弁護士法人ITJ法律事務所

裁判例


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         主    文
     本件控訴を棄却する。
     控訴費用は、控訴人らの負担とする。
         事    実
 一 控訴人ら代理人は、「原判決中控訴人らに関する部分を取り消す。被控訴人
の従前の請求及び当審における予備的請求を棄却する。訴訟費用は第一、二審とも
被控訴人の負担とする。」との判決を求め、被控訴代理人は、控訴棄却の判決を求
め、原判決主文第一、二項及び第三項中控訴人Aに関する部分に係る従前の請求が
一部認容されないときの予備的請求として、新たに、「控訴人らは、被控訴人に対
して、それぞれ、金一〇四万七二二〇円及び内金一〇四万円に対する昭和五九年一
〇月一六日から完済まで年一四・五パーセント(年に満たない端数期間については
一日〇・〇四パーセント)の割合による金員を支払え。控訴人Aは、被控訴人に対
して、金九三万六二四五円及び内金九三万円に対する昭和五九年一〇月一六日から
完済まで年一四・五パーセント(年に満たない端数期間については一日〇・〇四パ
ーセント)の割合による金員を支払え。」との判決を求めた。
 二 当事者双方の主張及び証拠の関係は、次の三、四を付加するほかは、原判決
事実摘示中控訴人らに関する記載(判決書中三丁裏八、九行目「昭和五七年六月二
八日」を「右貸付日である昭和五七年四月三〇日」に、同所末行「である」を「で
あり、その相続分は各三分の一である」に、四丁裏一四行目「連帯保証債務」を
「消費貸借契約上の債務」に、五丁裏一一行目「認める」を「認め、その余は否認
する」に改める。なお、判決書三丁裏一四行目「B」については、その後の婚姻後
の「B」姓に読み替える。)のとおりであるから、これを引用する。
 三 被控訴人の主張(予備的請求の原因及びその他の主張の補足)
 1 仮に請求原因1の事実が認められないとすれば、甲貸付け及び乙貸付けは、
Cにおいて、現実にはそのような権限がなかったのに、控訴人Aのためにするもの
と称して、Aの名で被控訴人に対して右両貸付けに係る借入れの申出をし(具体的
には、直接A本人名義による借用証書への署名・捺印など)、これに基づき実行さ
れた(CがAの代理人として貸付金を受領した)ものである。
 2 Cは、Aから上記に関する権限を授与されておらず、Aの追認もないので、
民法第一一七条第一項によって右両貸付けについての契約履行責任があり、この貸
付けにつき主位的にAに対して訴求している金額と同額の金員を支払うべき義務が
ある。
 3 Cの死亡とその相続の関係は、請求原因7のとおりである。
 4 よって、仮に請求原因1を前提とする主位的請求が認められないときには、
控訴人らに対して、右の予備的主張に基づき、それぞれCが支払うべき金員の三分
の一である金一〇四万七二二〇円及び内金一〇四万円に対する昭和五九年一〇月一
六日から完済まで年一四・五パーセント(年に満たない端数期間については一日
〇・〇四パーセント)の割合による金員を支払うよう求める。
 5 次に、丙貸付け及び丁貸付けについては、仮に請求原因4中の控訴人Aの連
帯保証の事実が認められないときには、Aは、原審以来その余の控訴人らについて
主張している請求原因により、これらと同様に、Cの主債務者としての返還義務を
相続分(三分の一)の割合で承継したことになる。よって、これに基づき、予備的
に、その余の控訴人らに対すると同様に、金九三万六二四五円及び内金九三万円に
対する昭和五九年一〇月一六日から完済まで年一四・五パーセント(年に満たない
端数期間については一日〇・〇四パーセント)の割合による金員を支払うよう求め
るものである。
 6 原審以来再抗弁として主張する民法第九二一条所定の法定単純承認事由につ
いて補足するに、控訴人らは、協議の上、昭和五九年一〇月二五日ころ、Cの遺産
である靴、洋服、鍋釜などの日用品、箪笥などの家具、絵画(時価約二〇万円)や
