弁護士法人ITJ法律事務所

裁判例


戻る

平成15年(行ケ)第489号 審決取消請求事件
平成16年5月31日判決言渡,平成16年5月17日口頭弁論終結
     判    決
 原      告  環境工学株式会社
 訴訟代理人弁理士  村田実,佐野邦廣
 被      告  特許庁長官 今井康夫
 指定代理人     山田忠夫,新井夕起子,小曳満昭,大橋信彦
     主    文
 原告の請求を棄却する。
 訴訟費用は原告の負担とする。
     事実及び理由
 以下において,「および」は「及び」と統一して表記した。その他,引用箇所に
おいても公用文の表記に従った箇所がある。
第1 原告の求めた裁判
 「特許庁が訂正2003-39109号事件について平成15年9月25日にし
た審決を取り消す。」との判決。
第2 事案の概要
 1 特許庁における手続の経緯
 原告は,本件特許第2840061号「生態系保護用自然石金網」(出願遡及
日:平成5年9月17日。平成5年9月17日に特許出願された特願平5-231
591号を,平成8年5月22日に実用新案登録出願(実願平8-4437号)に
出願変更し,さらに,同年7月24日に特許出願に出願変更したもの。設定登録
日:平成10年10月16日)の特許権者であるが,日本ゼオン株式会社が請求し
た本件特許の無効審判請求(無効2002-35331)についてされた本件特許
を無効とする審決の取消訴訟(当庁平成15年(行ケ)第175号)の係属中である
平成15年5月23日,本件特許につき特許請求の範囲の減縮を目的とする訂正審
判の請求をした(訂正2003-39109)。
 平成15年9月25日,この訂正審判請求につき特許庁において「本件審判の請
求は,成り立たない。」との審決があり,その謄本は同年10月8日原告に送達さ
れた。
 2 訂正発明の要旨
 河川護岸を造成するための生態系保護用自然石金網であって,
 吸い出し防止用シートの上面に重合した金網又はメッシュ上に複数の自然石を,
該各自然石が互いに離間した状態で敷き並べて,該自然石相互の間に水棲生物・植
物生育用の自然空間を形成するとともに,同各自然石の下部に接着材を層着し,同
接着材を介して前記自然石と金網又はメッシュと吸い出し防止用シートを一体成形
してなり,
 前記自然石と前記金網又はメッシュと前記吸い出し防止用シートとの一体成形
は,前記接着材が,該各自然石の下部から該金網又はメッシュの網目を通して該吸
い出し防止用シートに浸出して,該金網又はメッシュの網目区画線材を左右側方,
上方及び下方において包み込むことにより行われている,
ことを特徴とする生態系保護用自然石金網。
 (1) 審決の理由の要点
 引用刊行物(実公昭51-9135号公報,甲3)には,次の発明(引用発明)
が記載されているものと認められる。
「水流による河川等の床や斜面の侵食を防止するために,その表面に設置して保護
する覆工マット材であって,
 中央部及び隣接縁部に貫通孔12,26,28を有する,コンクリート等をあら
かじめ成形して成るブロックBと,
 両端又は片端を把持して吊下したとき支持するブロックBの重量により破断され
ない程度の十分な強度を有する金属の網44と,
 液体透過性で土壌粒子を通さない程度のメッシュを持ち地表表面形状に一致する
ような可撓性支持シート46とを,
 上側から,ブロックB,金属の網44,可撓性支持シート46の順で,接着剤に
より一体化してなり,
 この一体化は,接着剤が,ブロックBの下部から金属の網44の網目を通して可
撓性支持シート46に浸出して行われている,
 植物繁茂による環境緑化が可能な,地表侵食防止用覆工マット材。」
 (2) 訂正発明と引用発明との対比
 訂正発明と引用発明とを対比すると,引用発明の「液体透過性で土壌粒子を通さ
ない程度のメッシュを持つ可撓性支持シート46」,「吊下したとき支持するブロ
ックの重量により破断されない程度の十分な強度を有する金属の網44」,「接着
剤」,「接着剤により一体化」,及び「植物繁茂による環境緑化が可能な,地表侵
食防止用覆工マット材」は,訂正発明の「吸い出し防止用シート」,「金網」,
「接着材」,「接着材を介して一体成形」,及び「生態系保護用金網」にそれぞれ
相当する。そして,引用発明の「ブロック」も訂正発明の「自然石」も共に,表面
の侵食を防止するための「塊状表面部材」といえるから,両者は,
 「河川護岸を造成するための生態系保護用金網であって,
吸い出し防止用シートの上面に重合した金網上に複数の塊状表面部材を敷き並べる
とともに,同各塊状表面部材の下部に接着材を層着し,同接着材を介して,前記各
塊状表面部材と金網と吸い出し防止用シートを一体成形してなり,
 前記塊状表面部材と,前記金網と,前記吸い出し防止用シートと,の一体成形
は,前記接着材が,該各塊状表面部材の下部から該金網の網目を通して該吸い出し
防止用シートに浸出して行われている,塊状表面部材を具備した生態系保護用金
網。」
 である点で一致し,以下の点で相違している。
 相違点1:「接着材」が,訂正発明では金網の網目区画線材を左右側方,上方及
び下方において包み込んでいるのに対し,引用発明では金網との関係が明確に記載
