弁護士法人ITJ法律事務所

裁判例


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       主   文
1 原告らの訴えを却下する。
2 訴訟費用は原告らの負担とする。
       事実及び理由
第1 請求
 被告が訴外近藤産業株式会社に対し平成13年4月11日付けでなした,別紙承
認処分目録記載の公有土地水面工事施行承認処分を取り消す。
第2 事案の概要
 別紙承認処分目録記載の公有土地水面工事施行承認処分(以下「本件処分」とい
う。)は訴外近藤産業株式会社(以下「近藤産業」という。)が里道敷をアスファ
ルト舗装する工事の承認であるところ,本件は,当該里道の付近に住む住民である
原告らが被告に対し,同処分が承認申請にあたり大阪府公有土地水面使用規則(平
成9年3月31日大阪府規則第52号。以下「本件規則」という。)で要求されて
いる付近住民との協議がなされておらず違法であるなどとしてその取消しを求める
抗告訴訟である。
1 前提事実(争いのない事実及び証拠(甲1,5,乙1)により容易に認定でき
る事実)
(1)被告は,府土木事務所長等の職にある吏員に権限を委任する規則(昭和35
年4月1日大阪府規則第21号)2条1項20号の2により本件規則の規定による
権限を行使することを委任された大阪府池田土木事務所長であるが,平成13年4
月11日,本件規則に基づき,近藤産業が平成13年4月4日付けでなした別紙承
認処分目録記載の内容の工事を行うことの申請(以下「本件申請」という。)を受
け,これを承認した(本件処分)。
(2)本件規則8条1項は,市町村の長以外の者は,知事の承認を受けて公有土地
水面の管理に関する工事を行うことができる旨規定し,同条2項は,第1項の承認
を受けようとする者は,同項各号に規定する書類を添付して申請書を提出しなけれ
ばならないと規定するが,同項11号は,その書類として利害関係者の同意書又は
利害関係者との協議書を掲げている。
(3)近藤産業が被告に提出した本件申請に係る申請書(以下「本件申請書」とい
う。)には,平成13年2月21日付け「地元自治会との協議書」(以下「本件協
議書」という。)が添付されている。
(4)本件処分の対象となった里道敷き(32.27平方メートル 以下「本件里
道部分」という。)は別紙図面の里道(オレンジ色で表示した部分)の一部(黒色
で塗りつぶした部分)に位置する。
 また,本件里道部分の10メートルほど西側には道路が存在するが,当該道路
(以下「本件西側道路」という。)は別紙図面のピンク色部分に位置する。
 さらに,原告らの居宅は別紙図面の黄色部分にそれぞれ位置する。
2 本案前の争点(原告適格)についての当事者の主張
(原告ら)
(1)原告らは,地域住民として本件里道部分につき通行権を有するが,これは地
域住民の日常生活に必要な通行権益であり,法律上保護に値する人格権に基づくも
のである。したがって,原告らは,本件処分の取消しを求めるにつき法律上の利益
を有する者(行政事件訴訟法9条)に該当する。
 原告らの個別具体的利益は以下のとおりである。
ア 原告らの本件里道部分の利用形態
(ア)原告Aには,生後10か月の時に髄膜炎を患い歩行困難な障害児となった小
学校5年生の子がおり,週1回は歩行訓練が必要であることから,毎週1回本件里
道を子の歩行訓練のために利用している。
(イ)原告Bは,通勤のため,本件里道部分の南側にあって片道徒歩約15分の距
離にある地下鉄α線β駅と自宅との往復に本件里道部分を利用している。
(ウ)原告B及び原告Cは,ボランティア活動として近隣の老人を介護している
が,そのため近隣の老人を訪問する際にも本件里道部分を利用している。
(エ)原告らは,ほぼ毎日,本件里道部分を散歩道として利用して,気分転換を図
ったり,散歩の途中で出会う人との会話を楽しんだりしている。そして,原告D,
原告E及び原告Aにおいては,本件里道部分を通っての毎日の散歩が健康法のひと
つともなっている。
イ 本件里道部分の利点
