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平成17年(行ケ)第10520号審決取消請求事件
口頭弁論終結日平成18年6月21日
判決
原告アイリスオーヤマ株式会社
訴訟代理人弁護士安江邦治
訴訟代理人弁理士羽切正治
被告株式会社伸晃
訴訟代理人弁理士濱田俊明
主文
1原告の請求を棄却する。
2訴訟費用は原告の負担とする。
事実及び理由
第1請求
特許庁が無効2003-35130号事件について平成17年5月10日に
した審決を取り消す。
第2事案の概要
本件は,被告が有する後記特許につき,原告が無効審判請求をしたところ,
特許庁が請求不成立の審決をしたことから,原告が,その取消しを求めた事案
である。
なお,上記無効審判請求については,特許庁が平成15年11月18日に請
求不成立の審決をし,これに対し東京高等裁判所が平成16年11月8日に上
記審決を取り消す判決をしたことから,特許庁で再び審理されていたものであ
る。
第3当事者の主張
1請求の原因
(1)特許庁等における手続の経緯
ア被告は,平成9年12月25日,名称を「置棚」とする発明について特
許出願(特願平9-368696号)をし,平成14年10月11日,特
許第3358173号として設定登録を受けた(以下「本件特許」とい
う。)。
イところが,平成15年4月8日付けで原告から本件特許につき無効審判
請求がなされたので,特許庁は,これを無効2003-35130号事件
として審理し,平成15年11月18日,「本件審判の請求は,成り立た
ない」旨の審決(以下「第1次審決」という。)を行い,その審決謄本は
平成15年11月28日原告に送達された。
ウこれに対し,原告は,平成15年12月25日,東京高等裁判所に,第
1次審決の取消しを求める訴えを提起した(平成15年(行ケ)第587
号)ところ,同裁判所は,平成16年11月8日,第1次審決を取り消す
旨の判決(以下「第1次判決」という。)をし,確定した。
エそこで,特許庁は,再び無効2003-35130号事件について審理
し,その審理手続の中において,被告は,平成17年2月10日付けで訂
正請求をした(以下「本件訂正」という。)。
そして,特許庁は,平成17年5月10日,「訂正を認める。本件審判
の請求は成り立たない」旨の審決(以下「本件審決」という。)をし,そ
の審決謄本は平成17年5月20日原告に送達された。
(2)発明の内容
ア設定登録時(平成14年10月11日)のもの
設定登録時の明細書(以下「訂正前明細書」という。甲2)に記載され
た特許請求の範囲は,請求項1ないし3から成り,その内容は,次のとお
りである(以下,請求項に対応して「訂正前発明1」などという。)。
「【請求項1】左右の支脚間に前後に架橋した棚受用横桟上に適宜着脱自
在な取替棚を掛止してなる置棚において,上記棚受用横桟は外管に内管
を伸縮可能に挿通してなると共に,上記外管の伸縮方向に一定長を有す
る固定棚は,その後方裏面に設けた取付孔に内管側の支脚を嵌入すると
共に,当該固定棚の先端の支持部に対して上記外管をその伸縮に応じて
摺動自在に挿通して該固定棚を水平に支持し,所定枚数の取替棚を前後
の外管上に掛止したことを特徴とする置棚。
【請求項2】外管の内管挿通側の先端には,固定棚の外管支持部と当接
する抜止部を設け,外管の最大伸長を規制した請求項1記載の置棚。
【請求項3】固定棚および取替棚は,上下方向の通気孔を有する請求項
1または2記載の置棚。」
イ本件審決(平成17年5月10日)により認められた本件訂正後のもの
本件訂正後の明細書(以下「訂正明細書」という。甲7,乙4)に記載
された特許請求の範囲は,請求項1ないし3から成り,その内容は,次の
とおりである(下線部は訂正部分。以下,請求項に対応して「訂正発明
1」などという。)。
「【請求項1】左右の支脚間に前後に架橋した棚受用横桟上に適宜着脱自
在な取替棚を掛止してなる置棚において,上記棚受用横桟は外管に内管
を伸縮可能に挿通してなると共に,上記外管の伸縮方向に一定長を有す
る単一部材の固定棚は,その後方裏面に設けた取付孔に内管側の支脚を
嵌入すると共に,当該固定棚の先端の円形孔からなる支持部に対して上
記外管をその伸縮に応じて摺動自在に挿通して該固定棚を水平に支持
し,所定枚数の取替棚を前後の外管上に掛止したことを特徴とする置
棚。
【請求項2】外管の内管挿通側の先端には,固定棚の外管支持部と当接
する抜止部を設け,外管の最大伸長を規制した請求項1記載の置棚。
【請求項3】固定棚および取替棚は,上下方向の通気孔を有する請求項
1または2記載の置棚。」
(3)審決の内容
本件審決の内容は,別紙審決写しのとおりであり,その理由の要点は,次
のとおりである。
ア本件訂正は,特許請求の範囲の減縮又は明りょうでない記載の釈明を目
的とするものであって,願書に添付した明細書に記載した事項の範囲内の
ものであり,かつ,実質上特許請求の範囲を拡張し又は変更するものでも
ない。
イ訂正発明1~3は,下記甲5の1発明であるとすることも,甲5の1・
甲5の2・甲5の3の各発明に基づいて当業者が容易に発明をすることが
