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平成25年3月19日判決言渡同日原本領収裁判所書記官
平成23年行ウ第2号旅費等返還請求事件
口頭弁論終結日平成25年1月22日
判決
主文
1原告らの請求をいずれも棄却する。
2訴訟費用は原告らの負担とする。
事実及び理由
第1請求
被告は,Aに対し89万9847円を,Bに対し89万9658円を,Cに対し
89万9523円を,Dに対し107万0174円を,Eに対し107万0174
円を,Fに対し107万0174円を,Gに対し107万0174円を,Hに対し
107万0174円を,Iに対し17万0844円を,Jに対し17万0844円
を,Kに対し11万7198円を,それぞれ山梨県に支払うよう請求せよ。
第2事案の概要
本件は,山梨県議会の議員らが,アメリカ及びエジプト等への海外研修を実施し
て旅費の支給を受け,あるいは,韓国及び屋久島への調査研究に政務調査費を充当
したことに関して,山梨県の住民である原告らが,前記海外研修等は私事旅行と何
ら差異がなく,地方自治法(以下「法」という。)100条13項ないし同条14
項の要件を満たしていないため,前記議員らが山梨県から支給を受けた旅費等は不
当利得となるにもかかわらず,山梨県がその返還を請求しないことは違法な財務会
計行為であるなどと主張して,法242条の2第1項4号により,同県の執行機関
である被告に対し,不当利得等に基づいて,前記議員らに対し前記第1記載の金員
をそれぞれ返還請求するよう求めた住民訴訟の事案である。
1前提となる事実(証拠を記載したもの以外は当事者間に争いがない。)
当事者等
原告らは,いずれも山梨県の住民である。
被告は,山梨県の執行機関である。
A,B,C,D,E,F,G,H,I,J及びKは,平成21年及び平成22
年当時,いずれも山梨県議会の議員であった。
法令等の定め
ア山梨県議会会議規則(乙1)
122条法第100条第13項の規定により議員を派遣しようとすると
きは,議会の議決でこれを決定する。ただし,緊急を要する場合は,
議長において議員の派遣を決定することができる。
2前項の規定により,議員の派遣を決定するに当たっては,派遣の
目的,場所,期間その他必要な事項を明らかにしなければならない。
イ山梨県議会研修要綱(乙2)
第1条(趣旨)
山梨県議会議員(以下「議員」という。)及び事務局職員(以下「職員」
という。)に対して所要の研修を実施することにより,議会運営及び議会審
議等の資質の向上を図り,もって,県民福祉の増進に資するものとする。
第2条(議員研修の区分)
議員に対して実施する研修は次の区分による。
海外研修
県政にかかわる分野及びこれに関連する分野について,海外事情の調
査,研究。
第6条(海外研修の実施方法,費用及び手続)
議員の海外研修の実施方法,費用及び手続きは次による。
実施方法
ア研修は,原則として複数の議員による研修団を編成し,県政にかか
わる事項及びこれに関連する事項について調査・研究することにより
実施するものとする。
イ研修は,一つの任期について原則として一回以内とし,毎年度予算
の範囲内で派遣するものとする。
費用
ア旅費の支給額は「山梨県議会議員の報酬及び費用弁償等に関する条
例」に基づき算定した額とする。ただし,その最高限度額は,一人,
90万円とする。
イ一回の旅行額が90万円に満たない場合は,残額を限度として同一
期中に限り再度研修することができる。この場合も原則として研修団
により実施するものとする。
申込
研修をしようとする議員は予め「海外研修申込書(様式1)」に研修
計画,旅行日程,見積書,その他参考資料を添えて議長に提出するもの
とする。
決定
議長は研修の申し込みがあったときは,内容を審査し,適当と認める
ときは,「山梨県議会会議規則」第122条に基づき,これを決定する
ものとする。
終了
研修が終了したときは直ちに「海外研修終了届(様式3)」を議長に
提出するものとする。
報告
研修が終了したときは速やかに,①研修の日程,研修者の氏名,②研
修地の概況,③研修の目的,内容,成果等を主題とする「海外研修報告
書」を議長に提出するものとする。
成果の公表
議長は提出された「海外研修報告書」を他の議員等に対して開示する
ものとする。
ウ山梨県議会議員の派遣についての申し合わせ(乙3)
1(議員派遣の範囲)
会議規則第122条に規定する議員の派遣は,次のいずれかに該当するも
のとする。
地方行政又は議会の制度運営等に関する海外諸国の事情調査及び研修
又は友好都市提携等を行っている外国の議会等の招聘による訪問
エ山梨県政務調査費の交付に関する条例(乙4)
第2条(政務調査費の交付対象)
政務調査費は,会派(所属議員が一人の場合を含む。以下同じ。)及び議
員の職にある者に対し交付する。
第3条(会派に係る政務調査費)
会派に係る政務調査費は,月額5万円に当該会派の所属議員数を乗じて得
た額を当該会派に対し交付する。
第8条(政務調査費の交付)
知事は,前条の規定により交付決定した会派及び議員に対し,毎月,当該
月分の政務調査費を交付するものとする。
第9条(政務調査費の使途)
会派及び議員は,政務調査費を別に定める使途基準に従い使用しなければ
ならない。
第10条(収支報告書等)
1会派の代表者及び議員は,毎年度当該年度の収入及び支出について,別
に定める政務調査費に係る収入及び支出の報告書(以下「収支報告書」と
いう。)を,年度終了日の翌日から起算して30日以内に議長に提出しな
ければならない。
4前3項の収支報告書には,当該収支報告書に記載された政務調査費によ
る支出(前条に規定する使途基準に従って行った支出をいう。第12条に
おいて同じ。)に係る領収書の写しその他別に定める書類を添付しなけれ
ばならない。
オ山梨県政務調査費の交付に関する規程(乙5)
第4条(政務調査費の使途基準)
条例第9条の使途基準は,会派に係る政務調査費については別表第1,議
員に係る政務調査費については別表第2のとおりとする。
別表第1(抜粋)
項目内容
調査研究費調査委託費,交通費,宿泊費等の会派が行う県の事務及び地方
行財政に関する調査研究費及び調査委託に要する経費
カ政務調査費の使途基準の運用指針(抜粋)(乙6)
項目使途基準(規程第4条)対象経費充当可能な例
