及び議員定数配分規定に変更はな
く、選挙区選出議員は、従来の地方区選出議員の名称が変更されたに過ぎないもの
であった。
その間、人口の異動により選挙区間の議員一人当たりの選挙人数(又は人口)の最
大較差は徐々に増大し、平成二年の国勢調査の結果によると、その議員一人当たり
の人口較差は最大一対六・四八(神奈川県対鳥取県)にまで増大した。また、選挙
人数(又は人口)の多い選挙区の議員数が選挙人数(又は人口)の少ない選挙区の
議員数より少ないという、いわゆる逆転現象も増加していった。
そこで、国会は平成六年各選挙区間における議員定数の不均衡を是正するととも
に、いわゆる逆転現象を解消すべく、公選法の改正に着手し、神奈川県、埼玉県、
宮城県、岐阜県でそれぞれ定数を二増加するのに対し、北海道で四、兵庫県及び福
岡県でそれぞれ二定数を減ずることを内容とする平成六年改正法を可決成立させ
た。その結果、平成二年の国勢調査結果における選挙区間の較差は最大一対四・八
一(東京都対鳥取県)に縮小し、選挙区間のいわゆる逆転現象は消滅した。そし
て、平成七年国勢調査結果(速報値)によれば、右較差は一対四・七九(東京都対
鳥取県)に縮小するに至っている。
2 ところで、最高裁昭和五八年四月二七日大法廷判決・民集三七巻三号三四五頁
は、昭和五二年七月一〇日施行の参議院議員選挙当時における選挙区間の議員一人
当たりの選挙人数の最大較差一対五・二六について、いまだ許容限度を超えて違憲
の問題が生ずる程度の著しい不平等状態が生じていたとするには足りない旨判示
し、さらに、最高裁昭和六一年三月二七日第一小法廷判決・裁判集民事一四七号四
三一頁は昭和五五年六月二二日施行の参議院議員選挙当時の最大較差一対五・三七
について、最高裁昭和六二年九月二四日第一小法廷判決・裁判集民事一五一号七一
一頁は昭和五八年六月二六日施行の参議院議員選挙当時の最大較差一対五・五六に
ついて、最高裁昭和六三年一〇月二一日第二小法廷判決・裁判集民事一五五号六五
頁は昭和六一年七月六日施行の参議院議員選挙当時の最大較差一対五・八五につい
て、いずれも、いまだ違憲の問題が生ずる程度の著しい不平等状態が生じていたと
するには足りない旨を判示したうえ、最高裁平成八年九月一一日大法廷判決は、平
成四年七月二六日施行の参議院議員選挙当時においては、選挙区間における議員一
人当たりの選挙人数の較差が最大一対六・五九にまで達しており、右選挙当時、違
憲の問題が生ずる程度の著しい不平等状態が生じていたものと評価せざるを得ない
としつつも、このような判定は、立法政策をふまえた複雑かつ高度に政策的な考慮
と判断の上に立って行使されるべき国会の裁量的権限の限界にかかわり、かつ、昭
和六三年一〇月には前記のような一対五・八五の較差については、違憲の問題が生
じないとする最高裁判決も存したことなどを総合考慮し、右選挙までの間に国会が
定数配分規定を是正する措置を講じなかったことをもって、その立法裁量権の限界
を超えるものと判断することは困難である旨判示した。
3 右2の大法廷判決を含む最高裁判所判決に示されたところに従う限り、本件議
員定数配分規定は、憲法に違反するものではないと判断される。すなわち、右の昭
和五八年の大法廷判決が最大較差一対五・二六につき(なお、当時既にいわゆる逆
転現象が存したことは当裁判所に顕著である。)、違憲の問題が生ずる程度の著し
い不平等状態が生じていたとはいえないと判示し、これを受けて、右の昭和六一年
の第一小法廷判決、昭和六二年の第一小法廷判決及び昭和六三年の第二小法廷判決
がそれぞれ最大較差一対五・三七、一対五・五六及び一対五・八五につき同様の判
示をし、右の平成八年の大法廷判決が右各判示を是認したうえで、最大較差一対
六・五九について、初めて、違憲の問題が生ずる程度の著しい不平等状態が生じて
いたと判示しているのであるから、平成六年改正法によって最大較差が一対四・八
一まで縮小したうえ、いわゆる逆転現象も解消されるに至り、その後の人口の異動
によって選挙区間における議員一人当たりの選挙人数(又は人口)の最大較差が若
干にせよ縮小傾向にあることに鑑みると、右の一連の最高裁判所判決に従う限り、
本件議員定数配分規定は、そこに違憲の問題が生ずる程度の著しい不平等状態が存