できたとすることもできない。

・特開平9-308532号公報(甲5の1。以下「甲5の1公報」とい
い,この発明を「甲5の1発明」という。)
・特開平9-65937号公報(甲5の2)
・実願昭51-47314号(実開昭52-137122号)のマイクロ
フィルム(甲5の3)
(4)審決の取消事由
しかしながら,本件審決は,次に述べるとおり,本件訂正を違法に認め,
また,訂正発明1と甲5の1発明との相違点の認定判断を誤り,第1次判決
の拘束力にも違反するから,違法として取り消されるべきである。
ア取消事由1(本件訂正が違法であること)
(ア)本件審決は,訂正発明1について,「固定棚は先端の円形孔からな
る支持部に外管を挿通しているから,支脚間に棚受用横桟を架橋した状
態では該固定棚は棚受用横桟から分離することはできず,着脱自在では
ない。」(11頁下から14行~12行)として,本件訂正のうち特許
請求の範囲請求項1につき「固定棚の先端の円形孔からなる支持部」と
する訂正によって,「該固定棚は棚受用横桟から分離することはでき
ず,着脱自在ではない。」という発明的特徴を有することを認定してい
る。
しかし,本件審決が,上記のとおり発明的特徴とする点については,
訂正前明細書中のいかなる部分にも記載がなく,訂正前発明の技術思想
には含まれていないものである。
また,本件審決は,訂正前明細書(甲2)添付の図1において,「固
定棚の支持部3b部分の断面をみると,固定棚の先端部に円形の孔が設
けられ,外管がこの孔を通っているように記載されて」いる(4頁下か
ら11行~9行)というが,上記図1は,「固定棚の先端部に円形の孔
が設けられ」ていることを明確に示すものではない。したがって,本件
訂正のうち特許請求の範囲請求項1につき「固定棚の先端の円形孔から
なる支持部」とする訂正は,新規事項の追加又は特許請求の範囲を実質
上変更するものに該当し,許されない。
(イ)第1次判決が訂正前明細書の記載に基づいて「固定棚」の支持部の
作用効果と認定したものは,「当該固定棚の先端の支持部に対して上記
外管をその伸縮に応じて摺動自在に挿通して該固定棚を水平に支持」す
ることであって,「該固定棚は棚受用横桟から分離することはできず,
着脱自在ではない。」ということではない。
したがって,本件訂正のうち特許請求の範囲請求項1につき「固定棚
の先端の円形孔からなる支持部」とする訂正は,第1次判決の認定した
事実にも反する違法なものである。
イ取消事由2(訂正発明1と甲5の1発明との相違点の認定の誤り)
(ア)本件審決は,訂正発明1と甲5の1発明との相違点について,訂正
発明1「では,固定棚が単一部材であり,固定棚の先端の支持部が円形
孔であるのに対し,」甲5の1発明「では,固定棚が右辺部材と着脱自
在な基本板を二枚以上連結して一体としたものであり,固定棚の先端の
支持部が湾曲掛止部である」旨の認定をしている(10頁下から5行~
2行)。
しかし,第1次判決(甲4の1)は,「本件発明1(判決注訂正前
発明1)の『固定棚』は,(一体成型されるなどした)単一の部材から
なるものに限定されてはいないというべきであって,前認定の引用発明
1(判決注甲5の1発明)における右辺部材3と1枚又は複数枚の基
本板6の一体化されたもの…も含まれるというべきである。」(18頁
6行~10行)と認定して,甲5の1発明においても,固定棚として
「右辺部材3と1枚の基本板6の一体化されたもの」が存在することを
明記しているから,本件審決の上記「甲5の1発明では,固定棚が右辺
部材と着脱自在な基本板を2枚以上連結して一体としたものであり」と
の認定は誤りである。
(イ)また,本件審決は,訂正発明1「においては,取替棚は棚受用横桟
上に適宜着脱自在に掛止されるのに対し,固定棚は先端の円形孔からな
る支持部に外管を挿通しているから,支脚間に棚受用横桟を架橋した状
態では該固定棚は棚受用横桟から分離することはできず,着脱自在では
ない。これに対して,」甲5の1発明「においては,基本板の前後に設
けられた湾曲掛止部にて一対の伸縮パイプ材を抱えるようにして引っ掛
けることにより,基本板をパイプ材から取外し自在にしているから,同
基本板を利用して適宜着脱自在な取替棚は構成できても,着脱自在では
ない固定棚を構成することは不可能である。」旨の認定をしている(1
1頁下から15行~7行)。
しかし,訂正発明1において,固定棚が「支脚間に棚受用横桟を架橋
した状態では棚受用横桟から分離することはできず,着脱自在ではな
い」のは,「固定棚の先端の円形孔からなる支持部」に起因するもので
はない。支脚間に棚受用横桟が架橋されたことに起因する。なぜなら
ば,仮に,固定棚の先端に円形孔からなる支持部があったとしても,支
脚間に棚受用横桟が架橋されていなければ,「円形孔からなる支持部か
ら外管を抜き出し,着脱自在とする」ことは,極めて容易であるからで
ある。
このことは,甲5の1発明においても同様である。固定棚を構成する
基本板が右辺部材3と一体化され,かつ,伸縮パイプ材4が左右辺部材
2,3に橋架状に連結された状態においては,固定棚は伸縮パイプから