されていない点
 相違点2:「塊状表面部材」が,訂正発明では,互いに離間した状態で敷き並べ
た自然石であり,相互の間に水棲生物・植物生育用の自然空間を形成するものであ
るのに対し,引用発明では,互いに接した状態で敷き並べた,コンクリート等をあ
らかじめ成形して成るブロックであり,その中央部及び隣接縁部に設けた貫通孔に
より水棲生物・植物生育用の自然空間を形成するものである点
 (3) 相違点についての判断
<相違点1について>
 引用発明には,接着材と金網との関係が明確に記載されていないが,ブロック
(訂正発明の「自然石」に対応する。)と可撓性支持シート(「吸い出し防止用シ
ート」)とを,金網を介在させながら接着材で一体化するものである以上,該金網
が接着材中に埋設される,すなわち,接着材が,金網の網目区画線材の左右側方,
上方及び下方を包み込むものであることは,当然の事項にすぎず,相違点1として
摘記した事項は,実質的な相違点ではない。
<相違点2について>
 河川等の水中において,その河床や堤防等の表面侵食を防止するために塊状表面
部材として自然石を敷き並べることは,古来から広く一般に行われてきた周知技術
にすぎず,該周知技術においては,自然石間に空間が存在しその空間から植物が生
育し水棲生物が棲息していることも広く一般に知られていることにすぎず,また,
特開平4-166507号公報(甲4),特開平3-194011号公報(甲
5),特開平3-144009号公報(甲6)等にも,河床や護岸の侵食を防止す
る部材の一部に自然石を用いることが記載されており,相違点2として摘記した訂
正発明の構成を当業者が採用する点には何らの困難性も認められず,奏する効果も
予期し得る程度のものであって,格別のものではない。
 したがって,訂正発明は,引用発明及び周知技術に基づいて当業者が容易に発明
をすることができたものであるから,特許法29条2項の規定により,その特許出
願の際独立して特許を受けることができないものである。
第3 原告主張の審決取消事由
 1 取消事由1(引用発明認定の誤り,一致点認定の誤り)
 (1) <マット材構成部材の重なり順について>
 (i)引用刊行物には,支持シート10を2枚のシート44,46で構成する場合
に,「シート44及び46のいずれか一方又は双方の網目は,両シートのいずれか
一方又は双方がフィルターシートとして働くような寸法とすることができる」(1
1欄32~35行),「第7図(原告注:支持シート10を2枚のシート44,4
6で構成した場合)・・・・・・に示す構造の優れた一利点は,フィルターシートが例え
ばフェルトのごとく比較的弱い場合はブロックと強いシートとの間に配置し得る点
である」(11欄43行~12欄2行)と記載されている。フィルターシートが,
「液体を通すが土壌粒子をほとんど通さない」という機能に関する限りにおいて
は,訂正発明の吸い出し防止用シートと同様の機能を有する部材であることは認め
るものの,上記記載及び第7図からは,2枚のシート44及び46が重ね合わされ
ていることが理解できるだけであり,一方のみがフィルターシートとして働く場合
に,このシートが,他方のシートに関して,ブロックとは反対側に配置されなけれ
ならないと解すべき理由はないし,また,シート44の網目がフィルターシートと
して働かない寸法でなければならず,シート46の網目がフィルターシートとして
働く寸法でなければならないということまで,理解できるものではない。
 (ii)加えて,引用刊行物には,1枚のみで構成される支持シート10をフィルタ
ーシートとして機能させる場合,このような支持シートとして,金属スクリーン,
金属網等が存在することが記載されている(7欄8~21行)。また,「フィルタ
ーシートが例えばフェルトのごとく比較的弱い場合はブロックと強いシートとの間
に配置し得る」(11欄最下行~12欄2行)と,シートには,「強いシート」,
「弱いシート」が存在する旨が記載されている。そうすると,引用刊行物において
は,強いシートがフィルターシートであったり,弱いシートであってもフィルター
シートとして働かないという場合も想定されているということができ,フィルター
シートとして機能しない金網又はメッシュを上に配置し,その下にフィルターシー
トを配置するという具体的な配置構造は,明確には認識されていないものである。
 (iii)要するに,引用刊行物は,支持シート10を複数枚のシートで構成する場
合において,支持シート全体として,「可撓性」と「透水性」と「土壌粒子を通過
させないこと」と「ブロックが接着された状態で吊下したときに破断されない強
度」との4つの要件を満足する限りどのようなシートでも使用できる,ということ
を開示するにとどまり,引用刊行物においては,フィルターシートとして働く一方
のシートとフィルターシートとして働かない他方のシートの配置関係は特定されて
いないのであるから,引用発明に関して,審決が,「上側から,ブロックB,金属
の網44,可撓性支持シート46の順」と認定したのは誤りである。
 (2) <接着材の浸出による一体化について>
