弁護士法人ITJ法律事務所

裁判例


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         主    文
     原決定及び第一審決定中A労働組合a支部に関する部分を取り消す。
     右組合a支部の本件申請を却下する。
     その余の本件特別抗告はいずれもこれを棄却する。
     本件申請の総費用は抗告人等の負担とする。
         理    由
 抗告理由第一点及び第二点について。
 論旨は、原審が本件解雇は連合国最高司令官の命令の実行ではないと認定したも
のであるということを前提として、そうだとするならば本件について憲法の適用が
排除されるいわれはあり得ないにもかかわらず、原審は占領政策に藉口して本件解
雇を有効としたものであると非難する。
 しかし昭和二五年七月一八日附連合国最高司令官マックアーサー元帥から内閣総
理大臣吉田茂宛の書簡には、「虚偽、煽動的、破壊的な共産主義者の宣伝の播布を
阻止する目的をもつた私の六月二六日附貴下宛書簡以来、日本共産党が公然と連緊
している国際勢力は民主主義社会における平和の維持と法の支配の尊厳に対して更
に陰険な脅威を与えるに至り暴力によつて自由を抑圧する彼等の目的について至る
所の自由な人民に対し警告を与えている。かかる情勢下においては日本においてこ
れを信奉する少数者がかかる目的のために宣伝を播布するため公的報道機関を自由
且つ無制限に使用することは新聞の自由の概念の悪用であり、これを許すことは公
的責任に忠実な目由な日本の報道機関の大部分のものを危険に陥れ、且つ一般国民
の福祉を危くするものであることが明らかとなつた。」「現在自由な世界の諸力を
結集しつつある偉大な闘においては総ての分野のものはこれに伴う責任を分担し、
且つ誠実に遂行しなければならない。かかる責任のうち、公共的報道機関が担う責
任程大きなものはない。何故なら、そこには真実を報道し、この真実に基いて事情
に通じ、啓発された世論をつくりあげる全責任があるからである。歴史は自由な新
聞がこの責任を遂行しなかつた場合必ず自ら死滅を招いたことを記録している。」
「現実の諸事件は共産主義が公共の報道機関を利用して破壊的暴力的綱領を宣伝し、
無責任、不法の少数分子を煽動して法に背き秩序を乱し公共の福祉を損わしめる危
険が明白なことを警告している。それ故日本において共産主義が言論の自由を濫用
して斯る無秩序への煽動を続ける限り、彼らに公的報道の自由を使用させることは
公共の利益のため拒否されねばならない。」と言つている。この書簡は直接には日
本政府に対し「アカハタ」及びその後継紙並びにその同類紙の発行を無期限に停止
する措置をとるよう指令したものの如くであるが、右の文言の全趣旨を本件にあら
われた他の資料と共に考え合わせてみると、一般に相手方のような報道機関から共
産主義者又はその支持者を排除すべきことを要請した指示であること明かである。
また右の書簡は内閣総理大臣吉田茂に宛てられたものではあるが、前記日附の官報
にも公表されており、それは同時に日本のすべての国家機関並びに国民に対する指
示でもあると認むべきである。
 日本の国家機関及び国民が連合国最高司令官の発する一切の命令指示に誠実且つ
迅速に服従する義務を有すること(昭和二〇年九月二日降伏文書五項、同日連合国
最高司令官指令一号一二項)、従つて日本の法令は右の指示に牴触する限りにおい
てその適用を排除されることはいうまでもないところであるから、相手方Eが連合
国最高司令官の指示に従つてなした本件解雇は法律上の効力を有するものと認めな
ければならない。これを無効とする抗告人の主張を原決定が排斥したことは結局に
おいて正当であつて、この点を非難する論旨は理由がない。
 次ぎに日本における連合国の管理は原則として間接管理の方法をとつている。従
つて連合国最高司令官の命令又は指示に基く事項であつても、これに関する裁判は、
特に日本の裁判所がこれを審判することを排除する趣旨が明かであるものを除き、
日本の裁判所にまかされている。本件解雇は上に述べたように、連合国最高司令官
の指示に従つてなされたものではあるが、これに関して日本の裁判権を排除する特
別の理由はないのであるから、所論のように日本の裁判所に裁判権がないというこ