分離することはできず,着脱自在ではないからである。
したがって,訂正発明1と甲5の1発明との間には,上記の本件審決
がいうような相違はない。
ウ取消事由3(訂正発明1と甲5の1発明との相違点の評価の誤り)
本件審決は,訂正発明1においては,「単一部材である固定棚の長さを
取替棚の長さとは無関係に任意の長さに設定することにより,外管の伸縮
範囲を調整し,収納空間の寸法に応じて置棚のサイズを調整しているもの
と解される。これに対して,」甲5の1発明においては,「同じ形状の基
本板を利用するものであるから,基本板の長さを超えて伸縮調整範囲を広
げるためには,固定棚に複数の基本板を使用せざるを得ないものと認めら
れ,これを単一部材で構成すると,伸縮機能を奏さないものとなるか
ら,」甲5の1発明において,固定棚を単一部材とすることには阻害要因
がある旨の判断をしている(11頁14行~24行)。
しかし,「適用しようとする収納空間に応じて,外管2aの長さや,そ
の伸縮範囲を調整し,収納空間の寸法に応じて置棚のサイズを調整」する
という作用効果は,「一定長を有する固定棚」によって生ずるのであっ
て,「単一部材」としたことによって生ずるものではない。甲5の1発明
の固定棚を複数の基本板を使用して構成したとしても,「外管の伸縮範囲
を調整し,収納空間の寸法に応じて置棚のサイズを調整する」という「固定
棚」の作用効果において,訂正発明1と何ら異なるところはない。したが
って,甲5の1発明において固定棚を単一部材とすることに阻害要因があ
るということはできない。
エ取消事由4(第1次判決の拘束力違反)
(ア)第1次判決は,訂正前発明1の「固定棚」について,単一の部材又
は複数部材からなる構成を前提とした上で,甲5の1発明の「右辺部材
3と1枚又は複数枚の基本板6の一体化した固定棚」とは,同一のもの
であると判断している。
ところが,本件審決は,「単一部材」から成る訂正発明1の「固定
棚」は,甲5の1発明の「右辺部材3と1枚又は複数枚の基本板6の一
体化した固定棚」とは異なるとの判断をしている。この判断は,上記の
第1次判決の判断に反するものであるから,その拘束力に違反する。
(イ)第1次判決は,「本件明細書(判決注訂正前明細書)…に添付の
図1の図示(3b部分の断面)をみると,判然とはしないが,固定棚の
先端部に円形の孔が設けられ,外管がこの孔を通っているように見え
る。」とした上で,訂正前発明1の「固定棚の先端の支持部」の形状は
「外管を挿通して」の意味のものであれば足りるとし,そうすると,甲
5の1発明の基本板6の湾曲掛止部23の「円形の一部が開放されたも
の」と同一であると判断している。
したがって,第1次判決は,上記支持部が「円形孔からなる支持部」
であることを前提として,訂正前発明1の上記支持部と甲5の1発明の
基本板6の湾曲掛止部23が同一であるとの判断をしているから,上記
支持部が「円形孔からなる支持部」であるとしても,第1次判決が認定
した上記同一性が否定されるものではない。
ところが,本件審決は,訂正発明1は,甲5の1発明とは,上記支持
部が「円形孔」である点において異なるとの判断をしている。この判断
は,上記の第1次判決の判断に反するものであるから,その拘束力に違
反する。
2請求原因に対する認否
請求原因(1)ないし(3)の事実は認めるが,(4)は争う。
3被告の反論
(1)取消事由1(本件訂正が違法であること)に対し
固定棚の先端の支持部の形状が「円形孔」であることは,訂正前明細書添
付の図1に実施例として記載されていたから,本件訂正のうち特許請求の範
囲請求項1につき「固定棚の先端の円形孔からなる支持部」とする訂正は,
新規事項の追加ではなく,特許請求の範囲を実質上変更するものでもない。
訂正後の発明が訂正前の発明を実質上変更したかどうかという判断は,そ
の訂正事項が明細書及び図面に記載されていたかどうかという点のみに基づ
いて行われるものであって,訂正後の発明を審決がどのように解釈したかと
いうことは問題にならない。
(2)取消事由2(訂正発明1と甲5の1発明との相違点の認定の誤り)に対

ア第1次判決は,甲5の1発明における「固定棚」には,右辺部材3と1
枚の基本板6の一体化されたものも含まれるとの判断をしているが,被告
は,「右辺部材3と1枚の基本板6の一体化された」構成を排除するため
に,「外管の伸縮方向に一定長を有する単一部材の固定棚」とする本件訂
正を行った。「右辺部材3と1枚の基本板6の一体化された」甲5の1発
明の「固定棚」は訂正発明1からは排除されている。
イ訂正発明1の構成では,外管を円形孔からなる支持部に挿通した後は,
外管をここから都合に応じて自由に抜き出すようなことは想定しておら
ず,円形孔からなる支持部から外管を抜き出すことをもって着脱自在であ
るという趣旨の原告の主張は,通常の用法からかけ離れた仮定に基づくも
のである。
また,原告は,甲5の1発明について,「固定棚を構成する基本板が右
辺部材3と一体化され,かつ,伸縮パイプ材4が左右辺部材2,3に橋架
状に連結された状態においては固定棚は伸縮パイプから,分離することは
