弁護士法人ITJ法律事務所

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主          文
1 1審原告の控訴を棄却する。
2 1審被告の控訴に基づいて,原判決中,1審被告の敗訴部分を取り消す。
3 1審原告の請求を棄却する。
4 訴訟費用は,第1,2審とも,1審原告の負担とする。
事 実 及 び 理 由
第1 当事者の求める裁判
1 1審原告の控訴について
(1) 1審原告
ア 原判決を次のとおり変更する。
イ 1審被告は,1審原告に対し,1030万4400円及びこれに対する平成1
0年11月21日から支払済みまで年5分の割合による金員を支払え。
ウ 訴訟費用は,第1,2審を通じて,1審被告の負担とする。
エ 仮執行の宣言
(2) 1審被告
ア 1審原告の控訴を棄却する。
イ 控訴費用は1審原告の負担とする。
2 1審被告の控訴について
(1) 1審被告
ア 原判決中,1審被告の敗訴部分を取り消す。
イ 1審原告の請求を棄却する。
ウ 訴訟費用は,第1,2審を通じて,1審原告の負担とする。
(2) 1審原告
ア 1審被告の控訴を棄却する。
イ 控訴費用は1審被告の負担とする。
第2 事実関係
 本件は,1審被告が経営する美容外科医院において,1審原告が両眼瞼の
二重瞼のライン(幅)を変更して,これにより上眼瞼のたるみを目立たなくする美
容整形手術を受けたところ,1審被告は上記目的には不適切な「埋没法」という
手技を採用し(1審原告は「切開法」を採用すべきであったと主張している。),
しかも,1審原告に対し,埋没法による手術の効果や問題点などを十分に説明
しなかったため,同説明があれば1審原告が受けなかったはずの埋没法によ
る手術を受けるに至らせ,その結果,1審原告には両眼瞼の腫れや痛みが続
いた上,それまでは二重瞼であった1審原告の眼瞼が三重瞼になった等主張
して,1審原告が1審被告に対し,診療契約の債務不履行又は不法行為による
損害賠償として,上記医院や他医療機関の各診療費及び慰謝料などの損害
合計1030万4400円並びにこれに対する本件訴状送達の日の翌日である平
成10年11月21日から支払済みまで民法所定の年5分の割合による遅延損
害金の支払を求めた事案の控訴審である。
1 争いない事実並びに証拠(甲1,甲3,4,甲6,甲9,10,甲12,乙1の1,2,
乙2の1,2,乙3ないし9,乙11,乙15,証人A,1審原告,1審被告)及び弁
論の全趣旨によって容易に認められる事実
(1) 当事者
 1審原告は,昭和26年9月11日生まれの女性であり,後記(3)の美容整形
手術を受けた当時44歳であった。
 1審被告は,名古屋市中村区において「国際クリニック」という名称で美容
外科医院(以下「1審被告医院」という。)を開業している。
(2) 本件手術までの経緯
ア 1審原告は,平成7年11月12日,1審被告医院を訪れ,1審被告と面談
した上,目の周囲にたるみがあり,その左右差も気になるから,これをすっ
きりさせたいなどと相談をした。
 これに対して,1審被告は,目の下のたるみを取るためにはメスを使わ
なければならないから傷が残る,1審原告の二重瞼のライン(幅)を変更す
る手術を行えば,1審原告はより若くみえるようになる等のアドバイスをし
た。その際,1審被告は,1審原告に対し,1審被告の著作として,埋没法
による重瞼術を推奨する記載のある「魅せる女性の最新美容学」(甲9,
乙6,7)という書籍を手渡し,それを参考にして,二重瞼のライン(幅)を変
更する手術を受けるか否か決めるよう勧めた。
イ 1審原告は,平成7年12月20日,1審被告に電話して,上記手術を受け
る旨申し込み,1審被告との間で診療契約を締結した。
(3) 本件手術の施行
ア 1審原告は,平成8年1月2日,1審被告医院を訪れ,1審被告は,1審
原告に対し,「手術申込書」(乙2の1,2)と題する書面に必要事項を記入
するよう指示した。同書面の下部には,「注意事項」として下記のとおりの
記載がある。
「1 手術の結果には個人差があります。手術後の傷の治り方や腫れのひ
