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平成23年4月27日判決言渡
平成22年(行ケ)第10326号審決取消請求事件
平成23年3月2日口頭弁論終結
判決
原告三井住友カード株式会社
訴訟代理人弁護士小林十四雄
訴訟代理人弁理士岡村信一
訴訟復代理人弁護士森一生
被告特許庁長官
指定代理人小川きみえ
同小俣克巳
同小林和男
同板谷玲子
主文
1特許庁が不服2010−214号事件について平成22年8月31日にした
審決を取り消す。
2訴訟費用は被告の負担とする。
事実及び理由
第1請求
主文同旨
第2当事者間に争いのない事実
1特許庁における手続の経緯等
原告は,別紙商標目録1記載のとおり,「GoldLoan」の欧文字を横書き
してなり,第36類「資金の貸付け」を指定役務とする商標(以下「本願商標」と
いう。)について,平成20年12月10日に商標登録出願(商願2008―996
42号)をしたが,平成21年10月2日付けで拒絶査定を受け(同月7日送達),
平成22年1月6日,同査定に対する不服の審判(不服2010−214号事件)
を請求した。
特許庁は,平成22年8月31日,「本件審判の請求は,成り立たない。」との審
決(以下「審決」という。)をし,その謄本は同年9月13日に原告に送達された。
2審決の理由
審決の理由は,別紙審決書写しのとおりである。要するに,本願商標は,登録第
3140108号商標(別紙商標目録2記載のとおり,「CitiGoldLoa
n」の欧文字を横書きしてなり,平成4年9月29日に登録出願され,第36類「資
金の貸付け」を指定役務として,平成8年4月30日に設定登録がされ,その後存
続期間の更新登録がなされ,現に有効に存続しているもの。以下「引用商標」とい
う。)と類似し,商標法4条1項11号に該当する,というものである。
第3審決の取消事由に関する原告の主張
審決には,以下のとおり誤りがある。
1引用商標について
(1)審決は,引用商標について,引用商標の構成中「Citi」,「Gold」及
び「Loan」の各文字部分の語頭が,「C」,「G」及び「L」と,それぞれ大文字
で表されていることからすれば,全体として,「Citi」,「Gold」及び「Lo
an」の各文字よりなるものと看取されるべきであるとする。
しかし,審決の判断は,以下のとおり誤りである。
すなわち,引用商標は,太めのやや傾いたゴシック体で書された「CitiGo
ld」と「Loan」の各欧文字を,約1文字分の間隔を空けて組み合わせてなる
結合商標である。このうち,「CitiGold」の文字部分は一連一体の文字構成
よりなるうえに,文字同士の間隔がほとんどないため,各構成部分がそれを分離し
て観察することが取引上不自然であると思われるほど不可分的に結合しているもの
というべきであり,外観上ひとかたまりの造語と認識されるものである。仮に,本
願商標が「Citi」「Gold」「Loan」の各文字よりなるものと取引者,需
要者が認識する場合があるとしても,そのことから直ちに取引者,需要者が語頭の
「CitiGold」の文字部分を「Citi」と「Gold」とに分離して観察
することは誤りである。
(2)審決は,引用商標の構成中「Citi」の文字部分は,金融大手シティグル
ープ・インコーポレーテッド(以下「シティグループ」という場合がある。)の金融
サービス消費者企業銀行部で,米国に本店を置く銀行である「Citibank,
N.A.(シティバンク,エヌ・エイ)」(以下「引用商標権者」ということがあ
る。)の商号の略称であると認定する。
しかし,審決の認定は,以下のとおり誤りである。
すなわち,引用商標権者の商号の略称は「Citibank」であり,「Citi」
ではない。仮に,「Citi」が引用商標権者又は引用商標権者の属するシティグル
ープの略称であったとしても,指定役務である資金の貸付けの需要者の範囲は広く
一般需要者を含むものであるところ,一般需要者が引用商標中の一部のみを捉えて,
これを引用商標権者やシティグループの略称を表示したものと認識し得るほど,当
該「Citi」の構成文字部分は取引者,需要者間において出所識別標識として強
く支配的な印象を有するものではない。
(3)審決は,引用商標について,その構成中,引用商標権者の著名な略称となっ
ている「Citi」と「GoldLoan」のそれぞれの文字部分をもって,取
