弁護士法人ITJ法律事務所

裁判例


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主       文
 1 本件各控訴をいずれも棄却する。
 2 控訴費用は控訴人らの負担とする。
事実及び理由
第1 申立て
 1 控訴人東野財産区
  (1)原判決中控訴人東野財産区関係部分(ただし,原判決主文第1項に係る部
分を除く。)を次のとおり変更する。
  (2)控訴人東野財産区と被控訴人との間において,控訴人東野財産区が大阪法
務局堺支局平成a年度金第b号の供託金21億0089万1552円のうち金
8億8237万4451円について還付請求権を有することを確認する。
 2 控訴人菅生地区会,同菅生西領水利組合,同平尾区会及び同平尾西田水利組
合(以下,これら4者を合わせて「控訴人菅生・平尾」という。)
  (1)原判決中控訴人菅生・平尾関係部分(ただし,原判決主文第1項に係る部
分を除く。)を次のとおり変更する。
  (2)控訴人菅生・平尾と被控訴人との間において,控訴人菅生・平尾が各自大
阪法務局堺支局平成a年度金第b号の供託金21億0089万1552円のう
ち金3億0462万9273円について還付請求権を有することを確認す
る。
第2 事案の概要等
 1 以下のとおり付加,訂正するほか,原判決の「事実及び理由」中「第2 事
案の概要」に記載のとおりであるから,これを引用する。
  (1)原判決8頁15行目の「別紙共有者台帳」を「本件土地共有者台帳1」
に,16行目の「移行したことにより,登記簿の表示登記」を「移行した後
の本件登記簿1,2の表題部」に,それぞれ改める。
  (2)同頁20行目の「土地台帳」を「本件土地台帳1等の摘要欄」に改め,末
行の「本件土地台帳1」の次に「等」を加える。
  (3)同28頁末行及び29頁1行目の各「10分」をいずれも「1000分」
に改める。
  (4)同37頁23行目から24行目にかけての「口頭弁論期日で,上記時効を
援用した」を「口頭弁論期日において,被控訴人に対し,上記時効を援用す
る旨の意思表示をした」に改める。
  (5)同38頁1行目の「3村に」を「3村は,」に改める。
  (6)同頁17行目から18行目にかけての「口頭弁論期日で上記時効を援用し
た」を「口頭弁論期日において,被控訴人に対し,上記時効を援用する旨の
意思表示をした」に改める。
 2 原審は,土地台帳は近代土地所有制度の前提となった地券制度及び地券台帳
を受け継ぐ形で整備された地租に関する事項を登録する台帳であること等に鑑
みれば,土地台帳の所有質取主住所氏名欄に記載された者が当該土地の所有者
であると解することは,自然かつ合理的である,土地台帳及び土地共有者台帳
上,狭山池をはじめとして,溜池所在地の大字が共有者から外れている例がへ
ど池近隣に多数存在する一方,溜池所在地の大字が他の大字と共に共有者とし
て記載されている例が他にもあり,池の所在地を漫然と土地台帳に記載してい
たとは解し難いこと等に鑑みると,大字池尻は意識的に本件土地台帳1,2に
共有者として記載されたものと推認される,本件土地共有者台帳1,2におけ
る摘要欄の記載は,少なくとも所有権の持分割合を示したものではないと認め
られる,本件登記簿1,2の所有権保存登記及び控訴人東野財産区への共有持
分移転登記は大字池尻に無断でなされたものであることが認められる,それら
の事実等からすると,本件土地台帳1,2及び本件土地共有者台帳1,2によ
り,大字池尻,大字東野,大字菅生及び大字平尾の4ヶ大字が本件土地を共有
していたものと推認し得るものと言うべきである,本件3溜池に関しては,概
ね東野,菅生及び平尾が水利権を有してその面で強い支配を及ぼしていたもの
の,他方,池尻も,相当な利害関係を有し,本件3溜池を利用して受益してい
たのみならず,東野,菅生及び平尾に対する発言力もあり,一定程度の配慮を
受けてきていたものと認められる,そうすると,近代所有権概念の生成,確立
