弁護士法人ITJ法律事務所

裁判例


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○ 主文
一 原判決中、控訴人の被控訴人名古屋市長に対する請求に関する部分を取り消
す。
二 控訴人の被控訴人名古屋市長に対する訴えを却下する。
三 控訴人の被控訴人愛知県公安委員会に対する控訴を棄却する。
四 控訴費用は控訴人の負担とする。
○ 事実
第一 当事者双方の求めた判決
一 控訴人
1 原判決を取り消す。
2 控訴人と被控訴人名古屋市長との間において、昭和四〇年九月二五日付公衆浴
場法二条一項の許可(指令衛環第一四一号)が控訴人に対し有効なることを確認す
る。
3 控訴人と被控訴人愛知県公安委員会との間において、同委員会は、控訴人が原
判決添付目録記載の建物において営む風俗営業等取締法四条の四の個室付浴場業に
ついて、同条の四第一、二項違反を理由とする営業停止命令権限を有しないことを
確認する。
4 訴訟費用は第一、二審とも被控訴人らの負担とする。
二 被控訴人ら
1 本件控訴を棄却する。
2 控訴費用は控訴人の負担とする。
第二 当事者双方の主張
次に訂正・付加するほか、原判決事実記載のとおりであるから、これを引用する。
(訂正)
一 原判決五枚目表四行目から八行目までを、「さらに浴場業の許可は自然人のみ
ならず法人にも与えられるものであるが、自然人の場合は死亡による人格の消滅は
必然的であるのに対し、法人の場合は法人格の消滅は必らず到来するというもので
はないから、亡Aの相続人である控訴人が風俗営業等取締法四条の四第三項の除外
規定の適用を受けられないとすることは、実質的には自然人と法人とを不当に差別
して取り扱う結果となり、憲法一四条に違反する措置であつて許されない。」と改
める。
二 原判決五枚目裏三行目から四行目にかけて「被告公安委員会も、本件許可は相
続されないとの見解をとつている。」とあるのを、「被控訴人公安委員会も、本件
許可は相続されず、かつ、控訴人には風俗営業等取締法四条の四第三項の規定は適
用されないとの見解をとつている。」と改める。
三 原判決六枚目裏六行目に「その余は争う。」とあるのを「その余は認める。」
と訂正する。
四 原判決一〇枚目表九行目から一〇行目にかけて「司法による過度の事前抑制を
求めるものである。」とあるのを、「もし、控訴人が勝訴判決を得ることによつ
て、行政が自主的に判断し、事実上刑事訴追の事前抑制を行うことを期待している
ものとすれば、それはもはや行政事件訴訟本来の目的を逸脱するものといわなけれ
ばならない。」と改める。
五 原判決一〇枚目裏二行目に「同二、三の事実は不知」とあるのを「同二の事実
のうち、営業許可を相続したことは不知、その余は認める。同三の事実は不知。」
と改める。
(控訴人の主張)
一 営業許可が対人的許可であるか対物的許可であるかは、許可の審査基準が専ら
営業者自身の知識、技能、経験、行状というがごとき人的要件に着眼して与えられ
るか、それとも専ら営業者が営業をなす場所、手段、施設というがごとき物的要件
に着眼して与えられるかによつてのみ判断されるべきものである。
しかるに、公衆浴場法二条一項は物的要件のみを審査基準としているから、本件許
可は対物許可である。従つて、本件建物等の浴場施設を相続により承継した控訴人
は本件許可の効果をも承継したものである。
ちなみに、公衆浴場法三条一項の措置、四条の拒否、五条二項の制止等は、これを
なす営業者に特殊の知識、技能、経験等がなければできないものではなく、同法七
条一項の規定も物的設備について適当な措置をとらないという違反に対する処分で
あつて、許可を受けた者の知識、技能、経験等の人的要素の欠落による処分ではな
い。従つて、これらの規定は本件許可が対人的許可であることの論拠とはなりえな
いし、同法一三条の規定もまた対人的規制をしたものとみることはできない。昭和
三五年五月二七日名古屋市公衆浴場法施行細則四条が公衆浴場営業につき相続があ
つた場合に相続人の氏名を届出るべき旨規定しているのは、公衆浴場法二条一項の
許可が当然承継されることを前提にしているものである。