できず,着脱自在ではない。」と主張しているが,そうであるとすると,
甲5の1発明では基本板は1種類しかないから,着脱自在な取替棚が存在
しないことになる。逆に,着脱自在であるとすると,甲5の1発明におけ
る基本板はすべて取替棚であるということができ,固定棚に該当する構成
は右辺部材であるということになる。
(3)取消事由3(訂正発明1と甲5の1発明との相違点の評価の誤り)に対

本件審決に原告が主張する誤りはない。
(4)取消事由4(第1次判決の拘束力違反)に対し
第1次判決は,訂正前発明1~3に対して判断された第1次審決に違法が
あったかどうかを判断したものであり,その後に訂正された訂正発明1~3
について判断したものではない。本件審決は,訂正発明1~3についての判
断を行ったものであり,しかも,明らかに第1次判決の判断を覆すような判
断を行っているところはないから,本件審決が第1次判決の拘束力に違反す
ることはない。
第4当裁判所の判断
1請求原因(1)(特許庁等における手続の経緯),(2)(発明の内容),(3)
(本件審決の内容)の各事実は,当事者間に争いがない。
2取消事由1(本件訂正が違法であること)について
(1)原告は,本件訂正のうち特許請求の範囲請求項1につき「固定棚の先端
の円形孔からなる支持部」とする訂正は,新規事項の追加又は特許請求の範
囲の記載を実質的に変更するものに該当するから違法である,と主張する。
(2)訂正前明細書(甲2)には,「固定棚の先端の支持部」に関し,「…固
定棚の外管に対する支持部は,外管を摺動するため,固定棚の支持高さは一
定に保たれ,常に水平に支持される。…」(段落【0007】),「3は,
外管2aの伸縮方向に一定長を有する固定棚であって,その後方に設けた取
付孔3aに内管2b側の支脚1bを嵌入すると共に,前方に設けた支持部3
bに対して外管2aを摺動可能に挿通して,水平に支持したものである。即
ち,当該固定棚3は,内管2b側の支脚1bから外管2aにかけて水平に支
持され,外管2aに対する支持部3bは当該外管2aの伸縮に応じて摺動自
在に支持されている。」(段落【0011】),「上記固定棚3において,
内管2bの一端は嵌入孔3cに固定されている。又,外管2aの内管2a挿
通側の先端には,固定棚3の外管支持部3bと当接可能な抜止部2cを設け
て,外管2aが不用意に内管2bから抜けないようにすると共に,外管2a
の最大伸長を規制している。つまり,外管2aの伸縮範囲Lは,固定棚3の
支持部3bから内管2bの嵌入孔3cの開口先端までの範囲であって,この
伸縮範囲Lに見合って置棚の全長を適宜調整することができる。」(段落【
0012】)と記載されており,「固定棚の先端の支持部」は,「外管2a
を摺動可能に挿通」するものであって,「外管2aの内管2a挿通側の先端
に」設けられた「抜止部2c」と当接して,外管が不用意に抜けないように
されているものであると認められるものの,訂正前明細書には,当該「支持
部」が円形孔からなるものであることを明記する記載はない。
しかしながら,訂正前発明の実施例の図面である訂正前明細書添付の図1
(甲2)には,固定棚3の外管2aが挿通される部分の下側にも壁面が存在
することが見てとれる。上記図1は「固定棚の先端部に円形の孔が設けら
れ」ていることを明確に示すものではないとの原告の主張は採用できない。
そして,「固定棚の先端の支持部」が「円形孔」からなるのであれば,
「該固定棚は棚受用横桟から分離することはできず,着脱自在ではない」こ
とになることは,明らかであるから,「該固定棚は棚受用横桟から分離する
ことはできず,着脱自在ではない」ことは,すでに,訂正前明細書及び上記
図1に開示されていたということができる。
したがって,本件訂正のうち特許請求の範囲請求項1につき「固定棚の先
端の円形孔からなる支持部」とする訂正は,「該固定棚は棚受用横桟から分
離することはできず,着脱自在ではない。」という発明的特徴を有すること
を含めて,願書に添付した明細書又は図面に記載した事項の範囲内のもので
あるということができる。
また,本件訂正前の「固定棚の先端の支持部」が「固定棚の先端の円形孔
からなる支持部」を含む概念であることは明らかであるから,本件訂正のう
ち特許請求の範囲請求項1につき「固定棚の先端の円形孔からなる支持部」
とする訂正は,特許請求の範囲の減縮を目的とするものであると認められ
る。
以上述べたところからすると,本件訂正のうち特許請求の範囲請求項1に
つき「固定棚の先端の円形孔からなる支持部」とする訂正は,実質上特許請
求の範囲を拡張し,又は変更するものということもできない。
よって,本件訂正は,適法である。
(3)原告は,本件審決は,訂正発明1について「該固定棚は棚受用横桟から
分離することはできず,着脱自在ではない。」という発明的特徴を有するこ
とを認定しているところ,このような発明的特徴を有することは,訂正前発
明の技術思想には含まれていないから,本件訂正のうち特許請求の範囲請求
項1につき「固定棚の先端の円形孔からなる支持部」とする訂正は,新規事
