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平成27年1月16日判決言渡
平成22年(行ウ)第94号懲戒処分取消等請求事件
主文
1東京都教育委員会が別紙2「懲戒処分等一覧表」の「処分日」欄記
載の各日付で,原告P1,同P2,同P3,同P4,同P5,同P6,
同P7,同P8,同P9,同P10,同P11,同P12,同P13,
同P14,同P15,同P16,同P17,同P18,同P19,同
P20,同P21,同P22,同P23,同P24,同P25及び同
P26に対してした同一覧表の「処分内容」欄記載の各懲戒処分(た
だし,原告P25に対する同一覧表の番号「48-1」欄記載の懲戒
処分を除く。)をいずれも取り消す。
2原告P1,同P2,同P3,同P4,同P5,同P6,同P7,同
P8,同P9,同P10,同P11,同P12,同P13,同P14,
同P15,同P16,同P17,同P18,同P19,同P20,同
P21,同P22,同P23,同P24,同P25及び同P26のそ
の余の請求並びにその余の原告らの請求をいずれも棄却する。
3訴訟費用は,第1項の原告らに生じた費用と被告に生じた費用の2
分の1との合計額を2分し,その1を第1項の原告らの,その余を被
告の各負担とするほか,その余の原告らに生じた費用と被告に生じた
費用の2分の1をその余の原告らの負担とする。
事実及び理由
第1請求
1東京都教育委員会が別紙2「懲戒処分等一覧表」の「処分日」欄記載の各日
付で原告らに対してした同一覧表の「処分内容」欄記載の各懲戒処分をいずれ
も取り消す。
2被告は,原告らに対し,それぞれ別紙2「懲戒処分等一覧表」の「請求金額」
欄記載の各金額及びこれに対する平成22年4月16日(本訴状送達の日の翌
日)から支払済みまで年5分の割合による金員を支払え。
第2事案の概要
本件は,東京都立学校の教職員又は同教職員であった原告ら(すでに退職し
た者も含む。)が,平成19年3月から平成21年3月までの間に,所属校校
長の職務命令に違反して,卒業式等の式典における国歌斉唱時に起立や在席を
せず,あるいはピアノ伴奏をしなかったことを理由として,東京都教育委員会
(以下「都教委」という。)から受けた地方公務員法(以下「地公法」という。)
29条1項に基づく各懲戒処分の違憲・違法を主張して,これらの取消しを求
めるとともに,被告に対し,国家賠償法1条1項に基づく損害賠償(1個の懲
戒処分ごとに慰謝料50万円及び弁護士費用5万円)及びこれに対する平成2
2年4月16日(本訴状送達の日の翌日)から支払済みまで民法所定の年5分
の割合による遅延損害金の支払を求める事案である。
1前提となる事実
以下の各事実は,いずれも後掲各証拠及び弁論の全趣旨により認められる。
(1)原告ら
原告らは,いずれも被告に採用され,東京都立学校に勤務する教職員又は
同教職員であった者であり,後述の各懲戒処分時における勤務校及び職名は,
別紙3「経歴一覧表」記載のとおりである。
(2)国旗及び国歌に関する法律及び学習指導要領
我が国の国旗を日章旗,国歌を君が代と定める国旗及び国歌に関する法律
(平成11年法律第127号。以下「国旗国歌法」という。)が制定され,
平成11年8月13日に施行された。また,高等学校学習指導要領(以下「学
習指導要領」という。)では,第4章(「特別活動」)の第2(「内容」)
のC(1)の「儀式的行事」において「学校生活に有意義な変化や折り目を付
け,厳粛で清新な気分を味わい,新しい生活の展開への動機付けとなるよう
な活動を行うこと。」と,第3(「指導計画の作成と内容の取扱い」)の3
において「入学式や卒業式などにおいては,その意義を踏まえ,国旗を掲揚
するとともに,国歌を斉唱するよう指導するものとする。」(以下「国旗国
歌条項」という。)とする記述がされている。
(甲B7,乙18,91の3)
(3)都教委の通達
ア都教委は,平成9年及び平成10年当時,都立高等学校等における国旗
掲揚及び国歌斉唱の実施率が全国の公立高等学校の中で1番目ないし2
番目に低かったことから,都立高等学校長に対し,学習指導要領に基づい
た国旗・国歌の指導を行うよう指導,助言することとして,平成10年1
1月に実施指針(乙3。以下「平成10年実施指針」という。)を添付し
た通知を発出したうえ,平成11年6月23日には卒業式・入学式対策本
部を設置し,同年10月19日には平成10年実施指針に基づき卒業式等
を実施することを命ずる通達(乙5。以下「平成11年通達」という。)
を発出するなどしていた。
その結果,平成12年度卒業式からは,都立高等学校等における国旗掲
揚及び国歌斉唱の実施率は100パーセントとなったものの,実際のとこ
ろでは,国旗を掲揚した三脚を舞台袖の見えないところに置いたり,国歌
斉唱時に教員が起立しないなどの実態があった。
都教委は,このような実態を踏まえ,平成14年11月には平成11年
通達に基づいて一層の改善を図るよう依頼する通知を発するなどして指
導を継続したが,平成14年度卒業式及び平成15年度卒業式における国
旗掲揚の方法等についての調査結果は,平成10年実施指針で定められた
方針どおりに国旗掲揚等を行った都立学校等は全体の半分にも満たない
ものであり,また,国歌斉唱時に起立をしない教員がいるなどの実態がな
お存在していた。
イ都教委は,平成15年6月25日に都立学校等卒業式・入学式対策本部
を設置し,卒業式等の適正実施について検討し,その結果をとりまとめ,
上記アのような実態を改善するという課題を解決するためには各学校で国
旗掲揚及び国歌斉唱の実施についてより一層の改善,充実を図る必要があ
ると判断して,これを受けた都教委のP27教育長において,同年10月
23日,都立高等学校長及び都立盲・ろう・養護学校長(以下,これらの
学校を併せて「都立学校」といい,その校長を単に「校長」という。)に対
し,校長に対する職務命令として,以下の内容の「入学式,卒業式等にお
ける国旗掲揚及び国歌斉唱の実施について(通達)」(乙14の3。以下「本
件通達」といい,本件通達の別紙「入学式,卒業式等における国旗掲揚及
び国歌斉唱に関する実施指針」を「本件実施指針」という。)を発出した。
「1学習指導要領に基づき,入学式,卒業式等を適正に実施すること。
2入学式,卒業式等の実施に当たっては,別紙『入学式,卒業式等に
おける国旗掲揚及び国歌斉唱に関する実施指針』のとおり行うものと
すること。
3国旗掲揚及び国歌斉唱の実施に当たり,教職員が本通達に基づく校
長の職務命令に従わない場合は,服務上の責任を問われることを,教
職員に周知すること。」
「別紙入学式,卒業式等における国旗掲揚及び国歌斉唱に関する実施指針
1国旗の掲揚について
入学式,卒業式等における国旗の取扱いは,次のとおりとする。
(1)国旗は,式典会場の舞台壇上正面に掲揚する。
(2)国旗とともに都旗を併せて掲揚する。この場合,国旗にあっては
舞台壇上正面に向かって左,都旗にあっては右に掲揚する。
(3)屋外における国旗の掲揚については,掲揚塔,校門,玄関等,国
旗の掲揚状況が児童・生徒,保護者その他来校者が十分認知できる
場所に掲揚する。
(4)国旗を掲揚する時間は,式典当日の児童・生徒の始業時刻から終
業時刻とする。
2国歌の斉唱について
入学式,卒業式等における国歌の取扱いは,次のとおりとする。
(1)式次第には,「国歌斉唱」と記載する。
(2)国歌斉唱に当たっては,式典の司会者が,「国歌斉唱」と発声し,
起立を促す。
(3)式典会場において,教職員は,会場の指定された席で国旗に向か
って起立し,国歌を斉唱する。
(4)国歌斉唱は,ピアノ伴奏等により行う。
3会場設営等について
入学式,卒業式等における会場設営等は,次のとおりとする。
(1)卒業式を体育館で実施する場合には,舞台壇上に演台を置き,卒
業証書を授与する。
(2)卒業式をその他の会場で行う場合には,会場の正面に演台を置き,
卒業証書を授与する。
(3)入学式,卒業式等における式典会場は,児童・生徒が正面を向い
て着席するように設営する。
(4)入学式,卒業式等における教職員の服装は,厳粛かつ清新な雰囲
気の中で行われる式典にふさわしいものとする。」
ウ都教委は,平成15年10月23日,校長を対象者として,「教育課程の
適正実施にかかわる説明会」を開催し,校長らに本件通達を交付した。
(乙1,2の1・2,乙3,5,8の1,乙11,12及び14の各1か
ら3まで,乙32,36,37,42の1・2,乙62,70,72から
79まで,85,86の1・3から6まで)
(4)原告らによる国歌斉唱時の不起立等
原告らは,別紙4「懲戒事由一覧表」記載のとおり,それぞれ所属校校長
(以下「本件各校長」という。)より職務命令(以下「本件各職務命令」と
いう。)を受けていたにもかかわらず,これに反し,卒業式等の式典におけ
る国歌斉唱時に起立や在席をせず,あるいはピアノ伴奏をしなかった(以下,
原告らのこれらの行為を併せて「本件不起立等」という。)。
(甲C1から50まで,甲D1の1,甲D2の1から3まで,甲D3から2
7までの各1,甲D28の1・2,甲D29から41までの各1,甲D42
の1・2,甲D43から47までの各1,甲D48の1から3まで,甲D4
9及び50の各1)
(5)懲戒処分等
都教委は,本件不起立等が,職務命令違反として地公法32条に違反する
とともに,全体の奉仕者たるにふさわしくない行為であって,教育公務員と
しての職の信用を傷つけ,職全体の不名誉となるものであって,地公法33
条に違反することから,地公法29条1項1号,2号及び3号の懲戒事由に
該当するとして,原告らから事情を聴取する機会を設け,教職員懲戒分限審
査委員会に対する諮問,同委員会による答申,都教委における決定という手
続を経た上で,原告らに対し,別紙2「懲戒処分等一覧表」の「処分日」欄
記載の各日付で,同一覧表の「原告氏名」欄記載の各原告に対する同一覧表
の「処分内容」欄記載の各懲戒処分を行った(以下,これらの懲戒処分を併
せて「本件各処分」という。)。
なお,原告P1,同P2,同P3,同P4,同P5,同P6,同P7,同
P8,同P9,同P10,同P11,同P12,同P13,同P14,同P
15,同P16,同P17,同P18,同P19,同P20,同P21,同
P22,同P23,同P24,同P25及び同P26(以下「原告P1ら2
6名」という。)に対する減給10分の1・1月から6月まで並びに停職1
月及び3月の各処分については,当該原告らが過去にも同様の非違行為によ
って戒告,減給処分を受けたことにかんがみ,このような先行する懲戒処分
がある場合は処分量定を加重するとの考えに基づいてなされたものである。
原告P1ら26名のうち原告P25を除く25名の過去の処分歴について
は,別紙5「処分歴一覧表」各記載のとおりである(なお,原告P25は,
過去の処分歴はなく,本件各処分として別紙2「懲戒処分等一覧表」の番号
「48-1」ないし「48-3」の各欄記載の処分を受けているが,そのう
ち番号「48-1」欄記載の処分が戒告処分であり,以降の減給処分は,こ
の戒告処分を前提とする処分量定の加重が行われたものである。)。
(甲D1の1,甲D2の1から3まで,甲D3から27までの各1,甲D2
8の1・2,甲D29から41までの各1,甲D42の1・2,甲D43か
ら47までの各1,甲D48の1から3まで,甲D49及び50の各1,乙
86の2,乙C2の1から20まで,乙C6,13,14及び16の各1か
ら11まで,乙C22の1から12まで,乙C23及び24の各1から11
まで,乙C25の1から16まで,乙C26及び27の各1から11まで,
乙C28の1から45まで,乙C30の1から17まで,乙C31の1から
11まで,乙C32の1から18まで,乙C34の1から12まで,乙C3
8の1から17まで,乙C40の1から11まで,乙C42及び43の各1
から18まで,乙C44の1から11まで,乙C45の1から17まで,乙
C46及び47の各1から11まで,乙C48の1から17まで,乙C50
の1から16まで)
(6)不服申立て等
原告らは,本件各処分について,別紙2「懲戒処分等一覧表」の「審査請
求日」欄記載の各日付に,東京都人事委員会に対する審査請求を行ったが,
いずれの審査請求についても裁決のないまま3か月以上が経過したことから,
原告らは,平成22年3月2日,本件訴えを提起した。
(7)一部原告らの退職
原告P28,同P29,同P30,同P31,同P32及び同P33は,
戒告処分を受けた後であって本訴を提起する前である平成19年3月31日,
平成20年3月31日又は平成21年3月31日にそれぞれ退職した(以下,
これらの退職者を併せて「提起時退職原告ら」という。)。
また,原告らによる平成22年3月2日の本訴提起後,本件口頭弁論の終
結時までの間に,別紙3「経歴一覧表」記載のとおり,戒告処分を受けた原
告らのうち,原告P34,同P35,同P36,同P37,同P38,同P
39,同P40,同P41及び同P25(別紙2「懲戒処分等一覧表」の番
号「48-1」欄)がそれぞれ退職した(以下,これらの退職者を併せて「終
結時退職原告ら」という。)。
2争点
(1)本案前の争点
提起時退職原告らにおける戒告処分取消しの訴えの利益の有無
(2)本案の争点
ア本件通達及び本件各職務命令の憲法19条違反の有無
イ本件通達及び本件各職務命令の憲法20条違反の有無
ウ本件通達及び本件各職務命令の教師の専門職上の自由の侵害による憲法
13条,23条,26条違反の有無
エ本件通達及び本件各職務命令の国際条約違反の有無
オ国家シンボルの強制そのものの違憲性の有無
カ本件通達の憲法94条,地方自治法14条1項違反の有無
キ学習指導要領の国旗国歌条項の法的拘束力の有無
ク本件通達及び本件各職務命令の教育基本法16条1項違反の有無
ケ本件通達及び本件各職務命令の平成19年6月27日法律第96号に
よる改正前の学校教育法42条(同改正後の同法51条)違反の有無
コ本件通達の地方自治法14条2項,2条16項,2条2項違反の有無
サ本件不起立等の地公法32条,33条違反の有無
シ本件各処分の手続的違法の有無
ス本件各処分について処分をすること自体の裁量権の逸脱・濫用の有無
セ本件各処分における処分量定に関する裁量権の逸脱・濫用の有無
ソ原告らの国家賠償法1条1項に基づく慰謝料等請求権の有無
第3争点に対する当事者の主張
1本案前の争点(提起時退職原告らにおける戒告処分取消しの訴えの利益の有
無)
(被告の主張)
提起時退職原告らの戒告処分の取消しの訴えは却下されるべきである。すな
わち,本訴において問題とされる被告の提起時退職原告らに対する懲戒処分は,
いずれも「戒告処分」であり,「戒告処分」とは「その責任を確認し,及びそ
の将来を戒めるもの」(人事院規則12-10第4条参照)である以上,当該
公務員が公務員として在職していることが前提となっているのであり,退職職
員に対しては「戒告処分」は法的効力を有しないものとなっている。行政事件
訴訟法(以下「行訴法」という。)9条1項は,原告適格について「処分の取
消しの訴え及び裁決の取消しの訴え(括弧内略)は,当該処分又は裁決の取消
しを求めるにつき法律上の利益を有する者(括弧内略)に限り,提起すること
ができる。」と規定しているのであり,提起時退職原告らにおいて,戒告処分
の取消しを求める「法律上の利益」は存在しない以上,訴え却下の判決がなさ
れるべきである。
(提起時退職原告らの主張)
戒告処分を受けた教職員は,その事実によって,昇給延伸,勤勉手当の20
パーセント削減や,戒告処分が取り消されない限り退職後の再任用又は再雇用
に当たって不利益な評価・選考を受ける可能性がある等の種々の不利益を被る
ことが法令上の仕組みとして予定されており,この仕組みは提起時退職原告ら
とその他の原告らとで区別なく適用される。
よって,提起時退職原告らにも,戒告処分を取り消し,戒告処分を受けたこ
とに基づく種々の不利益を回復すべき法律上の利益があるというべきであっ
て,被告の本案前の主張は理由がない。
2本案の争点
(1)本件通達及び本件各職務命令の憲法19条違反の有無
(原告らの主張)
ア(ア)日本国憲法が,その19条において,信教の自由(憲法20条),
表現の自由(憲法21条)と別個に,思想・良心の自由を定めた意義は,
明治憲法下で国家権力が神権天皇制の思想でもって国民各人の思想・良
心にまで抑圧的,統制的,更には教化的,洗脳的に侵入したことを二度
と許さないということを確固として明示したことにある。このように,
憲法19条の規定する「思想・良心」とは,国家(地方自治体を含む)
及び行政機関が介入してはならない領域であると考えれば,「思想・良
心」の範囲については「内心活動一般」であると広く解すべきである。
そして,原告らは,一箇の人格である個人として,また,子どもとの
全人格的なかかわりである教育実践を通じて得てきた教師としてのアイ
デンティティにより,日の丸・君が代に対し,次のような考え方ないし
思いを有している。すなわち,国旗・国歌は,国家的・国民的統合機能
を有する存在であり,その機能の故に,性質上,常に何らかの思想・理
念・政治と密接な関連を持つものであり,国旗・国歌のこのような機能・
性質にかんがみれば,国旗・国歌という存在をどう受け止め,どう向き
合うかは,ひとりひとりの個人が自己の思想・良心に照らして決めるべ
き事柄といえるところ,日の丸・君が代には,このような国旗・国歌の
持つ一般的な性質に加え,戦前日本の皇民化教育及び侵略戦争遂行の中
で重要な役割を果たしてきたという重い歴史があるのであり,このよう
な重い歴史的事実の故に,国旗・国歌としての日の丸・君が代をどう評
価するのかは,個人の歴史認識・評価,天皇制に対する評価,戦争責任
についての評価,戦前・戦後政治の評価,政治意識などと密接に関連す
るものであり,これらと切り離して考えることはできないものとなって
いるとの考え方ないし思いである。
このような原告らの考え方ないし思いは,個人の世界観,人生観に裏
打ちされた評価と密接に関連するものであり,また,教師としての信念
に基づくものであって,個人の人格形成の核心を形成する歴史認識・評
価,天皇制に対する評価,戦争責任についての評価,戦前・戦後政治の
評価,政治意識などというべきものであるから,それは,単なる好き嫌
いを超えた個人の人格の中枢を形成する人生観・世界観の核心である。
そうすると,このような原告らの考え方ないし思いは,憲法19条で保
障される「思想・良心」を広くとらえる立場によればもちろんのこと,
仮に憲法19条で保障される「思想・良心」を狭くとらえる立場によっ
たとしても,憲法19条が保障する「思想・良心」であることは明らか
である。
(イ)そして,憲法19条は,公権力が特定の思想や価値観ないし事物の
是非・善悪の判断を正しいものとし,国民に対してそれに従うことを強
制することや,それに反する思想や価値観などを禁止することを禁じて
いるのみならず,沈黙の自由,すなわち,各人に対し,いかなる思想・
良心を有しているか又は有していないかを外部的に告白又は表現するよ
うに強制することを禁止している。その故に,公権力は,各人の意思と
は無関係に思想・良心について調査したり,何らかの方法・手段によっ
て,直接・間接に思想・良心を推知したりすることも許されない。
イ(ア)しかるに,本件通達及び本件各職務命令は,原告らに対し,起立・
斉唱・ピアノ伴奏という日の丸・君が代に対する一定の態度を強制する
ものであるところ,日の丸に向かって起立し,君が代を斉唱するという
ことは,前記のとおり,日の丸・君が代に対する思いや評価と密接に結
びつく行為であることは明らかであって,それ故に,原告らは,原告ら
個人の人格の中枢を形成する人生観・世界観の核心をなす上記の日の
丸・君が代に対する考え方や思いの上に存在する①教師として国家権力
による特定思想の強要に加担できないとする信念,②個人としての戦争
や侵略に対する歴史認識,立憲主義ないし民主主義の観点からの見解,
宗教上の理由等といったものによって,卒業式等の国歌斉唱時に「指定
された席で起立し国歌を斉唱すること」,「ピアノを伴奏すること」を
強制されることは自己の思想・良心に反すると考えたのであり,原告ら
にとって,本件通達及び本件各職務命令のもとでの卒業式における国歌
斉唱という場面は,自己の思想・良心の領域が侵害されると感じる場面
であり,上記ア(ア)のとおり憲法19条によって保護される「思想・良
心」が侵害されるものである。そこで,原告らは,その自己の思想・良
心を保護・防衛するため,起立・斉唱・ピアノ伴奏を命じる職務命令に
従うことができず,また従わず,本件不起立等という選択をしたのであ
る。
ここで,原告らのとった本件職務命令に対する拒否行為は,君が代斉
唱の直前に着席してその斉唱時の数十秒の間その場で静かに着席してい
るだけであり,決して他人の人権を侵害するような態様のものではない
し,儀式が物理的に妨害され,儀式運営に重大な支障をもたらすことも
ないから,本件不起立等は,その思想・良心を侵害する職務命令に対す
る拒否行為であり,憲法19条が保障する思想・良心の防衛的・受動的
な外部的表出である。
(イ)また,掲揚された日の丸に向かって起立するか否か,君が代を斉唱
するか否か,ピアノ伴奏をするか否かは,個人が天皇制や国家神道・軍
国主義,ナショナリズム,国のあり方などをどう評価し,どう受け止め
るかという,個人の政治的価値観・世界観・国家観などといった特定の
思想・良心とのつながりが明らかに推知される性格のものである。よっ
て,起立・斉唱・ピアノ伴奏が強制されたときに,上記ア(ア),イ(ア)
の理由によりそれを拒否することによって,日の丸・君が代そのもの,
あるいは学校現場におけるそれらの強制に対して否定的評価をしてい
るという特定の思想・良心が推知される。本件通達及び本件各職務命令
は,前述の意味で,特定の思想の表明を迫ることであり,上記ア(イ)に
述べた憲法19条の保障する思想・良心の沈黙の自由を侵害するもので
ある。そして,仮に我が国の国旗・国歌が日の丸・君が代でなかったと
しても,国旗・国歌に対する起立・斉唱・ピアノ伴奏を命じる職務命令
が,自らの所属する国家に対し,どのような思いを持ち,どのように向
き合うかという個人の人格の根源をなす思想・良心の自由についての侵
害となることには変わりない。
(ウ)これを要するに,原告らに対する本件各処分は,原告らが卒業式等
の国歌斉唱時に,職務命令に従って起立・斉唱・ピアノ伴奏をしなかっ
たことを理由としているところ,本件不起立等は,憲法上保障された原
告らの「思想・良心」の外部的表出である以上,それを理由に懲戒処分
という不利益処分を科すことは,原告らの一定の「思想・良心」に基づ
いて不利益処分を科していることに他ならない。
ウ以上によれば,本件通達及び本件各職務命令は,原告らの思想・良心の
自由(憲法19条)を侵害する違憲・無効なものであり,本件各職務命令
違反を理由とする本件各処分も違憲・無効である。
(被告の主張)
ア憲法19条が保障する思想・良心とは,世界観,人生観などの個人の内
面的な精神活動を指すものであり,事物の是非,善悪の判断などは含まな
い。そして,憲法19条が思想・良心の自由を侵してはならないとする意
味は,国民がいかなる世界観,人生観を持とうとも,それが内心の領域に
とどまる限りは絶対的に自由であり,特定の思想を内心に抱くこと自体を
禁止することができないということを意味するほか,国家権力が思想の露
顕を強制することは許されず,人の内心を強制的に告白させることはでき
ないという,思想についての沈黙の自由を保障するものである。
この点,原告らは,国歌斉唱時に起立しない,ピアノ伴奏をしないとい
う信念が,その根底にある原告らの思想・良心や歴史観・教育観とは別に,
憲法19条の思想・良心として保護される旨主張するが,それらは思想・
良心の核心部分とは解されないから,憲法19条にいう思想・良心には該
当しないというべきである。
イまた,本件のように,個人の思想・良心が内部にとどまらず,外部に行
動となって現れたときは,そのような外部的行為の規制の問題は,憲法1
9条が保障する思想・良心の自由の問題ではない。外部的行為が人の内心
領域の精神活動と密接な関連を有することは否定できないが,外部的行為
を制約することが人の人格の核心を形成する世界観,人生観を持つこと自
体を禁止することにはならないから,上記規制は,思想・良心の自由を制
約するものではない。したがって,法律が一定の作為・不作為を命じると
きにそれに服しないことは,内心にとどまらない外部的な行動となるので
あり,思想・良心の自由固有の問題ではない。
本件各職務命令は,卒業式等において,児童・生徒に国旗・国歌に対す
る正しい認識を持たせ,これらを尊重する態度を育てるために,教職員に
対し,起立斉唱等を命じるというものであり,敬礼などの特別な行為を求
めているわけではない。そして,国歌斉唱時に,職務命令に従って起立・
斉唱・ピアノ伴奏をすることは,原告らにとっては,原告らの主張する歴
史観ないし世界観に基づく一つの選択ではあろうが,一般的,客観的には,
卒業式等の式典における慣例上の儀礼的所作としての性質を有するもので
あり,かつ,そのような所作として外部からも認識されるものというべき
であって,原告らの主張する歴史観ないし世界観と不可分に結び付くもの
ということはできないから,国歌斉唱時に起立・斉唱・ピアノ伴奏をする
よう命じること自体は,一定の外部的行為を命じるにとどまるものであっ
て,原告らの内心における精神活動を否定したり,その思想・良心に反す
る精神的活動を強制したりするものではないし,いかなる思想を抱いてい
るかを露顕することを強制するものでもない。特に,本件各職務命令は,
公務員である教職員の原告らに対し,学校行事に際し,法令に基づく職務
命令として,国歌斉唱時の起立・斉唱・ピアノ伴奏を命じたものであるか
ら,これは教職員にとって通常想定され期待される行為を求めるものであ
って,特定の思想の表明を迫るものと評価することはできないものである。
ウ原告らの本件不起立等について,仮に思想・良心の自由の保障が及ぶか
どうかが問題になるとしても,本件不起立等は外部的行為である以上,公
共の福祉による制約を受けるというべきであるところ,本件各職務命令は
公共の福祉による制約として憲法19条に違反するものではない。
すなわち,原告らは,全体の奉仕者である地方公務員であり(憲法15
条2項),公教育を行うという公共の利益のために勤務し,かつ,職務の遂
行に当たっては,全力を挙げてこれに専念する義務がある。原告らの思想・
良心の自由は,公共の福祉の見地から職務の公共性に由来する内在的制約
を受け,原告らが本件各職務命令を受け,起立斉唱等を行う義務を負うこ
とにより,これが制約されるとしても,原告らにおいて受忍すべきもので
あるところ,本件各職務命令は,国旗国歌条項に基づき,卒業式等におけ
る国旗・国歌の指導を適正に実施するために発せられたものであり,敬礼
など特別の行為を求めるものではない。原告らは,本件各職務命令を受け
たことにより,国旗・国歌についての指導の一環として国歌斉唱等をすべ
き義務を負う。仮に,これにより原告らの思想・良心の自由が制約される
点があったとしても,それは自らの自由意思によって教育公務員となった
原告らにとってやむを得ない制限である。そして,本件各処分は,本件各
職務命令に違反したことを理由とするものであり,原告らがその内心に国
歌斉唱等をしないとする思想,信条等を有していることを理由とするもの
ではないから,本件各処分が原告らの思想・良心の自由を侵害することに
なるものではない。
なお,原告らの本件不起立等は,式典が滞りなく終了しているという結
果から見れば,一見したところ,格別な妨害の事実がなかったようにも見
えるが,それは,単に物理的な妨害行為がなかったというだけにすぎない。
原告らは,本件不起立等によって教職員としてなすべき児童・生徒に対す
る国歌斉唱に関する指導を行わなかったのであるから,児童・生徒が学校
教育法等の法規や学習指導要領に基づいた教育,指導を受けられなかった
という意味で,児童・生徒の教育を受ける権利を侵害したものであるし,
職務命令違反,更には信用失墜行為という服務事故を発生させたことによ
り,公務員の服務上の規律を害することとなったものである。
(2)本件通達及び本件各職務命令の憲法20条違反の有無
(原告らの主張)
ア原告らのうちには,キリスト教を信仰する原告P11及び同P42ら宗
教信仰者が複数おり,これらの者については,本件不起立等の理由として
各自のキリスト教の信仰の存在がある。
イ憲法20条に定める信教の自由には,①信仰の自由,②宗教的行為の自
由,③宗教的結社の自由が含まれるところ,信仰の自由は,憲法19条が
保障する思想・良心の自由の宗教的側面であり,その保障の効果も,憲法
19条と同様に絶対的に保障されるものである。そして,①の信仰の自由
の保障は,個人の信仰の自由を保障するために不可欠な限りにおいて,内
心における信仰の一定の外部的表出をもその保障の対象として含むものと
解すべきである。例えば,江戸時代におけるキリシタンに対する踏み絵の
如く,外部からの命令,要求,勧誘,奨励などの一定の働きかけによって,
自己の信仰が侵害されようとしている場合に,その信仰を保護・防衛する
ために,外部からのそうした作用・働きかけに対し,防衛的・受動的に取
る拒否的行為は,自己の信仰の保障に不可欠な,信仰の外部的表出として
憲法20条の保障対象となる。
ウ日の丸・君が代は,戦前及び戦中において,国家神道と強く結び付いた
神的,宗教的存在としての天皇崇拝のシンボルであったのであり,皇国思
想及び軍国主義思想の精神的支柱として用いられたことは,歴史的事実で
ある。キリスト教を信仰する原告らにおいては,日の丸に向かって起立し,
君が代を斉唱することを強制されることは,国旗という形あるもの,すな
わち偶像にひれ伏し仕える行為を強制されることにほかならず,それは自
らの信仰で禁じられている偶像崇拝を強制され,また,唯一の主であるイ
エス・キリスト以外の「君」を讃えることを強制されることとなる。これ
は,信仰上禁じられている行為を強制されるという点において,宗教上の
行為の自由(自らの信仰に反する宗教上の行為を行わない自由)を侵害す
るものであり,また,「君」を讃えることを強制されることは,キリスト教
の信仰の核心部分を否定されるという点において,信仰の自由(特定の宗
教の信仰を否定されない自由)を侵害するものである。日本のキリスト教
界は,戦前,軍部や政府の圧力の前に屈服し,神社参拝の要請を行うなど,
戦時体制に貢献した歴史があり,その過ちに対する悔悟と再び過ちを繰り
返すことは許されないという思いが特別に強く,天皇崇拝及び国家神道の
シンボルというべき日の丸に向かって起立し,君が代を斉唱することを強
制されることによる苦痛は非常に大きい。以上のとおり,キリスト教を信
仰する原告らは,本件通達及び本件各職務命令により起立斉唱等を強制さ
れることによって,キリスト教が禁じている偶像崇拝を強制され,又は天
皇を讃えることを強制されることになるのであるから,本件通達及び本件
各職務命令並びにその違反に対して行われた本件各処分は,これらの原告
の信仰の自由のみならず,宗教的行為の自由をも侵害するものである。
エこれに対し,被告は,日の丸・君が代は,国旗国歌法によって国旗・国
歌であることが定められたのであり,それ自体宗教的意味合いを持つもの
ではないと主張する。また,キリスト教信者である原告らのように日の丸・
君が代を天皇崇拝のシンボルであると解釈する者がいたとしても,日本国
憲法の下では,天皇は日本国及び日本国民の統合の象徴と定められている
のであるから,そのような解釈は一般的なものではないとする主張もあり
得る。
しかしながら,前述のとおり,日の丸・君が代が国家神道と結び付いて
天皇崇拝のシンボルとして,また,皇国思想や軍国主義思想の精神的支柱
として利用されたことは歴史的事実であるし,日の丸・君が代に対する考
え方は個人の判断に委ねられるべき世界観や歴史観であり,日の丸・君が
代が意味するものは公権力によって決められるものでもなく,憲法上の人
権保障の問題である以上,個人の有する日の丸・君が代に対する考え方は
尊重されなければならない。すなわち,憲法20条の人権保障を議論する
場面において,日の丸・君が代についてのキリスト教信者の解釈が,国民
ないし社会において一般的なものであるかどうかは問題ではない。現に日
の丸・君が代について,過去の歴史や自己の信仰に照らして「天皇崇拝の
シンボル」としてしか解釈し得ない原告らがいる以上は,かかるキリスト
教信者である原告らの信仰に基づく解釈は,たとえそれが時の政府や与党
の解釈と異なるものであっても,むしろ異なるからこそ,憲法上,尊重さ
れなければならないのであり,それが憲法上の人権保障ということの意味
である。
(被告の主張)
ア日の丸・君が代は,国旗国歌法によって,日本の国旗・国歌と定められ
たものであり,それ自体,宗教的な意味合いを持つものではない。なお,
国旗・国歌は,国民統合の象徴の役割を持つものであり,国旗・国歌を取
り巻く政治状況や文化的環境などから,過去に日の丸・君が代が皇国思想
や軍国主義思想に利用されたことがあったとしても,また,これを理由と
して,日の丸・君が代に対して嫌悪の感情を抱く者がいたとしても,日の
丸・君が代が,日本国憲法下の議会制民主主義の過程を経て国旗・国歌と
して定められたということは,日の丸・君が代に憲法が掲げる平和主義,
国民主義の理念の象徴としての役割を期待しているということであり,現
在においては,原告らが主張するような天皇崇拝等の意味合いは有してい
ない。
イ卒業式等の儀式的行事における起立斉唱は,出席する教職員にとって通
常想定される卒業式等における儀式的所作であるから,宗教上の行為とし
ての意味を持つものではない。本件各職務命令は,一定の外部的行為を命
ずるというものであり,原告らの内心における精神的活動である信教の自
