弁護士法人ITJ法律事務所

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主文
1被告は,X1に対し,6735万円及びこれに対する平成20年8月2日から
支払済みまで年5分の割合による金員の賠償の命令をせよ。
2被告は,X1に対し,3050万円及びこれに対する平成20年8月2日から
支払済みまで年5分の割合による金員を滝川市に支払うよう請求せよ。
3被告は,X2に対し,375万円及びこれに対する平成20年8月2日から支
払済みまで年5分の割合による金員の賠償の命令をせよ。
4被告は,X2に対し,1480万円及びこれに対する平成20年8月2日から
支払済みまで年5分の割合による金員を滝川市に支払うよう請求せよ。
5本件訴えのうち,X3に対し2億3886万円及びこれに対する平成20年8
月2日から支払済みまで年5分の割合による金員を滝川市に支払うよう請求
することを求める部分を却下する。
6原告らのその余の請求をいずれも棄却する。
7訴訟費用は,これを10分し,その7を原告らの負担とし,その余を被告の
負担とする。
事実及び理由
第1請求
1被告は,X4に対し,2億3886万円及びこれに対する平成20年8月2日
から支払済みまで年5分の割合による金員を滝川市に支払うよう請求せよ。
2被告は,X3に対し,2億3886万円及びこれに対する平成20年8月2日
から支払済みまで年5分の割合による金員を滝川市に支払うよう請求せよ。
3被告は,X1に対し,1億9566万円及びこれに対する平成20年8月2日
から支払済みまで年5分の割合による金員の賠償の命令をせよ。
4被告は,X1に対し,4320万円及びこれに対する平成20年8月2日から
支払済みまで年5分の割合による金員を滝川市に支払うよう請求せよ。
5被告は,X2に対し,1645万円及びこれに対する平成20年8月2日から
支払済みまで年5分の割合による金員の賠償の命令をせよ。
6被告は,X2に対し,1億4311万円及びこれに対する平成20年8月2日
から支払済みまで年5分の割合による金員を滝川市に支払うよう請求せよ。
7被告は,X5に対し,2675万円及びこれに対する平成20年8月2日から
支払済みまで年5分の割合による金員の賠償の命令をせよ。
8被告は,X5に対し,5250万円及びこれに対する平成20年8月2日から
支払済みまで年5分の割合による金員を滝川市に支払うよう請求せよ。
第2事案の概要
本件は,北海道滝川市の住民である原告らが,滝川市において,平成18年
3月頃から平成19年11月頃までにかけて,Z1及びその妻であるZ2(以下
Z1及びZ2を併せて「Z1夫婦」という。)に対し,生活保護法19条1項の規
定に基づく生活保護の支給決定を行ったことについて,同決定は同法8条2項
の規定に違反するものであるなどと主張して,被告に対し,地方自治法242
条の2第1項4号の規定に基づき,上記支出に関与した滝川市の市長の職にあ
った者らに対して支払額相当の損害賠償請求又は当該賠償の命令をすること
を求める事案である。
1関係法令の定め
(1)生活保護法
ア8条1項
保護は,厚生労働大臣の定める基準により測定した要保護者の需要を基
とし,そのうち,その者の金銭又は物品で満たすことのできない不足分を
補う程度において行うものとする。
イ8条2項
前項の基準は,要保護者の年齢別,性別,世帯構成別,所在地域別その
他保護の種類に応じて必要な事情を考慮した最低限度の生活の需要を満た
すに十分なものであつて,且つ,これをこえないものでなければならない。
ウ15条
医療扶助は,困窮のため最低限度の生活を維持することのできない者に
対して,左に掲げる事項の範囲内において行われる。
(中略)
六移送
エ19条1項
都道府県知事,市長及び社会福祉法(昭和26年法律第45号)に規定
する福祉に関する事務所(以下「福祉事務所」という。)を管理する町村長
は,次に掲げる者に対して,この法律の定めるところにより,保護を決定
し,かつ,実施しなければならない。
一その管理に属する福祉事務所の所管区域内に居住地を有する要保護者
二居住地がないか,又は明らかでない要保護者であって,その管理に属
する福祉事務所の所管区域内に現在地を有するもの
オ19条4項
前3項の規定により保護を行うべき者(以下「保護の実施機関」という。)
は,保護の決定及び実施に関する事務の全部又は一部を,その管理に属す
る行政庁に限り,委任することができる。
カ28条1項
保護の実施機関は,保護の決定又は実施のため必要があるときは,要保
護者の資産状況,健康状態その他の事項を調査するために,要保護者につ
いて,当該職員に,その居住の場所に立ち入り,これらの事項を調査させ,
又は当該要保護者に対して,保護の実施機関の指定する医師若しくは歯科
医師の検診を受けるべき旨を命ずることができる。
(2)社会福祉法
ア14条1項
都道府県及び市(特別区を含む。以下同じ。)は,条例で,福祉に関する
事務所を設置しなければならない。
イ15条1項
福祉に関する事務所には,長及び少なくとも次の所員を置かなければな
らない。(ただし書略)
一指導監督を行う所員
二現業を行う所員
(以下略)
ウ15条2項
所の長は,都道府県知事又は市町村長(特別区の区長を含む。以下同じ。)
の指揮監督を受けて,所務を掌理する。
エ15条3項
指導監督を行う所員は,所の長の指揮監督を受けて,現業事務の指導監
督をつかさどる。
オ15条4項
現業を行う所員は,所の長の指揮監督を受けて,援護,育成又は更生の
措置を要する者等の家庭を訪問し,又は訪問しないで,これらの者に面接
し,本人の資産,環境等を調査し,保護その他の措置の必要の有無及びそ
の種類を判断し,本人に対し生活指導を行う等の事務をつかさどる。
(3)滝川市福祉事務所設置条例(乙12)
ア1条
社会福祉法(昭和26年法律第45号)第14項第1項の福祉に関する
事務所として,滝川市福祉事務所(以下「福祉事務所」という。)を市役所
内に設置する。
イ2条
福祉事務所は,生活保護法(昭和25年法律第144号)(中略)に定め
る援護,育成又は更生の措置に関する事務のほか,次に掲げる事務を行う。
(以下略)
(4)滝川市福祉事務所設置条例施行規則(乙13)
ア2条
条例第2条に規定する福祉に関する事務は,滝川市部設置条例(昭和4
6年滝川市条例第16号)第2条に規定する保健福祉部が所掌する。
イ3条
社会福祉法(昭和26年法律第45号)第15条の規定による福祉に関
する事務所の長は,福祉事務所長とし,保健福祉部長がこれを兼ねるもの
とする。
(5)滝川市福祉事務所長事務委任規則(乙14)
2条
市長は,生活保護法(昭和25年法律第144号)第19条第4項(中略)
の規定に基づき,次に掲げる事務を福祉事務所長に委任する。
(1)生活保護法の規定による保護の決定及び実施に関する事務の全部
((2)以下略)
(6)滝川市事務決裁規程(乙15)
ア2条
この規程において,次の各号に掲げる用語の意義は,当該各号に定める
ところによる。
(1)「決裁」とは,決裁責任者(市長又は専決権者(専決する権限を有す
る者をいう。以下同じ。)をいう。以下同じ。)が,その権限に属する事
務の処理について最終的に意思決定を行うことをいう。
(2)「専決」とは,あらかじめ認められた範囲内で,自らの判断で常時市
長に代わって決裁することをいう。
(3)「代決」とは,決裁責任者が不在のとき当該決裁責任者に代わって決
裁することをいう。
(以下略)
イ5条1項
部長及び課長は,分掌する事務について別表第1及び別表第4に掲げる
事項を専決することができる。(以下略)
ウ8条
決裁責任者が不在の場合は,次に定めるところにより,その事務を代決
することができる。(後段略)
(1),(2)(略)
(3)部長専決事項については,所管部長相当職者,所管課長,所管課長相
当職者,所管副主幹の順による。
(以下略)
エ別表第1,1(共通決裁事項)(4)(財務関係)(支出負担行為の承認等)
1(次に掲げるもの)
項目市長副市長部長課長
(7)扶助費100万円超100万円以下
2前提事実(証拠等を掲記しない事実は,争いのない事実である。)
(1)当事者等
ア原告らは,いずれも滝川市の住民である。
イ(ア)X4は,平成15年5月1日から平成23年4月29日までの間,滝
川市の市長の職にあった者である。
(イ)X3は,平成18年4月1日から平成23年4月27日までの間,滝
川市の副市長(平成19年3月31日までの官職名は助役)の職にあっ
た者である。
(ウ)X1は,平成18年4月1月から平成20年3月31日までの間,滝
川市保健福祉部長兼滝川市福祉事務所長の職にあった者である。
(エ)X2は,平成18年4月1日から平成19年6月30日までの間,滝
川市保健福祉部福祉課長の職にあった者である。
(オ)X5は,平成19年7月1日から平成20年3月31日までの間,滝
川市保健福祉部福祉課長の職にあった者である。
(2)Z1夫婦に対する通院移送費の支給の経緯
アZ1夫婦は,平成18年3月12日,札幌市から滝川市に転居した。
イZ1は,平成18年3月13日,滝川市福祉事務所長に対し,生活保護支
給開始の申立てをした。
当時の滝川市福祉事務所長は,同月22日,Z1に対し,生活保護法19
条1項の規定に基づき,申請日に遡って生活扶助費等を支給する旨の決定
をした。
ウ滝川市福祉事務所長は,平成18年3月31日,所内会議において,Z1
がストレッチャー対応型タクシーで北海道大学病院(以下「北大病院」と
いう。)に通院することにつき,通院移送費を支給する旨の決定をした。
エZ1は,平成18年10月26日,滝川市福祉事務所に対し,Z2について
も北大病院への通院移送費を支給するよう求めた。
これを受けて,X1は,Z2に対し,Z1と同額の通院移送費を支給する旨
の決定をした。
(3)Z1夫婦に対する通院移送費の支給決定の日時,金額,決裁者等
ア別紙1(添付省略)記載の滝川市福祉事務所の職員らは,Z1夫婦に対し,
別紙2(添付省略)及び3(添付省略)記載の通院について,別紙1のとおり,
通院移送費(以下,単に「通院移送費」ということがある。)の支給決定(以
下,全ての支給決定を併せて「本件各支給決定」ということがある。)をし
た(別紙1において,「夫」はZ1を,「妻」はZ2を,「所長(部長)」はX1
を,「課長」はX2を,「参事」はX5をそれぞれ表す。なお,別紙2の平成
18年3月15日,同月18日,同年4月3日,同月4日,同月5日及び
同月18日の滝川市立病院への通院については,本件において問題とされ
ていない。)。
なお,滝川市福祉事務所長は,Z1夫婦に対する通院移送費につき,Z1
が立替払をした340万円についてはZ1に直接支給する方法で,それ以外
の金員については札幌介護福祉交通(有限会社高寿福祉興産。以下同じ。)
の代表者名義の銀行預金口座に振り込む方法でそれぞれ支給した。
イX1,X2及びX5(以下「X1ら」ということがある。)によるZ1夫婦に対
する通院移送費の支給に係る決裁の状況は,次のとおりである。
(ア)平成18年4月1日から平成19年6月30日まで
X1が1億4311万円分の支給決定をし,X2が専決又は代決により1
645万円分の支給決定をした。
