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平成19年7月18日宣告
平成19年わ第196号,第367号,第518号建造物侵入,窃盗被告事()

主文
被告人を懲役3年に処する。
未決勾留日数中90日をその刑に算入する。
本件公訴事実中,平成19年5月10日付け起訴状の公訴事実
第4記載の,被告人が金品窃取の目的で平成19年1月23日,
A病院長が看守する同病院内に侵入し,同病院病室において,B
所有又は管理に係る金品を窃取したとの建造物侵入,窃盗の点に
つき,被告人は無罪。
理由
(罪となるべき事実)
,,(「」。)「」被告人は金品窃取の目的で別紙一覧表以下別表という侵入日時
欄記載のとおり平成19年1月6日午後3時ころから同年2月5日午前10時3,
0分ころまでの間,前後6回にわたり「看守者」欄記載の者が看守する「犯行場,
」,「」,所欄記載の各建物に見舞客を装って侵入場所欄記載の表玄関等から侵入し
窃取時刻欄記載の各時刻ころ窃取場所欄記載の各病室において被害金「」,「」,「
品欄記載のとおりCら所有又は管理に係る現金合計約12万円及びショルダー」,
()。バッグ等物品合計65点時価合計約8万4790円相当を窃取したものである
(累犯前科)
被告人は平成16年4月22日D簡易裁判所で窃盗未遂窃盗罪により懲役2,,
年6月に処せられ平成18年8月13日その刑の執行を受け終わったものであっ,
て,この事実は検察事務官作成の前科調書(乙16)によって認める。
(法令の適用)
被告人の判示各所為は別表の各番号ごとに建造物侵入の点はいずれも刑法1,,
30条前段に窃盗の点はいずれも同法235条にそれぞれ該当するところ各建,,
造物侵入と各窃盗との間にはいずれも手段結果の関係があるので同法54条1項,
後段10条によりそれぞれ1罪として重い各窃盗罪の刑で処断することとし各,,
所定刑中判示いずれも懲役刑を選択し被告人には上記の前科があるので同法56,
条1項57条により判示各罪についてそれぞれ再犯の加重をし以上は同法45,,
条前段の併合罪であるから同法47条本文10条により犯情の最も重い判示別,,
表第6の罪の刑に法定の加重をした刑期の範囲内で被告人を懲役3年に処し同法,
21条を適用して未決勾留日数中90日をその刑に算入し訴訟費用は刑事訴訟,,
法181条1項ただし書を適用して被告人に負担させないこととする。
(一部無罪の理由)
1公訴事実の要旨及びこれに対する弁護人の主張等
,(,本件各公訴事実中平成19年5月10日付け起訴状の公訴事実第4以下
この項において本件という記載の事実の要旨は被告人が金品窃取の「」。),「,
目的で平成19年1月23日午後零時ころ兵庫県宝塚市ab丁目c番d号所,,
在のA病院長が看守する同病院内(以下「本件病院」という)に,見舞客を装。
って侵入し同日午後2時ころ同病院東病棟4階413号室においてB所有,,,
又は管理に係る現金4000円及び小銭入れ1個等8点在中のポシェット1個を
窃取した」というものである。
これに対し弁護人は本件の事件性は争わない上で被告人が行ったもので,,,
,,。,はない旨主張し被告人も公判廷においてはこれに沿う供述をするところで
本件は被告人の捜査段階の自白を除いた場合被告人が本件前後本件病院や,,,
その周辺病院において同種犯行を繰り返していた等の関係証拠により認められ,
る間接事実を総合しても被告人の犯行であると認めるには足りずその認定の,,
,。,,可否は専ら被告人の捜査段階の自白の信用性に係ることになるよって以下
この点について検討する。
2前提となる事実
関係証拠によると,以下の事実が認められる。
被告人の生活状況及び本件前後の犯行状況等(1)
被告人は,病院の病室から金品を窃取した窃盗罪(未遂を含む)の前科8。
犯があり平成18年8月に前刑による服役を終えた後生活保護を受給し始,,
,,,,めたものの同年12月ころ隠していた貯金が役所に発覚したため以後
