弁護士法人ITJ法律事務所

裁判例


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主文
被告人を懲役3年に処する。
この裁判確定の日から5年間その刑の執行を猶予する。
神戸地方検察庁で保管中の普通乗用自動車1台を没収する。
被告人から金216万8867円を追徴する。
理由
(罪となるべき事実)
被告人は,
第1平成15年4月27日から兵庫県a市長として,同市の事務を統括管理し,
a市パチンコ店等及びラブホテルの建築の規制に関する条例に基づき,同市内
にパチンコ店等の建築をしようとする者の同意申請に対し,その建築の同意の
有無を決定するなどの職務に従事していたものであるが,同年11月29日こ
ろ,兵庫県a市b町c番d号所在の被告人方において,パチンコ店等を経営す
る株式会社Aの代表取締役であったB及びパチンコ店を経営する有限会社Cの
代表取締役であったDから,将来Dが同市内にパチンコ店を新規出店するに当
たり前記条例に基づくパチンコ店建築同意申請に対して同意を与えるなどの便
宜な取り計らいを受けたいとの趣旨のもとに供与されるものであることを知り
ながら,普通乗用自動車1台(販売価格〔車両本体価格,付属品価格及び諸費
用を合計した額に消費税を加えた金額〕773万7020円)の供与を受け,
第2前記のとおり,兵庫県a市長として同市が発注する公共事業に関する事務等,
同市の事務全般を管理,執行する職務に従事していたものであるが,
1a市発注の公共事業に関し,廃棄物収集運搬・処理及び土木建築工事請負等
を目的とする株式会社E(以下「E」という。)が受注又は下請け参入するた
め有利かつ便宜な取り計らいを受けたいとの趣旨のもとに供与されるものであ
ることを知りながら,平成15年9月2日ころ,兵庫県a市ef丁目g番h号
所在のiビル2階のF後援会事務所において,同社の代表取締役であったGか
ら,携帯電話一式(税込み販売価格及び事務手数料合計1万140円)の供与
を受けるとともに,別表1【添付省略】記載のとおり,同年10月31日ころ
から平成17年6月30日ころまでの間,前後21回にわたり,神戸市j区k
町l丁目m番n号所在のH信用金庫I支店に開設された株式会社E名義の普通
預金口座ほか1口座からの自動引落の方法により,同携帯電話の利用料金合計
29万1375円の支払をしてもらい,同金額相当の財産上の利益の供与を受
け,
2a市発注の公共事業に関し,Eが受注又は下請け参入するため有利かつ便宜
な取り計らいを受けたことに対する謝礼及び今後も同様の取り計らいを受けた
いとの趣旨のもとに供与されるものであることを知りながら,平成17年6月
6日ころ,前記F後援会事務所において,携帯電話一式(税込み販売価格及び
事務手数料合計1万6440円)の供与を受けるとともに,別表2【添付省
略】記載のとおり,同年8月1日ころから平成18年1月31日ころまでの間,
前後7回にわたり,神戸市j区o町p番地のq所在の株式会社J銀行K支店に
開設された株式会社E名義の当座預金口座からの自動引落の方法により,同携
帯電話の利用料金合計7万7492円の支払をしてもらい,同金額相当の財産
上の利益の供与を受け,
3平成17年5月27日ころ,兵庫県a市rs丁目t番u号所在のレストラン
「L」において,2記載と同様の趣旨のもとに供与されるものであることを知
りながら,現金約30万円の供与を受け,
4同年9月29日ころ,前記被告人方マンション1階付近において,2記載と
同様の趣旨のもとに供与されるものであることを知りながら,現金約30万円
の供与を受け,
5同年12月21日ころ,前記被告人方マンション1階付近において,2記載
と同様の趣旨のもとに供与されるものであることを知りながら,現金約120
万円の供与を受け,
もって,それぞれ自己の職務に関して賄賂を収受したものである。
(補足説明)
弁護人は,判示第1の事実について,被告人が供与を受けた賄賂は,判示の自動
車(以下「本件自動車」という。)ではなく,その購入のために支払われた頭金及
びローン代金と構成すべきであり,また,そのうち賄賂となるのは,これらのうち
Dが負担した500万円にとどまる旨主張する。
しかし,関係証拠によれば,本件自動車が被告人に渡された前後の経緯について,
①被告人と旧知の仲であるBは,以前から二度にわたって被告人に対して自動車を
提供していたが,2台目に提供した自動車が車検の時期を迎えることもあり,被告
人の兵庫県a市長への就任祝いとして本件自動車を贈与しようと考えていたこと,
②しかし,Bにはその購入資金が十分になかったことから,BがDに対して,被告
人に自動車を提供する考えを話してその代金の負担を持ちかけたところ,Dは,将
来Dが判示の便宜な取り計らいを受けたいとの趣旨でその代金全額の負担を申し出
て,Bに500万円又は600万円を渡したこと,③Bはそのうち300万円を本
件自動車の購入の頭金にあて,代金の残額についてはローンを組み,その後Bにお
いてローン代金を支払っていたこと,④被告人も,Bから,本件自動車を贈与する
旨,またDがその購入代金を支払う旨を聞かされていたことが認められる。このよ
うな経緯に照らすと,B,D及び被告人のいずれも,D及びBから被告人に対して
は本件自動車の頭金やローン代金が提供されるという認識ではなく,本件自動車が
提供されるという認識であったことが明らかである。そして,本件自動車はその所
有権が販売会社に留保されていたものの,被告人に引き渡されて被告人はこれを利
用していたのであるから,賄賂となるのは本件自動車というべきであり,弁護人の
主張は採用できない。
なお,被告人の職務との関連性が認められるのは,Dが提供した範囲に限られる