(イ)平成19年7月1日から平成19年11月16日まで
X1が5255万円分の支給決定をし,X5が代決により2675万円分
の支給決定をした。
(4)Z1夫婦への通院移送費の還流
札幌介護福祉交通は,平成18年5月12日から平成19年11月16日
にかけて,Z1夫婦に対し,別紙4(添付省略)のとおり,Z1夫婦に関してX1,
X2又はX5の支給決定により支給された通院移送費の一部に相当する金員を
交付し続け,その額は,合計1億1123万円に上った。
(5)住民監査請求等
原告らは,滝川市監査委員に対し,平成20年4月15日,上記(3)の支給
決定が違法であるとして,X4,X3,X1,X2及びX5に対して損害賠償請求を
すべき旨の住民監査請求をしたところ,同監査委員は,同年6月13日,こ
れを却下する旨の決定をし,同決定は,同日頃,原告らに通知された。
原告らは,同年7月11日,本件訴えを提起した。
(6)刑事事件
なお,札幌地方裁判所は,平成20年6月25日,Z1に対する詐欺被告事
件について,同人を懲役13年に処する旨の判決を宣告し,Z2に対する詐欺
被告事件について,同人を懲役8年に処する旨の判決を宣告した。
3争点
(1)X1,X2及びX5の支給決定の違法及び同人らの故意又は重過失(争点1。
請求3,5及び7関係)
(2)X4の財務会計上の違法行為の有無(争点2。請求1関係)
(3)X3の財務会計上の違法行為の有無(争点3。請求2関係)
(4)X1の財務会計上の違法行為の有無(争点4。請求4関係)
(5)X2の財務会計上の違法行為の有無(争点5。請求6関係)
(6)X5の財務会計上の違法行為の有無(争点6。請求8関係)
(7)損害額(争点7)
4争点に関する当事者の主張
(1)争点1(X1,X2及びX5の支給決定の違法及び同人らの故意又は重過失)
について
(原告らの主張)
生活保護法8条2項によると,生活保護は,要保護者の年齢別等の必要な
事情を考慮した最低限度の生活の需要を超えないものでなければならない。
しかしながら,以下のア及びイからすると,X1らがZ1夫婦に対して行っ
た通院移送費の支給決定は,いずれも最低限度の生活の需要を超える生活保
護に係るものということができるから,明らかに裁量を逸脱し,又は濫用し
たものというべきであり,また,X1らは,このことを容易に認識し得たから,
X1らは,故意又は重過失によって,財務会計法規である生活保護法8条に違
反する行為をしたというべきであり,地方自治法243条の2第1項前段の
規定に基づき,賠償命令に係る責任を負う。
ア本件各支給決定に係る通院移送費が最低限度の生活の需要を超えるもの
であったこと
以下の(ア)ないし(オ)からすると,本件各支給決定に係る通院移送費が
生活保護法8条2項に規定する最低限度の生活の需要を超えるものであっ
たことは明らかである。
(ア)本件各支給決定は,Z1夫婦が札幌の病院へ通院する際の移送費につ
いてされたものである。
しかしながら,滝川市及びその近郊には多数の医療機関があり,高度
な医療を受けることができる態勢にあったから,Z1夫婦の札幌への通院
はいずれも必要がないものであった。
また,Z1夫婦の通院が多数の診療科に及んでいること,Z1は,平成1
8年4月以降,毎月20回以上通院していたこと,Z2は,同年11月以
降,毎月15回以上通院していたことからすると,Z1夫婦の通院に必要
性のないものが含まれていたことは明らかである。
(イ)本件各支給決定は20万円以上の金員を支給するものであったが,
この金額は,高規格ストレッチャー対応型タクシーの利用を前提とする
ものであった。
しかしながら,Z1夫婦が通常の逮捕及び勾留に耐えていることからも
明らかであるように,Z1夫婦は,札幌への通院に当たって高規格ストレ
ッチャー対応型タクシーを利用しなければならないような病状にはなか
った。
また,Z1夫婦は,札幌に向かう際,常に高規格ストレッチャー対応型
タクシーを利用していたわけではなく,自ら自動車を運転して行くこと
もあった。
さらに,Z1は,平成18年8月以前,高規格ストレッチャー対応型タ
クシーを利用しておらず,緊急用の機材が装備されていない介護福祉タ
クシーを利用していたほか,Z2の病名は,「めまい」ないし「メニエー
ル病」であり,高規格ストレッチャー対応型タクシーを利用する必要の
ある状態ではなかった。
以上のとおり,Z1夫婦について,高規格ストレッチャー対応型タクシ
ーを利用する必要性はなかった。
(ウ)仮に,Z1夫婦について高規格ストレッチャー対応型タクシーが必要
であったとしても,上記(ア)のとおり,Z1夫婦は頻回に札幌の病院に通
院していたのであるから,移送費の単価が下がることは当然であって,
本件各支給決定に係る通院移送費が最低限度の生活の需要を超えること
は明らかである。
(エ)札幌介護福祉交通の料金体系によれば,高規格ストレッチャー対応
型タクシーを8時間借り切った場合の費用は,10万9056円であっ
て,その付加料金を合わせても11万円を超えることはなく,また,1
2時間借り切った場合であっても,16万8000円を超えることはな
かった。
(オ)Z1夫婦は,札幌介護福祉交通に対し,通院移送費の一部を現金とし
て交付するよう要求し,当初は通院移送費の1割,平成18年8月25
日以降はほぼ半額がZ1に交付された。
Z1夫婦は,これによって,平成19年11月までに総額1億1123
万円の収入を得ていた。
イ本件各支給決定に係る通院移送費が最低限度の生活の需要を超えるもの
であることを容易に認識し得たこと
以下の(ア)ないし(オ)からすると,滝川市福祉事務所長であったX1並び
に同市保健福祉部福祉課長であったX2及びX5は,本件各支給決定に係る
通院移送費が最低限度の生活の需要を超えるものであり,生活保護法8条
の規定に違反するものであることを知り,又は容易にこれを認識し得たと
いうべきである。
(ア)Z1夫婦の住居前には,大型乗用車等が駐車されており,それらの乗
用車のうちの複数のナンバープレートの番号が「●●●●」とされてい
たところ,これは,Z1の養親であり,Z1が尊敬しているといってはばか
らない暴力団員であるZ3を暗示するものであった。
そして,Z1は,元暴力団員であり,本件各支給決定がされた時点にお
いても,周囲から暴力団員にしか見えないと言われていた程の容貌・雰
囲気を持つ者であったことをも併せ考慮すると,上記のナンバープレー
トから,Z1夫婦が上記の自動車を使用していることを推測することは容
易であった。
さらに,Z1夫婦は,滝川と札幌との間を移動するに際し,トヨタ自動
車株式会社製の高級セダンであるセルシオ及びアリストを利用していた
のであるから,滝川市福祉事務所職員において,Z1夫婦が札幌に通院す
る前に見回り調査に行くなどしていれば,Z1夫婦が車両を所有していた
こと及び同人らが高規格ストレッチャー対応型タクシーを利用する必要
性がなかったことは容易に判明し得た。
(イ)X1らを含む滝川市福祉事務所職員は,本件各支給決定をするに当た
り,Z1夫婦の資産状況を確認すべきところ,Z1は,平成18年6月30
日,同年11月22日及び平成19年1月30日,第三者に対し,それ
ぞれ10万円,5万円及び19万円を送金していたのであって,これら
の事実は,調査をすれば容易に判明し得たものである。
また,Z1は,平成18年10月3日,「日本小型船舶検査」名義の銀
行預金口座に対し,7300円を振込送金しているところ,この事実も,
調査をすれば容易に判明し得たものである。
さらに,Z1夫婦の養子であり,同人らと世帯を同一にするZ4の銀行
預金口座に対しても,Z5と称する人物から,同年12月29日,平成1
9年3月29日及び同年6月1日,それぞれ15万円,3万円及び30
万円の各振込送金がされており,これらの事実についても,調査をすれ
ば容易に判明し得たものである。
(ウ)Z1夫婦は,いわゆるブランド物の腕時計,バッグ,高価な貴金属等
を購入しているところ,これらは普段身に着けるものであるから,滝川
市福祉事務所職員が実際にZ1夫婦に面談をすれば,同人らがこれらを所
持していることは容易に判明し得たところ,滝川市福祉事務所職員は,
Z1夫婦に対し,面談等を行わなかった。
(エ)滝川市福祉事務所職員は,Z1が朝8時頃には札幌に向けて出発する
ことを知りながら,その前の時間帯に面談するなどせず,ことさら調査
を避けていたが,Z1夫婦と面談して調査をすれば,本件各支給決定が最
低限度の生活の需要を超えるものであることは,直ちに判明したはずで
ある。
(オ)滝川市監査委員は,平成19年5月22日,X3に対し,Z1夫婦に対
して生活保護費の還流がされている可能性がある旨の指摘をした。
(被告の主張)
アX1は,平成18年4月1日前に行われたZ1夫婦に対する通院移送費の
支給決定には関与していない。
イ以下の(ア)ないし(キ)からすると,X1が,故意又は重過失によって,財
務会計法規である生活保護法8条に違反する行為をしたということはでき
ない。
(ア)滝川市福祉事務所長は,平成18年3月22日のケース診断会議に
おいて,Z1に対し,同月13日付けで保護を開始する旨決定するととも
に,車椅子対応タクシーを利用して滝川市立病院に通院することを認め
たが,高規格ストレッチャー対応型タクシーを利用して北大病院に通院
することについては,同月30日の同病院における病状把握の結果を待
って判断することとした。
そして,滝川市福祉事務所長は,北大病院のY1医師及びY2医師の同
日付け意見を受けて,同月31日,Z1が高規格ストレッチャー対応型タ
クシーを利用して北大病院へ通院するに当たり,通院移送費を支給する
旨決定したところ,両医師は,北海道における中核病院として機能して
いる北大病院の医師であり,同決定以前からZ1の治療に当たっている者
であった上,その意見の内容に特に不合理な点はなかった。また,同事
務所長が同決定をするに当たり,滝川市立病院のY3医師の意見も参考に
したが,同意見もY1医師及びY2医師の意見と符合するものであった。
また,滝川市福祉事務所長(X1)は,Z2についても,北大病院のY4
医師が作成した給付要否意見書並びに北大病院のY5医師及びY1医師の
意見書に基づいて通院移送費の支給を決定したところ,これらの意見書
においても,特に矛盾のある記載はみられなかった。
さらに,滝川市福祉事務所職員は,平成19年7月から同年8月にか
けて,医師の診断書について状況把握を行ったところ,この時点におい
ても,医師から,Z1夫婦の症状に格別の変更がないことが表明された。
(イ)滝川市福祉事務所職員は,Z1に係る北大病院への通院移送費の支給
について検討する際,同事務所を指導する北海道に相談したが,「医師の
診断で認められればやむを得ない。」旨の回答を得ていた。
また,滝川市福祉事務所職員は,平成19年1月に北海道による生活
保護法施行事務監査を受けた際,北海道に対し,Z1夫婦に対する通院移
送費の支給について相談をしたが,このときにも,「事務処理上問題はな
く,生活保護制度上も法律上も問題はない。」旨の回答を得ていた。
(ウ)滝川市福祉事務所職員は,平成18年5月,札幌介護福祉交通以外
の会社から通院移送費に関する見積りを徴求したところ,札幌介護福祉