の過程において,大字池尻が他の3ヶ大字と並んで共有者とされたとしても不
合理であるとは言えず,むしろ,十分にあり得べきことであるから,これらの
事実関係は,上記推認を覆すべきものとは言えず,かえって上記推認を補強す
るものというべきである,したがって,本件土地は大字池尻,大字東野,大字
菅生及び大字平尾の4ヶ大字の共有であったと認めるのが相当であり,その持
分割合は,民法250条の趣旨により,各4分の1ずつと解するのが相当であ
る,控訴人らはへど池を占有してきたと認められるが,それはあくまで大字池
尻ないし池尻財産区との共同占有であり,そうでなくとも大字池尻等を含めた
共有者の一部の者としてであり,権原の性質上所有の意思のないものであった
と認めるべきであるから,控訴人らの時効取得の主張は採用できない,昭和5
7年10月1日の狭山町の財産区特別会計条例により,池尻地区の財産は池尻
財産区とされたから,大字池尻のへど池に関する共有持分権は池尻財産区が継
承したものと言うべきであるなどとして,被控訴人の本訴請求を棄却するとと
もに,控訴人らの反訴請求を原判決主文第2項及び第3項記載の限度でのみ認
容する内容の判決を言い渡した。
   控訴人らは,控訴人ら敗訴部分に関する原審の判断を不服とし,前記第1記
載の判決を求めて本件各控訴を提起した。
   したがって,当審における審判の対象は,控訴人らの反訴請求の当否(大阪
府によって供託された本件補償金について,控訴人らがどの範囲で還付請求権
を有するか。)である。
 3 当審における控訴人東野財産区の新主張(債権者不確知供託の還付権者)
   被供託者を「AまたはB」とする債権者不確知供託においては,第三者Cが
A及びBとの関係で実体上の権利者であることを確定判決等により証明して
も,それは供託原因外の事項であるから,これによりCが供託物の還付を受け
られることにはならない(乙34)。
   大阪府が行った本件補償金に係る供託(以下「本件供託」という。)は被供
託者を控訴人ら又は被控訴人又は大阪府とするものであり,仮に池尻財産区が
本件土地の4分の1の共有持分を有していたとしても,それは本件供託の供託
原因外の事項であるから,池尻財産区は,本件供託の被供託者全員との関係で
実体上の権利者であることを確定判決等により証明しても,本件補償金の還付
を受けられるわけではない。
   そうすると,上記のような内容の本件供託による供託金還付請求権が訴訟物
である本件訴訟においては,被控訴人が本件補償金の4分の1の供託金還付請
求権を有しているか,控訴人らが本件補償金全額の供託金還付請求権を有して
いるかのいずれかと判断されるべきであり,被控訴人が本件補償金の供託金還
付請求権を有しない以上,控訴人らの反訴請求が全部認容されるべきである。
第3 当裁判所の判断
 1 当裁判所も,控訴人らの反訴請求は原判決主文第2項及び第3項記載の限度
でのみ認容すべきものであると判断する。
   その理由は,以下のとおり付加,訂正,削除し,下記3に当審における控訴
人らの新主張についての判断を付加するほか,原判決の「事実及び理由」中
「第3 争点に対する当裁判所の判断」(ただし,原判決88頁15行目から
90頁11行目まで,及び91頁10行目を除く。)に記載のとおりであるか
ら,これを引用する。
  (1)原判決44頁21行目の「甲42」の次に「ないし45,甲47,甲4
8」を,23行目の「乙31,」の次に「乙36,乙39,乙40,乙4
2,乙44,」を,それぞれ加える。
  (2)同47頁2行目の「外歩,名称として堤塘3反9畝21歩が」を「名称,
外歩欄には堤塘3反9畝21歩と」に,12行目の「外歩,名称として」を
「名称,外歩欄の」に,それぞれ改める。
  (3)同48頁21行目の「甲区」の次に「欄」を加える。
  (4)同65頁7行目の「乙4」の次に「,乙36」を加える。
  (5)同66頁16行目から17行目にかけての「明治時代や昭和36年ころに