由を否定し,信教の自由に反する精神的活動を強制するものでもないし,
いかなる信仰を抱いているかを露顕させることを強制するものでもない。
ウ原告らにおいても,個人として信教の自由は保障されている。しかしな
がら,原告らは,公務員として全体の奉仕者たる地位にあり,その職務内
容が公教育を行うという公共性を有するものである以上,原告らが個人的
な宗教上の理由から,国旗・国歌の指導という教育を行うことを拒否する
ことは許されない。憲法20条の保障する信教の自由は,内心の信仰にと
どまる限り,絶対不可侵のものといえるが,それが宗教的行為として積極
的又は消極的な形で外部に表明され,法令に基づく規制や社会的規範と衝
突する場合には,一定の制約を免れない。教職員は,職務命令として起立
斉唱を命じられた場合,仮に,信教の自由の問題が生じるとしても,教職
員において受忍すべき範囲内の制約であるというべきである。
(3)本件通達及び本件各職務命令の教師の専門職上の自由の侵害による憲法
13条,23条,26条違反の有無
(原告らの主張)
ア子どもの成長,発達のためには,憲法13条が保障する幸福追求権を基
礎として,教育を受ける権利(憲法26条)が保障されなければならず,
子どもの学校教育は,教師と子どもの直接の人格的接触を通じて行われる
ものであり,教師と子どもの両当事者の人間としての尊厳を出発点に,教
師の側の自らの存在をかけた教育上の専門的判断に依拠して行われるので
あり,そのような専門的判断に依拠した教育が行われるには,教師の主体
性及びその発露である創意工夫を確保すべく教育の場の自由を確保するこ
とが不可欠である。そのためには,教育の自主性,自立性(憲法23条)
が保障されなければならないのであり,子どもに伝えられるべき真理・真
実に政治権力が介入することは許されない。たとえ,それが真理・真実で
あろうとも,画一的に強制されるならば,それは教育的価値に反するもの
になるからである。
イそして,国旗・国歌については多様な考え方があり,多様性を認め合う
子どもたちを育てるためには,教師の専門的判断が必要であるほか,卒業
式等の内容は,各学校単位で,そこで学ぶ子どもたちや地域の実情に見合
った創意工夫のもとに決定する必要があり,特に,養護学校等においては,
各学校の実情や創意工夫を踏まえて,卒業式等を壇上方式で行うのかフロ
ア方式で行うのかを決めるべきであり,卒業式等の最中の子どもたちの体
や心の動きに常に敏感に対応するために,教師の専門的判断が必要である。
また,国旗・国歌を教える際にも,子どもたちの発達段階にふさわしい教
育方法について,教師の専門的判断が必要である。このように,卒業式等
の内容を決めるに当たっては,教師の専門的判断が必要である。
また,学習指導要領は,「各学校においては,(中略)生徒の人間として
調和のとれた育成を目指し,地域や学校の実態,課程や学科の特色,生徒
の心身の発達段階及び特性等を十分考慮して,適切な教育課程を編成する
ものとする。」としており,教育課程の編成権限は各学校が有するものとし
ている。そして,教育課程は,児童(生徒)の教育をつかさどる教諭(学
校教育法51条,28条6項)が,教育条理によって認められる職員会議
における集団的討議を経て,全校的に決定されるべきものである。
したがって,都教委及び本件各校長は,国旗国歌条項を根拠として,教
育課程の一環である卒業式等の実施方法を一方的に決定,強制することは
できない。
しかるに,都教委及び本件各校長は,学校現場の教師及び教師集団の意
見を卒業式等の内容に反映させることを一切認めず,各学校の教師の関与
も一切させずに,卒業式等の実施方法を一方的に決定し,これを強制する
内容の本件通達を発出し,本件各校長をしてその内容を実行させる本件各
職務命令を発令させ,その内容どおりの卒業式等の実施を強制した。
ウ以上によれば,本件通達及び本件各職務命令は,子どもの学ぶ権利を充
足するために不可欠なプロセスとして憲法及び教育基本法上保障されてい
る教師集団の各学校単位での創意工夫とその実情に応じた創造的,弾力的
な教育内容の決定の余地を完全に奪うものであり,教師の専門職上の自由
を侵害するものとして,憲法13条,23条,26条に違反する違憲無効
なものである。
(被告の主張)
ア憲法26条,13条は,教師の個人的人権を保障しているものではなく,
子どもが適切な教育を受ける権利を保障しているものである。また,憲法
23条は,学校において子どもの教育の任に当たる教師が教育の自由を有
し,公権力による支配,介入を受けないで自由に子どもの教育内容を決定
することができることを保障したものではない。教師が職務として教育活
動を行うのは権限としてであって,個人的権利として行うのではなく,普
通教育の場において,教師に教育の内容及び方法について一定範囲の裁量
権が認められるとしても,それは,子どもに適切な教育を受ける権利を保
障していることの反射的効果であって,教師個人の人権として保障されて
いるものではない。
イ卒業式等の儀式的行事は,その意義を踏まえて,学校という教育組織の
中で法令に基づく意思決定により,統一的に実施される必要があり,その
内容及び方法を個々の教師が決定できるものではない。なお,教育課程の
編成に係る権限は,学校教育法28条,40条,51条,76条に基づき
「校務」をつかさどる権限を有する校長及び地方教育行政の組織及び運営
に関する法律(以下「地教行法」という。)23条5号に基づき,「学校の
教育課程に関すること」を管理,執行する権限を有する学校設置団体の教
育委員会にある。
そして,本件通達は,卒業式等における国旗掲揚及び国歌斉唱の実施を
適正にするために発出されたものである。なお,本件通達は,卒業式等の
運営全般に関して発出されたものではなく,本件通達が記載していない内
容については学校現場における創意工夫や裁量の余地は残されている。
ウ学校現場の教師に教育の専門家として一定の裁量権が認められるとして
も,全てが教師の裁量に委ねられるものではない。養護学校等の特殊性か
ら教師の専門的判断が必要となる場面があるとしても,その場における教
育内容の全てが教師の専門的な判断に委ねられるものでもない。教育の内
容は,教育の機会均等と全国的な一定水準を確保するために学習指導要領
に定められており,教師は,学習指導要領の内容に従って子どもたちに教
育を行う責務がある。
エ国歌斉唱時の起立斉唱等を命ずる職務命令を受けた教職員が不起立等の
行為に及ぶということは,国旗・国歌の指導を行わないということである
から,それは教育的目的を阻害するものであり,ひいては,国旗・国歌の
指導という教育を受ける子どもの権利を侵害するものである。
オ以上によれば,本件通達及び本件各職務命令が,教師の専門職上の自由
(憲法13条,23条,26条)を侵害する旨の原告らの主張には理由が
ない。
(4)本件通達及び本件各職務命令の国際条約違反の有無
(原告らの主張)
憲法は国際協調主義の立場を取ったうえ,憲法98条2項により条約の誠
実な遵守を要求していることにかんがみ,自動執行力のある条約は,国内に
適用され,国内法令に優位する効力が与えられると解されるところ,本件通
達及び本件各職務命令は,前記(1)及び(2)の原告らの主張のとおり,原告ら
の思想・良心の自由及び信教の自由を侵害するものであり,これらの侵害行
為は,全ての者についての思想・良心及び信教の自由に係る権利を定める市
民的及び政治的権利に関する国際規約(昭和57年条約第7号。以下「自由
権規約」という。)18条に違反する。特に国際連合の自由権規約委員会は,
平成8年4月,「公立学校に通学する条件として,良心的拒否にもかかわら
ず,国歌を歌い国旗に敬礼することを求めることは,不合理な要求であり,
自由権規約18条及び24条に相容れないと思われる。」という所見(view)
を示しており,国歌を歌い国旗に向かって敬礼する行為の強制が規約18条
に抵触することを既に明らかにしていたところ,平成23年7月,自由権規
約19条の有権的解釈を示す一般的意見(generalcomment)の改訂に当たり,
一般的意見34において,「旗や象徴に敬意を払わないこと」に対し,法令
等で不利益を課すことへの懸念を表明したのであり,本件通達及び本件各職
務命令が国際的な判断基準に反するものであることは明らかである。
また,前記(3)及び後記(5)の原告らの主張のとおり,児童の権利に関する
条約(平成8年条約第2号)に定める児童の意見表明権(12条),児童の
表現の自由(13条1項),児童の思想・良心及び宗教の自由(14条1項),
教育への権利(28条,29条)を侵害するもので,これらの条項に違反し
無効である。なお,被告は,児童の権利に関する条約に定める児童の諸権利
が子どもを享有主体としているのに対し,本件通達は本件各校長に対し,本
件各職務命令は原告らに対し発出されている点で,そもそも同条約違反には
ならないと主張するが,原告らが問題としているのは,国旗・国歌に対する
起立斉唱等を教職員に強制する結果として,事実上侵害される子どもの人権
であり,そのような実態なのであるから,被告の反論は反論たり得ていない。
さらに,昭和41年のILO・ユネスコの教員の地位に関する勧告には,
教育は人権及び基本的自由に対する深い尊敬の念を植え付けるものとしてい
るのであって,人権及び基本的自由の根幹ともいうべき内心の自由は,教育
の全課程において,それが深い尊敬の念を持たれるべきものであることが生
徒らに植え付けられなければならない。しかるに,本件の如く,学校の重要
な行事である卒業式等で,生徒らが,教師が国旗・国歌に対する起立斉唱を
強制されている姿を間近に見,教師自身も事実上起立斉唱を強制されている
という事態は,およそこの勧告による要請内容と懸け離れた事態であり,そ
のうえ,原告らが後記(14)イ(イ)及び(ウ)において主張するように被告が教
師等に生徒に内心の自由を説明することすら禁じているということは,勧告
に正面から抵触するものである。
(被告の主張)
本件通達及び本件各職務命令が思想・良心の自由及び信教の自由を侵害す
るものではないことは,前記(1)及び(2)の被告の主張のとおりであり,自由
権規約18条違反をいう原告らの主張には理由がない。
また,本件通達は本件各校長に対し,本件各職務命令は教師(教諭)に対
し発出されたものであり,児童・生徒に対して発出されたものではないから,
原告らの主張は,原告らの権利・利益を保護する趣旨で設けられていない法
令(児童の権利に関する条約)を根拠に違法を主張している点において,「自
己の法律上の利益に関係のない違法」を主張するといわざるを得ないもので,
主張自体失当であるし(行訴法10条1項),実体的にみても,本件通達及
び本件各職務命令は子どもに対する強制の要素を含むものでも,国歌斉唱時
における子どもの不起立を理由に子どもに不利益な処分を行うものでもな
い点からしても,原告らの主張はそもそも主張自体失当といわなければなら
ない。しかも,生徒に対する教育上の指導として行われる国旗・国歌の指導
は,当該指導に従わない生徒に対して格別の不利益な措置を予定するもので
はなく,生徒の思想・良心及び宗教の自由を侵害することはないし,国旗・
国歌の指導が一方的な理論や観念を生徒に教え込むものとはいえず,入学
式・卒業式等における各校の裁量,工夫を本件通達が禁止するものではない
から,原告らの国際条約違反の主張は理由がない。
さらに,原告らが主張するILO・ユネスコの教員の地位に関する勧告は,
飽くまでも勧告であり,条約のような法的効力を有するものではないし,そ
の内容も本件通達に相対立するものではない。
(5)国家シンボルの強制そのものの違憲性の有無
(原告らの主張)
国旗・国歌には,国家という一元的権力の下にその所属する国民を精神的
に結び付ける統合機能があり,かかる統合機能にかんがみれば,公権力が国
民に対して国旗・国歌に対する忠誠・尊重等の特定の行為を義務付けるとい
うことは,国家に対する特定の態度や行為を強制するということになり,ひ
いてはその態度や行為の前提となる思想を強制する意味を持つ。
個人が自らの所属する国に対してどのような思いを持ち,どのような態度
をとるかは,まさに自らの存在と不可分に関わる問題であり,個人の尊厳,
根幹にかかわる非常に重要な問題であるから,個々の国民の判断にゆだねら
れるべき事項であり,個人の尊重(憲法13条)を謳う日本国憲法における
基本的人権(憲法11条)の最たるものであるとともに,思想・信条の自由
(憲法19条),表現の自由(憲法21条)としても保障されるものであっ
て,国家がこれに介入することは許されない。したがって,公権力が,国家
の象徴である国旗・国歌に対して特定の態度や行為を義務付けることは,憲
法11条,13条,19条,21条の権利を侵害し,立憲主義(憲法前文,
11条,97条)にも反して違憲となる。
この点,被告は,国旗掲揚・国歌奏楽の場面における起立・斉唱は国際的
な慣習であり,一般的な社会常識であると主張するが,その主張には全く理
由がない。式典を含む学校教育の場における国旗掲揚・国歌奏楽の際の起立・
斉唱の義務付けは,中華人民共和国において見られるが,アメリカ合衆国,
イギリス,フランス,ドイツ,イタリア,カナダ,ロシアのいずれの国にも
見られない。かえって,カナダにおいては,地方学校委員会が学校の始業・
終業の行事において国歌斉唱をすることにした場合でも,一定の場合には,
国歌斉唱や出席を強制されない「良心条項」が教育法に規定されている。そ
して,我が国と人権保障に関して同様の価値体系を有するアメリカ合衆国の
連邦最高裁判所の判決(WestVirginiaStateBoardofEducationv.Barnette,
319U.S.624(1943))は,国民の連邦憲法上の権利を保護するために,国旗・
国歌関係の一定の行為の義務化ないし強制は禁止されるものとしている。被
告の主張は,根拠のない誤った認識に立脚するものといえる。
したがって,公権力が国民に対し,国旗に正対して起立し,国歌を斉唱す
る,ピアノ伴奏をするという特定の行為を義務付けることは,国民に対し,
国旗・国歌を尊重するとともに,それらが象徴する国家を尊重する旨の特定
の態度を強制するということであるから,日本国憲法に反し許されない。前
記の理は,義務付けの対象が公務員であるか否か,義務付けの根拠として法
規が存在するか否かといった個別の事情によって左右されるものではない。
仮に,学習指導要領の国旗国歌条項が,教職員に対して式典における国旗
の掲揚と国歌の斉唱の指導を義務付けているのであれば,国旗国歌条項は違
憲であり,これに基づいてなされた本件通達やこれに基づく一連の指導,職
務命令も違憲である。
(被告の主張)
入学式等における国旗・国歌の適正な指導の実施に係る本件通達及び本件
各職務命令は,特定の思想を持つことを強制したり,これに反する思想を持
つことを禁止したりするものではなく,特定の思想の有無について告白する
ことを強要するものでもない。日の丸・君が代は日本国憲法下の議会制民主
主義の過程を経て,法律上,国旗・国歌とされているところ,国際社会にお
いても,その歴史的沿革がいかなるものであろうとも,各国の国旗・国歌は
尊重されるべきであるとの共通の認識が存在しているのであって,国旗であ
る日の丸,国歌である君が代を尊重する態度を育てるべく児童・生徒に指導
することは普通教育において当然のことである。そして,それが一方的な一
定の理論や観念を児童・生徒に教え込むことにはならないことは明らかであ
るから,原告らの主張は失当である。また,原告らは,原告らの主張と同様
の見地に立つアメリカ合衆国連邦最高裁判所の判決が存在するとの指摘をし
ているが,同判決が違憲とした事案は,本件各職務命令によって原告らが求
められた卒業式等において国旗に向かって起立し,国歌を斉唱するというも
のとは全く異なり,ウェストバージニア州教育委員会が,同州の公立学校の
生徒に対し,学校の課程の中の儀式において,国旗への敬礼(右腕をしっか
り伸ばし,掌を上に向けて挙げる行為)及び忠誠の誓約(「私は,アメリカ合
衆国の国旗と,それを象徴する共和国,すなわち全ての人々に自由と正義を
もたらす不可分一体の国家に対して忠誠を誓います。」という言葉の唱和)を
義務付け,教員と生徒の全てが儀式に参加することを前提に,国旗敬礼等を
拒否することに対しては不服従行為として退学処分,刑事処罰等の措置が科
せられることを決議し,国旗敬礼を拒否した生徒が退学処分を受けたという
事案であるから,彼我の憲法制定過程や法制度の差異を論ずるまでもなく,
比較は意味をなさないことが明らかである。
仮に本件各職務命令により原告らに国歌斉唱時の起立・斉唱・ピアノ伴奏
を求めることが,原告らの思想・良心の自由に関する間接的な制約となると
しても,国歌斉唱時の起立・斉唱・ピアノ伴奏を求めることは必要かつ合理
的なものであって,それを介して生ずる間接的な制約も許容されることは既
に前記(1)の被告の主張において述べたとおりである。
(6)本件通達の憲法94条,地方自治法14条1項違反の有無
(原告らの主張)
ア憲法94条は,「地方公共団体は,その財産を管理し,事務を処理し,
及び行政を執行する権能を有し,法律の範囲内で条例を制定することがで
きる。」と規定する。ここにいう条例には,狭義の条例のほか,長の制定
する地方自治法上の規則(同法15条),特別の法律に基づき地方公共団
体の委員会が制定する規則(同法138条の4第2項)等が含まれる。憲
法94条を受けて,地方自治法14条1項は,「普通地方公共団体は,法
令に反しない限りにおいて第2条第2項の事務に関し,条例を制定するこ
とができる。」と規定している。地方自治法2条2項の事務とは,「地域
における事務その他の事務で法律又はこれに基づく政令により処理するこ
ととされるもの」である。結局,条例は「法律の範囲内で」(憲法94条),
国の「法令に違反しない限りにおいて」(地方自治法14条1項)認めら
れる。そして,本件通達は,条例でなく,通達という形式で発出されたも
のであるが,仮に本件通達と同内容の条例を制定した場合にこれが違憲・
違法になるのであれば,本件通達はなおさら違憲・無効となるはずのもの
である。
イそこで,本件通達の内容が「法律の範囲内で」,国の「法令に違反しな
い限りにおいて」定められているかを検討するに,法律である国旗国歌法
は,その立法経緯,目的,内容から見て,全国的に国旗を日章旗,国歌を
君が代と定めることのみを目的とし,尊重義務を含め何らの義務も設けて
いないのであり,国民や教師・生徒に対してこれを強制しないとの趣旨に
出た法律であることは明らかであるから,国旗国歌法が,それぞれの普通
地方公共団体において,その地方の実情に応じて,別段の規制を施すこと
を容認する趣旨を有するとは到底考えられない。
また,学校教育法43条,20条,同法施行令57条の2,25条に基
づく文部科学省告示として公示された学習指導要領に関して,その法的拘
束力について仮に最高裁判所昭和43年(あ)第1614号同51年5月
21日大法廷判決・刑集30巻5号615頁(以下「昭和51年大法廷判
決」という。)に従い,これが教育における機会均等の確保と全国的な一定
水準の維持という目的のために必要かつ合理的と認められる大綱的な基準
にとどまる限度において法的拘束力を持つものとして取り扱うとしても,
学習指導要領は,その国旗国歌条項において,前記前提となる事実(2)のと
おり,「入学式や卒業式などにおいては,その意義を踏まえ,国旗を掲揚
するとともに,国歌を斉唱するよう指導するものとする。」旨を規定する
のみであり,本件通達が内包する実施指針が規定する「国旗は,式典会場
の舞台壇上正面に掲揚」しなければならないとか,「式次第には,『国歌
斉唱』と記載」しなければならない」とか,「国歌斉唱に当たっては,式
典の司会者が『国歌斉唱』と発声し,起立を促す」,「教職員は,会場の
指定された席で国旗に向かって起立し,国歌を斉唱する」,「国歌斉唱は,
ピアノ伴奏等により行なう」などという一律で画一的な方法や,処分をも
ってこれを強制すべき旨を規定するものではない。学習指導要領が「地域
差,学校差を超えて全国的に共通なものとして教授されることが必要な最
小限度の基準」として定められたものである以上,それぞれの普通地方公
共団体において,その地方の実情に応じて,別段の規制を施すことを容認
する趣旨とは考えられない。
したがって,本件通達は,内容面において地方公共団体の条例制定権を
逸脱し,国旗国歌法との関係で「法律の範囲」を超え「法律に違反した」
ものとなる。また,本件通達は,行政組織内部の規律にとどまり,法規の
性質を持つものではないところ,これが学習指導要領の国旗国歌条項の解
釈や運用方針を示達するために発せられたものであるとすれば,本件通達
の前提となっている国旗国歌条項は,教師に強制しない範囲においてのみ
大綱的基準としての法的拘束力を持つにすぎないと解すべきものであるか
ら,本件通達はその解釈を誤った違法な通達となる。
ウ以上によれば,本件通達は憲法94条に反して違憲であるとともに,地
方自治法14条1項に反して違法である。
(被告の主張)
国旗国歌法は,国旗・国歌についての定義法であり,国旗掲揚,国歌斉唱
を義務付けているものでない。しかしながら,昭和51年大法廷判決を始め,
学習指導要領の全体について法規としての法的拘束力を認めているのが判例
であるところ,前記前提となる事実(2)のとおり,学習指導要領は,儀式的行
事について「学校生活に有意義な変化や折り目を付け,厳粛で清新な気分を
味わい,新しい生活の展開への動機付けとなるような活動を行うこと。」と定
め,また「入学式や卒業式などにおいては,その意義を踏まえ,国旗を掲揚
するとともに,国歌を斉唱するよう指導するものとする。」と定めており,そ
の内容に照らし,当該条項は大綱的基準としての法的拘束力を持つものであ
る。すなわち,地教行法23条5号は,学校設置団体の教育委員会の権限と
して,その所管する学校の教育課程,学習指導,生徒指導などについての管
理,執行権限を明記しており,必要な場合には,学校管理機関としての教育
委員会が教育の内容及び方法についても学校に対し具体的な命令を発するこ
とができるものであるところ,本件通達(本件実施指針)の内容は,前述の
学習指導要領の趣旨を達成するためという「許容された目的」のもとに,そ
の目的に適した場所的環境や式の進行を定めるものであり,学習指導要領の
趣旨に沿って入学式・卒業式等を実施する上で必要かつ合理的なものとして
発せられているのであって,それは学校管理機関としての都教委がその権限
を行使するものである。さらに,本件通達が発せられるに至ったのは,前記
前提となる事実(3)のように,それまで都立学校において,国旗・国歌の指導
に係る不適正というべき実態があり,これを踏まえて生徒に対する国旗・国歌
の指導が適正に行われるよう,慣習,常識としての内容を含めて儀式的行事
のあり方を明確に示す必要があったことから,都教委がその権限と責任にお
いて校長に対しその教育目標を達するために発出したものであり,適正な教
育課程の実施について,その具体的なあり方を示したものである。
そして,学校の儀式的行事である卒業式等における国歌斉唱の際の起立斉
唱行為は,一般的,客観的に見て式典における慣例上の儀礼的な所作として
の性質を有するものであり,かつこのように外部から認識されるものであっ
て,原告らの有する世界観を否定することと不可分に結びつくものとはいえ
ず,指導する教員に係る何らかの権利の規制にかかわる問題でないことは明
らかであるから,本件通達について,法律の規定と条例制定権の問題や,通
達としての解釈の誤りをいう原告らの主張は,憲法94条への違反をいう点
も含めて失当である。
(7)学習指導要領の国旗国歌条項の法的拘束力の有無
(原告らの主張)
学習指導要領は,学校教育法を授権規定とし,同法施行規則を受任規定と
する文部科学省告示であり,行政が定立した要領にすぎず,法的拘束力を有
しないはずであるが,この点について,昭和51年大法廷判決は,学習指導
要領の法的拘束力を全面的に否定してこそいないが,学習指導要領について,
教育における機会均等の確保と全国的な一定水準の維持という目的のために
必要かつ合理的と認められる大綱的な基準にとどまる限度においてのみ,遵
守すべき基準として認められるとする一方,教師による創造的かつ弾力的な
教育の余地や地方ごとの特殊性を反映した個別化の余地が十分に残されてお
らず,又は教師に対して一方的な一定の理論ないしは観念を教え込むことを
強制するような点が含まれている場合には,必要かつ合理的な大綱的基準と
して是認できないとしている。このような昭和51年大法廷判決の論理に従
うとしても,学習指導要領が上記のような強制の点を含むものであるときは,
法律の授権の範囲を逸脱するものとして法的拘束力を持ち得ないことになる。
しかるに,国旗国歌条項は,教育の内容や方法に直接にかかわるものであり,
これを国旗・国歌を一律に強制するための根拠条項と解した場合,本来教育
行政による干渉がより厳格に回避されるべき教育の内容や方法について,「教
師による創造的かつ弾力的な教育の余地」や「地方ごとの特殊性を反映した
個別化の余地」を残さないものとなるのであるから,その法的拘束力を認め
ることはできないことになる。また,国家の象徴である国旗・国歌に敬意を
表明することや,国旗・国歌に肯定的な態度をとるべきことを強制すること
は,国家に対してすべからく肯定的な態度を示すべきであるとの一方的な理
論ないし観念を生徒に教え込むことを強制するものともなる。したがって,
国旗国歌条項は,必要かつ合理的と認められる大綱的な基準として是認でき
るものではないから,これを根拠として,本件通達及び本件各職務命令によ
り各教員個人に対して国旗・国歌を強制することはできない。
加えて,国旗国歌条項の解釈に当たっては,国旗国歌法制定の趣旨等が参
考にされるべきである。国旗国歌法に義務付け条項や尊重条項が入らなかっ
たのは,国旗・国歌を日の丸・君が代とすることは確定するものの,国旗・
国歌に対して国民がどのように考え,どのような行動をとるかは,基本的に
は個々人が自ら判断することであると政府・国会が考えたからにほかならな
い。政府は,国会において国旗国歌法の制定前後で教育現場の指導内容に何
ら変更はないと答弁していたのであり,この答弁に現れている立法者意思を
踏まえると,国旗・国歌についてより厳しい指導ないし責務を課すことは許
されず,国旗国歌法は本件通達を正当化するものではない。また,国旗国歌
法は,国民に対する一切の義務付けがないものとして国会で成立したのであ
るから,これよりも下位の法形式である学習指導要領の定めている国旗国歌
条項によって国旗・国歌を国民,なかんずく教職員に義務付けることはでき
ない。
(被告の主張)
ア前記(6)の被告の主張において述べたとおり,昭和51年大法廷判決を始
め,判例は,学習指導要領の全体について法規としての法的拘束力を認め
ている。学習指導要領が,教育の内容及び方法に関する国の介入であり,
大綱的基準の範囲内にとどめられなければならないことは当然であるが,
以下の点に照らせば,国旗国歌条項に法的拘束力があることは明らかであ
る。
すなわち,国旗国歌条項は,日本人としての自覚を養い,国を愛する心
を育てるとともに,生徒が将来,国際社会において尊敬され,信頼される
日本人として成長していくためには,生徒に国旗・国歌に対する正しい認
識を持たせ,それらを尊重する態度を育てることが重要であること,卒業
式等は,学校生活に有意義な変化や折り目を付け,厳粛かつ清新な雰囲気
の中で,新しい生活への展開への動機付けを行い,学校,社会,国家等の
集団への所属感を深める上でよい機会となることから,このような卒業式
等の意義を踏まえたうえで,卒業式等の式典において,国歌斉唱等を行う
との趣旨で設けられた規定である。このような趣旨で定められた国旗国歌
条項は,教職員に対しても,儀式的行事における常識的,一般的な行為を
求めるものにすぎず,一方的な理論ないし観念を生徒に教え込むことを強
制するものではない。
また,国旗・国歌に関する定めは,その性質上,全国的にされることが
望ましく,教育における機会均等の確保と全国的な一定の教育水準の維持
という目的のために,国旗国歌条項を学習指導要領の一部として規定する
必要性及び合理性がある。国旗国歌条項は,国旗・国歌について,具体的
にどのような指導,教育をするかについてまでは定めておらず,国歌斉唱
等の具体的方法等について指示するものではないから,その内容は,一義
的なものではなく,大綱的基準にとどまっている。したがって,弾力的な
教育の余地や地方ごとの特殊性を反映した個別化の余地が十分残されてい
ないとはいえない。
イ国旗国歌法は,日の丸・君が代を国旗・国歌と規定するものであり,国
旗国歌法の制定によって教職員に新たな義務が課せられたわけではない。
しかしながら,国旗・国歌の指導に際して職務命令を発することができな
いとか,当該職務命令違反に対して懲戒処分を行い得ないとする趣旨を含
むものではなく,教職員は,関係法令や上司の職務上の命令に従って教育
指導を行うべき職務上の責務を負い,各学校の教育課程の基準として,法
規としての性質を有する学習指導要領の定めている国旗国歌条項に基づい
て学習指導を実施するという職務上の責務を負っている。
(8)本件通達及び本件各職務命令の教育基本法16条1項違反の有無
(原告らの主張)
ア教育基本法16条は,教育の中立性を確保し,政治的社会的勢力,とり
わけ教育行政により不当に教育活動が拘束されることのないようにすべく,
教育は不当な支配に服することなく行われるべきことを規定しており,不
当な支配であるかどうかについては,これを昭和51年大法廷判決に即し
て被告の教育行政についてみれば,①教師による創造的かつ弾力的な教育
の余地や,地域や学校ごとの特殊性を反映して個別化の余地が十分に残さ
れていること,②教育における機会均等の確保と全国ないし東京都全体に
おける一定の水準維持という目的のため必要かつ合理的と認められる大綱
的な基準にとどまるものであること,③教師に対し一方的な一定の理論な
いし観念を生徒に教え込むことを強制するものではないことといった基準
によって判断されるべきものである。そして,これらの要件を満たさない
教育行政機関の通達,職務命令といった行為は,不当な支配として違法な
ものとなる。
イしかるに,本件通達及び本件各職務命令は,卒業式等において国家シン
ボルに敬意を表する特定の具体的行為,すなわち起立斉唱等を教師に義務
付けて,個人の尊厳よりも国家への統合を重視する愛国主義的又は全体主
義的な教育を行うことを目的としており,それ自体許容され得るものでは
ない。被告は,本件通達及び本件各職務命令の必要性及び合理性を,教育
に関する地方自治の原則,学習指導要領の定めている国旗国歌条項の適正
実施に求めているが,国旗・国歌は,国家のシンボルの問題であり,地方
自治体の教育委員会が全国的一定水準としての国旗国歌条項よりも個別具
体的な内容の指示を出す必要性は考えられないし,国旗国歌条項は,卒業
式等における国旗掲揚及び国歌斉唱の実施を求めるものであり,その実施
方法まで指示するものではなく,東京都においては,平成13年以降,全
ての都立学校の卒業式等において,国旗掲揚及び国歌斉唱が実施されてい
たことも考えれば,国旗国歌条項の適正実施は,本件通達を発出するため
の目的とはなり得ない。
仮に本件通達及び本件各職務命令の目的が国旗国歌条項の趣旨に沿った
ものであるとして許容されるとしても,国旗国歌条項は,国旗掲揚及び国
歌斉唱の具体的方法等を指示するものではなく,起立斉唱等の義務を教職
員に負わせるものではないし,卒業式等は,単なる卒業証書授与式等では
なく,学習指導要領第4章「特別活動」において「学校行事」の中の「儀
式的行事」として位置付けられる教育活動であり,学校ごとの創意工夫を
生かすとともに,学校の実態や生徒の発達段階及び特性等を考慮したもの
でなければならないから,教育内容の第1次的裁量権は,子どもとの人格
的接触を通じその発達段階や個性に応じて創造的教育活動を行う教師で構
成される学校にあるところ,本件通達の具体的内容(本件実施指針)は,
いずれも学校ないし校長の裁量権に属する事項についてのものであり,本
件通達で指示する必要性及び合理性はない。
以上に照らせば,本件通達及び本件各職務命令は,許容される目的のた
めに必要かつ合理的な介入であるとはいえない。
なお,公の儀式において起立斉唱により国家シンボルに敬意を表するこ
とが礼儀だと考えるのは,愛国の感情を重視する一方的な愛国主義的見解
であり,本件通達及び本件各職務命令は,愛国の感情を重視する一方的な
観念を子どもに教え込むことの強制に当たるものであり,許されない。こ
の点,被告は,儀式的行事における国歌斉唱は起立して行うのが国際儀礼
上の常識であって,我が国に限らず通例である旨主張するが,前記(5)にお
いて既に述べたように,そのような儀礼・常識は存在しない。
ウ本件通達(本件実施指針)は,特別活動として一般教科以上に学校ごと
の創意工夫が要請される卒業式等の実施について,学校ないし校長の裁量
の余地を奪ったものであり,本件通達及びそれに基づく本件各職務命令は,
創造的かつ弾力的な教育活動の余地や学校ごとの特殊性を反映した個別化
の余地を十分に残したものとはなっておらず,大綱的基準の範囲にとどま
らないものである。また,本件通達及びそれに基づく本件各職務命令は,
教育内容が具体的なレベルまで事前に決定されており,これに反すると制
裁を伴うという点で,強制の程度も最も強い。
そもそも,教育行政機関による教育の内容及び方法についての関与,介
入について,昭和51年大法廷判決が,教育における機会均等の確保と全
国的な一定の水準の維持という目的のために必要かつ合理的と認められる
大綱的な範囲にとどめられるべきものとした第一の理由は,子どもの教育
は,教師と子どもとの間の直接の人格的接触を通じ,子どもの個性に応じ