交通の通院移送費の方が低額であった。
(エ)滝川市福祉事務所長(X1)は,平成18年8月17日,同年9月6
日,同月12日,平成19年7月11日,同月27日及び同年8月8日,
同事務所職員を札幌市に派遣し,札幌市内の病院においてZ1の病状把握
を行った。
また,X1は,平成19年7月11日,同月27日,同年8月8日及び
同月21日,同事務所職員を札幌市に派遣し,札幌市内の病院において
Z2の病状把握を行った。
(オ)滝川市福祉事務所職員は,本件各支給決定がされた期間中,Z1夫婦
に対して月1回以上の居宅訪問を実施し,同人らの生活状況の把握に努
めていた。
(カ)滝川市福祉事務所職員は,平成19年5月22日に滝川市監査委員
からZ1夫婦の通院移送費に関する勧告を受けた後,札幌介護福祉交通に
対し,請求明細の提出を強く求めた。また,同事務所職員は,同年6月,
Z1夫婦に対する移送費の支給について警察に相談した。さらに,同事務
所職員は,複数の移送会社から見積りを徴求し,移送会社の変更を検討
した。
(キ)Z1は,平成17年10月から平成18年3月にかけ,札幌市α区に
おいて,札幌市と滝川市立病院とをタクシーで往復するに当たり,通院
移送費の支給を受けていた。
ウ以下の(ア)ないし(ク)からすると,原告らの主張は理由がない。
(ア)滝川市にも内科及び神経科を有する医療機関はあるが,どの医療機
関への通院を認めるかは,病状や治療継続の必要性といった観点から決
定する必要があり,何よりも患者の状況を最もよく知る医師の判断に重
きが置かれるべきである。
そして,北大病院神経科への通院が許容される以上,同じ札幌市内の
他の病院を選定することはかえって効率的である。
(イ)高規格ストレッチャー対応型タクシーを貸切りとした場合に,(原告
らの主張)ア(エ)記載の金額になることは認めるが,以下のaないしd
からすると,滝川市が札幌介護福祉交通に支払った金額は,高規格スト
レッチャー対応型タクシーの運行料金として適切なものであった。
a札幌介護福祉交通の料金体系として,札幌市から滝川市まで片道5
万円とされている。
b札幌市に所在する札幌介護福祉交通としては,1回の通院に当たっ
て札幌市と滝川市との間を2往復せざるを得ず,それに介護員等の料
金が加算されることを考えると,20万円及び25万円という金額は
合理性を有する。
c他社からの見積書に基づく算出金額は,28万1000円というも
のであり,札幌介護福祉交通に対する支払額を上回っていた。
d札幌市α区は,Z1に対し,通院移送費として,20万3170円な
いし28万1000円を支給していた。
(ウ)滝川市福祉事務所職員は,Z1夫婦の居宅周辺に路上駐車されていた
自動車について,陸運局に所有者等の確認を行った。
そして,滝川市福祉事務所職員は,Z1が元暴力団員であったものの現
役の暴力団員としては登録されていないことを確認していた。
また,滝川市福祉事務所職員が,Z1の養親であるZ3について暴力団
員としての登録がされているか否かを知る方法はなかった。
(エ)滝川市福祉事務所職員は,Z1に対する通院移送費の支給決定を開始
する際,同人の預金について調査を行った。
(オ)Z4は,Z1夫婦と世帯を同一にする者でないから,Z4の銀行預金口
座へ振込送金がされたか否かは,Z1夫婦に対する生活保護費の支給と関
わりがない。
(カ)滝川市福祉事務所職員がZ1夫婦と面談した際,同人らが高級品を身
に着けていたことはなかった。
(キ)滝川市福祉事務所職員は,Z1については平成19年7月9日まで,
Z2については同年6月21日まで,面談及び資産調査を行っていた。
(ク)札幌介護福祉交通からZ1に対しては,収入があることが発覚しない
ように,預貯金口座への振込送金ではなく,現金の交付がされていたの
であって,滝川市福祉事務所職員が同交付を把握することは困難であっ
た。
(2)争点2(X4の財務会計上の違法行為の有無)について
(原告らの主張)
普通地方公共団体の長は,吏員が財務会計上の行為をすることを阻止すべ
き指揮監督上の義務に違反し,故意又は過失により同吏員が財務会計上の違
法行為をすることを阻止しなかったときは,自らも財務会計上の違法行為を
行ったものとされる。
そして,以下のアないしオからすると,X4は,X1らが財務会計上の行為で
ある生活保護の支給決定をすることを阻止すべき指揮監督上の義務に違反し,
故意又は過失により同決定を阻止しなかったというべきであるから,地方自
治法242条の2第1項4号本文の規定に基づき,損害賠償責任を負う。
アZ1は,平成9年8月29日から平成17年5月2日までの間,滝川市か
ら生活保護を受給していたところ,その当時から不当要求を繰り返してい
たため,平成18年3月当時,滝川市の全職員は,Z1が極めて強度の不当
要求者であることを認識していた。
そして,Z1に対しては,平成18年4月3日付けで120万円,同月2
1日付けで220万円,同月30日付けで120万円の各通院移送費の支
給決定がされたところ,滝川市の会計課長,収入役又は監査事務局長は,
X4に対し,このことを報告した。
したがって,X4は,平成18年4月の時点で,Z1に対して異常な額の通
院移送費の支給決定がされていることを認識していた。
イ平成18年4月の時点で滝川市の監査事務局長であったX6は,同年7月
1日,X4を直接の上司とし,同市の会計の全てを管理する同市の収入役職
務代理に就任したところ,同年4月の時点で,Z1に対する異常な額の通院
移送費の支給決定がされていることを認識していた。そして,X6は,遅く
ともこの就任の時点で,X4に対し,同支給決定について報告した。
ウX4は,平成18年9月,滝川市監査委員から,Z1に対する通院移送費の
支給決定がおかしい旨の警告を受けていたのであるから,遅くともこの時
点で,Z1に対して異常な額の通院移送費の支給決定がされていることを認
識していた。
エX4は,平成19年2月,滝川市監査委員から,Z1夫婦に対する通院移送
費の支給決定について必要な調査を行う旨伝えられ,これを受けて滝川市
福祉事務所職員に確認を行ったのであり,遅くともこの時点で,Z1夫婦に
対する通院移送費の支給月額が1000万円を超え,平成18年3月から
の支給総額が1億円近くに上っていたことを認識していた。
オ滝川市監査委員は,平成19年5月22日,X3に対し,Z1夫婦に対する
通院移送費の支給決定に関する「医療扶助通院移送費の検証について」と
題する書面を手交したところ,同書面においては同支給決定についての疑
問点が指摘されていたのであるから,X4は,この指摘を受け,同疑問点に
つき詳細な調査をして疑問点がないかを確認する義務があったにもかかわ
らず,これを一切果たさなかった。
(被告の主張)
ア前記(1)(被告の主張)イ及びウのとおりであるから,X1らは,本件各
支給決定について十分な調査を行っていたというべきであり,X4が故意又
は過失によりX1らを指揮監督すべき義務を怠ったということはできない。
イX3は,(原告らの主張)オの滝川市監査委員による勧告を受けて,滝川
市福祉事務所職員に対し,調査権の行使,訪問の徹底,弁護士への相談,
北海道との協議及び供託の可能性についての検討を行い,同事務所として
の調査に限界がある場合には警察への協力依頼を行うよう指示し,同勧告
の数日後には,そのように指示したことについてX4に報告した。
したがって,この点からも,X4が故意又は過失によりX1らを指揮監督
すべき義務を怠ったということはできない。
(3)争点3(X3の財務会計上の違法行為の有無)について
(原告らの主張)
普通地方公共団体の副市町村長は,長を補佐し,職員の担任する事務を監
督する責任を負う(地方自治法167条1項)のであり,X3は,市長から生
活保護の支給決定に関する権限を委任された職員であるX1らが財務会計上
の違法行為をすることを阻止すべき指揮監督上の義務を負っていたところ,
同義務に違反し,故意又は過失によりX1らが財務会計上の違法行為をするこ
とを阻止しなかったというべきであるから,地方自治法242条の2第1項
4号本文の規定に基づき,損害賠償責任を負う。
(被告の主張)
普通地方公共団体の副市町村長は,長を補佐し,長の命を受け政策及び企
画をつかさどり,職員の担任する事務を監督する(地方自治法167条1項)
ものであるが,予算執行権は長に専属し(同法149条2号),現金の出納保
管等の会計事務は会計管理者の権限とされている(同法170条1項及び同
条2項)のであるから,副市長村長は,予算執行に関する事務や会計事務を
行う権限を有しない。
また,滝川市事務決裁規程等においても,市長の有する予算執行に関する
権限が副市長に委任されていたとみるべき根拠はない。
以上のとおり,副市長であったX3が,滝川市における生活保護の支給決定
に関し,財務会計上の行為を行う権限を有していたと認めるべき規定や慣行
は存在しないから,同人が本件各支給決定を行う権限を有していたとは認め
られない。
したがって,X3は,地方自治法242条の2第1項4号本文にいう当該職
員に該当しない。
(4)争点4(X1の財務会計上の違法行為の有無)について
(原告らの主張)
X1は,滝川市長から生活保護の支給決定を行う権限を委任されていたので
あるから,X2及びX5が財務会計上の違法行為をすることを阻止すべき指揮
監督上の義務を負っていたところ,同義務に違反して故意又は過失によりX2
及びX5が前記(1)(原告らの主張)のとおり財務会計上の違法行為である支
給決定をすることを阻止せず,滝川市に損害を与えたのであるから,地方自
治法242条の2第1項4号本文の規定に基づき,損害賠償責任を負う。
(被告の主張)
前記(1)(被告の主張)イ及びウのとおりであるから,X1が故意又は過失
により財務会計法規である生活保護法8条に違反する行為をしたということ
はできない。
(5)争点5(X2の財務会計上の違法行為の有無)について
(原告らの主張)
X2は,X1の部下として,生活保護費を支給する業務に従事していたのであ
るから,同業務に従事するに当たり,滝川市に損害を与えないよう誠実に職
務を行うべき義務を負っていたところ,前記(1)(原告らの主張)ア及びイの
とおりであるから,X2は,同義務に違反して,故意又は過失により滝川市に
損害を与えたというべきであり,地方自治法242条の2第1項4号本文の
規定に基づき,損害賠償責任を負う。
(被告の主張)
アX2は,平成18年4月1日前にされたZ1夫婦に対する通院移送費の支
給決定には関与していない。
イX2は,本件各支給決定のうちX1が支給決定をした部分について,同人
の部下としての一般的な責任(補佐責任又は補助責任と呼ぶべきもの)を
負うにすぎず,極めて限られた場合においてのみその責任が肯定されると
いうべきところ,前記(1)(被告の主張)イ及びウのとおりであるから,X1
には故意又は過失がなかったのであり,したがって,これを補佐して所掌
事務を行う立場の部下職員であるX2にも,故意又は過失はない。
(6)争点6(X5の財務会計上の違法行為の有無)について
(原告らの主張)
X5は,X1の部下として,生活保護費を支給する業務に従事していたのであ