項の追加又は特許請求の範囲を実質的に変更するものに該当すると主張する
が,この主張が採用できないことは,上記判示のとおりである。
また,原告は,第1次判決が訂正前明細書の記載に基づいて「固定棚」の
支持部の作用効果と認定したのは,「当該固定棚の先端の支持部に対して…
外管をその伸縮に応じて摺動自在に挿通して該固定棚を水平に支持」するこ
とであって,「該固定棚は棚受用横桟から分離することはできず,着脱自在
ではない。」ということではないから,本件訂正のうち特許請求の範囲請求
項1につき「固定棚の先端の円形孔からなる支持部」とする訂正は,第1次
判決の認定した事実にも反する違法なものであると主張する。しかし,第1
次判決は,訂正前明細書の記載に基づいて上記のように認定したものにすぎ
ず,そのことによって,上記のとおり訂正の要件を充足する本件訂正をする
ことが妨げられるものではない。
3取消事由2(訂正発明1と甲5の1発明との相違点の認定の誤り)について
(1)原告は,本件審決は「甲5の1発明では,固定棚が右辺部材と着脱自在
な基本板を2枚以上連結して一体としたものである」旨の認定をしている
が,第1次判決の認定によると,甲5の1発明においても,固定棚として
「右辺部材3と1枚の基本板6の一体化されたもの」が存在するから,本件
審決の上記認定は誤りであると主張する。
(2)第1次判決(甲4の1)は,訂正前発明1の「固定棚」について,「本
件発明1(判決注訂正前発明1)の『固定棚』に関する…請求項の記載及
び本件明細書(判決注訂正前明細書)の記載を検討すると,固定棚を複数
部材から構成することを積極的に排除する記載は認められず,かえって,段
落【0016】には,『適用しようとする収納空間に応じて,外管2aの長
さや,その伸縮範囲,すなわち固定棚3の長さを変更できることはもちろん
である。』とも記載されている。これらに照らせば,本件発明1において
は,『固定棚』につき,複数部材により構成して長さを変更することができ
るようにすること,すなわち伸縮範囲を変更可能な構成を採用することが排
除されているものとはいえない…。したがって,本件発明1の『固定棚』
は,(一体成型されるなどした)単一の部材からなるものに限定されてはい
ないというべきであって,…引用発明1(判決注甲5の1発明)における
右辺部材3と1枚又は複数枚の基本板6の一体化されたもの(引用例1〔判
決注甲5の1公報〕の図2,6,10の例では,右辺部材3と右側及び中
央の2枚の基本板6とが一体化されたもの)も含まれるというべきであ
る。」(17頁20行~18頁10行)と判示しているから,第1次判決
は,甲5の1発明において「右辺部材3と1枚の基本板6の一体化されたも
の」も訂正前発明1の「固定棚」に当たる旨の認定をしているということが
できる。
ところで,本件審決は,甲5の1発明「では,固定棚が右辺部材と着脱自
在な基本板を2枚以上連結して一体としたものである」旨の認定をしている
(10頁下から4行~2行)。本件訂正がされたからといって,一致点,相
違点の判断において,甲5の1発明の「右辺部材と着脱自在な基本板を2枚
以上連結して一体としたもの」が訂正発明1の「固定棚」に相当し,「右辺
部材と着脱自在な基本板を1枚連結して一体としたもの」が訂正発明1の
「固定棚」に相当しないというべき理由はないから,本件審決の上記認定は
第1次判決の上記認定に反するといわざるを得ない。
しかし,甲5の1発明における右辺部材3と1枚の基本板6が一体化され
たものは,右辺部材3と1枚の基本板6という二つの部材から成っており,
右辺部材3と複数枚の基本板6が一体化されたものは,右辺部材3と複枚の
基本板6という三つ以上の部材から成っているから,「単一部材」から成る
ものでないことは明らかである。したがって,これらの甲5の1発明におけ
る右辺部材3と基本板6が一体化されたものは,「単一部材」から成る訂正
発明1の「固定棚」とは,「単一部材」から成るかどうかという点において
相違することは明らかである。また,訂正発明1と甲5の1発明は,「固定
棚の先端の支持部」が「円形孔」であるかどうかという点においても,相違
する(後記(3)参照)。
そして,これらの相違点があることによって訂正発明1に進歩性が認めら
れることは,後記4のとおりであるから,本件審決には,結論に影響を及ぼ
す誤りがあるということはできない。
(3)原告は,訂正発明1において,固定棚が「支脚間に棚受用横桟を架橋し
た状態では棚受用横桟から分離することはできず,着脱自在ではない」の
は,「固定棚の先端の円形孔からなる支持部」に起因するのではなく,支脚
間に棚受用横桟が架橋されたことに起因するのであり,このことは,甲5の
1発明においても同様であると主張する。
しかし,訂正発明1においては,「支脚間に棚受用横桟を架橋すること」
は,その構成となっているものの,その架橋する態様は限定されていない。
したがって,例えば,①4本の支脚を,両側の固定棚に設けた取付孔に嵌入
するとともに,その固定棚に設けた嵌入孔に2本の棚受用横桟を嵌入して固
定するという構成のもの(訂正明細書[甲7,乙4]の「発明の実施の形