引される場合があり,引用商標を常に一体のものとして把握すべき特段の事情はな
いと認定する。
しかし,審決の認定は,以下のとおり誤りである。
すなわち,上記のとおり,「Citi」の文字部分は引用商標権者の商号の略称と
して著名なものではないから,「CitiGoldLoan」の構成よりなる引用
商標を「Citi」と「GoldLoan」の2つの文字部分よりなるものと認
識,理解されない。取引の実情をみると,①引用商標権者は,引用商標中の「Ci
tiGold」の文字部分に酷似する「Citigold」(シティゴールド)を「資
金の貸付け」を含む役務に使用していること(甲1,2),②引用商標権者は,「C
ITIGOLD」の一連不可分の文字を構成要素とする結合商標を商標登録してい
ること,③引用商標権者は,「CITIGOLDPREMIUM」(甲9),「CI
TIGOLDSELECT」(甲10),「CITIGOLDPRIVATEC
LIENTシティゴールドプライベートクライアント」(甲11)等について「資
金の貸付け」を指定役務に含む商標登録をしていることによれば,引用商標権者が
「CITIGOLD」を一連不可分の商標として使用しているといえる。
(4)審決は,引用商標について,その構成文字全体より生ずる「シティゴールド
ローン」の称呼のほか,「Citi」及び「GoldLoan」の各文字部分に相
応した「シティ」及び「ゴールドローン」の称呼をも生ずると認定する。
しかし,審決の認定は,以下のとおり誤りである。
すなわち,前記のとおり,取引の実情において引用商標が「Citi」と「Go
ldLoan」の各文字部分に分離観察されるべき特段の事情はなく,引用商標
より「シティ」及び「ゴールドローン」の称呼が生ずることはない。
(5)被告は,乙11が引用商標の使用例であることを前提として,引用商標中の
「Citi」の文字部分は,引用商標権者が属するシティグループのハウスマーク
と,「GoldLoan」の文字部分は,「貸金の貸付け」役務についてのペット
マークと,それぞれ認識されると主張する。
しかし,乙11は,記載されている3桁の郵便番号等からすれば,審決時の10
年以上前のものと推認される上,そこでも引用商標権者のハウスマークは,「CIT
IBANK」のロゴと横長楕円形の内部中央に四稜星を配置してなる図形であって,
「Citi」ではないから,「CitiGoldLoan」の文字よりなる引用商
標は,ハウスマークとペットマークとの結合商標ではなく,全体が「資金の貸付け」
に関する1つのペットマーク(個別役務商標)である。
したがって,被告の上記主張は失当である。
2本願商標と引用商標との類否について
本願商標と引用商標とは,以下のとおり類似しない。
(1)外観,観念及び称呼について
以下のとおり,外観,観念,称呼及び取引の実情を考慮すれば,本願商標と引用
商標とは,類似しない。
ア外観
本願商標は,「GoldLoan」の欧文字を特有の書体で表記されたものであ
るのに対し,引用商標は「CitiGoldLoan」の欧文字を本願商標とは
明確に異なる書体で表記されたものである。また,引用商標の「CitiGold」
の文字部分は,前記のとおり,一連一体の文字構成よりなる上,文字同士の間隔が
ほとんどないため,各構成部分がそれを分離して観察することが取引上不自然であ
ると思われるほど不可分的に結合している。したがって,本願商標と引用商標とは,
外観において類似しない。
イ観念
本願商標と引用商標とは,共に特定かつ明確な意味合いを想起させることのない
造語と認められるため,両商標は観念において類似しない。
ウ称呼
本願商標は,「ゴールドローン」の称呼が生じるのに対し,引用商標は「シティゴ
ールドローン」又は「シティゴールド」の称呼が生じる。引用商標「CitiGo
ldLoan」中の「CitiGold」の文字部分は,前記のとおり,外観上,
分離して観察することが取引上不自然であると思われるほど不可分的に結合してい
るものであるから,「ゴールドローン」の称呼は生じない。したがって,両商標は,
称呼において異なる。
(2)取引の実情等について
ア本願商標の使用の実情について
本願商標は,原告により「金利逓減型カードローン」の商標として審決時以前で
ある平成21年1月5日から使用されている。なお,原告は,以下の商標登録を受
けているところ,これらの商標中,需要者に出所識別標識として認識される特徴の