 (i)上記のとおり,引用刊行物においては,フィルターシートとして働く一方の
シートとフィルターシートとして働かない他方のシートの配置関係が特定されてい
ないから,単純に,接着剤が上のシートを通過して下のシートに到達し,当該下の
シートをも接着するとはいえない。すなわち,フィルターシートを上側に配置する
場合において,接着剤がフィルターシートを通過するとすると,フィルターシート
として機能しない下のシートは,製作時において接着剤の流亡を防止できないか
ら,上のシートがフィルターシートの場合でも,接着剤が上のシートを通過して下
のシートに到達して当該下のシートをも接着するとはいえない。金網をフィルター
シートとすることも引用刊行物には記載されているのであるから,審決が,引用発
明について,「一体化は,接着剤が,ブロックBの下部から金属の網44の網目を
通して可撓性支持シート46に浸出して行われている」と認定したのは,上のシー
トがフィルターシートの場合でも,接着剤が上のシートを通過すると誤認したもの
であって,誤っている。
 (ii)そもそも,引用刊行物には,「ブロックと上のシートとを接着する接着剤
が,上のシートを通過して下のシートにまで浸透して当該下のシートをも接着して
いる」との記載は存在しない。引用刊行物の第3図においても,接着剤33は,支
持シート10の下面にまでは到達していない。
 また,引用刊行物には,「接着剤によりブロックを支持シートに接着する場合,
任意の適当な接着剤を使用できる。」(11欄21~22行)と記載されているも
のの,接着剤として,シートを通過できるものを用いることの開示はない。
 したがって,引用刊行物からは,支持シート10を複数枚のシートで構成する場
合に,接着剤が,上のシートを通過して,下のシートにまで到達するという知見は
得られない。
 (iii)そうすると,引用刊行物では,ブロックと2枚のシート44,46とを同
一の接着剤で接着することが認識されているとはいえず,引用刊行物が,「網目を
接着剤を通して下のシートにまで到達させて,当該下のシートをも接着するという
こと」を開示しているとはいえない。
 (3) したがって,審決は,引用発明の認定を誤ったものであり,訂正発明と引用
発明とが,「上側から,ブロックB,金属の網44,可撓性支持シート46の順
で,接着剤により一体化してなり,この一体化は,接着剤が,ブロックBの下部か
ら金属の網44の網目を通して可撓性支持シート46に浸出して行われている」点
で一致するとした審決の一致点の認定も誤りである。
 2 取消事由2(相違点1の判断の誤り)
 (1) 引用刊行物が,「網目を接着剤を通して下のシートにまで到達させて,当該
下のシートをも接着するということ」を開示しているとはいえないことは,上述の
とおりであるから,引用刊行物が,さらに,「接着材が,金網又はメッシュの網目
区画線材をその左右側方,上方及び下方から包み込むような一体化」までも,開示
しているとはいえない。
 (2) これに対する訂正発明の掛け止め作用は,次のとおりである。
 (i)訂正発明において,自然石と金網又はメッシュと吸い出し防止用シートとの
一体成形は,①接着材が,各自然石の下部から金網又はメッシュの網目を通して吸
い出し防止用シートに浸出すること,及び,②接着材が,金網又はメッシュの網目
区画線材を左右側方,上方及び下方において包み込むことによって行われており,
かかる一体化構造を有するがゆえに,訂正発明においては,強固な一体化力を得る
ことができ,これにより,種々の形態を有する自然石の利用をも可能としている。
 すなわち,訂正発明においては,接着材のうち網目区画線材を下方から包み込ん
でいる部分が,当該網目区画線材に対して引っ掛け作用(掛け止め作用)を行い,
金網又はメッシュから自然石が離間するのを機械的に規制することができる。
 また,訂正発明においては,接着材の硬化した部分が,繊維強化プラスチックに
おけるプラスチック部分に相当するから,吸い出し防止用シートの細かい目に接着
材が侵入した状態は,繊維強化プラスチックにおいて,強化繊維がプラスチック中
に含浸された状態に相当し,接着材の金網又はメッシュに対する一体化強度(固定
強度)を高めることになる。
 (ii)本件図面(甲2)には,図3において,金網又はメッシュを接着材が下方か
ら包み込む内容が示されている。一方,訂正明細書(甲25)の【0006】に
は,「同接着材は自然石を金網又はメッシュに接着するとともに,同金網又はメッ
シュの網目を通してその下部の吸い出し防止用シートに浸出し,かくして同吸い出
し防止用シート及び前記金網又はメッシュ並びに自然石が一体化される。」と記載
されており,「接着」と「一体化」とを区別している。「一体化」という記載と,
図3の内容を考慮すれば,「掛け止め作用」等は,本件明細書に記載されている。
 (iii)上述のとおり,引用刊行物の第3図には,接着剤33によって接着するこ
とが示されているが,この接着剤33は,支持シート10の下面にまでは到達して
いない。そうすると,引用刊行物からは,支持シート10を複数枚のシートで構成
する場合に,接着剤が,上のシートを通過して,下のシートにまで到達することを