態」段落【0010】~【0012】に記載されているような態様のもの)
でも,②4本の支脚を,両側の固定棚に設けた取付孔に嵌入するとともに,
4本の支柱に設けた嵌入孔に2本の棚受用横桟を嵌入して固定するという構
成のものでも,訂正発明1に含まれる。上記①のものでは,「固定棚の先端
の円形孔からなる支持部」がなくとも,固定棚は「支脚間に棚受用横桟を架
橋した状態では棚受用横桟から分離することはできず,着脱自在ではない」
が,上記②のものでは,「固定棚の先端の円形孔からなる支持部」がないと
すると,固定棚は,支脚間に棚受用横桟を架橋した状態でも,棚受用横桟か
ら分離することができるから,固定棚が「支脚間に棚受用横桟を架橋した状
態では棚受用横桟から分離することはできず,着脱自在ではない」のは,
「固定棚の先端」を「円形孔からなる支持部」としたからであるということ
ができる。このように,訂正発明1においては,「固定棚の先端」を「円形
孔からなる支持部」とすることによって,「支脚間に棚受用横桟を架橋す
る」態様がどのようなものであっても,「支脚間に棚受用横桟を架橋した状
態では棚受用横桟から分離することはできず,着脱自在ではない」ものとな
っている。
これに対し,甲5の1発明では,甲5の1公報に,「そして,この一の基
本板6の櫛歯状突出部8…を,隣り合う他の基本板6の差込孔部10…に,
(図8に示す如く)差込深さ調整可能(スライド移動可能)に差込み,基本
板6を2枚以上順次連結して平面板状に伸縮棚板部5が形成されている。」
(段落【0016】),「また,基本板6の前後,つまり,平板部7前後部
の両側面に弯曲鍔状の弯曲掛止部23,23が設けられ,この弯曲掛止部2
3,23にて一対の伸縮パイプ材4,4を抱えるようにして引っ掛けて,伸
縮棚板部5が載置状に支持されている。」(段落【0017】),「また,
図1と図2に示す如く,一対の伸縮パイプ材4,4に支持される伸縮棚板部
5は,その両端部である左右の基本板6,6の短突出部9…と突出部8…と
を,(上述の)左辺部材2の嵌合受部24…と右辺部材3の嵌合受部24…
に嵌め込んで支持固定されている。これによって,伸縮棚板部5が受ける重
い荷重に対して,十分耐えることができる強度を得ることができる。また,
伸縮棚板部5が,不意に伸縮パイプ材4,4から外れたり,横ずれしないの
で,伸縮棚板部5が所望の長さに維持される。かつ,上述のように全体左右
長さを調節した基本板6…の寸法と,左右辺部材2,3の間隔寸法の僅かの
差を吸収できる。」(段落【0023】),「また,同じ形状の基本板6を
利用することができるので,製作が容易である。また,所定枚数の基本板6
…からなる伸縮棚板部5にて伸縮調整可能であるが,基本板6の枚数を増減
することによって,より伸縮調整範囲を広げることができ,より設置スペー
スや整理する物品の量に対応した棚を設けることができる。」(段落【00
35】)と記載されていることから明らかなように,①基本板6は,2枚以
上を順次相互に櫛歯状突出部8を差込孔部10に差し込むことで一体化され
て伸縮棚板部5を形成すること,②基本板6の両側面には弯曲鍔状の弯曲掛
止部23,23が設けられており,伸縮パイプ材を抱えるようにしてに引っ
掛けて,載置・支持されること,③柱部材1,1に固着された左辺部材2,
右辺部材3に隣接する基本板6,6は,短突出部9…あるいは突出部8…と
を,左辺部材2の嵌合受部24…あるいは右辺部材3の嵌合受部24…に嵌
め込んで支持固定されているものであることが認められるから,訂正発明1
の「固定棚」(の一部)に相当する基本板6は,伸縮パイプ材から着脱自在
であるということができる。
したがって,訂正発明1においては,固定棚が「支脚間に棚受用横桟を架
橋した状態では棚受用横桟から分離することはできず,着脱自在ではな
い。」のに対し,甲5の1発明では,着脱自在であるという違いがあり,そ
のような違いがあると認定した本件審決の判断に誤りがあるということはで
きない。
4取消事由3(訂正発明1と甲5の1発明との相違点の評価の誤り)について
(1)原告は,訂正発明1の「適用しようとする収納空間に応じて,外管2a
の長さや,その伸縮範囲を調整し,収納空間の寸法に応じて置棚のサイズを
調整」するという作用効果は,「単一部材」としたことによって生ずるもの
ではないから,甲5の1発明の固定棚を複数の基本板を使用して構成したと
しても,「外管の伸縮範囲を調整し,収納空間の寸法に応じて置棚のサイズ
を調整する」という「固定棚」の作用効果において,訂正発明1と何ら異なる
ところはないと主張する。
(2)しかし,上記3(3)認定の甲5の1公報の記載からすると,甲5の1発明
の基本板6については,①基本板6の相互間の差込深さを調整することで伸
縮棚板部5の全長が調整できること,②基本板6を同じ形状のものとするこ
とで製作が容易となることが認められる。
甲5の1発明の右辺部材3と1枚の基本板6が一体化されたものを「固定
棚」と考えた場合には,基本板6自体の長さを変えることによって,固定棚
の長さを変えることができるが,基本板6は,取替板としても使用される。