二 ところで、風俗営業等取締法四条の四第三項の除外規定の適用を受けるために
は、同第一項の規定または第二項に基づく条例の規定が施行または適用される際に
現に公衆浴場法二条一項の許可を受けて個室付浴場業を営んでいる者(いわゆる既
得権者)であることが要件とされているから、右各規定の施行後に既得権者が死亡
した場合、その営業を相続した者において、被相続人の死亡による公衆浴場営業の
廃業届を出し、新たに自己名義で公衆浴場法二条一項の許可申請をなして許可を受
けたとしても、右除外規定の適用を受けえないことになる。従つて、公衆浴場法二
条一項の許可の効果が相続により相続人に承継されることが、相続人が右除外規定
の適用を受けるための要件になると解される。しかして、亡Aは右除外規定の適用
を受けて個室付浴場業を営んでいたものであるが、同人は昭和五〇年八月六日死亡
し、その相続人である控訴人は本件許可の効果を相続により承継したので、これが
確認を求める控訴人の被控訴人名古屋市長に対する本件訴えは訴えの利益があると
いうべきである。
なお、本件許可は前記のごとく対物的許可であつて相続の対象となりうる権利であ
るから、既得権者の中には本件許可の相続人である控訴人も当然に含まれるといわ
なければならない。もしこの主張が容れられないとすれば、昭和四一年一二月一九
日公布の風俗営業等取締法施行条例の一部を改正する愛知県条例第四一号(以下
「愛知県条例第四一号」という。)は、実質的には愛知県内全域を個室付浴場業の
禁止区域に指定したのと同一の結果をもたらすものであるから、それは法律によつ
て授権された範囲を著しく逸脱したものであり憲法九四条にも違反する。
(被控訴人名古屋市長)
一 本件許可は申請人が一定の施設を利用して公衆浴場業の営業を行うことをその
申請人に対する関係で許可するものである。従つて、物的施設は許可基準の一つで
あり、将来において右施設を取得すべき者に対してまで許可が包括的に与えられる
ものではない。名古屋市公衆浴場法施行細則四条は本件許可が承継されないことを
前提とした規定であり、同条二項は、相続の場合に相続人に対する許可があるまで
営業をなしえないということになると、浴場の利用者である公衆が不便を被むる等
の不都合が生ずるのをさけるため、一五日以内に相続人が申請すれば、当該申請に
対する処分があるまでの間は暫定的に営業を認めることにしたものである。
二 風俗営業等取締法四条の四第三項は善良の風俗を害する行為を防止するため個
室付浴場業を規制する必要性と右浴場業を営む者の財産権行使との間の調和をはか
つた規定であり、右浴場業の規制地域内における既設の施設については既得権者の
一代限りということにしてその漸減をねらつているものである。従つて、右規定に
基づき控訴人が相続した浴場施設は亡Aの死亡によりその営業を廃止すべき制約を
負わされているものであるが、右制約は公共の福祉のためやむをえない理由による
ものであつて、右営業廃止による損失は控訴人において当然受忍しなければならな
いものであり、これを補償する必要はないというべく、右規定は憲法二九条に違反
するものではない。
また、自然人であると法人であるとを問わず、その死亡や法人格の消滅という事実
の発生は各人または各法人ごとに時期を異にすることは免れず、そのためいわゆる
既得権の存続期間が人ごとに異なるという結果が生ずることはやむをえないものと
いうべく、これをもつて憲法一四条に違反するということはできない。
(被控訴人公安委員会)
一 公衆浴場法の各法条は、単に浴場の構造・設備の維持管理に関する営業者の行
為のみではなく、営業者が公衆浴場業を営むに当つてとるべき衛生措置等に関する
行為についても規制しているのであつて、この点から見ても、本件許可が対物的許
可ではないことが明らかである。名古屋市公衆浴場法施行細則四条は本件許可が承
継されないことを当然の前提とした規定である。
二 本件許可は一身専属的なものであり、一般的に財産権として把握すべきもので
はない。のみならず、財産権も公共の福祉による制約を受けるものであるところ、
個室付浴場業の実態に照らすと、これを全面禁止することこそ公共の福祉に適うも
