弁護士法人ITJ法律事務所

裁判例


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       主   文
原告らの請求をいずれも棄却する。
訴訟費用は原告らの負担とする。
       事   実
第一 当事者の求めた裁判
一 原告ら
1 被告は、別紙目録(二)記載の各商品に関する広告において、別紙目録(三)
(3)及び(4)記載の各表示を使用し、又はこれらの表示と同目録(1)若しく
は(2)記載の各表示とを組み合わせて使用してはならない。
2 被告は原告らに対し、各金四五万円宛及び右各金員に対する昭和五三年一一月
三日から支払済みまで年五分の割合による金員の支払をせよ。
3 訴訟費用は被告の負担とする。
との判決並びに仮執行の宣言
二 被告
 主文と同旨の判決
第二 当事者の主張
一 原告らの請求の原因
1 原告らは、いずれも化粧品等の製造、販売を目的とする、世界的に著名な会社
である。そして、我国においては、原告らの商品の中で最も重要な地位を占めるの
は香水であるが、就中、別紙目録(一)記載の各香水は、特に際立つた特徴を有す
るため格段に著名であり、自他ともに許す世界の名香である。
2 被告は、遅くとも昭和五二年五月から、名称を「スイート・ラバー」又は「S
WEET LOVER」とする、別紙目録(二)記載の各香水を訪問販売の方式に
より販売している。なお、右香水は、その香りに応じて、それぞれ120から13
6までの番号が付されているものである(同目録参照。但し、「SWEET LO
VER No.130」は本件とは無関係である。)。
 しかして、被告は、右香水に関する広告物において、別紙目録(三)(1)及び
(2)記載の各表示(文章)と同目録(3)記載の表示(対照表)とを合わせ掲載
したり、同目録(4)記載の表示(対照表)を掲載したりしている。
3 被告による前項記載の広告中の各表示は、不正競争防止法第一条第一項第五号
の規定にいう「商品ノ内容ニ付誤認ヲ生ゼシムル表示」に該当する。
 すなわち、香水は一般に一〇〇種類以上の香料(原料)を調合して製造するもの
であるが、香水の生命ともいうべき香りの良否は、右香料の組み合わせいかんによ
つて決定されるのである。そして、右香料の調合は極めて創造的な作業であり、こ
れに当たる調香師は、長年の経験に基づく感覚、技術を駆使し、かつ、不断の研究
努力を傾けて、漸く右調合作業を完成させうるものである。原告らの前記各香水も
同様の経緯により完成されたものであることはいうまでもない。したがつて、原告
らの前記各香水と同一の香りを有する香水、換言すればこれと同一の内容の香水を
他の者が製造するということは、殆んど不可能なのである。しかるに、被告は、前
記広告中の各表示において、被告の各番号の香水に対応させて原告らの前記著名香
水名を掲げたうえ、これらは香りの調子又は香りのタイプが同じであるなどと表示
し、需要者において被告の香水の番号を指示して注文すれば、対応する世界の名香
と同じ香り、すなわち、同じ内容の香水を入手しうる旨宣伝、広告しているもので
あるが、香水につき同一の内容ということがありえないこと既述のとおりである以
上、前記広告中の各表示により需要者間において香水の内容に関する誤認が惹起さ
れることは明白である。
4 原告らの香水と被告の香水とは市場において完全な競合関係にあるため、前記
広告中の各表示によつて被告の香水が原告らの香水と同一内容であると誤認され、
その結果、原告らは現にその営業上の利益を害され、また、今後も継続して害され
る虞れがあるものである。
5 被告は、前記広告中の各表示を用いれば、当然に前述のような香水の内容に関
する誤認が生ずることを知りながら、又は過失によりこれを知らないで、遅くとも
昭和五二年五月から本訴提起の日である昭和五三年一〇月二三日までの間、前記広
告中の各表示を用いてその商品である前記各香水を販売したものであるから、右行
為によつて原告らが蒙つた損害を賠償する義務がある。
 しかして、被告は、右期間中に少なくとも金五〇〇〇万円相当の前記各香水を販
売し(年間売上推定額約金三四〇〇万円)、これによつて右売上額の一割に当たる
金五〇〇万円の純利益を得たものと推測されるところ、原告らの香水と被告の香水
とは前述のとおり完全な競合関係にあり、被告の香水は原告らの香水の代替品とし
て販売されたものと考えられるから、原告らが蒙つた損害の額は、被告が得た前記
純利益の額と同額の金五〇〇万円とみるのが相当である。したがつて、原告ら各自
の損害の額は、それぞれの一一分の一に当たる金四五万円(一万円未満切捨)とな
る。
6 よつて、原告らは被告に対し、不正競争防止法第一条第一項第五号の規定に基
