弁護士法人ITJ法律事務所

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         主    文
     本件各控訴を棄却する。
         理    由
 本件各控訴の趣意は各被告人の弁護人阿南主税作成名義の控訴趣意書記載のとお
りであるから、ここに之を引用し、之に対し次のとおり判断する。
 弁護人の控訴趣意第一点乃至第四点について
 原判決書によれば原判決がその理由中罪となるべき事実として各被告人に対する
法人税法違反の有罪事実を認定判示し、判示第一の罪につき被告人会社を罰金六十
万円、被告人Aを罰金十万円に、判示第二の罪につき被告人会社を罰金五十万円、
被告人Aを罰金十万円に処していることが認められる。
 これに対し所論は詳細陳述するが、要するに、(一)原判決は本件法人税法第四
十八条第一項の逋脱犯の既遂時期を法人税の確定申告後法定納期を経過した時とし
各被告人を処罰しているが、本件は法人税を免れようとした未遂行為に過ぎない。
現行法人税法は旧法の賦課課税制度を改め申告納税制度を採用したが、元来租税は
国民の間に公平に配分されなければならないから国民の自主的申告だけでその目的
を達し得るものでないことは租税の宿命的本質であつて、完全に租税の目的を達す
るためには必然的に政府による課税標準の調査等行政権の作用が要請されるもの
で、右要請により法人税法第二十九条により申告なきとき又は申告を不相当と認む
るときは政府の調査により決定し又は更正すると規定し、大蔵省設置法第三十六条
大蔵省令第七十条第七十一条等により内国税の課税標準の調査、検査、及び国民の
納税義務に関する指導監督事務と国税犯則取締法による犯罪検挙の事務を判然区別
規定している訳で、現行法人税法は申告納税制度を採用しているが、納税義務者の
申告により満足な結果を期待していないのであつて、納税義務者の申告後において
強力且つ広汎な徴税権の作用により完全な租税目的を達成することを規定している
のであるから、政府の徴税権の作用からすれば納税義務者が詐偽その他不正の行為
により納税申告書を提出しても、その後における政府の調査検査によりその不正は
発見是正され徴税目的は達成されるのであるから、法人税を免れたとの被害法益は
法人税法第十八条以下の確定申告により直ちに既遂となるものでなく未遂である。
そしてこの事は旧法人税法第二十九条の規定を廃止したからと云つて逋脱犯の要件
が変つたものとは思われない。従つて原判決は納税義務者の確定申告という単なる
未遂行為を敢て処罰した違法がある。(二)原判決は虚偽不正の申告と法人税を免
れた結果との間に因果関係がないのに、法人税法第四十八条第一項の逋脱犯として
各被告人を処罰した違法がある。本件に於て被告人会社は法人税の申告に当つて不
測の損害補填に備え売上金の一部を別口預金しこれを除外して申告したのは事実で
あるが、仮りに右行為が詐偽その他不正行為であるとしても、被告人会社は昭和三
十三年六月四日東京国税局査察官B等の来社質問を受けるや別口預金を申告から脱
漏している事実を自白し政府の徴税権の行使を誤らしめなかつたのであるから、因
果関係は中断されているのである。法人税法第四十八条第一項の逋脱犯は法定犯で
納税義務者の詐偽その他の不正行為そのものの悪性を処罰するものでなく、これ等
の行為により法人税の納付を免れ現実に国庫に損害を及ぼした結果の発生を条件と
するものであつて、右不正行為と税を免れた結果の発生との間に因果関係を要する
ものであること当然である。原判決の云うように未だ国庫に損害を及ぼした結果の
発生がないのに申告と同時に逋脱犯が既遂となるものでない。本件においては政府
の調査に当り逸早くその非違を自白しこれにより徴税権の侵害を防止し得たのであ
るから、これにより因果関係は中断し、不の虚偽申告の行為のみ残ることとなる。
而して右不正の虚偽申告行為は他の虚偽申告罪と比較しその行為自体逋脱未遂行為
に過ぎない。原判決は本件逋脱犯が結果犯であることを無視し右自白を無意味たら
しむるもので不法の判決である。(三)原判決は被告人会社が法人税法第二十四条
の修正申告をなし法人税を納付したのに尚逋脱犯として処罰した違法がある。法人
税法第二十四条は旧法人税法第二十九条の「詐偽其ノ他不正ノ行為ニ依リ法人税ヲ
逋脱シタルモノハ其ノ逋脱シタル税金ノ三倍ニ相当スル罰金又ハ科料ニ処シ直ニ其
ノ税金ヲ徴収ス但シ自首シ又ハ税務署長ニ申出デタル者ハ其ノ罪ヲ問ハズ」と規定
してあつた趣旨を踏襲したものであつてその意義は全く同一である。法人税法第二
十四条は不足額を生じた原因については特に規定するところがないから納税義務者
