弁護士法人ITJ法律事務所

裁判例


戻る

         主    文
     本件控訴を棄却する。
     控訴費用は控訴人の負担とする。
         事    実
 控訴代理人は、「一、原判決を取り消す。二、被控訴人安田火災海上保険株式会
社は控訴人に対し原判決添付目録記載の第二(イ)、(ロ)の家屋を収去して、そ
の敷地六十六坪四合を明け渡せ。三、被控訴人Aは控訴人に対し同目録第二
(ハ)、(ニ)の家屋を収去して、その敷地六坪二合五勺を明け渡し且つ右
(イ)、(ロ)の家屋から退去して、その敷地六十六坪四合を明け渡せ。四、被控
訴人Bは控訴人に対し右(イ)の家屋中表側道路から向つて右側端一坪六合七勺の
部分から退去して、その敷地一坪六合七勺を明け渡せ。五、被控訴人安田火災海上
保険株式会社は控訴人に対し昭和三十二年五月一日から右二の土地明渡済に至るま
で一ヶ月金五百六十円の割合による金員を支払え。六、被控訴人Aは控訴人に対し
昭和三十二年五月一日から右三の土地明渡済に至るまで一ヶ月金六十六円の割合に
よる金員を支払え。七、訴訟費用は第一、二審とも被控訴人等の負担とする。」と
の判決並びに仮執行の宣言を求め、被控訴代理人は主文第一項同旨の判決を求め
た。
 当事者双方の陳述した事実上の主張は、原判決の事実摘示と同一であるから、こ
れを引用する。
 当事者双方の証拠の提出援用及び認否は、左記のほかは、原判決の摘示と同一で
あるから、これを引用する。
 控訴代理人は、当審での控訴人及び被控訴人Aの各本人尋問の結果を援用し、乙
第五号証の五ないし二十四はいずれも成立を認めるが、同第八号証の一ないし三の
成立は不知と述べた。
 被控訴代理人は、乙第五号証の五ないし二十四、第八号証の一ないし三を提出
し、当審証人Cの証言、当審ての控訴人及び被控訴人Aの各本人尋問の結果を援用
した。
         理    由
 第一、 被控訴人Aに対する請求について、
 控訴人が昭和二十年三月三十日被控訴人Aに対し、控訴人所有の原判決添付目録
記載の第一の土地を、期間二十年、賃料一ヶ月金六円二十七銭、木造建物所有の目
的で賃貸したこと、被控訴人Aが右地上に原判決添付目録記載の第二(イ)ないし
(ニ)の家屋を所有してきたこと、控訴人が被控訴人Aに対し、昭和三十二年五月
一日到達の書面で、右土地の一部を無断転貸したことを理由として、右賃貸借契約
を解除する旨の意思表示をしたことは、いずれも当事者間に争がない。
 控訴人は、「被控訴人Aは昭和三十年八月十一日控訴人の承諾を得ないで、右第
二の(イ)、(ロ)の家屋を被控訴人安田火災海上保険株式会社(以下被控訴会社
という)に売り渡し、翌十二日その旨の登記をして、その敷地六十六坪四合(右第
一の土地から右第二の(ハ)、(ニ)の家屋の敷地六坪二合五勺を控除したもの)
を転貸したのであるから、控訴人のなした右賃貸借契約解除の意思表示はその効力
を生じた。」旨主張し、これに対して、被控訴人Aは、「右第二の(イ)、(ロ)
の家屋は、登記簿上、被控訴人Aから被控訴会社に対して買戻約款附売買を原因と
して所有権が移転したことになつているけれども、実質は被控訴会社に対する債務
のために、いわゆる譲渡担保としたもので、被控訴人Aと被控訴会社との間には右
第二の(イ)、(ロ)の家屋を売買した事実はなく、従つてその敷地を転貸したこ
ともない。」旨主張するので、まずこの点について判断する。
 いずれも、成立に争のない甲第三号証、乙第一、二号証、原審証人Dの証言によ
つて成立が認められる同第三、第四号証、第七号証、当審証人Cの証言によつて成
立が認められる同第八号証の一ないし三と、右各証人の証言並びに原審及び当審で
の被控訴本人Aの尋問の結果を綜合すれば、次の事実を認めることができる。
 被控訴人Aは、古くから原判決添付目録記載の第二(イ)(後記認定の増築部分
を除く)ないし(ニ)の家屋に居住して、被控訴会社の保険代理店をしてきたので
あるが、昭和二十五年五月から同年十一月までの間に、被控訴人Aが被控訴会社の
ために取り扱つた保険契約に基く保険料から所定の代理店手数料を控除した残額合
計金百四万二百九十二円五十四銭を被控訴会社に引き渡さず、これを滞納したの
で、昭和二十六年三月二十六日被控訴会社との間に、右債務を同月から昭和三十二
年四月まで毎月末日限り割賦弁済することと定め、その担保として被控訴人A所有
の前記第二(イ)の家屋に第一順位の抵当権を設定し、且つ被控訴人Aが右債務の
履行を怠つたときは、被控訴会社の選択に従い、当時の残存債務に対する代物弁済
として、右家屋を被控訴会社に譲渡することを契約し、同年五月十五日その旨の抵
当権設定登記並びに代物弁済による所有権移転請求権保全の仮登記を経由した。被