て弾力的に行われなければならないから,教師の自由な創意と工夫の余地
が求められるという本質的要請によるものであり,これは,国,地方を問
わず,教育行政機関一般についてその介入を制限する根拠となっている。
教育委員会による介入に関する「不当な支配」の審査基準が,国の場合よ
りも緩和される理由はない。
仮に,教育委員会が許容された目的の下,その目的達成のため必要,合
理的なものであれば,教育の内容及び方法についても関与,介入できると
解するとしても,本件通達及びそれに基づく本件各職務命令がこの場合に
該当しないことは,前述の内容から明らかであるし,本件通達及びそれに
基づく本件各職務命令は,創造的かつ弾力的な教育活動の余地や学校ごと
の特殊性を反映した個別化の余地を奪い,教育活動に甚大な影響を与える
ものである。
エ以上によれば,本件通達は,教育基本法16条1項が禁止する「不当な
支配」に当たり,無効である。
また,本件各校長は,本件通達を発出した都教委による強い指導を受け,
その意に沿う内容で本件各職務命令を発したという本件の実態をみれば,
本件通達どおりに卒業式等を実施するように職務命令を受けていたといえ
るのであり,本件各校長には本件各職務命令を発令しないという選択肢は
なかったから,本件各職務命令も,本件通達と一体のものとして違法かつ
無効である。仮に,本件各校長が各々の有する固有の権限により本件各職
務命令を発出したものであっても,本件通達と同様に違憲・無効な内容の
ものであることに変わりはない。
(被告の主張)
ア教育基本法16条1項は,教育が国民全体に対して直接に責任を負って
行われるべきものであることを前提として,教育への「不当な支配」を禁
止するが,この「不当な支配」とは,国民全体ではない一部の勢力(政党,
官僚,政界,労働組合等)による介入をいうものである。そして,教育は
国民全体に対して直接に責任を負って行われるべきものであるため,国民
の意思と教育が直結し,国民の教育に対する意思が表明され,それが教育
上に反映されるような組織として,それぞれの地方に固有の権限を有する
教育委員会が設置されている。そして,各地方の実情に適応した教育を行
わせるのが教育の目的及び本質に適合するとの観念(地方自治の原則)に
基づき,公立学校の教育に関する権限は,地方公共団体の教育委員会に属
するものとされている(地教行法23条,32条等)。
このような権限を付与されている教育委員会(都教委)は,子ども自身
の利益の擁護のため,また,子どもの成長に対する地域社会,公共の利益
と関心にこたえるため,必要かつ合理的と認められる範囲で,教育の内容
及び方法に関して国に比してより具体的な基準を設定し,必要な場合には
具体的な命令を発する権能を有し,その責務を負っている。したがって,
教育委員会は,許容された目的の下,その目的達成のため必要かつ合理的
なものであれば,教育の内容及び方法についても関与,介入できるのであ
り,本件通達及び都教委の一連の指導が教育基本法16条1項に違反する
か否かはこの審査基準により判断されるべきである。
ところで,昭和51年大法廷判決は,国の教育行政機関が普通教育の内
容及び方法について遵守すべき基準を設定する場合には,教育に関する地
方自治の原則をも考慮しなければならないから,教育における機会均等の
確保と全国的な一定の水準の確保という目的のために必要かつ合理的と認
められる大綱的基準にとどめられるべきであるとした。これに対し,公立
学校を設置する地方公共団体については,上記地方自治の原則のもとに,
国が設定した大綱的基準の範囲で,より具体的かつ詳細な基準を設定する
ことができ,またそれが要請されている。現に,昭和51年大法廷判決は,
学校設置者たる地方公共団体の教育委員会は,学校を所管する行政機関と
して,その管理権に基づき,学校の教育課程の編成について基準を設定し,
一般的な指示を与え,指導,助言を行うとともに,必要な場合には具体的
な命令を発することもできると判示している。
地教行法23条5号は,学校の組織編制,教育課程,学習指導,生徒指
導及び職業指導に関することを教育委員会の職務権限としており,教育委
員会は,上記事項について管理し,執行することができると規定している。
また,地教行法17条1項は,教育長は,教育委員会の指揮監督の下に,
教育委員会の権限に属する全ての事務をつかさどると規定しており,教育
長は,教育課程等に関わる事項に関して,校長に対し,通達等により個別
具体的な職務の遂行について職務命令を発することができる。したがって,
教育基本法16条1項が禁止する「不当な支配」と地教行法23条5号及
び同法17条1項との理論的整合性の観点からすると,教育委員会がその
権限の行使として発出する通達ないし職務命令について,これが大綱的基
準にとどまるべきものと解することはできない。
イ叙上のところを本件についてみるに,本件通達は,許容された目的の下
になされた必要かつ合理的なものであり,教育基本法16条1項が禁止す
る「不当な支配」には該当しない。
すなわち,本件通達は,国旗・国歌に関しては,都立学校において学ぶ
児童・生徒に国旗・国歌に対して正しい認識を持たせ,それらを尊重する
態度を育てるという目的の下で,普通教育において指導すべき国旗・国歌
に関する基礎的知識を指導するために,また,その他の事項に関しては,
卒業式,入学式,周年行事等の学校行事(儀式的行事)を学習指導要領に
則して適正に実施するために発せられたものであって,まさに学校管理機
関としての都教委がその権限を行使する許容された目的の下に発せられた
ものである。なお,都教委は,地教行法23条5号により都立学校の教育
課程等に関する権限(編制権限)を有しており,国旗国歌条項の具体化と
して,上記の学校行事における国旗・国歌の指導の内容及び方法を校長に
指示できるのは当然のことである。
本件通達は,本件実施指針において,卒業式等の式典の実施方法を定め
ているが,その内容は,学習指導要領の内容に照らし,必要かつ合理的な
ものである。すなわち,卒業式等は,特別活動のうちの儀式的行事として
実施されるものであるが,学習指導要領は,儀式的行事について,「学校生
活に有意義な変化や折り目を付け,厳粛で清新な気分を味わい,新しい生
活の発展への動機付けとなるような活動を行うこと。」と定め,その国旗国
歌条項において,「入学式や卒業式などにおいては,その意義を踏まえ,国
旗を掲揚するとともに,国歌を斉唱するよう指導するものとする。」と定め
ており,本件通達は,学習指導要領の上記規定に沿って卒業式等を実施す
る上で,必要かつ合理的なものである。本件実施指針のうち,「国歌斉唱に
当たっては,式典の司会者が『国歌斉唱』と発声し,起立を促す。」,「式典
会場においては,教職員は,会場の指定された席で国旗に向かって起立し,
国歌を斉唱する。」の2項目については,儀式的行事における国歌斉唱は起
立して行うことが国際儀礼上の常識であって,我が国に限らず通例であり,
教職員がそれに沿った行動をとるものとしても不合理なものではない。ま
た,学校における教育活動のうち卒業式等の儀式的行事は,各クラス単位
での授業とは異なり,学校全体として行うものであり,その意義からして
も,その実施方法についても,全校的に統一性をもって整然と行われる必
要がある教育活動である。上記各項目は,いずれも学習指導要領の内容,
趣旨に沿ったものであり,都教委が,その判断に基づき,卒業式等の式典
を厳粛かつ清新なものとし,併せて国旗・国歌の指導をするための方式を
示したものとして,必要かつ合理的な範囲を超えたものとはいえない。ま
た,都立学校の卒業式等における国旗掲揚及び国歌斉唱の実施状況は,実
施率こそ100%となっていたが,校長が学習指導要領に沿って国旗・国
歌の指導を含む適正な卒業式等の実施を教職員に指導ないし指示して実施
しようとしてもそれができず,国歌斉唱時に職員が起立しない,三脚で国
旗を掲揚して舞台の袖の見えないところに設置する,音楽科担当の教員が
いるのに国歌のピアノ伴奏をしない,式次第に国歌斉唱と明記しない,国
歌斉唱が終わってから教員が式場に入場するなど,卒業式等における国
旗・国歌の適正な指導がなされていない状況が続いていた。都教委は,都
立学校における国旗・国歌の指導に関してこのような不適切な実態があっ
たことから,都立学校において国旗・国歌の指導が適正に行われるように
するため,本件通達を発出して儀式的行事の在り方を明確に示す必要があ
った。
ウ本件通達は,卒業式等の儀式的行事に限ってその実施方法を示している
ものにすぎず,年間を通じての国旗・国歌の指導について指示するもので
はなく,学校の日常的教育活動に大きく影響するものでもない。儀式的行
事に限ってみても,本件通達は,本件実施指針の限度で指示するものであ
って,式典全体のうち国旗・国歌の指導及び会場設営に関してのみ指示す
るものであり,いつ国歌斉唱を行うかを始めとして,それ以外の式典の進
行等は各学校の創意工夫に任されており,実際に各学校において様々な創
意工夫がされている。その中で,卒業式等における起立斉唱は,国旗・国
歌に関する国際的儀礼にも合致する常識的なものであり,その指導内容は,
都立学校に学ぶ児童・生徒が多様であっても共通して学ぶべき事柄である。
そもそも,国旗国歌法は,日の丸・君が代を国旗・国歌として定めており,
国際社会においても,国旗・国歌は尊重されるべきとの共通の認識が存在
しているところ,我が国だけでなく,他国の国旗・国歌も同様に尊重する
態度を育てるべく児童・生徒に指導することは,普通教育において当然の
ことであるから,これが一方的な理論や観念を児童・生徒に教え込むもの
とはいえない。
エ校長は,校務をつかさどり所属職員を監督する権限を有しており,教育
課程の編成等全ての校務を決定し,これを各教職員に分掌させ,必要な指
導を行い,職務命令を発することができる(地公法32条)。原告らの主張
は,本件通達が教育基本法16条1項に違反するから,本件通達に基づく
本件各職務命令も違法であるというが,本件各校長は,卒業式等を学習指
導要領に則って適正に実施すべく,自らの権限と責任に基づき,本件各職
務命令を発したのであるから,仮に本件通達や都教委の指導等が教育基本
法16条1項に違反するものであったとしても,本件各職務命令は,手続
的にも実体的にも違法となるものではない。なお,原告らは,本件通達に
より本件各校長が強制された状態で本件各職務命令を発出していると主張
し,そのように認めた裁判例があるとするが,その判決は控訴審において
取り消されており,その事実認定の中で,強制であることを認める判示は
されていない。
(9)本件通達及び本件各職務命令の平成19年6月27日法律第96号によ
る改正前の学校教育法42条(同改正後の同法51条)違反の有無
(原告らの主張)
平成19年6月27日法律第96号による改正前の学校教育法42条3号
は,同法41条の定める高等学校の目的を実現するための教育の目標として
同条3号に「社会について,広く深い理解と健全な批判力を養い,個性の確
立に努めること」を定めている。
しかるに,都教委は,本件通達及びそれに続く一連の指導において,生徒
に対して従前,入学式,卒業式等の式典において行われていた「内心の自由」
に関する説明について「教職員が入学式等の直前に,子ども(生徒)に対し
て内心の自由を説明することは,起立・斉唱するかどうかは子ども(生徒)
の自由であるかのような指導をしているかの如く受け取られる可能性があり,
このことは学習指導要領に基づく指導としては不適切である」との見解を示
している。これは,都教委が「入学式,卒業式等の式典においては,本件通
達に定めた通りの方法で国旗を掲揚し,本件通達に定めた通りの方法で国旗
に向かって起立して国歌を斉唱すること」だけが唯一正しいものとして,こ
れに対する健全な批判を許さないとするものである。
日の丸・君が代については,国民の間にさまざまな意見があるところであ
り,教育現場においても日の丸・君が代に関する多様な考え方の存在を認め
ることが,同法42条3号にいう「社会について,広く深い理解と健全な批
判力を養い,個性の確立に努めること」に資することは論を俟たない。入学
式,卒業式等の式典において,本件通達に定めた通りの方法で国旗に向かっ
て起立し,国歌を斉唱することが唯一正しいあり方であり,これに対する批
判に対しては懲戒処分をもって臨むことを明らかにした本件通達及びそれに
続く一連の都教委の指導は,一方的な観念を生徒に教え込むものにほかなら
ず,このような都教委の指導の下では生徒は「社会に対する,広く深い理解
と健全な批判力」を養うことができない。
したがって,都教委による本件通達及びこれに続く一連の指導,そしてそ
の一環として発令された本件各職務命令は,同法42条3号に定められてい
る高等学校教育の目標に反するものであって,違法というべきである。
(被告の主張)
本件通達及びそれに続く都教委の指導は,入学式・卒業式等の式典にお
ける国旗・国歌の指導に限られており,年間を通じての国旗・国歌の指導
について指示等するものではなく,「健全な批判力」の養成に反するもので
はない。しかも,原告ら指摘の平成19年6月27日法律第96号による
改正前の学校教育法42条1号は,高等学校の教員の目標として「中学校
における教育の成果をさらに発展拡充させて,国家及び社会の有為な形成
者として必要な資質を養うこと。」を挙げ,同条3号も「社会について広く
深い理解を養」うことを挙げている。入学式・卒業式等の式典における国
旗・国歌の指導は,日本人としての自覚を養い,国を愛する心を育てると
ともに,児童・生徒が将来,国際社会において尊敬され,信頼される日本
人として成長していくために,国旗・国歌に対する正しい認識を持たせ,
それを尊重する態度を育てるためであり,これは児童・生徒が学ぶべき普
遍的・基礎的な事項であって,まさに「国家及び社会の有為な形成者とし
て必要な資質を養うこと」,「社会について広く深い理解を養」うことに沿
うものである。したがって,本件通達及びそれに続く一連の都教委の指導
は,同条の定める高等学校教育の目標に適合し,何らこれに反するもので
はない。
(10)本件通達の地方自治法14条2項,2条16項,2条2項違反の有無
(原告らの主張)
ア地方自治法14条2項は,「普通地方公共団体は,義務を課し,又は権
利を制限するには,法令に特別の定めがある場合を除くほか,条例によら
なければならない。」と規定している。ところが,本件通達は,法令に定
めがない場合に,条例にもよらずに,原告らに義務を課し,原告らの権利
を制限するものである。したがって,本件通達は,地方自治法14条2項
に違反するものである。
イ地方公共団体は,法令に違反してその事務を処理してはならないものと
されている(地方自治法2条16項)。しかるに,本件通達は,国旗国歌
法にも学習指導要領の国旗国歌条項にも違反し,憲法94条,地方自治法
14条1項,2項にも違反するものであるから,被告が法令に違反してそ
の事務を処理したものとして,同法2条16項に違反する。
ウ普通地方公共団体は,地方自治法2条2項により,地域における事務及
びその他の事務で法律又はこれに基づく政令により処理することとされる
ものを処理するとされているところ,同条8項は「この法律において「自
治事務」とは,地方公共団体が処理する事務のうち,法定受託事務以外の
ものをいう。」と規定し,同条9項は「この法律において「法定受託事務」
とは,次に掲げる事務をいう。」として,同項1号,2号において,「法
律又はこれに基づく政令により都道府県,市町村又は特別区が処理するこ
ととされる事務」のうち「法律又は政令に特に定めるもの」を挙げる。国
旗・国歌に関しては,国旗国歌法はもちろん,他の法律にも政令にも,都
道府県等が処理する事務としたものはなく,これに関する特別の定めもな
いから,「法定受託事務」でないことは明らかであるし,国旗・国歌に関
する事項は,国家の象徴に関する国家的規模の問題であり,住民自治にも
団体自治にも関わりがないから,「自治事務」ともいえない。すなわち,
本件通達は,法定受託事務でも自治事務でもない事項に関し,普通地方公
共団体の一機関たる教育委員会が事務処理をしたものであり,地方自治法
2条2項に反して違法である。
(被告の主張)
ア本件通達に記載する学校の儀式的行事である卒業式等における国歌斉唱
の際の起立斉唱行為は,一般的,客観的に見て式典における慣例上の儀礼
的な所作としての性質を有するものであり,かつこのように外部から認識
されるものであって,原告らの有する世界観を否定することと不可分に結
びつくものとはいえないことから,人の権利の規制にかかわる問題でない
ことは明らかであり,本件通達は,地方自治法14条2項に違反するもの
とはいえない。
イ本件通達は,地教行法に根拠を有する管理権限に基づいて,学習指導要
領に規定された国旗国歌条項を具体化したものであり,法令に違反してそ
の事務を処理したものではないから,地方自治法2条16項に違反するも
のとはいえない。
ウ学習指導要領に規定された国旗国歌条項を具体化する本件通達は,自治
事務に該当するものであり,地方自治法2条2項違反をいう原告らの主張
は失当である。
(11)本件不起立等の地公法32条,33条違反の有無
(原告らの主張)
ア地公法32条は,「職員は,その職務を遂行するに当たって,法令,条
例,地方公共団体の規則及び地方公共団体の機関の定める規程に従い,且
つ,上司の職務上の命令に忠実に従わなければならない。」と規定してい
るところ,同条において遵守を求められる職務命令は,憲法を最上位とす
る法体系の趣旨に適合する命令であることが前提とされており,かかる法
体系の趣旨を逸脱する職務命令を発することは,そのこと自体が地公法3
2条前段に違反するものというべきである。
そして,同条後段に規定する職務命令は,職務命令の発令権限に基づい
て発せられた適法なものでなければならないところ,学校における卒業
式・入学式及び周年行事も,学習指導要領上「特別活動」として位置付け
られている全校的教育活動であるから,授業と同様教師の主体性(専門職
上の自由)が強く保障されるべきである。そこで,卒業式・入学式及び周
年行事に関し,校長が,教師に対する職務命令権限を有するかを検討しな
ければならないが,学校教育法37条,62条は,教師と校長の権限の区
分けを明確に行っており,同法37条4項,62条にいう校長の教職員に
対する「監督」権限には,「教師の教育活動の内容にかかわる職務命令を
出す権限」は含まれていない。そうすると,各教師の独立した教育権の行
使である教育活動の内容に対して,校長が「助言指導」の域を超えて職務
命令を発することは,そもそも「職務上の上司」でない者がその職務権限
とは無関係に行ったもので,権限逸脱行為として許されず,本件のように
入学式,卒業式及び周年行事に際し,校長が各教師に対し国歌斉唱時に起
立すること等を職務命令として命じることは,それ自体が違法である。ま
た,本件訴訟の原告中には,学校栄養士という一般行政職に属する者が含
まれているが,そもそもかかる学校栄養士は,本件で問題となっている「特
別活動」に関し,校長から生徒への指導を内容とする職務命令を受ける対
象には含まれないと考えられることから,その意味でも上記職務命令は違
法なものといえる。
一方,本件通達は,校長を名宛人としている点で,原告らを名宛人とす
る本件各職務命令とは異なる法的根拠を有する別個の行為であるが,形式
的には,本件各職務命令を発すべき必要性の判断は本件各校長が有してい
るとしても,本件通達及びその後に都教委が行った指導により,校長にお
いては事実上自己の裁量を働かせる余地がなく,本件各職務命令の発出を
余儀なくされていたと評価できる。したがって,本件各職務命令の発出は,
本件通達やその後の都教委が各校長に対して行った指導と一体のものとい
え,実質的には本件各職務命令の違憲・違法性を判断するについて本件通
達の違憲・違法性が影響を及ぼすと考えられる。この点,既述のとおり,
本件通達は,子どもの学習権,意見表明権,教師の専門職上の自由,学校
自治を侵害し,教育基本法16条1項の「不当な支配」に該当することは
明らかであるのみならず,学校教育法所定の高等学校教育の目的・目標を
逸脱しているほか,教師個人の思想及び良心の自由(憲法19条),信教
の自由(憲法20条)を不当に侵害するものであり,さらに,児童の権利
に関する条約や自由権規約に違反している。したがって,これら違憲・違
法な通達に従って出された本件各職務命令自体も,違憲・違法なものとな
る。
なお,裁判例は「重大かつ明白な瑕疵」がある場合には当該職務命令を
無効とする旨の判断基準を採用しているところ,本件通達は明白に違憲・
違法と評価され,本件各職務命令は本件通達に従いその内容を忠実に実現
するべきものとして発せられていることから,本件各職務命令自体が明白
に違憲・違法なものということができ,本件各職務命令に「重大かつ明白
な瑕疵」が認められる。したがって,原告らには,本件各職務命令に対す
る服従義務(服務義務)は認められず,原告らの本件不起立等は地公法3
2条に違反するものではないから,同条を理由とする懲戒処分は許されな
い。
イ地公法33条は,「職員は,その職の信用を傷つけ,又は職員の職全体
の不名誉となるような行為をしてはならない。」として,いわゆる信用失
墜行為の禁止を規定しているところ,本件不起立等は違法性が重大かつ明
白な職務命令に対する不服従であり,卒業式等の学校行事を積極的に妨害
したわけではなく,式自体の進行には何らの支障・混乱も生じさせていな
い。また,仮に一部の人が原告らの本件不起立等につき自己の価値観と異
なる旨の感想を抱いたとしても,それをもって社会一般の公務に対する信
用を毀損したと評価することはできない。むしろ,国民の多くは,学校の
卒業式・入学式等において起立・斉唱するよう制裁を科してまで強制する
ことは行き過ぎであると考えている。
以上によれば,原告らの本件不起立等は,同条の定める信用失墜行為に
該当せず,同条に違反するものではない。
(被告の主張)
ア原告らは,本件各校長による本件各職務命令が地公法32条に違背し,
違法であると主張する。しかしながら,学校教育法62条,82条,37
条4項は,高等学校及び特別支援学校における校務はその校長がつかさど
るものとしており,そこにいう「校務」とは,教諭のつかさどる教育を含
む学校の果たすべき仕事全体すなわち学校教育の事業を遂行するため必要
とする一切の事務を指すものである。そして上記校務には,学校教育法施
行規則等を受けて制定された学習指導要領に基づく教育課程の計画及び実
施についての責務と権限も当然に含まれるものである。卒業式等において
生徒,教職員ともに起立のうえ国歌斉唱を行なうことはまさに上記学習指
導要領の予定するところであり,教職員は「教育をつかさどる者」(同法3
7条10項,62条,82条)として児童・生徒に対し,国旗掲揚,国歌
斉唱に関する指導を行う義務を負う。換言すれば,校長が校務の一環とし
て入学式・卒業式等の具体的実施内容を決定し,その実施のための諸活動
を各教職員に分掌させて,職務命令を発すれば,個々の教職員は当然に当
該職務命令に従って職務を遂行しなければならない。また,行政職である
学校栄養士についても,職務として学校の儀式的行事に参加する場合には,
校長がそのつかさどる校務の一部として,事務職員に対しても職務命令を
発することができる。この点を否定する原告らの主張は独自の見解という
ほかない。
なお,原告らは本件通達が違法であるから,これに基づく本件各校長の
発した本件各職務命令も違法となると主張するが,本件通達が違法でない
ことは既述のとおりであるし,本件各職務命令は,本件各校長が自らの権
限により本件通達の内容に沿った入学式・卒業式等の実施内容を決定し,
これを各教職員に分掌させ,その実施に必要な職務命令を発したものであ
り,法律的に見ればそれは本件各校長が自らの判断と権限に基づき実施に
関する職務命令を発したということに帰着する以上,本件通達の違法の有
無にかかわらず,本件各職務命令に違法はない。また,そもそも職務命令
は重大かつ明白な違法がない限り,例え何らかの瑕疵のある命令であって
も職員を拘束し,これに違反すれば懲戒処分の対象となるものである。本
件の場合,既に述べたとおり都教委は必要な場合には教育の内容及び方法
についても命令することができ,本件通達の内容も法規たる学習指導要領
に沿う合理的なものであり,また校長も既に述べたとおり教職員に対し教
育の内容及び方法について命令する権限を有し,本件で問題とされている
入学式・卒業式等の式典における国歌斉唱時に起立して国歌を斉唱するこ
と,ピアノ伴奏をすることの職務命令はその内容において相当なものであ
るから,重大かつ明白な違法は認められない。よって,本件各職務命令は
地公法32条に違反するものではない。
イ原告らは,本件不起立等が「消極的なものにすぎず,式自体の進行に何
らの支障,混乱も生じさせていない」等として,地公法33条の信用失墜
行為に該当しないと主張するが,同条が,その職の信用を傷つけ,職員の
職全体の不名誉となるような行為をしてはならないと規定する趣旨は,公
務員が全体の奉仕者として公共の利益のために勤務すべき地位にあり,そ
こから公務員に高度の行為規範を求め,それを法規範として定めたことに
ある。そのことからすれば,職の信用を傷つけ,職全体の不名誉となる行
為については,その行為自体を社会通念に照らして判断すれば足り,具体
的に信用が失墜した結果が生じることは要件ではない。しかも,本件にお
いて原告らがなした非違行為は,校長の教育課程にかかわる職務命令に違
反するものであり,当該違反行為が入学式,卒業式及び周年行事という重
要な学校行事において生徒,保護者,来賓の面前で行われ,生徒や父兄に
動揺を与えたものであり,生徒等に動揺を与えること自体,同条への該当
性を裏付ける重要な事象というべきであり,本件原告らの行為が教育公務
員の職に対する信用を傷つける行為というのを妨げないから,同条違反に
該当することは明らかである。
以上によれば,本件不起立等が同条違反に該当することは明らかである。
(12)本件各処分の手続的違法の有無
(原告らの主張)
行政庁がその所属公務員に対して懲戒処分を行うに当たり,当該手続自体
の適正・公正が確保されなければならないことは,憲法31条の趣旨に照ら
して当然のことである。この点,地公法27条1項は,「すべて職員の分限
及び懲戒については,公正でなければならない。」と規定しているが,その
中には手続的公正も含まれると解すべきである。確かに行政手続法3条1項
9号は,「公務員に対してその職務又は身分に関してされる処分」について,
同法第2章から第4章までの規定の適用を除外しているが,その理由は地方
自治体においては,各地の実情に応じて条例や地公法等の関連法規により手
続的公正を担保することを期待できるからであり,地方公務員に対する懲戒
処分についても,行政手続の公正が確保されるべきことは当然である。特
に本件では,教育という本来公権力による強制に馴染まない場での教職員及
び生徒・保護者の内心の自由と密接に関連する問題についての懲戒処分であ
ることからすれば,通常の行政手続と比べ,一層手続的な公正・適正と透明
性が確保されることが要求される。
これを本件についてみるに,原告らの多くは,事情聴取に当たって適正手
続の保障と自己の権利擁護のため弁護士の立会いを求めたり,内容の正確さ
を期すためにメモや録音を申し出たが,いずれも拒否され,中には,呼出し
の日時場所に出頭して事情聴取を申し出ているにもかかわらず「事情聴取を
拒否したものとみなす」と一方的に宣告された例すら少なくないなど,本件
各処分の前提としての告知・聴聞の機会が与えられなかったり,与えられて
も不十分であった。また,本件各処分に至る手続過程で,個別の事情が検討
されず,拙速かつ画一的判断がなされるなど杜撰な手続がなされたほか,原
告らの中には,職務命令書を受領していない状態のまま懲戒処分を受けた者
もおり,被告によるこのような手続軽視の姿勢を看過すべきではない。
以上によれば,本件各処分は,手続面からも適正・公正を欠いており,手
続上の違法が認められる。
(被告の主張)
本件各処分における手続上の違法に関する原告らの主張は,いずれも理由
がない。
ア事情聴取(告知・聴聞)等の場面において,弁護士の同席を認める法規
上の根拠は何ら存せず,原告らに当然に弁護士の同席(立会い)を求める
権利があるわけではない。この点,原告らは,本件各処分の手続として,
憲法31条の趣旨に照らして要求されるべき手続保障として弁護士の同席
等が保障されるべきであるとの主張をする。しかしながら,そもそも公務
員の懲戒処分については,組織内部の秩序維持のために行われる内部的な
処分であることから,直接には刑事手続に関する規定である憲法31条は
適用されず,同条による保障が及ぶものではないと解すべきである。懲戒
処分においてどのような手続を採るかは立法政策の問題であり,法令上,
事前の告知・聴聞の手続が定められていないからといって,そのことが違
憲になるというものではない。現にそのような考え方のもと,公務員の懲
戒処分については行政手続法の聴聞ないし弁明の機会の付与に関する規定
は適用除外とされており,また,国家公務員法及び地公法等において特に
告知・聴聞の規定は定められていない。したがって,現行法制度の下では
公務員の懲戒処分の手続は任命権者の裁量に委ねられていると解される。
そして,地公法29条4項では「懲戒手続及び効果は,法律に特別の規定
がある場合を除く外,条例で定めなければならない。」と規定され,東京都
では「職員の懲戒に関する条例」(昭和26年9月20日条例第84号)と
「職員の分限,懲戒に関する条例の施行について」(昭和26年10月15
日総人発秘第164号)が定められているところ,そこでは事情聴取の方
法について何ら定めがなく,その方法については任命権者の裁量に任せら
れているものというべきである。そして,都教委においては,事情聴取に
当たり,弁護士の立会いやメモ・録音をとることを認めておらず,事情聴
取を担当した都教委側の職員が,弁護士の立会い等を求める原告らの要求
を認めなかったことについて,違法とされるところはない。確かに,一部
の原告らが弁護士の立会い等を求めて事情聴取に応じないため,実際に事
情聴取ができなかったケースがあるが,都教委は事情聴取に応じるよう説
得し,原告らに事情聴取の場を提供しているのであるから,これらのケー
スについては,都教委が「事情聴取を拒否したものとみなす」と一方的に
宣告などしたのではなく,当該原告らが事情聴取を拒否したものと言わざ
るを得ないものであり,これによって本件各処分に取り消されるべき手続
上の違法があるとされるようなものではない。
なお,都教委は,事情聴取の場において,被聴取者による聴取書のコピ
ーやメモの持ち帰り,録音等を認めていないが,これは,事情聴取におい
て,正確性が担保されない断片的な個人のメモや編集改変が可能なテープ
録音等は聴取記録の正確を期すために適切でなく,聴取記録を一元化する
必要があるためであり,また,服務事故の関与者等の第三者の個人情報が
含まれる場合に,これを保護する必要もあるためである。このため,都教
委は,事情聴取の最後に当該被聴取者本人に聴取記録の内容を十分確認さ
せ,被聴取者の指摘箇所は訂正し,被聴取者が最終確認した上で署名押印
をさせることにより,聴取書の正確性を担保している。聴取書については,
聴取を行った日以後に開示請求があれば,請求者に開示し,写しを交付し
ている。
これらのことからも,都教委の事情聴取の手続には何らの瑕疵はなく,
これによって懲戒処分としての本件各処分に取り消されるべき手続上の違
法などもない。
以上のとおり,懲戒処分としての本件各処分を行うに当たっては,都教
委自らが非違行為を行った本人から直接に,事実関係を確認し,弁明を聞
くために事情聴取を行うという手続をとっており,告知と弁明の機会は与
えているのであって,必ずしも法律上定められていない同手続を行ってい
ることからしても,懲戒処分としての本件各処分を行う手続は公正に行わ
れたというべきである。原告らの中には,事情聴取において都教委が認め
ていない弁護士の立会い等に固執し,結果として事情聴取ができなかった
者もあったが,事情聴取を行った者の聴取書は,本件各校長からの事故報
告書及び本件各校長その他の関係者からの聴取書とともに事実確認及び量
定案検討の資料となり,これを踏まえて個々の処分がなされている。
イ原告らは,本件各処分の発令までの手続が杜撰で拙速であるというが,
非違行為からその処分までの期間が短いからといって当該処分が違法にな
るというものではない。本件通達発出後の職務命令違反者に対する処分量
定の検討としては,平成15年11月から同年12月にかけて実施された
周年行事の案件において,服務事故から2か月程度の期間,充分に慎重に
行われ,処分量定の考え方が整理される中で,非違行為の性質,態様を重
視することとし,平成16年2月に処分を発令したものであり,ここでの
検討結果を受けてその後の卒業式等における非違行為の処分が短時日で行
い得るようになったもので,何ら不合理で杜撰な手続が取られているもの
ではない。実際にも,非違行為については,懲戒処分の事由たる事実につ
いて現認の報告や本人及び関係者の事情聴取などにより適正に事実の確認
をした上で,先行事案を参考に,処分量定について懲戒分限審査委員会の
答申を受け,教育委員会の議を経て処分を行ったものであり,手続に要す
る十分な時間を取っている。また,懲戒処分を課すことが本件通達発出の
当初からの目的であった事実はないが,職務命令違反や信用失墜行為など
の非違行為があれば懲戒処分を課すべきことは当然である。
(13)本件各処分について処分をすること自体の裁量権の逸脱・濫用の有無
(原告らの主張)
本件各処分は,以下の事情に照らして考えれば,処分を行うことそれ自体
に裁量権の逸脱・濫用が認められる。