き方などは,各人各様であります。その間は医師の指示を待って下さ
い。したがって,仕上がりについては,医師が申し上げているのは大
体の予定だと承知しておいて下さい。
2 手術のときには一度で目的を達成しないこともありえます。その時に
は普通3~6カ月後くらいに再手術を行う場合もあります。
3 主観的な100%の出来映えを求めないでください。わずかな変化の
ために,非常に難しい手術を受け直したりすることは,利口な事では
ありません。
4 手術の結果を絶対保証するということは,どのような手術の場合でも
できません。これはすべての病気の場合にも,あてはまることであり
ます。もし絶対保証するという医師がおりましたら,その医師こそ不誠
実で危険なのであります。」
 1審原告は,同書面の上部に必要事項を記入して,これを1審被告に提
出し,同書面下部(上記注意事項が記載された部分)を切り取った上,こ
れを持ち帰ることとした。
イ その上で,1審被告は,自ら執刀して,1審原告の両眼瞼に2本ずつナイ
ロン糸を埋め込む方法(以下「埋没法」という。)による二重瞼のライン(幅)
を変更する手術(以下「本件手術」という。)を行った。
 本件手術で採用された埋没法は,眼瞼の表側の皮膚と裏側の瞼板とに
ナイロン糸による連絡(台形状に近い緩やかなサークル)を設けてこれに
眼瞼挙筋の分枝の役割を担わせ,開眼時に眼瞼挙筋の収縮に伴い瞼板
が引き上げられることで,このナイロン糸も引っ張られ,このことによって
眼瞼表面の皮膚が内側に引かれ,重瞼の線ができるという仕組みになっ
ている。そして,このように眼瞼表面の皮膚が内側に引っ張り込まれること
により,1審原告が生来有していた二重瞼のラインが,眼瞼の皮膚の中に
畳み込まれて,生来の二重瞼のライン(幅)が変更されたかのような外見が
得られる(ただし,1審原告の生来の二重のラインは完全に消失するので
はない。)。
(4) 本件手術の効果を消失させるための埋没糸抜去手術までの経緯
ア 1審原告は,平成8年1月4日,1審被告医院を訪れて,1審被告の診察
を受け,両眼瞼に術後腫脹が認められた。
 そこで,1審被告は,1審原告に対し,冷やした方が腫れが早く引くの
で,眼瞼を冷やすよう指示するとともに,あと1週間くらい腫れや痛みを我
慢するよう指示した。
イ 1審原告は,平成8年2月20日,1審被告医院を訪れ,1審被告に対し,
右眼瞼の腫れと痛みがなかなかひかない,本件手術前の状態に戻して欲
しい旨訴えた。
 通常,埋没法による手術の後に腫れが大きく出た場合でも,安静冷罨に
して局所に貯留したリンパ液,すなわち手術後に眼瞼に溜まった水分が,
吸収されて腫れが引くのを待てば(水分を外側から強制的に抜くのは不可
能である。),眼瞼の容積の縮小が起こるため,眼瞼の皮膚を内側に引っ
張る糸の張力が相対的に弱まり,その結果,糸に眼瞼が引っ張られる違
和感や痛みも消失するのであるが,1審原告が腫れと痛みを我慢できな
い旨訴えたため,1審被告は,本件手術により1審原告の両眼瞼に埋没さ
せたナイロン糸を切断ないし抜去する手術(以下「埋没糸抜去手術」とい
う。)を行うこととした。
ウ そこで,1審被告は,1審原告の求めに応じて,平成8年2月23日,1審
原告に対し埋没糸抜去手術を行ったが,左眼瞼に埋め込まれたナイロン
糸は抜去できたものの,右眼瞼のナイロン糸を抜去することはできなかっ
たため,同ナイロン糸は切断して固定力をなくし,これによって同糸を抜去
したと同じ効果をもたらして,埋没糸抜去手術を終えた。
(5) 埋没糸抜去手術後
ア 1審原告は,平成8年2月25日,1審被告医院を訪れ,1審被告に対し
「左目がコロコロする。」と訴えた。そこで,1審被告は,1審原告の左眼瞼
を反転させて診察したが,格別の所見は得られなかった。
 そこで,1審被告は,1審原告に対し点眼剤を投与して,その点眼を指示
し,以後は徐々に症状が良くなると説明し,何かあったらすぐに連絡する
よう指示したが,その後,1審原告からの連絡はなかった。
イ 1審原告は,同月26日,市立四日市病院の眼科を受診し,左角膜びら
