弁護士法人ITJ法律事務所

裁判例


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主文
原判決を破棄する。
被上告人の控訴を棄却する。
控訴費用及び上告費用は被上告人の負担とする。
理由
上告代理人竹間寛ほかの上告受理申立て理由(ただし,排除された部分は除
く。)について
1本件は,上告人がA(以下「販売会社」という。)から購入した原判決別紙
物件目録記載の自動車(以下「本件自動車」という。)の代金を立替払した被上告
人が,その後,上告人が小規模個人再生による再生手続開始の決定を受けたことか
ら,本件自動車について留保した所有権に基づき,別除権の行使としてその引渡し
を求める事案である。上告人は,本件自動車の所有者として登録されているのは販
売会社であり,被上告人は,本件自動車について留保した所有権につき登録を得て
いないから,上記別除権の行使は許されないとして争っている。
2原審の適法に確定した事実関係の概要は,次のとおりである。
(1)上告人,販売会社及び被上告人は,平成18年3月29日,三者間におい
て,上告人が,販売会社から本件自動車を買い受けるとともに,売買代金から下取
車の価格を控除した残額(以下「本件残代金」という。)を自己に代わって販売会
社に立替払することを被上告人に委託すること,本件自動車の所有権が上告人に対
する債権の担保を目的として留保されることなどを内容とする契約(以下「本件三
者契約」という。)を締結し,同契約において,要旨次のとおり合意した。
ア上告人は,被上告人に対し,本件残代金相当額に手数料額を加算した金員を
分割して支払う(以下,この支払債務を「本件立替金等債務」といい,これに対応
する債権を「本件立替金等債権」という。)。
イ上告人は,本件自動車の登録名義のいかんを問わず(登録名義が販売会社と
なっている場合を含む。),販売会社に留保されている本件自動車の所有権が,被
上告人が販売会社に本件残代金を立替払することにより被上告人に移転し,上告人
が本件立替金等債務を完済するまで被上告人に留保されることを承諾する。
ウ上告人は,支払を停止したときは,本件立替金等債務について期限の利益を
失う。
エ上告人は,期限の利益を失ったときは,被上告人に対する債務の支払のた
め,直ちに本件自動車を被上告人に引き渡す。
オ被上告人は,上記エにより引渡しを受けた本件自動車について,その評価額
をもって,本件立替金等債務に充当することができる。
(2)本件自動車について,平成18年3月31日,所有者を販売会社,使用者
を上告人とする新規登録がされた。
(3)被上告人は,平成18年4月14日,販売会社に対し,本件三者契約に基
づき,本件残代金を立替払した。
(4)上告人は,平成18年12月25日,本件立替金等債務について支払を停
止し期限の利益を喪失した。
(5)上告人は,平成19年5月23日,小規模個人再生による再生手続開始の
決定を受けた。
3原審は,次のとおり判断して,被上告人の請求を認容した。
被上告人が販売会社に立替払することにより,弁済による代位が生ずる結果,販
売会社が本件残代金債権を担保するために留保していた所有権は,販売会社の上告
人に対する本件残代金債権と共に法律上当然に被上告人に移転するのであり,本件
三者契約はそのことを確認したものであって,被上告人が立替払によって取得した
上記の留保所有権を主張するについては,販売会社において対抗要件を具備してい
る以上,自らの取得について対抗要件を具備することを要しないというべきであ
る。
4しかしながら,原審の上記判断は是認することができない。その理由は,次
のとおりである。
前記事実関係によれば,本件三者契約は,販売会社において留保していた所有権
が代位により被上告人に移転することを確認したものではなく,被上告人が,本件
立替金等債権を担保するために,販売会社から本件自動車の所有権の移転を受け,
これを留保することを合意したものと解するのが相当であり,被上告人が別除権と
して行使し得るのは,本件立替金等債権を担保するために留保された上記所有権で
あると解すべきである。すなわち,被上告人は,本件三者契約により,上告人に対
して本件残代金相当額にとどまらず手数料額をも含む本件立替金等債権を取得する
ところ,同契約においては,本件立替金等債務が完済されるまで本件自動車の所有
権が被上告人に留保されることや,上告人が本件立替金等債務につき期限の利益を
失い,本件自動車を被上告人に引き渡したときは,被上告人は,その評価額をもっ
て,本件立替金等債務に充当することが合意されているのであって,被上告人が販
売会社から移転を受けて留保する所有権が,本件立替金等債権を担保するためのも
のであることは明らかである。立替払の結果,販売会社が留保していた所有権が代
位により被上告人に移転するというのみでは,本件残代金相当額の限度で債権が担
保されるにすぎないことになり,本件三者契約における当事者の合理的意思に反す
るものといわざるを得ない。
そして,再生手続が開始した場合において再生債務者の財産について特定の担保
権を有する者の別除権の行使が認められるためには,個別の権利行使が禁止される
一般債権者と再生手続によらないで別除権を行使することができる債権者との衡平
を図るなどの趣旨から,原則として再生手続開始の時点で当該特定の担保権につき
登記,登録等を具備している必要があるのであって(民事再生法45条参照),本
件自動車につき,再生手続開始の時点で被上告人を所有者とする登録がされていな
い限り,販売会社を所有者とする登録がされていても,被上告人が,本件立替金等
債権を担保するために本件三者契約に基づき留保した所有権を別除権として行使す
ることは許されない。
5以上と異なる原審の判断には,判決に影響を及ぼすことが明らかな法令の違
反がある。論旨は理由があり,原判決は破棄を免れない。そして,以上説示したと
ころによれば,被上告人の請求は理由がなく,これを棄却した第1審判決は結論に
おいて是認することができるから,被上告人の控訴を棄却することとする。
よって,裁判官全員一致の意見で,主文のとおり判決する。
(裁判長裁判官竹内行夫裁判官須藤正彦裁判官千葉勝美)

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