弁護士法人ITJ法律事務所

裁判例


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         主    文
     本件上告を棄却する。
         理    由
 本件上告趣意は末尾添付の別紙記載のとおりであつて、これに対する判断は次の
とおりである。
 上告代理人伊佐早信、同両角誠英上告理由第一点について。
 原審がDに対する検事の聴取書、本件上告人A及びEに対する各検事の聴取書中
の記載を綜合して、Dが上告人の選挙運動の総括主宰者となつたことを、認定した
のについて、論旨はこれらの証拠によつては、右Dが上告人の選挙運動を総括主宰
した事実は認め難く、この点に関する原審の認定は違法であると主張するけれども、
右Dに対する聴取書中の「私は事務長格として選挙事務所になつて居る重次郎宅に
始終出入して運動の方針を決めたり、金の支出を責任を以て致しました其等選挙運
動については一切を候補者から委されて居つたのであります。」との記載、上告人
に対する聴取書中の「私は事務の不馴なDに選挙運動の一切を委せにこと」との記
載、右Eに対する聴取書中「選挙事務所ではDが事務長として始終来て居つて金銭
の授受から色々な計画や指図をして居りました。」との記載等によつても原審がD
を上告人の選挙運動を総括主宰した者と認定したのは当然であつて、右認定に所論
のような違法はなく、論旨に理由はない。
 同代理人上告理由第二点について。
 論旨は原審が上告人がDの選挙監督について、相当の注意をしたことを認めなが
ら、一面においてDの監督に相当の注意をなしたことは認められないと断じている
のは前後矛盾しており、原判決の理由に齟齬があると主張するのであるが原判決は
上告人とDとの交友関係、Dの閲歴性行等、Dを選挙運動費用の支出責任者に選任
するに至つた事情、上告人が県会議員選挙心得其の他の文書を選挙事務所に備付け
しめた事実等については、これを認定しているけれども、論旨のいうように監督に
相当の注意を払つたとは認めていないのであつて、従つて原判決の説明は所論のよ
うに前後矛盾するものではなく又その理由に齟齬もない。論旨は又検察事務官のD
に対する聴取書中原判決の引用する同人の供述記載は意味が曖昧、不明瞭であり、
同人の恣意的意見の表現に過ぎないから、証拠資料に為すに適しないものであるに
かゝわらず、原審がこれを証拠にとつたことは採証方法を誤つたものであり違法で
あると主張するのであるが、原審は事実審として許された自由裁量の範囲において、
これを証拠にとつたのであるから、これを目して採証の方法を誤つた違法があると
言うことはできないのであつて、論旨に理由はない。
 上告代理人千速賢正上告趣意第一点について。
 原判決が検察事務官のDに対する聴取書を引用して上告人がDに対し監督上周到
の注意を払つていたとは認められないと判示したのに対して、論旨は右Dの供述は
Dの経済的損失に対する不安を刺戟し感情を興奮せしめて誘導し報復的に供述せし
めたものであつて、原審がこれを証拠として採用したのは採証の法則を誤つている
と主張するけれども、右の供述が所論のような状況においてなされたものとは断定
できないのみでなく、原審は許された自由裁量の範囲において右聴取書を証拠とし
て採用したのであるから、これを目して採証の法則に反するということはできない。
論旨に理由はない。
 同代理人上告趣意第二点について。
 論旨は上告人はDの監督について相当の注意をしたのであつて、これ以上の監督
は人力を以ては不可能であると主張するのであるが、原判決は上告人においてDが
本件のような違反行為に出る虞あることを察知していたこと並びにDは数回にわた
り金円供与の犯行を反覆敢行したにかゝわらず上告人が看過していたことを認定し
た上上告人がDの監督について相当の注意をしたと言うことはできない旨判示して
いるのであつて、その説明には所論のような違法はないから、論旨は理由はない。
 よつて地方自治法第六八条第三項衆議院議員選挙法第一四一条ノ二旧刑事訴訟法
第五七七条、同第四四六条に則り主文のとおり判決する。
 右は当小法廷裁判官全員一致の意見である。
     最高裁判所第三小法廷
         裁判長裁判官    長 谷 川   太 一 郎
            裁判官    井   上       登
            裁判官    河   村   又   介
            裁判官    穂   積   重   遠

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