弁護士法人ITJ法律事務所

裁判例


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○ 主文
本件訴えを却下する。
訴訟費用は原告の負担とする。
○ 事実
第一 当事者の求めた裁判
一 請求の趣旨
被告は京都府に対し一億九八八三万二〇〇〇円及びこれに対する昭和五三年七月二
一日から支払ずみに至るまで年五分の割合による金員を支払え。
訴訟費用は被告の負担とする。
二 本案前の答弁
主文と同旨
三 請求の趣旨に対する答弁
原告の請求を棄却する。
訴訟費用は原告の負担とする。
第二当事者の主張
一 請求原因
1 原告は京都府の住民であり、訴外A(以下「訴外人」という。)は昭和二五年
四月一六日から昭和五三年四月一五日まで京都府知事の地位にあつた者である。
2 訴外人は同年七月二〇日、京都府から退職金として一億九八八三万二〇〇〇円
を受領した。
3 しかしながら、訴外人には全体の奉仕者たるにふさわしくない非行があつたの
で、「職員の退職手当に関する条例」(昭和三一年九月一六日京都府条例第三〇
号)九条一項一号により退職金を受領する資格を欠いていた。すなわち、原告は昭
和三九年四月一日付で京都府教育公務員として採用され、京都府立福知山高等学校
教諭として勤務していたところ、訴外人は昭和四一年一月ころ、京都府教育委員会
教職員課給与係長Bに対し原告の職を奪うよう命じ、同人は、同課課長C、課長補
佐D、人事係長E、人事係主査F及び福知山高等学校長Gと共謀のうえ、同年二月
二六日、原告から辞職願を騙取し、同年三月末日ころ、教育長Hの決裁印を騙取
し、同教育長名義の辞職承認通知書を偽造して原告に伝達し、原告から京都府教育
公務員の職を奪つた。訴外人は、右行為につき刑法一五六条、二四七条の罪の間接
正犯であり、地方公務員法二九条一項三号により当然に懲戒免職されるべきであつ
た。
4 従つて、訴外人は、前記退職金の受領により法律上の原因なくして利得を得、
これについて悪意であつて、京都府に対し同額の損失を与えたものであるから、京
都府に対し不当利得金の返還義務を負うものである。
5 原告は、昭和五五年一二月二二日、京都府監査委員に対し、訴外人の退職金受
領につき不当利得返還請求の訴訟提起を京都府知事に勧告するよう求める監査請求
をしたが、同委員は昭和五六年一月二〇日、右請求は地方自治法二四二条に定める
住民監査請求に該当しないとの理由で却下し、
そのころ原告に通知した。
6 訴外人は昭和五六年二月二七日死亡し、被告は相続により訴外人の一切の権利
義務を承継した。
7 よつて、原告は京都府に代位して、被告に対し、右退職金一億九八八三万二〇
〇〇円及びこれに対する右受領日の翌日である昭和五三年七月二一日から支払ずみ
に至るまで民法所定年五分の割合による遅延損害金の支払を求める。
二 本案前の主張
1 訴外人が退職金を受領したのは昭和五三年七月二〇日であるところ、原告の監
査請求はこれから一年を経過した後の昭和五五年一二月二二日である。原告は、京
都府が訴外人に退職金を支給した行為を問題としているものであり、これは地方自
治法二四二条一項にいう「不当な公金の支出」に該当し、「怠る事実」とはいえな
い。
2 原告の監査請求は、実質的には訴外人が前記条例九条一項各号に該当すること
を確定させようとするものであり、財政監査以上のものを求めているものであつ
て、監査請求に該当しない。
三 請求原因に対する認否
1 請求原因12はいずれも認める。
2 同3のうち、原告が昭和三九年四月一日付で京都府教育公務員として採用さ
れ、福知山高等学校教諭として勤務していたことは認め、その余はすべて否認す
る。3同4はすべて争う。
4 同56は認める。
四 本案前の主張に対する原告の反論
1 原告は、監査請求において、京都府が訴外人に退職金を支給した行為を問題と
する表現を用いておらず、訴訟提起をしないという怠る事実の是正を求めたもので
あつて、このような「怠る事実」については期間の制限がない。
2 原告は監査請求において財政監査以外のものを求めていない。
第三 証拠(省略)
○ 理由
一 原告が京都府の住民であること、訴外Aが昭和二五年四月一六日から昭和五三