が詐偽その他不正の行為によつて虚偽の申告書を提出しても、その後犯意を中止
し、正当な納税義務を履行する目的で政府から更正決定の通知を受くるまでの間
は、修正申告書を提出して不足税額を納付すれば、法人税法第四十八条第一項の逋
脱犯の成立を阻却することができる旨の権利を認めた趣旨であつて、正当な税金を
納付すればこれにより国庫は充足され徴税権の目的は達せられ税金を免れた事実は
解消するのである。
 被告人会社は証拠上明らかなように昭和三十四年六月二十二日別口預金としてい
た売上金並に銀行預金利子の全部を法人税法第二十四条の規定により修正申告を
し、昭和三十四年七月一日所轄税務署長から更正決定の通知を受領するまでに、脱
漏分の法人税金三百七十五万七千八百四十円金二百五十八万九千六百五十円を納付
したのであるから、法人税法第四十八条第一項の逋脱犯の成立は阻却されたのであ
つて、右は原判決の云うように単なる情状ではない。原判決は徒らに不正の虚偽申
告書を提出し法人税を納付しないで法定納期を経過すれば逋脱犯は既遂になるとの
観念に囚われて居るのである。(四)原判決は本件が法人税法第四十八条第一項の
詐偽その他不正の行為であるとしているが、本件は法人税法第四十三条の二の加罰
要件たる仮装隠ぺいの不正行為に過ぎない。被告人会社は輸入鉄屑を取扱うものの
通弊として海外市況によつて不測の損害を蒙る場合があるので、利益の一部を損失
補償のため積立てて置いたのはこの事自体は不正ではないが、これが積立ての方法
として別口預金として決算から除外すれば法人税法上隠ぺい行為で、他の損金科目
に包含せしめて積立てれば仮装行為となる。この隠ぺい仮装による決算書に基き法
人税の申告書を提出すれば重加算税の科罰要件を充し、法人税法第四十三条の二の
重加算税たる行政罰を科せられること当然であるが、本件の場合のように別口預金
による損害準備金が全然他の目的に使用せらるることなくその侭次期事業年度に繰
越されているときは将来の損害補填に充当せられ当該事業年度の損金が減殺される
から、数事業年度を通算して考えるときは法人税を免れた結果を生じない。従つて
被告人会社の真意が損害補填準備金として別口預金をしたとしても直ちに法人税逋
脱の犯意ある行為に該当するものと断じ得ない。即ち法人税法第四十八条第一項の
詐偽その他の不正行為に該当するか必ずしも明確ではない。而も法人税を免れんと
する犯意の有無、逋脱犯の構成要件たる不正の行為に対する判断は事業年度主義に
よつて決すべきものでない。本件に於て被告人会社は次期事業年度に於て千二百二
十一万六千余円の損失を生じ、本件別口預金を右損失の補填のみに使用したこと明
らかであるから未だ以て法人税逋脱の犯意ありとは云うことはできない。若し原判
決の云うように本件に於て法人税法第四十八条第一項の詐偽その他不正行為による
逋脱犯成立すると解するときは、右不正行為と法人税法第四十三条の二の規定によ
る重加算税の処罰要件たる隠ぺい仮装の行為による申告書の提出による不正行為と
は全く同一の行為であるから、同一行為につき行政罰と刑罰とを併科することとな
り、憲法第三十九条の一事不再理の原則に反すると云うに在る。
 よつて案ずるに原判決認定の第一、第二の事実は総てその挙示する証拠により優
にこれを肯認することができ、記録を精査しても右認定が誤つているものとは思わ
れない。これにつき(一)所論は先づ右認定の売上金の一部を別口預金とし当該事
業年度の決算から除外して申告したことは法人税法第四十八条第一項の詐偽その他
不正<要旨第一>の行為に該当しないと主張するが、本件に於けるが如く法人税を逋
脱する目的で各期の売上金の一部を表勘定</要旨第一>に計上することなくこれを
別口預金とする方法により虚偽の貸借対照表損益計算書等を作成し、これに符合す
る虚偽過少の所得金額を確定申告書に記載して所轄税務署長に提出することは、法
人税の逋脱を可能ならしめる行為であつて社会通念上不正と認められる行為である
から法人税法第四十八条第一項の詐偽その他不正の行為に該当すること勿論であ
る。而して右被告人会社の所為が法人税法第四十八条第一項の逋脱犯の犯意等の点
を除外すれば法人税法第四十三条の二の加罰要件たる隠ぺい仮装の不正行為に該当
するが、被告人会社は右認定のとおり本件各事業年度の確定申告を為すに当り相当
多額の売上金の一部を別口預金としてこれを認識し乍ら敢て虚偽の貸借対照表、損
益計算書等を作成しこれに符合する虚偽過少の所得金額を確定申告書に記載して所
轄税務署長に提出したのだから逋脱犯の犯意があつたこと明白で、所論のように逋
脱犯の犯意の有無を決するに当り数事業年度を通じて考うべきものでないことは云