るから,同業務に従事するに当たり,滝川市に損害を与えないよう誠実に職
務を行うべき義務を負っていたところ,前記(1)(原告らの主張)ア及びイの
とおりであるから,X5は,同義務に違反して,故意又は過失により滝川市に
損害を与えたというべきであり,地方自治法242条の2第1項4号本文の
規定に基づき,損害賠償責任を負う。
(被告の主張)
X5は,本件各支給決定のうちX1が支給決定をした部分について,同人の
部下としての一般的な責任(補佐責任又は補助責任と呼ぶべきもの)を負う
にすぎず,極めて限られた場合においてのみその責任が肯定されるというべ
きところ,前記(1)(被告の主張)イ及びウのとおりであるから,X1には故
意又は過失がなかったのであり,したがって,これを補佐して所掌事務を行
う立場の部下職員であったX5にも,故意又は過失はない。
(7)争点7(損害額)について
(原告らの主張)
アX1の争点1の違法行為によって,滝川市には1億9566万円の損害が
発生した。
X2の争点1の違法行為によって,滝川市には1645万円の損害が発生
した。
X5の争点1の違法行為によって,滝川市には2675万円の損害が発生
した。
イX4の争点2の違法行為によって,滝川市には2億3886万円の損害が
発生した。
ウX3の争点3の違法行為によって,滝川市には2億3886万円の損害が
発生した。
エX1の争点4の違法行為によって,滝川市には4320万円の損害が発生
した。
オX2の争点5の違法行為によって,滝川市には1億4311万円の損害が
発生した。
カX5の争点6の違法行為によって,滝川市には5250万円の損害が発生
した。
(被告の主張)
原告らの主張は争う。
第3当裁判所の判断
1認定事実
(1)滝川市における生活保護の支給の仕組み等
ア生活保護事務に関する職員の事務分掌(甲1・8,10,11頁,甲4
6・2,3頁)
(ア)福祉事務所長は,保健福祉部長を兼ねており,生活保護法19条4
項の規定による委任を受けて,生活保護の決定及び実施に関する事務の
全部(ケース診断会議の総括管理,100万円を超える扶助費の支出負
担行為の承認等)を行う。
(イ)生活保護に関する事務は,保健福祉部に設置された福祉課の保護グ
ループが取り扱っている。福祉課には,福祉課長,副主幹,主査及び主
事が配置されている。
福祉課長は,保護業務の監督指導,100万円以下の扶助費の支出負
担行為の承認等を行う。
福祉課の主査は,社会福祉法15条3項に規定する指導監督を行う所
員(以下「査察指導員」ということがある。)を兼ねており,現業を行う
所員の指揮監督,医療扶助の把握と問題点の分析,指定医療機関,関係
機関等との連絡調整等を行う。
福祉課の主事は,社会福祉法15条4項に規定する現業を行う所員(以
下,同課保護グループの主事を「ケースワーカー」ということがある。)
を兼ねており,被保護世帯への対応(訪問,調査,相談,助言,ケース
記録作成等),主治医及び嘱託医との医療扶助の検討等を行う。
(ウ)嘱託医は,指定医療機関と福祉事務所との橋渡し,査察指導員及び
ケースワーカーからの問題提起に応え必要な指導・助言を行うこと,医
療要否意見書,給付要否意見書等の検討を通じ気付いた点をケースワー
カーに知らせ決定実施を誤りなく行わせること等の業務を行う。
イ医療扶助の支出の仕組み
(ア)医療の要否に関する意見聴取
被保護世帯は,医療扶助を申請し,ケースワーカーから医療券の交付
を受けた上で,医療機関(主治医)を受診する。ケースワーカーは,主
治医から申請者の所見を聴取することによって,病状把握を行う。ケー
スワーカーは,主治医の所見を基に,嘱託医から医療の要否に関する意
見を聴取する。
医療要否意見書(Z1につき乙4,Z2につき乙5)は,治療の要否を確
認するための書面であり,医療扶助開始時及び継続時(3ないし6か月
ごと)に徴取する。通常は,ケースワーカー及び査察指導員が確認を行
うが,医療扶助に変更が生じる場合等には,ケース台帳に記載されて福
祉課長の決裁を経る。
医療扶助検討票(Z1につき乙6,Z2につき乙7)は,ケースワーカー
が主治医と面談し,病状,治療方針,就労の可否等を確認して報告する
ための書面である。
(甲1・15頁,甲46・5頁,乙4ないし7)
(イ)医療扶助の給付の要否に関する意見聴取等
ケースワーカーは,被保護世帯を通じて,主治医の給付要否意見書及
び取扱業者の見積書を取得する。ケースワーカーは,給付要否意見書及
び取扱業者の見積書を基に,嘱託医から医療扶助の給付の要否に関する
意見を聴取する。
給付要否意見書は,治療材料,移送の要否及び所要経費の見積りを主
治医及び取扱業者に確認するための書面であり,必要がある都度発行さ
れる。
(甲1・16頁,甲46・5頁)
(ウ)経理事務関係業務
ケースワーカーは,世帯ごとの扶助費の計算票である保護決定調書を
作成し,査察指導員に提出する。査察指導員は,経理事務を行う権限を
有する庶務担当に対し,保護決定調書を交付する。庶務担当は,支出負
担行為に係る伺書及び支出命令書を作成した上,これらを保護決定調書
と共に副主幹に交付する。副主幹は,これらの書面を福祉課長に提出す
る。100万円以下の扶助費の支出については,福祉課長の専決によっ
て処理されるが,100万円を超える扶助費又は保護の停廃止に係るも
のについては,福祉事務所長の決裁を経ることになる。(甲1・14頁,
証人X1・22,23頁)
(2)高規格ストレッチャー対応型タクシー
高規格ストレッチャー対応型タクシーとは,主に寝たままの状態で移動し
なければならない場合に利用されるタクシーである(国土交通省の免許等を
要する。)。原則として,少なくとも運転を担当する乗務員1名と患者の介護
及び観察を担当する乗務員1名とが乗務する。搭載資器材は多種にわたり,
酸素供給装置,吸引装置,点滴管理資器材,各種モニター等,救急車に劣ら
ない装備が備えられている。(甲1・19頁)
(3)Z1に対する通院移送費の支給の経緯
アZ1夫婦は,平成9年,滝川市福祉事務所長に対して生活保護の支給を申
請し,平成17年5月に札幌市α区に転出するまで,一時的に辞退した期
間を除いて生活保護の支給を受けていた(甲1・17頁,甲46・3頁)。
イZ1夫婦は,平成17年5月,札幌市α区に転出し,同区においても生活
保護の支給を受けた。
α区福祉事務所は,Z1が滝川市立病院に通院する際,平成17年10月
27日分の通院移送費として20万3170円を,平成18年2月24日
分の通院移送費として20万円をそれぞれ支給した。
札幌介護福祉交通がα区福祉事務所に提出した請求書(以下「α区に提
出された請求書」という。)には,平成18年5月1日以降に滝川市福祉事
務所に提出した同年4月30日付け以降の請求書(乙1の1及び2)と異
なり,金額等が印字され,法人(札幌介護福祉交通)名義の振込先口座が
記載されていた。
(甲1・41頁,甲46,乙26,証人X7・39頁)
ウZ1夫婦は,平成18年3月13日,滝川市へ転入し,同日,Z1は,滝川
市福祉事務所長に対して生活保護の支給を申請した。
Z1は,上記申請の際,北大病院第一内科のY2医師の診断書(「C型肝硬
変に伴う肝肺症候群,慢性呼吸不全(重症)」によって,「在宅酸素療法を
施行中。最低月1回の通院診察,週1回のリハビリ治療を要す」,「移送に
関しては民間救急車等の設備が充実したものが望ましい。(札幌介護福祉交
通など)」と記載されたもの)を持参し,高規格ストレッチャー対応型タク
シーを利用して札幌市に所在する北大病院に通院したいなどと述べた。
そこで,滝川市福祉事務所の担当者は,Y2医師に対して面会を申し入れ,
平成18年3月30日に同医師と面会することとしたほか,北大病院精神
神経科のY1医師及び同病院耳鼻咽喉科のY6医師に対し,医療扶助検討票
の用紙を送付して,必要事項を記載した上で返信するよう依頼した。
(甲1・17頁,甲47・2ないし5,13頁,乙6)
エ滝川市福祉事務所の担当者は,平成18年3月16日,Z1の主治医であ
った滝川市立病院のY3医師から,Z1に関する医療の要否等の意見を聴取
した(甲1・18頁,乙6)。
(ア)Y3医師の所見を記載した医療扶助検討票(乙6)には,次のとおり
の記載がある。
北大病院第三内科(Y7医師)で肝硬変の治療を受けていたが,主治医
の治療方針とZ1の意見とが合わず,転院となった。Z1は,北大病院で
強力ミノファーゲン(以下「強ミノ」という。)を毎日注射するよう希望
していたが,主治医の診断によると,肝機能の数値は正常値で安定して
いて毎日注射をする必要はなく,状況を見ながら回数等を減らしたいと
のことであった。しかしながら,Z1から,体調の維持向上には毎日注射
をすることが必要であり,精神的な安心感にもつながっているとの申立
てがあった。なお,現在Z1の体調がよくないのは主として肝肺症候群に
よるものであり,症状としてもかなり重度であるが,酸素による対症療
法しかない。
Z1の状態は非常に悪く,いつ急変してもおかしくない状態ではある。
現状,日常的に妻等の付き添いを必要とする。滝川市立病院の通院に関
し,病状が重く歩行困難で車椅子を常時使用していることから車椅子の
まま乗れるタクシーの利用についてはやむを得ないが,札幌で利用して
いたストレッチャーで利用するタクシーについては,通院時間が10分
程度であり,病院到着後は車椅子に座ったままであることを考えても現
時点では必要がない。
(乙6)
(イ)Y3医師が作成した平成18年3月16日付け給付要否意見書には,
移送の給付を要するが,滝川市立病院まで10分程度のためストレッチ
ャー寝台車までは必要がない旨の記載がある(乙8)。
オZ1は,平成18年3月17日,生活保護の支給決定がいまだされていな
い時点で,札幌介護福祉交通の高規格ストレッチャー対応型タクシーを利
用して,北大病院への通院を開始した(甲1・18頁)。
カ(ア)滝川市福祉事務所は,平成18年3月22日に開催されたケース診
断会議において,Z1に対して生活保護の支給を開始するか否かを検討し,
その結果,同事務所長は,Z1に対し,「最低生活維持困難,医療費支払
い困難」との理由で,申請時である同月13日に遡って生活保護を支給
する旨の決定をした(甲1・17,18頁,甲47・5頁)。
上記ケース診断会議においては,高規格ストレッチャー対応型タクシ
ーによる札幌市内への通院移送費の支給を認めるべきか否かも問題にな
ったが,主治医(北大病院第一内科のY2医師)に確認してからでなけれ
ば判断できないとされ,結論には達しなかった(甲47・5,6頁)。
(イ)滝川市福祉事務所は,平成18年3月,滝川警察署に対し,Z1が暴
力団員であるか否かについて確認したところ,この時点では暴力団員で
ないとの回答を得た。滝川市福祉事務所は,Z1が元暴力団員であったこ
とを把握していたことから,平成18年度,Z1の保護案件を暴力団関係
ケースに分類した。
また,滝川市福祉事務所は,Z1の保護案件を居宅訪問の必要回数が最
も多いA格付け(月に1回以上の居宅訪問を要する世帯をいう。)とした。
(甲1・17頁,証人X8・7,8,11頁,証人X7・7ないし9頁,証
人X1・15,26頁)
(ウ)滝川市福祉事務所は,Z1に対する生活保護の支給決定に当たり,預