ある部分は「ゴールドローン」の文字部分である。この「ゴールドローン」の文字
部分は,本願商標と称呼を同じくするものであるから,引用商標との称呼類似を理
由に本願商標を拒絶する一方で,下記商標の商標登録を認めることは合理性を欠く。
(ア)「ゴールドローンカードレス」(甲48)
(イ)「三井住友カードゴールドローンカードレス」(甲49)
(ウ)「三井住友カードゴールドローンプラス」(甲50)
(エ)「ゴールドローンプラス」(甲51)
イ引用商標及び引用商標に類似する商標の使用の実情について
引用商標は,審決時の相当前から使用されていない。むしろ,シティバンク銀行
株式会社(以下「シティバンク銀行」という場合がある。)は,引用商標の「Cit
iGold」の文字部分に酷似する「Citigold」について,預金額が10
00万円を超える顧客に対して行う資産運用のコンサルタント役務の商標として使
用している(甲1,2)。また,引用商標権者は,前記のとおり,「CITIGOL
D」の文字部分を含む商標について複数商標登録を受けている(甲9ないし11)。
ウ混同のおそれについて
本願商標の使用対象役務は,一般需要者に対する資金の貸付けであるところ,前
記のとおり,引用商標は,審決時の相当前から使用されておらず,引用商標の一部
に酷似する「Citigold」が,特定顧客のための資産運用コンサルタント役
務の商標として使用されている。そうすると,実際の取引に際して,本願商標と引
用商標との間に出所の混同を生じるおそれを推認させる特段の事情は存在しない。
(3)過去の登録例について
引用商標権者は,次の商標登録を受けている。
ア「CitiActiveLoan」(甲12,13)
イ「CitiSpecialLoan」(甲14,15)
ウ「CitiSelectLoan」(甲16,17)
エ「CITISELECTION」(甲18,19)
他方,次の各商標は,上記登録商標があるにもかかわらず,商標法4条1項11
号に該当しないものとして,商標登録を受けている。
オ「ACTIVEローン」(甲20,21)
カ「アクティブローン」(甲22ないし25)
キ「セレクション」(甲26,27)
3結論
以上のとおり,本願商標と引用商標とは,外観,称呼,観念のいずれにおいても,
類似せず,取引の実情を考慮しても,両者間に出所の誤認混同を生ずるおそれはな
い。仮に,本願商標が称呼上引用商標に類似するとしても,外観において著しく相
違し,観念上も非類似であるほか,引用商標は不使用であることなどの取引の実情
に鑑みれば,本願商標の指定役務についての使用が,引用商標権者との間で役務の
提供主体の誤認混同を生じさせるおそれはない。
第4被告の反論
1引用商標について
原告は,引用商標中「CitiGold」の文字部分は不可分一体の構成よりな
り,「Citi」の文字部分は引用商標権者の商号の略称として著名なものではな
いから,「CitiGoldLoan」の構成よりなる引用商標を「Citi」
と「GoldLoan」の2つの文字部分よりなるものと理解することはないと
主張する。しかし,原告の主張は,以下のとおり,失当である。すなわち,
(1)引用商標は,「CitiGoldLoan」の文字からなるところ,構成
中の「CitiGold」の文字が一連に表され,「Loan」の文字との間に一
文字分の空白を有しているとしても,「Citi」,「Gold」及び「Loan」
の各文字は,その語頭が,「C」,「G」及び「L」のように,それぞれ大文字で
表されていることから,視覚上,「Citi」,「Gold」及び「Loan」の
各文字から構成されているものと看取し得るものである。
(2)引用商標は,前記(1)のとおり,視覚上,「Citi」,「Gold」及び
「Loan」の各文字部分から構成されていると看取し得るものであるところ,そ
の構成中の「Citi」は,指定役務との関係では,世界でも有数の銀行「Cit
ibank,N.A.(シティバンク,エヌ・エイ)」(日本においては,平成1
9年に,「Citibank,N.A.(シティバンク,エヌ・エイ)」の在日支
店の銀行業務の譲渡を受けたシティバンク銀行が,その銀行業務を引き継いでい
る。)を傘下にするシティグループの略称を表記したものであると理解される。そ
うすると,引用商標の構成中の「Citi」は,引用商標の指定役務「資金の貸付
け」を始め金融商品の提供を受ける取引者,需要者をして,シティグループの略称,
