弁護士法人ITJ法律事務所

裁判例


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         主    文
     原判決を破棄する。
     被告人Aを罰金一万円に、被告人Bを罰金五千円に各処する。
     被告人等において右罰金を完納することかできないときは金二百円を一
日に換算した期間当該被告人を労役場に留置する。
     被告人等に対し公職選挙法第二百五十二条第一項の選挙権及び被選挙権
を有しない期間を各三年に短縮する。
         理    由
 検察官控訴の趣意は甲府地方検察庁検察官検事天野武一作成の控訴極官書記載の
とおりで、これに対する被告人等の答弁は弁護人山菅正誠作成の答弁書記載のとお
りであり、被告人両名控訴の趣意は弁護人山菅正誠作成の控訴趣意書記載りとおり
であるから、いずれもこれを引用し、これに対し当裁判所は次のように判断する。
 弁護人の論旨第二点について。
 原判決挙示の証拠を総合すると、原判決判示事実はすべて優にこれを認めること
ができる。即ち原判決挙示の証拠によると、被告人Aは、広報課長として、被告人
Bは広報係長としていずれも山梨県総務部広報課に勤務し、広報宣伝に関する事項
その他の事務を担当していたものであるが、被告人等は予て山梨県知事Cの二期に
亘る県政を強く支持し引続き三期在任を希望していた折柄、来るべき昭和三十四年
二月一日施行の同県知事選挙にCが三期出馬を声明するや、右広報課において発行
する「県庁だより」昭和三十四年一月一日号№91の巻頭に、山梨県知事Cの「年
頭にあたつて」と題する挨拶を掲載するに当り、原判決摘示の如き文案を被告人B
が起案し、被告人Aがこれに修正決才し更に上司の決才を経て、ここに被告人両名
はかかる文章はC知事の選挙戦には効果があることを知り且つこれを読んだ県民を
してC県政を理解しC候補を支持支援してくれることを期待しつつこれを右「県庁
だより」に登載し、原判決判示の如く頒布したことが明らかである。論旨は本件
「県庁だより」に記載された「年頭にあたつて」なる文章は山梨県知事Cが県民に
対して表明した年頭の挨拶であつて選挙運動に使用する文書ではない。蓋し知事が
年頭に当り前年迄の県政の実績を述べ、将来の県政の方向を示し、以て県政に対す
る県民の支援支持協力を要望することは、知事の職務乃至立場上極めて当然の事理
であり社会の通念である。故に本件「県庁だより」に記載された文章のうち原判決
の指摘したような文詞が断片的に散在するからといつて本件文書をC<要旨第一>の
選挙運動のために使用する文書と認定したのは経験則に反すると主張する。しかし
原判決判示「県庁だより」一月一日号№91巻頭の「年頭にあたつて」
という文章全体を見ると「……昨年十月にはD党山梨県支部連合会の大会で知事三
選出馬要請決議まで戴きましたので、私は意を決して来るべき知事選への出馬を声
明いたした次第であります」として昭和三十四年二月一日施行の知事選挙に三度立
候補を決意した旨を述べた後、山梨県を開発し、道路交通網を新設拡充して県内産
業の飛躍的発展を期すべき施策の完遂のためには、まだまだなすべき多くの仕事が
残されており、「この政治をより正しくより強力に進めて行くためには県民皆様の
固い結束と一致した御支持と御支援のきづなが絶対に必要不可欠なものと存じます
ので、郷土山梨の発展のため今年もまた何とぞ倍旧の御支援を賜りたく御願い申上
げます」と述べているのであるから、これを以つて専らC知事が前年迄の県政の実
績を述べ将来の県政の方向を示し、県政に対する県民の支援支持協力を要望しただ
けのものとはいい難い。のみならず記録によれば、本件「県庁だより」の発行頒布
はすべて県費によつて賄われ、その発行部数は約二千部で、その大部分は県内市町
村役場、農業協同組合、中学校、公民館、図書館、その他県内の主要官公署、行政
委員会、理容業者等に無料頒布されることが明らかであるから、右文章は、原判決
判示知事選挙に際し、立候補を決意したCの当選を得るために選挙人を含む一般県
民の支持支援をも要望したもので選挙運動に関係あるものといわなければならな
い。公職選挙法第百四十二条が、選挙運動としての文書図画による言論活動を規制
する趣旨は、すべての公職の候補者をして平等の条件のもとに公平にして公正な選