控訴人Aはその後引き続き右代理店営業をしてきたが、更に保険料金七十七万八千
三百八十二円を滞納した結果、昭和三十年一月末日現在で滞納総額は金百八十一万
六千三百八十四円となつた。そこで、被控訴会社は被控訴人Aを相手方として渋谷
簡易裁判所にいわゆる即決和解の申立をなし、昭和三十年八月三日、「被控訴人A
は被控訴会社のために取り立てた保険料金百八十一万六千三百八十四円の支払債務
あることを認め、その担保として、被控訴人Aはその所有する前記第二の(イ)、
(ロ)の家屋を被控訴会社に信託的に譲渡して、その所有権を移転し、占有改定の
方法でその引渡を了し、被控訴人Aが昭和三十二年九月三十日までに金七十七万八
千三百八十二円を被控訴会社に支払つたときは、右家屋の所有権は被控訴人Aに復
帰し、右期間中は被控訴人Aは右家屋に無償で居住することができるが、右期日限
り被控訴人Aは右家屋から退去し、無条件でこれを被控訴会社に明け渡すこと。」
等を内容とする裁判上の和解が成立した。
 そして右和解に基いて、右期日までに買戻ができる特約の附された昭和三十年八
月十一目附売買を原因として、翌十二日右家屋について被控訴人Aから被控訴会社
に所有権移転登記手続がなされ(売買を原因とする所有権移転登記手続のなされた
点は当事者間に争がない。)、また、被控訴会社は右家屋を売買により取得したも
のとして、同年八月三十一日附でその代金の支払に代えて被控訴人Aの債務の内金
七十七万八千三百八十二円が後記のような趣旨で一応清算されたものとして処理し
た。その後、被控訴人Aは右和解に基く買戻をするよう努めたけれども、手許不如
意のために期限内にその買戻をすることができなかつたので、被控訴会社に懇請
し、昭和三十二年六月十二日頃右買戻の期限を更に二年延期し、昭和三十四年九月
三十日までとする旨の承諾を得た。しかし、右延期された期日を経過しても、被控
訴人Aは買戻をすることができなかつたのであるが、もともと被控訴会社として
は、右家屋の所有権を取得することが本来の目的ではなく、被控訴人Aが前記のよ
うに多額の保険料を滞納した結果、保険募集の取締に関する法律に基いて大蔵大臣
から代理店業務の停止又は登録取消の処分を受けるおそれがあつたため、滞納金処
理の方法として上記のような買戻約款附売買によるいわゆる譲渡担保契約を締結し
たものであるところがら、被控訴会社は再び被控訴人Aのために右買戻期限を猶予
した結果、被控訴人Aは昭和三十四年十二月七日買戻代金の内金二十五万円を被控
訴会社に支払い、残代金五十二万八千三百八十二円を支払えば、被控訴会社はいつ
でも右家屋の所有権を被控訴人Aに復帰させる意向を現在でも持つているもので、
そのため和解契約に定めた右家屋の明渡期限も順次猶予され、現在に至るまで被控
訴人Aが無償でこれに居住している。
 他に右認定を動かすことのできる証拠はない。
 がんらい、土地の賃借人が賃借地上に所有する家屋を第三者に譲渡した場合に
は、かくべつの事情のない限り、賃借権の譲渡又は賃借土地の転貸がなされたもの
と解するのを相当とする。しかし、本件においては、被控訴人Aがその所有する前
記第二の(イ)、(ロ)の家屋を被控訴会社に譲渡したのは、買戻約款附売買を原
因としたいわゆる譲渡担保契約によるもので、買戻代金の一部は既に支払済みで、
現在残代金を支払えば、右家屋の所有権は被控訴人に復帰する関係にあることは、
上記認定のとおりであつて、しかも、被控訴人Aは従前どおり上記家屋に居住して
被控訴会社には賃料などは支払つていないのである。
 右認定のように家屋を譲渡担保として第三者に譲渡した場合には、原則として右
家屋の所有権は内外ともに担保権者に譲渡されたものと解するを相当とするとされ
ているか、それは担保権者から右家屋の所有権その他の権利を取得したものとの関
係でいわれているに止つていて、譲渡担保権設定者の債権者に対する関係では、そ
の担保の目的となつた家屋はいぜんとして担保権設定者の所有に属するものとして
取扱うべきで、このことは担保権設定者が国税を滞納した場合(国税徴収法二四条
参照)、或は破産した場合を考えれば明白であり、担<要旨>保権者はその担保権の
範囲内で保護すれば十分なのである。従つて、家屋を譲渡担保に供した場合には、
単純に家屋を譲渡した場合と全く同じであると解すべきではない。家屋の所
有者がその敷地の賃借人である場合に、その家屋を第三者に譲渡担保に供したが、
いぜんとして従前のとおりその家屋を使用収益している場合には、単純に家屋を売
買した場合とは異り、その敷地については、特別の事情が認められない限り、賃借
権の譲渡又は転貸がなされていないものと解するを相当とする。そうでなく家屋を
譲渡担保に供した場合に単純な売買と同じように、その敷地の賃借権が譲渡又は転
