弁護士法人ITJ法律事務所

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       主   文
原告の請求を棄却する。
訴訟費用は、原告の負担とする。
       事   実
第一 当事者の求める裁判
 原告は、「特許庁が昭和五〇年審判第六〇八九号事件について昭和五三年六月一
二日にした審決を取消す。訴訟費用は被告の負担とする。」との判決を求め、被告
は、主文と同旨の判決を求めた。
第二 当事者の主張
(原告)
請求原因
一 特許庁における手続の経緯
 原告は、昭和四六年八月三日、特許庁に対し別紙(一)に示すとおりの構成から
成る商標(以下「本願商標」という。指定商品、第一七類「被服(運動用特殊被服
を除く。)布製身回品(他の類に属するものを除く。)寝具類(寝台を除
く。)」)について商標登録出願(昭和四六年商標登録願第八三七五二号)をした
ところ、昭和五〇年六月六日拒絶の査定を受けたので、同年七月四日審判を請求し
た。この請求は昭和五〇年審判第六〇八九号事件として審理され、昭和五三年六月
一二日「本件審判の請求は成り立たない。」との審決があり、その謄本は同月二二
日原告に送達された。
二 本件審決の理由の要点
 本願商標は、その登録出願の日前の商標登録出願に係る他人の登録商標たる登録
第八八九〇〇四号商標(昭和四四年二月一七日商標登録出願、昭和四六年二月一三
日設定の登録、指定商品第一七類「被服、布製身回品、寝具類」、その構成は別紙
(二)に示すとおりのもの。以下、「引用商標」という。)と称呼において類似す
る類似の商標であり、指定商品も同一であるから、商標法第四条第一項第一一号の
規定に該当するもので、商標登録を受けることができない。
三 本件審決の取消事由
 本願商標が引用商標と類似の商標であることは争わないが、本件審決は、つぎの
点において違法であるから、取消さるべきである。
 商標法第四条第一項第一一号規定が適用されるのは、当該登録出願人の商標が他
人の登録商標と同一又は類似する場合である。ところが、原告は、昭和五三年一一
月一日、引用商標の商標権者・旭化成工業株式会社からその商標権を譲受け、昭和
五四年三月一九日その旨の移転登録を経由して、引用商標の商標権者となつてい
る。これにより、本願商標の登録出願人と引用商標の商標権者は同一人となつたた
め、引用商標は前記法条に規定する「他人」の登録商標又はこれに類似する商標に
該当しなくなり、「他人」の関係は解消された。したがつて、本願商標を前記法条
に該当するとした本件審決の判断は誤りであり、違法として取消さるべきものであ
る。
(被告)
請求原因事実の認否と主張
一 請求原因一、二の事実は認める。
二 同三の主張は争う。
 登録出願商標が商標法第四条第一項第一一号の規定に該当するか否かの判断は、
これについての特許庁における最終審理の時点、すなわち審決時が基準となるべき
ものである。
 本件審決時(昭和五三年六月一二日)において、引用商標は本願商標登録出願の
日前の出願に係る他人の登録商標として存続していたものであり、これを引用し、
本願商標が商標法第四条第一項第一一号の規定に該当するものとした審決は正当で
あつて、何ら違法の点はない。
 原告は、昭和五四年三月一九日付をもつて引用商標は原告が商標権者となつたも
のであるから、本願商標の商標登録出願について拒絶の理由は解消したと主張する
けれども、この商標権の移転は登録をまつて初めてその効力を生ずるものである
し、本件審理の対象たる昭和四六年商標登録願第八三七五二号の内容について変動
を生じたものではない。
 原告の主張は、本願商標の審理とはかかわりのない、単に審決後に発生した事情
を述べるにとどまり、本件審決に何らの影響を及ぼすものではない。
(原告)
被告の主張に対する反論
 審決取消訴訟、すなわち行政事件訴訟の本質は、行政庁の第一次判断を媒介とし
て生じた違法状態の排除にあることを考えれば、本件のように、事実状態の変動に
より特許庁の審決事由が何人も疑う余地がなく解消された場合には、その違法状態
を排除しなければならないのであり、したがつて、本件の場合、審決違法性の判断
時点は判決時にあるとするのが妥当である。しかも、本件のように、連合商標の商
