弁護士法人ITJ法律事務所

裁判例


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         主    文
     本件上告を棄却する。
     上告費用は上告人の負担とする。
         理    由
 本件上告理由は末尾添付の別紙記載のとおりであつて、これに対する判断は次の
とおりである。
 第一点について。
 論旨は原判決は本訴を公権力の行使による損害の賠償を求めるものであるとしな
がら、その権力が如何なる公法上の法規又は処分によつて基礎づけられているかを
明かにしていないと主張するのである。しかし記録によると、上告人が請求原因と
して述べたところは、本件家屋は昭和二〇年七月上旬頃疎開の対象として国に買収
されたが、上告人は七月三一日までに自ら解体撤去することを条件として和歌山県
知事から右家屋の買戻許可を受け、しかも上告人がこれを撤去しなかつたため、警
察官が同年一〇月一二日右家屋を破壊したから、その損害の賠償を求めるというに
あるものであることは明白である。そして、上告人は原審口頭弁論においてしばし
ば右破壊行為が違法な公権力の行使であることを主張しているのであつて、原審が
其主張に基き本訴を公権力の行使による損害の賠償を求めるものであるとしたのは
当然である。(もし右破壊行為が公権の行使でなく所論警察官の私人としての行為
であるならばそれについて国に損害賠償を請求し得ないことはいうまでもなくそれ
だけで本訴請求は理由なきものとなるであらう)
 そして、原審がその判示した理由によつて、本訴請求を棄却するためには、所論
のように如何なる法令又は処分に根拠をおくかを判示する必要はないので、原判決
には何等違法はない。
 論旨は又原判決は本件公権力の行使が適法であるか否かを判示していないという
のであるが、たとえ本件家屋の破壊が違法であつても、国が賠償責任を負うべきも
のでないことは後述するとおりであるから、国に対して損害の賠償を求める本訴に
おいては、その不法であるかないかを判示する必要はないのであつて、論旨は理由
はない。
 第二点について。
 原判決が公権力の行使については民法の適用はなく、旧憲法下においては国の賠
償責任は認められなかつたと判示したのに対し、論旨は公務員の重大なる過失に因
り損害を与へた場合は国が賠償責任を負うべきものであるというのである。本件家
屋の破壊が論旨のいうように公務員の重大なる過失によつて行われたものであつて
も、そのために本件家屋の破壊行為が、国の私人と同様の関係に立つ経済的活動の
性質を帯びるものでないことは言うまでもない。而して公権力の行使に関しては当
然には民法の適用のないこと原判決の説明するとおりであつて、旧憲法下において
は、一般的に国の賠償責任を認めた法律もなかつたのであるから、本件破壊行為に
ついて国が賠償責任を負う理由はない。又若し仮りに警察官が公権力の行使に名を
かり、職権を濫用して本件家屋を破壊したものであるとすれば、これ等警察官が民
法上の不法行為の責任を負うことはあるかも知れないが、その場合右の行為はもは
や国の行為とは見ることができないのであつて、尚更国が賠償責任を負う理由はな
いのである。要するに論旨は、上告人独自の見解であつて、理由がない。
 第三点について。
 論旨は、国家賠償法附則の「この法律施行前の行為に基く損害については、なお
従前の例による。」との規定について、従前といえども公務員の不法行為に対し、
国が賠償責任を負うべきものであつて、新憲法はこれを法文化したに過ぎないと主
張するのであるが、国家賠償施行以前においては、一般的に国に賠償責任を認める
法令上の根拠のなかつたことは前述のとおりであつて、大審院も公務員の違法な公
権力の行使に関して、常に国に賠償責任のないことを判示して来たのである。(当
時仮りに論旨のような学説があつたとしても、現実にはそのような学説は行われな
かつたのである。)
 本件家屋の破壊は日本国憲法施行以前に行われたものであつて、国家賠償法の適
用される理由もなく、原判決が同法附則によつて従前の例により国に賠償責任なし
として、上告人の請求を容れなかつたのは至当であつて、論旨に理由はない。
 よつて上告に理由がないから民事訴訟法第四〇一条、第九五条、第八九条に従つ
て主文のとおり判決する。
 以上は当小法廷裁判官一致の意見である。
     最高裁判所第三小法廷
         裁判長裁判官    長 谷 川   太 一 郎
            裁判官    井   上       登
            裁判官    島           保
            裁判官    河   村   又   介
            裁判官    穂   積   重   遠

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