想起できない。また,引用刊行物には,「接着剤によりブロックを支持シートに結
合する場合,任意の適当な接着剤を使用できる。」(6頁11欄21~22行)と
記載されているが,どのような目的で任意の接着剤を用いるのか(選択するのか)
不明であり,せいぜい用いる接着剤の種類が限定されてないという程度であって,
「接着剤として,シートを通過できるものを用いたり,通過しないものを用いた
り」というようなことまでも想起することはできない。
 (3) したがって,訂正発明と引用発明とが,接着による一体化構造において実質
的な相違点ではないとした審決の判断は,誤りである。
 3 取消事由3(相違点2の判断の誤り)
 (1) 引用刊行物のブロックは,貫通孔を有することが必須の要件となっており,
使用できるブロックとして列挙されているものはすべてコンクリート等による人工
物である。しかも,引用刊行物においては,「ナイロンシートが石の鋭い端部に耐
え得るだけの強度を持たず裂け易い」(2欄30~31行),また,「普通粒度別
に分けたフィルタ構造の割栗石及び荒石は簡単に入手できない欠点があり,固定し
難く,維持費が高く,必ずしも地表を保護するものではない」(2欄32~35
行)ことから,自然石を用いることが欠点として挙げられており,しかも地表を保
護するものではないとまで断言している。したがって,引用発明のブロックに代え
て自然石を置換して用いるということは,到底発想できるものではない。
 審決が引用した周知例は,いずれも,護岸としての機能はあくまで人工物である
ブロックによって確保する一方,見た目の外観が自然の感じを与えるように,ブロ
ックの表面に自然石を配置したものでしかない。自然石が,それ単独で護岸の機能
を有するようには使用されておらず,あくまで,護岸の主体となるコンクリートブ
ロック等の表面を装飾する装飾材の使用にとどまるものである。
 (2) 旧来の透水性を有する自然石を利用した護岸の構築方法においては,自然石
が互いに噛み合わされて一体化されるのが普通であり,「自然石を離間した状態で
敷き並べた」点は,当業者が容易に採用できることではないから,この点に困難性
が認められないとした審決の判断には誤りがある。したがって,審決の相違点2の
判断は誤りである。
 4 取消事由4(顕著な作用効果の看過)
 訂正発明は,自然石相互間に複雑かつ多様な自然空間を確保でき,石工という特
殊技能者を使用することなく工業製品のレベルで自然石を簡単に扱えるようにした
ことと,生態系保護のレベルが極めて高いこと等が評価され,商業的成功を収めて
いる。
第4 当裁判所の判断
 1 取消事由1(引用発明認定の誤り,一致点認定の誤り)について
 (1) 引用刊行物(甲3)には,以下の記載がある。
(イ)「第1図及び第2図に示す本考案の1実施例においては,10は支持シート
を示し,この例では網を示す。この支持シート10上に隣り合って略々衝合せ配置
に多数のブロックBを重ねる」(4欄25~28行)
(ロ)「各覆工マット材の各ブロックは接着剤でその支持シートに固定する。第3
図は接着剤による固定方法の例を示す。ブロックBの底面と支持シート10間に介
挿した接着剤33によりブロックBを支持シート10に固定する。接着剤33は第
3図に示すごとく離間位置に,又は図示しないが各ブロックBの底部に一面に介挿
する。」(6欄1~7行)
(ハ)「これまで支持シート10を網として記してきたが,支持シートは・・・・・・液
体透過性の任意の他のシートの如き任意所要の物質で製造できる。例えば,支持シ
ートは金属スクリーン,金属網,膨張金属網目,プラスチックスの網又はスクリー
ン,或いは天然繊維又は合成繊維から織成し又は網状としたシート又は任意の同様
種類のシートから製造できる。シートは液体透過性である限り,織成せずに単にフ
ェルト化した繊維のシートでも良い。ナイロン・・・・・・等の合成繊維のネット又はス
クリーンは強度,取扱容易性及び耐劣化性のため特に望ましい物質である。
 支持シートはブロックを支持するだけでなく,フィルタとしての機能をも兼ね備
えるものである。例えば第1~3図に示す例において,支持シート10の水透過性
網目は液体の通過を許すが土壌粒子の通過をほとんど防止する寸法とすることがで
き本考案でフィルタ又はフィルターシートと称するは液体を通すが土壌粒子をほと
んど通さない部材を意味する。従って支持シート10が,かかるシートをフィルタ
ーシートとして構成する網目を有する場合,地表から覆工マット材を通って上方に
流れる水は土壌粒子を同伴しない。明らかにこのことは覆工マット材下方の地域に
下側流水の原因である土壌欠除が生じないように防止する。」(7欄8~34行)
(ニ)「これまでの実施例では支持シートを一枚のシートとして示した。しかし支
持シートは多数のシートを用いることができ,第7図に示すように2枚のシート4
4及び46を重ね合わせてもよく・・・・・・。シート44及び46のいずれか一
方・・・・・・の網目は・・・・・・フィルターシートとして働くような寸法とすることができ
る。・・・・・・。これらのシートの任意の一者・・・・・・の強度をブロックを機械的に支持