在するとするには足りないとせざるを得ないのである。
4 憲法は二院制を採用したうえ、参議院については、その議員の任期を六年とし
ていわゆる半数改選制を採用し(四六条)、その解散を認めないものとしているが
(七条三号、五四条参照)、このことから、参議院(選挙区選出)議員について
は、議員定数の配分をより長期にわたって固定し、国民の利害や意見を安定的に国
会に反映させる機能を持たせようとしているともいえるのであって、その点におい
て、参議院の議員定数配分規定の策定には衆議院のそれとは異なる政治的配慮、判
断の下に、国会が漸進的な是正という立法裁量権を行使することにもそれなりの合
理性が存すると考えられる。そして、選挙区を人口較差の大きい都道府県を単位と
して選挙区選出議員の総定数を一五二人に限定し、各選挙区ごとの議員定数を偶数
として最小限を二人とする公選法の採用している参議院議員の選挙制度の仕組みの
下において、選挙区間における一人当たりの選挙人数(又は人口)の較差の是正を
図ることは、相当に技術的な限界があることは明らかである。また、大都市集中等
による人口の異動によって都道府県間すなわち選挙区間の人口較差が、昭和二一年
当時(臨時統計調査人口)は最小(鳥取県)一に対し最大(東京都)七・五〇であ
ったものが、平成七年当時(国勢調査人口速報値)は最小(鳥取県)一に対し最大
(東京都)一九・一四にまで拡大しており、これによって、選挙区間の較差の是正
を図ることにつき更に限界が設けられることになったと考えられるのである。
しかし、参議院(選挙区選出)議員定数配分の選挙区間の不平等状態は、右のよう
な限界があればあるほど、その枠内、すなわち参議院議員の選挙制度の仕組みとの
調和を図る等の制約の下において、実行可能な範囲で機械的な厳密さを持って是正
するという方向が示されるのでなければ(その際、選挙区の最大定数を八人のまま
維持することの当否も問題となり得るであろう。)、国民の期待に応えることには
ならないものと思われるのである。
平成年改正法による改正は、参議院(選挙区選出)議員の定数配分規定を昭和二二
年以来初めて改めたものであり、これによって最大較差が縮小し、いわゆる逆転現
象が解消したものであり、選挙区間の投票価値の著しい不平等状態を是正したもの
と評価されるのであるが、改訂すべき点を最小限に止めようとしたものであって
(選挙区の最大定数八人を維持し、改める選挙区数を絞ったものであった。)なお
暫定的なものとみられ、漸進的にせよ、より抜本的な是正が期待されるのである。
三 以上のとおりであって、本件議員定数配分規定はこれを憲法に違反するものと
することはできず、本件議員定数配分規定のもとにおいて施行された本件選挙はこ
れを違憲、無効であるとすることはできない。
第四 結論
よって、本訴請求は失当であるからこれを棄却することとし、主文のとおり判決す
る。
(裁判官 鈴木康之 丸山昌一 小磯武男)
別紙一
一、(原告適格)
原告は、平成七年七月二三日に行われた参議院議員選挙(以下、「本件選挙」とい
う。)の神奈川県選挙区の選挙人である。
二、(本件選挙が本件改正規定に基づき実施されたこと)
本件選挙は、公職選挙法(昭和二五年法律第一〇〇号以下、「公選法」という。)
について、平成六年六月二九日法律第四七号によって改正された参議院議員定数配
分規定(同法第一四条、別表第三、並びに同法附則。以下、「本件改正規定」とい
う。)による選挙区及び議員定数の定めに従って実施されたものである。
三、(本件改正規定の違憲性-序-)
しかし、本件改正規定は、本訴状末尾添付[検討表1](以下、「表1」とい
う。)から明らかなように、人口分布に比例した配分をしておらず、憲法が規定す
る代議制民主制(憲法前文、同第一条、同第四三条一項)、その基礎となる公正な
代表を選出する契機である選挙権の平等の保障(憲法第一五条一項、第一四条一
項)に反する配分であり、違憲の評価を免れず、よって、憲法九八条に基づき無効
とされるべきものであり、かかる本件改正規定に基づき実施された本件選挙は無効
である。
四、(表1による各選挙区の検証)
1 表1は、平成二年国勢調査人口を基に、選挙区の人口の多い順に四七区の選挙
区を並び換えたものであるが、同表を見ると、本件改正規定による議員定数の配分