受給額が減額されるなどの措置がとられることになったそのためこのまま。,
では生活できないなどと考えた被告人は病院盗を再開することにし平成1,,
9年1月(以下,平成19年については年の記載を省略する)以降,判示認。
定の各犯行を繰り返した。
他方本件の被害状況は1月22日から本件病院に入院していたBが病,,,
,室に備付けのロッカーにポシェットと小銭入れを入れて施錠していたところ
同月26日朝同ロッカーを見てみると鍵があいておりポシェットと小銭,,,
入れがなくなっていたというものである(同人作成の同日付け被害届。甲4
1。同被害届では,被害の日時は同月23日午後零時ころから同月26日午)
前8時ころまでの間であり鍵はそれまで同ロッカーのすぐそばに置いてい,,
たとされている。
被告人は2月5日判示別表第6の犯行を行った後更に同日夕方別の,,,,
病院付近で同病院警備員に呼び止められて警察に通報され任意同行の末翌,,
日,同犯行により逮捕された。
被告人の捜査段階の自供状況等(2)
ア自供書
,,,「」被告人は上記逮捕に続く身柄拘束中余罪に係る78通の自供書
を順次作成したそのうち本件病院を犯行場所とするものとしては2月。,,
()()(,28日付け弁5及び3月26日付け弁8のもの2通がある以下
順に「自供書①「自供書②」という。自供書①は「平成19年1月2」,。),
3日ごろA病院の病院床頭台引き出しで黒色カバン男物長財」,「」,「(),
布3∼4万円保健証印鑑鍵カードなど」を盗み「現金以外は近く,
の川に捨てましたなどと自供書②は私は今年1月21日の午前中A。」,,「
病院の6階くらいの病室の床頭台の引き出しからカバンを盗みましたカ,。
バンの中には現金2∼3万円位財布や免許証保険証などが入っていまし
た。現金以外は近くの川に捨てました」などと記載されている。。
イ供述調書
(。,被告人の警察官に対する3月30日付け供述調書6丁のもの乙33
38)には「私自身,今年の1月にいくつもの病院で盗みを繰り返してい,
ますがそのうち一つの病院で2回盗みを成功させた記憶があるのです…,。
自分なりに記憶を整理するとどうもこのA病院で2回の盗みを成功させ,,
た様な気がするのです…別の病院での盗みなどを考えるとこのA病院で。,
の盗みが今年1月21日ころから1月23日ころの間にわたりこの病院の,
別々の病室から2回盗みをしている様な記憶があるのですというのもE。,
病院でやった盗みから10日近く経ったころの盗みであった感じでしばら,
く盗みが成功しておらず久しぶりに盗みが成功して自分なりに気を良く,,
して2日後位にこの病院に出かけて再び盗みをした記憶があるのですこ,。
の病院…で初めにした盗みは確か6階くらいの病室2回目の盗みは確か4,
階くらいの病室であった様に思い自供書にもそのように書いた次第です」。
などと記載されている。
次に同日付け警察官に対する供述調書5丁のもの乙39ではA,(。),「
病院での2回目の盗み…ですがこの1回目の盗みの2日後…1月23日に,
しでかした盗みだと思いますこのときの盗みは午後からであった様な気。,
がします「病院には,正面玄関から入りましたが,このときの時間が午。」,
後0時ころになっていたと思います私は昼食どきだったので…小一時。,,
間時間をつぶし…午後1時になったので…各階の病室をくまなく物色して,
歩き回りました「物色を始めてから,1時間くらい経ったころ,たぶん。」,
3∼4階の3∼4人部屋の病室で患者が不在のベッドを見つけたのですこ。
,,の床頭台の引き出しや開き戸を開けて中に置いてあったカバンを見つけ
すかさずこのカバンを上衣の内側に隠し,病院を離れて階段で1階まで降
り,正面玄関から外に出て逃げました「そして,…盗んだカバンの中見。」,
を確認したところ現金5000円くらい在中の財布と健康保険証などが入,
っていました「私がこのうち現金のみ抜き取り,他の物は全て病院の南。」,