貸されたと解するとすれば、家屋が譲渡担保に供ぜられた場合、債務者が債務を完
済して譲渡担保が消滅した場合、或はさらに担保権によつて家屋が第三者に処分さ
れた場合にも一々民法第六一二条第二項による解除権を認めたり、借地法第一〇条
による建物買取請求権の問題か起つて、徒らに法律関係を複雑にするばかりではな
く、家屋の担保価値を著しく害する結果を招くことになる。他方上記のように解す
るとしても、家屋か譲渡担保に供せられた後処分されるまでの間は、敷地の賃貸人
からみても土地の使用収益はその以前となんの変動も受けていないのであるから、
別に賃貸人に対する信頼関係が破られたとはとうてい認めることはできない。この
場合、担保設定者が家屋の買戻権を全く失い、或は担保権者が担保権に基いて右家
屋を第三者に処分した場合に、初めてその敷地に対する賃借権の譲渡又は転貸がな
されたものと認めれば、賃借人の保護は十分であると解するを相当とする。
 本件の場合についてみれば、被控訴人Aは前記第二の(イ)、(ロ)の家屋を被
控訴会社に譲渡担保に供したのに止まるのであるから、その敷地の賃貸人に止まる
控訴人に対する関係では前記第二の(イ)、(ロ)の家屋の所有権はいぜんとして
被控訴人Aに存し、被控訴人には移転していないと解するを相当とする。従つて、
控訴人が被控訴人Aに対してなした賃貸借契約解除の意思表示はその効力を生ずる
いわれはないから、右賃貸借が解除されたことを前提として、被控訴人Aに対し、
前記第二の(ハ)、(ニ)の家屋を収去してその敷地を明け渡し、且つ第二の
(イ)、(ロ)の家屋から退去してその敷地を明け渡すことを求めるとともに、右
契約解除の意思表示のなされた日以後右家屋収去土地明渡済に至るまでの賃料相当
の損害金の支払を求める本訴請求は、その余の争点について判断するまてもなく、
理由がないこと明らかであるから、棄却を免れない。
 第二、 被控訴会社に対する請求について、
 控訴人主張の原判決添付目録記載の第一の土地が控訴人の所有であること、及び
被控訴会社が控訴人との関係では前記第二の(イ)、(ロ)の家屋の所有権を譲渡
したものと認められないことは、上記認定のとおりである。仮りに百歩を譲つて前
記第二の(イ)、(ロ)の家屋の所有権の譲渡がなされたと認めるのを相当とする
にしても、被控訴会社は前記第二の(イ)、(ロ)の家屋を譲渡担保として所有し
ているのであるから、被控訴人Aの上段認定の賃借権に基いてその敷地を占有して
いるもので、控訴人も上段認定のように特に不利益を受ける関係にはないのである
から、これを甘受しなければならない関係にあると解するを相当とする。従つて、
被控訴会社が原判決添付目録記載の第一の土地を不法に占有していることを前提と
する本訴請求は、その余の争点についての判断をなすまでもなく、失当であるか
ら、棄却を免れない。
 第三、 被控訴人Bに対する請求について、
 被控訴人Bが前記第二の(イ)の家屋のうち増築部分一坪六合七勺を占有してい
ることは、当事者間に争がない。しかし、原審での被控訴本人Aの尋問の結果によ
れば、被控訴人Bは右増築部分を独立して占有しているものでなく、被控訴人Aが
被控訴会社の保険代理店を営むかたわら、不動産業を営むため昭和二十四、五年頃
特にそり事務所用としてこれを増築し、現在被控訴人Bとの共同事業による不動産
業の事務所として共同使用していることを認めることができる。被控訴人Bが被控
訴人Aと共同して事業をなすに際して共同して増築したような場合には問題もあろ
うが、本件の場合には上段認定のとおり、被控訴人Aの居住家屋で保険代理店を営
んでいた家屋に、ほんの僅かの部分増築して、そこを両被控訴人の共同事業の事務
所に使用しているのであるから、被控訴人Bは被控訴人Aから家屋の一部の使用を
許容されているにすぎないものと認めるを相当とする。そして控訴人が被控訴人A
に対してなした賃貸借契約解除の意思表示はその効力を生じないものであること
は、上記説示のとおりであるから、被控訴人Aは賃借権に基いて右増築部分の敷地
を占有しているものといわなければならない。従つて被控訴人Bの右敷地部分の占
有も何等不法なものではないから、被控訴人Bに対して右増築部分から退去してそ
の敷地の明渡を求める控訴人の本訴請求もまた失当として排斥を免れない。
 第四、 してみると、被控訴人等に対する控訴人の本訴請求を棄却した原判決
は、その理由は異なるが、結局は正当で本件控訴は理由がないから、民事訴訟法第
三八四条第二項を適用してこれを棄却することとし、控訴費用の負担について同法
第九五条第八九条を適用して主文のとおり判決する。
 (裁判長裁判官 村松俊夫 裁判官 伊藤顕信 裁判官 土肥原光圀)