が、必ずしも、当該選挙区の現実の人口数(以下、この数値を「選挙区人口」とい
う。)に比例していないことが判る。
2 すなわち、表1では、「選挙区人口」を、表1添付の「表1で用いられる概念
の説明」(以下、単に「説明」という。)記載の「必要人数」で引き、これにより
得られた数値を「過不足人数」という概念で表し、現実の選挙区人口と、あるべき
必要人数との乖離の程度を表したものである。
3 「過不足人数」と、「代表の欠缺」、「過剰代表」について
右の過不足人数という概念によると、この数値が正の数値であるときは、選挙区人
口が必要人数を上回り、それはとりも直さず、当該選挙区において法定議員数によ
り代表されていない人口集団が存在するものと観念できる(以下、これを「代表の
欠缺」という。)。
逆に、過不足人数が負の数値であるときは、選挙区人口が必要人数を下回り、これ
は、当該選挙区において法定議員数により過剰に代表されている人口集団が存在す
るものと観念できる(以下、これを「過剰代表」という。)。
4 東京都選挙区の状況
以上をもとに、東京都選挙区の状況を検証すると、No.1の東京都選挙区は、選
挙区人口が四七選挙区の中で最も多い選挙区ではあるが、法定議員数が8名しか配
分されていない。
同表では、説明記載の「基準人数」は八一万三二三一・三六人(小数点三桁以下四
捨五入。以下、同様とする。)であり、これに、右「法定議員数」8名を乗ずる
と、約六五〇万五八五一人(小数点以下四捨五入。表1の「必要人数」の欄参
照。)の人口が、右法定議員数8名により代表されていることになるが、残りの約
五三四万九七一二人(表1の「過不足人数」の欄参照。)の人口は、全くこれを代
表する者がいない状態、すなわち、前述の「代表の欠缺」が生じていることが判
る。
この代表されない人口に対し、代表されるべき議員数を適正に配分するならば、法
定議員数8の外に、さらに最低6議席(小数点五桁以下四捨五入。表1の「過不足
議員数」の欄の「六・五七八三」という数値参照。)の議席数を配分することが必
要である。
つまり、本件改正規定によるNo.1の東京都選挙区へ議席数の配分は、6名以上
もの議席数を不足させ、「代表の欠缺」の状態を顕著に生じさせた違憲な配分であ
る。
5 No.3の神奈川県選挙区の状況
次に、原告の選挙区であるNo.3の神奈川県選挙区は、四七選挙区の中で三番目
に選挙区人口が多い選挙区であり、本件改正規定により法定議員数が4名から6名
に増員された選挙区である。
しかし、本件改正規定による改正にもかかわらず、神奈川県選挙区は議席数の配分
が未だ足りない選挙区である。
すなわち、表1を見ると、前記「基準人数」八一万三二三一・三六人に、神奈川県
選挙区の「法定議員数」6名を乗ずると、約四八七万九三八八人(小数点以下四捨
五入。表1の「必要人数」の欄参照。)の人口が、右法定議員数6名により代表さ
れていることになるが、残りの約三一〇万一〇〇三人(表1の「過不足人数」の欄
参照。)の人口は、全く代表されていない状態、すなわち、前述した「代表の欠
缺」の状態が生じていることが判る。
この代表されない人口に対し、代表されるべき議員数を適正に配分するならば、法
定議員数6の外に、さらにあと最低3議席(小数点五桁以下四捨五入。表1の「過
不足議員数」欄の「三・八一三二」という数値参照。)は、議席数を多く配分する
ことが必要である。
つまり、本件改正規定によるNo.3の神奈川県選挙区へ議席数の配分は、3名以
上もの議席数の不足させ、「代表の欠缺」を生じさせた違憲な配分である。
6 No.23の鹿児島県選挙区の状況
逆に、No.23の鹿児島県選挙区は、法定議員数が4名で、説明記載の「基準人
数」八一万三二三一・三六人に、右「法定議員数」4名を乗ずると、右四名の議員
で約三二五万二九五二人(小数点以下四捨五入。表1の「必要人数」の欄参照。)
もの人口を代表していることになる。
しかし、同選挙区の現実の人口は、一七九万七八二四人である。
とすると、約一四五万五一〇一人(表1の「過不足人数」の欄参照。)もの架空の
人口が、過剰に代表された結果となっている。つまり、いわゆる「過剰代表」が顕
著な選挙区である。
右からすると、同選挙区の法定議員数は4であるが、本来4名も必要ではなく、こ