んとの診断を受けた。
 その際,1審原告は,上記病院の眼科医師に対して,左眼が痛いと訴え
たのみで,本件手術や埋没糸抜去手術を受けたことは告知しなかった。
ウ 1審原告は,約2年後の平成10年2月10日,美容外科医院「サンワクリ
ニック」を訪れ,同医院のA医師の診察を受けた。
 その際,1審原告は,A医師に対し,1審被告医院において本件手術及
び埋没糸抜去手術を受けたことなどを説明した上,眼瞼に水がたまってい
るので,これを抜いて欲しい旨求めた。A医師が診察したところ,1審原告
の両眼瞼に軽度の浮腫が認められたものの,眼瞼の開閉に支障を来す
ほどのものではなかった。
 そして,1審原告の右眼瞼には,埋没糸抜去手術で抜去されなかったナ
イロン糸が残存していたため,A医師は,平成10年3月5日,これを抜去
する手術を行った。
(6) 1審原告は,平成10年10月29日,1審被告に対し本件訴訟を提起した。
2 争点
(1) 埋没法は,上眼瞼のたるみを取る目的で幅の広い二重瞼を狭い二重瞼に
するためには,不適切な方法であるか。
ア 1審原告
 余剰皮膚の多い眼瞼,すなわちたるみのある眼瞼において上記目的を
達成するには,切開法を採るしかなく,埋没法は不適切である。したがっ
て,1審被告には,そのことについて説明義務違反があったことによる不
法行為のほか,不適切な方法を選択したこと自体による不法行為が成立
する。
イ 1審被告
 余剰皮膚の多い眼瞼に埋没法は不適切であるとはいっても,それは,個
々の患者につき眼瞼の皮膚にどの程度のたるみがあるかの問題であっ
て,本件手術当時の1審原告の眼瞼にみられた程度のたるみであれば,
埋没法は十分有効である。埋没法は,眼瞼のたるみを取るため幅の広い
二重を幅の狭い二重にする方法として,美容外科の臨床医療において十
分実用的なものとして評価されている。
(2) 1審原告が本件手術を受けた後,埋没糸抜去手術を受けるまでに持続し
た右眼瞼の腫れや痛みは,本件手術の結果であるか。その後も継続した右
眼瞼の腫れや痛みは,本件手術又は同手術によって必要となった埋没糸抜
去手術の結果であるか(1審原告は,当審において,1審被告が埋没糸抜去
手術でナイロン糸を全部抜去しなかったこと自体が債務不履行又は不法行
為であるとの主張は撤回している。)。
(3) 平成8年2月26日の時点でみられた1審原告の左角膜びらんは,埋没糸
抜去手術又は本件手術の結果であるか。
(4) 1審原告の右眼瞼は,本件手術の結果,三重瞼となったか。
ア 1審原告の主張
 1審原告の両眼瞼は,本件手術前までは二重瞼であったが,本件手術
を受けた結果,三重瞼になった。
イ 1審被告の反論
 1審原告の両眼瞼は,本件手術前から三重瞼であった。本件手術前,1
審原告の両眼瞼は,一見すると二重瞼にみえるが,実は三重瞼のライン
が2本(はっきりした2本ではないが)付いていたのである。したがって,1
審原告は,もともと三重瞼だったのであり,本件手術の結果,三重瞼にな
ったのではない。
ウ 1審原告の再反論
 埋没法による二重瞼のライン(幅)の変更手術においては,①同手術を受
けても,生来の二重瞼のラインがかすかに残り,眼瞼をよく見ると三重瞼
の様相を呈する可能性が高く,②同手術後,復元のため,埋没させた糸を
抜去しても,同手術により形成されたラインが残存し,同手術前のラインに
戻らない可能性がある。
 1審原告は,本件手術後,埋没糸抜去手術を受けたものの,本件手術
の効果が残り,そのため,右眼瞼ははっきりした三重瞼になり,左眼瞼も
それほどはっきりしてはいないものの三重瞼になったのである。
(5) 1審被告は,埋没法による手術の効果の限界や手術の危険性,術後の修
復可能性について,1審原告に対し説明を尽くしたか。
ア 1審原告
(ア) 1審被告は,本件手術に先立って,1審原告に対し,①埋没法はもと
もと一重瞼を二重瞼にするための方法であり,二重瞼のライン(幅)を変
更する方法としては適切とはいえないこと,②本件手術による両眼瞼の
腫れや痛みが長期間継続する可能性があること,③本件手術又は埋