ア原告らの本件不起立等は,形式的・外形的には本件各職務命令に違反し
ているかのように見え,そのような違反行為に対して本件各処分が行われ
たものであるが,そもそも地公法上の懲戒処分の権限は公務員秩序の維持
に必要な限りで認められるものであり,法が懲戒権を付与した制度の目的
を逸脱した懲戒処分は許されないところ,本件各処分は,憲法が想定する
教育部門における公務員秩序の維持とは無縁の,国家主義的価値観に基づ
く国旗・国歌への敬意の表明,国旗・国歌の尊重を個人の思想・良心の自
由に優先し,後記(14)イ(イ)及び(ウ)で原告らが主張するように式参加者
に対する「内心の自由についての説明」すら禁止するという特異な教育観の
強制を目的としてなされたものである。
イ職務命令の体裁をとる本件各職務命令への違反行為としての本件不起立
等を子細に,そして実質的に観察するならば,原告らは,違法な行為に及
んだものでも,破廉恥な行為を行ったものでも,教員としての職務を懈怠
したものでもなく,真摯に自らの生き方を探り,教員としての良心に忠実
になろうとして,本件通達や本件各職務命令と義務の衝突を自覚し,これ
を受け容れがたいとしたものであるし,本件不起立等は,その性質・態様
において,自らの思想・良心の自由を防衛する以上の積極的行為を伴わない
消極的なものにすぎず,式典の進行を妨害する積極的な行動に出たり,国歌
斉唱を妨げる態様の行為は皆無であって,具体的に卒業式等の進行に支障が
生じたり,式典が混乱したなどという影響は現実に皆無である。これに対し,
制裁措置としての懲戒処分の不利益の程度は極めて重く,原告らの思想・
良心の自由及び信教の自由の核心部分を直接に否定するほか,1回の戒告
処分によって,勤勉手当がカットされるのみならず,昇給幅が2分の1と
なり,また停職処分を受けた職員は,昇給幅が4分の1となり,実質的に
6か月の昇給延伸をもたらすものであるところ,この措置の影響は生涯付
いて回り,履歴として刻印され,転勤及び昇進にも影響するだけでなく,
退職金及び年金にも影響し,1回の戒告処分が定年後の再雇用や再採用の
拒否事由ともされる。さらに,これらの懲戒処分が例年繰り返され,処分
が累積され加重され,服務事故再発防止研修受講が強制される。以上によ
れば,本件各処分は,非違行為の重大性と,処分がもつ制裁としての不利
益性の程度との権衡を著しく失するものとして,比例原則違反に該当する。
ウ都教委の判断は,一方で,①生徒や教職員の精神・信仰の自由を尊重し,
②教育に対する不当な支配を抑制することによって生徒の教育を受ける権
利を擁護するという本来最も重視すべきことがらを不当かつ安易に軽視
し,他方で,①知事や一部の都議などの意向という本来考慮に入れるべき
でない事項を考慮に入れ,②卒業式等の進行が妨害される抽象的可能性と
いう,本来過大評価すべきでないことがらを過大評価した結果として,精
神の自由や教育の自由という憲法的要請と,卒業式等における教育上の必
要性とをいかにして調和させるべきかの手段,方法の探究において,当然
尽くすべき考慮を尽くさなかったのであるから,この点の判断につき,そ
の裁量判断の方法ないし過程に過誤がある。
エエホバの証人剣道実技拒否事件判決(最高裁判所平成7年(行ツ)第7
4号同8年3月8日第二小法廷判決・民集50巻3号469頁)における
裁量権逸脱・濫用の審査基準に当てはめてみても,本件各処分については,
①原告ら教職員が,各々の良心の要請及び個々の教職員としての世界観,
教育観,信条等の真摯な理由から起立・斉唱・伴奏命令に従えなかったこ
と,②原告らの「職務命令違反」とされた行為が,卒業式等における国歌
斉唱時に国旗に向かって起立をせず,あるいはピアノ伴奏をしなかったと
いう消極的なものにすぎず,積極的に卒業式等の進行を妨害する行動に出
たり,国歌斉唱を妨げたりしたものではなく,卒業式等の進行に支障が生
じた事実は存在しないこと,③本件各処分は,戒告以上の懲戒処分であり,
経済的不利益を伴うとともに,履歴にも残り,教職員としてその後仕事を
していくにあたって,多大の不利益を伴うものであるほか,国旗・国歌に
ついて職務命令に違反したとして戒告処分を一度でも受けると,本来誰で
も希望すれば認められるはずの定年後の再雇用職員としての採用も拒否さ
れる実情にあり,原告らに与える不利益の程度が重すぎること,④都教委
としては,卒業式等における「日の丸・君が代」への全教員の起立・斉唱・
ピアノ伴奏の実施が教育上不可欠というわけでもないのに,代替措置につ
いて何ら検討することもなく,性急に本件各校長に職務命令の発出を求め,
原告ら教職員がその世界観,教育観,信条等からしてどうしても従うこと
ができず,不起立等の消極的対応をしたのに対し,一律に懲戒処分に付し
ていることからして,本件各処分は,社会観念上著しく妥当を欠き,裁量
権の範囲を超える違法なものというべきである。
(被告の主張)
本件不起立等は,①公教育を担う教育公務員が,卒業式等の場において,
公教育の根幹である学習指導要領に基づき教育課程を適正に実施するために
発せられた重要な職務命令に違反する重大な非違行為であること,②卒業式
等の来賓,保護者はもとより,適正に国旗・国歌の指導を受けることとされ
ている児童・生徒を目の前にしてあえて起こされた非違行為であり,教育上
好ましくないものであること,③本件通達の発出以前から,校長が繰り返し
指導し,本件通達の発出後も校長において指導したにもかかわらず,発生し
た職務命令違反行為であること,④学校も組織である以上,その教師の職に
ある原告らは,上司である校長の命令に従うことは当然であるにもかかわら
ず,組織人として職務上の義務違反を行ったものであることに照らして,公
務の適正な遂行を妨げるものであり,都民に対する重大な背信的行為であっ
て,職場内においても,職場内の秩序維持の観点から見過ごすことができな
いものであり,公務員の服務の根幹に関わる重大な非違行為というべきであ
る。したがって,本件各処分が社会観念上著しく妥当を欠くものでないこと
は明らかである。
(14)本件各処分における処分量定に関する裁量権の逸脱・濫用の有無
(被告の主張)
最高裁判所平成23年(行ツ)第263号・同年(行ヒ)第294号同2
4年1月16日第一小法廷判決は,「不起立行為等に対する懲戒において戒
告を超えてより重い減給以上の処分を選択することについては,本件事案の
性質等を踏まえた慎重な考慮が必要となるものといえる。」と判示した上,
減給処分については,過去の処分歴等に鑑み,「学校の規則や秩序の保持等
の必要性と処分による不利益の内容との視点から当該処分を選択することの
相当性を基礎付ける具体的な事情が認められる場合」であることが必要であ
り,上記「相当性を基礎付ける具体的な事情が認められる場合」には,減給
処分も許される旨を判示した。また,最高裁判所平成23年(行ツ)第24
2号・同年(行ヒ)第265号同24年1月16日第一小法廷判決は,停職
処分についても,前述の「相当性を基礎付ける具体的な事情が認められる場
合」には許される旨を判示した。
本件各処分中,減給処分以上の処分がなされている原告P1ら26名につ
いて,減給処分以上の本件各処分に関し,過去の処分歴に係る非違行為の
内容,頻度等の「相当性を基礎付ける具体的な事情」等は,以下のとおり
である。
ア減給処分以上の処分が量定された原告P1ら26名は,いずれも前記
前提となる事実(5)(別紙5「処分歴一覧表」)のとおり,本件各処分よ
り前に,不起立等の職務命令違反行為があり,しかも,当該職務命令をめ
ぐって式典までの間の校長等管理職との確執や職務命令書の受取拒否等
の事情がみられ,処分手続において校長の事実確認や都教委の事情聴取を
拒否するなどの非協力的態度があり,当該不起立等の職務命令違反により
戒告以上の懲戒処分を受けている上,当該懲戒処分後の再発防止研修でも,
報告書に独自の見解や研修への批判を記載したり,その旨の発言を行って
進行を妨害したりするなど,反省の態度がみられなかった。
イ原告P9は,平成17年度卒業式直前の授業等で生徒に対し不起立等の
行為に引き付けた内心の自由についての説明を行うなどし,在校の4年生
14名中の11名が起立をしない事態となったことから,平成18年6月
12日に「指導部長厳重注意」を受けている。原告P15及び同P20の
いずれも,平成16年度卒業式直前の授業等で生徒に対し不起立等の行為
に引き付けた内心の自由についての説明を行い,そのことにより,「指導
部長厳重注意」を受けている。
ウ原告P1は,東京都立P43高等学校において,平成17年3月12日
に行われた平成16年度卒業式に来賓として出席した際,来賓挨拶におい
て「色々な強制のもとであっても,自分で判断し,行動できる力を磨いて
いってください。」といった旨を述べ,そのため,一部生徒にざわめきが
生じ,さらに一部参列者から苦情めいた声が寄せられるという事態が生じ,
平成17年7月20日,当時勤務していた東京都立P44高等学校の校長
から,上記来賓挨拶は,TPOの視点からすると来賓としてふさわしい発
言ではない旨の指導を受けている。
エ原告P11は,平成16年4月7日の入学式数日後の学年集会において,
生徒の前でどうしても歌えない理由が心の中にあるので国歌斉唱の時着
席した旨表明し,その際,生徒の一人から「先生,国歌を歌わないんだね,
私も歌わない」と言われており,また,平成19年3月9日の卒業式の前
後に,生徒から「先生また座るの。」,「やばいんじゃない。」,「座っ
た。」などと声をかけられているなど,同原告の非違行為は,単なる不起
立にとどまらず,生徒に対して明らかな影響を与えた。
オ原告P22は,平成17年7月21日の再発防止研修当日,教職員研修
センター職員から,ゼッケン等の着用は認められないので,外すようにと
の話があったにもかかわらず,強制反対,日の丸・君が代という内容が書
かれたTシャツを着用して入室し,他の職員の注意力を妨げたのみなら
ず,研修の進行を妨害し,この件で戒告処分を受けた。
カ原告P12は,平成12年度の卒業式において「日の丸・君が代強制反
対」と書いたゼッケンを着用して出席し,平成13年度の入学式において
「日の丸君が代やめてください」と書かれたブラウスを着用して出席
し,同年度の卒業式において両胸の部分にそれぞれ「19条9条」とい
う記載がなされ,鳩やハート等の図柄が描かれたブラウスを着用して出席
したうえ,図柄入りブラウスの上に上着を着用するよう口頭で職務命令を
受けたにもかかわらず,これに反して鳩やハート等の図柄が描かれていた
ブラウスの上に上着を着用することなく入学式に臨んだことがあった。そ
して,同原告は,平成14年度の入学式において,日の丸掲揚・君が代奏
楽に対する抗議として,縦約10センチメートル,横約15センチメート
ルの長方形の黒枠の中央部に塗りつぶした赤い丸を描いた絵柄に向かっ
て左上から右下方向に黒色の斜線を入れた模様が右胸部分に,直径約20
センチメートルのハートの絵柄に鎖を重ねた模様が背中側部分にそれぞ
れ描かれた白無地のブラウスを着用して出席しようとし,所属校の校長か
ら上着の着用を命ずる職務命令を受けたにもかかわらず,これに従わずに
入学式に臨席し,事情聴取のための校長室への出頭を命ずる職務命令にも
従わなかったことから,これら平成14年度の一連の職務命令違反によ
り,平成14年11月6日付けで戒告処分を受けているほか,平成15年
度卒業式における国歌斉唱時の不起立により,平成16年4月6日付けで
減給10分の1・1月,平成16年度卒業式における国歌斉唱時の不起立
により,平成17年3月31日付けで減給10分の1・6月の各処分を受
けた。また,原告P12は,本件停職1月の処分の期間中,「校門出勤闘
争」と称して東京都立P45養護学校の校門前で,支援者らとともに「君
が代強制反対」等と記載した表示を掲げるとともに,職員や保護者らにチ
ラシを配布するなど,生徒や保護者をも巻き込む抗議活動まで行ってい
る。
(原告らの主張)
ア本件各処分は,被告において,過去に非違行為を行い,懲戒処分を受け
たにもかかわらず同様の非違行為を行った場合には,繰り返された非違行
為についての量定を加重するという従来からの処分量定の考え方(以下「機
械的累積加重処分の方針」という。)に基づき行われたものにすぎない。
そして,そのような機械的累積加重処分の方針は,被告が引用する最高裁
判所平成23年(行ツ)第263号・同年(行ヒ)第294号同24年1
月16日第一小法廷判決,最高裁判所平成23年(行ツ)第242号・同
年(行ヒ)第265号同24年1月16日第一小法廷判決(以下,これら
の判決を「平成24年最高裁判決」という。)の説示内容に照らしても不
合理なものであるといえる。
また,そもそもにおいて,原告P1ら26名に対する減給処分以上の懲
戒処分に関し,被告は「処分説明書」を交付しているが,同書面には,処
分の理由として当該処分の対象となった本件不起立等についてのみ記載を
している。懲戒処分を受ける職員の防御権の保障の観点等にかんがみて,
本件の処分取消訴訟の審理対象となる処分の事由は同書面に記載されてい
る処分の事由,すなわち本件不起立等の行為に限定され,新たに他の行為
や事情を付け加えることは許されないものである。
イ減給処分以上の懲戒処分を受けた原告P1ら26名の原告については,
以下のとおり,学校の規則や秩序の保持等の必要性と処分による不利益の
内容との視点からみて当該処分を選択することの相当性を基礎付ける具体
的な事情は認められない。
(ア)原告P12及び同P22を除く原告らについては,過去の処分歴が
いずれも式典における国歌斉唱時の不起立や不伴奏であり,その態様は,
式典を妨害するような特別の要素もなく,学校の規律や秩序を害するよ
うなものではない。戒告処分後の再発防止研修における態度,職務命令
をめぐる管理職との確執,不起立行為等に対する処分において校長の事
実確認や都教委の事情聴取を拒否するなどの非協力的態度については,
原告らの思想・信条に基づく率直な批判的記載を非難される理由はない
し,これらの記載が学校の秩序や規律を害するものとはいえず,自らの
疑問や意見に従い,発言や質問を行うことが研修の規律を乱す不適切な
ものであるともいえず,講師等の説明を遮る等,研修を妨げるべき言動
を行った事実はない。それに,別件訴訟における被告の主張によれば,
再発防止研修は,地公法の解説を中心とする講義を行ったに過ぎず,受
講する教員らの内面に踏み込んで反省を迫らないという方針でなされた
ものとのことであり,本件訴訟における被告の主張は従前の主張と矛盾
している。
職務命令書の受領拒否についても,国歌斉唱時に起立することはでき
ないという,いずれも職務命令に従うことができない旨の意思の表現で
あり,その意味で,不起立行為等に至る付随的事情の一つにすぎず,当
該事実を理由に処分を受けた原告はいない。職務命令書の受け取りをめ
ぐる校長,副校長らと原告らとのやり取りによって,学校の運営に対し
特別の支障が生じたということもなく,特に処分の加重を根拠づけるべ
き事情は存在しない。
職務命令違反の処分過程における非協力的態度については,原告らに
おいて校長による事実確認そのものを「拒否」したのではなく,事実確
認を受けて,回答を拒否したにすぎない。しかも,副校長が不起立行為
を現認した上で式典終了後に校長が確認をした際の出来事であり,学校
の規律や秩序を害する程度は著しく低い。また,弁護士の立会いを求め
たのは,原告らにおいて事実確認自体を拒否したものではなく,校長や
都教委において事実確認を放棄したものとみるべきである。
(イ)原告P9,同P15及び同P20について,卒業式直前の授業等で
生徒に内心の自由についての説明を行うなどし,このことで「指導部長
厳重注意」を受けたことが,被告において「相当性を基礎付ける具体的
な事情」として主張されているが,これらの内心の自由に関する説明は,
本件通達発出以前には各都立学校において校長自らが必ず行っていたも
のであり,しかも生徒に対し積極的に不起立を指導したものでもないか
ら,何ら「相当性を基礎付ける具体的な事情」に該当しない。
(ウ)原告P1については,来賓としての挨拶が不適切として「校長指導」
を受けたことが,被告において「相当性を基礎付ける具体的な事情」と
して主張されているが,前記発言は,憲法上生徒らに保障された権利を
踏まえた卒業生へのはなむけの言葉として適切な内容であり,式典へ影
響も全くないから,「特別の事情」に当たるものではない。
(エ)原告P11に係る「生徒に対する影響」については,そもそも「生
徒に対する明らかな影響を与えている不起立」と「単なる不起立」をど
のような基準で区別できるのか不明確であり,区別は困難であるから,
このような事情が「特別の事情」に当たるとはいえない。学年集会にお
ける原告P11の発言についても,入学式後のオリエンテーションの一
環として行われた学年集会において,同僚の助言に従い,着席の理由に
ついての誤解を避け,これから信頼関係を作っていくために一言ふれた
ものにすぎず,生徒や保護者からの苦情等も一切なく,「相当性を基礎
付ける具体的な事情」には該当しない。また,原告P11の担任クラス
では,国歌斉唱の際に着席した生徒はおらず,被告指摘の生徒らの発言
は,生徒たちがそれぞれ自分の考えに従って行動し,かつ自分とは違う
担任の考えや行動を尊重し気遣ったものにすぎない。
(オ)原告P22における再発防止研修時の強制反対,日の丸・君が代と
いう内容が書かれたTシャツの着用については,研修中何ら問題とされ
ておらず,他の職員の注意力や研修の進行を妨害した事実もない。被告
指摘の戒告処分については,職務専念義務違反を理由とするものであっ
て,研修の進行の妨害を理由とするものではない。したがって,前記事
情が「相当性を基礎付ける具体的な事情」に当たるものとはいえない。
(カ)原告P12は,平成12年度の卒業式には,灰色の布の上に薄めの
色で「日の丸・君が代強制反対」と書いたゼッケンを着用して出席した
が,当該ゼッケンは,20センチ四方程度の大きさであり,そこに記載
した文字の大きさも3センチ四方程度であったので,式の進行中,ごく
近くに座っていた数人の教員以外からは何が記載されているか見える
ようなものではなかった。原告P12は,開式の直前に上記ゼッケンを
着用し,式の進行中は教職員席の最前列に座っていたが,式の終了後,
向かい側にいた保護者席の方たちからは当該ゼッケンに何が書いてあ
ったか全く見えなかったと言われている。
また,原告P12が平成13年度の入学式で着用したブラウスには,
「日の丸君が代やめてください」とは書かれていたが,原告P12
は,式の進行中,生徒や保護者などの卒業式の出席者から見える位置に
はおらず,式の終了後,当該ブラウスの件で式典出席者から何か苦情め
いたことを言われたこともなかった。
さらに,平成13年度の卒業式で原告P12が着用したブラウスには,
両胸の部分にそれぞれ文字で小さく「19条9条」という記載がされ
ていたほかは,鳩やハート等の図柄が描かれていたのみであり,一見し
て特定のメッセージを表示するものと理解されるような図柄が手書きさ
れていたわけではなく,式典の終了後,当該ブラウスの件で式典出席者
から何か非難めいたことを言われたということもなかった。
平成14年度の卒業式で原告P12が着用したブラウスには,文字の
記載は一切なく,鳩やハート等の図柄が描かれていたのみであり,一見
して特定のメッセージを表示するものと理解されるような図柄が手書き
されていたわけではなく,入学式の反省会でも,前記ブラウスが問題と
なることはなかった。
なお,原告P12は,上記の平成14年度卒業式における行為につい
ての事情聴取への応諾を求める職務命令に違反したことを理由として,
懲戒処分を受けているが,この懲戒処分に対しては,訴訟において懲戒
権限を逸脱し濫用するものとの判断が下され,確定している(東京地裁
平成18年3月22日判決,東京高裁平成18年12月26日判決)。
以上の経緯があった上で,原告P12については,都教委の機械的累
積加重処分の方針に従い,1月の停職処分がされたところ,過去の懲戒
処分の対象は,最初の戒告処分がブラウス着用に関わる問題であったが,
他はいずれも不起立行為であって積極的に式典の進行を妨害する内容の
非違行為は含まれておらず,過去3年度の3回の卒業式等に係るものに
とどまり,平成18年度の卒業式における不起立行為の前後における態
度において特に処分の加重を根拠づけるべき事情もうかがわれない。し
たがって,このような事情にかんがみると,原告P12については,学
校の規律や秩序の保持等の必要性と処分による不利益の内容との権衡の
観点から,なお停職処分を選択することの相当性を基礎付ける具体的な
事情があったとは認め難い。
また,前記停職1月の懲戒処分中の校門出勤闘争については,午前8
時ころから午前9時半ころまでの間,通用門近くの道路上に立ち,支援
者らと一緒に,歩いて登校する同僚職員や保護者に対してチラシを配布
したものであり,勤務時間外に,学校の敷地外で,平穏にチラシを配っ
ただけで,職員や保護者の登校を妨害等したこともなく,上記活動につ
いて校長から指導や文書訓告等も一切受けていない。また,このように
行動により,学校の規律や秩序を害したとまではいえない。したがって,
これをもって原告P12に対する停職処分の相当性を基礎付ける具体的
な事情とみることはできない。
ウ被告においては,平成18年以前は,戒告・減給処分を受けた者につい
ては,昇給を三月延伸するとされていたところ,平成18年度の関連規則
の改訂(以下「本件規則改訂」という。)により,昇給は毎年1回4月の
みとされ,その際,通常に勤務していれば四号給昇給のところ,戒告・減
給処分を受けた場合には二号給減となったために二号給しか昇給せず,昇
給幅が半分になる結果として,昇給の六月延伸と同様になる。すなわち,
平成19年以降に戒告処分を受けた原告らは,平成18年以前に減給処分
を受けた場合よりも昇給において大きな不利益を受けている。
また,平成18年4月以前は,戒告処分を受けた者については勤勉手当
10パーセント減額,減給処分を受けた者については勤勉手当15パーセ
ント減額とされていたが,平成18年度規則改訂により,戒告処分を受け
た者については勤勉手当20パーセント減額,減給処分を受けた者につい
ては勤勉手当35パーセント減額とされ,平成18年以前に減給処分を受
けた場合よりも勤勉手当について大きな不利益を受けている。
エ以上によれば,戒告処分を受けた原告らであっても,平成24年最高裁
判決が裁量権の範囲を超えるものとして違法と評価した減給処分以上の経
済的不利益を受けていることから,当該原告らに対する各戒告処分につい
ても,処分量定の関係で裁量権の逸脱・濫用が認められるべきである。
(15)原告らの国家賠償法1条1項に基づく慰謝料等請求権の有無
(原告らの主張)
ア公権力の行使にあたる被告の公務員は,その職務を行うについて,違憲・
違法な本件通達に基づく本件各職務命令及び同命令違反を理由とする本件
各処分を行うことにより,故意によって違法に原告らに損害を加えたもの
であるので,被告は,国家賠償法1条1項により,これを賠償する責に任
ずる。
イ原告らは,懲戒処分そのものによる不利益や損害に加えて,一方的に職
務命令への服従を迫られ,かつ反省を要求する内容の服務事故再発防止研
修の受講を義務付けられるという直接的な精神的苦痛を受けたほか,被処
分者が在籍した学校では,管理職が都教委の主催する研修を受けさせられ
たうえ,校内職員全員が卒業式等において全員起立した国歌斉唱を徹底す
るための校内研修を受けさせられたことにより,原告らが自己の信念に従
った行為を行えば,その故に他の関係のない教職員にまで連座制ともいう
べき実質的な連帯責任としての負担を負わせられる事態を目の当たりにさ
せられ,他の教職員に対する自責の念による精神的苦痛も被った。
また,原告らは,本件各処分に伴い,勤勉手当や定期昇給において不利
益を受け,退職手当の金額についても影響を受けるなど,その経済的損失
は生涯にわたって継続するほか,業績評価,校内分掌,人事異動において
も不利益取扱いを受け,永年勤続表彰や長期勤続休暇における不利益や再
雇用拒否を受け,その他,教師としての自尊心や誇りを真っ向から否定さ
れたものである。
ウこれらの事情による精神的苦痛に対する慰謝料額は,原告ら各自につい
て処分1件当たり50万円を下らない。また,原告らは,本件各処分によ
って被った精神的苦痛に対する損害賠償を求めるため,弁護士に依頼して
本件訴訟を提起せざるを得ず,相当因果関係のある弁護士費用は,前記損
害額の1割に相当する処分1件当たり5万円を下らない。
(被告の主張)
争う。
本件各処分が適法であることはこれまでに述べたとおりである。仮に本件
各処分のうち減給処分以上の処分が処分量定につき裁量権の逸脱・濫用があ
るとして取り消されるべきものとしても,そのことから直ちに被告の損害賠
償責任が肯定されるわけではない。都教委が原告P1ら26名による本件不
起立等について非違行為と判断したうえ,減給処分以上の処分に付すること
を裁量権の範囲内の措置として適法と判断したことは,やむを得ないことで
あって,職務上尽くすべき注意義務の違反も,過失も存在しない。
また,本件各処分が取り消されれば,経済的不利益は全て回復されるので
あり,それに伴って減給処分それ自体による精神的苦痛も回復される。原告
P12においては,本件各処分として停職処分を受けたことによる精神的苦
痛を主張するかもしれないが,公務員には就労請求権は認められていないの
であって,本件各処分が取り消されることによって精神的苦痛も回復される
ことは,他の減給処分を受けた原告らと変わりない。結局,原告らについて
は,慰謝すべき損害は存在しない。
第4当裁判所の判断
1本案前の争点(提起時退職原告らにおける戒告処分取消しの訴えの利益の有
無)について
提起時退職原告らは,平成19年3月31日,平成20年3月31日又は平
成21年3月31日にそれぞれ退職しているところ(前記前提となる事実(7),
別紙3「経歴一覧表」),一般職に属する地方公務員に対する戒告処分は,当該
公務員が地公法29条1項各号に該当する場合において,その責任を確認し,
将来を戒めるという内容の処分であり(人事院規則12-10第4条及び甲D
51参照),公務員たる地位にある者に対して行われ,戒告を受けることによ
り完結するものであるから,戒告処分を受けた公務員がその地位を有しなくな
った場合には,その効力自体はその時点で失われるものと解される。
しかしながら,被告においては,戒告処分を受けた場合,必然的に昇給期間
が延伸され,それが退職時までの昇給時期に影響する(甲C1,甲D1の2,
原告P46)。また,被告は,定年退職者等について,従前の勤務実績等に基
づく選考により,1年を超えない範囲内で任期を定め,常時勤務を要する職又
は短時間勤務の職に採用することができると定める地公法28条の4,28条
の5に基づき,再任用及び再雇用の制度を採用し,東京都公立学校再雇用職員
設置要綱(昭和60年3月23日付け59教人職第554号〔乙43〕の第5
項1(1))において,「正規職員を退職又は再任用職員を任期満了する前の勤務
成績が良好であること。」を再雇用の要件の一つとしているところ,再雇用職
員の採用選考に合格した後,戒告処分を受けたことを理由に合格が取り消され
た者が複数存在している(甲C9,15,39,乙42の1・2,44,弁論
の全趣旨)。
以上によれば,被告においては,戒告処分を受けた者が,戒告処分を前提と
して,給与上及び人事上の不利益を受ける制度上の仕組みが存在し,戒告処分
が取り消されれば,昇給予定時期に昇給することが期待できた地位や再雇用さ
れることを期待し得る地位を回復することになるものと解すべきところ,これ
らの地位は,一定の法的保護に値するものというべきであって,退職により当
然に失われるものとはいえない。したがって,提起時退職原告らについても,
戒告処分の取消しを求める行訴法9条1項所定の法律上の利益があるという
べきであるから,戒告処分の取消しの訴えにつき,訴え却下判決を求める旨の
被告の本案前の申立ては理由がない。
なお,前記の理は,終結時退職原告らの戒告処分取消しの訴えについても同
様に当てはまるものであり,行訴法9条1項所定の法律上の利益が認められる
ものと解される。
2本案の争点について
(1)本件通達及び本件各職務命令の憲法19条違反の有無
原告らは,国旗・国歌とされている日の丸・君が代が戦前日本の皇民化教
育及び侵略戦争遂行の中で重要な役割を果たしてきたという原告らの歴史
観・世界観の上に立って,起立・斉唱・ピアノ伴奏を行うか否かという日の
丸・君が代に対する一定の態度を示すことが,個人が天皇制や国家神道,ナ
ショナリズム,国の在り方などをどのように評価し,どう受け止めているの
かという個人の政治的価値観・世界観・国家観などといった特定の思想・良
心との繋がりが明らかに推知される性格のものであるから,国歌の起立斉唱
やピアノ伴奏の強制が,原告らの思想・良心の自由を侵害する旨主張する。
このような原告らの主張に係る日の丸・君が代,あるいは起立斉唱・ピアノ
伴奏に関する考え方は,日の丸や君が代が戦前の皇民化教育や侵略戦争遂行
等の関係で,一定の役割を果たしたとする原告ら自身の歴史観・世界観から
生ずる社会生活上ないし教育上の信念等であるということができる。
しかしながら,国旗掲揚・国歌演奏の際に国旗に正対して起立するなどの
所作は,証拠(乙34)及び弁論の全趣旨に照らし,単に日本における慣習
であるばかりでなく,国際的な儀礼・慣習というべきであり,一般的な社会
常識的行為の範疇にある所作であるとみるべきところ,このような所作を取
り入れる卒業式等における起立斉唱やピアノ伴奏は,一般的,客観的に見て,
儀式的行事における儀礼的所作として外部から認識されるものであって,特
定の思想又はこれに反する思想の表明として外部から認識されるものと評価
することは困難であり,本件通達及び本件各職務命令は,当該教師に特定の
思想を持つことを強制したり,これに反する思想を持つことを禁止したりす
るものではなく,特定の思想の有無について告白することを強要するもので
あるともいえない。そして,本件通達及び本件各職務命令が原告らに対して
求めるこれらの行為は,儀式的行事における学校職員という社会的な立場に
ある者としての行動であり,我が国において「日の丸」や「君が代」が戦前
の皇民化教育や侵略戦争等との関係で一定の役割を果たしたとする当該教師
の有する歴史観ないし世界観を否定することと不可分に結びつくものではな
く,本件通達及び本件各職務命令は,その歴史観ないし世界観それ自体を否
定するものとはいえない。
もっとも,これらの行為は,国旗及び国歌に対する敬意の表明の要素を含
む行為であり,上記の歴史観ないし世界観を有する者がこれを求められるこ
とはその歴史観ないし世界観に由来する行動と異なる外部的行為を求められ
ることとなり,その限りで思想・良心の自由についての間接的な制約となる
面があり,原告らについても,本件起立行為等は原告らの思想及び良心の自
由についての間接的制約となる面があることが明らかであるといえる。そし
て,このような間接的な制約が許容されるか否かについては,当該制約につ
いて,制約を許容することができる程度の必要性及び合理性が認められるか
という観点から判断するのが相当であるところ,これを本件通達及び本件各
職務命令についてみれば,本件通達及び本件各職務命令は,高等学校教育の
目標や卒業式等の儀式的行事の意義,在り方等を定めた関係法令等の諸規定
の趣旨に沿い(後述のとおり,都教委においては,地教行法23条5号に基
づく権限により,本件各校長においては,平成19年法律第96号による改
正前の学校教育法28条3項,51条,76条,同改正後の同法37条4項,
62条,82条に基づく校務処理等の権限により,平成19年法律第96号
による改正前の学校教育法43条(同改正後の同法52条),平成19年文部
科学省令第40号による改正前の同法施行規則57条の2(同改正後の同法
施行規則82条)に基づく学習指導要領の定めている国旗国歌条項の適正な
実施を図るものと認められる。),かつ,地方公務員の地位の性質及びその職
務の公共性を踏まえた上で,生徒等への配慮を含め,教育上の行事にふさわ
しい秩序の確保とともに当該式典の円滑な進行を図るものであり,以上の諸
事情を踏まえ,本件通達及び本件各職務命令の目的及び内容並びに制約の態
様等を総合的に衡量すれば,上記の制約を許容し得る程度の必要性及び合理
性が認められるものというべきである。これらの諸点にかんがみると,本件
通達及び本件各職務命令は,原告らの思想・良心の自由を侵害するものとし
て憲法19条に違反するとはいえないと解するのが相当である(最高裁判所
平成16年(行ツ)第328号同19年2月27日第三小法廷判決・民集6
1巻1号291頁,最高裁判所平成22年(オ)第951号同23年6月6
日第一小法廷判決・民集65巻4号1855頁,最高裁判所平成22年(行
ツ)第54号同23年5月30日第二小法廷判決・民集65巻4号1780
頁,最高裁判所平成22年(行ツ)第314号同23年6月14日第三小法
廷判決・民集65巻4号2148頁,最高裁判所平成22年(行ツ)第37
2号同23年6月21日第三小法廷判決・裁判集民事237号53頁参照)。
よって,本件各職務命令の違反を理由とする本件各処分が憲法19条に違
反するものとは認められない。
(2)本件通達及び本件各職務命令の憲法20条違反の有無
原告らは,起立斉唱やピアノ伴奏の強制が,原告らに含まれるキリスト教
信者の信仰の自由や宗教的行為の自由を侵害する旨主張する。そして,原告
P47,同P38,同P11,同P42(以下,この4名を「キリスト教信
者である原告ら」という。)は,自ら主張ないし供述するとおりキリスト教信
者であると認められるのであり(甲C3,20,27,49の1,乙C53,