そうすると,固定棚の長さとしては適切な長さでも,取替板としては適切な
長さではない(長すぎる又は短すぎる)ということが起こり得るから,取替
板としても適切な長さという制約があり,固定棚の長さを自由に設定できる
というものではない。また,甲5の1発明の右辺部材3と複数の基本板6が
一体化されたものを「固定棚」と考えた場合には,上記のとおり,基本板6
の相互間の差込深さを調整することで伸縮棚板部5の全長が調整できるか
ら,基本板6自体の長さを変えなくても,固定棚の長さを変えることができ
るが,その場合には,固定棚の長さを変えることができるのは,差込深さを
調整することができる範囲に限られることになるから,固定棚の長さを自由
に設定できるということはない。
これに対し,訂正発明1では,「固定棚」は,甲5の1発明の右辺部材3
に相当する部分を含む「単一部材」で構成され,かつ,前記のとおり「固定
棚の先端の支持部」が「円形孔」からなっていることにより「支脚間に棚受
用横桟を架橋した状態では棚受用横桟から分離することはできず,着脱自在
ではない」から,「取替板」とは別個の形状のものであることが明らかであ
る。そのため,訂正発明1では,固定棚の長さの設定に上記の甲5の1発明
のような制約はなく,固定棚の長さを自由に設定することができるから,
「適用しようとする収納空間に応じて,外管2aの長さや,その伸縮範囲を
調整し,収納空間の寸法に応じて置棚のサイズを調整」するという,甲5の
1発明にはない作用効果を奏することができる。
このように,訂正発明1は,作用効果において,甲5の1発明とは異なる
ものである。
そして,甲5の1発明において訂正発明1の「固定棚」に相当する「右辺
部材3と基本板6が一体化されたもの」を「単一部材」で構成すると,それ
を「取替板」として使用できないことになるから,甲5の1発明における
「右辺部材3と基本板6が一体化されたもの」を「単一部材」で構成するこ
とには阻害要因がある。また,甲5の1発明における「右辺部材3と基本板
6が一体化されたもの」の基本板6の「先端の支持部」を「円形孔」とする
と,やはり,それを「取替板」として使用できないことになるから,甲5の
1発明における「右辺部材3と基本板6が一体化されたもの」の基本板6の
「先端の支持部」を「円形孔」とすることにも阻害要因がある。
したがって,「訂正発明1は,甲5の1発明であるとすることも,甲5の
1発明に基づいて当業者が容易に発明をすることができたものであるとする
こともできない」旨の本件審決の判断は,正当として是認できる。
5取消事由4(第1次判決の拘束力違反)について
(1)原告は,第1次判決は,訂正前発明1の「固定棚」について,単一の部
材又は複数部材からなる構成を前提とした上で,甲5の1発明の「右辺部材
3と1枚又は複数枚の基本板6の一体化した固定棚」とは,同一のものであ
ると判断しているにもかかわらず,本件審決は,「単一部材」から成る訂正
発明1の「固定棚」は,甲5の1発明の「右辺部材3と1枚又は複数枚の基
本板6の一体化した固定棚」とは異なるとの判断をしているから,第1次判
決の拘束力に違反すると主張する。
また,原告は,第1次判決は,訂正前発明1の「固定棚の先端の支持部」
が「円形孔からなる支持部」であることを前提として,訂正前発明1の上記
支持部と甲5の1発明の基本板6の弯曲掛止部23が同一であるとの判断を
しているから,上記支持部が「円形孔からなる支持部」であるとしても,第
1次判決が認定した上記同一性が否定されるものではないところ,本件審決
は,訂正発明1は,甲5の1発明とは,上記支持部が「円形孔」である点に
おいて異なるとの判断をしており,この判断は,第1次判決の拘束力に違反
すると主張する。
(2)第1次判決(甲4の1)は,前記3(2)の判示に続いて,次のような判示
をしている。
「(d)次に,本件請求項1(判決注本件訂正前の特許請求の範囲請求項
1)のいう『当該固定棚の先端の支持部に対して外管をその伸縮に応じて摺
動自在に挿通して該固定棚を水平に支持し』との点について検討する。
本件請求項1の記載によると,『固定棚』については,『上記外管の伸縮
方向に一定長を有する固定棚は,その後方裏面に設けた取付孔に内管側の支
脚を嵌入するとともに,当該固定棚の先端の支持部に対して上記外管をその
伸縮に応じて摺動自在に挿通して該固定棚を水平に支持し,所定枚数の取替
棚を前後の外管上に掛止した』と記載されており,『固定棚』は『当該固定
棚の先端の支持部に対して上記外管をその伸縮に応じて摺動自在に挿通し』
たことで,『水平に支持』されることと,『所定枚数の取替棚を前後の外管
上に掛止』されることが特定されているということができる。そして,その
『摺動自在』の特定からみて,外管の伸縮に際して『固定棚の先端の支持部
』と『外管』とが接触状態を維持しているものであって,これにより外管と
固定棚の位置関係,特に高さ関係が保持されているものと認められる。
一方,引用例1(判決注甲5の1公報)においては,基本板相互が結合
されるものとして記載されており,例えば,図2,6,10(基本板の櫛歯