 本件里道部分は,一方が空き地,他方が竹やぶといった自然に囲まれた環境のよ
い場所である。しかも,本件里道部分はその道路状況から車両が通行することはな
い。
 また,本件里道部分は,自然な起伏があるため,原告Aの子の歩行訓練にとって
最適の場所である。
 このように,本件里道部分は,自然な起伏があるという点で,上述のように,歩
行訓練や健康法としての散歩に利用されたり,また,自然に恵まれた環境であると
いう点から,気分転換としての散歩道や通勤等の生活道として利用されている。
ウ 代替道路について
 本件西側道路は,本件里道部分から10メートルほど西側にあり,本件里道部分
に平行して通っているが,その幅員は2台の車両がすれ違うことができないほど狭
いにもかかわらず,車両の通行量が非常に多く,見通しも悪いため,しばしば交通
事故が起きるほどで,通行上の危険性が極めて高い。
 しかも,原告らが居住するγ及びその近辺には,本件里道部分のように環境が良
くて車両による危険がなく,しかも自然な起伏があるといったような道は他には見
あたらないのである。
エ 本件里道部分を利用できなくなることの不利益
 前述のとおり,自然の起伏のある本件里道部分は,原告Aの子の歩行訓練のため
に最適な場所であり,本件里道部分の他に歩行訓練の条件のあった道路は見あたら
ないのであるから,原告A及びその子に与える影響は非常に大きいものである。
 本件里道部分を通勤やボランティア活動で利用してきた原告B及び原告Cが本件
里道部分を利用できなくなると,本件西側道路の利用を余儀なくされることにな
り,その結果,原告B及び原告Cは交通事故の危険や不安にさらされることにな
り,非常に深刻な悪影響を被ることになる。
 また,このような本件西側道路の危険な状況からすれば,注意力や判断力に劣る
老人,子どもの通行にとってはさらに危険性は強まるのであるから,原告F及び原
告Gが高齢であることからすれば,本件里道部分の利用が不可能となって本件西側
道路の利用を余儀なくされることは,両名にとっては著しい不利益を強いられるこ
とになる。
(2)行政事件訴訟法9条の「法律上の利益」につき,いわゆる法律上保護された
利益説を採るにしても,柔軟な解釈が必要であり,以下の点に鑑みれば,上記地域
住民としての通行権は法律上保護された利益に該当する。
 すなわち,市町村の長以外の者が公有土地水面の管理に関する工事を行うには,
大阪府知事に対する申請に際し,本件規則8条2項11号により利害関係者の同意
書又は利害関係者との協議書を添付することが原則とされている。そのことは,同
項ただし書きで例外として「知事が必要でないと認める」ときに限ってこれらの書
類を添付をしなくても良いとする条文の構造からも明かである。
 特に,利害関係者の同意書又は協議書の添付は,管理に関する工事の承認によっ
て当該公共用財産の用途・目的を阻害しないかどうか,また,それによって当該財
産の利用者などの利用・安全を害しないかなど,承認の是非の判断にあたっては重
要な資料となるものである。したがって,その添付が必要でないというのは,利害
関係者が一切協議に応じないときなど,よほどの例外的な場合に限られるべきであ
る。
 そして,この「利害関係者」には,里道の付近に住み,通行等に里道を利用して
いる住民やこれらの住民を構成員とする地元自治会なども含まれる。本件規則がこ
のような利害関係者の同意書ないし利害関係者との協議書を求めていること自体,
行政法規上,周辺住民が里道を利用することを,法律上保護された利益と位置づけ
ていることの現れである。
(被告)
(1)処分の取消しの訴えにおいて原告適格を有する者は,当該処分により自己の
権利若しくは法律上保護された利益を侵害され,又は必然的に侵害されるおそれが
あり,その取消し等によってこれを回復すべき法律上の利益を持つ者である。そし
て,法律上保護された利益とは,行政法規が私人等権利主体の個人的利益を保護す
ることを目的として行政権の行使に制約を課していることにより保障されている利