壷などの美術品その他を廃棄し処分した。なお、Cが生前低利の借入金を資金とし
て小口金融を行っていたという控訴人らの後記主張については、被控訴人として
は、これら貸金債権やその証書類がどのように処分されたのかに関心を抱くもので
ある。
 また、Cの遺産である建物賃借権(以下「本件賃借権」という。)につき控訴人
らが東京地方裁判所に確認請求訴訟(以下「別件訴訟」という。)を提起したこと
については、これが民法第九二一条第一号本文所定の処分に該当することは明らか
である。けだし、別件訴訟の訴状において、控訴人らは、「控訴人らが本件賃借権
を有する」ことの確認を求めたのであり、その請求原因として「控訴人らはCより
本件賃借権を相続した」と主張したものであるからである。すなわち、別件訴訟に
おいて控訴人らは本件賃借権は「自分達のものである」と主張したのであり、Cの
相続財産に属することの確認を求めたのではない。
 したがって、この訴訟提起が専ら控訴人らの利得を目的としたものであり、Cの
財産調査とそれまでの間の財産保全を目的としたものでないことは明らかというべ
きである。この点に関する控訴人らの主張は失当である。
 7 なお、甲、乙、丙及び丁の各貸付け(以下、合わせて「本件貸付け」とい
う。)は、いずれも被控訴人が国民金融公庫を業務受託者代理人として(いわゆる
「窓口」として)契約したものである。
 四 控訴人らの主張(右三に対する認否と反駁)
 1 Cが控訴人Aの名を冒用して甲貸付け及び乙貸付けを受けたことは、原審以
来控訴人らが主張しているとおりであるが、この契約締結に際してCがAのために
することを示したことはなく、Cは専ら自己が金融を得る目的でこの行為に及んだ
ものであり、Aのために各契約書に署名する意思もなかったのである。したがっ
て、これは、無権限による署名代理(すなわち、無権代理)の事案でなく、単なる
偽造の事案であるから、Cについて民法第一一七条第一項の無権代理人の責任が生
ずる余地はない。なお、請求原因2のCの連帯保証に関しては、Aの主債務が不存
在であるから、保証債務の付従性によりCの連帯保証もその効力を生じない。以上
により、甲貸付け及び乙貸付けについては、相続放棄の抗弁をまつまでもなく、主
位的請求も予備的請求も失当である。
 2 再抗弁たる相続の単純承認に関しては、被控訴人の主張事実を否認し、争
う。控訴人らが別件訴訟を提起した事情は次のとおりであっで、相続人の相続財産
に対する管理行為としてしたものであり、処分をしたわけではない。
 すなわち、控訴人Aは昭和五九年二月末港区ab丁目のcビルd階の店舗(以下
「本件建物」という。)で「海猫亭」という屋号で飲食店の営業を始めた(それま
でeで同じ屋号の飲食店を経営していたことがある)が、これは、Cにおいてビル
の所有者Dから本件建物を賃借し、Eに事実上転貸して家賃の差額を得ていた(C
は、このほかに、低利の借入金を資金として、小口金融をしていた。)ところ、E
がこの店(「ふくむら」という飲食店)を閉めることになり、Aがeから移転する
ことになったものである。しかるに、Cの急死(昭和五九年一〇月三日解離性大動
脈瘤のため突然倒れ、意識を回復しないまま同月一八日死亡した。)後、賃貸人D
から賃借人は既に第三者に交替しているとの理由で賃料の受領を拒絶されたり、本
件建物の鍵が無断で付け替えられたり、風体の怪しい見知らぬ人物に本件建物に居
座られたりするなど、控訴人らに対する様々な嫌がらせが頻発した。そのため、控
訴人らは、所轄警察署に警戒を求めたりした。
 右により昭和六〇年一月二三日に別件訴訟を提起した当時の状況を整理すれば、
控訴人Aにあっては生活の手段まで奪われる危険にさらされており、控訴人ら全体
としては、Cの遺産内容を早急に調査して相続を承認するか放棄するかの決断をし
なければならず、一方で、賃貸人が早晩控訴人らに対して本件建物の明渡請求訴訟
を提起することも明らかであり、他方で、賃借人若しくはその代理人と称する者が
暴力的に控訴人らを本件建物から排除する動きに出ていたということになる。この