又は,これと何らかの関係を有する者の取り扱う役務等の代表的な出所表示として
認識,把握させるものといえる。さらに,引用商標の構成中の「Gold」及び「L
oan」の文字とを組み合わせた「GoldLoan」の文字部分は,特定の意
味合いを想起するものではないが,「資金の貸付け」の個別商標であるペットマー
クと捉えて取引に資されることも少なからずあり,「資金の貸付け」の役務に関す
る出所表示標識として取引者,需要者に看取させるものといえる。
したがって,審決の引用商標についての認定に誤りはない。
2本願商標と引用商標との類否について
以下のとおり,原告は,審決が,本願商標と引用商標との類否判断について,外
観,称呼,観念による全体的観察,具体的取引の実情の参酌などを誤り,その結果,
上記判断を誤ったと主張する。しかし,原告の主張は,以下のとおり,失当である。
すなわち,
(1)本願商標について
本願商標の外観,観念,称呼
本願商標は,「GoldLoan」の欧文字を横書きに表記したとおりの外観
を有する。
そして,「金」等を意味する「Gold」(小学館ランダムハウス英和大辞典。
乙1の1)と「貸付」等を意味する「Loan」(小学館ランダムハウス英和大辞典。
乙1の2)を結合してなる「GoldLoan」の文字は,外国語辞典(小学館
ランダムハウス英和大辞典。乙1の3)や金融辞典(東洋経済新報社。乙1の4)に,
特定の意味合いを表す語として掲載されておらず,需要者等が,本願商標から,特
定の観念は生じない。本願商標からは,「ゴールドローン」の称呼を生ずる。
なお,本願商標の指定役務「資金の貸付け」を提供する金融業界において,「資
金の貸付け」を意味する「ローン」あるいは「LOAN」の文字と他の文字とを結
合し,例えば,「@LOAN(アットローン)」(乙2),「アグリローン」(乙
3),「おでかけマイカーローン」(乙4),「快環暮らしローン」(乙5),「L.
Lローン」(乙6),「リゾート応援ローン」(乙7),「NOLOAN(ノーロ
ーン)」(乙8)及び「ハローローン」(乙9)のように,「△△LOAN」(「△
△ローン」)との語が,「資金の貸付け」の役務の出所標識として使用されている。
(2)類否の判断について
ア外観
本願商標と引用商標は,共に,「GoldLoan」の文字部分を特徴とする
ものであるから,その外観を全体観察をもって対比した場合には相違する点を有す
るとしても,本願商標と引用商標の特徴的部分である「GoldLoan」の文
字とを対比した場合には,その文字構成を同一にするものであるから,外観におい
て,近似した印象を与える。
イ称呼及び観念
本願商標と引用商標は,「GoldLoan」の文字部分が,独立して自他役
務の識別標識としての機能を果たし得るといえることから,簡易迅速を尊ぶ商取引
の場においては,該文字部分より生ずる「ゴールドローン」の称呼をもって,取引
に当たる場合があり得る。本願商標と引用商標とは,「ゴールドローン」の称呼を
共通にする。
両商標の「GoldLoan」の文字部分からは,特定の観念は生ずることは
ない。両商標から生ずる観念の相違により,明確に区別し得るというものではない
から,観念が外観及び称呼の類否判断に影響を与えることはない。
ウ取引の実情等
実際の商取引の場にあっては,商品及び役務の主体を表示する代表的な出所表示
(ハウスマーク)とともに,取り扱いに係る多くの商品及び役務の種類を個別化し
て特定するための個別商標(ペットマーク)が一般的に使用されている。この点,
本願商標及び引用商標の指定役務「資金の貸付け」の金融商品を取り扱う業界にお
いては,その役務の特徴として,それぞれの企業によって,個別に金利を優遇する
等の差別化を図り,その金融商品に対して,それぞれ個別の商品表示,すなわち,
ペットマークを使用している実情があり,「GoldLoan」もその一類型であ
るといえる。そして,「資金の貸付け」を指定役務として,先願登録された商標が,
「CitiGoldLoan」のように,ハウスマークとペットマークとで構成
されており,かつ,当該商標が実際に使用された事実(乙11)がある場合,「C
itiGoldLoan」に接する取引者,需要者は,「Citi」の部分をシ
ティグループの代表的な出所表示と認識し,「GoldLoan」の部分を個別
役務,すなわち「資金の貸付け」の個別の出所表示として認識し,看取するものと