のうち、最低1議席(小数点五桁以下四捨五入。表1の「過不足議員数」の欄の
「一・七八九三」という数値参照。)は、現実の人口よりも多く配分された議席数
であり、いわば架空の人口を代表した「過剰代表」であることが判る。
つまり、本件改正規定によるNo.23の鹿児島県選挙区への議席数の配分は、1
名以上もの議席数を多く配分し、「過剰代表」の状態を顕著に生じさせた違憲な配
分である。
5 以上のように、表1を見ただけでも、本件改正規定が、人口分布に比例した議
席数の配分をなしていないことは明白である。
五、(人口較差論による検証)
また、各選挙区間の議員一人あたりの人口数を比較したとき、人口の最も多い東京
選挙区と人口の最も少ない鳥取県選挙区では、四・八一三七対一となっており、こ
の基準からしても、本件改正規定は、投票価値の著しい不平等が存在している。
六、(結語)
以上の如く、本件改正規定は、合理的根拠なしに選挙区如何により選挙権の価値に
不平等を生じさせており、この状態は、憲法前文、一三条、一四条一項、一五条一
項、四四条但書、四七条に違反し、九八条一項、九九条により無効な立法である。
よって、原告は、違憲無効な議員定数配分規定である本件改正規定に基づいて行わ
れた本件選挙を無効とする判決を求め、公職選挙法第二〇四条の規定に基づき本件
訴訟に及んだ次第である。
以上
別紙二
平成六年法の改正経過について
一 平成六年六月二九日法律第四七号によって改正されて公職選挙法の参議院選挙
区選出議員定数配分規定(以下、「本件定数配分規定」ともいいます。)は、第一
二九回国会において、まず「参議院政治改革に関する特別委員会」において審議さ
れ(丙第二号証参照。)、その後参議院本会議での可決を経た後、「衆議院政治改
革に関する調査特別委員会」において審議され(丙第三号証参照。)、同院の可決
によって成立したものです。
右の両書証の記載に見られるとおり、いわば実質的な審議に要した時間は、いずれ
の議院の特別委員会においても、それぞれ一時間に満たないものでした。
また、その審議内容の点についても、参議院の衆議院に対する特殊性とか、二院制
運用の原理・原則論とかはもとより、昭和二二年法における配分過程の確認も、は
たまたそれとは異なる原則を採用する旨の宣言もなく、ただひたすらに「逆転現
象」の除去にのみ汲々とし、挙句の果、「逆転是正だけを緊急避難的な措置として
講ずるということで本案を御提案申し上げているわけでございます。」(丙第三号
証第六頁第二段目以下のA参議院議員-議案提案者の一人-の発言)というような
ていたらくでした。
思うに、「逆転現象」なるものは価値の逆転を意味するのですから、その程度を云
々すること自体、むしろ無意味であり、したがって、この観点から議員一人当り人
口の較差を論じるなどということは正にこれに当ります。
例えば、アメリカ合衆国連邦上院議員の数は、各州二名ですから、そこに「逆転現
象」が生じる余地はなく、人口六〇万人に満たないアラスカ州と人口三〇〇〇万人
を超えるカリフオルニア州との間にすら「逆転現象」は生じ得ないわけですが、私
は、このような較差を議論の対象にした論稿は寡聞にして知りません。
したがって、「逆転現象」の除去が法改正の目的であるというのは、いわゆる立法
裁量の問題には、到底、該当しないものであるといわなければなりません。けだ
し、いわゆる「立法裁量」は憲法適合性が保たれている範囲内でのみ議論の余地が
あるものであるからです。
わが国の参議院「定数配分」において長期にわたった「逆転現象」の存在が、平等
選挙の趣旨に悖るものである以上、その排除の達成のみでは、ただちに違憲状態を
脱したことにはなりません。まして、本件法改正の場合、昭和二二年法で確認され
た配分原則の変更という立法政策上の重大事項の論議は全くなされなかったのです
から、同法が拠った原理・原則はそのまま維持されたものと見做さざるを得ませ
人。
さらに、すでに触れた「緊急避難的な措置」という言い分は、実は、かって衆議院
議員の定数配分是正措置の折に繰り返して用いられた用語であるという歴史上の事
実に徴すると、その不定見がもたらした過去三〇年間にも及んだ平等選挙の実現拒
否を再び思い浮かばせすらします。
いわゆる「立法裁量」とは、あくまでも憲法の許容する範囲内においてこそ、その