貯金の調査を行ったが,高額の預貯金は確認されなかった(証人X8・8
頁)。
キ滝川市福祉事務所の担当者は,平成18年3月30日,北大病院第一内
科のY2医師を訪問し,Z1の病状,北大病院への通院の必要性,高規格ス
トレッチャー対応型タクシーの利用の必要性等について確認した。
Y2医師の所見を記載した医療扶助検討票には,次のとおりの記載がある。
Z1の傷病名は,肝肺症候群及び重度慢性呼吸不全である。
ここ1年間はかなり悪い状態で横ばい状態である。通常,血中酸素は9
5%あるが,Z1の場合は83%と非常に低い。Z1としてはかなり辛い状態
だと思うし,軽い肺炎でも致命傷になる可能性がある。北大病院以外での
治療についても可能だとは思うが,現在,精神力で辛い状況を乗り切って
いる状態であり,週1回の通院は,Z1の精神の安定を考えると必要だと思
う(通常は月1回の通院でよいが,ストレスを与えることは非常に良くな
い。)。現在使用しているストレッチャー対応型のタクシーは,Z1の血中酸
素量を考えると必要である。今後,Z1との話合いの上で通院回数を減らす
方向で検討していくことも考えている。
(甲47・4頁,乙6)
ク(ア)滝川市福祉事務所長は,平成18年3月31日,Z1に対し,同月1
7日に遡り,高規格ストレッチャー対応型タクシーによる北大病院への
通院移送費(1回20万円)を支給する旨の決定をした(甲1・18,
19頁)。
(イ)滝川市福祉事務所の担当者は,上記(ア)の決定に当たり,札幌介護
福祉交通のホームページ(「民間救急車札幌介護福祉交通」と題するも
の)を閲覧して確認した。
当該ホームページには,「札幌発地←→道内主要都市料金表(目安)」
として「滝川約50,000円位」との記載があるほか,「(Aメー
ター運賃)+(Bケアサポート介助員派遣,その他)=(利用料金)」
として,「【A】運賃」につき「貸切30分毎4,430円」,「ストレ
ッチャー使用運賃の2割増」,「【B】ケアサポート介助員派遣料」につ
き「市外・貸切(1名30分毎)1,500円」との記載がある。
(甲47・11頁,乙26,証人X7・17ないし21頁)
(ウ)滝川市福祉事務所の担当者は,上記(ア)の決定前に,α区福祉事務
所から「要保護者の転出について」と題する書類を受領していたところ,
当該書類にはα区に提出された請求書(前記イ参照)が含まれていた(甲
47・3ないし5,14頁)。
ケ(ア)北大病院精神神経科のY1医師の所見を記載した平成18年3月3
0日付け医療扶助検討票には,次のとおりの記載がある。
肝肺症候群,重度慢性呼吸不全,C型肝硬変等の重篤な内科疾患を抱
えており,そのことへの不安,焦燥があり,今後も精神科的加療の継続
が必要であり,1か月に2回程度の通院が必要である。
北大病院内科での加療が継続されていることや,通院の利便性を向上
させ,患者への負担を減らす目的でも同一施設での総合的加療が望まし
いことから,北大病院での受診・治療が必要である,C型肝炎後の肝硬
変に基づく重症慢性呼吸不全により体力低下が著しいため,車椅子対応
型タクシーによる通院が必要である。
(乙6)
(イ)北大病院耳鼻咽喉科のY6医師の所見を記載した平成18年3月3
1日付け医療扶助検討票には,乾燥性鼻炎によって定期的に鼻内痂疲の
除去を要する(自己にては不可)ため,1か月に三,四回程度の通院が
必要である,肝肺症候群及び慢性呼吸不全に対しては北大病院内科で治
療されており,内科との併科治療,経過観察が望ましいと考えられるた
め,北大病院での受診・治療が必要である,ストレッチャー対応型タク
シー通院については,耳鼻咽喉科のみでは不要であり,内科疾患による
必要性があるとの記載がある(乙6)。
コ平成18年4月1日,滝川市福祉事務所の職員が交代し,X1が福祉事務
所長に,X2が福祉課長に,X7が査察指導員に,X8がZ1を担当するケース
ワーカーにそれぞれ就任した(甲46・2頁,甲49・1,2頁,証人X2・
3頁,証人X1・10頁)。
X8は,前任者から,Z1について,他の保護案件の40倍くらい苦労する
旨告げられた(甲49,証人X8・9ないし11頁)。
サZ1は,平成18年4月3日,札幌介護福祉交通に対してタクシー代を立
替払いしたとして,滝川市福祉事務所に120万円分の領収証を持参し,
通院移送費の支給を求めた。
X8は,Z1に対する通院移送費については支給する方向で決まっているも
のであると考えて,特別な調査をすることなく支給の手続をとった。X2は,
自ら着任する前の福祉事務所としての決定の範囲であると考えて,医療扶
助検討票等について検討することなく決裁をした。また,X1は,担当者か
ら,3月に決定をしていることなので支出をしなければならないなどと説
明を受け,120万円を支給する旨の決定をした。
(甲1・21,22頁,甲49・2,3頁,甲51・2,3頁,乙1の1,
証人X8・12ないし14頁,証人X7・22,23頁,証人X2・3,6な
いし8頁,証人X1・10,11頁)
シX8は,平成18年4月4日,Z1の主治医であった滝川市立病院のY3医
師を訪問した(乙6)。
(ア)Y3医師の所見を記載した医療扶助検討票には,次のとおりの記載が
ある。
強ミノは現在週3回注射している。回数は,肝機能の数値が安定して
いることから,十分すぎる。本人が毎日を希望しているのは精神的な安
心感が欲しいからであろう。無駄に注射することで効き目が悪くなるこ
とも考えられることなどから,毎日注射する必要はない。ペグインター
フェロンは,病状及び数値が安定している現状では必ずしも投与する必
要性はない。また,肝硬変については保険対象外となっている。
(乙6)
(イ)Y3医師が作成した医療要否意見書には,Z1について,C型肝硬変,
肝肺症候群及び食道静脈瘤によって入院外医療を要すると認める旨の記
載がある。
(乙4)
ス(ア)Z1は,平成18年4月24日,札幌介護福祉交通に対してタクシー
代を立替払いしたとして,滝川市福祉事務所に220万円分の領収証を
持参し,通院移送費の支給を求めた。
滝川市福祉事務所は,Z1に対し,立替払いに係る原資について確認し
たところ,Z1は,知人から金を借りて支払った旨の回答をした。滝川市
福祉事務所長(X1)は,それ以上の確認をすることなく,220万円を
支給する旨の決定をした。
ただし,滝川市福祉事務所は,Z1に対し,以後は札幌介護福祉交通に
直接支払う形式で通院移送費を支給するため,立替払いをしないよう指
示した。
(乙1の1,証人X8・14ないし16頁,証人X7・23,24頁,証人
X2・13頁,証人X1・18頁)
(イ)上記(ア)を受けて,平成18年5月1日以降に札幌市介護福祉交通
が滝川市福祉事務所に提出した同年4月30日付け以降の請求書(乙1
の1及び2)には,振込先口座が記載されておらず,その代わりに,札
幌介護福祉交通は,滝川市福祉事務所に対し,代表者の個人名義の銀行
預金口座を振込先口座とする書面を提出した。
滝川市福祉事務所は,同年5月頃,会計課の担当者による依頼を受け,
札幌介護福祉交通に対し,法人名義の銀行預金口座がないのかについて
確認したところ,同社の担当者は,法人名義の銀行預金口座はない旨の
回答をした。
(甲1・22頁,乙1の1及び2,弁論の全趣旨)
セ(ア)X8は,平成18年5月頃,X7の指示を受け,Z1に対して他の業者
による見積書を提出するよう促したところ,Z1は,6時間30分で18
万9400円(高速料金,介助員派遣料を除く。)とする他の業者の見積
書を提出した。
滝川市福祉事務所は,上記見積書について,8時間換算にすると23
万3107円となること,介助員派遣料を含んでいないことから,介助
員派遣料を含めて8時間で20万円とする札幌介護福祉交通の料金の方
が安価であると判断した。
(甲1・20頁,甲49・4,5頁)
(イ)X8は,平成18年5月頃,Z1に対し,札幌介護福祉交通の見積書も
提出するよう促したところ,札幌介護福祉交通は,滝川市福祉事務所に
対し,同年6月18日付けの見積書(介助員派遣料を含めて8時間で2
0万円)を提出した。
札幌介護福祉交通は,平成18年5月下旬頃からは,滝川市立病院を
経由する場合には2万円を加算し,同年6月上旬からは,KKR札幌医
療センターを経由する場合には5万円を加算して請求するようになった。
札幌介護福祉交通は,その後も,通院先の病院が1つ増えるごとに,5
万円を加算した金額を請求するようになった。
(甲1・20頁,甲49・4,5頁)
ソ(ア)Z1は,平成18年6月以降,滝川市立病院のY3医師と治療方針が
合わないことを理由に,KKR札幌医療センターにおいて強ミノの注射
を受けることとした(甲1・23頁,乙4,乙6)。
(イ)滝川市福祉事務所の嘱託医であった滝川市立病院のY8医師は,平成
18年6月1日,滝川市福祉事務所長の求めを受け,同日以降のZ1に対
する医療の要否に関する医療要否意見書を作成した。
当該意見書には,Z1について,「傷病名又は部位」として,C型肝硬
変及びこれによる肝肺症候群,「主要症状及び今後の診療見込」として,
「在宅酸素施行中であるが,今回患者の希望で,札幌市の病院で治療を
受けており,病状から,重複的な治療を行うことには責任が持てない。
救急的な医療には対応するが,その他については,主治医に対応しても
らいたい」,入院外医療を要すると認める旨の記載がある。
(乙4)
(ウ)a北大病院第一内科のY2医師は,平成18年6月7日,滝川市福祉
事務所長の求めを受け,同月1日以降のZ1に対する医療の要否に関す
る医療要否意見書を作成した。
当該意見書には,Z1について,「傷病名又は部位」として,肝肺症
候群,肝硬変症及び慢性呼吸不全,「主要症状及び今後の診療見込」と
して,月1回の通院(近医又は当科)を要する,入院外医療を要する
と認める旨の記載がある。
(乙4)
bY2医師が作成した平成18年6月9日付け給付要否意見書(所要経
費概算見積書)には,Z1について移送の給付を要する,座位では呼吸
苦が増悪してしまうためストレッチャー寝台車が必須である旨の記載
がある。
(乙8)
タX8は,平成18年夏頃からZ1がほとんど毎日KKR札幌医療センター
に通院するようになり,同人に支給した通院移送費が高額になっていたこ
とから,常識的に考えておかしいのではないかと思うようになり,同人の
主治医からその病状等を聴き取ることとした(甲49・7ないし9頁)。
(ア)X8は,平成18年8月17日,KKR札幌医療センター内科のY9
医師を訪問し,Z1の病状について確認した。
aY9医師の所見を記載した医療扶助検討票には,次のとおりの記載が
ある。
傷病名は慢性肝硬変である。
上記傷病により現在服薬治療と注射(強ミノ)による治療を行って
いる。強ミノについては本人の希望により毎日注射している。医学的
にいえば毎日の注射は必要ないが,肝硬変に打って悪いものではない
し,毎日打つことによって本人が安心するというのであれば,病院と
して拒むことはできないし,断る理由もない。現在病状は安定してい
るが,もしかしたら毎日注射を打っていることによって正常なのかも
しれず,病院で制限はできない。本人には副作用が出れば注射をやめ
ると言ってある。病状的に入院の必要はなく通うのが大変であれば地