没糸抜去手術に際して角膜びらんが発生する可能性があること,④本
件手術を受けても,生来の二重のラインは消えず,かすかに生来のライ
ンが残り,よく見ると三重瞼の様相を呈することがあること,⑤本件手術
後,同手術により埋没させた糸を抜去しても,形成されたラインが残存
し,元のラインに戻らない可能性があることを十分説明しなかったため,
1審原告は,上記のような危険があるとは知らず,本件手術の効果及
び安全性を信じて同手術を受けるに至った。
(イ) そもそも1審原告が1審被告医院を受診した目的は,目の下のたる
みを取ることにあり,1審原告が,1審被告に対し,目の上のたるみを取
ることを相談したことはない。また,1審原告は,1審被告から,目の上
のたるみを取る手術について説明を受けたことはない。それは本件手
術当日も同様であり,1審被告は,本件手術の前,同手術によって形成
する新たな二重のラインについて,1審原告の希望を聞くこともなかっ
た。
イ 1審被告
 インフォームド・コンセントの法理は,同法理によって達成しようとしてい
る患者の自己決定,合理的意思決定という価値のために存在するもので
あるが,そのために医師に課せられる説明義務の内容は,あらゆる事態
を想定し,あらゆる事柄について事前に説明し,そのすべてについて患者
から承諾を得なければならないというものではない。1審原告が説明義務
違反として主張する事由は,いずれも,通常,手術後又は復元のための
抜糸後に生じることは考えにくい(発現の程度が小さい)ものであったり,
眼瞼に対する処置をする以上不可避的に生じるものであるが,その侵襲
の程度は軽微なものであり,逐一説明する必要がないものばかりである。
 1審原告は,前記のような1審被告の説明に加え,自分自身の考え,1
審被告に対する問いかけ,その応答等,その他一切の事情を考慮して,
自らの判断として本件手術の実施を1審被告に求めてきたのであり,1審
被告は,1審原告のこの判断に関し,強制をしたこともなければ,偽りを説
明したこともない。1審被告には,何ら説明義務違反はない。
(6) 1審原告の損害主張       合計1030万4400円
ア1審被告医院診療費          15万9500円
イ サンワクリニック診療費        14万4900円
ウ 市立四日市病院診療費            1050円
エ 中部労災病院治療費             3265円
オ 田淵眼科治療費               8820円
カ 柳田はり,灸治療費           2万0000円
キ 真気光クリニック治療費         2万5000円
ク 適正な自己決定権を奪われた慰謝料  300万0000円
ケ 三重瞼の後遺症による慰謝料     300万0000円
コ 手術による腫れや痛みの慰謝料    274万1865円
サ 弁護士費用             100万0000円
シ 医師の意見書料            20万0000円
第3 当裁判所の判断
1 争点(1)について
 1審原告は,上眼瞼のたるみを取るため幅の広い二重瞼を狭い二重瞼にす
るには,埋没法は不適切な方法である旨主張し,証拠として甲16,甲23,2
4,甲27の1,2等を提出するが,乙22,乙26ないし28,乙35,乙37の1,
乙39及び1審被告の供述に照らせば,上記目的のために埋没法が不適切な
方法であるとまで認めることはできない。
 ところで,市田正成医師ほか編集の「美容外科手術プラクティス1」(甲27の
2,乙28)には,脂肪組織が多く腫れぼったい眼瞼や余剰皮膚の多い眼瞼に
は埋没法は適さない旨の記載があるが,これに対し,1審被告は,余剰皮膚の
多い眼瞼といっても程度問題であり,本件手術当時の1審原告の眼瞼程度の
たるみであれば埋没法を適用できる旨供述しており,証人A医師もたるみの程
度により埋没法の適否が異なる旨の証言をしている上,市田正成医師が院長
をつとめるいちだクリニックの案内書(乙27)には,腫れぼったい眼瞼やたるみ
の多い眼瞼には切開法が最も適しているが,まずは埋没法で行う人が圧倒的