標登録出願に出願を変更することができる場合には、判決時とすることにより直接
第三者の権利、利益を害するものではないため、そのように解する合理的な理由が
ある。逆に、審決時を基準として審決を維持することは、事実に反する審決を残存
させることになり、矛盾が生じ、具体的妥当性を欠くことになる。
 また、取消訴訟が裁判所に係属していて、審決が未確定の状態にある場合で、か
つ、本件のように、権利者の名義人が変更した事実の認定のみで、裁判所が実質的
に行政的裁量処分を行わないことが明らかな場合で、しかも、行政処分取消による
直接第三者の権利、利益に関係のない場合には、裁判所の行政庁に対する行政的裁
量権の侵害にもなりえないものであるから、審決の違法性判断時を判決時とすべき
である。
 さらに、商標法第四条第三項の規定から明らかなように、同条第一項第一一号に
該当するか否かの判断時は査定時であり、この査定時は最終の査定時を意味するの
であるから、取消訴訟が裁判所に係属中で審決が未確定の状態にある場合には、そ
の審決時における査定は最終の査定ではないのである。したがつて、審決の違法性
判断の基準時を判決時とすることには何らの問題もなく、むしろ、判決時とし、事
実審である東京高等裁判所の審理内に属せしめることが、具体的妥当性に合致す
る。
 以上のように、審決取消訴訟における違法性の判断時点は、本件のように具体的
妥当性に沿う合理的な理由が見い出せる場合には判決時にあるとすべきである。
第三 証拠関係(省略)
       理   由
一 請求原因一、二の事実は当事者間に争いがない。本願商標が引用商標と類似の
商標であること、引用商標の商標権者が本件審決のされた時点においては旭化成工
業株式会社であつたことは原告の自認するところであり、引用商標が本願商標登録
出願の日前の商標登録出願に係る登録商標であること、本願商標の指定商品が引用
商標のそれと同一であることは原告において明らかに争わないところである。
二 原告は、本件審決後に引用商標の商標権者は原告となつているから、本願商標
の登録出願人と引用商標の商標権者との「他人」の関係は解消されており、本願商
標が商標法第四条第一項第一一号の規定に該当するとした本件審決は違法であると
主張する。
 原告の主張は、審決取消訴訟における違法性判断の基準時を判決時とすることを
前提とするものであるが、審決取消訴訟は、すでにされた審決が違法であるとして
その取消を求めるものであり、この訴訟において裁判所の判断すべきことは当該審
決が違法に行われたかどうかの点であつて、その判断は、審決がある特定の時点に
おいて、当時の法及び事実状態に基づいてされるのに対応して、少なくとも審決に
よるべきものとされた事項については、その審決のされた当時(処分時)の法及び
事実状態にてらしてさるべきものであり(最高裁昭和二七年一月二五日判決・民集
六巻一号二二頁その他参照)、その時点の後に生じた事実その他に応ずる右審決の
結果の救済については、法の定めるところに従い、別に解決を得べきものである
(本件については、たとえば、商標法第一一条第二項、第三項の規定により、当初
の出願を連合商標の商標登録出願に変更するなど。なお、自己の登録商標に類似す
る商標の独立の商標登録出願については、もともと、連合商標の商標登録出願をし
ない限り、同法第七条第一項、第一五条第一項第一号の規定により、拒絶の査定を
受けることになる。)から、結局、原告の主張は採用できない。
 さらに、原告は、本件においては右基準時を判決時とすることに具体的妥当性が
あるから判決時とすべきであると主張するけれども、その主張する事由をもつてし
ても、前示判断を左右すべきものとは認められない。
三 そうすれば、原告の主張は理由がなく、本件審決は適法であるから、これが取
消を求める本訴請求は失当として棄却することとし、訴訟費用の負担については行
政事件訴訟法第七条、民事訴訟法第八九条の各規定を適用して、主文のとおり判決
する。
(裁判官 荒木秀一 藤井俊彦 杉山伸顕)
別紙
<12151-001>

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