弁護士法人ITJ法律事務所

裁判例


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         主    文
     本件上告を棄却する。
     上告費用は上告人の負担とする。
         理    由
 上告代理人山本敏雄の上告理由第一点について。
 所論の指摘する被控訴代理人提出の昭和三九年六月九日附、同日の原審口頭弁論
期日において陳述された準備書面には、「控訴人A被控訴人B。右当事者間の昭和
三五年(ネ)第一四一一号家屋明渡等請求控訴事件につき、被控訴代理人は答弁の
趣旨中左の如く趣旨の拡張を求める。答弁の趣旨。原判決中被控訴人敗訴の部分(
即ち本件家屋の一階の部分)、の明渡を求める。」と記載してある。原審裁判所昭
和三五年(ネ)第一四一一号事件は、奈良地方裁判所昭和三二年(ワ)第一六四号
事件判決に対し被告Aの控訴申立にかかる事件であること記録上明らかであるから、
前記の記載によつても附帯控訴の対象である第一審裁判所の判決を知ることができ
る。また、右記載により、第一審判決の原告敗訴部分中、本件家屋の二階の明渡を
求める原告の請求を棄却した部分を取消し、右請求を認容する判決を求める旨の附
帯控訴の趣旨も表現されているものというべきであるから、これを適法な附帯控訴
状として被控訴人より前記の趣旨の附帯控訴がなされたものとした原審の判断に所
論の違法がなく、右書面の表題として「準備書面」と記載せられていても、それは、
右判断の妨げとなるものではない。
 論旨は採用できない。
 同第二点について。
 本件家屋が原判決判示のように老朽化していることは、その挙示の証拠により肯
定し得られ、右事実によれば、被控訴人(被上告人)のなした判示本件家屋賃貸借
契約解約申入に正当事由があるとした原審の判断は正当であつて、原判決に所論理
由不備審理不尽の違法がない。
 論旨は採用できない。
 同第三点について。
 被上告人において、本件家屋の賃貸借契約上当然尽すべき家屋修理義務を尽さず、
もつて本件家屋を腐朽せしめた旨の事実は、上告人が原審で主張しなかつた事実で
あるから、これをもつて原判決を非難することは許されない。そして、上告人にお
いて所論のように自ら本件家屋の修理をなしたとしても、それだけでは原判決の結
論を左右するに足るものではないのであつて、原判決に所論の審理不尽、理由不備
の違法もしくは法律の解釈を誤つた違法がない。
 論旨は採用できない。
 同第四点について。
 期間の定めのない建物の賃貸借契約において、建物の賃貸人が賃借人に対し賃貸
借契約解約の意思表示をなしたときは、右解約につき正当の事由のある場合に限り、
六ヶ月の経過と共に右賃貸借契約が終了することは、民法六一七条、借家法一条ノ
二、同六条一項により明らかである。右賃貸借の終了にかかわらず、賃借人が建物
の使用または収益を継続し、賃貸人がこれに対し遅滞なく異議を述べないため、期
間満了の際、前賃貸借と同一の条件をもつて更に賃貸借をなしたものとみなされる
ことは(借家法三条二項、同二条一項参照)、右賃貸借終了の効果を排除する原因
であるが、原判決は、本件建物賃貸借契約の終了は、原審口頭弁論終結後に生ずる
旨を判示しているのであるから、原審口頭弁論終結時までに、本件建物の賃貸人た
る被上告人において前記異議申述をなすに由なく、従つてまた、この点を顧慮しな
い原判決をもつて違法ということはできない。(かりに、本件建物賃貸借契約の終
了後、賃借人たる上告人において建物の使用収益を継続し、被上告人がこれに対し
遅滞なく異議を述べないため、更に賃貸借をなしたものとみなされたとすれば、そ
のときは、上告人は、請求異議の訴をもつて本件判決による建物明渡の執行を阻止
し得るから、上記のように解しても、賃借人の保護に欠けるところがないこという
までもない。)
 論旨は採用できない。
 よつて、民訴法四〇一条、九五条、八九条に従い、裁判官全員の一致で、主文の
とおり判決する。
     最高裁判所第三小法廷
         裁判長裁判官    石   坂   修   一
            裁判官    五 鬼 上   堅   磐
            裁判官    横   田   正   俊
            裁判宮    柏   原   語   六
            裁判宮    田   中   二   郎

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