ような事態を放置しておけば事実上本件賃借権が失われる危険があったので、仮に
相続放棄するにしても、次順位相続人に原形のまま相続財産を引き継ぐためにも、
控訴人らが管理行為ないし保存行為として別件訴訟を提起したにすぎない。加え
て、別件訴訟は確認訴訟であって、確認訴訟は、何らかの給付や新たな権利関係の
形成を求めるものでなく、現在の権利関係を観念的に確定させるにすぎず、目的に
おいて防衛的現状肯定的であり、態様において平穏抑制的であるから、その提起
は、一般的に管理行為ないし保存行為と見るべきである。
 以上、別件訴訟の提起をもって、単純承認事由たる処分行為があったと見ること
はできない。
 五 証拠関係(省略)
         理    由
 一 当裁判所もまた、被控訴人の従前の請求を正当として認容すべきものと判断
する(被控訴人は、慎重を期して、甲、乙貸付けに係る控訴人ら三名に対する請求
及び丙、丁貸付けに係る控訴人Aに対する請求につき、予備的請求の申立てをして
いるけれども、これについての判断をするまでもない。)。その理由は、次のよう
に補充し敷衍するほかは、原判決の説示と同一であるから、控訴人らに関する右説
示の記載(判決書六丁表二、三行目「証人F」を「証人F」に、同所三行目「同
人」を「国民金融公庫の職員であるF」に、同所一六、一七行目「考えられない」
を「考えられず、したがって、Fと面談したという「被告Aとされる者」は、身代
わりではなく、正に被告A本人であったと認められる」に改める。)を引用する。
当審における証拠調べの結果を参酌しても、右引用の原判決の認定判断は動かな
い。
 1 甲ないし丁貸付けに関する事実認定等についての補充
 (一) 国民金融公庫の業務受託に関する被控訴人主張事実は、控訴人らにおい
て明らかに争わないので、これを自白したものとみなすべきであり、したがって、
甲ないし丁貸付けは、被控訴人が同公庫を代理人として契約したものである。
 (二) 甲ないし丁貸付けに関する当裁判所の事実認定は、さきに原判決理由を
引用して示したとおりであるが、特に、控訴人Aの甲、乙貸付けについての主債務
者としての契約及び丙、丁貸付けについての連帯保証人としての契約の締結の点が
強く争われているので、この点につき補充するに、次のとおりである。
 甲、乙貸付けの借用証書である甲第一号証の一、二及び丙、丁貸付けの借用証書
である甲第三号証の一、二における控訴人A名下の印影は、成立に争いのない甲第
二号証の一及び第四号証の三(いずれも、同控訴人の印鑑登録証明書)並びに原審
及び当審(第一、二回)における同控訴本人の供述によって、同控訴人の実印によ
るものと認められる(同控訴人との関係では、甲第三号証の一、二の印影について
は争いがない。)ので、右各印影についてはその押印の真正が推認され、その結
果、右甲第一号証及び第三号証の各一、二の同控訴人名義による作成部分は、全部
真正に成立したものと推定すべきである。本件の全証拠、特に当審における控訴人
らの立証によっても、この推定は崩れないから、控訴人Aの主債務者ないし連帯保
証人としての契約の締結は、右各証(同控訴人作成部分)によってこれを認定する
に十分である。ちなみに、原審及び当審(第一回)における同控訴本人の供述によ
れば、同控訴人は、「1」その経営するeの「海猫亭」の経理を母のCに見てもら
っていたこと、「2」国民金融公庫渋谷支店にはCと一緒に赴いたことがあること
が認められ、「2」についての右本人供述は、同公庫支店に用件があったのはCの
みで、自分は待合室で待っていたというのを付加しているが、これはたやすく信用
することができず、これを除く右「1」、「2」の点は、同控訴人がCとともに同
公庫支店に赴いた際その職員と応接したのではないかと窺わせるものであって、同
控訴人が公庫と契約したという事実認定の傍証とすることができると同時に、控訴
人Aの実印による前記甲号各証上の印影はCがほしいままに押印したものであるか
のように言う原審及び当審(第一回)における同控訴本人の供述の信憑性に疑問を