調査研
究費
調査委託費,交通費,
宿泊費等の会派が行う
県の事務及び地方行財
政に関する調査研究費
及び調査委託に要する
経費
調査委託費
交通費
・鉄道
・バス
・タクシー
・航空機
・船舶
・レンタカー
・高速道路代
・駐車場代
○学識経験者,シン
クタンク等への
調査委託
○海外調査・県外調
査・県内調査
・先進国視察
・先進都道府県
視察
・○○研究所視

・ガソリン代
宿泊費
人件費
その他必要と認めら
れる経費
・現地実態調査
・被災状況聴取
充当に適さない経費の例運用指針(抜粋)
○観光・レクリェーション目的
の旅行に要する交通費等
○政党活動,選挙活動等に係る
交通費等
3.海外調査
海外調査は,調査目的が明確であり,
日程が合理的なものとすること。
海外研修等の実施
アA,B及びCは,山梨県議会議長(以下「議長」という。)の派遣決定を受
けて,平成22年1月17日から同月23日まで,海外研修としてアメリカを
訪問した(以下「本件アメリカ研修」という。)。
イD,E,F,G及びHは,議長の派遣決定を受けて,同年4月21日から同
月29日まで,海外研修としてエジプト及びトルコを訪問した(以下「本件エ
ジプト等研修」という。)。
ウI,D,E,F,J,G及びHは,平成21年7月20日から同月22日ま
で,政務調査費を用いた調査研究として韓国を訪問した(以下「本件韓国視察」
という。)。
エD,K,I,E,F,J,G及びHは,同年12月16日から同月18日ま
で,政務調査費を用いた調査研究として鹿児島県の屋久島を訪問した(以下「本
件屋久島視察」という。)。
住民監査請求
原告らは,平成23年2月14日,山梨県監査委員に対し,本件アメリカ研修
等の外形が私事旅行と差異がなく,公金を支出して行われるべきものではないな
どとして,本件請求の趣旨と同旨の勧告を求める住民監査請求をしたが,山梨県
監査委員は,同年4月13日,原告らの請求に理由がないとして,これを棄却し
た。その際,同監査委員は,海外研修の財源が公費であることにかんがみ,その
成果が議員個人や議会のみならず,県民に還元されるべきものであるとして,議
長に対し,派遣目的や日程等について一層厳正な審査に努めること,視察目的を
できる限り詳細・具体的に記載することにより,視察目的の明確化を図るととも
に事前の検討・準備を十分に行うよう努めること,報告書の記載にあたっては,
研修の成果を十分に反映し,視察内容の適切な報告に努めることなどの意見を述
べた。(甲5の1・2)
2争点及び争点に関する当事者の主張
本件アメリカ研修は法令の定める議員派遣の要件を満たすか。
(原告らの主張)
ア山梨県議会研修要綱は,海外研修について,「県政にかかわる分野及びこれ
に関連する分野について,海外事情の調査,研究」とした上で,その実施方法
につき,「研修は,…県政にかかわる事項及びこれに関連する事項について調
査・研究することにより実施するものとする」と定めている。これらの規定は,
法100条13項の「議案の審査又は当該普通地方公共団体の事務に関する調
査のためその他議会において必要があると認めるとき」という要件を山梨県に
おいて公権解釈して定立された規範である。
観光地を訪問して知識・見識を高めることが県政に資するというような抽象
的見解が正当化されるとすれば,法100条13項が議員の海外研修に制限を
設けた趣旨が没却される。議員らによる観光地訪問の必要性については,訪問
先と研修目的・課題との関連性のみならず,関係者から説明を受けたか否かな
どの視察方法や視察内容という側面に基づいて,県政との関連で必要性がある
のか,慎重に審査されるべきである。
本件アメリカ研修は,以下にみるとおり,各目的や企画は旅行会社任せであ
り,かつ目的に具体性がなく,全く抽象的であること,実際の行動は一般の観
光客のそれと同じか,あるいはそれ以下であって,成果は単にインターネット
を貼り付けただけのおざなりの報告だけで,具体的な成果は皆無である。
イ研修目的について
山梨県議会議員海外研修申込書の研修目的欄には,本件アメリカ研修の目的
について,「米国と日本の輸出入の調査。本県は農業,果樹生産県であり,農
業大国米国の農業事情について視察いたします。」と記載されており,この研
修目的について,研修申込後,派遣決定後に変更・追加手続は採られていない。
そうだとすれば,本件アメリカ研修の目的は,①輸出入調査,②農業事情視察
である。
しかしながら,研修実施後に作成された視察報告書には「観光行政視察」と
いう記載がなされており,本件アメリカ研修において,海外研修申込書になか
った観光行政視察が行われたことになる。これは研修目的外である。
山梨県議会会議規則122条2項は,法100条13項を受けて,「議員の
派遣を決定するに当たっては,派遣の目的,場所,期間その他必要な事項を明
らかにしなければならない。」と定めており,さらに山梨県議会研修要綱,山
梨県議会議員の派遣についての申し合わせには,研修をしようとする議員は,
予め海外研修申込書に研修計画,旅行日程等を議長に提出すべきこと,議長は
研修申込があった場合には内容を審査し,適当と認めるときは研修に議員を派
遣する決定をすることが規定されている。そして,海外研修申込書には研修目
的欄が設けられており,内容の審査においてはかかる箇所の記載により審査さ
れる。
このことからすると,議員の派遣決定は,海外研修申込書に記載され,決定
段階で明らかにされた目的に沿う研修へ議員を派遣することを決定するもの
であるから,当該申込書に記載されておらず,派遣決定において明示されなか
った目的を研修目的とすることはできない。
なお,山梨県会議規則122条2項が恣意的な議員派遣を抑制せんとした趣
旨に照らせば,議員らは派遣決定において明らかにされた派遣目的に従って行
動せねばならず,議員の独断で派遣目的を変更することは許されないというべ
きである。仮に,研修先の都合で派遣決定後に研修目的を変更しなければなら
ない事情が生じた場合であっても,上記の趣旨からすれば,それが真に公務視
察といえるだけの手続・内容を備えていなければならない。
本件に関して見ると,本件アメリカ研修の実施前後に亘って,観光行政視察
の是非を議会ないし議長が検討した形跡がない。議員らは,メトロポリタン美