原告P11,弁論の全趣旨),本件通達及び自らに対する本件各職務命令,本
件各処分についてキリスト教信者の信仰の自由や宗教的行為の自由に対する
侵害を主張することができる地位にあることが明らかであり,以下,上記主
張についての考究を進める。なお,この主張は,キリスト教信者である原告
ら以外の原告らにおいては,キリスト教信者である原告らに対する本件通達
(及び本件各職務命令,本件各処分)がキリスト教信者である原告らの信教
の自由を侵害する違憲なものであることをもって,本件通達に依拠し発せら
れた自らに対する本件各職務命令及びこれに基づく本件各処分の違憲を主張
するものと考えられるが,このように第三者の憲法上の権利を主張する適格
を有するとするためには,キリスト教信者である原告ら以外の原告らにおい
て,キリスト教信者である原告らの信教の自由という第三者の憲法上の権利
についての権利主張が許されるかが問題となる。そうすると,第三者の憲法
上の権利の性質,当事者と第三者との関係,第三者が独立の手続において自
らの当該憲法上の権利を擁護する機会を有するかどうか,当事者に対し第三
者の憲法上の権利主張の適格を認めないときには第三者の権利の実効性が失
われるかどうか等を考慮し,当事者に右適格を与えるのが相当と認められる
ことが必要である(最高裁判所昭和30年(あ)第2961号同37年11
月28日大法廷判決・刑集16巻11号1539頁参照)ところ,キリスト
教信者である原告ら以外の原告らについてそのような関係を見出すことはで
きない(なお,これは,自らについての信教の自由の侵害があるという主張
でも,キリスト教信者である原告ら以外の原告らにおいて,自らに対する本
件各処分がキリスト教信者である原告らの信教の自由を侵害する違憲なもの
であるという主張でもないから,自らに対する本件各処分の根拠法令の違
憲・違法や根拠法令に違背する瑕疵が専ら第三者の利益を保護する法規につ
いてのものであるかどうかという行訴法10条1項の問題ではない。)。
キリスト教信者である原告らは,いずれも自己のキリスト教の信仰と起
立・斉唱行為とは相容れないと認識していることを供述・陳述するなどして
おり(甲C3,20,27,49の1,乙C27の8,乙C53,原告P1
1),中には本件職務命令は自らの信仰に対する踏み絵のように感じられるこ
とを供述している者もいるところ,キリスト教信者である原告らの信仰に由
来するそのような考え方ないし心情は了解可能なものであり,卒業式等にお
ける国歌斉唱時の起立斉唱が,国旗・国歌に対する敬意の表明の要素を含む
行為であることも否定できないものではあるが,そもそもにおいて,卒業式
等における起立斉唱やピアノ伴奏は,前記(1)において説示したとおり,儀式
的行事における学校職員という社会的な立場にある者としての行動にすぎず,
一般的,客観的に見て,儀式的行事における儀礼的所作に当たる行為という
ことができるのであって,それを超えて,宗教的意味合いを持つ行為である
とまでいうことはできないから,本件通達及び本件各職務命令をもって,キ
リスト教信者の信仰を否定したり,その信仰の有無について告白を強要した
りするものであるということはできないといわざるを得ない。
また,キリスト教信者である原告らは,本件通達及び本件各職務命令によ
って,その信仰に由来する行動(敬意の表明の拒否)と異なる外部的行動を
求められることとなり,その限りにおいて,その信教の自由についての間接
的な制約となる面があることは否定し難いものの,このような信教の自由に
関する間接的制約の許容性についても前記(1)において説示したところが妥
当するものというべきであり,本件通達及び本件各職務命令の目的及び内容
並びに上記の制限を介して生ずる制約の態様等を総合的に衡量すれば,上記
の制約を許容し得る程度の必要性及び合理性が認められる。
以上によれば,本件通達及び本件各職務命令が憲法20条に違反するもの
ということはできず,本件各職務命令の違反を理由とする本件各処分が同条
に違反するものとは認められない。
(3)本件通達及び本件各職務命令の教師の専門職上の自由の侵害による憲法
13条,23条,26条違反の有無
ア原告らは,本件通達及び本件各職務命令が,教育課程の一環である卒業
式等の内容を,教師の関与なく一方的に決定し,これを強制するとともに,
各学校単位での創意工夫とその実情に応じた創造的・弾力的な教育内容の
決定の余地を完全に奪うものであり,教師の専門職上の自由を侵害するも
のとして,憲法13条,23条及び26条に違反する旨主張する。
イしかしながら,憲法13条,23条及び26条は,第一義的に子どもが
適切な教育を受ける権利を保障しているものであって,教師の個人的人権
を保障しているものではないが,教師が学校における教育活動を行うのは,
子どもが適切な教育を受ける権利を実現するために必要な存在である教師
としての地位に基づく権限に依拠するものであって,教師である個人の個
人的な権利の実現としてのものではないことに照らすと,憲法13条,2
3条及び26条の効果として,子どもが適切な教育を受ける権利を実現す
るために教師に教育の内容及び方法についての一定範囲の裁量権が認めら
れると解するのが相当である。しかし,その裁量権ないし自由とは,子ど
もが享受する適切な教育を受ける権利に由来するものであって,教師個人
の人権として所与のものとして保障されているものではないと解する以上,
教師は,教育活動を担う専門職として限られた一定の範囲で教授の自由が
あるとはいえ,それは子どもが適切な教育を受ける権利を実現するために
必要な範囲内での自由であって,これを超えて,その教育活動の内容・方
法の全てが教師の裁量に委ねられているのであって,その全てを教師が自
由に決めることができるものなどということはできない。教師は,学校行
事を実施するに際しては,憲法に適合する関係法令等を遵守すべき立場に
あるものである。
一方,地方公共団体の教育委員会は,その管理権(地教行法23条5号)
に基づき,公立学校の教育課程,学習指導,生徒指導等に関して基準を設
定し,一般的な指示を与え,指導,助言を行うとともに,特に必要な場合
には具体的な命令を発出することもできると解するのが相当であるところ,
都教委の発した本件通達は,憲法及び国旗国歌法等への違反・不適合もな
く,後記(7)のとおり法的拘束力の認められる学習指導要領の定めている国
旗国歌条項に基づく卒業式等における国旗・国歌の指導をより一層改善,
充実することを実現するという目的から発出されたものであって,その内
容も,当該目的のために必要かつ合理的なものであるということができる。
また,校長は,校務をつかさどり,所属職員を監督する権限を有する者で
あり(平成19年法律第96号による改正前の学校教育法28条3項,5
1条,76条,同改正後の同法37条4項,62条,82条),校務の一つ
である卒業式等の特別活動における国旗掲揚及び国歌斉唱の方法について
も,当該権限の一環として,具体的な内容を伴う職務命令を発令する権限
を有していると解され,そのような職務命令を発令するに当たり,教職員
の意見,判断を徴求することが必要条件となるものではない。
以上を本件に照らしてみると,高等学校における教育従事者である原告
らについては,憲法26条1項が生徒に対して保障する教育を受ける権利
の実現の過程で,その教育を実施・実現する責務を負う教師についても,
教育が人格的接触を通じての人の潜在的資質を引き出す創造的作用である
との本質に由来するものとして,一定の限度ではあるが,憲法13条,2
3条及び26条により保障される教育の自由を有するものであり,憲法2
3条が学問の自由を保障していることの趣旨も参酌すべきものと考えられ
るものの,原告らの有する教育の自由とは,あくまでも憲法以下の現行法
令の体系下における教育を実施するについて認められる権利であるといわ
なければならないのであり,原告らは,教師としての地位に基づいて学習
指導要領の定めている国旗国歌条項に沿った教育指導を行うべき立場にあ
るといえる。このことに,本件通達が,前記のとおり学習指導要領の定め
ている国旗国歌条項に基づく卒業式等における国旗・国歌の指導をより一
層改善,充実することを目的として発出されたものであると認められるこ
とを併せ考察すると,本件通達及び本件各職務命令によって原告らの教師
の専門職上の自由を侵害されたということはできず,原告らは,本件各校
長が本件通達を受けて発令した本件各職務命令に従うべき義務を負ってい
るものというべきであるから,原告らの上記主張は理由がない。
ウなお,教師は,教育活動を担う専門職として,学校行事を実施するに際
しては,関係法令等を遵守し,学習指導要領の定める国旗国歌条項に沿っ
た教育指導を行うべき立場にあるが,その範囲内においては,限られた一
定の範囲であるとはいえ,教授の自由があるところ,本件通達は,卒業式
等における国歌斉唱時の起立斉唱やピアノ伴奏を命じるだけでなく,国旗
の掲揚位置や掲揚方法,国歌斉唱の方法,式次第の記載方法,会場設営等
について相当程度具体的な内容を定めた実施指針(本件実施指針)を示し,
これに沿った卒業式等の実施を命じているものであって,この限りにおい
ては教職員の裁量的行為が制限されているものである。
しかしながら,学習指導要領は,儀式的行事について,「学校生活に有意
義な変化や折り目を付け,厳粛で清新な気分を味わい,新しい生活の展開
への動機付けとなるような活動を行うこと。」と規定しているところ,卒業
式等は厳粛さが要求される儀式的行為であるから,その中では一定の形式
に沿った実施が必要な部分があり,この観点からみて,本件実施指針が定
める式典の形式が不相当なものとはいえない。特に,教育上の重要な節目
となる卒業式等は,各教師が個別に担当する一般の教科と異なり,全校的
な規模で執り行われる儀式的行事であって,その進行については,個々の
教師がそれぞれの創意工夫に基づいて自由に児童・生徒を指導すればよい
というものではなく,全校的に決定されたところに従って統一のとれた行
動が教師に要請されるといわなければならない。児童・生徒に対する指導
教育の効果を高めるという観点からも,教育上の行事にふさわしい秩序を
確保して式典の円滑な進行を図ることが重要であり,そのためにも学校単
位での統一的な意思決定とこれに準拠した活動が必要となる場面であるか
ら,教職員は,自らが考える卒業式等の在り方いかんにかかわらず,儀式
的行事として決定された内容の卒業式等の実施に協力し,学習指導要領及
びその定めている国旗国歌条項に沿った教育指導を行うべき義務を負って
いるというべきである。そうである以上,本件通達(本件実施指針)にお
いて定められた内容の卒業式等が,原告らそれぞれが相当と考える卒業式
等の実施方法と一致しないとしても,そのことが,原告らの教員としての
専門職上の自由を侵害するということはできない。してみると,本件実施
指針が定める式典の形式と原告ら教職員が考えているそれとが異なるもの
であるとしても,そのことから直ちに教職員の教育実践上の裁量を侵害す
るものということはできない。もっとも,本件実施指針に定められていな
いことについては,教職員や児童・生徒の自主的工夫の余地は何ら制限さ
れておらず,弾力的な実施が可能であるということができる。
エ以上によれば,本件通達及び本件各職務命令は,原告らの教師の専門職
上の自由を侵害し,憲法13条,23条及び26条に違反するものという
ことはできない。
(4)本件通達及び本件各職務命令の国際条約違反の有無
原告らは,本件通達及び本件各職務命令が,思想・良心の自由及び信教の
自由を保障する自由権規約18条に違反する旨,本件通達が,児童の意見表
明権,表現の自由,思想・良心及び宗教の自由,教育への権利を保障する児
童の権利に関する条約12条,13条1項,14条1項,28条,29条に
違反する旨主張する。
自由権規約18条は,法規範として我が国内における直接適用が可能なも
のであるところ,同条の規定文言は,憲法19条及び20条の規定文言に比
してより詳細かつ具体的なものとなっているが,両者の規定が設けられてい
る趣旨及び人権として有する原理は相通じており,自由権規約18条の規定
が定める人権の保障内容は,その実質において憲法19条及び20条に規定
する人権の保障内容と変わるところがないと考えられるところ,本件通達及
び本件各職務命令が,憲法19条及び20条に違反するものということがで
きないことは,前記(1)及び(2)における説示のとおりであるから,本件通達
及び本件各職務命令が,自由権規約18条に違反するものであるということ
はできない。この点,原告らは自由権規約18条の解釈についての自由権規
約委員会の一般的意見及び所見を指摘し,その内容に則した解釈を行うべき
ことも主張しているところ,勧告としての効力しか持たない一般的意見,及
び個人通報の事案ごとに示され法的拘束力を持たないとされる所見が直ちに
我が国の法令としての法的拘束力を持つものとはいえない。なお,これらの
一般的意見及び所見については,自由権規約の解釈指針として斟酌すること
は望ましいと考えられるものであるが,原告らの指摘する一般的意見34は,
表現の自由に係る自由権規約19条に関するもので,その該当箇所は,国旗
やシンボルに敬意を払わない表現について法令等による不利益を課すことに
対する懸念を示すものであり(theCommitteeexpressesconcernregarding
lawsonsuchmattersas,lesemajesty,desacato,disrespectforauthority,
disrespectforflagsandsymbols,defamationoftheheadofstateand
theprotectionofthehonourofpublicofficials,andlawsshouldnot
provideformoreseverepenaltiessolelyonthebasisoftheidentity
ofthepersonthatmayhavebeenimpugned.),また,指摘に係る所見は,
公立学校に通学する条件として,起立・斉唱ではなく敬礼・斉唱を求めるな
どするものであって,いずれも本件と前提とする状況ないし事案を同じくす
るものと考えられず,特に,一般的意見34の「disrespectforflagsand
symbols」については,脚注が付されておらず,「laws」との関係付けがされ
ていることを考慮すると,これをもって端的に本件事案のような事案を視野
に入れたものと判断すべき根拠もないから,これらの一般的意見及び所見を
もって,本件を規律する際に考慮すべき解釈の指針として直ちに採用するこ
とはできないものと解する。
また,児童の権利に関する条約は,児童の享有する権利について定めたも
のであり,原告らの指摘する各条項の定める権利享有主体も児童であると解
されるから,原告らが,前記のとおり児童の権利に関する条約違反を主張す
ることは,自己の法律上の利益に関係のない違法を理由とするものであると
いわざるを得ないところ(行訴法10条1項),この点を措くとしても,本件
通達は,本件実施指針に定められていないことについて,教職員や児童・生
徒の自主的工夫の余地を十分に残すものであり,本件通達(本件実施指針)
に基づく国旗・国歌の指導が,原告らの主張する生徒の権利を侵害するもの
ともいえない。
さらに,原告らが指摘するILO・ユネスコの勧告は,条約のような法的
拘束力を持つものでなく,その趣旨を前記(1)ないし(3)に論じた法体系の中
で考慮すれば足りるものと解する。
以上によれば,本件通達及び本件各職務命令が,自由権規約及び児童の権
利に関する条約に違反するということはできない。
(5)国家シンボルの強制そのものの違憲性の有無
原告らは,本件各職務命令が,国民に対し,国旗・国歌が象徴する国家を
尊重する旨の特定の態度を強制するということであるから違憲である旨主張
する。
しかしながら,学校の式典における国歌斉唱時に国旗に向かって起立する
ことやピアノ伴奏を命じる本件各職務命令は,前記(1)において説示したとお
り,一般的,客観的に見て,儀式的行事における儀礼的所作に当たる行為を
命じるものにすぎず,特定の思想を持つことを強制したり,これに反する思
想を持つことを禁止したりするものではなく,特定の思想の有無について告
白することを強要するものということもできない。この点,確かに,起立斉
唱行為についていえば,教員が日常担当する教科等や日常従事する事務の内
容それ自体には含まれず,一般的,客観的に見ても,国旗・国歌に対する儀
式的行事における儀礼的所作に伴う敬意の表明の要素を含む行為であるとい
うことができるが,儀礼的行事における儀礼的所作に当たる行為を命ずると
いう限度を超えて,国旗・国歌が象徴する国家を尊重する態度を強制するも
のと解することはできない。
したがって,原告の前記主張は採用することができない。
(6)本件通達の憲法94条,地方自治法14条1項違反の有無
原告らは,本件通達が国旗国歌法及び学習指導要領の国旗国歌条項の範囲
を超え,法令に違反し,しかも条例ですらない通達によって,原告ら教員に
義務を課し権利を制限したものであるから,憲法94条,地方自治法14条
1項に違反し,違憲・違法である旨主張する。
しかしながら,本件通達が,卒業式等における国歌斉唱時の起立斉唱等を
原告ら教職員に対して直接義務付けるものとはいえず,この点において,原
告らの前記主張は失当である。また,本件通達は,国旗国歌法に基づくもの
ではなく,大綱的基準として法的拘束力を持ち,特別活動のうちの儀式的行
事について「学校生活に有意義な変化や折り目を付け,厳粛で清新な気分を
味わい,新しい生活の展開への動機付けとなるような活動を行うこと。」と定
め,「入学式や卒業式などにおいては,その意義を踏まえ,国旗を掲揚すると
ともに,国歌を斉唱するよう指導するものとする。」と定める学習指導要領を
受けて,地方公共団体の教育委員会に認められた地教行法23条5号の権限
に基づき,入学式や卒業式,あるいは周年行事などの学校生活の重要な節目
において,学校生活に有意義な変化や折り目を付けるために儀式的行事を行
い,これによって,児童・生徒が厳粛で清新な気分を味わい,それまでの学
校生活を振り返るとともに新しい生活への出発の決意と希望の意識を高めら
れるようにし,併せて国旗・国歌について学ぶことができるようにするとい
う学習指導要領の定めている国旗国歌条項の趣旨を実現するため,これに適
した場所的環境や式の進行を定めるものであり,学習指導要領の趣旨に沿っ
て入学式・卒業式等を実施する上で必要かつ合理的なものとして,学校管理
機関としての都教委がその権限を行使する「許容された目的」のもとに発せ
られているといえる。
以上に照らせば,本件通達は,国旗国歌法及び学習指導要領の国旗国歌条
項の範囲を超え,法令に違反するものではなく,また,条例ではない通達に
よって原告ら教職員に義務を課し,権利を制限するものでもないから,本件
通達の憲法94条,地方自治法14条1項違反をいう原告らの主張は失当で
ある。
(7)学習指導要領の国旗国歌条項の法的拘束力の有無
ア学習指導要領は,平成19年法律第96号による改正前の学校教育法4
3条(同改正後の同法52条),平成19年文部科学省令第40号による
改正前の同法施行規則57条の2(同改正後の同法施行規則82条)に基
づいて文部科学大臣が定めて公示したものであり,それが教育における機
会均等の確保と全国的な一定水準の維持という目的のために必要かつ合
理的な大綱的基準として是認することができるものは,法規としての性質
を有し,遵守すべき基準として法的拘束力が認められるものと解される
(昭和51年大法廷判決参照)。
イこの点について国旗国歌条項をみるに,その制定趣旨については,国際
化の進展に伴い,日本人としての自覚を養い,国を愛する心を育てるとと
もに,児童・生徒が,将来,国際社会において尊敬され,信頼される日本
人として成長していくためには,国旗・国歌に対して一層正しい認識を持
たせ,それらを尊重する態度を育てることは重要なことであり,卒業式等
は,学校生活に有意義な変化や折り目を付け,厳粛かつ清新な雰囲気の中
で,新しい生活の展開への動機付けを行い,学校,社会,国家など集団へ
の所属感を深める上でよい機会となるものであるという意義を踏まえて定
められたものと認められ(乙61),全国一律の教育が施される必要のある
ものを対象としたものであるということができ,国旗国歌法に反して,一
方的な理論や観念を生徒に教え込むことを強制するものとはいえない。
また,その文言も,「入学式や卒業式などにおいては,その意義を踏まえ,
国旗を掲揚するとともに,国歌を斉唱するよう指導するものとする。」とい
うものであり,卒業式等以外の場面における国旗・国歌の教育指導の内容
又は方法を具体的に定めるものではなく,卒業式等の場面に関しても,国
旗掲揚及び国歌斉唱による教育指導を定めるのみであることからすると,
大綱的な基準を定めたものということができる。以上によれば,国旗国歌
条項は,普通教育の内容及び方法について遵守すべき大綱的基準を定める
ものとして,法的拘束力を有するものというべきである。
そして,前述の点は,特別支援学校(平成19年3月31日以前におけ
る養護学校)の学習指導要領についても同様に解される。
ウ以上によれば,学習指導要領の定めている国旗国歌条項は,普通教育の
内容及び方法について遵守すべき大綱的基準として法的拘束力を有する
ものであり,その適正実施のための通達や職務命令の発出,発令根拠とな
るものということができる。
(8)本件通達及び本件各職務命令の教育基本法16条1項違反の有無
ア教育基本法16条1項は,教育が不当な支配によってゆがめられること
なく,専ら教育本来の目的に従って行われるべきことを示したものであり,
地方公共団体の教育行政機関の法令に基づく行為にも適用があると解さ
れる。また,同項は,教育行政の目標を教育の目的の遂行に必要な諸条件
の整備確立に置き,そのための措置を講ずるに当たっては,教育の自主性
尊重の見地から,これに対する不当な支配となることのないようにすべき
旨の限定を付したものであり,教育に対する行政権力の不当,不要の介入
は排除されるべきであるとしても,許容される目的のために必要かつ合理
的と認められるものは,教育の内容及び方法に関するものであっても,必
ずしも同項の禁止するところではないものと解するのが相当である(昭和
51年大法廷判決参照)。
国の教育行政機関が法律の授権に基づいて義務教育に属する普通教育の
内容及び方法について遵守すべき基準を設定する場合には,子どもの教育
が,教師と子どもとの間の直接の人格的接触を通じ,子どもの個性に応じ
て弾力的に行われなければならず,そこに教師の自由な創意と工夫の余地
が要請されることのほか,教育に関する地方自治の原則(地教行法23条,
32条,43条)を考慮し,教育における機会均等の確保と全国的な一定
の水準の維持という目的のために必要かつ合理的と認められる大綱的なそ
れにとどめられるべきものと解されるが,地方公共団体が設置する教育委
員会が教育の内容及び方法について遵守すべき基準を設定する場合には,
国の教育行政機関の設けた基準の範囲内でより具体的に国の実施指針の実
現を図るという地方公共団体の教育委員会の機能を考慮すれば,その管理
権(地教行法23条5号)に基づき,公立学校の教育課程,学習指導,生
徒指導等に関して基準を設定し,一般的な指示を与え,指導,助言を行う
とともに,特に必要な場合には具体的な命令を発出することもできると解
するのが相当である(昭和51年大法廷判決参照)。
イ前記前提となる事実(3)によれば,都教委は,平成9年及び平成10年当
時,都立高等学校等における国旗掲揚及び国歌斉唱の実施率が全国の公立
高等学校の中で1番目ないし2番目に低かったことから,都立高等学校長
に対し,学習指導要領に基づいた国旗・国歌の指導を行うよう指導,助言
することとし,同年11月に平成10年実施指針を添付した通知を発出し,
平成11年6月に都立学校等卒業式・入学式対策本部を設置し,同年10
月には平成10年実施指針に基づき卒業式等を実施することを命ずる平成
11年通達を発出するなどしたこと,その結果として平成12年度卒業式
から国旗掲揚及び国歌斉唱の実施率は100パーセントとなったものの,
国旗を掲揚した三脚を舞台袖の見えないところに置いたり,国歌斉唱時に
教員が起立しないなどの実態があったこと,都教委は,このような実態を
踏まえ,平成14年11月には平成11年通達に基づいて一層の改善を図
るよう依頼する通知を発出するなどして指導を継続したが,平成14年度
卒業式及び平成15年度入学式における国旗掲揚の方法等についての調査
結果は,平成10年実施指針で定められた方針どおりに国旗掲揚等を行っ
た都立学校は全体の半分にも満たないものであり,また,国歌斉唱時に起
立をしない教員がいるなどの実態がなおあったこと,都教委は,平成15
年6月に対策本部を設置し,卒業式等の適正実施について検討した結果を
とりまとめ,以上の課題を解決するためには各学校で国旗掲揚及び国歌斉
唱の実施についてより一層の改善,充実を図る必要があるとして,同年1
0月23日,校長に対し,本件通達を発出したものであることが認められ
る。
本件通達の発出に至る前記経緯によれば,本件通達は,学習指導要領の
定めている国旗国歌条項に基づく卒業式等における国旗・国歌の指導をよ
り一層改善,充実することを目的として発出されたものと認められる。そ
して,国旗国歌条項に基づく国旗・国歌の指導とは,国旗・国歌の意義を
理解させ,他国の国民と相互にそれらを尊重する態度を育てることである
から,上記目的は,国際社会における主権国家の構成員として成長するこ
とが期待される児童・生徒の教育目的として許容される範囲内のものとい
うことができる。また,本件通達の発出以前の卒業式等における国旗掲揚
及び国歌斉唱の実施状況並びに実態に照らすと,本件通達を発出する必要
性も認められ,また,校長を通じて平成10年実施指針の徹底を指導した
にもかかわらず,これが徹底されていない実態が広く見られたことに照ら
せば,これを実現するために,卒業式等における国旗掲揚及び国歌斉唱の
実施方法等も定めた通達により具体的な命令を発することが特に必要であ
ったという事情も認めることができる。さらに,国旗掲揚及び国歌斉唱に
よって国旗・国歌を尊重する態度を育てることが求められている卒業式等
の学校行事において,児童・生徒に範を示すべき立場にある教職員らに対
して儀式的行事における儀礼的所作として国歌斉唱時に起立を求めること
については,卒業式等における国旗・国歌に関する教育指導の方法として
合理性を認め得るものであるから,本件通達の内容は合理的なものといえ
る。
ウ以上によれば,本件通達の目的は許容されるものであって,その内容は,
当該目的のために必要かつ合理的なものであるということができる。
エところで,原告らは,本件通達について,愛国主義的又は全体主義的な
教育を行うことを目的とする旨主張するが,本件通達が,学習指導要領の
定めている国旗国歌条項に基づき卒業式等における国旗・国歌の指導をよ
り一層改善,充実すること以上に,愛国主義的又は全体主義的な教育を行
うことを目的として発出されたものであると認めるべき証拠はなく,原告
らの上記主張は採用することができない。
また,原告らは,本件通達について,全国的一定水準としての国旗国歌
条項よりも個別具体的な指示を出す必要性はない旨主張するが,国旗・国
歌の教育指導の実態は,地域等によって異なり得るものであり,当該実態
に応じて,国旗・国歌の指導をより一層改善,充実しようとすることは,
地方公共団体の教育委員会としての機能・責務を果たすものということが
でき,本件通達を発出する必要性が認められることは,前述のとおりであ
るから,原告らの上記主張は採用できない。
さらに,原告らは,本件通達及び本件各職務命令が,卒業式等の実施方
法に関する学校の裁量を奪い,創造的かつ弾力的な教育活動の余地や学校
ごとの特殊性を反映した個別化の余地を十分に残したものとなっていない
ほか,制裁を伴う方法によって教育内容を事前に決定するものであり,内
容介入の深さと強制の程度にかんがみれば,教育基本法16条1項の「不
当な支配」に該当する旨主張するが,本件通達(本件実施指針)が定めて
いる内容は前記前提となる事実(2)イに掲記したとおりであり,これに定め
られていないことについては,教職員や児童・生徒の自主的工夫の余地が
あることや,前述のとおり,学習指導要領の定めている国旗国歌条項に沿
った教育指導を行うべき立場にある教職員に対して起立斉唱等を求めるこ
とには必要性及び合理性が認められるものであり,地方公務員である教職
員は,そのような起立斉唱等を命じる職務命令に従わなければならない(地
公法32条)ことからすると,採用することができない。
オしたがって,本件通達及び本件各職務命令は,教育基本法16条1項の
禁止する「不当な支配」に該当するものとはいえない。
(9)本件通達及び本件各職務命令の平成19年6月27日法律第96号によ
る改正前の学校教育法42条(同改正後の同法51条)違反の有無
原告らは,本件通達及び本件各職務命令が,高等学校の教育の目標を定め
る平成19年6月27日法律第95号による改正前の学校教育法42条3
号(同改正後の同法51条3号)に違反する旨主張する。しかしながら,本
件通達及び本件各職務命令は,卒業式等の式典における国旗・国歌の指導
が,日本人としての自覚を養い,国を愛する心を育てるとともに,児童・
生徒が将来,国際社会において尊敬され,信頼される日本人として成長し
ていくために,国旗・国歌に対する正しい認識を持たせ,それを尊重する
態度を育てることを目的とするものであり,これが児童・生徒の学ぶべき
普遍的・基礎的な事項であることから,卒業式等の式典における国旗・国
歌の指導に限り,一定の内容を規律するものであって,前記条項に規定さ
れた「社会について,広く深い理解と健全な批判力を養い,個性の確立に
努めること。」(改正後の「個性の確立に努めるとともに,社会について,
広く深い理解と健全な批判力を養い,社会の発展に寄与する態度を養うこ
と。」)との高等学校における教育目標に反するものとはいえない。これに
反する原告らの主張は,採用することができない。
(10)本件通達の地方自治法14条2項,2条16項,2条2項違反の有無
ア地方自治法14条2項は,「普通地方公共団体は,義務を課し,又は権
利を制限するには,法令に定めがある場合を除くほか,条例によらなけれ
ばならない。」と規定しているところ,本件通達は,一般的,客観的に見
て式典における慣例上の儀礼的な所作としての性質を有し,かつこのよう
に外部から認識されるものとしての卒業式等における国歌斉唱の際の起立
斉唱やピアノ伴奏について定めるものであり,原告らの有する世界観を否
定することと不可分に結びつくものとはいえず,人の権利の規制にかかわ
る内容を有するものとはいえないから,同条項に違反するものとはいえな
い。
イ地方自治法2条16項は,地方公共団体は,法令に違反してその事務を
処理してはならない旨を定めているところ,本件通達が,地教行法23条
5号所定の管理権限に基づいて,学習指導要領の国旗国歌条項を具体化し
たものであり,国旗国歌法,学習指導要領の国旗国歌条項,憲法94条,
地方自治法14条1項,2項に違反するものでないことは前述のとおりで
あるから,本件通達が同法2条16項に違反するものとはいえない。
ウ地方自治法2条2項は,普通地方公共団体は,地域における事務及びそ
の他の事務で法律又はこれに基づく政令により処理することとされるもの
を処理する旨規定しているところ,地教行法23条5号に照らして,学習
指導要領における国旗国歌条項の指導が普通地方公共団体の事務に含まれ
ることは明らかであり,本件通達の地方自治法2条2項違反をいう原告ら
の主張は採用することができない。
(11)本件不起立等の地公法32条,33条違反の有無
ア校長は,校務をつかさどり,所属職員を監督する権限を有する者である
ところ(平成19年法律第96号による改正前の学校教育法28条3項,
51条,76条,同改正後の同法37条4項,62条,82条),校長がつ
かさどる校務については,特段の限定はされておらず,当該学校自体及び
当該学校の所属職員が処理している仕事の全てが含まれるものと解される。
そうすると,校長は,前記内容の校務を遂行するための監督権限の発動と
して,所属職員に対し,職務命令を発令する権限を有しており,校務の一
つである卒業式等における国旗掲揚及び国歌斉唱の方法についても,当該
権限の一環として,具体的な内容を伴う職務命令を発令する権限を有して
いるものと解され,本件各校長は,同権限に基づいて,本件各職務命令を
正当に発令したものと認められる。他方,本件各職務命令が憲法19条,
20条に違反し,教育基本法16条1項が禁止する「不当な支配」に当た
るなど,重大かつ明白な瑕疵のある無効なものであると解すべき理由はな
く,他に本件各職務命令の効力を否定すべき理由は認められない。
以上によれば,本件各職務命令は有効なものであるというべきであるか
ら,本件各職務命令に反する原告らの本件不起立等が,上司の職務上の命
令違反に該当し,地公法32条違反を構成することは明らかである。これ
に反する原告らの主張は,独自の見解を述べるものであって,採用するこ
とができない。
イ原告らは,地方公務員として職務命令に従う義務を負い,かつ,生徒の
範となるべき都立学校の教職員であって,学習指導要領の定めている国旗
国歌条項に沿った教育指導を行うべき立場にあるにもかかわらず,児童・
生徒や保護者等の参列する卒業式等において,適法であると認められる本
件各職務命令に違反して本件不起立等に及んだものである以上,本件不起
立等が,教職員の職の信用を傷つけ,教職員全体の不名誉となる行為に該
当するものとして,地公法33条違反を構成することは明らかである。こ