益であって,行政法規が他の目的,特に公益の実現を目的として行政権の行使に制
約を課している結果,たまたま一定の者が受けることとなる事実上の利益とは区別
されるべきである。
 しかるところ,一般に公共用物は,その管理者がこれを公共の用に供しているこ
との反射的利益として,一般公衆においてこれを利用する自由を享有するにすぎ
ず,公共用財産であっても,特定個人の日常生活に個別性の強い具体的利益をもた
らしていて,その廃止によって日常生活に著しい支障が生ずるという特段の事情が
認められる場合でなければ,同利用の利益をもって法律上個別的に保護された利益
ということはできないと解されている(長野地裁昭和61年7月24日判決,その
控訴審東京高裁昭和62年1月27日判決,その上告審最高裁昭和62年11月2
4日第三小法廷判決・裁判集民事152号247頁)。
(2)原告らは本件里道部分を通行しなくても本件里道部分の周辺の市道を通行す
ることが可能であること,原告らの住居が接面する道路を通行することにより本件
里道部分を通行しなくても原告らは日常生活を行うことが可能であること,本件里
道部分の周辺にはδ児童遊園やε公園といった施設が存在しており,本件里道部分
以外に散歩や歩行訓練に適している場所がないとはいえないこと等を勘案すると,
本件処分が行われることによって原告らが被る不利益とは,代替の道路や施設によ
り解消できるものであり,原告らの日常生活に必要不可欠な通行権が侵害され,日
常生活に著しい支障が生じたとは到底認められない。
 まして,本件処分は,本件里道部分の舗装工事の施行承認であって,近藤産業が
本件里道部分を排他的に利用する占用許可ではないから,本件処分の期間中(平成
13年4月11日から平成14年10月31日),原告らが本件里道部分を全く使
用できないというものではなく,舗装工事が行われている期間以外は本件里道部分
を利用することは可能であり,仮に本件処分によって原告らの日常生活に多少の支
障が生じたとしても,法律上保護された利益を侵害されたことにはならない。
 したがって,原告らの主張する通行権や通行利益とは,本件里道部分が公共の用
に供されている結果,たまたま近隣住民が受けることになる反射的利益にすぎない
ものであるから,行政事件訴訟法9条の「法律上の利益」には当たらない。
3 本案の争点(本件処分の違法性)についての当事者の主張
(原告ら)
(1)利害関係者との協議の不存在
ア 本件規則8条2項11号は,公有土地水面の管理に関する工事の許可を与える
には,利害関係者の同意書あるいは利害関係者との協議書が必要であると規定して
いる。そして,本件申請書には,本件協議書が添付されているが,本件工事につい
ての協議は全く行われていない。
イ ところで,国有財産法18条は,行政財産の本来の用途又は目的が阻害される
ことを防止するために,原則として私権の設定を認めないが,同条3項は,行政財
産の用途又は目的を妨げない限度において行政処分たる使用収益の許可によってこ
れを認めることができるとしている。
 そして,この場合の「用途」とは,当該行政財産である土地が供用されている具
体的な態様を意味し,「目的」とは,当該行政財産である土地を供用することによ
って達成しようとする抽象的な行政目的を意味すると解されており,したがって,
使用収益許可処分をする場合には,当該行政財産である土地の本来の用に供するに
当たって支障が生ずることになるかどうか,また,当該行政財産である土地の有す
る行政目的に反しないかどうか等を具体的事例に則して判断しなければならない。
 以上から,行政財産に対する使用収益の許可処分は,厳格に運用されなければな
らず,許可はごく限定的,例外的な事例に絞られなければならないというべきであ
る。
 そうすると,同法18条3項は,少なくとも当該行政財産が有している本来の機
能と相容れないか少しでもこれを損なうような形での使用は認めないものと解され
る。このような同項の趣旨からすると,将来当該行政財産を本来の目的に使用すべ
