弁護士法人ITJ法律事務所

裁判例


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         主    文
     本件上告を棄却する。
     上告費用は上告人らの負担とする。
         理    由
 上告代理人原田左近の上告理由第一点について。
 当事者の主張した契約と原審認定の契約との間に同一性が認められる限り、その
間たとえ契約成立の日時、履行期等につき多少くい違いがあつても、当事者の主張
しない事実にもとづいて裁判をした違法があるとはいえない(昭和二二年(オ)第
二一号同二三年四月二〇日第三小法廷判決裁判集民事一号一三五頁参照)。
 本件についてこれをみるに、原審において本件土地に対する所有権移転登記手続
をなすべき履行期について、被上告人(反訴被控訴人)は履行期の定めがなかつた
と主張し、上告人(反訴控訴人)らは昭和二六年六月末日本件土地売買代金の支払
と引換に右登記手続をする約定であつたと主張したのに対し、原審が、同日までに
代金四万四千円の支払と引換に遅滞なく本件土地全部について、所管県知事から売
買の許可を得た上、被上告人名義の所有権移転登記手続をする約定であつた旨認定
したのである。しかし、本件売買契約の日時、代金、目的物件等については当事者
双方の主張と原審の認定とが一致すること原判示により明らかであつて、本件にお
いては当事者の主張した契約と原審認定の契約との間に同一性が認められるので、、
前述の如きくい違いをもつて当事者の主張しない事実を認定した違法があるとはい
えない。
 なお所論は、乙一号証(売渡証書)について何ら説明を加えず証人Dの証言のみ
で本件当事者間で本件土地について所管県知事から売買の許可を得た上、被告(被
上告人)名義の所有権移転登記手続をする約定であつた旨認定したのは、理由不備
の違法があるというけれども、論旨は原審の専権に属する証拠の取捨判断及び事実
認定を非難するにすぎず、採用するをえない。
 同第二点について。
 原判決の所論各説示はいずれも正当であつて、理由そごないし改正前の農地調整
法四条の解釈を誤つた違法は存しない。論旨は、原判決を誤解し独自の見解にもと
づき原審の適法な判断を論難するものであつて、採用するをえない。
 同第三点について。
 論旨は、原判決には要素の錯誤に関する上告人の主張に対する判断を逸脱し、且
つ履行不能についての解釈を誤つた違法があると主張するが、
 (1) 要素の錯誤について。
 要素の錯誤についての上告人の一審における主張は「第二号土地は現に訴外Eが
小作中のものであつて原告等が同訴外人から該土地の返還を受けてその所有権と占
有権を被告に移転することは不可能であるから被告主張の同土地を包含する売買契
約は要素に錯誤がある無効のものである。」というのであるが、一審判決は、「第
二号土地の小作契約を解除(勿論許可を必要とする)して其の返還を受けた上被告
に対し売主としての義務の履行を為し得ることを窺い得られるから被告のこれと反
対の見解を持し本件売買は要素に錯誤があるものとする主張も亦理由がない。」と
して右主張を排斥した。
 上告人は原審において要素の錯誤の主張を補足して「第二号土地を第一審被告に
引渡すことは右売買契約の要素であつたが、双方の予期しない小作人Eの明渡拒否
により当時これを引渡すことができなかつた。若し斯様な事態の生ずることが事前
にわかつておれば双方とも右売買契約を締結しなかつた筈であるから、これは明ら
かに売買契約の要素に錯誤があつたことになり契約は無効である。」と主張したの
に対し、原判決は「第二号土地についても必ずしも引渡不能でなく要素の錯誤は存
しないとすること原判決(一審判決)認定の通りであるから右主張も採用できない。」
として上告人の右主張を排斥した。
 しかしながら、小作人が現在耕作中の農地の売買において小作人がその農地を返
還するか否かは現実の明渡が行われるまでは売主においてこれを確実に保証するこ
とは困難なことであり、本件において本件農地の売買当時に小作人Eが第二号土地
を上告人に返還することを確約したことは原審において上告人の主張しないところ
である。そうすると、本件売買にあたり被上告人において第二号土地の引渡が小作
人の明渡拒否により困難であろうことは予測しえたことといえよう。しかも、本件
農地の買主である被上告人の農地引渡請求に対して売主である上告人が小作人から
の返還をえられないことを理由に要素の錯誤による契約の無効を主張するのは取引
の実情にそぐわないものというべく以上の点を考慮の上、「第二号土地について要
素の錯誤なし」と判示した原判決はその意を尽さない憾があるけれども、上告人が
本件売買契約について要素の錯誤があるとして主張する事実は認めえないという趣
旨に解せられないことはない。そうすると、原判決には所論の違法は存しない。論
旨は採用できない。
 (2) 履行不能について。
 所論は原判決は履行不能の解釈を誤つた違法があるという。履行不能の問題は前
説示のとおり上告人が一審において要素の錯誤の抗弁の内容として本件第二号土地
の売買は小作人Eの明渡拒否により被上告人に対する右土地の引渡が履行不能であ
ると主張したのに対し、原判決(一審判決を引用)が右土地引渡は履行不能でない
と判示したものである。要素の錯誤についての原審の判断が前段説示により正当と
解されるならば、右履行不能についての原審の判断は首肯するに足るから、いずれ
にしても論旨は採用するをえない。
 よつて、民訴四〇一条、九五条、八九条、九三条に従い、裁判官全員の一致で、
主文のとおり判決する。
     最高裁判所第三小法廷
         裁判長裁判官    五 鬼 上   堅   磐
            裁判官    河   村   又   介
            裁判官    垂   水   克   己
            裁判官    石   坂   修   一

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