の点,本件各職務命令に関する様々な見解が存在する旨の事情や,卒業式
等の式典において,進行の混乱を招く等の事態が存在しなかった旨の事情
を前提としても,適法な本件各職務命令に公然と違反したこと自体につい
て,教職員の信用を傷つけ,教職員全体の不名誉となる行為であると解す
べきことに変わりはなく,前述の理が前記の事情によって左右されるもの
とはいえない。
ウ以上によれば,原告らの本件不起立等は,地公法32条,33条に違反
するものであることが明らかである。
(12)本件各処分の手続的違法の有無
原告らは,本件各処分の前提としての告知及び聴聞の機会が奪われたり,
不十分であったりしたなどとして,本件各処分の手続的違法を主張する。
しかしながら,地方公務員の懲戒処分に際して聴聞又は弁明の機会の付与
は法律上要求されておらず(行政手続法3条1項9号),地方公務員である原
告らについて,本件各処分を受けるについて事前の聴聞又は弁明の機会がな
かったとしても,そのこと自体から直ちに本件各処分の手続に重大な違法が
あるということはできないところ,前記前提となる事実(5)によれば,原告ら
は,本件各処分に先立ち,少なくとも都教委による事情聴取の機会を付与さ
れていたものと認められる。原告らは,弁護士の立会いを拒否されたことか
ら,具体的な事情説明には至らなかった者が含まれている旨主張するが,事
情聴取に当たって,弁護士の立会いを求める権利が被聴取者に保障されてい
るわけではなく,原告らが弁護士の立会いを許容されない限り事情聴取を受
けることができないことについて客観的合理的な理由があったことをうかが
わせる事情もないから,上記の点をもって,告知・聴聞の機会を奪われ,あ
るいはこれらの機会が不十分であったなどと認めるべき事情はなく,本件各
処分の手続上の違法があるということはできない。
なお,原告らは,本件各処分が極めて短期間のうちに画一的になされたも
のである旨等を主張するが,本件各処分は,いずれも教職員懲戒分限審査委
員会に対する諮問,同委員会による答申,都教委における決定という一連の
手続を経て発令されていることが認められることに,本件不起立等を外形的
に現れるところにおいてみればそれ自体単純かつ類型的な行為であることも
併せ考えれば,原告指摘の点において,本件各処分の手続的違法性を疑わせ
る事情が存在するとはいえない。
以上によれば,本件各処分について,手続的違法がある旨の原告らの主張
は採用することができない。
(13)本件各処分について処分をすること自体の裁量権の逸脱・濫用の有無
ア地方公務員に対する懲戒処分は,地方公務員としてふさわしくない非行
がある場合に,その責任を確認し,地方公務員関係の秩序を維持するため
に科せられる制裁である。このような懲戒制度の趣旨に照らすと,地方公
務員に地公法所定の懲戒事由がある場合に,懲戒処分を行うかどうか,懲
戒処分を行うときにいかなる処分を選ぶかは,平素から事情に通暁し,職
員の指揮監督にあたる懲戒権者の裁量に任されていると解される。そうす
ると,裁判所が懲戒処分の適否を審査するに当たっては,懲戒権者と同一
の立場に立って懲戒処分をすべきであったかどうか又はいかなる処分を選
択すべきであったかについて判断し,その結果と懲戒処分とを比較してそ
の軽重を論ずべきものではなく,懲戒権者の裁量権の行使に基づく処分が
社会通念上著しく妥当を欠き,裁量権の範囲を逸脱してこれを濫用したと
認められる場合に限り,違法であると判断すべきである(最高裁判所昭和
47年(行ツ)第52号同52年12月20日第三小法廷判決・民集31
巻7号1101頁,最高裁判所昭和59年(行ツ)第46号平成2年1月
18日第一小法廷判決・民集44巻1号1頁参照)。
イ原告らは,本件不起立等に対して懲戒処分をもって臨むことは,裁量権
の逸脱・濫用に当たるとし,その具体的な理由として,まず,本件各処分
の前提となる本件通達及び本件各職務命令が国家主義的価値観に基づく国
旗・国歌への敬意の表明,国旗・国歌の尊重を個人の思想・良心の自由に
優先させるという特異な教育観の強制に出るものである旨主張する。しか
しながら,本件通達及び本件各職務命令やこれらを前提とする本件各処分
がそのような目的を持つものとは認められず,適法なものというべきこと
は既に前記(8)において説示したとおりである。そうすると,本件不起立等
は,地方公務員として職務命令に従う義務を負うとともに,学習指導要領
の定めている国旗国歌条項に沿った教育指導を行うべき立場にあり,生徒
の範ともなるべき都立学校の教職員によって,児童・生徒や保護者等の参
列する卒業式等において,適法であると認められる本件各職務命令に違反
してなされたものであるといわなければならず,その影響として,生徒に
対する適切な指導が妨げられていることにも徴すると,本件不起立等をも
って軽微な非違行為であるということはできないから,原告らが本件不起
立等を行った動機の真摯性の程度,本件不起立等により卒業式等の進行に
影響がなかったことを踏まえてもなお,その非違性が軽いものと評価する
ことはできない。
また,原告らが主張する昇給延伸や勤勉手当の削減等,定年退職後に嘱
託を希望しても採用されないなどの経済的不利益を受け得ることについて
は,本件各処分自体が予定し,また,本件各処分自体によって直接に生じ
る経済的不利益ではなく,上記の昇給等や再雇用は,これらを定める給与
制度や人事制度等において,懲戒処分を受けていないこと,勤務成績が良
好であることなどを要件としていることによって生じるものであるから,
これらの経済的不利益をもって,本件各処分自体の適法性ないし相当性を
直接左右する事情に当たるものとはいえないというべきである。
さらに,原告らは,本件各処分における目的の不当性や代替手段の不検
討等,諸々の事情を挙げて,本件各処分の裁量権の逸脱・濫用を主張する
が,前述したところの本件通達の発出経緯,本件通達の内容,本件各職務
命令の内容等に照らせば,本件各職務命令違反による本件各処分が,原告
らの主張する特異な教育観の強制を目的とするとか,原告らの教育公務員
としての地位を前提として,職務遂行義務を免除する旨の代替装置を講ず
べきであったなどの事情を認めることはできず,原告らの主張は採用する
ことができない。
以上によれば,都教委が原告らに対して行った本件各処分が,懲戒処分
を行ったことにつき裁量権を逸脱又は濫用したものということはできない。
そうすると,本件原告らのうち,後記(14)において検討する減給処分以上
の懲戒処分を受けた原告P1ら26名を除いた原告ら24名及び原告P2
5についてされた各戒告処分は適法なものと認められる。
(14)本件各処分における処分量定に関する裁量権の逸脱・濫用の有無
ア公務員に対する懲戒処分については,懲戒権者は,諸般の事情を考慮し
て,懲戒処分をすべきかどうか,また,懲戒処分をする場合にいかなる処
分を選択すべきかを決定する裁量権を有しているところ,その判断は,そ
れが社会観念上著しく妥当を欠いて裁量権の範囲を逸脱し,又はこれを濫
用したと認められる場合には,違法となるものと解される。そして,都立
学校の式典の国歌斉唱時における不起立等に対する懲戒処分として,都教
委において戒告を超えてより重い減給以上の処分を選択することについて
は,事案の性質等を踏まえた慎重な考慮が必要となる(戒告,減給,停職
等の懲戒処分を行う上での懲戒事由は,いずれの処分についても地公法2
9条1項が規定する3つの非違行為となる事由で共通しており,該当事由
にかかわる諸般の事情(以下「情状事実」という。)の軽重により懲戒処分
の種類が量定される〔甲D51,53〕。)。すなわち,減給処分は,処
分それ自体によって教職員の法的地位に一定の期間における本給の一部の
不支給という直接の給与上の不利益が及び,将来の昇給等にも相応の影響
が及ぶ上,本件通達を踏まえて毎年度2回以上の卒業式や入学式等の式典
のたびに懲戒処分が累積して加重されると短期間で反復継続的に不利益が
拡大していくこと等を勘案すると,上記のような事案の性質等を踏まえた
慎重な考慮の下で不起立行為等に対する懲戒において戒告を超えて減給の
処分を選択することが許容されるのは,過去の非違行為による懲戒処分等
の処分歴や不起立行為等の前後における態度等(以下,併せて「過去の処
分歴等」という。)にかんがみ,学校の規律や秩序の保持等の必要性と処
分による不利益の内容との権衡の観点から当該処分を選択することの相当
性を基礎付ける具体的な事情が認められる場合であることを要すると解す
べきである。そして,不起立行為等に対する懲戒において減給処分を選択
することについて,上記の相当性を基礎付ける具体的な事情が認められる
ためには,例えば過去の1回の卒業式等における不起立行為等による懲戒
処分の処分歴がある場合に,これのみをもって直ちにその相当性を基礎付
けるには足りず,上記の場合に比べて過去の処分歴に係る非違行為がその
内容や頻度等において規律や秩序を害する程度の相応に大きいものである
など,過去の処分歴等が減給処分による不利益の内容との権衡を勘案して
もなお規律や秩序の保持等の必要性の高さを十分に基礎付けるものである
ことを要するというべきである(最高裁判所平成23年(行ツ)第263
号・同年(行ヒ)第294号同24年1月16日第一小法廷判決・裁判集
民事239号253頁参照)。また,同様の考慮から,不起立行為等に対
する懲戒において停職処分を選択することについて,前記相当性を基礎付
ける具体的な事情が認められるためには,例えば過去の一,二年度に数回
の卒業式等における不起立行為による懲戒処分の処分歴がある場合に,こ
れのみをもって直ちにその相当性を基礎付けるには足りず,前記の場合に
比べて過去の処分歴に係る非違行為がその内容や頻度等において規律や秩
序を害する程度の相応に大きいものであるなど,過去の処分歴等が停職処
分による不利益の内容との権衡を勘案してもなお規律や秩序の保持等の必
要性の高さを十分に基礎付けるものであることを要するというべきである
(最高裁判所平成23年(行ツ)第242号・同年(行ヒ)第265号同
24年1月16日第一小法廷判決・裁判集民事239号1頁参照)。
イ被告は,上記アの基準に即するものとして,減給以上の懲戒処分を選択
することの相当性を基礎付ける具体的事情として,前記第3の2(14)のと
おり主張するところ,原告らは,この点に関して,本件各処分に係る「処
分説明書」(甲D1の1,甲D2の1から3まで,甲D3から27までの各
1,甲D28の1・2,甲D29から41までの各1,甲D42の1・2,
甲D43から47までの各1,甲D48の1から3まで,甲D49及び5
0の各1)には処分の理由として当該処分の対象となった本件不起立等に
ついての記載しかなく,懲戒処分を受ける職員の防御権の保障の観点等に
かんがみて,本件の処分取消訴訟の審理対象となる処分の事由は同書面に
記載されている処分の事由に限定されるべきことを主張する。
しかしながら,懲戒処分は,前記のとおり裁量性のある処分であり,懲
戒事由に当たる非違行為を認定した上で,これにかかわる懲戒事由に該当
すると認められる行為の原因,動機,性質,態様,結果,影響等のほか,
当該公務員の上記行為の前後における態度,懲戒処分等の処分歴,選択す
る処分の他の公務員及び社会に与える影響等の諸般の情状事実も加味考慮
してされるものであるところ(最高裁判所昭和47年(行ツ)第52号同
52年12月20日第三小法廷判決・民集31巻7号1101頁),この情
状事実については,処分説明書に必ずしも記載しなければならないもので
はなく,訴訟の段階で処分説明書に記載のない情状事実を主張することも
許される(最高裁判所昭和53年(行ツ)第1号同59年12月18日第
三小法廷判決・労働判例443号16頁)。したがって,取消訴訟において,
処分行政庁が処分説明書に記載されていない事実を追加主張した場合,一
般的には,これにより懲戒事由の存在を認めることはできないが,これを
情状事実として考慮することは可能というべきである。なお,懲戒処分は,
秩序違反行為を理由として一種の秩序罰を科するものであるから,具体的
な懲戒処分の適否は,その理由とされた非違行為との関係において判断さ
れるべきものであり,したがって,懲戒処分当時に使用者が認識していな
かった非違行為は,特段の事情のない限り,当該懲戒処分の理由とされた
ものではないことが明らかであり,そのような非違行為の存在をもって当
該懲戒処分の有効性を根拠付けることはできない。しかしながら,処分権
者が懲戒処分当時に当該非違行為の存在を認識していれば,それが被処分
者に対し告知されることまでは必ずしも要しないというべきであり,原告
らの主張は採用することができない。
ウ以下,上記ア,イにおいて説示した判断基準に従って,被告が前記第3
の2(14)において主張する減給以上の懲戒処分を選択することの相当性を
基礎付ける具体的事情について検討を加えることとする。
(ア)本件原告らのうち,減給処分以上の処分を受けた原告P1ら26名
について,被告は,減給処分以上の懲戒処分を選択することの相当性を
基礎付ける具体的事情として,戒告処分後の再発防止研修における態度,
職務命令をめぐる管理職との確執,不起立行為等に対する処分において
校長の事実確認や都教委の事情聴取を拒否するなどの非協力的態度等が
存在していたことを主張し,その主張に沿う事実が認められる(乙C2
の1から3まで・7から20まで,乙C6,13,14及び16の各1
から11まで,乙C22の1から12まで,乙C23及び24の各1か
ら11まで,乙C25の1から16まで,乙C26及び27の各1から
11まで,乙C28の10から30まで・32から39まで・42から
45まで,乙C30の1から17まで,乙C31の1から11まで,乙
C32の1から18まで,乙C34の1から12まで,乙C38の1か
ら17まで,乙C40の1から11まで,乙C42の1から18まで,
乙C43の1から11まで・15から18まで,乙C44の1から11
まで,乙C45の1から17まで,乙C46及び47の各1から11ま
で,乙C48の1から17まで,乙C50の1から16まで,弁論の全
趣旨)。
しかしながら,被告が指摘する原告らの再発防止研修における態度等
は,懲戒事由となった本件不起立等の行為と同じ原告らの本件各職務命
令に対する否定的な考え方や思いを基盤とする一連の言動と捉えられる
のであり,そのような態度の中核部分として懲戒事由とされた本件不起
立等の態様も,式典を物理的,積極的に妨害するような特別の要素はな
く,消極的な職務命令拒否の範囲にとどまるものにすぎないことや,被
告の指摘するこれらの事情が,本件各処分の理由となった本件不起立等
と相まって,少なくとも本件において,学校の規律や秩序を害する程度
を相応に拡大ないし深刻化させるようなものとなることを認めるべき証
拠も存在しないこと,さらに,戒告処分と減給処分以上の処分との違い
によって原告らに及ぼす不利益の程度の差の大きさを併せ考慮すると,
被告が主張するこれらの事情が存在することのみをもっては,本件原告
らのうち,減給以上の処分を受けた原告P1ら26名について,減給以
上の懲戒処分を選択することが相当であると認めるには足りないという
べきである。
(イ)被告は,原告P9,同P15及び同P20につき,上記(ア)に加え
るべき減給以上の懲戒処分を選択することの相当性を基礎付ける具体的
事情として,これらの原告らが,卒業式直前の授業等で生徒に内心の自
由についての説明を行うなどし,このことで「指導部長厳重注意」を受
けたことを主張し,その主張に沿う事実が認められる(乙C25の5か
ら9まで,乙C32の5,乙C43の12から15まで,乙C53,5
4,弁論の全趣旨)。しかしながら,これらの事情をもってしても,減
給以上の懲戒処分を選択することが相当であると認めるには足りないと
いうべきである。
また,被告は,原告P1につき,卒業式における来賓としての挨拶が
不適切として「校長指導」を受けたことをもって,上記(ア)に加えるべ
き減給以上の懲戒処分を選択することの相当性を基礎付ける具体的事情
として主張し,その主張に沿う事実が認められる(乙C2の4から6ま
で,弁論の全趣旨)。しかしながら,その挨拶の発言は原告P1も当事
者の地位にある起立斉唱に関する施策をめぐる対立の一端を持ち込むか
のような印象を与えかねないものであり,その意味で卒業式という式典
では不適切なものと見ることが不合理ではないが,それ以上には,前記
同様,生徒に対して積極的に不起立を指導するなどしたものでもなく,
学校の規律や秩序を特段に害するものとはいえない。
(ウ)被告は,原告P11につき,同原告の不起立行為が生徒に対する明
らかな影響を与えているとし,この事情をもって,減給以上の懲戒処分
を選択することの相当性を基礎付ける具体的事情であるとする。
しかしながら,被告において指摘する原告P11が平成16年度入学
式の後に生徒に対してした言動は,生徒に対して積極的に不起立等を指
導するなどするものではなく,他に生徒に対する積極的な不起立等の指
導をしたと目される言動もなく,あるいは原告P11の言動による結果
として式典の進行が妨害されるなどの事態が発生した旨の証拠は存在し
ない。また,被告は,同原告の学年集会における発言を取り上げ,前記
相当性を基礎付ける具体的事情であるとするが,当該発言をもって,学
校の規律や秩序を相当程度害するものと認めるべき証拠もない。
(エ)被告は,原告P22につき,再発防止研修時の強制反対,日の丸・
君が代という内容が書かれたTシャツ着用による戒告処分歴を挙げ,同
処分歴をもって前記(ア)に加えるべき前記相当性を基礎付ける具体的事
情であると主張し,その主張に沿う事実として,原告P22が,再発防
止研修時に当該Tシャツを着用することによって,再発防止研修の受講
を含めた処置について抗議の意を示していることが認められ(乙C45
の1から6まで,弁論の全趣旨),再発防止研修の実効性が上がってい
ないことがうかがわれるが,それ以上に再発防止研修の進行自体が具体
的に妨害された旨の事情までは認められず,当該Tシャツ着用とこれに
対する戒告処分歴をもって,前記相当性を基礎付ける具体的な事情に当
たるものとはいえない。
(オ)被告は,原告P12につき,平成12年度の卒業式に「日の丸・君
が代強制反対」と書いたゼッケンを着用して出席し,平成13年度の入
学式に「日の丸君が代やめてください」と書かれたブラウスを着用
して出席し,同年度の卒業式に両胸の部分にそれぞれ「19条9条」
と記載されたブラウスを着用して出席したという行動歴があること,そ
の後,平成14年度入学式において,縦約10センチメートル,横約1
5センチメートルの長方形の黒枠の中央部に塗りつぶした赤い丸を描
いた絵柄に向かって左上から右下方向に黒色の斜線を入れた模様が右
胸部分に,直径約20センチメートルのハートの絵柄に鎖を重ねた模様
が背中側部分にそれぞれ描かれた白無地のブラウスの上に上着を着用
するよう口頭で職務命令を受けたが,これに反して鳩やハート等の図柄
が描かれていたブラウスの上に上着を着用することなく入学式に臨み,
平成14年11月6日付けで戒告処分を受けたこと,平成15年度卒業
式における国歌斉唱時の不起立により,平成16年4月6日付けで減給
10分の1・1月,平成16年度卒業式における国歌斉唱時の不起立に
より,平成17年3月31日付けで減給10分の1・6月の各処分を受
けたこと,本件における停職1月の処分の期間中,「校門出勤闘争」と
称して東京都立P45養護学校の校門前で,支援者らとともに「君が代
強制反対」等と記載した表示を掲げるとともに,職員や保護者らにチラ
シを配布するなどしたことをもって,前記(ア)に加えるべき前記相当性
を基礎付ける具体的事情として主張し,その主張に沿う事実が認められ
る(乙C28の1から9まで・31・40・41)。
しかしながら,これらの経緯及び懲戒処分歴に照らしても,同原告に
対し,不利益の大きい停職処分の選択を基礎付けるまでの学校の規律,
秩序に対する妨害行為が存在したものとはいえず,これらの事情をもっ
てしても,停職処分の選択を基礎付けるまでの具体的事情があるとはい
えない。
(カ)減給処分以上の処分を受けた原告P1ら26名は,学校の式典に
おける国歌斉唱時の不起立等につき,都教委の機械的累積加重処分の
方針によってかかる処分を受けているところ,上記原告らの減給処分
以上の本件各処分のうち,以下の懲戒処分については,前記前提となる
事実(5)(別紙5「処分歴一覧表」)記載のとおり,減給処分以上の処分
を受けた原告らに対する本件各処分の後に確定判決によりその処分が
取り消されていることからも明らかなように,当該各処分がされた際に
なすべき情状事実としての評価・判断を誤っていたものというべきであ
る(なお,処分後に生じた事情により処分時に存在した法律関係ないし
法律状態が遡及的に消滅した場合において,裁判所が変動後の事実状態
に基づいて事実の変動前に行われた処分を取り消す判断を行うのは,抗
告訴訟が行政処分に対する事後審査の制度であるという抗告訴訟の本
質に反することから,ここでは,以下の各処分の取消しによって,機械
的累積加重処分の方針の前提が遡及的に失われたことを問題としてい
るものではなく,都教委において,本件各処分をするに当たって考慮さ
れた先行する懲戒処分の情状の軽重についての評価・判断を誤っていた
というべきことを指摘するものである。)。
①原告P12に対する平成16年4月6日付け減給10分の1・1
月の処分
②原告P12に対する平成17年3月31日付け減給10分の1・6
月の処分
③原告P13に対する平成18年3月31日付け減給10分の1・1
月の処分
④原告P15に対する平成18年3月31日付け減給10分の1・1
月の処分
⑤原告P17に対する平成17年5月27日付け減給10分の1・1
月の処分
⑥原告P20に対する平成17年3月31日付け減給10分の1・1
月の処分
⑦原告P26に対する平成18年5月26日付け減給10分の1・1
月の処分
(キ)これらの事情を総合考慮しても,本件原告らに対する本件各処分
のうち,減給処分以上の処分を内容とする懲戒処分については,当該
処分によって課される不利益との権衡にかんがみると,当該処分を選
択することについての相当性を基礎付ける具体的事情は認めることが
できないのであって,処分量定に関する裁量権の逸脱・濫用の違法が
あるというべきであって,取消しを免れない。
エところで,原告らは,本件規則改訂により,戒告処分に伴う昇給及び勤
勉手当に係る不利益の程度が,本件規則改訂前における減給処分に伴うこ
れらの不利益の程度よりも大きなものとなり,当該事情にかんがみれば,
本件規則改訂後の本件各処分においては,戒告処分も含めて裁量権の逸
脱・濫用が認められるべき旨主張する。
確かに,本件規則改訂前は,戒告・減給処分を受けた者については,昇
給を三月延伸するとされていたところ,本件規則改訂後においては,昇給
が毎年1回4月のみとされ,その際,通常に勤務していれば四号給昇給の
ところ,戒告・減給処分を受けた場合には二号給減となったために二号給
しか昇給せず,昇給幅が半分になる結果として,昇給の六月延伸と同様の
状態となったこと,また,本件規則改訂前は,戒告処分を受けた者につい
ては勤勉手当10パーセント減額,減給処分を受けた者については勤勉手
当15パーセント減額とされていたが,本件規則改訂により,戒告処分を
受けた者については勤勉手当20パーセント減額,減給処分を受けた者に
ついては勤勉手当35パーセント減額とされたこと,その結果,本件規則
改訂後においては,戒告処分により,昇給及び勤勉手当について,本件規
則改訂前に減給処分を受けた場合よりも大きな不利益を受けていることが
認められる(甲C51,52,甲D58)。
しかしながら,これらの昇給及び勤勉手当の不利益は,戒告処分自体に
よる不利益ではなく,昇給及び勤勉手当について定めた規則上の取扱いに
よるものであり,当該事情が,戒告処分の選択に係る都教委の裁量権の逸
脱・濫用を基礎付けるものとはいえないことは,本件規則改訂前と同様で
あり,これに反する原告らの前記主張は採用することができない。
(15)原告らの国家賠償法1条1項に基づく慰謝料等請求権の有無
原告らは,違法な本件各処分を受けたことにより精神的苦痛を被ったとし
て,これに対する国家賠償法1条1項に基づく慰謝料の支払を求めている。
しかしながら,本件各処分のうち,戒告処分については,前述のとおりこ
れを違法であると認めることはできない。また,減給処分以上の本件各処分
については,前述のとおり,処分量定について裁量権の逸脱・濫用の違法が
あり,取り消されるべきものと認められるが,前記認定のとおり,本件通達
及び本件各職務命令が違法とはいえないこと,都教委は,処分量定に関する
機械的累積加重処分の方針に従って減給以上の各処分をしたものであるとこ
ろ,処分量定の加重を定めた上記方針自体が不当なものとはいえないこと,
前記(14)イ(カ)のとおり被告の機械的累積加重処分の方針の基礎となった過
去の懲戒処分が実際に取り消され,それらについての処分量定に係る評価・
判断に問題のあることを確実に認識したのは本件各処分のされた後であると
考えられること等からすれば,減給処分以上の本件各処分を行った時点にお
いて,都教委がこれらの本件各処分を選択したことについて,職務上尽くす
べき注意義務を怠ったものと評価することは相当ではなく,この点について
都教委に国家賠償法上の過失があったとは認められない。
以上によれば,原告らの慰謝料請求に係る主張は理由がなく,弁護士費用
相当の損害賠償請求に係る主張も理由がない。
第5結論
よって,原告らの請求は主文第1項記載の限度で理由があるからその限度で
認容し,その余の請求はいずれも理由がないからこれらを棄却することとし,
主文のとおり判決する。
東京地方裁判所民事第11部
裁判長裁判官佐々木宗啓
裁判官湯川克彦
裁判官戸畑賢太
別紙3
経歴一覧表
1原告P46
原告P46は,昭和58年4月1日付けで東京都公立学校教員に任命され,平
成17年4月1日から東京都立P55高等学校教諭として勤務していた。
2原告P1
原告P1は,昭和51年4月1日付けで東京都公立学校教員に任命され,平成
16年4月1日から東京都立P44高等学校教諭として勤務していたところ,平
成21年3月31日付けで退職した。
3原告P47
原告P47は,昭和61年4月1日付けで東京都公立学校教員に任命され,平
成14年4月1日から東京都立P56高等学校教諭として勤務していた。
4原告P48
原告P48は,昭和56年4月1日付けで東京都公立学校教員に任命され,平
成16年4月1日から東京都立P57高等学校教諭として勤務していた。
5原告P49
原告P49は,昭和63年4月1日付けで東京都公立学校教員に任命され,平
成16年4月1日から東京都立P58高等学校教諭として勤務していた。
6原告P2
原告P2は,昭和48年4月16日付けで東京都公立学校教員に任命され,平
成11年4月1日から東京都立P59高等学校教諭として勤務していたところ,
平成20年3月31日付けで退職した。
7原告P50
原告P50は,平成5年4月1日付けで東京都公立学校教員に任命され,平成
16年4月1日から東京都立P60養護学校教諭として勤務していた。
8原告P34
原告P34は,昭和51年4月1日付けで東京都公立学校教員に任命され,平
成17年4月1日から東京都立P61高等学校教諭として勤務していたところ,
その後,口頭弁論終結時までの間に退職した。
9原告P28
原告P28は,昭和51年4月1日付けで東京都公立学校教員に任命され,平
成14年4月1日から東京都立P62高等学校教諭として勤務していたところ,
平成19年3月31日付けで退職した。
10原告P51
原告P51は,昭和56年4月1日付けで東京都公立学校教員に任命され,平
成13年4月1日から東京都立P63高等学校教諭として勤務していた。
11原告P52
原告P52は,昭和54年4月1日付けで東京都公立学校教員に任命され,平
成15年4月1日から東京都立P64高等学校教諭として勤務していた。
12原告P53
原告P53は,平成3年4月1日付けで東京都公立学校教員に任命され,平成
14年4月1日から東京都立P65高等学校教諭として勤務していた。
13原告P3
原告P3は,昭和52年4月1日付けで東京都公立学校教員に任命され,平成
16年4月1日から東京都立P66高等学校教諭として勤務していた。
14原告P4
原告P4は,昭和60年4月1日付けで東京都公立学校教員に任命され,平成
16年4月1日から東京都立P67高等学校教諭として勤務していた。
15原告P29
原告P29は,昭和45年4月1日付けで東京都公立学校教員に任命され,平
成14年4月1日から東京都立P56高等学校教諭として勤務していたところ,
平成19年3月31日に退職した。
16原告P5
原告P5は,昭和56年4月1日付けで東京都公立学校教員に任命され,平成
11年4月1日から東京都立P68高等学校教諭として勤務していたところ,そ
の後,口頭弁論終結時までの間に退職した。
17原告P35
原告P35は,昭和50年4月1日付けで東京都公立学校教員に任命され,平
成16年4月1日から東京都立P69高等学校教諭として勤務していたところ,
その後,口頭弁論終結時までの間に退職した。
18原告P36
原告P36は,昭和56年4月1日付けで東京都公立学校教員に任命され,平
成18年4月1日から東京都立P70高等学校教諭として勤務していたところ,
その後,口頭弁論終結時までの間に退職した。
19原告P37
原告P37は,昭和52年4月1日付けで東京都公立学校教員に任命され,平
成14年4月1日から東京都立P71高等学校教諭として勤務していたところ,
その後,口頭弁論終結時までの間に退職した。
20原告P38
原告P38は,平成6年4月1日付けで東京都公立学校教員に任命され,平成
18年4月1日から東京都立P72養護学校教諭として勤務していたところ,そ
の後,口頭弁論終結時までの間に退職した。
21原告P30
原告P30は,昭和49年4月1日付けで東京都公立学校教員に任命され,平
成17年4月1日から東京都立P73高等学校教諭として勤務していたところ,
平成21年3月31日付けで退職した。
22原告P6
原告P6は,昭和59年4月1日付けで東京都公立学校教員に任命され,平成
15年4月1日から東京都立P74高等学校教諭として勤務していたところ,そ
の後,口頭弁論終結時までの間に退職した。
23原告P7
原告P7は,昭和60年4月1日付けで東京都公立学校教員に任命され,平成
17年4月1日から東京都立P75高等学校教諭として勤務していたところ,そ
の後,口頭弁論終結時までの間に退職した。
24原告P8
原告P8は,昭和52年4月1日付けで東京都公立学校教員に任命され,平成
17年4月1日から東京都立P43高等学校教諭として勤務していたところ,平
成22年3月31日付けで退職した。
25原告P9
原告P9は,昭和53年4月1日付けで東京都公立学校教員に任命され,平成
11年4月1日から東京都立P76高等学校教諭として勤務していたところ,そ
の後,口頭弁論終結時までの間に退職した。
26原告P10
原告P10は,昭和46年4月1日付けで東京都公立学校教員に任命され,平
成15年4月1日から東京都立P77高等学校教諭として勤務していたところ,
平成20年3月31日付けで退職した。
27原告P11
原告P11は,昭和59年4月1日付けで東京都公立学校教員に任命され,平
成13年4月1日から東京都立P76高等学校教諭として勤務していた。
28原告P12
原告P12は,昭和54年4月1日付けで東京都公立学校教員に任命され,平
成17年4月1日から東京都立P45養護学校(平成20年4月1日に「東京都
立P78特別支援学校」に校名を変更。)教諭として勤務していたところ,その後,
口頭弁論終結時までの間に退職した。
29原告P31
原告P31は,昭和45年4月1日付けで東京都公立学校教員に任命され,平
成17年4月1日から東京都立P79高等学校教諭として勤務していたところ,
平成19年3月31日に退職した。
30原告P13
原告P13は,昭和62年4月1日付けで東京都公立学校教員に任命され,平
成19年4月1日から東京都立P80高等学校教諭として勤務していた。
31原告P14
原告P14は,平成8年4月1日付けで東京都公立学校教員に任命され,同日
から東京都立P81高等学校教諭として勤務していた。
32原告P15
原告P15は,昭和55年4月1日付けで東京都公立学校教員に任命され,平
成18年4月1日から東京都立P77高等学校教諭として勤務していたところ,
平成21年3月31日に退職した。
33原告P39
原告P39は,昭和53年4月1日付けで東京都公立学校教員に任命され,平
成18年4月1日から東京都立P82高等学校教諭として勤務していたところ,
その後,口頭弁論終結時までの間に退職した。
34原告P16
原告P16は,昭和54年4月1日付けで東京都公立学校教員に任命され,平
成18年4月1日から東京都立P83高等学校教諭として勤務していた。
35原告P40
原告P40は,昭和50年9月1日付けで東京都公立学校栄養職員に任命され,
平成16年4月1日から東京都立P61高等学校栄養士として勤務していたとこ
ろ,その後,口頭弁論終結時までの間に退職した。
36原告P54
原告P54は,昭和60年4月1日付けで東京都公立学校教員に任命され,平
成19年4月1日から東京都立P84高等学校教諭として勤務していた。
37原告P41
原告P41は,昭和51年4月1日付けで東京都公立学校教員に任命され,平
成17年4月1日から東京都立P85高等学校教諭として勤務していたところ,
その後,口頭弁論終結時までの間に退職した。
38原告P17
原告P17は,昭和42年4月1日付けで東京都公立学校教員に任命され,平
成16年4月1日から東京都立P86高等学校教諭として勤務していたところ,
平成22年3月31日に退職した。
39原告P32