するのに十分なものとすれば足り,同時にそのいずれかのシートの網目をフィルタ
ーシートとして作用するに十分なほど小さくすればよい。」(11欄27~42
行)
(ホ)「第7図及び第8図に示す構造の優れた一利点は,フィルターシートが例え
ばフェルトのごとく比較的弱い場合にはブロックと強いシートとの間に配置し得る
点である。」(11欄43行~12欄2行)
 (2) 上記において,「フィルターシートが例えばフェルトのごとく比較的弱い場
合にはブロックと強いシートとの間に配置し得る」とされていることから(上記
(ホ)参照),引用刊行物において,フィルターシートが,比較的弱い場合にあっ
ては,このシートをブロックと強いシートとの間に配置することが有利であると解
される一方,「シート44及び46のいずれか一方・・・・・・の網目は・・・・・・フィルタ
ーシートとして働くような寸法とすることができる。・・・・・・。これらのシートの任
意の一者・・・・・・の強度をブロックを機械的に支持するのに十分なものとすれば足
り,同時にそのいずれかのシートの網目をフィルターシートとして作用するに十分
なほど小さくすればよい。」(上記(ニ)参照)とされていることからすると,引
用刊行物において,シート44及び46のうちいずれのシートを上方に配置するか
については,格別の技術的制約があるわけではなく,任意の配置が可能であること
が理解される。
 そうであれば,「強度をブロックを機械的に支持するのに十分なもの」として金
属網を選択し,金属網とフィルターシート(可撓性支持シート,なお,吸い出し防
止用シートとして機能するものであることは,上記(ハ)の記載から明らかであ
る。)とを重ね合わせたものを,支持シートとして,ブロックを支持シートに接着
する場合において,金属網をフィルターシートの上方に配置することも任意選択的
に行い得ることは明白であり,引用刊行物には,ブロックB,金属の網44,可撓
性支持シート46の順に配置する点が実質的に開示されているということができ
る。
 (3) そして,上方に配置した金属網と下方に配置したフィルターシートとを重ね
合わせたものを支持シート10として用いる場合において(この場合,金属網の網
目をフィルターシートとして機能させる場合のように小さくする必要のないことは
明らかである。),ブロックとフィルターシートとの間には金属網が位置すること
になり,ブロックの下面に施された接着剤によって,ブロックを支持シートに接着
させると,金網の目を通して接着剤がフィルターシートにまで達することは,後述
するとおり,自明である。
 したがって,接着剤がブロックとフィルターシートとを(金網を含めて)接着一
体化させることも,当業者に明らかな事項というべきであり,引用刊行物には,ブ
ロックBを接着するために用いる接着剤をもって,ブロックBと2枚のシート4
4,46とを,―接着剤が,ブロックBの下部から金属の網44の網目を通して可
撓性支持シート46に浸出して,―一体化する点も実質的に記載されているという
べきである。
 (4) したがって,取消事由1は理由がない。
 2 取消事由2(相違点1の判断の誤り)について
 (1) 訂正後の特許請求の範囲は,自然石と金網又はメッシュと吸い出し防止用シ
ートとの一体成形に関してみると,「各自然石の下部に接着材を層着し,同接着材
を介して前記自然石と金網又はメッシュと吸い出し防止用シートを一体成形してな
り」,「前記自然石と前記金網又はメッシュと前記吸い出し防止用シートとの一体
成形は,前記接着材が,該各自然石の下部から該金網又はメッシュの網目を通して
該吸い出し防止用シートに浸出して,該金網又はメッシュの網目区画線材を左右側
方,上方及び下方において包み込むことにより行われている」というものである。
 (2) 上記記載において,接着材は,自然石の下部から,金網又はメッシュの網目
を通して,吸い出し防止用シートに浸出するのであるから,接着材を施す箇所が,
自然石の下部,すなわち,自然石の下面,又は,金網又はメッシュの上面であるこ
とは明らかであり,また,訂正明細書(甲25)に,「メッシュ又は金網は,その
下面に吸い出し防止用シートが一体に層着されているので,製作時に接着材の流亡
が防止され」(【0008】)と記載されているように,吸い出し防止用シートの
配設により,製作時において接着材の流亡が防止されるのであるから,接着材は,
自然石の下部において,相当量が施される結果,自然石の下部から下方に流動し
て,メッシュ又は金網を通して浸出し,吸い出し防止用シートにより流亡を防止さ
れることとなって,網目区画線材を左右側方,上方及び下方において包み込むもの
と認められる。
 (3) なお,訂正明細書(甲25)には,「同各自然石3と前記金網又はメッシュ
2との間に軟弾性の円筒状の型枠4が介装され,同型枠4内に例えばエポキシ樹脂
系の接着材5が充填され,同接着材5が前記金網又はメッシュ2の網目を透過する
ことによって,自然石3及び金網又はメッシュ2,並びに吸い出し防止用シート1
とが一体成形された生態系保護用自然石金網Aが構成される(図1ないし図4参
照)。なお前記型枠4は省略されることがある。」(【0009】)と記載されて