は」を「かつては」に改め,18行目の「水路」の次に「(明治時代の地籍
図や昭和36年の地形図にはその記載がある。)」を加える。
  (6)同74頁19行目の「甲23,」の次に「甲42,」を加える。
  (7)同76頁14行目末尾を改行して以下のとおり加える。
    「(10) 明治時代に作成された公的書類中の本件3溜池に関する記載
   ア 明治7年10月27日付の「池尻村除地反別高書上帳」(東野,菅生及
び平尾の3か村を含む河内壹大区三小区の公用罫紙に記載されたものであ
り,河内壹大区三小区の正副戸長が奥書している。地租改正局の通達に関連
して作成されたものであることが窺われる。)には,へど池(嘔ケ池)を含
む本件3溜池について,いずれも池尻村の公有地(前記(3)イ記載の太政官
布告第114号「地所名称区分」に規定されているものであり,村持の山林
等を指す。)である旨が記載されている(甲47,甲48)。
   イ 明治22年3月付の池尻村の「共有地名寄 」には,へど池(吐ケ池)
を含む本件3溜池について,いずれも「持主」が「池尻村外三ケ村」である
旨が記載されている(甲47)。」
  (8)同77頁14行目の「土地台帳」の前に「特段の事情が存しない限り,」
を加える。
  (9)同78頁1行目の「解し難いことに鑑みると」を「解し難いこと,④前記
1(10)のとおり,明治7年10月及び明治22年3月に各作成された公的な
書類中には,池尻村がへど池(嘔ケ池)を含む本件3溜池を所有ないし共有
している旨の記載があり,前者については,東野,菅生及び平尾の3か村を
含む河内壹大区三小区の正副戸長が奥書していること等に鑑みると,当時の
大字東野,大字菅生及び大字平尾の意向をも踏まえた上で」に改める。
  (10)同頁18行目の「変えるものではない」を「変えるものと解するのは相当
でない」に改める。
  (11)同81頁18行目の「考えられる」を「考える余地もある」に改める。
  (12)同82頁3行目の「考えられる」を「考える余地もある」に改め,10行
目の「堤塘は,」の次に「当時,」を加える。
  (13)同頁11行目の「あらかじめ」の前に「私人である各地主が」を加え,1
2行目の「記載することが」を「記載しようとしたとしても,そのことが」
に改める。
  (14)同83頁11行目の「足り得ず」を「たり得ず」に改める。
  (15)同84頁10行目の「4ヶ大字が」の次に「本件土地の」を加える。
  (16)同85頁11行目の「関しては,」の次に「前記1(7)ないし(9)で認定し
たとおり,」を加える。
  (17)同頁16行目の「見られること,」の次に「天保7年(1836年)こ
ろ,東野村の庄屋年寄らは,池尻村田地相養候湯口壱か所,都合6か所小井
路の義は因縁有って先例をもって池役銀の歩分にかかわらず,往古より無役
にして用水引取田地相続仕来候などと述べていること,」を加える。
  (18)同頁19行目の「田に」の次に「無償で」を加える。
  (19)同86頁2行目の「旱魃の際の底樋によっても」を「旱魃の際に底樋を開
けた時にも」に改める。
  (20)同頁2行目の「可能であったこと,」の次に「かつては,へど池の北側の
谷の中心部に樋があり,そこから出た水路(明治時代の地籍図や昭和36年
の地形図にはその記載がある。)が北側に流れ,へど池北側の低地やへど池
のすぐ北から東にかけて所在する池尻村ないし大字池尻の水田を灌漑して東
除川に落ちていたと見られること,」を加える。
  (21)同頁13行目の「ことであり」を「ことであるから」に,同行の「共有者
でなかった」を「本件3溜池に対する支配・進退を有していなかった」に,
それぞれ改める。
  (22)同頁21行目の「推測」を「推定」に改める。
  (23)同頁末行から87頁1行目にかけての「認められると言うべきである」を
「認められるから,池尻村ないし大字池尻も本件3溜池に対する支配・進退
