弁護士法人ITJ法律事務所

裁判例


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         主    文
     本件上告を棄却する。
         理    由
 弁護人谷忠正の上告趣意第一点について。
 旧刑訴法事件にあつては、公判請求書に記載すべき犯罪事実は概括的な記載であ
つても記録と相まつて個々の犯罪事実を特定できれば足りること、また公判請求書
に記録編綴の司法警察官意見書記載の犯罪事実乃至司法警察官の事件送致書記載の
犯罪事実を引用しても差支えないことは、いずれも当裁判所の判例とするところで
ある(昭和二五年(れ)八三三号、同年一二月八日第二小法廷判決。昭和二四年(
れ)一二八五号、同二五年一〇月二五日大法廷判決。昭和二四年(れ)一二四三号、
同年一一月一日第三小法廷判決参照)。
 本件公判請求書を調べてみると、第三の犯罪事実として概括的に被告人の犯行を
記載したほか「追而司法警察官作成の意見書記載の犯罪事実一覧表参照せられたい」
と附記しているが、意見書には犯罪事実一覧表の添付なく、捜査報告書の末尾に犯
罪事実明細一覧表と題する書面が添付されていること所論の通りである。されば右
に意見書記載の犯罪事実一覧表とあるのは、捜査報告書に添付の犯罪事実明細一覧
表の誤記であつたことが窺われる。そして右の一覧表には明らかに被告人の犯した
各犯罪事実の記載があり、これと第三の犯罪事実の記載と相まつて個々の犯罪事実
を特定することができるのであるから、本件の起訴手続には何等違法の点はない。
起訴の違法を前提として原判決が憲法三一条に違反することを主張する論旨の採用
し難いことは明白といわねばならない。
 同第二点について。
 判例と相反する判断をしたことを理由として上告の申立をした場合には、上告趣
意書にその判例を具体的に示さなければならない(刑訴規則二五三条)。しかるに
論旨は原判決がいかなる判例と相反する判断をしたものであるかを具体的に明示し
ていないから、適法な上告理由として採用することができない。
 同第三点について。
 所論の弁償金受領証及び上申書はいずれも犯罪事実の存否の証明に関するもので
はなく、犯罪後の被告人の情状に関するものであつて、被告人側から裁判所に提出
したとしても、参考のため裁判所に一覧を求める趣旨にすぎないものであつたこと
を認めうるのであるから、これらの書類を本件記録に編綴しなくとも何等違法では
なく、況んや弁護権制限の問題など起りうる余地はない。論旨は理由がない。
 なお記録を精査しても、刑訴四一一条を適用すべき事由は認められない。
 よつて刑訴施行法三条の二、刑訴四〇八条に従い、主文の通り判決する。
 この判決は裁判官全員一致の意見である。
  昭和二六年七月一七日
     最高裁判所第三小法廷
         裁判長裁判官    長 谷 川   太 一 郎
            裁判官    井   上       登
            裁判官    島           保
            裁判官    河   村   又   介

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