いうべきである。かかる状況において,ペットマークと同一又は類似の商標を,シ
ティグループとは,何らの関係を有さない原告が,商標出願し,それを登録するこ
とは,取引者,需要者に商品及び役務の出所の混同を生じさせるおそれがある。
3結論
以上のとおり,本願商標と引用商標とは,「GoldLoan」の文字部分に
おいて,外観が類似し,「ゴールドローン」の称呼を共通にし,取引の実情におい
ても,その出所の誤認混同を生じさせるおそれがあり,自他役務の識別機能の希釈
化を招来するものであって,需要者及び取引者に与える印象,連想等を総合して全
体的に考察すると,本願商標と引用商標とは類似する。よって,本願商標は,商標
法4条1項11号に該当するとした審決の認定・判断に誤りはない。
なお,原告は,引用商標権者に係る「Citi」と他の既成語とを結合した「C
iti○○○」あるいは「CITI○○○」の造語商標についての登録例を挙げ,
これらの登録例と並存する「○○○」部分の登録例の存在があるところからすれば,
本願商標も同様に登録されるべきであると主張する。しかし,登録出願に係る商標
が登録され得るものであるか否かの判断は,当該商標の全体構成に基づいて,指定
役務に係る取引の実情を勘案して,個々の商標ごとに個別具体的に検討し,判断さ
れるべきものであり,原告の上記主張は失当である。
第5当裁判所の判断
当裁判所は,本願商標と引用商標について類似であるとした審決の判断は誤りで
あると解する。その理由は,以下のとおりであるが,事案にかんがみ,取消事由1
及び2の当否をまとめて判断する。
1事実認定
(1)本願商標の外観,観念及び称呼
本願商標は,別紙商標目録1記載のとおり,「GoldLoan」の欧文字を横
書きで表記したもので,「Gold」と「Loan」との間に,約1字分の間隔が
設けられている。
本願商標中「Gold」部分からは,金,富,財宝,金色,貴重なもの・高貴な
もの・素晴らしいものなどの観念を生じさせる(乙1の1「小学館ランダムハウス
英和大辞典第2版」参照)。本願商標中「Loan」部分からは,貸与,貸し付け,
貸与金,借金などの観念を生じさせる(乙1の2「小学館ランダムハウス英和大辞
典第2版」参照)。もっとも,「Loan」部分は,指定役務である「資金の貸付
け」そのものを指す語であることに照らすならば,役務の出所を識別する機能はな
いと解するのが相当である。「GoldLoan」に相当する語は存在しないの
で,固有の観念は生じることはないが,場合により,素晴らしいとの印象を与える
貸し付けなどの観念を生じさせることがあり得るといえる。
本願商標は,「ゴールドローン」との称呼が生じる。
(2)引用商標の外観,観念及び称呼
引用商標は,別紙商標目録2記載のとおり,「CitiGoldLoan」の
欧文字を,ほぼ同じ大きさの太い文字で,右に傾斜させ,横書きで表記されたもの
で,「CitiGold」と「Loan」との間には,約1文字分の間隔が設けら
れている。
引用商標の「CitiGold」部分は,「CitiGold」に相当する既存
の語は存在しないので,その限りでは,格別の観念を生じることはなく造語と理解
される。なお,「CitiGold」部分の,先頭の「Citi」部分からは,「city」
とは綴りが異なるものの,その音から「都市」との観念,又は金融機関であるシテ
ィグループないし関連会社の商号(略称)であるとの観念を生じさせ,後方の「G
old」部分からは,金,金色,富,財宝,貴重なもの,高級なもの,素晴らしい
ものなどの観念を生じさせることがあり得るといえる。引用商標の「Loan」部
分からは,貸与,貸付け,貸与金,借金などの観念が生じる。もっとも,「Loa
n」部分は,指定役務である「資金の貸付け」そのものを指す語であることに照ら
すならば,役務の出所を識別する機能はないと解するのが相当である。
引用商標からは,「シティゴールドローン」ないし「シティゴールド」の称呼が
生じさせるというべきである。
(3)取引の実情等について
ア本願商標
原告は,金利逓減型カードローンについて,「GoldLoan」をカードに
表記して使用するほか,「ゴールドローン」,「三井住友カードゴールドローン」
等をウエブサイトにおいて使用している(甲47)。また,原告は,第36類「資
金の貸付け」を指定役務として,「ゴールドローンカードレス」(甲48),「三