き時に直ちに原状回復をはかることが困難になるような性質の使用,収益は同項の
趣旨を逸脱するものと解するのが相当である。
 また,国有財産法の一般的な趣旨,目的からすれば,行政財産につき,その使用
許可処分を行うには,使用内容についての一定の公共性と是非とも当該行政財産を
使用しなければならないという必要性を要し,同要件に該当する場合に,必要最小
限の範囲内でのみ使用が許可されるというべきである。
ウ 本件規則3条(使用許可)及び8条(工事施行承認)が「利害関係者の同意書
又は利害関係者との協議書」の添付を要件としているのは,当該行政財産が有して
いる本来の機能と相容れないかこれを損なうような形での使用になっていないかど
うか,あるいは公共性が認められるのか否か,さらに必要最小限の範囲内での使用
といえるのかどうかの判断に際し,利害関係者の同意ないし利害関係者との協議が
必要であり,また,それが欠けている場合は消極的に解さざるを得ないとの趣旨に
基づき,利害関係者の同意又は利害関係者との協議を必要としているのである。
 したがって,当該行政財産につき使用許可処分あるいは工事施行承認処分を行う
には,地元自治会等や周辺住民の同意ないしそれらとの協議が不可欠であって,行
政庁の判断でそれを不要とすることはできない。
 特に,里道は,その沿革からして周辺住民にとって重要な役割を担ってきたもの
であり,人々が足繁く往来する重要な生活道路としての意味を有しているのであっ
て,こうした意義・役割を有する里道について,その使用を許可するには,当然,
地元自治会等や周辺住民の同意ないしそれらとの協議が必要である。
 仮に,同意書あるいは協議書の添付が必要とされない場合が例外的にあり得ると
しても,本件里道部分の工事により,本件里道部分を利用してきた原告らに対し様
々な生活上の不便・支障を強いることになるのであるから,本件はそのような場合
に当たらない。
(2)本来の機能に対する支障
 上記のとおり,行政財産の使用許可あるいは工事施行承認をするには,それらの
使用あるいは工事が,当該行政財産が有している本来の機能と相容れないか少しで
もこれを損なうような形のものである場合は認められないものであるが,本件処分
に係る本件里道部分の舗装工事は,本件里道部分が周辺住民の生活道路として担っ
てきた重要な機能を損なうものであるから違法である。
(3)公共性の不存在
 上記のとおり,行政財産の使用許可あるいは工事施行承認をするには,公共性が
必要であると解されるが,本件処分に係る本件里道部分の舗装工事は,マンション
建設のための工事道路の確保を目的としたものであるが,このマンション建設は,
以下述べるとおり周辺に重大な環境破壊をもたらすものであり,公共性の要件を満
たさず違法である。
 すなわち,同マンション建設予定地区周辺は,すべて低層住宅であり,良好な住
環境地域である。ところが,同建設予定の敷地は,本件里道部分付近地域のなかで
一番の高台であるにもかかわらず,11階建の高層マンションが建設予定となって
いる。
 このようなマンションが建設されたならば,原告ら周辺地域住民は,日照権侵
害,風害,電波障害等の環境破壊の被害を被り,また,圧迫感のある巨大建築物が
峻立することになり,地域の景観が破壊されてしまう。
 また,建築高31メートル,隣接道路からは33メートル程度の81戸の集合住
宅であるにも関わらず,火災安全上・保安上の対策がとられておらず,周辺住民を
大きな危険にさらすことになる。しかも,本件西側道路は交通事故の絶えない場所
であるにも関わらず,集合住宅による車両,交通量の増加に対して,道路,交通対
策が全くとられていない。
 さらに,本件処分に係る工事により,本件里道部分は舗装されるが,原告ら周辺
住民にとっては,前記のマンションの住人の自動車利用により交通事故の危険性が
増加するなど,機能向上どころか利便性が損なわれることになる。
(被告)
(1)申請の形式上の要件について
ア 本件申請は,本件規則8条2項各号に定める必要な書類が添付されており,申
請の形式上の要件を満たすものである。