おり,この記載からすると,接着材が,金網又はメッシュの網目区画線材を左右側
方,上方及び下方において包み込むようにするために,特別の接着手法が採用され
ているとはいえず,上記包み込みが生ずるのは,接着材が,各自然石の下部から,
金網又はメッシュの網目を通して,吸い出し防止用シートに浸出する結果と認めら
れ,「層着」とは,かかる包み込み状態に至っている接着材層の配設をいうものと
認められる。
 (4) これに対して,引用刊行物(甲3)には,「各覆工マット材の各ブロックは
接着剤でその支持シートに固定する。第3図は接着剤による固定方法の例を示す。
ブロックBの底面と支持シート10間に介挿した接着剤33によりブロックBを支
持シート10に固定する。接着剤33は第3図に示すごとく離間位置に,又は図示
しないが各ブロックBの底部に一面に介挿する。」(6欄1~7行)と記載されて
おり,この記載からすると,引用発明において,接着剤33は,ブロックBの底部
に一面に介挿されることが認められる。
 (5) 引用刊行物には,ブロックBの底部に接着剤33を介挿とあるだけで,接着
剤33を,ブロックBの下面に適用するか,金網とフィルターシートとの積層体の
上面に適用するかは,明示されていないものの,いずれの側に適用しても,接着剤
33はブロックBの底部に介挿されることは明らかであるから,いずれの側に接着
剤33を適用するかは,当業者が任意に決定できることということができる。
 そして,接着剤33を,ブロックBの下面か,あるいは金網とフィルターシート
との積層体の上面か,のいずれに適用するにせよ,ブロックBの表面の荒さの程度
が大きいことから,接着面積を確保するために,接着剤33の適用量を多くするこ
とは,当業者ならば,普通に配慮することというべきであり,接着剤33の適用量
を多くすると,余剰の接着剤33が,金網の網目を通過して,フィルターシートに
浸出することは,明白である。
 引用発明において,ブロックBの下方に位置する金網の網目の大きさは,ブロッ
クBの底面よりも小さいことは明らかであり,ブロックBの底部に一面に接着剤3
3を介挿した場合,接着剤33は,金網又はメッシュの網目区画線材の上方に介挿
されることとなることも明らかであるから,浸出した接着剤33は,フィルターシ
ートに通過を妨げられて,網目区画線材を左右側方,上方及び下方において包み込
むことも,必然の結果というべきである。
 (6) 原告の主張は,「通常の金網」では,ブロックBに対する接着面積が少ない
から,ブロックのすぐ下に位置する「上のシート」に金属の網44を使うわけがな
い,仮に,金属の網44をブロックBと可撓性支持シート46との間に介在させる
配置とするとしても,ブロックBと金属の網44との接着を確保しようとすれば,
両者の接着面積を十分に増大する必要があり,金属の網44の網目は著しく小さく
なるから,金属の網44は,「通常の金網」ではなくなってしまい,接着剤が金属
の網44を通過することは困難である,という趣旨のものである。
 しかし,引用刊行物には,「ブロックを種々のシートに・・・・・・接着剤により接着
して構成することができる。」(12欄39~41行)と記載されているし,接着
剤が金網の網目を通過できないほど網目を細かくしないと,接着面積が確保できな
いとする理由はないから,上記原告の主張は理由がない。
 (7) そうすると,本件発明と引用発明とでは,接着材による層着の態様に異なる
ところはないということができ,層着の態様に異なるところがない以上,「掛け止
め作用」についても同様であるというべきであるから,原告の主張は採用できず,
審決が,相違点1は実質的な相違点ではないとした点に誤りはない。取消事由2は
理由がない。
 3 取消事由3(相違点2の判断の誤り)について
 (1) 取消事由3は,引用発明は,自然石を用いることを排除している,周知例
も,自然石単独での使用を示唆するものではない,という趣旨のものである。
 なるほど,引用刊行物(甲3)には,従来より用いられる捨石を,ナイロンシー
トと組み合わせて使用する場合に,「ナイロンシートが石の鋭い端部に耐え得るだ
けの強度を持たず裂け易い。」(2欄30~31行)という欠点があること,ま
た,フィルター構造の割栗石及び荒石を護岸に用いる場合は,「簡単に何処でも入
手できない欠点があり固定し難」い(2欄32~34行)等の欠点が伴うことが記
載されている。
 しかし,前者の場合は,引用発明における支持シートとは異なるナイロンシート
を用いる場合に生じる欠点であるし,後者の場合は,自然石の入手困難という経済
的要因に基づく欠点であって,いずれの場合もこれにより技術的制約が生じるとい
うわけではないから,従来技術において,かかる欠点が存するからといって,引用
発明において,自然石の採用が排除されていると認めることはできない。
 (2) 引用刊行物の3欄20行~4欄3行には,
「本考案者は浸食を防止する場合,地表に次の特性を有する保護的覆工マット材を
設けることにより,浸食を満足に制御し,上述の如き従来の諸欠点を解消し得るこ
とを見出した。