術館等を訪問した際,山梨県議会議員たる身分や観光行政視察の目的を明らか
にした上で施設関係者や行政担当者と面談するなどの行動を一切しておらず,
視察態様が一般観光客と異なるところがない。また,議員らがアメリカ滞在中
に,本来の研修目的であるアメリカと日本の輸出入の調査・農業事情調査に費
やされたのは財団法人自治体国際化協会ニューヨーク事務所(以下「CLAI
RNYC事務所」という。)を訪問した1時間のみであり,観光施設巡りに
費やした時間の方が圧倒的に多く,本来の研修目的とで重要性が逆転している。
観光が山梨県にとって重要な産業であり,議員らがかねてより観光行政視察に
強い関心を抱いていたのであれば,申込書提出の時点でそれを目的に記載した
はずであるから,議員らの観光行政視察という目的意識の低さが明らかである。
これらに照らすと,視察報告書中の「観光行政視察」という記載は,本来の
研修目的からは合理性の見出せない視察先を見学したことを正当化するため
後から付け加えたにすぎない。観光行政視察として議員らが訪れた施設の見学
は,本来の研修目的との関連性がなく,私的観光というべきであり,仮に観光
施設見学により議員らの見聞が広まることがあっても,そのような効果は公
的・私的を問わず旅行一般に生ずるものであるから,公務性を基礎付ける理由
とはならない。
ウ行程・訪問先について
前記イのとおり,本来の研修目的と無関係な観光地訪問は単なる私的観光に
すぎないが,仮に観光行政目的が正当化されるとしても,以下に述べるとおり,
議会の議案の審査等に資する情報収集は行われていないため,その実態は視察
に名を借りた私的観光であり,派遣の必要性は存在しない。
行程表によると,1日目の訪問先はメトロポリタン美術館,グランドゼロ,
自由の女神とされているが,これらは世界的に有名な観光地であり,議員ら
はこれらの施設で担当者から説明を受けるなどの視察を基礎付ける行動を
採っておらず,一般観光客と同様の見学しかしていない。
2日目のワイナリーPindarでの研修目的は「カリフォルニアワイン
の生産の状況と米国の消費の現状」であるが,当該ワイナリーはカリフォル
ニアから遠く離れたニューヨーク州ロングアイランドに位置するものであ
る。カリフォルニアワインの生産状況を調査するのであれば,それに関する
情報を保有しているカリフォルニアの施設を視察するべきであり,研修先の
選択からして問題外である。なお,米国で生産されるワインの89パーセン
トはカリフォルニアで生産されており,ニューヨーク州のワイン生産量は4
パーセントにすぎない。研修目的よりも先に訪問したい都市を決め,その後
に研修目的を後付けしたという疑いを持たれても仕方がない行動である。ま
た,この施設は旅行者がワインの試飲をするための観光施設であるから,ニ
ューヨーク州の農業事情を視察するのであれば,より適切な施設を選択すべ
きである。
報告書によれば,議員らは葡萄畑の見学で単に写真撮影をしただけであり,
担当者から米国の農業事情を聴き取る等の行動をしていない。同日は,ワイ
ナリーPindarの視察に2時間費やしただけで,残りは移動時間と自由
時間であって,このような実質に乏しい研修を丸1日かけて行う必要はない。
3日目にはJTBニューヨーク支店を訪れているが,株式会社JTBは東
京を本拠地とする企業であり,支店の情報は本店に集約されているから,東
京の本店で情報収集すれば足りる。報告書の内容も貧弱であり,わざわざ現
地の支店を訪れなければならない必要性は読み取れない。報告書には「訪日
外客数・出国日本人数」等の資料が掲載されているが,これらはホームペー
ジをそのまま貼り付けただけであり,現地調査の必要性があるとは到底思わ
れない。また,JTBニューヨーク支店での研修の様子として掲載されてい
る写真は,CLAIRNYC事務所での研修の写真である。そもそも,議
員らの報告書では前記訪日外客数のうち何名が山梨県に来訪したかなどの
山梨県の観光に関する情報が全く記載されておらず,これらについて何ら聴
取したことがうかがわれない。
同日にはCLAIRNYC事務所も訪問しているが,当該事務所は東京
都千代田区に所在する財団法人自治体国際化協会の海外事務所であるから,
日本で報告を受ければ足り,現地調査の必要性は何ら見受けられない。仮に
現地調査が必要となる事項が存在したとしても,当該協会では地方公共団体
の調査依頼を受けて必要な調査及び情報提供をすることを行っているから,
調査依頼で十分に足りる。
議員らは,CLAIRNYC事務所を午後12時に出た後,専用車でカ
ジノ等が盛んな観光都市であるアトランティックシティに向かい,そこで一
泊しているが,同所では自由行動をしたのみで行政視察はしていない。ニュ
ーヨークからワシントンD.C.(以下「ワシントン」という。)へは直通の
特急列車を使うことが可能であり(アセラ・エクスプレスを利用すれば所要
時間2時間47分である。),それを利用すれば当日のうちにワシントンへ到
着できるにもかかわらず,議員らはあえてアトランティックシティを経由し
て合計21時間47分かけて移動しており,このような移動経路及び移動手
段を選択すること自体著しく不合理である。
4日目及び5日目には,ワシントンにおいて,アメリカ合衆国議会議事堂,
アーリントン国立墓地,ホワイトハウス,リンカーン記念堂,LEED認定
施設リンカーンコテージ,スミソニアン博物館,ユニオンステーション及び
ワシントン市内の大型商業施設を訪問している。これらの訪問先を訪問する
こと自体,輸出入調査もしくは農業事情視察とは明らかに関連性を欠く。ま
た,これらの訪問先は,すべて観光地として有名な施設であり,担当者から
の説明も受けていないのであるから,山梨の観光行政に資するような情報収
集は一切行われておらず,一般の観光旅行者と何ら相違がない。結局,ワシ
ントンにおいては,研修目的に沿った研修は全く行われていないのである。
なお,報告書によれば,ユニオンステーションへの訪問は石和地域駅前再開
発のためとされているが,石和温泉駅はJRのみが使用しており,ユニオン
ステーション(共同使用駅)ではなく,ワシントンユニオンステーションと
は規模も極端に異なるから,これを見学しても石和温泉駅の駅前開発の参考
とはならない。
エ報告書の記載内容について
議員らは研修後に「アメリカ視察・報告書」を提出したが,この報告書13