イ また,本件規則8条2項ただし書きは,申請書に添付すべき書類について「知
事が必要でないと認める書類については,この限りでない。」と規定し,添付書類
の必要性の判断を知事に委ねている。
 同項11号の掲げる利害関係者の同意書又は利害関係者との協議書の添付につい
ては,大阪府公有土地水面使用料条例及び本件規則の取り扱い5「自費工事の承認
について」において準用する同取扱い2「申請手続き」(1)③ウの規定に基づ
き,公有土地水面の現況,日常的な管理の状況等を総合的に考慮して求めることと
している。
 本件申請については,本件里道部分を取り巻く周辺の街路状況,形態に鑑み,①
近隣住民らの日常生活が専ら本件里道部分を通じてなされ,工事によって生活上必
須の行動の自由が制限されるなどの事情がないこと,②工事完了後は申請者が本件
里道部分を排他的に使用するものではなく,近隣住民の使用に何ら支障をきたさな
いうえに,工事の結果,本件里道の機能が向上することから,地元自治会の構成員
たる近隣住民らに特段の利害関係があるとは認められないから,本件申請に添付さ
れた協議書は本件申請に必要な添付書類ではないと判断した。
 仮に,本件申請に協議書が添付書類として必要であるとすると,本件協議書が虚
偽であれば本件申請は形式的要件を具備しないことになるが,上記のとおり,本件
申請において地元自治会との協議書は必要な添付書類ではないので原告らの主張は
失当である。
(2)工事内容の適法性について
 公有水面工事施行承認の審査に当たっては,審査基準において,①工事の内容
が,当該公共用財産の機能を維持し,または機能の向上を図るものであること,②
機能管理上,支障がないと認められること,③利害関係者が当該公共用財産を使用
することに支障をきたさないことを要件として規定してる。
 ところで,本件申請については,①工事の内容が里道敷きの舗装であり,本件里
道部分の機能を向上こそすれ,何ら機能を阻害するものではないこと,②機能管理
上も何ら支障があると認められないこと,③本件里道部分を取り巻く周辺の街路状
況,形態に鑑みれば,近隣住民らの生活が専ら本件里道部分を通じてなされている
ような事情になく,本件里道部分の使用に関して,特段の利害を有する者があると
は認められないことから,審査基準に規定する要件をも充たすものと判断したもの
である。
(3)国有財産法18条3項の使用許可は,「その用途又は目的を妨げない限度に
おいて」認められるものであり,具体的には,当該行政財産である土地の本来の用
に供するに当たって支障が生ずることになるかどうか,また,当該行政財産である
土地の有する行政目的に反しないかどうか等を具体的事例に即して判断するもので
あって,原告らの主張するように必ずしも使用内容についての公共性や申請者側の
必要性等までを考慮しなければならないものではない。
 また,原告らの主張するマンション建設に係る公共性の不存在については,本件
処分とはなんら関係を有するものではなく,原告らの主張は失当である。
第3 当裁判所の判断(本案前の争点について)
1 行政事件訴訟法9条は,取消訴訟の原告適格について規定するが,同条にいう
当該処分の取消しを求めるにつき「法律上の利益を有する者」とは,当該処分によ
り自己の権利若しくは法律上保護された利益を侵害され,又は必然的に侵害される
おそれのある者をいうのであり,当該処分を定めた行政法規が,不特定多数者の具
体的利益を専ら一般的公益の中に吸収解消させるにとどめず,それが帰属する個々
人の個別的利益としてもこれを保護すべきものとする趣旨を含むと解される場合に
は,このような利益もここにいう法律上保護された利益に当たり,当該処分により
これを侵害され又は必然的に侵害されるおそれのある者は,当該処分の取消訴訟に
おける原告適格を有するものというべきである。そして,当該行政法規が,不特定
多数者の具体的利益をそれが帰属する個々人の個別的利益としても保護すべきもの
とする趣旨を含むか否かは,当該行政法規の趣旨・目的,当該行政法規が当該処分