機能が承認されるべきものです。このことはすでに述べてきたところから論理必然
的に導かれる結論であると思料されます。
平成六年法の違憲性について
一 ここで、平成六年改正法の憲法適合性について述べます。
昭和二二年法が採用した配分原則は、(1)「下方取り分」に見合う議員を各選挙
区(都道府県)に配分する、(2)配当を受けることができなかった選挙区には最
小議員数である一名を配分する、(3)残余の議員はいわゆる「最大剰余法式」に
基づいて配分する、というものでした。なお、いわゆる「偶数配分」制を採用した
ので、議会における実際上の説明は些か判り難くなっていましたが、定数が一五〇
名でしたから、配分作業においてはその半数に当る七五名を配分基礎として得られ
た数値を倍数化したものと推断されます。
今次の法改正においては右の原則を変更するというような論議は全く行われなかっ
たのですから、それによる結果に特段の不都合が生じたことが証明されない限り、
昭和二二年法制定の際に用いられた配分手順が採用されるべきであったと思料され
ます。
その結果は、この書面の末尾に添附する〈表A〉記載のとおりになります。この
際、この表と実際に行われた法改正の結果との間に存する顕著な差異を見比べてい
ただきたいと思います。その歴然たる差異は、到底、憲法適合性を保ち得ないもの
である旨を主張する次第です。
別紙三
被告は、原告の主張に対し、以下のとおり反論する。
一 日本国憲法における投票価値の平等
原告は、参議院(選挙区選出)議員の定数配分は、各選挙区の選挙区人口に比例し
て行われるべきであると主張しているようである。
1 しかし、原告の主張するような人口比例主義は、日本国憲法(以下「憲法」と
いう。)の要求するところではない。
すなわち、憲法は、国会の両議院の議員定数については、単に「両議院の議員の定
数は、法律でこれを定める。」(四三条二項)、選挙に関する事項については、
「選挙区、投票の方法その他両院の議員の選挙に関する事項は、法律でこれを定め
る。」(四七条)という各規定を置いているにすぎず、異なる選挙区間における
「投票価値の平等」をも考慮して、各選挙区の人口に比例して議員定数を配分すべ
き旨を積極的に定める規定を有しないのである。また、公職選挙法(以下「公選
法」という。)も、人口比例主義を採る旨の規定を有しない。
2 議会制民主主義の下においては、国民各自、各層の様々な利害や意見を公正か
つ効果的に議会に代表させるための方法として、具体的な選挙制度の仕組みが定め
られるのであるが、「投票価値の平等」の要求は、具体的な選挙制度の仕組みの定
め方等によって、一定の譲歩、後退を免れない性質のものである。
そこで、憲法は、国会の両議院の議員の選挙について、議員は全国民を代表するも
のでなければならないという制約の下で、議員の定数、選挙区、投票の方法その他
選挙に関する事項は法律で定めるべきものとし(四三条二項、四七条)、どのよう
な選挙の制度が国民の利害や意見を公正かつ効果的に国会に反映させることになる
かなどについての決定を、国会の極めて広い裁量に委ねているのであって、国会
が、その具体的決定に当たり、異なる選挙区間における「投票価値の平等」をどの
程度まで考慮するかは、国会が独自に決定すべき立法政策の問題としているのであ
る。
3 このように、憲法は、原告主張のように「投票価値の平等」を選挙制度の仕組
みの決定における唯一、絶対の基準としてはいない。そして、国会は、正当に考慮
することのできる他の政策的目的ないし理由をもしんしやくして、その裁量により
両議院議員の各選挙制度の仕組みを具体的に決定できるのであり、国会の定めた法
律がその裁量権の行使として合理性を有する限り、それによって異なる選挙区間に
おける「投票価値の平等」に一定の制約が付される結果になったとしても、それは
憲法自身の容認するところであるというべきである。
二 参議院議員選挙制度の仕組み
1 公選法別表第三の定めは、憲法が参議院については「三年ごとに議員の半数を
改選する。」(四六条)としていることに基づき、公選法が議員を比例代表選出議
員と選挙区選出議員に区分していることを受け、選挙区選出議員について、各選挙
区ごとにその選出議員の半数が改選されることになるように配慮した結果、選挙区