年四月一五日まで京都府知事の地位にあつたところ、右退職に際し同年七月二〇日
京都府から退職金一億九八八三万二〇〇〇円を受領したこと、原告が昭和五五年一
二月二二日京都府監査委員に対し、右訴外人の退職金受領につき不当利得返還請求
の訴訟を提起するよう京都府知事に勧告を求める監査請求をしたが、同委員が昭和
五六年一月二〇日右請求は地方自治法二四二条に定める住民監査請求に該当しない
との理由で却下し、そのころ原告に通知したことは当事者間に争いがない。
二 そこで、原告が本件に関し地方自治法二四二条に規定する監査委員の監査を適
法に経たものであるか否かについて判断する。
同条二項は、地方公共団体における財務会計上の行為について、住民が監査請求を
なしうる期間を一年と定めている。このような期間制限が設けられた趣旨は、監査
請求の対象となる行為は、地方公共団体の機関、職員によるものである以上、いつ
までも争いうる状態にしておくことが法的安定性の見地からみて好ましいことでは
ないので、これをなるべく早く確定せしめようとするところにあるということがで
きる。
これに対し、同条一項のいわゆる怠る事実に係る監査請求については、同条二項の
期間制限の規定の適用はないと解すべきである(最高三小昭五三・六・二三判参
照)。
ところで、同法二四二条の二第一項四号によるいわゆる代位請求訴訟は、地方公共
団体が、職員又は違法な行為若しくは怠る事実に係る相手方に対し、実体法上同号
所定の請求権を有するにもかかわらず、これを積極的に行使しようとしない場合
に、住民が地方公共団体に代位し右請求権に基づいて提起するものである(最高三
小昭五〇・五・二七判参照)から、そこには地方公共団体が右請求権を行使しない
という財産の管理を怠る事実が常に包含されていることになる。このことは右代位
請求訴訟に先行する監査請求においても同様であるといわなければならない。そし
て、右請求権が財務会計上の行為に基づいて生じたものである場合、当該行為のあ
つた日又は終わつた日から一年を経過したことにより右行為について監査請求をす
ることができなくなつたにもかかわらず、これを請求権の行使をしないという怠る
事実に係るものとして監査請求すれば、期間制限の規定の適用を受けないという結
果を生ずることになり、いつまでも不確定な状態が続くことになつて、、期間制限
が設けられた趣旨が全く無意味となる。また、財務会計上の行為の違法性又は不当
性を争うために、これにより生じた同法二四二条の二第一項四号所定の請求権の行
使を怠るものとして監査請求することは、その是正措置を求める方法として極めて
迂遠なものといわなければならない。このようにみてくると、代位請求訴訟に先行
する監査手続において、地方公共団体が同号所定の請求権を行使しないという怠る
事実に係るものとして監査請求した場合であつても、右請求権が実体法上地方公共
団体の財務会計上の行為に基づいて生じたものである限り、当該行為を基準として
同法二四二条二項の期間制限の適用の有無を検討するのが相当である。
これを本件についてみると、原告の監査請求は、京都府監査委員に対し、訴外人の
退職金受領につき不当利得返還請求訴訟を提起するよう京都府知事に勧告すること
を求めたものであつて、京都府の財産たる訴外人に対する不当利得金返還請求債権
の管理を怠る事実に係るものということができる。しかしながら、原告の主張によ
れば、右債権はもともと退職金の支給という公金の支出に基づいて発生したとする
ものであるから、退職金の支給された昭和五三年七月二〇日から一年を経過した後
である昭和五五年一二月二二日にはもはや監査請求をすることができず、原告の監
査請求は、期間を徒過したものとして不適法たるを免れないというべきである。
そうすると、原告の本件訴えは、適法な監査請求を経ていないものとして、不適法
といわなければならない。
三 よつて、行政事件訴訟法七条、民事訴訟法八九条を適用して、主文のとおり判
決する。
(裁判官 田坂友男 東畑良雄 森 重久)

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