を有していたというべきである」に改める。
  (24)同87頁8行目の「へど池」を「本件土地」に改める。
  (25)同88頁1行目の「考えられること」の次に「(なお,本件土地台帳1,
2における「大字池尻外三ヶ大字共有地」との記載が,当時の大字東野,大
字菅生及び大字平尾の意向をも踏まえた上でなされたものと推認されること
は,前記2(1)イのとおりである。)」を加える。
  (26)同頁6行目の「全面的に」の次に「へど池の」を加え,10行目の「大字
池尻(後には」から11行目の「過ぎず,」までを削除する。
  (27)同頁12行目の「所有」の次に「(控訴人らのみによる共有)」を加え
る。
  (28)同90頁13行目の「有する」を「有していたと認められる」に改め,1
4行目の「東野地区については,」の次に「昭和57年10月1日に」を加
える。
  (29)同頁14行目から15行目にかけての「本件土地収用」を「本件収用」に
改める。
 2 当審における控訴人らの主張に対する判断(補充)
  (1)当審において,控訴人らは「地券の発行や土地台帳への登録は,所有権を
創設する効力を有するものではない。明治初年当時,溜池は除税地であった
ため,地券は要請がない限り交付されず,地券台帳も作成されなかった。明
治22年の土地台帳規則によって,全ての土地について土地台帳が作成され
ることになったが,溜池のように台帳のない土地もあったので,混乱が生じ
た。本件土地についても地券は発行されておらず,本件土地台帳1,2の所
有質取主欄に大字池尻が記載されたのも,本件土地が池尻に所在したため混
同したものと考えられるから,本件土地台帳の所有質取主欄の記載は,土地
の所有者についての事実上の推定力を有しないというべきである。土地共有
者台帳は,土地台帳と一体をなし,これを補完するものである〔大蔵省主税
局長回答(甲5の6)には,土地共有者台帳は土地台帳の記載を訂正,変更
するものではないとの記載は存しない。〕。明治23年9月19日の大阪府
訓令54号に「所有権の歩合」と規定されていたこと,土地共有者台帳に分
水率及び維持管理費用の負担割合や将来課税された場合の納税額の割合を記
載することには合理性がないこと等によれば,本件土地共有者台帳1,2の
摘要欄の記載は,共有持分割合を記載したものと解すべきである(なお,明
治22年から明治34年ころにかけては,土地台帳及び土地共有者台帳の記
載を抹消により訂正する方式は定められていなかったから,大字池尻の記載
が抹消されていないことは,上記のように判断する支障とはならないという
べきである。)。明治初年の近代的土地所有権創設時における個々の土地の
所有権は,江戸時代から土地を支配・進退してきた結果,所有権の内容に最
も近い強力な支配を持っていた者が取得したというべきである。支配・進退
とは,土地を現実に支配し,そこから具体的に利益を引き出すことができる
ことを指す。溜池の支配・進退とは,池床,堤塘,掛水路及び排水路,灌漑
水路(池に設置された樋を含む)の附属工作物全てを現実に維持,管理する
ことであるから,恩恵的に水の使用を認められるに過ぎない所謂「もれ水」
の利用者は,溜池を支配・進退していることにならない。本件3溜池に関し
て,池尻地区は維持管理の費用を負担していないこと,二寸土樋からの水に
ついては,替地の際の条件として,「勝手使用」という黙認使用を東野村,
菅生村及び平尾村が認めたものにすぎないこと,明治初年まで池尻地区が魚
取りを継続して行っていたと認めるに足りる証拠はないこと,井戸からはね
木で水を取る行為は,地下水の自由使用にすぎず,また,少量であることか
ら,恩恵的に黙認されてきたものにすぎないこと,慶応3年(1867
年),池尻村は,東野村,菅生村及び平尾村から大鳥池の一部を借地するに
際し,約定書を差し入れたり,冥加米を支払ったりしていること,大正から
昭和11年までの水の見張りは,近代的土地所有権が創設された明治初期よ