選出議員の総定数一五二人のうち、全国四七の選挙区のいずれにも最低二人の議員
定数を均等に配分した(計九四人)上、さらに、その余の五八人については、人口
を基準とする各都道府県の大小を考慮して、二人、四人又は六人といういずれも偶
数の定数を付加配分したものである。
2 公選法が参議院議員の選挙の仕組みについて右のような定めをした趣旨・目的
は、憲法が国会の構成について衆議院と参議院の二院制を採用し、各議院の権限及
び議員の任期等に差異を設けている趣旨にのつとり、等しく全国民を代表する議員
であるという枠の中にあっても、参議院議員については、衆議院議員とはその選出
方法を異ならせることによって、その国民代表としての実質的内容ないし機能に衆
議院とは異なる独特の性格を持たせようとする意図に基づくものである。そして、
比例代表選出議員については実際上職能代表的な色彩が反映されるようにし、選挙
区選出議員については、都道府県を基盤とする地域代表の要素を加味しようとした
もの、すなわち、都道府県が歴史的、政治的、経済的、社会的に独自の意義と実体
を有し、一つの政治的まとまりを有する単位として捉えられていることに照らし、
これを構成する住民の意思を集約的に反映させるという意義ないし機能を加味しよ
うとしたものであると解されるのである。
三 結論
1 参議院議員選挙についてこのような選挙制度を採用した場合には、選挙区選出
議員の選挙において各選挙区の議員一人当たりの選挙人数にある程度の較差が生ず
ることは当然であり、そのために選挙区間における選挙人の投票価値の平等が一定
限度で損なわれたとしても、直ちに議員定数の配分規定が憲法一四条に違反するも
のとはいえない。
また、不断に生ずる人口の異動をいかに選挙制度の仕組みに反映させるかなどの問
題に対しては、複雑かつ高度に政策的な判断が要求されるから、その決定は、国会
の裁量にゆだねられている。
したがって、「議員定数配分規定の制度後人口の異動が生じた結果、それだけ選挙
区間における議員一人当たりの選挙人数の較差が拡大するなどしたとしても、その
一事では直ちに憲法違反の問題が生ずるものではなく、その人口の異動が当該選挙
制度の仕組みの下において投票価値の平等の有すべき重要性に照らして到底看過す
ることができないと認められる程度の投票価値の著しい不平等状態を生じさせ、か
つ、それが相当期間継続して、このような不平等状態を是正する何らの措置をも講
じないことが、複雑かつ高度に政策的な考慮と判断の上に立って行使されるべき国
会の裁量的権限に係ることを考慮してもその許される限界を超えると判断される場
合に、初めて議員定数の配分の定めが憲法に違反するに至るものと解するのが相
当」(最高裁昭和六三年一〇月二一日第二小法廷判決・判例時報一三二一号一二三
ページ)である。
2 本件についてみると、参議院の選挙区別定数については、平成二年の国勢調査
の結果では、選挙区間の議員一人当たりの選挙人数の較差は最大で六・四八倍(神
奈川県対鳥取県)にまで拡大し、選挙区間のいわゆる逆転現象も見られる状況にあ
ったが、平成六年の公選法改正(定数の不均衡を是正するため、各選挙区において
選挙すべき議員の数を改め、神奈川県、埼玉県、宮城県、岐阜県でそれぞれ定数を
二増加させたのに対し、北海道で四、兵庫県、福岡県でそれぞれ二定数を減ずるこ
ととした(同法別表第三)。)の結果、平成二年の国勢調査結果における選挙区間
の較差は最大で四・八一倍(東京都対鳥取県)に縮小し、有権者数の少ない選挙区
の方が有権者数の多い選挙区よりも多くの議員が配置されているという選挙区間の
いわゆる逆転現象は解消された。なお、平成七年の国勢調査の結果(速報値)によ
れば、選挙区間の較差は最大で四・七八六倍(東京都対鳥取県)である。
しかし、このように選挙区選出議員の議員定数の配分と選挙人数に不均衡が存した
としても、それだけではいまだ違憲の問題が生じる程度の著しい不平等状態が生じ
ていたとはいえないというべきである。
3 以上によれば、本件議員定数配分規定が、本件選挙当時において、憲法に違反
していたという原告の主張は理由がない。

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