井住友カードゴールドローンカードレス」(甲49),「三井住友カードゴール
ドローンプラス」(甲50),「ゴールドローンプラス」(甲51)の商標を登録
している。
イ引用商標
引用商標権者は,国際的な金融機関であるシティグループに属し,米国に本社を
置く,シティバンク,エヌ・エイである。平成19年には,シティバンク,エヌ・
エイの在日支店の銀行業務が譲渡されるなどして,日本法人であるシティバンク銀
行株式会社が設立された(甲4,5,乙10)。
シティバンク銀行株式会社は,平成21年11月ころ,預金額が1000万円を
超える顧客向けの各種金融取引及び資産運用コンサルタントサービスについて,「C
itiGold」,「Citigold」及び「シティゴールド」の標章を用いて
いた(甲1,2)。同社の発行したパンフレットには,「シティゴールドは,シテ
ィバンクが長い年月をかけて培った運用ノウハウやグローバルな情報力を最大限活
用し,お客様の資産形成をお手伝いするワンランク上のステージ。・・・シティゴ
ールドのお客様を担当するのは,・・・・シティゴールドエグゼクティブ」などの
説明文が記載されている。
また,シティバンク,エヌ・エイ及びシティコープカードサービスInc.などのグ
ループ企業が,最高100万円までの貸付けを行なうサービスについて,引用商標
を使用した例もある(乙11)。
さらに,シティバンク,エヌ・エイは,第36類「資金の貸付け」を含む指定役
務について,「CITIGOLDPREMIUM」(甲9),「CITIGOL
DSELECT」(甲10),「CITISELECTION」(甲18)の登
録商標を有している。また,同社は,第36類「資金の貸付け」を含む指定役務に
ついて,「CitiActiveLoan」(甲12,13),「CitiSp
ecialLoan」(甲14,15),「CitiSelectLoan」
(甲16,17)の商標を登録していた(いずれも存続期間満了により抹消済)。
また,シティグループは,第36類「資金の貸付け」を含む指定役務について,「C
ITIGOLDPRIVATECLIENT/シティゴールドプライベート
クライアント」(甲11)の登録商標を有している。
2本願商標と引用商標との類否
(1)類否の判断
本願商標の外観は,別紙商標目録1に記載したとおり,「GoldLoan」
であるのに対し,引用商標の外観は,別紙商標目録2に記載したとおり,右に傾斜
させた横書きで,特有の書体で表記された「CitiGoldLoan」であり,
「CitiGold」と「Loan」との間には,約1文字分の間隔が設けられて
いる。引用商標中の「C」と「G」の間に「iti」の小文字の高さを揃えて配置
し,「CitiGold」と表記した特徴的な書体に照らすと,取引者,需要者は,
引用商標の「CitiGold」部分をまとまったものとして認識すると解される。
両商標は,外観において,相違が認められる。
また,本願商標からは,「ゴールドローン」との称呼を生じさせるのに対し,引
用商標からは,「シティゴールドローン」ないし「シティゴールド」の称呼を生じ
させる。取引者,需要者は,「ローン」部分については,指定役務である「資金の
貸付け」との関係で,識別機能を有する部分と解されないことに照らすならば,両
商標は,称呼においても,相違が認められる。
さらに,本願商標は,全体として,特定の観念は生じないというべきであるが,
需要者において素晴らしいとの印象を抱かせるような種類のローンとの観念を生じ
させることもあり得るといえる。これに対し,引用商標も,全体として,特定の観
念は生じないというべきであるが,需要者,取引者は,シティバンク銀行株式会社
等が属するシティグループが提供するローン(貸付け)ないし金融サービスとの観
念を生じさせることもあり得るといえる。そうすると,両商標は,観念が生じない
と解した場合には対比ができないが,観念を想起できると解した場合には,互いに
相違する。
以上のとおり,本願商標と引用商標とは,その外観,称呼において相違する。ま
た,観念においては,特定の観念が生じないので,対比することはできないが,他
方,シティバンク銀行株式会社等が属するシティグループが提供する貸し付け役務
と理解される場合には,観念において相違する。そして,原告は,金利逓減型カー
ドローンにおいて,「GoldLoan」をカードに表記して使用するほか,「ゴ
ールドローン」,「三井住友カードゴールドローン」等の表記をウエブサイトに