のであるが、一方、現に設備を設けて営業を行つている者の利益を全く無視するこ
とも妥当とは解せられないので、その間の調整をはかるため全面禁止への経過措置
として風俗営業等取締法四条の四第三項の規定が置かれたものである。従つて、い
わゆる既得権者の中に相続人が含まれないからといつて憲法二九条に違反するとい
うことはできない。
また、控訴人は前記四条の四第三項によると自然人が法人に比し不利益な取扱を受
けることになるというが、元来、自然人と法人とをあらゆる面において同一に取り
扱うことは不可能であり、両者の間に若干の差異が生じたとしても、それを憲法一
四条違反として論難することは誤りである。
さらに、控訴人は愛知県条例第四一号は、法律の範囲をこえており憲法九四条に違
反するというが、右条例は県下市町村の人口密度、都市計画区域指定の有無、青少
年関係諸施設の有無及び人口七万以上の都市の中心部からの距離を総合検討して制
定されたもので、十分に合理性のあるものであり、違憲、違法を問われるようなも
のではない。
ところで、控訴人が相続した浴場施設である「トルコ泉」は人口稠密な名古屋市<
地名略>内にあり、その周辺二〇〇メートルの範囲内には風俗営業等取締法四条の
四第一項に規定する「その他の施設でその周辺における善良の風俗を害する行為を
防止する必要のあるもの」に該当する寺院が、また約二五〇メートルから約五〇〇
メートルの範囲内には右規定にいう「学校」に該当する幼稚園、小学校等の施設が
それぞれ存在している。このように、「トルコ泉」の存在する地域は同法四条の四
第二項にいう「善良の風俗を害する行為を防止する必要がある」地域にほかならな
いのであり、愛知県条例第四一号の制定の方針及び基準に何らかの問題があるとし
ても、少くとも控訴人は右条例の違憲、違法を主張し、その規制を免れうる立場に
はない。
第三 証拠関係(省略)
○ 理由
(被控訴人名古屋市長に対する請求について)
一 本訴は、被控訴人名古屋市長に対し公衆浴場法二条一項の許可(控訴人の先代
Aに与えられたものであること後記のとおりである。)が控訴人について有効であ
ることの確認を求めるものであるから、行政事件訴訟法三条四項の「処分の効力の
有無の確認を求める訴訟」(無効等確認の訴え)である。
ところで、同法三六条によれば、無効等確認の訴えを提起するためには、確認を求
めるにつき法律上の利益を有する者であることを要するところ、被控訴人名古屋市
長は本訴はその利益を欠くと主張するので判断する。
控訴人の父Aが被控訴人名古屋市長より昭和四〇年九月二五日付をもつて本件建物
において公衆浴場(特殊浴場)を営業する許可を受け、浴場の施設として個室を設
け、当該個室において異性の客に接触する役務を提供する個室付浴場業(いわゆる
トルコ風呂)を営んできたところ、Aは昭和五〇年八月六日死亡し、控訴人が相続
人として右個室付浴場業に関する一切の設備を相続したことは当事者に争いがな
い。そして、本訴の要旨は、右相続により控訴人において右許可の効果を承継して
いるので、引続き個室付浴場業を経営しようとしたところ、被控訴人市長はこれを
争い、右営業をなすためには控訴人が新たに許可を受ける必要があると主張するの
で、前記許可が控訴人についても有効であることの確認を求めるというにある。
しかしながら、風俗営業等取締法(以下「風営法」という。)四条の四第二項に基
づく愛知県条例第四一号により、本件建物の所在地は個室付浴場業を営むことを禁
止する地域に指定されており、同法四条の四第三項の除外規定に該当する場合以外
には、本件建物において個室付浴場業を営んではならないのである。従つて、控訴
人が個室付浴場業を営むことができるためには、右第三項の規定にいう右条例の施
行または適用の際「現に公衆浴場法二条一項の許可を受けて個室付浴場業を営んで
いる者」(いわゆる既得権者)に該当しなければならない。
この点につき控訴人は、公衆浴場法二条一項の許可はいわゆる対物的許可であつて
右許可を受けた地位は相続の対象となりうる権利であるから、Aの相続人である控
訴人も当然右既得権者に含まれると主張し、被控訴人名古屋市長は右既得権者には
相続人は含まれない(一代限りである)旨主張するので検討する。
