弁護士法人ITJ法律事務所

裁判例


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         主    文
     本件上告を棄却する。
     上告費用は上告人の負担とする。
         理    由
 上告代理人豊川忠進の上告理由第一点について。
 原判決の字句には理解し難い点もないではないが、要するに本件預金は、元来D
か訴外Eから、同人の詐欺による被害者と目される者等を受益者として、同人の騙
取金の疑ある十一万千三百円五十九銭の保管を信託され、保管の方法として自己名
義を以てこれを株式会社F銀行G支店に預け入れたものであり、この預金債権はD
個人の財産ではないとの趣旨を認定したものであつて、原審挙示の証拠によれば右
認定は是認される。されば(その払戻請求権者が右Dであるとした法律上の判断の
当否はともかくとして)右預金がD個人の財産ではないが故にD個人に対する債権
のためになされた本件転付命令は無効であるとした原審終局の判断は結局正当であ
つて(後記説示参照)論旨は理由なきに帰する。そして被上告銀行は右の預金を適
法有効にH供託局に供託したものと認められるから、右の預金債権についての真実
の権利者は供託物の交付を請求する権利を取得する訳であるが、右の預金債権は上
述のようにいわゆる信託財産であつてD個人の財産には属しないのであるから、供
託所に対する供託物還付請求権もまたD個人の財産に属しないこと明らかである。
従つて上告人主張のようなD個人に対する債権に基いて右供託物還付請求権につき
なされた転付命令は債権移転の効力を生じないものと言わなければならない。この
点においても原判決は正当であつて、所論のような違法はない。
 同第二点について。
 原判決は本件預金債権がD個人の財産ではなく、従つて供託金還付請求権もまた
D個人の財産ではないとの趣旨の判定をしているのであるから、本件転付命令の目
的たる供託金還付請求権がD個人の財産に属しないということを実体法上確定して
いるものと言うことができる。従つて、原判決には転付命令の目的たる債権の実体
法上の確定を待たないで直ちに転付命令を無効と判定した違法があると主張する論
旨は理由がない。
 同第三点について。
 論旨は、原判決には、本件転付命令の目的たる債権がDを債権者とするものであ
ることを認めながら右債権転付の効力を否定した違法があるとして原判決を非難し
ている。しかし、右預金債権、従つて供託金還付請求権はD個人の財産ではないか
ら、これに対する転付命令は無効であるとした原判決の相当であることは、上に述
べたとおりである。論旨はこれと異なる見解に立つ主張に外ならないから、採用す
ることができない。
 同第四点について。
 論旨は、本件転付命令の目的たる債権についてDが債権者でないならば、何びと
が債権者であるかを指摘すべきであると主張する。しかし本件転付命令が効力を生
じないものであると判定するためには、本件預金債権がD個人の財産でないという
ことを確定すれば事足り、積極的に何びとがその権利者であるかを判示しなかつた
からとて所論のように理由不備の違法あるものということはできない。論旨は理由
がない。
 以上の理由によつて、民訴三九六条、三八四条、九五条、八九条、に従い裁判官
全員一致の意見を以て、主文のとおり判決する。
     最高裁判所第三小法廷
         裁判長裁判官    井   上       登
            裁判官    島           保
            裁判官    河   村   又   介
            裁判官    本   村   善 太 郎

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