原告P32は,昭和50年4月1日付けで東京都公立学校教員に採用され,平
成16年4月1日から東京都立P87高等学校教諭として勤務していたところ,
平成20年3月31日付けで退職した。
40原告P18
原告P18は,昭和48年4月1日付けで東京都公立学校教員に採用され,平
成17年4月1日から東京都立P88高等学校教諭,平成20年4月1日から東
京都立P89高等学校教諭としてそれぞれ勤務していたところ,その後,口頭弁
論終結時までの間に退職した。
41原告P33
原告P33は,昭和47年4月1日付けで東京都公立学校教員に採用され,平
成17年4月1日から東京都立P90高等学校教諭として勤務していたところ,
平成20年3月31日付けで退職した。
42原告P19
原告P19は,昭和49年4月1日付けで東京都公立学校教員に採用され,平
成15年4月1日から東京都立P59高等学校教諭として勤務していたところ,
平成21年3月31日付けで退職した。
43原告P20
原告P20は,昭和51年4月1日付けで東京都公立学校教員に任命され,平
成17年4月1日から東京都立P73高等学校教諭として勤務していたところ,
平成20年3月31日に退職した。
44原告P21
原告P21は,昭和62年4月1日付けで東京都公立学校教員に採用され,平
成17年4月1日から東京都立P91高等学校教諭,平成21年4月1日から東
京都立P55高等学校教諭としてそれぞれ勤務していた者である。
45原告P22
原告P22は,昭和53年4月1日付けで東京都公立学校教員に任命され,平
成13年4月1日から東京都立P92高等学校教諭として勤務していた。
46原告P23
原告P23は,平成元年4月1日付けで東京都公立学校教員に任命され,平成
17年4月1日から東京都立P79高等学校教諭として勤務していた。
47原告P24
原告P24は,昭和55年4月1日付けで東京都公立学校教員に採用され,平
成18年4月1日から東京都立P93高等学校教諭として勤務していた。
48原告P25
原告P25は,昭和53年1月16日付けで東京都公立学校教員に採用され,
平成19年4月1日から東京都立P60養護学校(平成20年4月1日に「東京
都立P94特別支援学校」に校名を変更。)教諭として勤務していたところ,平成
22年3月31日付けで退職した。
49原告P42
原告P42は,平成3年4月1日付けで東京都公立学校教員に採用され,平成
19年4月1日から東京都立P95高等学校教諭として勤務していた。
50原告P26
原告P26は,昭和60年4月1日付けで東京都公立学校教員に採用され,平
成18年4月1日から東京都立P96高等学校教諭として勤務していた。
以上
別紙4
懲戒事由一覧表
1原告P46
東京都立P55高等学校P97校長は,平成19年2月28日午後4時25分
頃,職員会議において,原告P46を含む教職員に対し,同年3月13日に行わ
れる同校第59回卒業式において,国歌斉唱の際は,式場内の指定された席で起
立し,国歌を斉唱するよう口頭で職務命令を発した。そして,同原告は,同年2
月28日午後4時35分頃,前記卒業式において,国歌斉唱の際には,会場の指
定された席で起立し,国歌を斉唱するということが記載された同校長からの職務
命令書を受け取った。
平成19年3月13日,同校体育館で開催された同校第59回卒業式において,
同原告は,同校長から前記職務命令を受けていたにもかかわらず,同日午前10
時頃,国歌斉唱時に起立しなかった。
2原告P1
(1)P44高等学校創立30周年記念式典において
東京都立P44高等学校P98校長は,平成18年9月27日午後4時頃,
同校大会議室で行われた職員会議において,原告P1を含む教職員に対し,同
年11月18日に実施予定の同校創立30周年記念式典において,実施要項の
係分担に従って実施すること,国歌斉唱の際は起立し,国歌を斉唱するよう口
頭により職務命令を発した。P98校長は,同年11月16日午後4時頃及び
同月17日午前8時35分頃,同原告に対し,前記式典において,国歌斉唱の
際には,ピアノ伴奏するようにとの内容が記載された職務命令書を手渡そうと
したが,同原告は,いずれの機会にも受取を拒否したことから,同月17日,
P98校長は,職務命令書の読み上げを行なった。
平成18年11月18日,同校体育館で開催された同校前記式典において,
同原告は,前記式典における国歌斉唱の際には,ピアノ伴奏するようにとのP
98校長の職務命令を受けていたにもかかわらず,同日午後2時頃,同原告は,
ピアノ伴奏を行わなかった。
(2)平成18年度P44高等学校卒業式において
P98校長は,平成19年2月14日午後4時25分頃,同校大会議室で行
われた職員会議において,原告P1を含む教職員に対し,同年3月9日に実施
予定の平成18年度同校卒業式では,実施要項の係分担に従って実施するよう
にという職務命令を口頭で発した。P98校長は,平成19年3月6日午後4
時15分頃,同原告に対し,前記卒業式において,国歌斉唱の際には,ピアノ
伴奏するようにとの内容が記載された職務命令書を手渡したところ,同原告は
いったん同書面を受け取り,その内容を確認したものの,直後に返却した。
平成19年3月9日,同校体育館で開催された卒業式において,同原告は,
国歌斉唱の際には,ピアノ伴奏するようにとのP98校長の職務命令を受けて
いたにもかかわらず,同日午前9時50分頃,ピアノ伴奏を行わなかった。
(3)平成20年度P44高等学校卒業式において
P98校長は,平成21年2月16日午後2時50分頃,同校大会議室で行
なわれた職員会議において,教職員に対し,平成21年3月6日に実施予定の
平成20年度同校卒業式において係分担に従って職務を遂行するようにとい
う包括的職務命令を出したが,原告P1は,平成21年2月16日,年次有給
休暇を取得しており,職員会議には欠席していたことから,同月17日午後3
時40分頃,同校音楽準備室において,同校P99副校長から,同年2月16
日の職員会議で発出された卒業式にかかわる包括的職務命令を含む職員会議
資料を点検して受領した。P98校長は,同年2月25日午後0時20分頃,
同原告に対し,個別の職務命令書を示し,前記卒業式において国歌斉唱のピア
ノ伴奏をするように口頭にて命令したが,同原告は個別の職務命令書の受取を
拒否した。同年3月6日午前8時30分頃,同原告は,P99副校長が同原告
の机上に置いた個別の職務命令書を,P98校長不在の校長席に返却した。
平成21年3月6日,同校体育館で開催された前記卒業式において,同原告
は,国歌斉唱の際には,ピアノ伴奏するようにとのP98校長の職務命令を受
けていたにもかかわらず,同日午前10時5分頃,ピアノ伴奏を行わなかった。
3原告P47
東京都立P56高等学校P100校長は,平成19年2月22日午後5時20
分頃,同校会議室で行われた職員会議において,原告P47を含む教職員に対し,
同年3月4日に行われる同校第59回卒業式において,国歌斉唱の際は,式場内
の指定された席で起立し,国歌を斉唱するよう,口頭により職務命令を発しよう
とした際,同原告は同会議室を退室した。同原告は,同年2月28日午後4時4
0分頃,前記卒業式において,国歌斉唱の際には,会場の指定された席で起立し,
国歌を斉唱するということが記載された同校長からの職務命令書の受取を拒否し
たことから,同職務命令書を机上に置くので,同月29日午前10時までに必ず
読んでおくように指示された。同年3月2日午後2時45分頃,同教諭は,同校
長に対し,前記職務命令書の内容は認識している旨述べた。
平成19年3月4日,同校体育館で開催された第59回卒業式において,同原
告は,同校長から前記職務命令を受けていたにもかかわらず,同日午後2時頃,
国歌斉唱時に起立せず,同校副校長から起立するよう指示を受けて起立した後直
ちに着席するなどした。
4原告P48
東京都立P57高等学校P101校長は,平成19年3月7日午前8時40分
頃,同校P102副校長をして,原告P48に対し,同校職員室において,同月
9日実施予定の同校平成18年度全日制課程第59回卒業式の際に,国歌斉唱に
当たっては,会場の指定された席で,国旗に向かって起立し,国歌を斉唱するこ
と,また,着席の指示があるまで起立していることという職務命令書を交付した。
平成19年3月9日,同校体育館で開催された同校平成18年度全日制課程第
59回卒業式において,同原告は,同校長から職務命令を受けていたにもかかわ
らず,同日午前10時頃,国歌斉唱時に起立しなかった。
5原告P49
東京都立P58高等学校P103校長は,平成19年2月21日午後5時10
分頃,教職員連絡会において,原告P49を含む教職員に対し,同年3月9日に
行われる同校平成18年度卒業式では,同卒業式実施要領どおり行うことと口頭
により職務命令を発した。そして,同原告は,平成19年3月6日午後4時10
分頃,前記卒業式において,国歌斉唱の際には,会場の指定された席で起立し,
国歌を斉唱するということが記載された同校長からの職務命令書を受け取った。
平成19年3月9日,同校体育館で開催された同校平成18年度卒業式におい
て,同原告は,同校長から前記職務命令を受けていたにもかかわらず,同日午前
10時頃,国歌斉唱時に起立しなかった。
6原告P2
東京都立P59高等学校P104校長は,平成19年2月28日午後4時45
分頃,同校会議室で行われた職員会議において,原告P2を含む教職員に対し,
同年3月8日に行われる同校平成18年度第59回卒業式について,同卒業式実
施要項に基づき実施することという職務命令を口頭で発した。そして,同原告は,
平成19年3月2日午後5時10分頃,同校社会科資料室において,前記卒業式
について,式場において,会場の指定された席で国旗に向かって起立して国歌を
斉唱することという同校長からの職務命令書を受け取った。
平成19年3月8日,同校体育館で開催された同校平成18年度第59回卒業
式において,同原告は,同校長から前記職務命令を受けていたにもかかわらず,
同日午前10時5分頃,国歌斉唱時に起立しなかった。
7原告P50
東京都立P60養護学校P105校長は,平成18年11月8日午後3時50
分頃,同校職員室で行われた職員会議において,原告P50を含む教職員に対し,
同校平成18年度小学部,中学部及び高等部の卒業式において,国歌斉唱の際に
は,会場の指定された席で起立し,国歌を斉唱することという職務命令を口頭で
発した。そして,同原告は,平成19年3月8日午前8時40分頃,同校校長室
において,前記卒業式において,式典会場において,会場の指定された席で国旗
に向かって起立して国歌を斉唱することという同校長からの職務命令書を受け取
った。
平成19年3月16日,同校体育館で開催された同校平成18年度高等部第2
8回卒業式において,同原告は,同校長から前記職務命令を受けていたにもかか
わらず,同日午前9時40分頃,国歌斉唱時に起立しなかった。また,同月20
日,同校体育館で開催された同校平成18年度中学部第33回卒業式においても,
同原告は,同校長から前記職務命令を受けていたにもかかわらず,同日午前9時
45分頃,国歌斉唱時に起立しなかった。
8原告P34
東京都立P61高等学校P106校長は,平成19年2月28日午後10時1
0分頃,原告P34に対し,同校定時制課程職員室隣室において,同年3月3日
に行われる同校第59回卒業式において,国歌斉唱の際は起立し,国歌を斉唱す
るよう口頭により職務命令を発し,同様の内容の職務命令書を手渡そうとされた
が,受取を拒否された。
平成19年3月3日,同校体育館で開催された同校第59回卒業式において,
同原告は,同校長から前記職務命令を受けていたにもかかわらず,同日午後6時
35分頃,国歌斉唱時に起立しなかった。
9原告P28
東京都立P107高等学校P108校長は,平成19年2月15日午後4時4
0分頃,職員会議において,原告P28を含む教職員に対し,同年3月10日に
行われる同校平成18年度第41回卒業式において,国歌斉唱の際は,起立して
国歌を斉唱するよう,口頭により職務命令を発した。そして,同原告は,平成1
9年2月26日午後4時30分頃,前記卒業式において,国歌斉唱の際には,会
場の指定された席で起立し,国歌を斉唱するということが記載された同校長から
の職務命令書を受け取った。
平成19年3月10日,同校体育館で開催された同校平成18年度第41回卒
業式において,同原告は,同校長から前記職務命令を受けていたにもかかわらず,
同日午後6時頃,国歌斉唱時に起立しなかった。
10原告P51
東京都立P63高等学校P109校長は,平成19年2月7日午後4時50分
頃,同校定時制職員室で行われた職員会議において,原告P51を含む教職員に
対し,同校平成18年度定時制課程第59回卒業式は,平成15年10月23日
付けの本件通達及び平成18年3月13日付けの「入学式,卒業式等における国
旗掲揚及び国歌斉唱の指導について(通達)」に基づき適正に行うようにという職
務命令を口頭で発した。そして,同原告は,平成19年3月6日午後8時15分
頃,同校定時制職員室において,前記卒業式において,式典会場の指定された席
で,国旗に向かって起立し国歌を斉唱することという同校長からの職務命令書を
受け取った。
平成19年3月9日,財団法人P110ホールで開催された同校平成18年度
定時制課程第59回卒業式において,同原告は,同校長から前記職務命令を受け
ていたにもかかわらず,同日午後6時15分頃,国歌斉唱時に起立しなかった。
11原告P52
東京都立P64高等学校P111校長は,平成19年2月21日午後4時30
分頃,同校会議室で行われた職員会議において,原告P52を含む教職員に対し,
同年3月10日に行われる同校平成18年度全日制課程第56回卒業式において,
国歌斉唱の際は,国旗に向かって起立し国歌を斉唱することという職務命令を口
頭で発した。そして,同原告は,平成19年2月21日午後4時40分頃,同会
議室において,前記卒業式の国歌斉唱の際は,卒業式会場において,会場の指定
された席で国旗に向かって起立して国歌を斉唱することという同校長からの職務
命令書を受け取った。
平成19年3月10日,同校体育館で開催された同校平成18年度全日制課程
第56回卒業式において,同原告は,同校長から前記職務命令を受けていたにも
かかわらず,同日午前10時5分頃,国歌斉唱時に起立しなかった。
12原告P53
東京都立P65高等学校P112校長は,平成19年2月21日午後3時40
分頃,同校会議室で行われた職員会議において,原告P53を含む教職員に対し,
同年3月10日に行われる同校平成18年度第31回卒業式では,同卒業式実施
要項及び個人別職務命令に基づき職務の遂行及び学習指導要領に基づいた指導を
行うようにとの包括的な職務命令を口頭で発した。そして,同原告は,平成19
年3月5日午前11時25分頃,同校校長室において,前記卒業式において,指
定された席で国旗に向かって起立して国歌を斉唱すること,着席の指示があるま
で起立していることという同校長からの職務命令書を受け取った。
平成19年3月10日,同校体育館で開催された同校平成18年度第31回卒
業式において,同原告は,同校長から前記職務命令を受けていたにもかかわらず,
同日午前10時5分頃,国歌斉唱時に起立しなかった。
13原告P3
東京都立P66高等学校P113校長は,平成19年2月28日午後1時15
分頃,同校会議室で行われた職員会議において,原告P3を含む教職員に対し,
同年3月20日に行われる同校平成18年度第4回卒業式について,都教委から
の通達及び同校の実施要項に従って実施するようにとの包括的な職務命令を口頭
で発した。そして,同原告は,平成19年3月13日午前10時頃,同校会議室
において,前記卒業式では,国歌斉唱の際は,国旗に向かって起立して国歌を斉
唱することという同校長からの職務命令書を受け取った。
平成19年3月20日,同校体育館で開催された同校平成18年度第4回卒業
式において,同原告は,同校長から前記職務命令を受けていたにもかかわらず,
同日午後2時頃,国歌斉唱時に起立しなかった。
14原告P4
東京都立P67高等学校P114校長は,平成19年2月16日午後4時45
分頃,職員会議において,原告P4を含む教職員に対し,同年3月7日に行われ
る同校定時制課程平成18年度第54回卒業証式において,国歌斉唱の際は,式
場内の指定された席で起立し,国歌を斉唱するよう,口頭により職務命令を発し
た。そして,同原告は,平成19年2月28日午後4時45分頃,前記卒業式に
おいて,国歌斉唱の際には,会場の指定された席で起立し,国歌を斉唱するとい
うことが記載された同校長からの職務命令書を受け取った。
平成19年3月7日,同校体育館で開催された同校平成18年度第54回卒業
式において,同原告は,同校長から前記職務命令を受けていたにもかかわらず,
同日午後6時35分頃,国歌斉唱時に起立しなかった。
15原告P29
東京都立P56高等学校P100校長は,平成19年2月22日午後5時20
分頃,同校会議室で行われた職員会議において,原告P29を含む教職員に対し,
同年3月4日に行われる同校第59回卒業式において,国歌斉唱の際は,式場内
の指定された席で起立し,国歌を斉唱するよう,口頭により職務命令を発しよう
としたが,その際,同原告は同会議室を退室した。そして,同原告は,同年2月
28日午後3時25分頃,前記卒業式において,国歌斉唱の際には,会場の指定
された席で起立し,国歌を斉唱するということが記載された同校長からの職務命
令書の受取を拒否した。その後,同原告は,同年3月1日午後5時10分頃,同
校校長室において,前記卒業式において,国歌斉唱の際には,会場の指定された
席で起立し,国歌を斉唱するということが記載された同校長からの職務命令書を
受け取った。
平成19年3月4日,同校体育館で開催された同校第59回卒業式において,
同原告は,同校長から前記職務命令を受けていたにもかかわらず,同日午後2時
頃,国歌斉唱時に起立しなかった。
16原告P5
東京都立P68高等学校P115校長は,平成19年2月5日午後4時50分
頃,職員会議において,原告P5を含む教職員に対し,同年3月14日に行われ
る同校定時制課程平成18年度第59回卒業式において,都教委通達等に基づく
卒業式実施要項どおりに卒業式を実施すること,国歌斉唱の際は,式場内の指定
された席で起立し,国歌を斉唱するよう,口頭により職務命令を発した。そして,
同原告は,平成19年3月6日午前11時頃,前記卒業式において,国歌斉唱の
際には,会場の指定された席で起立し,国歌を斉唱するということが記載された
同校長からの職務命令書を提示されたが,受取を拒否したため,同校長は,同原
告の机上に同文書を置き,内容を確認するように言った。
平成19年3月14日,同校多目的ホールで開催された同校定時制課程平成1
8年度第59回卒業式において,同原告は,同校長から前記職務命令を受けてい
たにもかかわらず,同日午後6時35分頃,国歌斉唱時に起立しなかった。
17原告P35
東京都立P69高等学校P116校長は,平成19年2月21日午後3時50
分頃,職員会議において,原告P35を含む教職員に対し,同年3月3日に行わ
れる同校第28回卒業式において,国歌斉唱の際は,式場内の指定された席で起
立し,国歌を斉唱するよう口頭により職務命令を発した。そして,同原告は,同
年2月26日午後0時35分頃,前記卒業式において,国歌斉唱の際には,会場
の指定された席で起立し,国歌を斉唱するということが記載された同校長からの
職務命令書を受け取った。
平成19年3月3日,同校体育館で開催された同校第28回卒業式において,
同原告は,同校長から前記職務命令を受けていたにもかかわらず,同日午前10
時5分頃,国歌斉唱時に起立しなかった。
18原告P36
東京都立P70高等学校P117校長は,平成19年2月14日午後3時55
分頃,同校社会科室で行われた職員会議において,原告P36を含む教職員に対
し,同年3月10日に行われる同校第46回卒業式の国歌斉唱時には,指定され
た席で国旗に向かって起立し,国歌を斉唱することという職務命令を口頭で発し
た。そして,同原告は,同月8日午前10時35分頃,同校校長室において,前
記卒業式において,式典会場において,会場の指定された席で国旗に向かって起
立し,国歌を斉唱することという同校長からの職務命令書を受け取った。
平成19年3月10日,同校体育館で開催された同校第46回卒業式において,
同原告は,同校長から前記職務命令を受けていたにもかかわらず,同日午前10
時頃,国歌斉唱時に起立しなかった。
19原告P37
東京都立P71高等学校P118校長は,平成19年2月28日午後5時頃,
職員会議において,原告P37を含む教職員に対し,同年3月10日に行われる
同校平成18年度第29回卒業式では,国歌斉唱の際は,式場内の指定された席
で起立し,国歌を斉唱するよう口頭により職務命令を発した。そして,同原告は,
平成19年3月5日正午頃,前記卒業式では,国歌斉唱の際は,会場の指定され
た席で起立し,国歌を斉唱するということが記載された同校長からの職務命令書
を受け取った。
平成19年3月10日,同校体育館で開催された同校第29回卒業式において,
同原告は,同校長から前記職務命令を受けていたにもかかわらず,同日午前10
時5分頃,国歌斉唱時に起立しなかった。
20原告P38
東京都立P72養護学校P119校長は,平成19年3月14日午後4時20
分頃,同校食堂で行われた同校の全校連絡会において,原告P38を含む教職員
に対して,同月22日に行われる同校平成18年度第11回小学部・中学部卒業
式では,国歌斉唱の際,式典会場において,会場の指定された席や位置で国旗に
向かって起立して,国歌を斉唱することという職務命令を口頭で発した。そして,
同原告は,平成19年3月14日午後4時45分頃,同食堂において,同校長の
命を受けた同校P120副校長から,前記卒業式では,式典会場において,会場
の指定された席や位置で国旗に向かって起立して,国歌を斉唱することという同
校長からの職務命令書を受け取った。
平成19年3月22日,同校体育館で開催された同校平成18年度第11回小
学部・中学部卒業式において,同原告は,同校長から前記職務命令を受けていた
にもかかわらず,同日午前9時40分頃,国歌斉唱時に起立しなかった。
21原告P30
東京都立P73高等学校P121校長は,平成19年2月14日午後4時5分
頃,職員会議において,原告P30を含む教職員に対し,同年3月7日に行われ
る同校第57回卒業式において,国歌斉唱の際は,式場内の指定された席で起立
し,国歌を斉唱するよう,口頭により職務命令を発した。そして,同原告は,同
月1日午後1時45分頃,前記卒業式において,国歌斉唱の際には,会場の指定
された席で起立し,国歌を斉唱するということが記載された同校校長からの職務
命令書を受け取った。
平成19年3月7日,同校体育館で開催された同校第57回卒業式において,
同原告は,同校校長から前記職務命令を受けていたにもかかわらず,同日午前9
時55分頃,国歌斉唱時に起立しなかった。
22原告P6
東京都立P74高等学校P122校長は,平成19年2月21日午後3時40
分頃,職員会議において,原告P6を含む教職員に対し,同年3月7日に行われ
る同校第59回卒業式において,国歌斉唱の際は,式場内の指定された席で起立
し,国歌を斉唱するよう,口頭により職務命令を発した。そして,同原告は,同
年2月27日午前9時35分頃,前記卒業式において,国歌斉唱の際は,式場内
の指定された席で起立し,国歌を斉唱するということが記載された同校長からの
職務命令書を受け取った。
平成19年3月7日,同校体育館で開催された同校第59回卒業式において,
同原告は,同校長から前記職務命令を受けていたにもかかわらず,同日午前10
時5分頃,国歌斉唱時に起立しなかった。
23原告P7
東京都立P75高等学校P123校長は,平成19年2月14日午後3時10
分頃,職員会議において,原告P7を含む教職員に対し,同年3月2日に行われ
る同校第42回卒業式において,実施要項に従って職務を遂行するよう口頭によ
り職務命令を発した。そして,同原告は,同年2月27日午前8時50分頃,前
記卒業式において,国歌斉唱の際には,会場の指定された席で起立し,国歌を斉
唱するということが記載された同校校長からの職務命令書を受け取った。
平成19年3月2日,同校体育館で開催された同校第42回卒業式において,
同原告は,同校長から前記職務命令を受けていたにもかかわらず,同日午前10
時5分頃,国歌斉唱時に起立しなかった。
24原告P8
東京都立P43高等学校P124校長は,平成19年2月7日午後4時10分
頃,職員会議において,原告P8を含む教職員に対し,同年3月10日に行われ
る同校平成18年度卒業式において,国歌斉唱の際は,起立して国歌を斉唱する
よう口頭により職務命令を発した。そして,同原告は,平成19年3月9日午後
1時15分頃,前記卒業式において,国歌斉唱の際は,起立して国歌を斉唱する
よう記載された同校校長からの職務命令書を同校校長から読み上げられ,同命令
書を提示されたが,その受領をしなかったので,同校長は,同命令書を同原告の
机上に置き,同日中に読んでおくよう指示した。
平成19年3月10日,同校体育館で開催された同校平成18年度卒業式にお
いて,同原告は,同校長から前記職務命令を受けていたにもかかわらず,同日午
前10時5分頃,国歌斉唱時に起立しなかった。
25原告P9
東京都立P76高等学校P125校長は,平成19年3月6日午後5時35分
頃,職員会議において,原告P9を含む教職員に対し,同月12日に行われる同
校第58回定時制課程卒業式において,国歌斉唱の際は,式場内の指定された席
で起立し,国歌を斉唱するよう口頭により職務命令を発した。そして,同校長は,
同月8日午後2時55分頃,同原告に対し,前記卒業式において,国歌斉唱の際
は,式場内の指定された席で起立し,国歌を斉唱するということが記載された職
務命令書を交付しようとしたが,同原告が受取を拒否したため,同校長は,同命
令書を同原告の机上に置いた。
平成19年3月12日,同校視聴覚室で開催された同校第58回定時制課程卒
業式において,同原告は,同校長から前記職務命令を受けていたにもかかわらず,
同日午後6時5分頃,国歌斉唱時に起立しなかった。
26原告P10
東京都立P77高等学校P126校長は,平成19年2月21日午後3時50
分頃,同校会議室で行われた職員会議において,原告P10を含む教職員に対し,
同年3月13日に行われる同校第58回卒業式(全日制課程)において,国歌斉
唱の際は,会場の指定された席で国旗に向かって起立し国歌を斉唱することとい
う職務命令を口頭で発した。そして,同原告は,同月9日午前10時30分頃,
同校職員室において,前記卒業式において,国歌斉唱の際は,会場の指定された
席で国旗に向かって起立し国歌を斉唱することという内容が記載された同校長か
らの職務命令書を受け取った。
平成19年3月13日,同校体育館で開催された同校第58回卒業式(全日制
課程)において,同原告は,同校長から前記職務命令を受けていたにもかかわら
ず,同日午前10時頃,国歌斉唱時に起立しなかった。
27原告P11
東京都立P76高等学校P125校長は,平成19年2月21日午後4時頃,
職員会議において,原告P11を含む教職員に対し,同年3月9日に行われる同
校平成18年度第59回卒業式において,国歌斉唱の際は,式場内の指定された
席で起立し,国歌を斉唱するよう口頭により職務命令を発した。そして,同原告
は,平成19年3月7日午前8時55分頃,前記卒業式において,国歌斉唱の際
は,式場内の指定された席で起立し,国歌を斉唱するという内容が記載された同
校長からの職務命令書を受け取った。
平成19年3月9日,同校体育館で開催された同校平成18年度第59回卒業
式において,同原告は,同校長から前記職務命令を受けていたにもかかわらず,
同日午前10時5分頃,国歌斉唱時に起立しなかった。
28原告P12
⑴東京都立P45養護学校平成18年度卒業式において
東京都立P45養護学校P127校長は,平成19年3月7日午後4時50
分頃,同校職員室で行われた職員会議において,原告P12を含む同校の教職
員に対し,同校平成18年度卒業式において,国歌斉唱の際は,国旗に向かっ
て起立し,国歌を斉唱することという包括的職務命令を口頭により発した。そ
の後,同校P128副校長は,同校長の命を受けて,同原告に対し,前記卒業
式において,国歌斉唱の際は,国旗に向かって起立し,国歌を斉唱するという
内容が記載された職務命令書を渡そうとしたが,同原告は受取を拒否した。平
成19年3月15日午前8時35分頃,職員室において行われた同原告も参加
している職員朝会で,同校長は,同原告に対する前記職務命令書を口頭で読み
上げ,同原告の机上に同命令書を置いたが,同原告は,同日午前8時50分頃,
同命令書を職員室内の同副校長の机上に戻した。同月19日午後0時30分頃,
同副校長は,同校長の指示を受け,職員室内の同原告の机上に同命令書を置い
た。さらに,同月22日午前8時25分頃,同校長は,職員室内において,同
原告に対し,前記同旨の職務命令を口頭により発した。
平成19年3月22日午前9時35分頃,同原告は,同校体育館で行われた
同校平成18年度卒業式において,同校長から前記職務命令を受けていたにも
かかわらず,卒業式の国歌斉唱の際に起立しなかった。
⑵東京都立P78特別支援学校平成20年度卒業式において
東京都立P78特別支援学校P129校長は,平成21年3月11日午後4
時50分頃,同校職員室で行なわれた職員会議において,原告P12を含む教
職員に対し,同校平成20年度中学部卒業式では,国旗に向かって起立し,国
歌を斉唱することという職務命令を口頭で発した。その後,同原告は,同校P
130副校長から,前記卒業式では,国旗に向かって起立し,国歌を斉唱する
ことという内容が記載された職務命令書を交付されたが,その受取を拒否した。
同原告は,その後も,平成21年3月18日午後5時13分頃,同19日午前
8時40分頃,同日午後2時35分頃,同日午後2時37分頃,同日午後3時
45分頃及び同日午後5時45分頃と,同校長又は同校長の指示を受けた同副
校長らから同命令書を交付しようとされたが,いずれも受領拒否又は同命令書
の返却を行った。
平成21年3月23日午前9時30分頃,同校体育館で行われた同校平成2
0年度中学部卒業式において,同原告は,同校長から前記職務命令を受けてい
たにもかかわらず,国歌斉唱の際に起立しなかった。
29原告P31
東京都立P79高等学校P131校長は,平成19年2月21日午後5時50
分頃,同校会議室で行われた職員会議において,原告P31を含む教職員に対し,
同年3月9日に行われる同校第33回卒業式において,実施要項,進行要領に基
づいて行動するよう口頭により包括的職務命令を発した。そして,同原告は,同
年2月28日午後3時50分頃,同校会議室において,前記卒業式では,式典会
場において,指定された席で国旗に向かって起立して国歌を斉唱すること,着席
の指示があるまで起立していることという同校長からの職務命令書を受け取った。
平成19年3月9日,同校体育館で開催された同校第33回卒業式において,
同原告は,同校長から前記職務命令を受けていたにもかかわらず,同日午前10
時10分頃,国歌斉唱時に起立しなかった。
30原告P13
東京都立P80高等学校P132校長は,平成19年4月2日午後2時20分
頃,同校会議室で行われた転入者打合せ会において,原告P13を含む転入教職
員に対し,同月9日に行われる同校平成19年度入学式に関する職務命令を口頭
で発するとともに,同入学式の実施要項を配布し,職務に専念するよう述べた。
そして,同原告は,同年4月5日午前10時30分頃,同校校長室において,前
記入学式では,式場において,指定された席で国旗に向かって起立し,国歌を斉
唱すること,着席の指示により着席することという同校長からの職務命令書を受
け取った。
平成19年4月9日,同校体育館で開催された同校平成19年度入学式におい
て,同原告は,同校長から前記職務命令を受けていたにもかかわらず,同日午前
10時頃,国歌斉唱時に起立しなかった。
31原告P14
東京都立P81高等学校P133校長は,平成19年3月19日午後6時45
分頃,同校会議室で行われた職員会議において,原告P14を含む教職員に対し,
同年4月9日に行われる同校平成19年度入学式において,国歌斉唱の際は国旗
に向かって起立し,国歌を斉唱することという職務命令を口頭で発した。そして,
同原告は,同年3月20日午前11時40分頃,同校校長室において,前記入学
式につき,式典会場において,会場の指定された席で国旗に向かって起立し,国
歌を斉唱することという同校長からの職務命令書を受け取った。
平成19年4月9日,東京都教職員研修センター視聴覚ホールで開催された同
校平成19年度入学式において,同原告は,同校長から前記職務命令を受けてい
たにもかかわらず,同日午前10時頃,国歌斉唱時に起立しなかった。
32原告P15
東京都立P77高等学校P126校長は,平成19年3月22日午後4時5分
頃,同校校長室で行われた職員会議において,原告P15を含む教職員に対し,
同年4月11日に行われる同校定時制課程平成19年度入学式において,国歌斉
唱の際は,会場内の指定された席で国旗に向かって起立し,国歌を斉唱すること
という職務命令を口頭で発した。そして,同原告は,同年4月9日午後5時頃,
同校職員室において,同校P134校長から,前記入学式において,国歌斉唱の
際は,会場内の指定された席で国旗に向かって起立し,国歌を斉唱することとい
う内容が記載された職務命令書を受け取った。
平成19年4月11日,同校視聴覚室で開催された同校定時制課程平成19年
度入学式において,同原告は,同校長から前記職務命令を受けていたにもかかわ
らず,同日午後6時20分頃,国歌斉唱時に起立しなかった。