側に東西に延びる川に投げ捨てました「盗みの目的は現金であり,他の。」,
,,,品物については興味が無く…盗んだカバンの特徴などについては正直
あまりよく覚えていないのですが,女物であったような気がします「私。」,
自身盗みをしたカバンの在中品を全て覚えていませんが今言われた品,,,
,。」物が入っていた様な気もしますので私がやった盗みに間違いありません
などと記載されている。
また4月24日付け検察官に対する供述調書乙40において自供,(),
書作成の経緯につき「自供書を書いたとき,記憶に残っていたことを正直,
に書面に書きました自供書を書く前に警察官から被害届を見せてもらった。
ことはありませんし警察官から病院での盗みの情報を聞いたこともありま,
せんでした私の覚えていたことを正直にありのまま書面に書いたのが提。,
出している5枚の自供書です」などと記載されている。。
さらに,5月1日付け検察官に対する供述調書(乙41)において「1,
,。,月21日の時は床頭台の引出の中にあったかばんを盗みました中に現金
,,,男性の運転免許証保険証カード類が入っていたことは覚えていますが
,,。,印鑑通帳鍵などが入っていたことは覚えていません1月23日の時も
床頭台の引出の中にあったかばんを盗みました。かばんに入っていたもの
は現金保険証カード類だったと覚えていますこれまでA病院での2,,,。
回の盗みについて少し勘違いして話している部分があります1回目の時,。
,。は男物のかばんで2回目の時は女物のかばんであることが分かりました
印鑑や鍵が入っていたのは男物のかばんの方だったと思います同じA病,。
院で盗みをした日も2日間しか空いていなかったので1回目と2回目の時,
のことが少しこんがらかっていたのだと思います」などと記載されている。
(,「」。)。以下本件を自認する捜査段階での供述を総称して自認供述という
なお被告人は捜査段階において3月5日同月15日4月4日同,,,,,,
月20日にそれぞれ弁護人と接見をしその際取調べでは自分がしていな,,
いことを認めてはいけない旨アドバスを受けている。
被告人の起訴後の供述状況等(3)
本件は5月10日4件の窃盗別表番号1245の各事実とと,,(,,,)
。,,,もに起訴された被告人は5月21日の弁護人との接見において弁護人に
本件を行っていない旨話し同起訴に係る各事実が最初に審理された第3回公,
判において本件のみを否認し以後被告人質問においても否認供述を続け,,,
ているその要旨は自供書①②はいずれも本件の2日前に行った本件病。,,,
院での別の侵入盗である別表番号4の事実についてのものである自供書の犯,
,,,行日は明確な記憶があるわけでなく全て勘で書いている本件を認めたのは
警察官から自供書①と本件の被害届の日にちとが合っているし自分がやっ,,
たのではないかとしつこく言われたため1件ぐらいどうでもいいと思う気持,
ちになったからである自供書②はその後警察官に日にちだけ21日に,,,,
,,,変えてくれと言われて書いたものである検察官に対しても同様の思いから
本件は自分がしたと認めていた1月23日は自宅にいたため宝塚市には行,,
っていないと思う,などというものである。
3自認供述の信用性
自認供述自体の検討(1)
自認供述にはその採取過程に少なくとも任意性を疑わせる事情は見当たら,
ず弁護人も供述調書の任意性は争わない特に各供述調書には本件の被(。),,
害品や被害状況との間には明らかな矛盾はなく本件前後被告人が同種犯行,,
を繰り返していたこととも符合し自供書作成から検察官の取調べまで犯人性,
に係る部分は一貫しており被害金品に関する供述の変遷や短期間に同じ病院,
で窃盗を行ったことの理由についても一応の説明がされている加えて弁,。,
護人との上記の接見状況も併せ考えれば各供述調書はそれらのみを見る限,,
り,それなりの信用性が認められる。
しかし他方自認供述の端緒となった本件と同日の犯行を認めた自供書,,,