とはできない。この点についての原決定の判断は結局において正当であり、論旨は
理由がない。
 同第三点について。
 抗告人が相手方の事業場内にある組合事務所を被解雇者に使用せしむべきことを
求める趣旨の仮処分の申請をしたのに対して、第一審裁判所はこれを却下し、原審
もこれを維持した。論旨は結局このことを非難するに帰するのであるが、前記のよ
うに原審が本件解雇を有効と認め、右のような仮処分の申請を理由なきものとして
却下したからとて、所論のような権利の侵害を来たすいわれはない。原決定は結局
において正当であつて、論旨は理由がない。
 なお職権を以て調査するに、本件仮処分申請は本件解雇無効確認の訴を本案の訴
とするものであることは、抗告人等の主張自体によつて明白である。果してしかり
とすれば、その訴は相手方とA労働組合a支部以外の抗告人との間に、雇傭に基ず
く法律関係のなお存続することの確認を求めるものに外ならないのであるから、特
段の事由のない限りその法律関係の当事者の外に、その法律関係につき何等の処分
権をも有しない右労働組合a支部に、かかる訴を遂行する権能を認むべきものでは
ない。従つて右組合にこの訴訟遂行権あることを認むべき特段の事由について何等
の主張もない本件においては、右組合a支部は、本案の訴につき当事者適格なく、
また、その本案判決執行保全のためにする本件仮処分申請についても、全く同様の
関係にあるものというべく、該申請はその内容の当否を調査するまでもなく、不適
法として排斥せざるを得ないのである。されば、第一審及び原審が右組合a支部の
本件申請につきその内容に関し判断をなしたことは違法であり、この点においては
いずれも破棄を免れないものである。
 よつて右A労働組合a支部の本件抗告は結局理由あるに帰しその余の抗告はすべ
て理由なきものと認め主文のとおり決定する。
 この決定は裁判官斎藤悠輔の補足意見を除く外他の裁判官一致の意見によるもの
である。
 論旨第一点乃至第三点に対する斎藤裁判官の補足意見は次のとおりである。
 原決定の判示は、要するに、本件解雇は、昭和二五年七月一八日附連合国最高司
令官マツカーサー元帥から総理大臣吉田茂宛の書簡の趣旨に従い、占領政策を達成
するために必要な措置として相手方報道機関の経営者に対してもその機関から共産
主義者又はその支持者を排斥すべき要請乃至命令に応じて自主的判断に基き有効に
なされたものであつて、右要請乃至命令と牴触する日本国憲法、労働基準法、労働
組合法等の国内法規や労働協約所定の条項などは、その適用が排除されることは固
より当然のことである旨判断したに過ぎないものである。されば、原決定は、その
裁判において法律、命令、規則又は処分が憲法に適合するか否かの判断をしたもの
でないこと明らかである。従つて、所論は、すべて原判示に副わない独自の見解を
主張するだけであつて、特別抗告適法の理由として採ることができない。
  昭和二七年四月二日
     最高裁所所大法廷
         裁判長裁判官    田   中   耕 太 郎
            裁判官    沢   田   竹 治 郎
            裁判官    霜   山   精   一
            裁判官    井   上       登
            裁判官    栗   山       茂
            裁判官    真   野       毅
            裁判官    小   谷   勝   重
            裁判官    島           保
            裁判官    斎   藤   悠   輔
            裁判官    藤   田   八   郎
            裁判官    岩   松   三   郎
            裁判官    河   村   又   介
            裁判官    谷   村   唯 一 郎
            裁判官    小   林   俊   三
            裁判官    本   村   善 太 郎

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