状突出部を隣の基本板の差込孔部に深く差し込んだ図6の場合がより典型的
である。)の場合,右側の基本板6における湾曲掛止部23(図2,10に
は湾曲掛止部23の指示はないが,図6にはある。)は,伸縮パイプ材4の
内筒16の上方に位置するものであって,外筒15に掛止するものではな
い。次に,図2,6,10の中央の基本板6は,前記突出部8と差込孔部1
0との差込結合構成によって,右側の基本板6と一体化されていることか
ら,右辺部材3とこれらの2枚の基本板6は,前記のとおり,全体として一
体の固定棚と呼び得るものである。そして,中央基本板6の湾曲掛止部23
は,伸縮パイプ材4の外筒15を抱えるように接している状態となっており
(図1,4も参照。),上記のように差込結合構成によって一体化されてい
るのであるから,中央基本板6の湾曲掛止部23で外筒15を抱えるように
接している部分は,固定棚の先端であるといえ,これに対して外筒15がそ
の伸縮に応じて摺動自在となっていることが認められる(図1,2,4,
6,10)。
『固定棚の先端の支持部』の形状については,本件明細書(判決注訂正
前明細書)に添付の図1の図示(3b部分の断面)をみると,判然とはしな
いが,固定棚の先端部に円形の孔が設けられ,外管がこの孔を通っているか
のように見える。しかし,上記図1の形状は,実施例の記載にすぎず,本件
発明1(判決注訂正前発明1)の請求項の記載においては,その形状につ
いて,『挿通して』とされている点を除き,何らの限定もされていない。ま
た,本件明細書の発明の詳細な説明欄における記載も同様である。そして,
『挿通』の意義について,本件明細書では,特に定義付けがされているわけ
ではない。そこで,『挿通して』すなわち『挿し通す』の語義についてみる
に,『挿す』という語は,『あるものを他のものの中にさしはさむ』との意
味を有するものであり(広辞苑第5版),『通す』の語を付加しても,この
基本的な意味合いに変わりはない。すなわち,『挿通して』とは,『さしは
さむ』ものであって,必ずしも,あるものの周囲を他のものによって完全に
取り囲まれた状態で通す(本件に即していえば,円形の孔に通す)という意
味に限定されるものではない。したがって,本件発明1の『固定棚の先端の
支持部』の形状も上記の意味のものであれば足りるというべきである。
そこで,引用発明1(判決注甲5の1発明)の基本板6の湾曲掛止部2
3をみると,引用例1…の図1,2,4,6,10(特に図4)に見られる
ように,円形の一部が開放された断面形状ではあるものの,外管の外面形状
にすき間なく接するように断面が円を描くように曲がった形状をし,基本板
6の両側面にある各湾曲掛止部23により2本の各外管を両側面から同時に
抱えるようにして支えているのであって,その形状等からして,湾曲掛止部
23を通る外管は,湾曲掛止部との接触を維持したまま摺動自在となってい
るものと認められる。そうすると,引用発明1の上記中央基本板6の湾曲掛
止部23は,固定棚の先端の支持部の形状としても,本件発明1の構成のも
のであるというべきである。そして,上記認定に照らせば,固定棚を『水平
に支持』したものであることも明らかである。
(e)以上によれば,引用発明1は,本件発明1における固定棚を有する
ものというべきである。」(18頁11行~20頁11行)
(3)前記3(2)及び上記(2)の判示からすると,第1次判決は,訂正前発明1
の「固定棚」は,「(一体成型されるなどした)単一の部材からなるものに
限定されてはいない」との判断を前提として,甲5の1発明において「右辺
部材3と1枚又は複数の基本板6の一体化されたもの」が「固定棚」に当た
る旨の判断をしていることが明らかである。したがって,第1次判決は,
「固定棚」が「(一体成型されるなどした)単一の部材からなるものに限定
された」場合については,判示しておらず,その場合において,訂正発明1
の「固定棚」は,甲5の1発明の「右辺部材3と1枚又は複数枚の基本板6
の一体化した固定棚」とは異なるとの判断をすることは,第1次判決の拘束
力に違反するものではない。
(4)上記(2)の判示からすると,第1次判決は,訂正前発明1の「固定棚の先
端の支持部」の形状が「円形孔」に限られないことを前提として,訂正前発
明1と甲5の1発明を対比し,訂正前発明1の上記支持部と甲5の1発明の
基本板6の湾曲掛止部23が同一であるとの判断をしていることが明らかで
ある。したがって,第1次判決は,上記支持部の形状が「円形孔」に限られ
る場合については,判示しておらず,その場合において,訂正発明1が,甲
5の1発明とは,上記支持部の形状が「円形孔」である点において異なる旨
の判断をすることは,第1次判決の拘束力に違反するものではない。
6以上の次第で,原告主張の取消事由は,いずれも認められないから,原告の
請求を棄却することとして,主文のとおり判決する。
知的財産高等裁判所第2部
裁判長裁判官中野哲弘
裁判官森義之
裁判官田中孝一

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