①においては本件が本件病院の何階で行われたかは記載されておらず窃取,,
金額が実際は4000円であるのに34万円としている点被害品は実際に,,
,,はポシェットと小銭入れであるのに男物の黒色カバンであるとしている点
窃取されていない印鑑や鍵まで盗んだと記載されている点等客観的事実と符,
合しない部分が多いそしてその理由につきいかに短期間に行われた同一。,,
病院での2回の犯行であるとはいえそれ以外の窃盗について比較的よく窃取,
品を記憶している被告人において単なる記憶の混同で説明し尽くせるか否か,
は疑問がある。
そのような観点から改めて各供述調書の内容を検討するといずれの供述,,
調書の内容も被害日時場所及び被害金品の情報さえあれば2日前に本件,,,
病院で窃盗を行っており同種犯行を繰り返している被告人において捜査官,,
の誘導に従って供述することが不可能とはいえない一方本件で特徴的な施,,
錠してあったロッカーから金品を窃取した状況について何ら言及されておら
,。,ず体験した者のみが語り得る臨場感を備えているとは評価し得ないさらに
被告人が川に捨てたとしている被害品も発見されておらずほかにいわゆる秘,
密の暴露と見られる供述も見当たらない加えて被告人の公判廷における供。,
述態度を見ると,被告人には,質問者に迎合する傾向さえうかがわれる。
以上の諸点からして自供書はもとより各供述調書の信用性にも疑いをい,,
れる余地があるそこで以下否認供述との対比において自認供述の信用性。,,
を判断するという視点から,否認供述を検討することとする。
否認供述の検討(2)
否認供述は検察官からの取調べにおいて本件病院で窃盗を2度した点を何,
度も確かめられてもなお自白を維持した理由につき「つい,うっかり」など,
,,,と述べるにとどまり得心のいく説明がないこと否認供述を前提とすれば
被告人はいわば捜査機関からぬれぎぬを着せられたことになるのに公判廷,,
でその点を問われても「不公平だと思う」などと控えめに述べるにとどまる。
ことなどにわかに了解できない点があるまた被告人が1月23日に自宅,。,
等にいた旨の供述も特段の裏付けはなく同日は別の病院に盗みに行ってい,,
る旨の被告人作成の自供書甲47の存在に照らしてもこれをそのまま信(),
用することはできない。
しかし否認供述は自供書①②の文面に符合し各供述調書の内容がや,,,,
や表層的であること捜査段階で被害金品について供述が変遷していることも,
。,,,よく説明し得るまたそこで述べる虚偽自白の理由も被告人の前科の数
内容や前刑出所後の同種犯行の回数実際に自供書を作成しながら起訴されて,
いない事案もあることなどからしてそれなりに理解できる反面逮捕直後から,
自白し複数の余罪の供述もしている被告人が本件についてのみ殊更その刑,,
責を免れようとする強い動機は見当たらないさらに短期間に同一病院で窃。,
盗に及んだ点につきいまだ本件についての被告人への捜査が本格化していな,
いと見られる2月11日の時点でも「盗みをした病院は,少し期間を置き,,
また盗みに行くようにしないと病院関係者に捕まったりする可能性が高くな,
るのです(乙7)と述べている。。」
以上の諸点に照らし,否認供述は,たやすく排斥することができない。
4小括
以上のとおり各供述調書を含め自認供述はその内容自体からも否認供,,,,
,。,述との対比の観点からも高度な信用性が認められるとはいえないしたがって
本件の上記証拠構造上被告人が本件を行ったことを認定するにはなお合理的,,
な疑いが残るといわざるを得ず結局被告人に対する本件に係る公訴事実につ,,
いてはその証明が不十分であって犯罪の証明がないことに帰着するから刑,,,
事訴訟法336条により無罪の言渡しをする。
よって,主文のとおり判決する(求刑懲役5年)。
平成19年7月18日
神戸地方裁判所第2刑事部
裁判官五十嵐浩介

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