生ぜしめるものである。
 <要旨> 2 控訴人らの相続の単純承認に関する判断についての敷衍
 まず、控訴人らが別件訴訟を提起したことは当事者間に争いがないところ、その
内容・経過を見るに、成立に争いのない甲第一〇号証の一ないし二六、官公署作成
部分の成立に争いがなく、当審における控訴人G本人の供述及び弁論の全趣旨によ
りその余の部分の成立が認められる乙第三七ないし第四一号証、当審における控訴
人ら各本人の供述(控訴人Aにあっては、第一、二回。いずれも、後記信用しない
部分を除く。)並びに弁論の全趣旨によれば、Cが本件建物の賃借権(以下「本件
賃借権」という。)を有し、同所でCの次男であるAが営業許可を受けて飲食店
「海猫亭」の営業をしていたこと、しかるにその経営が順調でなかったのか、Cに
おいて本件賃借権を他に譲渡しようとしていたこと、その折柄Cが倒れて意識不明
のまま約二週間後に急死したこと、この間の入院中にCの長男である控訴人Gに対
して本件賃借権譲渡の話が持ち出されており、Gは譲渡代金がどの程度になるかを
検討していたこと、Cの死亡した四日後の昭和五九年一〇月二二日、GとAはHな
る女性に(控訴人らの主張では、強迫ないしは偽罔されて)本件賃借権の譲渡を同
女に委任したものであるとしか読めない念書(甲第一〇号証の一九)を交付したこ
と、その直後から控訴人らはこの念書が無効と主張していたのであるが、右Hを通
じて本件賃借権を譲り受けたという第三者(株式会社遥虹ランド)が現れ、本件建
物の所有者であり賃貸人であるDにおいて、この賃借権譲渡を有効と見て、控訴人
らが賃借人であることを認めないようになったこと、そこで、控訴人らは、弁護士
に委任して、Dに対し別件訴訟を提起したのであるが、その主張内容は、Cが有し
た本件賃借権を控訴人らが「相続」したので、現在の賃借人は控訴人らであるから
その確認を求めるというものであったこと、別件訴訟の訴状は昭和六〇年一月二三
日に受理され、五回の口頭弁論期日を経た後、同年九月一三日取下げ及び被告であ
るDの同意によって終了したこと、別件訴訟提起前の昭和五九年一二月二四日、H
は、G及びAに対して委任契約に基づき引き渡すべき金員であるとして金七三万八
〇〇〇円を弁済供託した(乙第四〇号証はその通知書)こと、既にこの前にこれら
双方が弁護士を代理人として各自の言い分を内容証明郵便で主張し合っていたこ
と、Hの言い分はG及びAからの委任に基づき本件賃借権を代金一〇〇〇万円で処
分したが、Cの借金等を整理したら右供託金しか残らないというものであり、この
ことは、内容証明郵便の趣旨からして、控訴人らにおいて(控訴人BはGないしA
から聞いて)別件訴訟提起時十分に認識していたところであるといえること、一
方、Cの遺産には、絵画、壷、箪笥、衣類等若干の動産があったが、控訴人Bにお
いて無価値と判断して廃棄処分したこと、控訴人らは、別件訴訟の代理人弁護士に
対して数十万円の手数料を支払っていること(控訴人らは、この弁護士には、Cの
遺産たる債権債務の調査を依頼したものであるかのように供述するが)、この弁護
士も控訴人ら自身も、本件賃借権を確保しようとしたほかには、格別の遺産調査を
した形跡が見当たらないこと、概要以上の事情を認めることができ、この認定に反
する直接的な証拠はないが、例えば、右の遺産調査などに関する控訴人ら各本人の
供述中この認定の趣旨に反する部分は、信用することができず、他にこの認定を覆
すに足りる証拠はない。
 右認定事実並びに前掲各証拠及び弁論の全趣旨に現れたその他の事情に徴すると
き、控訴人らのした別件訴訟の提起追行が民法第九二一条第一号本文所定の「処
分」に当たることは明らかというべきであつて、これを疑う余地はない。すなわ
ち、別件訴訟は、Cが本件賃借権を有していたかどうかが争点ではなく、この賃借
権を控訴人G及びAがHを介して処分したかどうか、これによって控訴人ら全員と
の関係で、第三者が有効に本件賃借権を取得したかどうかが争われたものである。