りも60年も後のことであり,かつ,本件3溜池に関するものではないこと
(底樋からは,池尻の田地に送水する水路や樋は全くなかったから,その水
番というのはあり得ず,池尻の替地内部の水路に対するものであった。)等
に鑑みれば,池尻地区は本件3溜池に対する支配・進退を有していなかった
というべきである。本件3溜池について池尻地区が権利を有していないこと
及び昭和43年に大阪府が権兵衛池の一部を買収したことは,大阪狭山市及
び美原町においては公知の事実であり,そうであるからこそ,大阪狭山市及
び美原町は,池尻地区の承諾を取ることなく,昭和43年の表示更正登記を
行ったのであり,それにもかかわらず,大字池尻からは一片の苦情の申出も
なかった。以上によれば,大字池尻は本件土地の共有持分を有していなかっ
たと認めるべきである。」旨主張する。
    しかしながら,土地台帳は近代土地所有制度の前提となった地券制度及び
地券台帳を受け継ぐ形で整備された地租に関する事項を登録する台帳である
こと等に鑑みれば,特段の事情が存しない限り,土地台帳の所有質取主住所
氏名欄に記載された者が当該土地の所有者であると解することは,自然かつ
合理的であること,土地台帳及び土地共有者台帳上,狭山池をはじめとし
て,溜池所在地の大字が共有者から外れている例がへど池近隣に多数存在す
る一方,溜池所在地の大字が他の大字と共に共有者として記載されている例
が他にもあり,池の所在地を漫然と土地台帳に記載していたとは解し難いこ
と,明治7年10月及び明治22年3月に各作成された公的な書類中には,
池尻村がへど池(嘔ケ池)を含む本件3溜池を所有ないし共有している旨の
記載があり,前者については,東野,菅生及び平尾の3か村を含む河内壹大
区三小区の正副戸長が奥書していること等に鑑みると,当時の大字東野,大
字菅生及び大字平尾の意向をも踏まえた上で,大字池尻は意識的に本件土地
台帳1,2に共有者として記載されたものと推認されること,本件土地共有
者台帳1,2における摘要欄の記載は,少なくとも所有権の持分割合を示し
たものではないと認められること,本件登記簿1,2の所有権保存登記及び
控訴人東野財産区への所有権移転登記は大字池尻に無断でなされたものであ
ることが認められること,それらの事実等からすると,本件土地台帳1,2
及び本件土地共有者台帳1,2により,大字池尻,大字東野,大字菅生及び
大字平尾の4ヶ大字が本件土地を共有していたものと推認し得るものと言う
べきであること,本件3溜池に関しては,概ね東野,菅生及び平尾が水利権
を有してその面で強い支配を及ぼしていたものの,他方,池尻も,相当な利
害関係を有し,本件3溜池を利用して受益していたのみならず,東野,菅生
及び平尾に対する発言力もあり,一定程度の配慮を受けてきていたものと認
められるから,池尻村ないし大字池尻も本件3溜池に対する支配・進退を有
していたというべきであること,そうすると,近代所有権概念の生成,確立
の過程において,大字池尻が他の3ヶ大字と並んで共有者とされたとしても
不合理であるとは言えず,むしろ,十分にあり得べきことであって,これら
の事実関係は,上記推認を覆すべきものとは言えず,かえって上記推認を補
強するものというべきであること,結論として,本件土地は大字池尻,大字
東野,大字菅生及び大字平尾の4ヶ大字の共有であったと認めるのが相当で
あることは,前記のとおりである。
 そして,「支配・進退」とは,明治初年の近代的土地所有権創設時におけ
る個々の土地の所有権はその当時当該土地に対して所有権の内容に最も近い
強力な支配を持っていた者が取得したとの見解を前提として,領主による封
建的支配を除外して考えた場合に誰が所有権の内容に最も近い強力な支配を
持っていたかを判断するための概念であり,そこでいう「支配」は必ずしも
土地に対する現実的な利用及び管理のみを指すものでないと解されること等
に照らせば,控訴人らの前記主張及び当審において控訴人らが提出した証拠