に多い旨の記載があることに照らせば,上記判断は左右されない。
 他に上記判断を左右するに足りる証拠はない(ちなみに,甲16は,1審原告
の供述によれば,1審原告が,医師の診察を受ける振りを装いつつ気付かれ
ないように隠し撮りした録音テープを,1審原告が反訳ないし編集したものとい
うのであるが,その供述採取の方法に照らし,甲16の記載内容は証拠として
の価値に乏しいというべきである。)。
2 争点(2)について
 前記第2の1(4)の事実,乙1の1,2,1審原告及び1審被告の各供述によれ
ば,1審原告が本件手術を受けた後,埋没糸抜去手術を受けるまでの間,両
眼瞼の腫れや痛みが持続したこと,これは本件手術と因果関係を有するもの
であることを認めることができ,これを左右するに足りる証拠はない。
 しかし,1審原告が,平成8年2月23日に1審被告医院で埋没糸抜去手術を
受けた後,平成10年3月5日にサンワクリニックで残った埋没糸の抜去手術を
受けるまで持続したと主張する腫れや痛みのうち,1審被告医院で行われた埋
没糸抜去手術の後しばらくの間のものはともかく,同手術から相当期間を経過
した後のものについては,本件手術又は埋没糸抜去手術の結果であると認め
るに足りる証拠はない。
3 争点(3)について
 1審原告の角膜びらん発症と本件手術との間に因果関係があると認めるに
足りる証拠はない。
 1審原告が,埋没糸抜去手術を受けた日の3日後である平成8年2月26日,
市立四日市病院の眼科で左角膜びらんの診断を受けていること,証人A医師
は,埋没糸抜去手術を原因とする角膜びらん発症の可能性を肯定する証言を
しており,甲13にも同旨の記載があることからすると,1審原告の上記角膜び
らんと埋没糸抜去手術との間に因果関係があることも考えられないではない。
しかし,1審原告は,同月25日,1審被告医院を訪れて,左目の異常を訴え,
1審被告の診察を受けたものの,その際は特に異常は認められなかったこと
(前記第2の1(5)),1審原告は,市立四日市病院で上記診断を受けた際,同
病院の医師に対して,本件手術及び埋没糸抜去手術を受けたことを話してい
ない上(前記第2の1(5)),上記病院の眼科外来診療録(甲10)には,平成8年
2月26日の診察時,1審原告が自己はコンタクトレンズを入れていたと述べた
旨の記載があることに照らせば,角膜びらんの発症には多様な原因が考えら
れるのであって,日時が近接していることのみから上記因果関係の存在を推
認することはできず,他にこれを認めるに足りる証拠はない。
4 争点(4)について
(1) 1審原告は,自己の両眼瞼は,本件手術前は二重瞼であったが,本件手
術により三重瞼になったと主張して,同旨の供述をし,甲8,甲17の1ないし
3,甲29を提出する。
 そして,本件手術後に撮影された甲8の③④の各写真,甲12,証人A医師
の証言,弁論の全趣旨によれば,平成10年2月ころ以降,1審原告の右眼
瞼の二重のラインの間にもう1本のラインがあり,三重瞼といい得る状態に
なっていることが認められる。
 しかし,本件手術前に撮影された甲8の①の写真及び甲17の1ないし3の
各写真はいずれも,同手術後に撮影された甲8の③④の各写真に比して,1
審原告の顔面より離れた位置から撮影されていると考えられる上,1審被告
が,本件手術前の診察における観察から,1審原告の両眼瞼には三重瞼の
ラインが2本(はっきりした2本ではないが)付いていた旨供述していることに
照らせば,甲29を始め1審原告提出の上記証拠によっては,1審原告が本
件手術前は三重瞼でなく,本件手術によって三重瞼になったとまでは認める
ことができず,他にこれを認めるに足りる証拠はない。
(2) ところで,1審被告は,埋没法により二重瞼又は三重瞼のライン(幅)を変え
る場合,上のラインを見えなくすることはできるが,下のラインを完全に見え
なくすることはできず,埋没法により新たに形成した二重瞼を子細に観察す
ると,二重のラインの間にもう1本のラインがかすかに見える旨供述してい
る。しかし,1審原告は,埋没糸抜去手術を受けているので,本件手術によ