づき、前記各香水に関する広告において、別紙目録(三)(3)及び(4)記載の
各表示を使用し、又はこれらの各表示と同目録(1)若しくは(2)記載の各表示
とを組み合わせて使用することの差止を求めるとともに、同法第一条の二の規定に
基づく損害賠償として前記損害金各金四五万円宛及びこれに対する不法行為の後で
ある昭和五三年一一月三日から支払済みまで民事法定利率年五分の割合による遅延
損害金の支払を求める。
二 請求の原因に対する被告の認否及び主張
1(一) 請求の原因1のうち、原告らがいずれも化粧品等の製造、販売を目的と
する会社であること、原告らの商品として別紙目録(一)記載の各香水があること
は認めるが、その余は不知。
(二) 同2は認める。但し、被告が香水につき訪問販売の方式をとつていたのは
過去のことである。
(三) 同3は争う。
(四) 同4及び5は否認する。
2 原告らは、被告の香水に関する広告物中に、被告の各香水とこれに対応して掲
げられた原告らの各香水とは、香りの調子又は香りのタイプが同じであるとの趣旨
の表示があることを採り上げたうえ、右の表示は需要者をして各対応する香水の香
りが同一であるとの誤認をさせると主張する。
 しかしながら、右広告中の表示は、原告らの主張自体からも明らかなように、各
対応する香水の香りの調子又は香りのタイプが同じであるといつているにすぎない
から、右の表示によつて原告ら主張のような誤認が生ずることはありえない。した
がつて、原告らの右主張は失当である。
第三 証拠関係(省略)
       理   由
 原告らがいずれも化粧品等の製造、販売を目的とする会社であること、原告らの
商品としてその主張のような各香水があること、被告が原告ら主張の頃からその主
張のような各香水を販売していること及び被告がその香水に関する広告において原
告ら主張のような各表示を使用していることは、いずれも当事者間に争いがない。
 そして、右争いのない広告中の表示に関する事実と成立に争いのない甲第一、第
二号証によれば、被告は、その販売する香水の価格表(甲第一号証)において、別
紙目録(三)(4)記載のとおり、被告の各香水を掲げる一方、「香りのタイプ」
なる表題のもとに、被告の各香水に対応させて原告らの各香水を掲げており、ま
た、その香水に関するパンフレツト(甲第二号証)においては、別紙目録(三)
(1)及び(2)記載の各文言を掲げるとともに、同目録(3)記載のとおり、被
告の各香水に対応するものとして、「この香りは、世界の名香のタイプで言えば…
…」との表題のもとに、原告らの各香水を掲げていることが認められ、この認定に
反する証拠はない。
 右認定事実によれば、被告による右広告中の各表示は、いずれも被告の各香水と
これに対応して掲げられた原告らの各香水とが、香りの調子又は香りのタイプの点
において同じであるとの趣旨を表現しているにすぎず、両者の香りそのものが同一
であるとまで断じているわけではないことが明らかであるから、これに接する需要
者が、直ちに原告らのいう商品の内容に関する誤認、すなわち、被告の各香水とこ
れに対応して掲げられた原告らの各香水とが同一の香りを有するとの認識をすると
は経験則上到底考えることができない。右説示に反する原告らの主張は採用できな
い。
 よつて、原告らの本訴各請求は、その余の点につき判断するまでもなく理由がな
いことになるから、これをいずれも棄却することとし、訴訟費用の負担につき民事
訴訟法第八九条、第九三条第一項の各規定を適用して主文のとおり判決する。
(裁判官 秋吉稔弘 野崎悦宏 安倉孝弘)
目録(一)
<12155-001>
目録(二)
被告の商品(香水)
(1) SWEET LOVER No.120
(2) SWEET LOVER No.121
(3) SWEET LOVER No.122
(4) SWEET LOVER No.123
(5) SWEET LOVER No.124
(6) SWEET LOVER No.125
(7) SWEET LOVER No.126
(8) SWEET LOVER No.127
(9) SWEET LOVER No.128
(10) SWEET LOVER No.129
(11) SWEET LOVER No.131
(12) SWEET LOVER No.132
(13) SWEET LOVER No.133
(14) SWEET LOVER No.134
(15) SWEET LOVER No.135
(16) SWEET LOVER No.136
(以上)
目録(三)
<12155-002>
<12155-003>

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