元の病院で治療すればよい話である。別に当院でなければ治療できな
いわけではない。また,生活保護制度上,毎日の通院が頻回受診に当
たるかといえば,それは頻回になると思う。
(乙6)
bY9医師は,平成18年9月29日,滝川市福祉事務所長の求めを受
け,同月1日以降のZ1に対する医療の要否に関する医療要否意見書を
作成した。
当該意見書には,Z1について,傷病名をC型肝硬変,肝肺症候群及
び慢性呼吸不全とし,「主要症状及び今後の診療見込」として,「上記
病名にて通院中症状は比較的安定しているが今後も治療が必要であ
る」,入院外医療を要すると認める旨の記載がある。
(乙4)
(イ)X8は,平成18年9月6日,北大病院精神神経科のY1医師を訪問
し,Z1の病状について確認した。
Y1医師の所見を記載した医療扶助検討票には,次のとおりの記載があ
る。
傷病名は,心因反応(適応障害)である。
病気としては,心因反応(適応障害)ということになる。
治療としては主にカウンセリングで,薬は鬱をとるのに安定剤を出し
ている程度である。病状的にいえば月3回ほどの通院が目安だが,本人
が自分で持たないと思えば来るのであって,来るなとは言えないし,現
在の通院で心の健康のバランスがとれているなら滝川に病院を変えろと
も言えない。通院に関しては奥さんとうまくいっていないようで,家か
ら逃げたいという要素もあるのだろう。現実から逃れることでバランス
をとっているのだと思う。性格的に最初に縛りをかけておいて少しずつ
取り除くのなら良いのだが,最初に与えておいて後からいろいろ縛りを
かけるとトラブルになるのは目に見えており,今現在の通院でトラブル
になっていないなら現状を維持した方がよいと思う。
(乙6)
(ウ)X8は,平成18年9月12日,北大病院第一内科のY2医師を訪問
し,Z1の病状について確認した。
Y2医師の所見を記載した医療扶助検討票には,次のとおりの記載があ
る。
現在,肝肺症候群(在宅酸素)の関係はKKR札幌医療センターで行
っており,北大病院ではタッチしていない。現在,第一内科では医療的
に何もしておらず,食事の上での注意点やアレルギーや風邪の薬を出し
ているくらいである。医学的には通院の必要はなく,大学病院でする治
療もないのだが,本人は話をするだけで楽になるようで,来るのが生き
甲斐という面があるため,来るなとも言えない。
肝肺症候群は治療方法がなく,酸素を吸入するしかない。本人の肺の
状態からいえば,あの血中酸素量では寝たきりでもおかしくはなく,出
歩くのはリスクがある。あの状態で出歩いているのが信じられないくら
いで,気持ちががっくり来れば動けなくなることも考えられる。
(乙6)
(エ)滝川市福祉事務所は,前記(ア)ないし(ウ)の医師の意見等を受け,
Z1に対する通院移送費の支給を継続することとした(甲1・23頁,甲
49・9頁)。
(4)Z2に対する通院移送費の支給の経緯
アZ1は,平成18年10月頃,めまいの症状で北大病院へ通院していたZ2
についても,高規格ストレッチャー対応型タクシーを利用したいと申し出
た(甲1・24,25頁,乙5,乙7)。
イ(ア)a北大病院耳鼻咽喉科のY5医師が作成した平成18年11月24
日受付の意見書には,次のとおりの記載がある。
2年前からめまいがあり,投薬及び注射による治療を行っている。
頻度は毎週一,二度の受診をしている。北大病院以外の滝川市近郊の
病院での受診・治療の可否については,滝川市の状況が把握できない
ので不詳である。北大病院の他科にも受診しているため,常識的には
同病院の耳鼻咽喉科を受診するのが便利であると考える。めまい症状
があるため,普通乗用車型のタクシーを要する。
(乙7)
bY5医師が作成した平成18年12月1日付け給付要否意見書(所要
経費概算見積書)には,傷病名をめまいとして,2年前からめまい症
状がある,当科にて精査加療をすすめる,「タクシー(ストレッチャー)」
について,1か月に16日の移送の給付を要する旨の記載がある(乙
9)。
(イ)北大病院精神神経科のY1医師が作成した平成18年11月24日
受付の意見書には,次のとおりの記載がある。
傷病名は身体表現性障害である。
家庭内でのストレス等により自律神経失調状態となり,めまい,耳鳴
り等の症状が出現し,抗不安薬中心の薬物療法及び精神療法を要する。
北大病院以外の滝川市近郊の病院での受診・治療の可否については,
条件付きではあるが可能である。Z1ともども滝川市内の病院に対する不
信感が強い。Z1は内科疾患加療の現状からみると,札幌での加療継続を
せざるを得ないと考えられるが,Z2の病状からすると,当科での加療に
よりある程度症状が落ち着けば,滝川市近郊での加療に切り換えていく
ことは可能と考える。
タクシー通院は,条件付きであるが不要である。本人自身の通院のた
めにタクシー利用は不要と考えるが,夫の札幌通院の際に同車という形
での移動ということであれば。夫の頻度より少ない形で可とするのが現
実的のように思われる(本人については2週に1回程度の通院でよいと
考える。)。
Z2については,たとえ当科を希望したとしても,2週に1回の通院で
十分と考える。将来は,滝川市近郊のクリニック等へ移っていただくの
が適当と考える。
(乙7)
(ウ)北大病院第三内科のY7医師が作成した平成18年11月24日受
付の意見書には,次のとおりの記載がある。
傷病名はC型肝炎である。
肝機能障害があり,C型肝炎と診断し,IFN治療を含めた加療が必
要である。
北大病院以外の滝川市近郊の病院での受診・治療の可否については,
可能であるが,Z2が滝川市立病院に対して強い不信感がある。
タクシー通院は不要である。
(乙7)
(エ)北大病院耳鼻咽喉科のY10医師が作成した平成18年10月27日
付け給付要否意見書(所要経費概算見積書)には,Z2について,2年前
からのめまい症状があり,当科にて精査加療を要するとして,「タクシー
(ストレッチャー)」について1か月に4日の移送の給付を要する旨の記
載がある。
また,Y10医師が作成した平成18年11月10日付け給付要否意見
書(所要経費概算見積書)には,おおむね上記意見書と同様の記載があ
るが,こちらの意見書においては,1か月に8日の移送の給付を要する
旨の記載がされている。
(乙9)
(オ)北大病院精神神経科のY1医師が作成した平成18年11月9日付
け給付要否意見書(所要経費概算見積書)には,傷病名を身体表現性障
害として,ストレスによりめまい,頭痛等の激しい症状が出現する,長
期加療を必要とする,治療に必要な通院頻度としては1か月に2ないし
4日,タクシーによる移送の給付を要する旨の記載がある(乙9)。
ウ滝川市福祉事務所長(X1)は,平成18年10月27日,Z2についても
高規格ストレッチャー対応型タクシーによる通院移送費(1回20万円)
を支給する旨の決定をした(甲1・25,26頁)。
(5)通院移送費の値上げ
札幌介護福祉交通は,平成18年10月,Z1及びZ2の高規格ストレッチ
ャー対応型タクシーの料金を1回25万円(救急ストレッチャー仕様往復移
送費(8時間貸切)2万7500円×8時間,介助・ドライバー派遣料(乗
降・見守介助等)3750円×8時間×2名,値引き3万円)に値上げした
いと申し出,福祉事務所は,同年11月分から,1回25万円に値上げする
ことを認めた(甲1・24,26頁,乙26)。
(6)通院移送費の架空請求
Z1夫婦は,前提事実(4)の還流により取得した金員を用いて,札幌市に所
在するマンションを賃借したり,札幌市内のホテルに宿泊したりするなどし
ていたところ,これらのマンションやホテルから直接札幌市内の病院に通院
した場合にも,通院移送費の支給を受けていた(甲66,甲67,甲75な
いし77)。
(7)Z1夫婦による通院移送費の詐取の発覚の経緯
アX2は,平成18年12月,滝川市会計管理者であったX6から,Z1夫婦
の保護案件について問い合わせを受けた(証人X2・20頁)。
イX4は,この頃,X9監査委員から,Z1夫婦の保護案件について注意を喚
起された(証人X1・30頁,弁論の全趣旨)。
ウ滝川市福祉事務所は,平成19年1月16日,北海道による事務監査を
受けた際,Z1夫婦の保護案件について相談したところ,北海道は,問題が
ない旨の回答をした(甲1・43頁,証人X8・2,3頁,証人X7・4,5
頁,証人X2・4,5,21頁,証人X1・5,6,29,30頁)。
エ滝川市のX10監査委員は,平成19年2月,Z1夫婦の保護案件について
調査を開始した(甲1・43頁,証人X2・22頁,証人X1・31,35頁,
証人X4・12,13頁)。
オX10監査委員は,平成19年5月,X3に対し,Z1夫婦の保護案件につい
て問題点を指摘した。
X3は,平成19年5月22日,X1に対し,下記(ア)及び(イ)の書面を含
む資料一式(乙26)を交付し,対応を指示したほか,その二,三日後,
X4に対し,その指示内容等について報告した。
(甲1・43頁,乙26,証人X8・3ないし5頁,証人X7・5,6頁,証
人X2・5,23,24頁,証人X1・6,31,32頁,証人X4・22な
いし24頁)。
(ア)「医療扶助通院移送費の検証について」と題する書面
a医療扶助通院移送についての疑義
⒜移送費の請求が過大ではないか
平成18年度のZ1の通院日数は291日,移送費請求金額は87
01万円であり,Z2の通院日数は84日,移送費請求金額は220
0万円であって,合計1億0901万円が支給されている。
一般的な個人が支払う移送費としては考えられない。
請求金額と見積金額との整合性がない。
⒝医師の診断書が妥当か
紹介病院,投薬日数,移送方法及びZ2とZ1の見積金額が同じこ
とに疑義がある。
⒞移送費支払方法の疑問
移送費の業者払いが会社の代表者の個人名の口座となっている
(札幌市在住時の移送会社への振込口座と異なる。)。
請求書が手書きであり,持参されている(札幌市在住時はパソコ
ン処理の請求書であった。)。
⒟以上からすると,移送費が移送会社の売上計上になっていないの
ではないか。移送費が利用者であるZ1に還流しているのではないか。
b道の見解
1月の道の監査時に個別案件として相談をしたが,医師の診断によ
る措置であり問題はないとされた。
c担当課の意見等
移送費も多額であり,札幌の通院に関し問題意識はある。
移送費の請求内訳(移動時間等)を求めているが,提出されていな
い。
Z2の移送方法等については何とかしたい。
d調査,確認等が考えられる事項
移送会社に請求明細の提出を強く求める。
国,道への対応協議を行う(通常の移送費としては現実離れしてい
ることによる指導を強化する。)。
医師の診断書について状況把握をする(近郊病院,入院等による治
療の可否を検討する。適切な移送方法を検討する。)。
移送会社の変更の可否を検討する。
運輸局から情報を入手する。
税務署等の調査を依頼する。
(イ)「料金の算出(8時間利用)」と題する書面
当該書面には,次のとおりの記載がある。
「貸切30分毎4,430円×2×8H=70,880円
ストレッチャ利用70,880円×1.2=85,056円①
介護有資格者運転手派遣料4000円②
30分毎の介護料1,500円×2×8H=24,000円③
酸素吸入利用?④
①+②+③=113,056円+④=?