まず、成立に争いのない乙ロ第四号証、第六〇号証の一、二、原本の存在及び成立
に争いのない乙ロ第六二、第六三号証の各一、二、第六四号証に弁論の全趣旨を総
合すると、いわゆるトルコ風呂営業は既に昭和二四年にはじまり、売春防止法の全
面施行後急増をみたものであるが、個室において異性の客に接触する役務を提供す
ることを内容とするものであるため、右役務の提供に伴つて善良の風俗を害する行
為が行なわれるのが常態となつていたものであること、トルコ風呂営業のかかる実
態とこれが住宅地、文教地区、官庁街にまで進出するに及びその社会的害悪の重大
性に照らし、その営業を規制しようとする世論が高まり、その結果昭和四一年法律
第九一号による風営法の改正を見たこと、そして、右改正により新設された同法四
条の四の規定は、第一項及び第二項において法律または条例による営業禁止区域を
定めたが、一方、右区域内において現にトルコ風呂営業(個室付浴場業)を営んで
いる者の利益を全く無視して全部禁止(廃業)とすることは憲法二九条に規定する
財産権の補償との関係で配慮すべき点があるとして、第一項及び第二項の規定に対
する例外措置として第三項の規定が置かれ、同項に定める時点において現に浴場業
の許可を受けているトルコ風呂業者の当該営業についてのみその継続を許したもの
であること等の事実が認められる。右のような立法の趣旨・経緯に照らし、かつ、
その文理を参酌して考えれば、右第三項の規定は、禁止区域における個室付浴場業
の全廃を目的とする第一項及び第二項の規定に対しいわば経過措置として例外を定
めたものであり、右規定により個室付浴場業の営業を認められる者とは、同項所定
の時点において現に浴場業の許可を受けて営業を営む者に限り、この者から営業を
承継した者は一般承継(相続)たると特定承継たるとを問わず右第三項の規定の適
用を受け得ないものと解するのが相当である。
そうすると、本件において、いわゆる既得権者は亡Aに限られ、同人の相続人であ
る控訴人はこれに該当しないから、控訴人において本件個室付浴場業を営むことは
許されない筋合である。
二 これに対し控訴人は、風営法四条の四第三項の既得権者に控訴人が含まれない
とすれば、右規定は憲法二九条及び一四条に違反し、また右規定に基づき制定され
た愛知県条例第四一号も憲法九四条に違反する旨主張するので検討する。
1 控訴人は、風営法に基づき一定地域における個室付浴場業の営業が禁止され、
その結果先代の死後控訴人が何らの補償なくしてその営業を継続することができな
くなるとすれば、右は控訴人の財産権の侵害にあたるというのである。ところで、
憲法二二条は職業選択の自由を規定し、これによつて営業の自由が保障されている
わけであるが、営業の自由も無制限なものではなく、公共の福祉による制限を受け
るものであり、従つて公序良俗に反する職業が法律によつて禁止されることもあり
得るのである。風営法が四条の四第一、二項において、その所定の区域内における
個室付浴場業の営業を禁止し、あるいは禁止しうることとしたのは、まさに右営業
の実態が公序良俗に反すること多く社会に害毒を流すものであり、清浄なることを
要求される地域においてその存続を許すことが公共の福祉に反すると考えたことに
よるのであつて、右規定が合憲であることは多言を要しない。そして、かかる場合
禁止された職業を営んでいた者がその営業を営むことにより得ていた利益を得られ
なくなり、損害を受けることになつたとしても、このような利益を収得しうべき地
位は憲法二九条にいう財産権には当らないと解するのが相当であるから、これに対
し国(ないし都道府県)において補償を与えなければならないものではない。それ
にもかかわらず、風営法四条の四第三項が営業禁止の時点において浴場業の許可を
得て営業していた者に限つてその営業の継続を認めたのは、公共の福祉と営業者の
営業上の利益の喪失との間の調和を配慮し、かつ、一般及び特定承継を排除するこ
とにより禁止区域内の既存業者の漸減を意図したものに外ならない。従つて、右規
定は憲法二九条に違反するものではない。
2 控訴人は、憲法一四条違反をいうが、そもそも自然人と法人とはその人格存立