を通じて保護しようとしている利益の内容・性質等を考慮して判断すべきである
(最高裁平成4年9月22日第三小法廷判決・民集46巻6号571頁,最高裁平
成9年1月28日第三小法廷判決・民集51巻1号250頁参照)。
2 本件において原告らが取消しの訴えの対象とする処分は,国有財産法9条3
項,国有財産法施行令6条2項1号カ(平成12年6月7日政令第307号による
改正前の同項1号ヨ)の規定により大阪府が行うこととされた里道を含む国有財産
である公共用財産の取得,維持,保存,運用及び処分のうち,本件規則8条に基づ
く,機能管理者である市町村の長以外の者が機能管理としての工事を行うことの承
認処分であり,具体的には,近藤産業が本件里道部分をアスファルト舗装する工事
の承認処分である。
 ところで,道路は,一般公衆の使用に供することを目的とする公共施設であり,
何人も他人の共同使用を妨げない限度で,その用法に従い,自由にこれを使用する
ことができるものであるが,一般公衆が道路の自由使用によって享受する利益は,
道路が一般公衆の用に供されていることの結果として受ける反射的利益にすぎず,
一般公衆に権利としてその使用権が与えられているものではなく,また,その使用
が法律上個別的に保護されているものでもないと解されるから,道路の一般の使用
者は,当該道路の使用収益あるいは管理に関する処分の取消しを求めるにつき原告
適格を有しないものと考えられる。
 しかしながら,特定の者が居住又は事業等のために使用している土地が1つの道
路にしか接しておらず,当該道路がその者の生活又は事業等のため必須のものとな
っており,当該道路の使用が制限されると生活上又は事業上著しい支障が生ずると
いうような特別の事情がある場合には,その者が当該道路を使用する利益は個別具
体的性格を有しており,これを一般公衆が当該道路を使用する利益と同一視するこ
とは相当ではない。
 国有財産関係法規及び本件規則には明文の規定はないが,使用許可に関する本件
規則3条2項11号及び工事施行承認に関する本件規則8条2項11号が,知事が
必要でないと認める場合を除き,原則として利害関係者の同意書又は利害関係者と
の協議書の添付を求める趣旨も,かかる個別具体的性格を有する権利を当該処分に
当たり保護すべきとの立法政策の現れと解することができる。
3 これを原告らについて検討すると,本件処分は,本件里道部分の舗装工事の施
行承認であって,近藤産業が本件里道部分を排他的に利用する占用許可ではないか
ら,本件処分の期間中(平成13年4月11日から平成14年10月31日)にお
いて原告らが本件里道部分を全く使用できなくなるというものではなく,また,本
件里道部分については,その西側に近接する位置に本件西側道路が存在し,仮に工
事施行承認による工事期間中に本件里道部分を通行することが不能となっても,代
替道路が存在するといえ,原告らに生活上又は事業上著しい支障が生ずるというよ
うな特別の事情があるとは認められない。
 この点,本件西側道路は本件里道部分に比べて交通事故等の危険が大きくなるこ
とは否定できないが,通行路としての使用がおよそ不可能となるものではなく,か
かる限度では未だ前記特別の事情があるとはいえない。
 また,原告らが主張する本件里道部分を歩行訓練に利用する利益,通勤等に利用
する利益及び散歩等に利用する利益は,未だ本件里道部分の自由使用の域を超える
ものではなく,前記特別の事情を裏付けるものではない。
4 したがって,本件原告らは,本件処分について法律上の利益を有する者ではな
く,その取消訴訟の原告適格を有するとはいえない。
 よって,原告らの本件処分の取消しを求める訴えは,不適法である。
第4 結論
 以上のとおり,原告らの本件訴えは不適法であるから却下することとし,主文の
とおり判決する。
大阪地方裁判所第二民事部
裁判長裁判官 三浦潤
裁判官 林俊之
裁判官 千松順子

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