1か所250,000円
2か所300,000円→2時間超過分
3か所350,000円→4時間〃
5か所450,000円→8時間〃
1日16H朝7時出発~夜11時まで
受診できる?」
カ滝川市福祉事務所は,平成19年5月22日,Z1夫婦の保護案件につい
て,滝川市の顧問弁護士に相談した(甲1・43頁,証人X2・24頁,証
人X1・32頁)。
また,滝川市福祉事務所は,平成19年5月31日,Z1夫婦の保護案件
について所内協議を行った上,同年6月1日,滝川警察署に相談した(甲
1・41,43頁,証人X2・25頁,証人X1・32頁)。
キ滝川市福祉事務所は,平成19年6月8日,札幌介護福祉交通に対し,
請求書に運行表を添付するよう求めたほか,振込先口座を法人名義の口座
に変更するよう再度求めるなどした(甲1・29,43頁,甲46,甲8
3)。
クX8は,平成19年7月から同年8月にかけて,円山リラクリニック,て
いね耳鼻咽喉科クリニック,KKR札幌医療センター,北大病院精神神経
科及び耳鼻咽喉科等の医師から,医療の要否,通院移送費の給付の要否等
に関する意見を聴取するなどした(甲1・43頁,乙7)。
ケ滝川市福祉事務所は,平成19年11月16日,滝川警察署に対し,Z1
夫婦による通院移送費の詐取に係る詐欺の疑いで被害届を提出した(甲
1・44頁)。
コ滝川警察署の警察官は,平成19年11月19日,通院移送費の詐取に
係る詐欺被疑事件について,Z2を逮捕した。滝川市福祉事務所は,同日,
Z2に対する生活保護の支給を停止した。(甲1・17,44頁)
サ滝川警察署の警察官は,平成19年11月21日,通院移送費の詐取に
係る詐欺被疑事件について,Z1を逮捕した。滝川市福祉事務所は,同日,
Z1に対する生活保護の支給を停止した。(甲1・17,44頁)
シ滝川市福祉事務所長(X1)は,平成19年12月29日,Z1夫婦に対す
る生活保護の支給を廃止する旨の決定をした(甲1・44頁)。
2争点1(X1,X2及びX5の支給決定の違法及び同人らの故意又は重過失)に
ついて
(1)X1及びX2について
ア前記前提事実(3)アのとおり,Z1に対しては,平成18年4月に340
万円の,同年5月に320万円の,同年6月に563万円の,同年7月に
657万円の,同年8月に590万円の,同年9月に564万円の,同年
10月に637万円(7か月で合計3671万円)の各通院移送費が支給
されていたところ,これらの支給額は,他の生活保護受給者の場合と比較
しても突出して高額のものであって(証人X1・12,29頁),Z1に対す
る平成18年10月までの通院移送費の支給は,これらの支給額自体から
みて,極めて異常なものというほかない。
イまた,前記認定のとおり,Z1は,平成18年4月3日,札幌介護福祉交
通に対して120万円分ものタクシー代を立替払いしたとして,その領収
証を滝川市福祉事務所に持参し(前記認定事実(3)サ),同月24日にも,
同社に対して220万円分ものタクシー代を立替払いしたとして,その領
収証を持参した(前記認定事実(3)ス(ア))というのであるところ,生活保
護の支給を受ける者が1か月に340万円もの現金を支払う資力を有して
いたというのも,極めて異常な事態であるというべきである。
ウさらに,Z1の通院の頻度については,前記認定のとおり,医師の意見を
みても,①調査年月日を平成18年3月16日とする医療扶助検討票には
「主治医の判断によると,肝機能の数値は正常値で安定していて毎日注射
をする必要はなく」との記載(前記認定事実(3)エ(ア))が,②調査年月日
を同月30日とする医療扶助検討票には「週1回の通院は,Z1の精神の安
定を考えると通院は必要だと思う」,「今後,Z1との話合いの上で通院回数
を減らす方向で検討していくことも考えている」との記載(前記認定事実
(3)キ)が,③調査年月日を同日とする医療扶助検討票には「1か月に2回
程度の通院が必要である」との記載(前記認定事実(3)ケ(ア))が,④調査
年月日を同年4月4日とする医療扶助検討票には「毎日注射する必要はな
い」との記載(前記認定事実(3)シ(ア))が,⑤Y2医師作成の同年6月7
日付け意見書には「月1回の通院(近医又は当院)を要する」との記載(前
記認定事実(3)ソ(ウ)a)が,⑥調査年月日を同年8月17日とする医療扶
助検討票には「医学的にいえば毎日の注射は必要ない」,「生活保護制度上,
毎日の通院が頻回受診に当たるかといえば,それは頻回になると思う」と
の記載(前記認定事実(3)タ(ア)a)が,⑦調査年月日を同年9月6日とす
る医療扶助検討票には「病状的にいえば月3回ほどの通院が目安だ」との
記載(前記認定事実(3)タ(イ))が,⑧調査年月日を同月12日とする医療
扶助検討票には「医学的には通院の必要はなく,大学病院でする治療もな
い」との記載((前記認定事実(3)タ(ウ))がそれぞれされていたことから
すると,Z1については,多くとも週1回程度の通院が必要とされていたに
すぎないことが容易に判明したといえるところ,前記前提事実(3)アのとお
り,Z1は,平成18年4月には20日の,同年5月には18日の,同年6
月には22日の,同年7月には29日の,同年8月には25日の,同年9
月には19日の,同年10月には25日の各通院をしていたものであり,
X1及びX2においては,同年10月の時点で,Z1が明らかに極めて過剰と
いえる程度の頻回の通院をしていたことを容易に認識し得たというべきで
ある(現に,X8は,Z1が平成18年夏頃からほとんど毎日KKR札幌医療
センターに通院することにつき常識的に考えておかしいと思っていた(前
記認定事実(3)タ)ものである。)。
エ他方,前記認定のとおり,α区福祉事務所に提出されたZ1の通院移送費
に係る請求書には,法人(札幌介護福祉交通)名義の振込先口座が記載さ
れていたところ(前記認定事実(3)イ),滝川市福祉事務所は,Z1に対する
通院移送費の支給決定(平成18年3月31日付け)がされる前に当該請
求書を入手していた(前記認定事実(3)ク(ウ))のであるから,X1及びX2
は,札幌介護福祉交通が法人名義の銀行預金口座を有していることを容易
に認識することができ,そうすると,X1及びX2において,平成18年5
月1日以降に札幌介護福祉交通が滝川市福祉事務所に提出した請求書に振
込先口座が記載されておらず,その代わりに,札幌介護福祉交通が滝川市
福祉事務所に対して同社の代表者の個人名義の銀行預金口座を振込先口座
とする書面を提出していたこと(前記認定事実(3)ス(イ))に疑問を抱き,
同月頃にされた法人名義の銀行預金口座がない旨の札幌介護福祉交通の回
答(前記認定事実(3)ス(イ))が虚偽であることを認識することは,極めて
容易であったというべきである。
オまた,滝川市福祉事務所は,Z1に対する通院移送費の支給決定(平成1
8年3月31日付け)がされるに当たり,札幌介護福祉交通のホームペー
ジを閲覧して確認していたところ(前記認定事実(3)ク(イ)),当該ホーム
ページに記載された計算式によると,高規格ストレッチャー対応型タクシ
ーを8時間借り切った場合の利用料金について,ケアサポート介助員派遣
料を含めて11万3056円と考えることも可能であったのであるから
(前記認定事実(7)オ(イ)参照),この点からしても,X1及びX2において,
Z1に係る通院移送費(1回20万円)が高額に過ぎ,これに疑問を抱くこ
とは,極めて容易であったということができる。
カさらに,Z1は,平成18年10月頃,Z2についても高規格ストレッチャ
ー対応型タクシーによる通院移送費の支給(1回20万円)を申し出たと
ころ(前記認定事実(4)ア),Z2については,前記認定のとおり,ストレッ
チャー対応型タクシーの利用の必要性を肯定する医師の意見書もみられた
ものの,Z2の傷病名はストレスによるめまいなどとされ,高規格ストレッ
チャー対応型タクシーの利用を要するものとはおよそ考え難いものであっ
た上,タクシーによる通院を不要とする医師の意見(平成18年11月2
4日受付)や,北大病院以外の滝川市近郊の病院での治療が可能であると
する医師の意見(同日受付)すらあったのであるから(前記認定事実(4)
イ),X1及びX2において,平成18年11月頃,Z2の札幌への通院の必要
性に疑問を抱き,ひいては,Z1夫婦による通院移送費の給付の申請が不正
なものではないかと疑うことは,極めて容易であったというべきである。
キ以上説示したところに照らすと,X1及びX2には,遅くとも平成18年
11月末日の時点において,Z1夫婦が不正に通院移送費の支給を受けてい
るのではないかと疑い,Z1夫婦に対する居宅訪問や預金調査,札幌介護福
祉交通及びその代表者個人の口座の確認等の調査を徹底して行い,必要が
あれば警察署に相談するなどの対応をとるべき義務があったものというこ
とができ,そのような対応をとっていれば,滝川市福祉事務所による調査,
警察による捜査等に一定の期間を要するとしても,遅くとも平成19年5
月末日の時点では,前記前提事実(4)の還流の事実が判明し,Z1夫婦に対
する通院移送費の支給を停止することが可能であったものと認めるのが相
当である(なお,前記認定事実(7)カ,ケ,コ及びサのとおり,滝川市福祉
事務所がZ1夫婦の保護案件について滝川警察署に相談してから5か月と
19日又は21日で生活保護の支給が停止されている。)。
そうすると,X1及びX2が平成19年6月1日以降にZ1夫婦に対して行
った通院移送費の支給は違法であるとともに,当該支給を行ったことにつ
いて,X1及びX2には重大な過失があったものといわざるを得ない。
ク他方,前記前提事実及び前記認定事実によっても,X1及びX2が平成1
9年6月1日前にZ1夫婦に対して行った通院移送費の支給につき,同人ら
に重大な過失があったものと評価することはできず,その他,同人らに当
該重大な過失があったものと評価すべき事実を認めるに足りる証拠はない。
(2)X5について
X5については,平成19年7月1日に滝川市保健福祉部福祉課長に就任し
ているところ(前記前提事実(1)イ(オ)),この時点においては,既に,Z1夫
婦の保護案件につき滝川市福祉事務所から滝川警察署に対して相談がされて
おり(前記認定事実(7)カ),X5において,この時点から何らかの対応をとれ
ば,実際にZ1夫婦に対する通院移送費の支給が停止された平成19年11月
以前に同通院移送費の支給を停止することができたものと認めるに足りる証
拠はない。
そうすると,Z1夫婦に対する通院移送費の支給についてのX5の故意又は
重大な過失をいう原告らの主張は理由がない。
3争点2(X4の財務会計上の違法行為の有無)について