の基盤を全く異にし、法体系上その取扱に差異があることは随所にこれを看取する
ことができるのである。風営法四条の四第三項の適用上、自然人と法人との間に人
格の消滅原因に差異があるため、同項によつて例外的に認められる個室付浴場業の
営業継続期間に事実上長短が生ずる結果となることは立法技術上誠にやむを得ない
ものというべく、これがため同法四条の四第三項が自然人と法人とを差別し、憲法
一四条に違反しているということにはならない。控訴人の右主張は採用できない。
3 さらに、控訴人は愛知県条例第四一号が風営法四条の四第二項の許した限度を
こえて禁止地域を定め、よつて憲法九四条の規定に違反したと主張する。しかしな
がら、右条例の定めが、個室付浴場業の禁止区域を規定するにつき右風営法の認め
る限度をこえているものとはにわかに認めがたいのみならず、成立に争いのない乙
ロ第六七号証の二、第六八号証によれば、「トルコ泉」すなわち本件建物は名古屋
市の中心部にあたる中村区内に存在し、その周辺二〇〇メートル以内の地域には風
営法四条の四第一項に規定する「その他の施設及びその周辺における善良の風俗を
害する行為を防止する必要のあるもの」に該当すると認められる建造物である寺院
が、またその約二五〇メートルから約五〇〇メートルの周辺範囲内の地域には同法
四条の四第一項にいう「学校」に該当する幼稚園、小学校等の施設が存在している
ことが認められるので、右トルコ泉の存在する地域は同法四条の四第二項にいう
「善良の風俗を害する行為を防止する必要がある」地域に該当することは明らかで
あるから、トルコ泉の存在する地域を個室付浴場業の禁止区域に指定した右条例が
風営法と矛盾し、その範囲を逸脱するものとは考えられない。従つて、控訴人にお
いて右条例につき憲法九四条違反を主張する法律上の利益は存しないというべきで
ある。
三 以上説示のとおり控訴人は風営法四条の四第三項の適用を受けるいわゆる既得
権者に該当せず本件建物において個室付浴場業を営みえない者であるから、仮に本
件許可が控訴人に対し有効であるとしてこれを確認してみても、そのことによつて
控訴人が本訴の目的とする本件建物における個室付浴場業の営業が法律上可能とな
るものではなく、控訴人において右確認を求める法律上の利益は存しない。従つ
て、控訴人の被控訴人名古屋市長に対する本件訴えはこれを不適法として却下すべ
きものである。
(被控訴人愛知県公安委員会に対する請求について)
一 当裁判所も、控訴人の被控訴人愛知県公安委員会に対する本件訴えはその利益
を欠くものであるから、不適法として却下すべきものと判断する。その理由は、次
に訂正、付加するほか、原判決理由第二に記載のとおりであるから、これを引用す
る。
原判決二九枚目表二行目の「ところで」から同七行目の「明らかであるから」まで
を「しかるに、控訴人は、被控訴人名古屋市長に対する訴えについて述べたごと
く、本件個室付浴場業を営むことができず、現にその許可を受けていない者である
から、控訴人は同法四条の四第四項に規定する『個室付浴場業を営む者』に該当し
ない。従つて、」と改める。
控訴人は、亡Aの相続人である控訴人がいわゆる既得権者に含まれないとすれば風
営法四条の四第三項の規定は憲法二九条及び一四条に違反し、また愛知県条例第四
一号も憲法九四条に違反する旨主張するが、右主張がいずれも理由のないことは被
控訴人名古屋市長に対する訴えについて述べたとおりである。
二 よつて、控訴人の被控訴人愛知県公安委員会に対する本件訴えは不適法として
却下すべきである。
(結論)
以上の次第で、控訴人の被控訴人名古屋市長に対する本訴請求を棄却した原判決は
失当であるからこれを取り消し、同被控訴人に対する本件訴えを不適法として却下
することとし、控訴人の被控訴人愛知県公安委員会に対する本件訴えを却下した原
判決は相当であつて、同被控訴人に対する本件控訴は理由がないから棄却すること
とし、控訴費用の負担につき民訴法九六条、九五条、八九条を適用して、主文のと
おり判決する。
(裁判官 宮本聖司 浅野達男 寺本栄一)

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