戻る



採用情報


弁護士 求人 採用
弁護士募集(経験者 司法修習生)
激動の時代に
今後の弁護士業界はどうなっていくのでしょうか。 もはや、東京では弁護士が過剰であり、すでに仕事がない弁護士が多数います。
ベテランで優秀な弁護士も、営業が苦手な先生は食べていけない、そういう時代が既に到来しています。
「コツコツ真面目に仕事をすれば、お客が来る。」といった考え方は残念ながら通用しません。
仕事がない弁護士は無力です。
弁護士は仕事がなければ経験もできず、能力も発揮できないからです。
ではどうしたらよいのでしょうか。
答えは、弁護士業もサービス業であるという原点に立ち返ることです。
我々は、クライアントの信頼に応えることが最重要と考え、そのために努力していきたいと思います。 弁護士数の増加、市民のニーズの多様化に応えるべく、従来の法律事務所と違ったアプローチを模索しております。
今まで培ったノウハウを共有し、さらなる発展をともに目指したいと思います。
興味がおありの弁護士の方、司法修習生の方、お気軽にご連絡下さい。 事務所を見学頂き、ゆっくりお話ししましょう。

応募資格
司法修習生
すでに経験を有する弁護士
なお、地方での勤務を希望する先生も歓迎します。
また、勤務弁護士ではなく、経費共同も可能です。

学歴、年齢、性別、成績等で評価はしません。
従いまして、司法試験での成績、司法研修所での成績等の書類は不要です。

詳細は、面談の上、決定させてください。

独立支援
独立を考えている弁護士を支援します。
条件は以下のとおりです。
お気軽にお問い合わせ下さい。
◎1年目の経費無料(場所代、コピー代、ファックス代等)
◎秘書等の支援可能
◎事務所の名称は自由に選択可能
◎業務に関する質問等可能
◎事務所事件の共同受任可

応募方法
メールまたはお電話でご連絡ください。
残り応募人数(2019年5月1日現在)
採用は2名
独立支援は3名

連絡先
〒108-0023 東京都港区芝浦4-16-23アクアシティ芝浦9階
ITJ法律事務所 採用担当宛
email:[email protected]

71期修習生 72期修習生 求人
修習生の事務所訪問歓迎しております。

ITJではアルバイトを募集しております。
職種 事務職
時給 当社規定による
勤務地 〒108-0023 東京都港区芝浦4-16-23アクアシティ芝浦9階
その他 明るく楽しい職場です。
シフトは週40時間以上
ロースクール生歓迎
経験不問です。

応募方法
写真付きの履歴書を以下の住所までお送り下さい。
履歴書の返送はいたしませんのであしからずご了承下さい。
〒108-0023 東京都港区芝浦4-16-23アクアシティ芝浦9階
ITJ法律事務所
[email protected]
採用担当宛