頁で議員らが訪問したとされるワイン専門店は本件アメリカ研修が実施され
る以前に既に閉店しており,報告書の上記記載はホームページの盗用であるこ
とが判明した。この事実がテレビ報道された後,議員らは慌ててかかる箇所を
削除した報告書を提出したが,報告書が研修実施直後に作成される書面である
ことやその重要性にかんがみれば,研修実施前に参考にした資料を誤って掲載
するはずはない。議員らが前記のような記事を載せたのは,内容のない調査を
充実したもののように見せかけるため,意図的に行ったものとしか考えられな
い。
報告書の内容には他にもいい加減な部分が多く,ニューヨークワインの報告
が記載されている頁に突如としてカリフォルニアワイン生産地の図や表が掲
載されており(これもホームページの地図等をそのまま貼り付けたものであ
る。),何を報告したかったのか,全く意味不明である。訂正された報告書では,
最初の報告書においてJTBニューヨーク支店での研修の様子として掲載さ
れていた写真がCLAIRNYC事務所での研修の様子を撮影した写真に
差し替えられていたり,掲載されていなかった報告が掲載されているが,新し
く掲載された資料もホームページや他の資料の転用にすぎない。このような報
告書をもって,記載内容どおりの視察が行われたことを基礎付けることはでき
ない。
オ以上より,本件アメリカ研修は,その日程のうちのほとんど全てが研修の目
的とされていない観光地巡りに費やされており,しかも,山梨県議会の議案の
審査又は山梨県の事務に資するような情報収集は行われていないことから,単
なる私的観光にすぎない。単なる観光旅行との相違を示す訪問先として,JT
Bニューヨーク支店及びCLAIRNYC事務所への訪問があるとしても,
これらの滞在時間は合計2時間にすぎず(アメリカでの滞在時間は約120時
間),議員らの目的が視察でなかったことは明らかである。
よって,本件アメリカ研修は,法100条13項に規定された議員派遣の要
件を満たしていない。
(被告の主張)
ア山梨県議会会議規則122条1項は,法100条13項を受けて,議員の派
遣は議会が決定すること(緊急を要する場合は議長の決定),議員の派遣を決
定するに当たっては,派遣の目的,場所,期間その他必要な事項を明らかにし
なければならないことを定め,山梨県議会研修要綱は,申込書の提出方法及び
研修報告書の作成等を定めている。
イ本件アメリカ研修は,あらかじめ議員らから提出された海外研修申込書に基
づいて議長が派遣を決定した。当該申込書には,研修の目的について「米国と
日本の輸出入の調査,本県は農業,果樹生産県であり,農業大国米国の農業事
情について視察いたします。」との記載があり,具体的な視察日程の詳細及び
経費見積書が添付されている。
本件アメリカ研修に参加した議員が,アメリカと日本の輸出入あるいは農業
事情について視察したいと考えた主な意図は,まさに山梨県の主要産業が果樹
あるいはこれに関連してワイン産業であるところ,農業大国であるアメリカ合
衆国におけるこれらの実情を視察したいということにあった。これに加え,議
員は,農業生産の実情のみならず,特にワインの輸出入に関する貿易実情や,
同じく山梨県の主要産業である宝飾業に関するアメリカ合衆国における対日
本との間の輸出入の実情について関心を有しており,これらを視察したいとい
う意図を持ち,本件アメリカ研修を企図したものである。
さらに,山梨県が富士山を始めとする自然遺産,ワイン産業,美術館等の施
設を有し,観光立県を目指していることをふまえ,視察先としてJTBニュー
ヨーク支店を選定している。議員としては,近年の国際化に伴う観光客の流れ
の傾向,外から見た日本あるいは山梨県という観点での問題点を意識し,観光
実態について調査したいとの意図によるものである。また大型商業施設のあり
方といったテーマも関心事であった。
以上のような企画,意図をもって議員らは,本件アメリカ研修の申込みを行
い,その研修目的,あるいは視察先及び視察日程の詳細が承認されたものであ
り,研修に参加した議員は,かかる承認された視察日程に従って視察,研修を
行ったものである。
なお,事前の研修申込書の目的記載欄に,例えば観光に関する文言が記載さ
れていないということから,直ちに観光の視点で行われた視察が違法になると
は思われない。観光に関する関心は,JTBニューヨーク支店が主要視察先と
して記載され,また,視察日程中には全ての視察先が記載されており,これら
を前提として判断すれば,承認された趣旨を没却するようなものとは考えられ
ない。
ウ本件アメリカ研修の具体的な行程は以下のとおりである。
平成22年1月17日は,ニューヨークへ移動した後,市内を視察し,メ
トロポリタン美術館,グランドゼロ及び自由の女神を見学した。
同美術館はコレクションの幅が極めて広く,あらゆる時代,地域の作品を
収集しており,山梨県立美術館の今後の方向性等について参考となった。
同月18日は,ロングアイランドを視察し,ワイナリーであるPinda
rを訪問してニューヨークワインの生産の現状等を視察した。
Pindarはニューヨークワインの代表的なワイナリーであり,カリフ
ォルニア州に比してワイン生産の歴史は浅いが,マンハッタンから近距離で
あるという地理的優位性のため,都市生活者の人気が高い。現在,山梨県に
おいて,固有種である甲州種によるワイン生産,輸出が展開中であり,かか
る山梨県のワイン振興にとって参考となった。
なお,議員らの提出した報告書の記載はやや不正確である。議員らは,カ
リフォルニアワインの全体状況についてはCLAIRNYC事務所で研
修,調査し,新興勢力であるニューヨークの生産,販売状況についてPin
darで視察した。
同月19日は,JTBニューヨーク支店を訪問した。国別の訪日外客数等
のデータに基づき,アメリカから日本を訪れる観光客の現状,山梨県に対す
る観光の志向や問題点についての担当者から説明を受け,山梨県の観光行政
のあり方としていかなる対応が必要か検討を深めることができた。
その後,CLAIRNYC事務所を訪問し,アメリカにおける果樹(葡
萄・桃等)の生産状況及び輸出にあたっての課題,アメリカにおけるワイン
の輸入状況,アメリカにおける宝飾品の日本との輸出入の状況等ついて担当
者から説明を受けるなどした。山梨県の主要産業の今後の方向性について検