と考えられるが,本件自動車は不可分一個の動産であるから,本件自動車全体につ
き収賄罪が成立するものと解すべきである。
もっとも,被告人が本件自動車を収受した時点でのその価額は,本件自動車の購
入契約における車両本体価格に付属品価格及び諸費用を合計した額に消費税を加え
た773万7020円というべきである。前記契約における支払総額は807万9
921円であるが,このうち割賦手数料は,実質的には,購入者が購入代金の全部
又は一部に相当する金銭を借りた利息であるから,本件自動車の価額に含まれない
ものである。なお,弁護人は,本件自動車の価額には,諸費用及び消費税を含める
べきでない旨主張するが,諸費用や消費税についても,本件自動車を購入する場合
必要となるのであるから,これらも本件自動車の価額に当然含まれるというべきで
ある。
(量刑の理由)
被告人は,判示第1においては,旧知のBから市長の就任祝いとして高級自動車
の提供の申し出を受けていたところ,パチンコ店を経営するDが被告人から便宜な
取り計らいを受けたいとの趣旨でその代金を負担することになったことを知りなが
ら,何らちゅうちょすることなく自動車を受け取ったものであり,市政の最高責任
者である市長として余りにも無自覚な行動であったといわざるを得ない。
また,判示第2においては,被告人から積極的に,産業廃棄物処理等を業務とす
るEの代表者であったGに対して,「そろそろ新しい機種の携帯電話が欲しい。」,
「年末で物要りなんや。」などと携帯電話や現金等を要求し,繰り返し現金等の提
供を受けているのであって,その経緯や動機に何ら酌量の余地がないことはもちろ
ん,被告人は,平成16年10月の台風23号によるa市v地区の災害処理の際,
市の担当者がかつての災害処理で実績のあるw市内の業者と随意契約をしようとし
たところ,a市内の業者を選定するよう指示し,Eと提携関係にあるa市内の業者
と随意契約を締結したり,a市緑のリサイクル事業において,競合他社の見積書等
の内部文書をGに渡した上,従前の随意契約方式を入札方式に切り替えてEが入札
に参加できるようにするなど,Gに対して具体的な便宜供与を図っているのであっ
て,犯情は悪い。
この点,弁護人は,被告人はGに賄賂を要求したことはなく,Gからの賄賂の提
供の申し出に甘えたにすぎないし,実際にも何ら便宜供与を図っていない旨主張す
る。しかし,被告人がGに対して前記のような趣旨の発言をした事実は被告人自身
もおおむね認めているところ,このような発言は,市長である被告人と一業者の代
表者にすぎないGの立場からすれば要求にあたることは明らかであるし,被告人が
Gに対して,何度も同様の言動をとり,その結果繰り返し携帯電話や現金等を受け
取っていたことからすれば,被告人も要求にあたることを十分に自覚していたとい
うべきである。便宜供与の点についても,v地区の災害廃棄物の処理については,
被告人がa市内の業者を打診するよう指示したことによって,Eが利益を得る結果
となっており,a市緑のリサイクル事業についても,被告人が随意契約方式を入札
方式に切り替えたことにより,Eが入札に参加できるようになったのであって,G
に対し便宜が図られたことは明らかである。被告人は,これらの点について行政判
断としての妥当性をいうが,仮にこれらが妥当な行政判断であるとしても,それが
Gからの金品提供との対価関係の下になされたという事実は変わらないのであって,
それはおよそ行政判断の妥当性如何によって正当化され得るものではなく,このよ
うな被告人とGの癒着は厳しい非難に値する。
そして,本件起訴にかかる収賄額は,合計990万円余りという高額に上ってい
る。
このように,本件は,犯行態様及び結果においていずれも悪質であり,市民から
の負託を受けた市長によるこのような犯行は,市民の市政に対する信頼を大きく損
ない,ひいては国民の政治不信にもつながるなど,社会的影響も誠に大きいのであ
って,被告人の刑事責任は相当に重いといわざるを得ない。
他方,判示第1については,被告人との付き合いが長く過去に二度にわたり自動
車を提供していたBが,当初被告人の職務と特段関連なく本件自動車の提供を申し
出ていたところに,途中からDが被告人から便宜を受けたいとの趣旨でその提供に
加わってきたという経緯から,安易にその提供を受けてしまったという側面がある
ことに加え,Dに対して直ちに具体的な便宜が図られるような状況にはなく,実際
にもDらに対して便宜供与は図られておらず,その経緯やその後の状況等に徴する
と,収賄罪としての悪質さはさほど強いとはいえないこと,被告人は,本件の発覚
が原因とはいえ,本件自動車のローン代金のうち100万円余りを負担するに至っ
ており,結果的に被告人が受けた利益は自動車代金の一部にとどまっていること,
本件事実関係についていずれもおおむね認め,市民に迷惑をかけたことは申し訳な
い旨述べていること,「M育英会」に対して500万円の贖罪寄附をしていること,
本件が大きく報道されて社会的に厳しい非難にさらされ,また,市長の職を辞する
など一定の社会的制裁を受けたといえること,前科前歴がないこと,妻が今後の監
督を約束していること,受け取った賄賂につき税務処理をしていることなど,被告
人のために酌むべき事情も認められる。
そこで,これら諸般の事情を総合考慮し,主文の刑に処した上,その執行を猶予
するのが相当であると判断した。
よって,主文のとおり判決する。
(求刑懲役4年,自動車1台の没収及び金216万8867円の追徴)
平成18年12月15日
神戸地方裁判所第2刑事部
裁判長裁判官佐野哲生
裁判官岩崎邦生
裁判官市原志都

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