弁護士法人ITJ法律事務所

裁判例


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         主    文
     本件上告を棄却する。
     上告費用は上告人等の負担とする。
         理    由
 上告人両名指定代理人原矢八の上告理由第一点について。
 裁判上の自白は相手方の同意がない限り、その自白された事実が真実に反し、且
つその自白が錯誤に基ずいてなされたものであることが立証された場合でなければ
これを取消すことを得ないものと解するのを相当とする。
 記録によれば上告人等は第一審において本件土地は全部被上告人B1の所有に属
する小作地であつて昭和二〇年一一月二三日現在同人が不在地主であるとの理由で
上告人E農地委員会がいわゆる遡及買收計画を定めたものであるとの相手方主張の
事実を認めながら、第二審において本件土地の内ab番田三畝二五歩中二畝六歩は
現況宅地であつてその賃借人たるFの請求により上告人E農地委員会において自創
法一五条により買收計画を定めたものである旨主張するに至つたことを窺い知るこ
とができる。そして如何なる行政処分がなされたかということはもとより単なる事
実に外ならないのであるから自白の対象となり得ること勿論であり、前掲第一審に
おける相手方主張の事実を認めた上告人等の陳述が裁判上の自白に該当し、またこ
の自白された事実の一部に牴触する前掲第二審における上告人等の事実上の主張が
自白の一部取消を包含するものであることは多言を要しないところである。然るに
記録を精査しても、上告人等がかかる事実上の主張をなすことにつき相手方の同意
ありたることを窺い得べき証跡はなく、また前示自白が真実に反し且つ錯誤に基ず
いてなされたものであることの立証された形跡も認められないところであるから、
原審が所論上告人の事実上の主張を許すべからざる自白の一部取消として排斥した
のは正当であつて、論旨は理由なきものである。
 同第二点について。
 記録によれば、被上告人B2が本件土地につき上告人高知市E農地委員会の定め
た買收計画に対し自らは異議、訴願をなすことなく昭和二四年一月一二日直接本訴
を提起したものであることは所論のとおりである。しかし、被上告人B1が本件買
收計画に対して適法に異議、訴願をなし、上告人高知県農地委員会のなした訴願棄
却の裁決が昭和二三年一二月一日被上告人B1に送達された後(以上の点について
は本訴当事者間に争はない。)被上告人B2において右B1と共同し同一の請求原
因の下に本訴を提起したものであることも亦記録上明らかである。
 元来、訴願前置主義の意図するところは、行政処分に不服あるものをして裁判所
に出訴する前まず当該行政処分の当否につきこれを是正する権限ある行政庁に対し
て再考の機会を与え、その処分を是正せしめ、これによつて行政訴訟の提起を不必
要ならしめんとするに外ならない。然るに前示事実関係によれば、既に被上告人B
1の異議訴願により、本件買收計画については権限ある行政庁に対しこれを是正す
べきか否かに関して再考の機会は十分に与えられ、しかもその是正を得ることはで
きなかつたのであるから、仮りに他のものにおいて本件買收計画に対し右B1と同
一事由に基ずいて不服を申立てても右行政庁によるこれが是正を期待することは殆
んど不可能であろう。さすれば、本件買收計画について異議訴願をなした被上告人
B1が本件行政訴訟を提起し得る以上、被上告人B2においてたとえ自らは異議訴
願をしなかつたとしても、右B1とともに共同原告となり同一請求原因を主張して
本訴の提起に加わつたからとて、これを否むべき何等のいわれもないというべきで
ある。けだしこれによつて訴願前置主義の精神に背反するところはないからである。
そして本訴が行政事件訴訟特例法五条一項四項による法定の期間内に提起されてい
ることは前段説示するところにより明白であるから、被上告人B2の本訴の提起に
所論のような違法があるとはいい得ない。論旨は理由なきものである。
 同第三点について。
 原審の事実認定は原判決挙示の証拠を綜合すればこれを肯認することができる。
所論は畢竟事実審の裁量に属する証拠の採否を争い延いて事実の認定を非難するに
帰し、上告適法の理由に当らない。
 同第四点について。
 原審は「本件土地は元来被上告人B2の所有に属していたところ、同人の夫Gは
放蕩をしてその妻である被上告人B2の所有土地をも処分するおそれが多分にあつ
たのでこれを防止する目的からその所有権は移転せずただ登記簿上だけその子であ
る被上告人B1の所有名義にして置いたものである」との事実を認定し、この事実
関係に基ずいて、本件土地につき被上告人B1を所有者とする右登記簿上の記載は
無効であり、本件土地所有権は終始被上告人B2に属していたものであると判示し
ているのである。そしてまた被上告人B2においても本件土地はもともと同人の所
有していたものである旨主張しているのであり、被上告人B1からこれが移転を受
けたものであると主張してはいないのである。されば、本件では係争土地の所有権
につきこれが移転乃至その対抗要件の具備等は問題とはならない筋合であり、所論
原判決の判示はその主文に影響なきものといわざるを得ない。(のみならず、国が
公権力を以て私の土地を買收するような場合に民法一七七条はその適用なきもので
あるとの原審の見解は当裁判所大法廷の判例と一致するものであつてこれと反対の
見地に立つ論旨に賛同することはできない。そして被上告人B1が本件土地の真の
所有者であるとの主張に至つては事実誤認を前提とするものであり上告適法の理由
に当らない。)論旨は理由なきものである。
 よつて民訴四〇一条、九五条、八九条に従い、裁判官全員の一致で、主文のとお
り判決する。
     最高裁判所第一小法廷
         裁判長裁判官    岩   松   三   郎
            裁判官    真   野       毅
            裁判官    斎   藤   悠   輔

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