討を深めることができた。
アトランティックシティは,ニューヨーク等の大都市に近接する地理的優
位性を生かした古くからの観光都市で,カジノだけでなく,ボードウォーク
を活用した観光振興に積極的に取り組んでおり,山梨県の観光振興に役立つ
ヒントを求めて訪れた。なお,カジノを目的として訪れたものではない。
同月20日は,宿泊地のアトランティックシティから移動後,半日ワシン
トン市内を視察した。主な視察場所は,ユニオンステーション(同月21日
の訪問予定であったが,20日に訪問した。),国会議事堂,アーリントン墓
地,ホワイトハウス,リンカーン記念堂の5か所であった。アトランティッ
クシティからワシントンまでの移動は,アトランティックシティへ立ち寄っ
ての行程としては特に不合理とも思われない。
同月21日は,終日ワシントン市内を視察した。主な視察場所は,LEE
D認定施設,スミソニアン博物館,大型商業施設の3か所であった。
ワシントンでの訪問先は,確かに山梨県政の具体的な課題等に直接かかわ
るものとは言い切れないが,いずれもアメリカ政治の中心地ならではの施設
であり,地方とはいえ,政治にかかわる者としての識見を深める意味があっ
た。ユニオンステーションについては,石和地域駅前再開発はもとより,今
後,山梨県に整備されるリニア駅の形態を考える上で参考になったし,ワシ
ントン市内大型商業施設については,健康志向型の食品小売店というコンセ
プトを明確にしており,日本食と甲州ワインの振興策についての参考となっ
た。
エ上記視察の実態からは,本件アメリカ研修が視察に名を借りた個人旅行に他
ならないと解さねばならない理由はない。参加した議員は,一定の目的意識を
もって視察を企図し,視察日程とともに申請し,議長によって承認を受け,視
察日程に従って視察を行ったものであるし,前述したような視察の状況から,
各議員は,議員としての知識及び見聞を広め,山梨県の県政に資することとな
ったものと考えられる。支給された旅費が法律上の原因を全く欠くことになる
ものとは考えられず,また,議員らの行為が,山梨県に対し違法に損害を与え
る不法行為と評価されねばならない事実を構成しているとは考えられない。
原告は,その時々の個別具体的な県政課題と視察の目的及び視察先が全て厳
密に対応しなければならないという考え方を前提としているものと思われる
が,法100条13項を受け,どのような要件で,あるいはどのような手続で
視察を実施するかは当該議会の自律的判断に委ねられていると考えられる。原
告らの指摘するような厳格な派遣要件とすべきか,必ずしもそうでないのかは
それ自体重要な議会の判断事項であると考えるべきであり,少なくとも現行の
手続に従って行われた本件アメリカ研修が違法とは考えられない。
本件エジプト等研修は法令の定める議員派遣の要件を満たすか。
(原告らの主張)
ア派遣目的について
本件エジプト等研修の目的は,申込書提出時点においては,福祉関係,公共
交通,世界遺産・環境問題,文化歴史関係の4つとされた。他方,視察報告書
の「はじめに」には,「私たちは,今回の海外研修の目的を3点にしぼり計画
しました。…3点目は山梨の観光行政の視点,方向に何か新しいものを見出し
たいと考え,イスタンブール駅,洞窟レストラン,グランバザール等々を中心
にそれぞれの街を散策しながら,本県に活かせるものはないか,観光客はどこ
に魅かれてここへやってくるのだろうと話し合いながら,有意義な視察ができ
ました。」という記載が見られる。
本件エジプト等研修の目的として観光行政視察が含まれているか否かを検
討すると,前記イで述べたとおり,海外研修申込段階及び派遣決定段階にお
いては研修目的を明示する義務があるところ,観光行政については申込段階で
記載されていなかったのであり,本件エジプト等研修の目的ではない。
研修目的に観光行政視察を追加することが許されないことも前記イのと
おりであり,視察報告書中の「観光行政」という記載は,海外研修申込書に記
載された研修目的からは合理性を見出せない視察先を見学・訪問したことを正
当化するため,後から研修目的を付け加えたに過ぎないというべきである。
モハメド・アリ・モスク,ハン・ハリーリ・バザール,専用船でのボスフォ
ラス海峡クルーズ,トルコ絨毯工場,アタチュルク廟,トプカプ宮殿等は本来
の研修目的との関連性がなく,視察の態様からしても,専ら観光を目的とする
ものである。
イ行程・訪問先について
本件エジプト等研修の目的に全く無関係な観光地訪問は単なる私的観光に
過ぎないが,仮に観光行政視察目的が追加されうるとしても,以下のとおり,
本件エジプト等研修では山梨県議会の議案の審査等に資する情報収集は行わ
れていないため,その実態は視察に名を借りた観光旅行であり,派遣の必要性
は存在しない。
2日目に議員らはエジプト考古学博物館を訪問しているが,その目的は,
考古学博物館の運営・文化財の管理を視察するためとされている。しかし,
報告書では,考古学博物館の運営・文化財の管理は本件エジプト等研修の目
的からは除外されている。報告書には同博物館の歴史及び展示品の紹介がな
されているが,一般的な記述にすぎず,しかも,これらの文章はウィキペデ
ィアの「エジプト考古学博物館」の文章をほぼそのまま転用したものであっ
て,議員らが同博物館の運営・文化財の管理について視察した状況について
は何ら報告されていない。
同日のハン・ハリーリ・バザールへの訪問は研修目的外であり,報告書に
何らの記載もないことから,実際に訪問したのかも不明である。
議員らはリサーラ訪問の目的を「行政と民間が一体となって行う新しい形
式での社会福祉の形を模索する」こととしている。新しい社会福祉の形を模
索するのであれば,予算規模やボランティア等の人材確保,具体的運営方法
についての情報収集が不可欠であるが,報告書では,リサーラの設立年,活
動内容,支店数等ごく一般的な情報が記載されているにすぎず,前記内容に
ついて視察が行われたことは何らうかがわれない。この程度の調査報告であ
れば電話等での聴き取りによっても十分可能であって,現地を訪問する必要
性はなく,このリサーラ訪問が県の事務の参考になったとはいえない。
3日目のギザにおいて,議員らは「地球温暖化をめぐる,世界遺産群の保