そして、民事訴訟法第二〇八条第二項は、相続放棄熟慮期間中は相続人であっても
訴訟承継できないことを定めているのであって、その趣旨は、遺産たる権利義務を
実体法上「相続した」者が当該訴訟物に関する訴訟当事者適格を有するというに帰
着する。この理は、被相続人の提起した訴訟を承継する場合に限られず、相続人が
新たに訴訟を提起する場合にも妥当する。けだし、後日の相続放棄により、その相
続に関しては初めから相続人にならなかったものとみなされる(民法第九三九条)
ので、このような相続人との間で判決を確定しても、紛争が実質的に解決したこと
にならないからである。したがって、相続人が遺産についてその権利義務が自己に
帰属するとして訴訟を提起することは、その当然の前提として、これを相続し、ひ
いて相続放棄はしないことが内包されているものと見るのが相当であるから、その
ような訴訟提起自体が民法第九二一条第一号本文所定の「処分」に当たると解する
ことが可能であり、かつ相当である。もとより、例外的にそのように見ることが相
当でない訴訟かありうるかもしれないが、控訴人らの別件訴訟に関しては、右の処
分に当たると十分に認めることができ、これを不相当というべき事情は見当らな
い。控訴人らが相続財産の調査ないし管理行為・保存行為として別件訴訟を提起し
たとの主張があり、控訴人ら各本人はこれに沿う供述をしているけれども、前認定
に係る事情及びその余の前掲各証拠に対比して、信用することができない。控訴人
らが調査ないし管理行為・保存行為として又は第二次相続人のために別件訴訟を提
起したのであれば、そのことを明らかにしてこれを追行するなり、単に相続放棄し
て第二次相続人の判断に任せるなりするのが普通であるところ、自分達が相続放棄
するからといって、取り下げて済ますというのは不自然であり、無責任である(民
法第九四〇条参照)。ひっきょう、控訴人らは、正に別件訴訟において請求主張し
たとおり、自らが本件賃借権を相続取得する意思で、賃貸人に対してこの賃借権が
控訴人らに帰属することの確認を求めたものであり、これが遺産についての調査な
いし管理行為・保存行為とは認められないことは、明らかというべきである(相続
放棄するかどうかを決定するために、遺産の存否ないし内容の調査を弁護士に委任
することは通常あり得ないし、まして、本件賃借権を含むCの遺産に関して、その
取得を目的とせずに、単に調査ないし管理・保存するだけのために、弁護士に数十
万円支払うなどということも通常あり得ない。)。そして、右のような趣旨で別件
訴訟を提起し、これが前示「処分」に当たると認められる以上、その後これに勝訴
する見込みが乏しくなった、あるいは、仮に勝訴してもCの債務と対比してさほど
の利益が見込めなくなったなどの判断により訴訟を取り下げ相続を放棄した(控訴
人らの相続放棄及び訴訟取下げの動機としては、他に想定し難い。)からといっ
て、既に提起した別件訴訟の処分行為性が失われる道理はない。
 したがって、Cの動産の処分について論ずるまでもなく(Cが生前派手な生活を
していたこと、急死したものであること、本件建物で飲食店を経営していた(した
がって、相当の什器備品があったはずである)こと、控訴人ら各本人の供述によっ
ても、絵画や壷などの美術品があったこと等々からして、債務も多かったかもしれ
ないが、ある程度の動産もあったはずであるから、控訴人らが控訴人Bを通じてこ
れらを全部廃棄した(控訴人らの言い分。もっとも、にわかに信用し難い。)とす
れば、これまた、単純承認事由に当たること明白である。)、控訴人らには民法第
九二一条第一号本文所定の事由があり、単純承認をしたものとみなされることにな
る。
 二 以上の次第であって、被控訴人の従前の請求を認容した原判決は相当である
から、民事訴訟法第三八四条、第九五条、第八九条及び第九三条に従い、主文のよ
うに判決する。
 (裁判長裁判官 賀集唱 裁判官 安國種彦 裁判官 伊藤剛)

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