(乙34ないし44,丙31)を考慮しても,前記の結論が覆ることはない
というべきである。
    よって,控訴人らの前記主張を採用することはできない。
  (2)当審において,控訴人らは「池尻地区は,大鳥池の樋門から出る水路の一
点からもれ水を取得する等の水の利用を恩恵的に黙認されてきたにすぎず,
そのことは本件土地の占有につながるものではないこと等によれば,大字池
尻がへど池を占有していたとはいえない。控訴人らがへど池に対する大字池
尻の占有や共有持分権を承認していた事実はない。控訴人らは本件土地全体
を所有の意思をもって継続して占有してきたから,本件土地を時効取得した
というべきである。」旨主張する。
    しかしながら,控訴人らはへど池を占有してきたと認められるが,それは
あくまでも大字池尻ないし池尻財産区との共同占有であり,そうでなくとも
大字池尻等を含めた共有者の一部の者としてであり,権原の性質上所有(控
訴人らのみによる共有)の意思のないものであったと認めるべきであるこ
と,結論として,控訴人らの時効取得の主張は採用できないことは,前記の
とおりである。
    そして,本件土地台帳1,2における「大字池尻外三ヶ大字共有地」との
記載は当時の大字東野,大字菅生及び大字平尾の意向をも踏まえた上でなさ
れたものと推認されること等に照らせば,控訴人らの前記主張及び当審にお
いて控訴人らが提出した証拠(乙34ないし44,丙31)を考慮しても,
前記の結論が覆ることはないというべきである。
    よって,控訴人らの前記主張を採用することはできない。
 3 当審における控訴人東野財産区の新主張(債権者不確知供託の還付権者)に
ついての判断
   控訴人東野財産区は前記第2の3のとおり主張する。
   しかしながら,民法494条に基づく弁済供託として被供託者を「Aまたは
B」とする供託(債権者不確知供託)がなされた場合において,第三者CがA
及びBとの関係で実体上の権利者であることを確定判決等によって証明して
も,それは供託原因外の事項であるため,Cは供託物の還付を受けられないと
解されるが,そうであるからといって,被供託者であるAないしBが実体上の
権利を超えて供託金全額の還付請求権を有することになるわけではない(控訴
人東野財産区が引用する乙34にも,Cが実体上の権利者である場合,供託者
は「AまたはB」の供託について錯誤を原因に取り戻すべきものである旨の記
載が存するから,同様の見解であると解される。)。
   したがって,控訴人らが本件収用当時本件土地の共有持分全部を有していた
と認められない以上,池尻財産区が本件供託の被供託者全員との関係で実体上
の権利者であることを確定判決等により証明した場合に本件供託に係る本件補
償金の還付を受けられるか否かについて検討するまでもなく(なお,本件供託
は,民法494条に基づく弁済供託ではなく,土地収用法によって特別に認め
られた被収用土地の補償金等の供託であるから,民法494条に基づく弁済供
託の場合と同一の結論になるわけではないと解される。),控訴人らが本件補
償金全額の供託金還付請求権を有するとはいえないから,控訴人東野財産区の
前記主張は理由がない。
 4 以上によれば,本件各控訴はいずれも理由がないから,主文のとおり判決す
る。
     大阪高等裁判所第5民事部
         裁判長裁判官   太   田   幸   夫
            裁判官   細   島   秀   勝
   裁判官大島眞一は,転補のため,署名押印することができない。
         裁判長裁判官   太   田   幸   夫

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その他 明るく楽しい職場です。
シフトは週40時間以上
ロースクール生歓迎
経験不問です。

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