護・維持管理,及び登録までの経過などを視察」するとされているが,報告
書には上記事項に関する記載がなく,議員らの記念写真等が貼り付けられて
いるにすぎない。議員らは,世界遺産登録までの経過について担当者から説
明を受けるなどの行動をしておらず,環境保護策に関する視察を何ら行って
いない。
また,パピルスのお店,メンフィス遺跡,サッカラのピラミッド等につい
ても報告書に記載がなく,どのような目的で訪れたのか不明である。
5日目のカッパドキアについて,申込書では「地球温暖化をめぐる,世界
遺産群の保護・維持管理について視察」するとされているが,報告書には,
世界遺産登録がなされたことが書かれているのみで,地球温暖化による影響,
世界遺産群の保護,維持管理についての記述は一切ない。
トルコ絨毯工場についても,報告書に記載がなく,研修目的とどのような
関連性を有するのか,全く不明である。
6日目のトルコ石専門店,トゥズ湖,アタチュルク廟等はいずれも研修目
的外である。報告書にはアナトリア文明博物館訪問の記念写真が掲載されて
いるのみで,アタチュルク廟及び城塞に関して何らの記載がなされていない
ことからすれば,単なる私的観光としかいいようがない。
7日目のトルコ国鉄について,報告書には,イスタンブール都市部の交通
システムに関し,市街地では路面電車が中心であり,地下鉄の普及整備に力
を注いでいく計画である旨の報告がなされているが,この程度の調査はイン
ターネット上のホームページの閲覧等でも十分可能である。また,山梨県に
は路面電車・地下鉄は存在しないから,イスタンブールの交通システムが山
梨県の事務に関連性があるのか,疑問である。
ボスフォラス海峡クルーズ,ブルーモスク,地下宮殿等の訪問は研修目的
との関連性が不明であり,私的観光に過ぎない。特に,ボスフォラス海峡ク
ルーズに至っては,海のない山梨県とどのような関係を有するのか,全く不
明である。
トルコグランバザールに関しては,「450年間繁栄を極めている原因を
探るべく調査した」と記載されているが,研修目的である福祉関係,公共交
通,世界遺産・環境問題,文化歴史関係との関連が不明であり,担当者から
説明を受けるなどの視察をうかがわせる行動も採っていない。
また,同日午後の行程表には,「引き続きイスタンブール市内視察」と記
載されているが,視察先については記載されておらず,報告書にも記載はな
い。議員らがどのような視察を行ったのか不明であり,このような研修目的
と視察先の関連性について不明確な行程表で派遣決定がなされているのは,
法100条13項の必要性について審査が行われていないことの証左であ
る。
8日目のトプカプ宮殿,エジプシャンバザールは研修目的外であり,私的
観光に過ぎない。また,同日午後については,「昼食後,イスティラクル通
りの散策」とされているが,報告書に記載がなく,昼食後から午後9時20
分発の航空便に乗るための搭乗手続まで長時間に渡り何らの報告がなされ
ていないのは疑問である。
ウ報告書の記載内容について
本件エジプト等研修の報告書は,ハンドブックやホームページで簡単に得ら
れるような貧弱な内容であり,視察の実態が私的観光であったことを示してい
る。
報告書の「1エジプト・アラブ共和国」の頁の政治体制については,ウィ
キペディアをほぼそのまま引用しており,同産業・経済についてもウィキペ
ディアのホームページを一部抜き出してつなげたに過ぎないものであって,そ
の内容はウィキペディアと比べても劣る。
同報告書の「2トルコ共和国」の頁についても,政治体制及び経済・
産業はウィキペディアの転用であり,イスタンブールのトルコ高速鉄道に関
する部分等についても他のホームページ上の記載内容と類似している。
さらに,モハメド・アリ・モスク,ハン・ハリーリ・バザール,トルコ絨毯
工場,トルコ石専門店,トゥズ湖等については報告書中に何の言及もされてい
ない。
このように本件エジプト等研修の報告書の大部分がウィキペディアや他の
ホームページ上の情報を転用したものであり,現地に赴いて視察をしなければ
得られない情報は報告されておらず,当該研修において視察が行われていない
ことを示している。
エ以上より,本件エジプト等研修では,その日程のうちのほぼ全てが研修の目
的とされていない観光地巡りに費やされており,しかも,報告書に記載がなさ
れていない箇所がほとんどで,記載されている箇所についても単に観光地の見
学を行っているだけであるから,山梨県の議案の審査等に資するような観光行
政に関する視察は行われておらず,研修に名を借りた観光旅行に過ぎない。
仮に,単なる観光旅行との相違を示すものとして,リサーラへの視察がある
としても,この訪問先での滞在時間が全旅行行程に比して極めて短いことなど
からすれば,本件エジプト等研修を正当化する理由とはならない。
したがって,本件エジプト等研修は,法100条13項の「議案の審査又は
当該普通地方公共団体の事務に関する調査のためその他議会において必要が
あると認めるとき」の要件を満たさない。
(被告の主張)
ア本件エジプト等研修は,あらかじめ議員らから提出された海外研修申込書に
基づいて議長が派遣を決定した。当該申込書には,研修の目的について,福祉
関係,公共交通及び世界遺産・環境問題が掲げられており,それぞれ,貧困,
聴覚・視覚障害者,災害被災者への支援対策等の具体的な記載がある。そして,
申込書には,視察先を含めた具体的な視察日程の詳細及び経費見積書が添付さ
れている。
イ本件エジプト等研修の具体的な行程は以下のとおりである。
平成22年4月22日は,カイロ市内の視察を行い,エジプト考古学博物
館を表敬訪問して館長から説明を受けるなどして世界遺産の視察を行った。
館長の説明は,エジプトの歴史や文化にも言及され,また,同博物館の収蔵
点数は20万点にも及び,海外への貸し出しも積極的に行っているとのこと
であり,県立博物館や考古博物館のあり方について参考になった。
次いで,社会福祉を目的とした機関であるリサーラを訪問し,孤児のケア,
貧困者や聴覚・視覚障害者への支援などについて説明を受けた。リサーラで
は,主に視覚障害者に対する手仕事の技術指導や訓練が行われているが,こ
れらの活動が約60名のボランティアによって行われているとのことであ
り,地方財政が厳しくなっていく状況下,社会福祉のあり方について参考と
なるものであった。