おいて使用しているのに対して,シティバンク銀行株式会社は,「CitiGol
d」,「Citigold」及び「シティゴールド」の表記を,貸付けを行なうサ
ービスに用いていたこと,本願商標及び引用商標の指定役務は,いずれも「資金の
貸付け」であるところ,一般に,その需要者,取引者である資金の借主にとっては,
資金の貸主が誰であるかは,最も重要な要素の一つであるから,契約を締結するに
当たり,相応の注意を払った上で,貸主が誰であるかを確認するものと推認される
ことなど,指定役務の内容を含めた取引の実情等をも総合考慮するならば,取引者,
需要者において,両商標における役務の出所について混同を来すおそれは認められ
ないと解すべきであって,両商標は類似しない。
(2)被告の主張に対する判断
ア被告は,引用商標について,①「CitiGold」部分の「C」のみなら
ず「G」も大文字で表記されていることから,「Citi」は,「Gold」と分離
されて理解されること,②「Citi」は,シティグループの著名な略称と理解さ
れること,③そうすると「GoldLoan」部分が,認識の対象となる部分と
されるべきである旨を主張する。
しかし,被告の上記主張は採用することができない。すなわち,前記認定したと
おり,①引用商標の外観は,「CitiGold」と「Loan」との間には,1文
字分の明確な間隔が設けられていることから,その表記態様から離れて,「Cit
i」のみを分離して理解し,「Gold」部分を「Loan」を併せて理解すること
は,著しく不自然であること,②引用商標の「Loan」部分は,指定役務である
「資金の貸付け」を意味するから,引用商標における識別機能を有する特徴部分と
いえず,引用商標の特徴的部分は,「CitiGold」部分と解するのが相当であ
ること,③引用商標の「CitiGold」部分は,右斜めに傾斜し,太く描かれ
た独特の書体が用いられ,またCiti部分については,大文字と小文字のいずれ
も縦の長さを揃えるなど特有のデザインが施されていること,④「CitiGol
d」部分は,シティグループにより,パンフレット等の宣伝広告媒体において,数
多く使用されていること等の事情を総合考慮するならば,引用商標の特徴的部分は,
「CitiGold」であるということができる。また,本件全証拠によるも,取
引者,需要者は,引用商標から,「GoldLoan」部分によって,当該役務の
出所を識別して,取引を行っていたと認めるに足りる証拠はない。したがって,「G
oldLoan」ないし「ゴールドローン」をもって,指定役務の出所の特徴的
な部分と解するのは相当でない。
イ被告は,本願商標及び引用商標の指定役務である「資金の貸付け」を取り扱
う業界においては,商品及び役務の主体を表示する代表的な出所表示(ハウスマー
ク)とともに,商品及び役務の種類を個別化して特定するための個別商標(ペット
マーク)を使用している実情があり,引用商標についても,「Citi」がハウスマ
ークに相当し,「GoldLoan」がペットマークに相当すると主張する。
しかし,前記認定した取引の実情に照らすならば,引用商標は,「CitiGol
d」の部分が取引者,需要者に対して役務の出所の識別標識として強く支配的な印
象を与えるから,「Citi」の部分を除外した「GoldLoan」の文字部
分が,自他役務の識別標識としての機能を果たすとすることは考えにくい。のみな
らず,本件全証拠によるも,引用商標について,「GoldLoan」の文字部分
が,独立して自他役務の識別標識としての機能を果たしていると認めるに足りる証
拠は存在しない。したがって,被告の上記主張は,採用することができない。
(3)小括
以上のとおり,本願商標と引用商標とは,外観,称呼において類似せず,取引の
実情を考慮にいれても,役務の出所に誤認を生じさせるおそれがあるとはいえない
から,審決が,本願商標と引用商標は類似するとした判断には誤りがある。
3結論
以上によれば,原告の本件請求は理由があるから,これを認容することとし,主
文のとおり判決する。
知的財産高等裁判所第3部
裁判長裁判官
飯村敏明
裁判官
知野明
裁判官中平健は,転補のため,署名押印することができない。
裁判長裁判官
飯村敏明
(別紙)商標目録
1本願商標
2引用商標

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