挙運動をなさしめる趣旨であるところ、もし所論のように本件「県庁だより」の右
文章を以つて知事の県政の実績並びに抱負を述べ県民の県政に対する支持協力を要
望したものとして、これを自由に頒布することを許すものとすれば立候補し又はこ
れを決意した現職にある知事は他の候補者又は立候補を決した者に比し不当に有利
な条件の下に立つこととなり公職選挙法の右規定の趣旨を没却し到底容認し得ない
ところである。原判決の事実認定は所論のように経験則に反するものではなく、被
告人等の所為は、公職選挙法第百四十二条の禁止に違反するといわなければならな
い。また記録を精査するも原判決には何ら事実の誤認はないから論旨は理由がな
い。
 弁護人の論旨第一点について、
 原審公判廷における被告人両名の供述及び原審弁護人の弁論を綜合すると、被告
人等は、原審において被告人等の本件文書の頒布はその担当する公務上当然の職務
としてなした正当な行為であるから刑法第三十五条により処罰さるべきではないと
の趣旨を主張したものと解すべきである。従つて右は法律上犯罪の成立を妨げる理
由となる事実上の主張に該当するから、刑事訴訟法第三百三十五条第二項により有
罪の言渡をする判決においては、これに対する判断を示さなければならないのに、
原判決はその判断を示していないことは所論のとおりであつて、右は前示法条に定
める訴訟手続に違反したものといわなければならない。
 <要旨第二>しかし、本件記録に徴すれば、なるほど被告人Aは、山梨県総務部広
報課長として、又被告人BBは同課広報係長として、いずれも原判決判
示の如く、同課において県政一般を県民並びに関係機関に周知徹底させる目的で発
行する「県庁だより」の原稿の執筆収集等その編集発行の事務を担当していたもの
であることが認められるので、右「県庁だより」の巻頭に掲載すべき同県知事名義
の挨拶文を起案し、所定の手続を経てこれを掲載頒布することも被告人等の職務で
あるというべきであることは所論のとおりであるけれども、その挨拶文の内容若し
くはこれを頒布することが選挙の公正を害し、法令に違反するような場合にはその
違法な文章を執筆掲載し又はこれを頒布することは、被告人等の正当な職務の範囲
を逸脱するものであつて、被告人等の判示地方公務員としての職務とは認められな
い。しかるに被告人等の執筆掲載し頒布した原判決判示「県庁だより」昭和三十四
年一月一日号№91の「年頭にあたつて」と題する山梨県知事C名義の文書は、既
に論旨第二点において説明したとおり、山梨県知事Cの選挙運動のために使用する
文書と認められ、これを頒布することは、公職選挙法第百四十二条の禁止に反した
行為であるから、かかる文書を頒布することは被告人等の地方公務員としての当然
の職務とは認められないから、被告人等の所為は正当の業務に因りなした行為とし
て処罰を免れ得るものではない。それ故原判決の前記訴訟手続に違反した違法は結
局判決に影響を及ぼさない。論旨は理由がない。
 検察官の論旨について。
 所論に鑑み記録を調査し、これに現われた本件犯罪の動機、態様並びに被告人等
は地方公務員でありながら公の機関を利用し、公の選挙において特定の人を支持す
る目的で本件文書を頒布した点等を総合すると、原判決が被告人等に対し罰金刑の
執行を猶予する旨言い渡したのは量刑不当といわなげればならない。諭旨は理由が
ある。
 以上の如く検察官の量刑不当の論旨は理由があるから、弁護人の量刑不当の論旨
第三点に対する判断を省略し刑事訴訟法第三百九十七条により原判決を破棄し、同
法第四百条但書により更に次のように判決する。
 原判決が適法に確定した事実に法律を適用すると、被告人等の所為は公職選挙法
第百四十二条第一項、第二百四十三条第三号、刑法第六十条に該当するので所定刑
中罰金刑を選択し、所定罰金額の範囲内で被告人Aを罰金一万円に、被告人Bを罰
金五千円に各処し、被告人等において右罰金を完納することができないときは、刑
法第十八条により金二百円を一日に換算した期間当該被告人を労役場に留置する。
尚公職選挙法第二百五十二条第三項により被告人等に対し同条第一項の選挙権及び
被選挙権を有しない期間を三年に短縮するを相当と認め主文のとおり判決する。
 (裁判長判事 岩田誠 判事 渡辺辰吉 判事 司波実)

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