同月23日は,カイロ市内に滞在し,ギザのピラミッド群をはじめとした
世界遺産群を視察した。山梨県が進める富士山世界文化遺産の登録に関連し
て,周辺環境状況の観点から登録済みの世界文化遺産がどのように維持管理
されているか等について視察したものである。実際の環境は,周辺の河川が
汚れていたり,水質も悪く,富士山が世界遺産として登録された場合の環境
整備の必要性について参考となった。
同月24日はトルコへの移動日である。
同月25日は,カッパドキア地区を訪問した。富士山の世界文化遺産登録
に向け,登録済みのギョレメ野外博物館やカイマクリ地下都市,奇岩地区等
を視察し,保護地区内の規制の状況や環境保全のあり方等について参考とな
った。
同月26日はアンカラ市内を視察した。
同月27日は,イスタンブール駅にてトルコ国鉄を訪問し,副局長以下職
員から,イスタンブール駅の役割,都市部における交通システム等について
説明を受けた。市内の路面電車,中距離での地下鉄,遠距離の高速鉄道整備
など課題と将来展望について調査を行ったものであり,リニア中央新幹線の
開通による経済効果を高めるためのリニア駅のあり方について参考となっ
た。
また,グランバザールでは,世界的に集客能力の高い商店街の現況を視察
し,山梨県における道の駅を中心とした市場的な集合施設の創設の必要性を
実感するに至った。
同月28日はイスタンブール市内の視察を行った。
ウ以上のように,本件エジプト等研修は,山梨県における一般的行政あるいは
県政の課題に関連して行われたものであり,視察の名を借りた私的観光旅行で
はない。
参加した議員は,一定の目的意識をもって視察を企図し,詳細な視察日程と
ともに申請し,議長によって承認を受け,承認された視察日程に従って視察を
行ったものであるし,前述したような視察の状況から,各議員は,議員として
の知識及び見聞を広め,山梨県の県政に資することとなったものと考えられる。
各議員に支給された旅費が法律上の原因を欠くことになるものとは考えられ
ず,また,議員らの何らかの行為が,山梨県に対し違法な損害を与える不法行
為と評価されるものとも考えられない。
なお,申込書の目的記載欄に観光行政視察の記載がないことのみから,直ち
に観光の観点で行われた視察が違法となるものでないことは前記イで述べ
たとおりである。
本件韓国視察に政務調査費を充当することは法令の定める使途基準を満たす
か。
(原告らの主張)
ア山梨県政務調査費の交付に関する規程には,政務調査費の使途基準について,
「調査委託費,交通費,宿泊費等の会派が行う県の事務及び地方行財政に関す
る調査研究費及び調査委託に要する経費」と定められているが,これは,法1
00条14項において政務調査費の交付要件として定められている「その議会
の議員の調査研究に資するため必要な経緯」という規定を,山梨県において公
権解釈して定立された規範である。
法100条14項を受けた山梨県政務調査費の交付に関する条例,その運用
指針は,海外調査について,「調査目的が明確であり,日程が合理的なもので
あること」を要求している。調査方法の決定において会派の意思が尊重される
としても,調査目的の明確性と日程の合理性を前提としてはじめてそのような
会派の意思が尊重されるのであって,まず,第一に,調査目的達成のための合
理的な調査方法が採られているか否かが検討されなければならない。
よって,支出の必要性を判断するに当たっては,調査目的のみならず,調査
方法及び日程の合理性の検討がなされなければならない。
イ調査目的について
本件韓国視察の調査目的は,①富士山静岡空港の利用状況・空港管理につい
て,②韓国の一般社会・経済状況,対日感情について,③海外旅行市場・観光
交流についてとされている。
これらの目的は,文言からして極めて抽象的であり,このような調査目的で
は,その目的を達成するために必要な訪問先や研修内容さえも明らかにならず,
調査対象を絞ることさえできない。このような調査目的が正当化されるのであ
れば,いかなる調査方法も目的の範囲内とされる。
また,議員の活動領域が広範囲に及ぶとしても,前記の抽象的な調査目的で
は,県議会議員の活動の範囲内か否かを判断することさえもできず,かかる調
査目的に基づく視察が県の事務や行財政とどのように関連するのかも判別で
きない。
ウ調査方法について
議員らは日程の大部分を観光施設巡りに費やしており,しかも,それらの施
設において現地の行政担当者や施設運営管理者と面談するなどの県政の参考
となり得る資料の収集を行っていない。
富士山静岡国際空港と日本国政府観光局ソウル事務所への訪問についても,
まず,富士山静岡国際空港は,移動のために立ち寄った空港で短時間のごく一
般的な説明を受けたに過ぎず,山梨県の事務との関連性も明らかではない。「県
外・海外調査概要書」自体が視察に行く前に作成されたものであり,内容欄の
記載もあらかじめ記載されていたものであって,これ自体が政務調査費を捻出
するための形式手続にすぎないといえる。日本国政府観光局ソウル事務所につ
いては,調査目的が「韓国の社会経済状況」とされているが,名目的な調査を
行ったのみであり,日本国政府のソウル事務所に訪問してまでこのような中身
のない調査をする必要性が全く読み取れない。調査の必要があるとしても海外
事務所の情報が集約される国内施設での情報収集で十分足りるはずである。
宗廟,大統領府,青瓦台に至っては,施設管理者との面談や資料収集等を行
っておらず,議員らは一般観光客と同様の態様で施設を見学していたにすぎな
い。
このようなことからも,本件韓国視察の日程は,各訪問施設と調査目的との
関連性も明確でなく,調査方法についても県の事務等に関する情報収集を行っ
ておらず,その外形は私事旅行と差異がないのであるから,本件韓国視察は合
理性を欠くものである。
仮に,かろうじて調査といえる部分があったとしても,それはせいぜい静岡
空港と日本国政府観光局ソウル事務所への訪問の合計2時間のみである。もち
ろん,上記2か所の調査についても調査の必要性及び合理性を完全に欠いてお
り,これを適法な調査と評価することはできない。
エよって,本件韓国視察は,ほとんど大部分が私事旅行に費やされており,全
体としてみても調査研究目的ではなく,日程・調査方法が合理的とはいえない