33原告P39
東京都立P82高等学校P135校長は,平成19年3月14日午後3時10
分頃,同校視聴覚室で行われた職員会議において,原告P39を含む教職員に対
し,同年4月9日に行われる同校平成19年度第45回入学式において,国歌斉
唱の際は,学習指導要領,入学式・卒業式等における国旗掲揚及び国歌斉唱の実
施についての通達及び同校入学式実施要項に従い適正に行動することという包括
的職務命令を口頭で発した。そして,同原告は,同年3月23日午後0時20分
頃,同校校長室において,前記入学式において,式場の指定された席で国旗に向
かって起立して国歌を斉唱することという同校長からの職務命令書を受け取った。
平成19年4月9日,同校体育館で開催された同校平成19年度第45回入学
式において,同原告は,同校長から前記職務命令を受けていたにもかかわらず,
同日午前10時5分頃,国歌斉唱時に起立しなかった。
34原告P16
東京都立P83高等学校P136校長は,平成19年3月20日午後4時10
分頃,同校会議室で行われた職員会議において,原告P16を含む教職員に対し,
同年4月9日に行われる同校平成19年度第37回入学式では,国歌斉唱の際に,
起立して国歌を斉唱することという職務命令を口頭で発した。そして,同原告は,
同年3月22日午後4時25分頃,同校校長室において,前記入学式において,
国歌斉唱時は会場の指定された席で国旗に向かって起立し,国歌を斉唱すること
という同校長からの職務命令書を受け取った。
平成19年4月9日,同校体育館で開催された同校平成19年度第37回入学
式において,同原告は,同校長から前記職務命令を受けていたにもかかわらず,
同日午前10時40分頃,国歌斉唱時に起立しなかった。
35原告P40
東京都立P61高等学校P106校長は,平成19年3月23日午後4時40
分頃,職員会議において,原告P40を含む教職員に対し,同年4月10日に行
われる同校定時制課程平成19年度入学式において,国歌斉唱の際は,式場内の
指定された席で起立し,国歌を斉唱するよう口頭により職務命令を発した。そし
て,同原告は,同年3月28日午後2時頃,前記入学式において,国歌斉唱の際
は,式場内の指定された席で起立し,国歌を斉唱するという内容が記載された同
校長からの職務命令書を受け取った。
平成19年4月10日,同校食堂で開催された同校定時制課程平成19年度入
学式において,同原告は,同校長から前記職務命令を受けていたにもかかわらず,
同日午後6時5分頃,国歌斉唱時に起立しなかった。
36原告P54
東京都立P84高等学校P137校長は,平成20年2月28日午前9時35
分頃,原告P54に対し,同年3月13日に行われる同校平成19年度第60回
卒業式において,国歌斉唱の際は,式場内の指定された席で国旗に向かって起立
し,国歌を斉唱するよう口頭により職務命令を発した。そして,同原告は,前記
卒業式において,定められた実施要項に基づいて,国歌斉唱の際には,式場内の
指定された席で起立し,国歌を斉唱するということが記載された同校長からの職
務命令書を受け取った。
平成20年3月13日,同校体育館で開催された同校平成19年度第60回卒
業式において,同原告は,同校長から前記職務命令を受けていたにもかかわらず,
同日午前10時頃,国歌斉唱時に起立しなかった。
37原告P41
東京都立P85高等学校P138校長は,平成20年2月13日午後4時15
分頃,職員会議において,原告P41を含む教職員に対し,同年3月4日に行わ
れる同校平成19年度第30回卒業式において,国歌斉唱の際は,指定された席
で起立し,国歌を斉唱するよう口頭により職務命令を発した。そして,同原告は,
平成20年2月24日午後4時30分頃,前記卒業式において,国歌斉唱の際は,
指定された席で起立し,国歌を斉唱するという内容が記載された同校長からの職
務命令書を受け取った。
平成20年3月4日,同校体育館で開催された同校平成19年度第30回卒業
式において,同原告は,同校長から前記職務命令を受けていたにもかかわらず,
同日午前10時5分頃,国歌斉唱時に起立しなかった。
38原告P17
東京都立P86高等学校P139校長は,平成20年2月20日午後4時50
分頃,職員会議において,原告P17を含む教職員に対し,同年3月8日に行わ
れる同校平成19年度全日制課程卒業式において,同卒業式実施要領に記載され
た事項に基づいて厳正に実施するよう,口頭により職務命令を発した。そして,
同原告は,平成20年3月7日午後6時頃,前記卒業式において,国歌斉唱の際
には,会場の指定された席で起立し,国歌を斉唱するということが記載された同
校長からの職務命令書を受け取った。
平成20年3月8日,同校体育館で開催された同校平成19年度全日制課程卒
業式において,同原告は,同校長から前記職務命令を受けていたにもかかわらず,
同日午前10時5分頃,国歌斉唱時に起立しなかった。
39原告P32
東京都立P87高等学校P140校長は,平成20年2月22日午後5時20
分頃,同校定時制課程職員室で行なわれた職員会議において,原告P32を含む
教職員に対し,同年3月7日に実施する同校平成19年度定時制卒業式において,
本件通達及び本件実施指針,平成18年3月13日付け都教委教育長通達及び同
校校長が決定する本件卒業書授与式実施要項等に従って職務を適正に遂行するこ
とという職務命令を口頭で発した。そして,平成20年2月27日午後5時45
分頃,同校長は,同校定時制課程職員室において,同原告に対し,前記卒業式に
おいて,国歌斉唱の際は,式典会場の指定された席で国旗に向かって起立して国
歌を斉唱するようにとの内容の職務命令を文書で行った。
平成20年3月7日,同校大会議室で開催された同校平成19年度定時制卒業
式において,同原告は,同校長から前記職務命令を受けていたにもかかわらず,
同日午後5時35分頃,指定された自席を離れて会場である大会議室を退出し,
国歌斉唱が終了するまで会場に戻らなかった。
40原告P18
東京都立P88高等学校P141校長は,平成20年2月27日午後6時5分
頃,同校大会議室で行われた職員会議において,原告P18を含む教職員に対し,
同年3月1日に実施される平成19年度卒業式においては,国歌斉唱の際,式場
内の指定された席で,国旗に向かって起立し,国歌を斉唱するように口頭で職務
命令を発した。そして,平成20年2月27日午後6時15分頃,同校長は,同
大会議室において,同原告に対し,前記同旨の職務命令を文書で行った。
平成20年3月1日午前10時頃,同校体育館で開催された平成19年度卒業
式において,同原告は,前記職務命令を受けていたにもかかわらず,国歌斉唱時
に起立しなかった。
41原告P33
東京都立P90高等学校P142校長は,平成20年2月13日午後3時40
分頃,同校会議室で行なわれた職員会議において,原告P33を含む教職員に対
し,同年3月7日に実施される同校平成19年度卒業式では,実施要項に従って
職務を遂行するとともに,式場内の指定された席で起立し,国歌を斉唱するよう
に口頭で職務命令を発した。そして,同校長は,平成20年2月25日午後5時
5分頃,同校校長室において,同原告に対し,前記卒業式について,式典会場に
おいて会場の指定された席に開始時前に着席し,国旗に向かって起立して国歌を
斉唱すること,着席の指示があるまで起立していることとの内容の職務命令を文
書で行った。
平成20年3月7日,同校体育館で開催された同校平成19年度卒業式におい
て,同原告は,同校長から前記職務命令を受けていたにもかかわらず,同日午前
10時5分頃,国歌斉唱時に起立しなかった。
42原告P19
(1)東京都立P59高等学校平成19年度卒業式において
東京都立P59高等学校P104校長は,平成20年2月6日午後5時55
分頃,同校会議室で行なわれた職員会議において,原告P19を含む教職員に
対し,同年3月11日に実施予定の同校平成19年度卒業式は,卒業式,入学
式等に関する通達・通知に基づき実施要項のとおり実施するとの職務命令を口
頭で発した。そして,P104校長は,平成20年2月4日午後1時40分頃,
同校国語科準備室において,同原告に対し,前記卒業式においては,国歌斉唱
の際に,式場において会場の指定された席で,国旗に向かって起立して国歌を
斉唱することとの内容の職務命令を文書で行った。
平成20年3月11日,同校体育館で開催された同校平成19年度卒業式に
おいて,同原告は,P104校長から前記職務命令を受けていたにもかかわら
ず,同日午前10時5分頃,国歌斉唱時に起立しなかった。
(2)東京都立P59高等学校平成20年度卒業式において
P104校長は,平成21年2月18日午後5時頃,同校会議室で行なわれ
た職員会議において,原告P19を含む教職員に対し,同年3月11日に実施
予定の同校平成20年度卒業式は,前記卒業式の実施要項に基づき実施するこ
ととの職務命令を口頭で発した。そして,P104校長は,平成21年2月2
6日午後1時5分頃,同校会議室で行なわれた職員会議において,同原告を含
む教職員に対し,前記卒業式では,同卒業式実施要項に基づいて実施し,特に
国歌斉唱の際には,式場において,会場の指定された席で,国旗に向かって起
立して国歌を斉唱することという職務命令を口頭で発した。また,P104校
長は,同年3月5日午後1時40分頃,同校国語科準備室において,同原告に
対し,前記卒業式においては,国歌斉唱の際に,式場において,会場の指定さ
れた席で,国旗に向かって起立して国歌を斉唱することという職務命令を文書
で発した。
平成21年3月11日,同校体育館で開催された同校平成20年度卒業式に
おいて,同原告は,P104校長から前記職務命令を受けていたにもかかわら
ず,同日午前10時5分頃,国歌斉唱の際に起立しなかった。
43原告P20
東京都立P73高等学校P121校長は,平成20年2月27日午後4時20
分頃,職員会議において,原告P20を含む教職員に対し,同年3月12日に行
われる同校平成19年度第58回卒業式において,国歌斉唱の際は,式場内の指
定された席で起立し,国歌を斉唱するよう口頭により職務命令を発した。そして,
同原告は,平成20年3月5日午後0時5分頃,前記卒業式において,国歌斉唱
の際は,式場内の指定された席で起立し,国歌を斉唱するという内容が記載され
た同校長からの職務命令書を受け取った。
平成20年3月12日,同校体育館で開催された同校平成19年度第58回卒
業式において,同原告は,同校長から受けた前記職務命令に反し,同日午前10
時頃,国歌斉唱時に起立しなかった。
44原告P21
東京都立P91高等学校のP143校長は,平成20年2月6日午後4時40
分頃,同校大会議室で行なわれた職員会議において,原告P21を含む教職員に
対し,同校平成19年度卒業式において,国歌斉唱時には定められた席で,国旗
に向かって起立し,国歌を斉唱することという職務命令を口頭で発した。そして,
同校長は,平成20年2月28日午前11時頃,同校家庭科準備室において,同
原告に対し,前記卒業式において,国歌斉唱時には定められた席で,国旗に向か
って起立し,国歌を斉唱することという内容の職務命令を文書で行った。
平成20年3月8日,同校体育館で開催された同校平成19年度卒業式におい
て,同原告は,同校長から前記職務命令を受けていたにもかかわらず,同日午前
10時5分頃,国歌斉唱時に起立しなかった。
45原告P22
東京都立P92高等学校P144校長は,平成20年2月21日午後4時10
分頃,職員会議において,原告P22を含む教職員に対し,同年3月16日に行
われる同校平成19年度第43回卒業式において,同卒業式実施要領に基づいて
卒業式を実施するよう,口頭により職務命令を発した。そして,同原告は,平成
20年3月6日午後3時40分頃,前記卒業式において,国歌斉唱の際には会場
の指定された席で起立し,国歌を斉唱するということが記載された同校長からの
職務命令書を受け取った。
平成20年3月11日,同校体育館で開催された同校平成19年度第43回卒
業式において,同原告は,同校長からの前記職務命令を受けていたにもかかわら
ず,同日午前10時5分頃,国歌斉唱時に起立しなかった。
46原告P23
東京都立P79高等学校P131校長は,平成20年2月6日午後4時20分
頃,職員会議において,原告P23を含む教職員に対し,同年3月11日に行わ
れる同校平成19年度第34回卒業式において,国歌斉唱の際は,式場内の指定
された席で起立し,国歌を斉唱するよう,また,実施要項に基づいて卒業生を指
導するよう口頭により職務命令を発した。そして,同原告は,平成20年2月2
0日午後4時40分頃,前記卒業式において,国歌斉唱の際は,式場内の指定さ
れた席で起立し,国歌を斉唱するという内容が記載された同校長からの職務命令
書を受け取った。
平成20年3月11日,同校体育館で開催された同校平成19年度第34回卒
業式において,同原告は,同校長から前記職務命令を受けていたにもかかわらず,
同日午前10時10分頃,国歌斉唱時に起立しなかった。
47原告P24
東京都立P93高等学校のP145校長は,平成20年3月18日午後3時3
5分頃,同校会議室で行なわれた職員会議において,原告P24を含む教職員に
対し,同年4月8日に実施される同校平成20年度入学式では,入学式の実施要
項に従い適正に実施するよう口頭で職務命令を発した。そして,同年3月18日
午後4時15分頃,同校長は,同会議室において,同原告に対し,本件入学式に
おいて,国歌斉唱の際は,会場において,指定された席で国旗に向かって起立し
て国歌を斉唱することとの内容の職務命令を文書で行った。
平成20年4月8日,同校体育館で開催された同校平成20年度入学式におい
て,同原告は,同校長から前記職務命令を受けていたにもかかわらず,同日午前
9時55分頃,国歌斉唱時に起立しなかった。
48原告P25
(1)東京都立P94特別支援学校平成20年度入学式において
東京都立P94特別支援学校P146校長は,平成20年4月4日午後2時
40分頃,同校職員室において行われた職員会議で,原告P25を含む教職員
に対し,同月8日に行われる同校平成20年度小学部・中学部入学式において,
国歌斉唱の際,会場の指定された席で国旗に向かって起立し,国歌を斉唱する
よう口頭により職務命令を発した。そして,同原告は,同年4月4日午後2時
45分頃,同校職員室において,P146校長から,前記入学式において,前
記国歌斉唱の際,会場の指定された席で国旗に向かって起立し,国歌を斉唱す
るという内容が記載された職務命令書を渡されたが,受取を拒否したので,P
146校長が,同命令書を読み上げた上,同校P147副校長が同命令書を原
告の机上にテープで貼った。
平成20年4月8日,同校体育館で行われた同校平成20年度小学部・中学
部入学式において,同原告は,P146校長から前記職務命令を受けていたに
もかかわらず,同日午前9時40分頃,国歌斉唱時に起立しなかった。
(2)東京都立P94特別支援学校平成20年度卒業式において
P146校長は,平成21年3月9日午後4時30分頃,同校職員室で行な
われた職員会議において,教職員に対し,同月24日に実施予定の同校平成2
0年度小学部卒業式では,通達及び実施要項に基づき適正に実施することとい
う職務命令を文書で発出したが,原告P25は,同時刻には年次有給休暇を取
得しており,前記職員会議を欠席していた。そこで,P147副校長は,平成
21年3月10日午後3時頃及び同月17日午後2時頃,同原告に対し,職務
命令書を同校校長室に取りに行くよう指示したが,同原告は受取を拒否した。
P146校長は,同月18日午前8時20分頃,同原告に対し,前記職務命令
書を渡そうとしたが,同原告が受取を拒否したので,P146校長は,後で職
員室の同原告の机上に貼りますので読みなさいと指示し,同日午前8時40分
頃,P147副校長は,同校職員室で同原告に対し,前記職務命令書の貼付場
所を告げた上で,同原告の机上に前記職務命令書をテープで貼った。同月24
日午前8時30分頃,P146校長は,同校職員室で行われた職員朝会におい
て,同原告を含む教職員に対し,前記卒業式では職務命令に従い適正に実施す
ることという包括的職務命令を口頭で発した。
平成21年3月24日,同校体育館で行われた同校平成20年度小学部卒業
式において,同原告は,P146校長から前記職務命令を受けていたにもかか
わらず,同日午前9時48分頃,国歌斉唱時に起立しなかった。
(3)東京都立P94特別支援学校平成21年度入学式において
P146校長は,平成21年4月3日午前9時頃,職員室で行われた職員会
議において,原告P25を含む教職員に対し,同月7日の同校平成21年度小
学部・中学部入学式では,国歌斉唱の際,式典会場において,会場の指定され
た席で国旗に向かって起立して国歌を斉唱することという職務命令を口頭で
発した。同原告は,職員会議後にP147副校長が同旨の内容が記載された職
務命令書を渡そうとした際,受取を拒否した。同年4月6日午後1時20分頃,
P147副校長は,同校職員室において,同原告に対し,前記職務命令書を渡
したが,同原告が受取を拒否したため,貼付場所を告げた上で,同原告の机上
に前記職務命令書をテープで貼付した。同月7日午前8時30分頃,P146
校長は,同校職員室で行われた職員朝会において,同原告を含む教職員に対し,
前記入学式について,職務命令に従って実施するようにとの職務命令を口頭で
発した。
平成21年4月7日,同校体育館で行われた同校平成21年度小学部・中学
部入学式において,同原告は,P146校長から前記職務命令を受けていたに
もかかわらず,同日午前9時45分頃,国歌斉唱時に起立しなかった。
49原告P42
東京都立P95高等学校のP148校長は,平成21年2月16日午後3時1
0分頃,同校会議室で行なわれた職員会議において,原告P42を含む教職員に
対し,同年3月4日に実施する同校平成20年度卒業式においては,卒業式の実
施に関する通達,通知,学習指導要領に基づいて,実施要項通りに実施すること
という職務命令を口頭で発した。そして,平成21年3月2日午後1時55分頃,
同校長は,同校校長室において,同原告に対し,本件卒業式では式典会場におい
て,会場の指定された席で国旗に向かって起立して国歌を斉唱してくださいとい
う内容の職務命令を文書で発した。
平成21年3月4日,同校体育館で行われた同校平成20年度卒業式において,
同原告は,同校長から前記職務命令を受けていたにもかかわらず,午前10時1
分頃,国歌斉唱時に起立しなかった。
50原告P26
東京都立P96高等学校のP149校長は,平成21年2月18日午後4時3
0分頃,同校大会議室で行なわれた職員会議において,教職員に対し,同年3月
10日に実施予定の同校平成20年度卒業式では,国歌斉唱の際に,平成18年
3月13日付教育長通達及びその実施指針に従って,職務を遂行することを命じ
る旨の包括的職務命令を口頭で発したが,原告P26は,週休日の振替日のため,
前記職員会議を欠席していた。同校長は,平成21年3月3日午前10時頃,同
校職員室において,同原告に対し,前記卒業式では,式典会場において,指定さ
れた席で国旗に向かって起立して国歌を斉唱することを命じる旨の職務命令を文
書で行った。
平成21年3月10日,同校体育館で開催された同校平成20年度卒業式にお
いて,同原告は,同校長から前記職務命令を受けていたにもかかわらず,同日午
前10時頃,国歌斉唱時に起立しなかった。
以上
別紙5
処分歴一覧表
1原告P1
原告P1は,東京都立P44高等学校校長から,平成17年2月9日,平成1
7年度入学式において,本件通達の実施指針に沿って行うことという職務命令を
口頭で受け,同年3月25日,同入学式においては,国歌斉唱の際に定められた
楽譜によりピアノ伴奏することという職務命令を文書により受けていたところ,
同年4月7日の同入学式において,前記職務命令に反し,国歌斉唱の際にピアノ
伴奏を行わなかったことから,都教委より同年5月27日付けで戒告処分を受け
た。
2原告P2
原告P2は,東京都立P59高等学校校長から,同校の平成16年度入学式
に先立ち,口頭及び文書により同入学式の国歌斉唱時に起立して斉唱すること
という職務命令を受けていたところ,平成16年4月7日の同入学式の国歌斉
唱時に,前記職務命令に反して起立しなかったことから,都教委より同年5月
25日付けで戒告処分を受けた。
3原告P3
原告P3は,東京都立P82高等学校校長から,平成15年11月7日,同
校創立30周年記念式典(周年行事)において,国歌斉唱時に起立して斉唱す
ることという職務命令を口頭及び文書で受けていたところ,同月8日の同式典
において,国歌斉唱時に前記職務命令に反して起立しなかったことから,都教
委より平成16年2月17日付けで戒告処分を受けた。
4原告P4
原告P4は,東京都立P150高等学校校長から,同校の平成15年度卒業
式に先立ち,同卒業式の国歌斉唱時に起立して斉唱することという職務命令を口
頭及び文書で受けていたところ,平成16年3月9日の同卒業式の国歌斉唱時に,
前記職務命令に反して起立しなかったことから,都教委より同月31日付けで戒告
処分を受けた。
5原告P5
原告P5は,東京都立P68高等学校の平成15年度卒業式に先立ち,同校
校長から口頭及び文書にて同卒業式の国歌斉唱時に起立して斉唱することとい
う職務命令を受けたところ,平成16年3月16日の同卒業式の国歌斉唱の際,
前記職務命令に反して起立しなかったことから,都教委より同月31日付けで
戒告処分を受けた。
6原告P6
原告P6は,東京都立P74高等学校における平成16年度入学式に先立ち,
同校校長から口頭及び文書により同入学式の国歌斉唱時に起立して斉唱するこ
とという職務命令を受けていたところ,平成16年4月7日の同入学式の国歌斉
唱時に,前記職務命令に反して起立しなかったことから,都教委より同年5月25
日付けで戒告処分を受けた。
7原告P7
原告P7は,東京都立P151高等学校の平成15年度卒業式に先立ち,同
校校長から口頭及び文書により同卒業式の国歌斉唱時に起立して斉唱すること
という職務命令を受けていたところ,平成16年3月6日の同卒業式の国歌斉
唱時に,前記職務命令に反して起立しなかったことから,都教委より同月31
日付けで戒告処分を受けた。
8原告P8
原告P8は,東京都立P152高等学校の平成16年度卒業式に先立ち,同
校校長から口頭及び文書により同卒業式の国歌斉唱時に起立して斉唱すること
という職務命令を受けたところ,平成17年3月9日の同卒業式の国歌斉唱の
際,前記職務命令に反して起立しなかったことから,都教委より同月31日付
けで戒告処分を受けた。
9原告P9
原告P9は,東京都立P76高等学校の平成15年度卒業式に先立ち,同校
校長から口頭及び文書により同卒業式の国歌斉唱時に起立して斉唱することと
いう職務命令を受けたところ,平成16年3月12日の同卒業式の国歌斉唱の
際,前記職務命令に反して起立しなかったことから,都教委より同月31日付
けで戒告処分を受けた。
10原告P10
原告P10は,東京都立P77高等学校における平成16年度入学式に先立
ち,同校校長から口頭及び文書により同入学式の国歌斉唱時に起立して斉唱す
ることという職務命令を受けたところ,平成16年4月7日の同入学式の国歌
斉唱時に,前記職務命令に反して起立しなかったことから,都教委より同年5
月25日付けで戒告処分を受けた。
11原告P11
原告P11は,東京都立P76高等学校の平成16年度入学式に先立ち,同
校校長から口頭及び文書により同入学式の国歌斉唱時に起立して斉唱すること
という職務命令を受けたところ,平成16年4月7日の同入学式の国歌斉唱の
際,前記職務命令に反して起立しなかったことから,都教委より同年5月25
日付けで戒告処分を受けた。
12原告P12
(1)原告P12は,平成14年4月5日の東京都立P153養護学校における
同年度入学式において,同入学式開始前の同日午前9時25分ころ,同校校
長からブラウスの上に上着を着用するよう口頭で職務命令を受けたところ,
前記職務命令に反し,①右胸に縦約10センチメートル,横約15センチメ
ートルの黒の枠を,また,その枠内の中央に直径約3センチメートルの塗り
つぶした赤い丸を描き,この絵柄に向かって左上から右下方向に黒色の斜線
を入れた模様を手書きするとともに,②背中に直径約20センチメートルの
ハートの絵柄に鎖を描いた模様等を手書きしたブラウスを着用したまま,上
着を着用せずに同入学式に臨んだことから,都教委より同年11月6日付け
で戒告処分を受けた。
(2)原告P12は,東京都立P153養護学校の平成15年度卒業式に先立ち,
同校校長から口頭及び文書により国歌斉唱時に起立する旨の職務命令を受け
ていたところ,平成16年3月24日の同卒業式において,国歌斉唱時に前記
職務命令に反して起立しなかったことから,都教委より同年4月6日付けで減
給10分の1・1月の処分を受けた。
なお,前記減給10分の1・1月の処分については,同原告に対する本件
各処分の後に確定判決により取り消されている。
(3)原告P12は,東京都立P153養護学校の平成16年度卒業式に先立ち,
同校校長から同卒業式において国歌斉唱時に起立して斉唱することという職
務命令を受けていたところ,平成17年3月24日の同校小学部の卒業式にお
いて,国歌斉唱の際に前記職務命令に反して起立しなかったことから,都教委
より同月31日付けで減給10分の1・6月の処分を受けた。
なお,前記減給10分の1・6月の処分については,同原告に対する本件
各処分の後に確定判決により取り消されている。
13原告P13
(1)原告P13は,東京都立P82高等学校の創立40周年記念式典(周年行
事)に先立ち,同校校長から口頭及び文書により同式典において国歌斉唱時
に会場内の指定された席で起立し斉唱することという職務命令を受けていた
ところ,平成15年11月8日の同式典における国歌斉唱時に,前記職務命
令に反して自席を離れ,会場外に出たことから,都教委より平成16年2月
17日付けで戒告処分を受けた。
(2)原告P13は,東京都立P82高等学校の平成18年度卒業式に先立ち,同
校校長から口頭及び文書により同卒業式の国歌斉唱の際には起立して斉唱す
ることという職務命令を受けていたところ,平成18年3月10日の同卒業
式の国歌斉唱時に,前記職務命令に反して起立しなかったことから,都教委
より同月31日付けで減給10分の1・1月の処分を受けた。
なお,前記減給10分の1・1月の処分については,同原告に対する本件
各処分の後に確定判決により取り消され,平成25年12月17日に改めて
戒告処分となっている。
14原告P14
原告P14は,東京都立P81高等学校の平成15年度卒業式に先立ち,同
校校長から口頭及び文書により同卒業式の国歌斉唱時には起立して斉唱するこ
とという職務命令を受けていたところ,平成16年3月12日の同卒業式の国
歌斉唱時に,前記職務命令に反して起立しなかったことから,都教委より同月
31日付けで戒告処分を受けた。
15原告P15
(1)原告P15は,東京都立P154高等学校の平成15年度卒業式に先立ち,
同校校長から口頭及び文書により同卒業式の国歌斉唱時に起立して斉唱する
ことという職務命令を受けていたところ,平成16年3月10日の同卒業式
の国歌斉唱時に,前記職務命令に反して起立しなかったことから,都教委よ
り同月31日付けで戒告処分を受けた。
(2)原告P15は,東京都立P154高等学校の平成17年度卒業式に先立ち,
同校校長から口頭及び文書により同卒業式の国歌斉唱時に起立して斉唱する
ことという職務命令を受けていたところ,平成18年3月10日の同卒業式
の国歌斉唱時に,前記職務命令に反して起立しなかったことから,都教委よ
り同月31日付けで減給10分の1・1月の処分を受けた。
なお,前記減給10分の1・1月の処分については,同原告に対する本件各
処分の後に確定判決により取り消されている。
16原告P16
原告P16は,東京都立P155高等学校の平成15年度卒業式に先立ち,
同校校長から口頭及び文書により国歌斉唱の際に起立して斉唱することという
職務命令を受けていたところ,平成16年3月12日の同卒業式の国歌斉唱時
に,前記職務命令に反して起立しなかったことから,都教委より同月31日付
けで戒告処分を受けた。
17原告P17
(1)原告P17は,東京都立P86高等学校の平成16年度卒業式に先立ち,
同校校長から口頭及び文書により同卒業式の国歌斉唱時に起立して斉唱する
ことという職務命令を受けていたところ,平成17年3月11日の同卒業式
の国歌斉唱時に,前記職務命令に違反して起立しなかったことから,都教委
より同月31日付けで戒告処分を受けた。
(2)原告P17は,東京都立P86高等学校の平成17年度入学式に先立ち,
同校校長から同入学式の国歌斉唱時に起立して斉唱することという職務命令
を受けていたにもかかわらず,平成17年4月7日の同入学式の国歌斉唱時
に,校長の職務命令に違反して起立しなかったことから,都教委より同年5
月27日付けで減給10分の1・1月の処分を受けた。
なお,前記減給10分の1・1月の処分については,同原告に対する本件
各処分の後に確定判決により取り消されている。
18原告P18
原告P18は,東京都立P156高等学校の平成15年度卒業式に先立ち,同
校校長から口頭及び文書により同卒業式の国歌斉唱時には起立して斉唱するこ
とという職務命令を受けていたところ,平成16年3月3日の同卒業式の国歌
斉唱時に,前記職務命令に反して起立しなかったことから,都教委より同月3
1日付けで戒告処分を受けた。
19原告P19
原告P19は,東京都立P59高等学校の平成17年度入学式に先立ち,同
校校長から口頭及び文書により同入学式の国歌斉唱の際に起立して斉唱するこ
とという職務命令を受けていたところ,平成17年4月7日の同入学式の国歌
斉唱時に,前記職務命令に反して起立しなかったことから,都教委より同年5
月27日付けで戒告処分を受けた。
20原告P20
(1)原告P20は,東京都立P157高等学校の平成15年度卒業式に先立ち,
同校校長から口頭及び文書により同卒業式の国歌斉唱時に起立して斉唱する
ことという職務命令を受けていたところ,平成16年3月16日の同卒業式
の国歌斉唱時に,前記職務命令に反して起立しなかったことから,都教委よ
り同月31日付けで戒告処分を受けた。
(2)原告P20は,東京都立P157高等学校の平成16年度卒業式に先立ち,
同校校長から口頭及び文書により同卒業式の国歌斉唱時に起立して斉唱する
ことという職務命令を受けていたところ,平成17年3月17日の同卒業式
の国歌斉唱時に,前記職務命令に反して起立しなかったことから,都教委よ
り同月31日付けで減給10分の1・1月の処分を受けた。
なお,前記減給10分の1・1月の処分については,同原告に対する本件
各処分の後に確定判決により取り消されている。
21原告P21
原告P21は,東京都立P82高等学校の平成16年度入学式に先立ち,同
校校長から口頭及び文書により同入学式の国歌斉唱時には起立して斉唱するこ
とという職務命令を受けていたところ,平成16年4月の同入学式の国歌斉唱
時に,前記職務命令に反して起立しなかったことから,都教委より同年5月2
5日付けで戒告処分を受けた。
22原告P22
(1)原告P22は,東京都立P92高等学校の平成17年度入学式に先立ち,
同校校長から口頭及び文書により同入学式の国歌斉唱時に起立して斉唱する
ことという職務命令を受けたところ,平成17年4月7日の同入学式の国歌
斉唱の際に,前記職務命令に反して起立しなかったことから,都教委より同
年5月27日付けで戒告処分を受けた。
(2)前記戒告処分を受けた原告P22は,服務事故再発防止研修の受講を命じ
られたところ,平成17年7月21日の受講当日,教職員研修センター職員
から,ゼッケン等の着用は認められないので外すように告げられたものの,
強制反対,日の丸・君が代という内容が書かれたTシャツを着用して入室し
たことから,都教委より同年12月1日付けで戒告処分を受けた。
23原告P23
原告P23は,東京都立P154高等学校の平成15年度卒業式に先立ち,
同校校長から口頭及び文書により同卒業式の国歌斉唱時に起立して斉唱するこ
とという職務命令を受けたところ,平成16年3月5日の同卒業式の国歌斉唱
時に,前記職務命令に反して起立しなかったことから,都教委より同月31日
付けで戒告処分を受けた。
24原告P24
原告P24は,東京都立P158高等学校の平成17年度入学式に先立ち,
同校校長から口頭及び文書により同入学式の国歌斉唱時には起立して斉唱する
ことという職務命令を受けていたところ,平成17年4月の同入学式の国歌斉
唱時に,前記職務命令に反して起立しなかったことから,都教委により同年5
月27日付けで戒告処分を受けた。
25原告P26
(1)原告P26は,東京都立P159高等学校の平成17年度卒業式に先立ち,
同校校長から口頭及び文書により同卒業式の国歌斉唱時に起立して斉唱する
ことという職務命令を受けていたところ,平成18年3月9日の同卒業式の
国歌斉唱時に,前記職務命令に反して起立しなかったことから,都教委より
同月31日付けで戒告処分を受けた。
(2)原告P26は,東京都立P96高等学校の平成18年度入学式に先立ち,
同校校長より同入学式の国歌斉唱時に起立して斉唱することという職務命令
を受けていたところ,平成18年4月7日の同入学式の国歌斉唱時に,前記
職務命令に反して起立しなかったことから,都教委より同年5月26日付け
で減給10分の1・1月の処分を受けた。
なお,前記減給10分の1・1月の処分については,同原告に対する本件
各処分の後に確定判決により取り消され,平成25年12月17日に改めて
戒告処分となっている。
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