うまでもない。(二)次に所論は法人税法第四十八条第<要旨第二>一項の逋脱犯の
既遂時期を法人税の確定申告後法定納期を経過した時と為すべきでないと主張する
が、現行法人税法は旧法人税の賦課納税制度を廃止し申告納税制度を採
用し確定申告書の提出により申告書に記載された法人税額は自動的に確定し確定し
た以上政府は法定の納期内に該法人税の収納を為すものであるから、若し右納期内
に法人税の収納がないときは政府は収納の減少を来たし納税義務者より見れば法人
税を免れる結果となるから、法人税法第四十八条第一項の逋脱犯は納期の経過によ
り既遂犯となるものと解する。本件に於て被告人会社は原判示のように第一、第二
の各事業年度に当り前説示のような詐偽その他不正行為により法人税法第十八条第
一項の規定により申告を為すべき法人税を法定の納期を経過するも納付せずこれを
免れたこと明らかであるから、原判決には所論のような法人税を免れようとした未
遂行為を処罰した違法はない。そして所論の法人税法第二十九条の政府の調査更正
は申告納税制度の下に於ても租税の公平を期するため当然されねばならぬことを規
定したものであり、また所論大蔵省設置法第三十六条大蔵省令第七十条第七十一条
等は大蔵省内に於ける事務分掌の規定であり、所論旧法人税法第二十九条は旧賦課
課税制度の下に於ける罰則であるから、何等右見解の妨げとなるものではない。
(三)更に所論は被告人会社は法人税の申告に当つて不測の損害補填に備え売上金
の一部を別口預金しこれを除外して申告したが、被告人会社は昭和三十三年六月四
日東京国税局査察官B等の来社質問を受けるや別口預金を申告から脱漏して居る事
実を自白し、政府の徴税権の行使を誤らしめなかつたのであるから因果関係は中断
されたと主張するが、原判示のように被告人会社の昭和三十年事業年度に於ける虚
偽過少の確定申告は昭和三十一年五月三十日昭和三十一年事業年度における虚偽過
少の確定申告は昭和三十二年五月三十日夫々所轄神田税務署に提出され、法定納期
たる各四月一日から二箇月の経過により夫々当該法人税を免れ本件逋脱犯は既遂と
なつたもので、前記詐偽その他の不正行為による申告と納期の経過により法人税を
免れた結果との間に因果関係のあることも明白である。所論は右既遂になつてから
後、而も一年乃至二年経過しに後の自白を以て因果関係が中断されたと主張するも
のでその理由なきこと自ら明白で所論法人税法第四十九条第一号は到底右因果関係
が右自白まで継続しているとの論拠とならない。(四)また所論は被告人会社は法
人税法第二十四条の修正申告を為し法人税の納付を為したのだから本件逋脱犯の成
立は阻却<要旨第三>されると主張するが、本件逋脱犯は前説示のとおり第一は昭和
三十一年五月末、第二は昭和三十二年五月末の経過により成立している
のであるから、記録上明らかなように被告人会社に於て法人税法第二十四条の修正
申告により前記東京国税局の調査後から昭和三十四年七月一日更正決定を受くるま
での間に脱漏分の法人税を納付したとしても、右は本件逋脱犯の成立後であつて本
件逋脱犯の成立を左右する事由とはならない。右法人税法第二十四条の修正申告に
ついては過少申告加算税等の不徴収等の措置を講じているに止まり、特に明文を以
て逋脱犯成立後これにつき不論罪を規定していないので、所論のように旧法人税法
第二十九条但書の不論罪を踏襲したものとはみられない。旧法人税法第二十九条但
書は明文を以て逋脱犯成立後これにつき自首しまたは税務署長に申出でたときはそ
の罪を問わずと規定しているからである。(五)所論は、本件逋脱犯の詐偽その他
の不正行為は法人税法第四十三条の重加算税の処罰要件たる隠ぺい仮装の行為によ
る申告書の提出の不正行為と同一で被告人会社は行政罰と刑罰とを併科され憲法第
三十九条の一事不再理の原則に反すると云うが、各種税法は特別の性質を有する間
接税に於ける通告処分を除き所論重加算税等の行政罰の外更に刑事罰を科すること
となつているのであつて、法人税法もこれが例外ではないから本件逋脱犯に於ても
刑罰の外その所為が法人税法第四十三条の二に該当するに於ては同条の重加算税を
課し得べく、審法第三十九条の一事不再理の原則は刑罰のみに関する規定であるか
ら同一行為について刑罰の外重加算税等の行政罰を科しても憲法に違反しない。以
上のとおり原判決には所論のような事実の誤認乃至法令適用の誤はない。論旨は理
由がない。
 よつて本件控訴は理由がないから刑事訴訟法第三百九十六条により之を棄却する
こととし、主文のとおり判決する。
 (裁判長判事 山田要治 判事 滝沢太助 判事 鈴木良一)

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