る影響は消滅しているはずである。
 もっとも,証人A医師は,埋没法により二重瞼のラインを変える手術をした
後,同手術によって埋没させたナイロン糸を抜去しても,同手術によって形
成したラインが残る場合もある旨証言しているが,一方,埋没させた糸を切
断ないし抜去すれば,通常,手術の効果は消失する旨証言しており,甲13
にも同旨の記載がある。そして,1審原告が埋没糸抜去手術を受けてから甲
8の③④の各写真が撮影されるまで少なくとも約2年が経過しており,その
間における加齢その他の事情の影響も考えられるところ,証人A医師は,4
0歳代半ばころから三重瞼になる人が増える旨,1審原告の三重瞼の上下
のラインのいずれが生来の二重のラインであるのかわからない旨証言して
いることに照らせば,甲8の③④の各写真にみられる1審原告の三重瞼が,
埋没糸抜去手術が行われたにもかかわらず,本件手術の効果が残った結
果であるとまで認めることはできず,他にこれを認めるに足りる証拠はない。
5 争点(5)について
(1)ア 前記1のとおり,埋没法が上眼瞼のたるみを取るために不適切な方法で
あるとは認められず,また,前記3,4のとおり,1審原告の訴える角膜び
らん及び三重瞼が本件手術や埋没糸抜去手術と因果関係を有するとは
認められないから,1審原告が本件手術(又は埋没糸抜去手術)について
上記各点に関する説明を尽くしたか否か,説明義務違反があったか否か
について判断するまでもなく,1審被告が埋没法を採用したこと,1審原告
に角膜びらんが発症したこと及び三重瞼になったことの各点については,
説明義務違反による債務不履行又は不法行為が成立することはない。
イ また,前記2のとおり,1審原告が本件手術を受けてから埋没糸抜去手
術を受けるまでの間に持続した両眼瞼の腫れや痛みについては,本件手
術との相当因果関係が認められるところ,この点について,1審原告は1
審被告の説明が十分でなかった旨主張し,同旨の供述や供述記載もある
が,1審原告の供述によっても,1審被告は1審原告に対し腫れや痛みは
1週間程度続くと説明しており,証人A医師も腫れは1週間程度続くと説明
するのが一般的であり,自己は手術による痛みは1日程度続くと説明して
いる旨証言している上,現実の腫れや痛みが1審被告の上記説明を超え
るものであったとしても,前記第2の1(3)アのとおり,腫れが持続する期間
等が個々人によって異なることは,手術申込書(乙2の1,2)の注意事項
に記載され,本件手術前,1審原告はこれを読んでいたのであるから,1
審被告の予想を超える腫れや痛みがあったとしても,そのことのみから,
1審被告の説明が不十分であったとはいえない(1審原告が埋没糸抜去
手術を受けた後,通常であれば腫れや痛みが消失するに必要な相当期
間内に持続した腫れや痛みについても,同様である。)。
(2)ア ところで,1審原告は,1審被告に対し目の上のたるみを取ることを相談
したことはない旨,また,1審被告から目の上のたるみを取る手術につい
て説明を受けたことはない旨主張し,同旨の1審原告供述及び供述記載
がある。
 しかし,1審原告が1審被告に提出した「美容外科診療申込書」(乙11)
の「希望の診療」欄には,「目の上又は下のたるみとり」のほか,「二重ま
ぶた」のところに丸が打ってあること,1審被告が作成したカルテ(乙1の
1)のうち1審被告が1審原告に対して本件手術に関する説明するために
作成した部分(イラストを含む。1審被告)にも,目の上のたるみ取りの方
法についての記載があること,1審被告は,平成7年11月12日,1審原
告に対し,20分ないし30分かけて,目の下のたるみ取り,目の上のたる
み取り,切開法及び埋没法について説明した旨供述しており,さらに1審
原告に対し,埋没法を推奨する記載のある「魅せる女性の最新美容学」を
手渡していること(前記第2の1(2)),1審原告は,本件手術後1か月半以
上経過した平成8年2月20日までは,1審被告に対し本件手術について
不満を述べた形跡がないことに照らせば,1審原告の上記の供述及び供