 (i)覆工マット材が下の地表表面形状に合致し良好に接触し,これにより下側流
水を防止するように十分可撓性であること。
 (ii)覆工マット材が多量の流水又はその波動作用により移動しないだけの十分な
強度及び重量特性を有し,かつまたかかる特性をその部材の重量により供給できる
こと。
 (iii)覆工マット材が表面水を下の地表にまで通過させること。すなわち良好な
垂直方向排水性を保持すること。
 (iv)覆工マット材がその下方から上方へ水を通し,覆工マット材の下方に生じた
静水圧を解消するものであること。このことは海又は河川の堤防及び岸壁に加わる
水圧が大きな損害(スリップ浸食)を与えるので特に重要である。
 (v)覆工マット材下の地表が水の運動により運び去られないような手段を設ける
こと。
 上記事項以外に情況に応じて,下記の附加的特性が必要である。
 (vi)覆工マット材上で水の過剰な運動が存在する場合,かかる運動を遅らせる手
段とさらに覆工マット材の沈下を早める手段を設けること。
 (vii)車輌が覆工マット材上を通過する場合,この覆工マット材表面が適当に耐
摩耗性があること。」
 と記載されており,この記載からすると,ブロックに必要とされる条件は,液体
が上下に通過できること,重量を有すること,隣接するもの同士は相対的に多少変
位し得るものであることにあると認められる。
 (3) 自然石が,従来より,護岸工事に広く用いられていることは,特開平4-1
66507号公報,特開平3-194011号公報,特開平3-144009号公
報(甲4ないし甲6)にみられるように,周知のことと認められる。そして,自然
石を並べれば,ブロックに求められている,液体が上下に通過できること,重量を
有すること,隣接するもの同士は相対的に多少変位し得るものであることという条
件(上記(2)の引用刊行物の記載参照)を満たすことになることは明らかであるか
ら,引用発明において,ブロックに代え,自然石を用いることは当業者ならば容易
に想到し得ることというべきである。
 (4) なお,引用刊行物には,「液体透過性で土壌粒子を通さない程度のメッシュ
を持ち地表表面形状に一致するような可撓性支持シートと,上下方向に少なくとも
一つの貫通孔を持った多数のブロックとを具備し,前記支持シート上に前記ブロッ
クを互いに近接して略々衝合するよう隣り合わせてシートの少なくとも2辺の縁沿
い部分に若干の余白を残して並列配置し,これらのブロックの各々を前記支持シー
トに接着剤により固定し,これにより液体が前記支持シート及びブロックを通って
通過できるようにし,前記支持シートはその両端又は片端を把持して吊下したとき
支持するブロックの重量により破断されない程度の十分な強度を有し,各ブロック
はその側面部のいずれの部分においても隣接するブロックのいかなる部分とも掛合
せず,各ブロックが支持シートのわん曲によって隣接するブロックに対し相対的に
多少変位し得るように構成した地表侵食防止用覆工マット材。」(実用新案登録請
求の範囲,14欄42行~16欄5行)と記載されており,この記載からすると,
ブロックは,「互いに近接して略々衝合するよう隣り合わせて・・・・・・並列配置」さ
れ,「各ブロックはその側面部のいずれの部分においても隣接するブロックのいか
なる部分とも掛合せず,各ブロックが支持シートのわん曲によって隣接したブロッ
クに対し相対的に多少変位し得る」のであるから,引用刊行物には,ブロック同士
の間には,空間を形成することが示されているというべきである。
 このことからすると,自然石を用いる場合においても,自然石を離間した状態で
敷き並べることは当業者が容易に想到できることと認められる。
 (5) したがって,相違点2についてした審決の判断に誤りはなく,取消事由3は
理由がない。
 4 取消事由4(顕著な作用効果の看過)について
 (1) 原告は,訂正発明においては,自然石相互間に複雑かつ多様な自然空間を確
保でき,石工という特殊技能者を使用することなく工業製品のレベルで自然石を簡
単に扱えるという効果が奏されると主張する。
 しかし,自然石相互間に複雑かつ多様な自然空間を確保できるという効果は,引
用発明において,ブロックに代えて自然石を用いることで奏されるものであって,
予測可能なものである。引用刊行物には,「本考案マット材は工場で組立てる(ブ
ロックを支持シートに接着剤により固定する)ことにより大量生産できる」(6欄
14~16行)と記載されており,引用発明においても,石工という特殊技能者を
使用することなく工業製品のレベルで自然石を簡単に扱えると認められるから,か
かる効果は,本件発明において初めて奏される効果ではない。
 (2) よって,審決が,訂正発明の効果について,「奏する効果も予期し得る程度
のものであって格別のものではない。」と認定した点に誤りはなく,取消事由4も
理由がない。
第5 結論
 以上のとおり,原告主張の審決取消事由は理由がないので,原告の請求は棄却さ
れるべきである。
  東京高等裁判所知的財産第4部
         裁判長裁判官塚   原   朋   一
            裁判官 塩   月   秀   平
裁判官 髙   野   輝   久

