弁護士法人ITJ法律事務所

裁判例


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         主    文
     本件上告を棄却する。
     上告費用は上告人の負担とする。
         理    由
 上告代理人帯野喜一郎の上告理由第一点について。
 原審の確定した事実によれば、訴外Dの祖父Eはもと甲府市a町b番地に宅地を
所有しており、上告人はその地上に在るE所有の建物一棟を賃借していたが、右建
物は昭和二〇年七月六日の戦災に遭い焼失したので上告人はEの承諾を得てその敷
地上に自己所有の建物を建築し該土地を使用して来たというのであるから、上告人
は戦時土地物件令四条一項(建物ノ滅失シタル当時其ノ建物ニ居住シタル者ハ前条
第一項ノ停止期間中本建築物ノ所有以外ノ目的ノ為当該建物ノ敷地ヲ使用スルコト
ヲ得……)の規定による右敷地の使用者と認められ、従つて同条二項(前項ノ場合
ニ於テ当該建物ニ居住シタル者ヵ使用ヲ始メタル時新ニ其ノ土地ニ付賃貸借アリタ
ルモノト看做ス)の規定による賃借権者と認むべきことは論旨の指摘するとおりで
ある。されば原審が第一審判決と共に上告人において賃借建物罹災後所論b番地上
に取得した権利が賃借権であることは認められない旨判示したことは右物件令の解
釈を誤つた嫌がないわけではない。そして物件令による右賃借権者は罹災都市借地
借家臨時処理法三二条により、滅失建物の敷地又はその「換地」の所有者に対し建
物所有の目的で賃借の申入ができる筋合であるけれど、同法二条にいわゆる「換地」
とは当時施行中の都市計画法又は特別都市計画法に基ずく土地区劃整理によつて従
前の土地に換えて交付される土地を指すものと解するのを相当とする。しかるに、
原審の確定した事実によれば本件係争土地を含む同市a町c番のdの土地は、前記
Eが訴外Fとの交換契約により右b番の土地の代りに取得したものに外ならないの
であるから、これを同法条にいわゆる「換地」といい得ないこと明白である。それ
故、右b番の土地についての物件令による賃借権は前示c番のdの土地については
何の係りもなく、従つて前示物件令の解釈上の過誤も本件係争土地についてなされ
た原判決の主文を左右するものではない。現に原判決も仮に上告人がb番地上に取
得した権利が賃借権であるとしても、その権利は右土地の所有権を承継したFに対
抗できることはあつてもEが交換により取得した本件土地については当然に右権利
を行使することはできない旨判示している。前説示する意味においてこの判示は正
当である。論旨は採るを得ない。
 同第二点について。
 論旨(一)所論の原審の事実認定は、原判決挙示の証拠に照らしこれを肯認する
ことができる。論旨は事実審である原審の裁量に属する証拠の採否を論難し事実認
定を非難するに帰し上告適法の理由に当らない。次に論旨(二)所論の原審認定の
事実によるも、いまだ、上告人及び訴外D間に成立した本件土地の使用貸借につき
被上告人において貸主たる地位を承継したものとなし得ないこと勿論であり、また
右承継の事実が事実審で主張された証跡は記録上存在しないのであるから、かかる
事実を前提として原判決に法令違反ありとする所論は採るを得ない。
 同第三点について。
 原審の認定した事実関係によれば、被上告人の本件家屋の収去土地明渡の請求を
権利濫用とは認められないとした原判旨は首肯するに足る。論旨は採用の限りでな
い。
 よつて、民訴四〇一条、九五条、八九条に従い、裁判官全員の一致で、主文のと
おり判決する。
     最高裁判所第一小法廷
         裁判長裁判官    岩   松   三   郎
            裁判官    真   野       毅
            裁判官    斎   藤   悠   輔
            裁判官    入   江   俊   郎

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