述記載はたやすく措信できない。そして,控訴人の上記主張については,
他にこれを認めるに足りる証拠はないから,採用することができない。
イ また,1審被告は,本件手術の前,同手術によって形成する新たな二重
のラインについて,1審原告の希望を聞くこともなかった旨主張する。
 しかし,1審被告は,本件手術に先立って,1審原告に対し二重の予定ラ
インを示し,1審原告の好む位置にマーキングをした旨,1審被告は,本
件手術の場合に限らず,埋没法による二重瞼の手術を行う際は同様に行
っている旨供述していること,新たな二重のラインを形成する手術におい
て,医師が予定ラインを決めずに手術を始めるとは考え難く,予定ライン
を決める際,患者の希望を聞くことを妨げる事情もみあたらないことに照ら
せば,上記主張を採用することはできない。
6 以上のとおりであるから,1審原告の請求は理由がないので棄却すべきであ
るから,1審原告の控訴は理由がないのでこれを棄却し,1審被告の控訴に基
づいて,原判決中1審被告の敗訴部分を取り消して,1審原告の請求を棄却す
ることとし,訴訟費用の負担について民事訴訟法67条,61条を適用して,主
文のとおり判決する。
名古屋高等裁判所民事第2部
裁判長裁判官   大  内  捷  司
裁判官   佐 久 間 邦 夫
裁判官   加 藤 美 枝 子

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採用情報


弁護士 求人 採用
弁護士募集(経験者 司法修習生)
激動の時代に
今後の弁護士業界はどうなっていくのでしょうか。 もはや、東京では弁護士が過剰であり、すでに仕事がない弁護士が多数います。
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ではどうしたらよいのでしょうか。
答えは、弁護士業もサービス業であるという原点に立ち返ることです。
我々は、クライアントの信頼に応えることが最重要と考え、そのために努力していきたいと思います。 弁護士数の増加、市民のニーズの多様化に応えるべく、従来の法律事務所と違ったアプローチを模索しております。
今まで培ったノウハウを共有し、さらなる発展をともに目指したいと思います。
興味がおありの弁護士の方、司法修習生の方、お気軽にご連絡下さい。 事務所を見学頂き、ゆっくりお話ししましょう。

応募資格
司法修習生
すでに経験を有する弁護士
なお、地方での勤務を希望する先生も歓迎します。
また、勤務弁護士ではなく、経費共同も可能です。

学歴、年齢、性別、成績等で評価はしません。
従いまして、司法試験での成績、司法研修所での成績等の書類は不要です。

詳細は、面談の上、決定させてください。

独立支援
独立を考えている弁護士を支援します。
条件は以下のとおりです。
お気軽にお問い合わせ下さい。
◎1年目の経費無料(場所代、コピー代、ファックス代等)
◎秘書等の支援可能
◎事務所の名称は自由に選択可能
◎業務に関する質問等可能
◎事務所事件の共同受任可

応募方法
メールまたはお電話でご連絡ください。
残り応募人数(2019年5月1日現在)
採用は2名
独立支援は3名

連絡先
〒108-0023 東京都港区芝浦4-16-23アクアシティ芝浦9階
ITJ法律事務所 採用担当宛
email:[email protected]

71期修習生 72期修習生 求人
修習生の事務所訪問歓迎しております。

ITJではアルバイトを募集しております。
職種 事務職
時給 当社規定による
勤務地 〒108-0023 東京都港区芝浦4-16-23アクアシティ芝浦9階
その他 明るく楽しい職場です。
シフトは週40時間以上
ロースクール生歓迎
経験不問です。

応募方法
写真付きの履歴書を以下の住所までお送り下さい。
履歴書の返送はいたしませんのであしからずご了承下さい。
〒108-0023 東京都港区芝浦4-16-23アクアシティ芝浦9階
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