戻る



採用情報


弁護士 求人 採用
弁護士募集(経験者 司法修習生)
激動の時代に
今後の弁護士業界はどうなっていくのでしょうか。 もはや、東京では弁護士が過剰であり、すでに仕事がない弁護士が多数います。
ベテランで優秀な弁護士も、営業が苦手な先生は食べていけない、そういう時代が既に到来しています。
「コツコツ真面目に仕事をすれば、お客が来る。」といった考え方は残念ながら通用しません。
仕事がない弁護士は無力です。
弁護士は仕事がなければ経験もできず、能力も発揮できないからです。
ではどうしたらよいのでしょうか。
答えは、弁護士業もサービス業であるという原点に立ち返ることです。
我々は、クライアントの信頼に応えることが最重要と考え、そのために努力していきたいと思います。 弁護士数の増加、市民のニーズの多様化に応えるべく、従来の法律事務所と違ったアプローチを模索しております。
今まで培ったノウハウを共有し、さらなる発展をともに目指したいと思います。
興味がおありの弁護士の方、司法修習生の方、お気軽にご連絡下さい。 事務所を見学頂き、ゆっくりお話ししましょう。

応募資格
司法修習生
すでに経験を有する弁護士
なお、地方での勤務を希望する先生も歓迎します。
また、勤務弁護士ではなく、経費共同も可能です。

学歴、年齢、性別、成績等で評価はしません。
従いまして、司法試験での成績、司法研修所での成績等の書類は不要です。

詳細は、面談の上、決定させてください。

独立支援
独立を考えている弁護士を支援します。
条件は以下のとおりです。
お気軽にお問い合わせ下さい。
◎1年目の経費無料(場所代、コピー代、ファックス代等)
◎秘書等の支援可能
◎事務所の名称は自由に選択可能
◎業務に関する質問等可能
◎事務所事件の共同受任可

応募方法
メールまたはお電話でご連絡ください。
残り応募人数(2019年5月1日現在)
採用は2名
独立支援は3名

連絡先
〒108-0023 東京都港区芝浦4-16-23アクアシティ芝浦9階
ITJ法律事務所 採用担当宛
email:[email protected]

71期修習生 72期修習生 求人
修習生の事務所訪問歓迎しております。

ITJではアルバイトを募集しております。
職種 事務職
時給 当社規定による
勤務地 〒108-0023 東京都港区芝浦4-16-23アクアシティ芝浦9階
その他 明るく楽しい職場です。
シフトは週40時間以上
ロースクール生歓迎
経験不問です。

応募方法
写真付きの履歴書を以下の住所までお送り下さい。
履歴書の返送はいたしませんのであしからずご了承下さい。
〒108-0023 東京都港区芝浦4-16-23アクアシティ芝浦9階
ITJ法律事務所
[email protected]
採用担当宛