(1)原告らは,滝川市の全職員が,平成18年3月当時,Z1が極めて強度の
不当要求者であると認識していたこと,X4が,同年4月の時点で,Z1に対す
る異常な額の通院移送費の支給決定がされていることについて報告を受けて
いたことからすると,X4は同月の時点でZ1に対する異常な額の通院移送費
の支給決定がされていることを認識していたと主張する。
この点に関し,証拠によると,X4は,滝川市の助役であった平成13年6
月当時,公営住宅の駐車場に停めていた車両に子供が乗って遊んだことによ
って損害が発生したため滝川市に補償してほしいとするZ1の不当要求に対
応していたことが認められるほか(証人X4・2ないし5頁),平成18年3
月当時,生活保護に関する業務を担当しておらず,Z1と直接の面識のなかっ
たX8においても,Z1が口うるさい人物であると認識していたことが認めら
れるが(甲49,証人X8・8,9頁),これらの事実によっても,滝川市の
全職員が,平成18年3月当時,Z1が極めて強度の不当要求者であると認識
していたものと認めることはできず,その他,滝川市の全職員において同月
当時にZ1が極めて強度の不当要求者であると認識していたものと認めるに
足りる証拠はないし,仮に,滝川市の全職員が同月当時にそのように認識し
ていたとしても,そのことから直ちに,同年4月の時点でZ1に対する異常な
額の通院移送費の支給決定がされたことにつきX4に対する報告がされたも
のと認めることはできず,その他,X4に対してそのような報告がされたもの
と認めるに足りる証拠はないから,X4において同月の時点でZ1に対する異
常な額の通院移送費の支給決定がされているものと認識していたことをいう
原告らの主張は理由がない。
(2)原告らは,X6が,平成18年7月1日に滝川市の収入役職務代理に就任
した時点で,X4に対し,Z1に対する異常な額の通院移送費の支給決定につい
て報告していたと主張する。
しかしながら,そのような事実を認めるに足りる証拠はなく,かえって,
X6の司法警察員に対する供述調書(甲53)に,Z1に通院移送費が支給され
ていたことについては,会計課長の専決事項であったため,平成18年7月
1日の時点では認識しておらず,同年12月中旬に「異例かつ重要に属し,
上司の意思決定が必要と判断するもの」(当時の滝川市収入役の補助組織設置
及び事務分掌等に関する規則6条4号)に該当するものとして決裁が上がっ
てきた時点で初めて認識した旨の記載があることからすると,X6がX4に対
し平成18年7月1日の時点でZ1に対する異常な額の通院移送費の支給決
定について報告していたことをいう原告らの主張を採用することはできない。
(3)原告らは,X4が平成18年9月にX9監査委員からZ1に対する通院移送
費の支給決定がおかしい旨の警告を受けていたのであるから,遅くともこの
時点でZ1に対して異常な通院移送費の支給決定がされていることを認識し
ていたと主張する。
この点に関し,平成20年1月26日の朝日新聞の記事(甲15)には,
X9監査委員が,平成18年9月の市議会終了後の懇談会の席上で,X4らに対
し,「数百万円もタクシー代を支給するのはおかしい。注意するように」と求
めた旨の記載があるが,他方で,X4が「平成18年9月又は同年12月に同
監査委員からタクシーで札幌の病院にかかっている人物がいるから気を付け
た方がいいと言われた。金額についての指摘は全くなかった」旨証言してい
ることからすると(証人X4・8ないし11頁),X9監査委員がX4に対し通院
移送費の支給について注意すべき保護案件があるとの指摘をしたことは認め
られるものの,数百万円という具体的な金額についての言及があったとまで
は認めることができない。そして,当該指摘が酒席でされたものであること
(甲15,証人X4・8ないし11頁)をも併せ考慮すると,当該指摘がされ
たからといって直ちに,X4について,X1らがZ1ないしZ1夫婦に対する通院
移送費の支給決定をすることを阻止すべき指揮監督上の義務が生じていたと
までいうことはできない。
したがって,X4が平成18年9月にX9監査委員から警告を受けていたと
してX4のX1らに対する指揮監督上の義務違反をいう原告らの主張は理由が
ない。
(4)原告らは,滝川市監査委員が平成19年2月の時点でX4に対して必要な
調査を行う旨伝えた時点で,X4はZ1夫婦に対する通院移送費が異常な金額
になっていたことを認識していたと主張する。
この点に関し,平成19年2月にZ1夫婦の保護案件についてX10監査委員
による調査が開始されたことは,前記認定(前記認定事実(7)エ)のとおりで
あり,X4がX9監査委員から平成18年中に通院移送費の支給に注意すべき
保護案件があるとの指摘を受けていたことは,前記(3)のとおりである。
しかしながら,証拠(証人X4・14ないし16頁)によると,X4は,X10
監査委員から調査を行う旨の連絡を受けた際,秘書課長に状況を把握するよ
う指示した上,その余はX10監査委員による調査に委ねることとしたものと
認められるところ,監査委員による調査は,第三者的な立場から中立的に行
われるものであり,かつ,実効性を有する調査方法であるということができ
るから(現に,X10監査委員の調査により詳細な検討がされ,Z1夫婦に対す
る通院移送費のZ1への還流の可能性が指摘されている。乙26参照),X4が
Z1夫婦の保護案件について監査委員による調査に委ねたことが不適切であ
ったとまでいうことはできない。
そうすると,X4が平成19年2月の時点においてZ1夫婦に対する通院移
送費の支給額が多額に上っていたものと認識していたとしてX4のX1らに対
する指揮監督上の義務違反をいう原告らの主張を採用することはできないと
いうべきである。
(5)原告らは,X4が,X10監査委員による調査結果を伝えられた平成19年5
月22日以降も詳細な調査をして疑問点がないかを確認すべき義務を怠った
と主張する。
しかしながら,証拠(甲1・43頁,証人X4・23ないし28頁)による
と,X4は,同月下旬頃,X3から,調査権の行使,訪問の徹底,弁護士への相
談,北海道との協議及び供託の可能性についての検討を行い,滝川市福祉事
務所としての調査に限界がある場合には警察への協力依頼を行うよう指示し
た旨を報告されていたものと認めるのが相当であるところ,平成19年5月
22日の時点において,X3によるこれらの指示が不十分であったということ
はできない。
そうすると,平成19年5月22日以降におけるX4のX1らに対する指揮
監督上の義務違反をいう原告らの主張は理由がないというべきである。
4争点3(X3の財務会計上の違法行為の有無)について
地方自治法242条の2第1項4号にいう「当該職員」とは,当該訴訟にお
いてその適否が問題とされている財務会計上の行為を行う権限を法令上本来
的に有するとされている者及びこれらの者から権限の委任を受けるなどして
上記権限を有するに至った者を広く意味するものであり,およそ上記のような
権限を有する地位ないし職にあると認められない者を被告として提起された
同号所定の「当該職員」に対する損害賠償請求に係る訴えは,法により特に出
訴が認められた住民訴訟の類型に該当しない訴えとして,不適法と解するのが
相当である(最高裁昭和55年(行ツ)第157号同62年4月10日第二小
法廷判決・民集41巻3号239頁,最高裁平成2年(行ツ)第138号同3
年12月20日第二小法廷判決・民集45巻9号1503頁参照)。
これを本件についてみると,法令上,滝川市の副市長に生活保護の決定を行
う本来的権限があるものとは認められず,また,滝川市の副市長が権限の委任
を受けるなどして,生活保護の決定を行う権限を有するに至ったものと認める
こともできないから,滝川市の副市長であったX3は,同号にいう当該職員に
該当しないというべきである。
したがって,本件訴えのうち,X3に対する損害賠償の請求を求める部分は不
適法なものというべきである。
5争点4(X1の財務会計上の違法行為の有無)について
前記2(1)において説示したところによると,X1は,平成19年6月1日以
降にX2又はX5がZ1夫婦に対する通院移送費の支給決定を行うに当たり,こ
れを阻止すべき指揮監督上の義務に違反して,過失により当該支給決定を阻止
しなかったというべきである。
他方,前記2(1)において説示したところによると,X1に,同日前にX2又は
X5がZ1夫婦に対する通院移送費の支給決定を行うに当たり,これを阻止すべ
き指揮監督上の義務違反があったということはできない。
6争点5(X2の財務会計上の違法行為の有無)について
前記2(1)において説示したところによると,X2は,平成19年6月1日以
降にX1が行ったZ1夫婦に対する通院移送費の支給決定について,X1を補助す
べき義務に違反して,過失により滝川市に損害を与えたというべきである。
他方,前記2(1)において説示したところによると,X2に,同日前にX1が行
ったZ1夫婦に対する通院移送費の支給決定について,X1を補助すべき義務の
違反があったということはできない。
7争点6(X5の財務会計上の違法行為の有無)について
前記2(2)において説示したとおりであるから,X5に,X1が行ったZ1夫婦に
対する通院移送費の支給決定について,X1を補助すべき義務の違反があったと
いうことはできない。
8争点7(損害額)について
(1)X1について
前記前提事実(3)及び前記2(1)によると,滝川市には,X1の争点1の行為
によって6735万円(平成19年6月30日以前について1480万円,
同年7月1日以降について5255万円)の損害が発生したものと認められ,
また,前記前提事実(3)及び前記5によると,滝川市には,同人の争点4の行
為によって3050万円の損害が発生したものと認められる。
(2)X2について
前記前提事実(3)及び前記2(1)によると,滝川市には,X2の争点1の行為
によって375万円の損害が発生したものと認められ,また,前記前提事実
(3)及び前記6によると,滝川市には,同人の争点5の違法行為によって14
80万円の損害が発生したものと認められる。
9結論
以上のとおりであるから,本件訴えのうち,X3に対する損害賠償の請求を求
める部分は不適法であり,原告らのその余の請求は,主文1項ないし4項の限
度で理由があって,その余は理由がない。
札幌地方裁判所民事第2部
裁判長裁判官浅井憲
裁判官南宏幸
裁判官金崎祐太
(別紙)
当事者目録
(原告省略)
北海道滝川市β町γ丁目δ番ε号
被告滝川市長
(以下省略)
(別紙1ないし4添付省略)

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