ため,これに充当された政務調査費は,法100条14項の「その議会の議員
の調査研究に資するため必要な経費」の要件を満たさない。
(被告の主張)
ア山梨県政務調査費の交付に関する条例は,法100条14項を受け,「政務
調査費を別に定める使途基準に従い使用しなければならない。」と規定し,山
梨県政務調査費の交付に関する規程4条はその使途基準を定め,調査研究費に
ついては「調査委託費,交通費,宿泊費等の会派が行う県の事務及び地方行財
政に関する調査研究費及び調査委託に要する経費」としている。政務調査費の
使途基準についてはさらに運用指針等が定められており,調査研究費に充当可
能な例として「先進地視察,現地実態調査,被災状況聴取等」があげられ,ま
た,「海外調査は,調査目的が明確であり,日程が合理的なものとすること」
とされている。
イ本件韓国視察の調査目的は,調査先ごとに,富士山静岡国際空港の利用状況,
空港管理等の調査(富士山静岡国際空港),韓国の一般社会,経済状況,対日
感情の調査(日本国政府観光局ソウル事務所),海外旅行市場調査,観光交流
等の調査(宗廟,大統領府,青瓦台等)である。
ウ本件韓国視察の具体的な行程は以下のとおりである。
平成21年7月20日は,富士山静岡国際空港にて視察を行い,開港に至
るまでの経緯や施設の概要,利用状況,運営管理などについて説明を受けた。
その後,韓国へ移動し,日本国政府観光局ソウル事務所にて韓国の社会経
済の状況,海外旅行市場等につき説明を受けた。なお,県外・海外調査概要
書を視察前に作成することはその手続的にあり得ない。
同月21日は板門店を視察した。
同月23日はソウル市内(宗廟,大統領府,青瓦台等)を視察し,山梨県
の果樹のPRの様子や観光客への浸透状況などを調査した。
エ本件韓国視察は調査目的が明確であり,日程も合理的で政務調査費の使途基
準に適合したものである。山梨県は,国際交流や観光振興等を政策課題として
おり,県議会議員として上記のような調査を行う必要があったものと考えられ,
私的な観光を行ったものではない。
本件韓国視察は,県の事務及び地方行政に関する調査として行われたものと
考えられ,政務調査費の充当が法律上の原因を欠いたり,県に対する不法行為
を構成するとは考えられない。
本件屋久島視察に政務調査費を充当することは法令の定める使途基準を満た
すか。
(原告らの主張)
本件屋久島視察の調査目的は,「世界遺産屋久島の環境保全対策への取組み及
び世界遺産地域や国立公園の管理運営について」とされている。
しかしながら,このような理由に基づく調査目的を認めてしまうと,究極的に
は調査目的の中に他の世界遺産との関係さえ指摘できれば,あらゆる政務調査費
の支出が適法とされるという事態を招いてしまう。本件屋久島視察の調査研究活
動記録表にはその視察のどのような点が富士山の世界遺産登録と関係があるの
か示されていないのであるから,政務調査費の支出の関係では,富士山の世界遺
産登録と屋久島への調査は関連性がないというべきである。
行程についても,議員らの訪問先は,観光ガイドブックに掲載されており,一
般観光客が多く訪れる著名な観光施設ばかりで,特別な場所はどこも訪問してい
ない。屋久島環境文化センターや屋久島町立屋久島自然館への訪問は県の事務や
地方行財政との関連が全く不明であり,そもそも行程表自体旅行会社が勝手に作
成したものであった疑いが濃厚である。
また,上記の世界遺産等の管理運営という調査目的からすれば,その調査の核
となるべき環境省屋久島世界遺産センターでの視察研修は不可欠であるところ,
議員らが訪れた平成21年12月17日には同センターの説明担当職員が不在
にしており,十分な説明が受けられていない。議員らはこれを事前に把握してい
たにもかかわらず,敢えて屋久島旅行を実施しており,このことからしても,議
員らに視察研修という意識が極めて希薄であることは明らかである。
他の訪問先においても,現地の担当者と面談するなど,県の事務について参考
となるような資料収集を行っておらず,訪問先・調査方法の両面において合理性
を見出せない。
よって,本件屋久島視察は調査の実態のないものであり,単なる私事旅行とし
て行われたものであるから,政務調査費を充当することはその使途基準に合致し
ていない。
(被告の主張)
本件屋久島視察の調査目的は,世界遺産屋久島の環境保全対策への取組み及び
世界遺産地域や国立公園の管理運営の調査である。
平成21年12月16日は屋久島環境文化村センター及び白谷雲水峡を視察
し,同月17日は屋久杉自然館及び環境省屋久島世界遺産センター等を視察した。
屋久杉自然館においては,館長及び屋久島町の担当者から屋久島の自然あるいは
観光振興策と自然環境保護等について説明を受け,屋久島世界遺産センターでは,
事務局長から世界遺産指定のための取り組み,活動,経緯等について説明を受け
た。また,同月18日は,千尋滝,西部林道等を訪問した。
本件屋久島視察は,調査目的が明確で,日程も合理的と考えられる。山梨県は,
富士山の世界遺産登録に向けてその環境対策や観光振興等を政策課題としてい
るのであって,県議会議員として他の世界遺産の環境保全や観光振興の状況等の
調査のため視察を行うことは必要なことであり,県の事務や地方財政と無関係に
私的な観光旅行が行われたものではない。
本件屋久島視察は,県の事務及び地方行政に関する調査として行われたものと
考えられ,政務調査費の充当が法律上の原因を欠いたり,県に対する不法行為を
構成するとは考えられない。
地方財政法違反の有無
(原告らの主張)
地方公共団体の予算の執行に関する大原則について,地方財政法は「地方公共
団体の経費は,その目的を達成するための必要且つ最少の限度をこえて,これを
支出してはならない。」と定めている。
本件アメリカ研修等への公金の支出は,「その目的を達成するための必要且つ
最少の限度」を超えた支出である。
したがって,地方財政法4条1項に違反して違法である。
(被告の主張)
争う。
第3当裁判所の判断
1前記前提となる事実に下記証拠及び弁論の全趣旨を総合すると,以下の事実が認
められる。
本件アメリカ研修実施の経緯
アA,C及びBは,平成21年12月25日,議長に対し,山梨県議会議員海
外研修申込書(以下「本件アメリカ研修申込書」という。)を提出した。本件
アメリカ研修申込書の研修内容欄には以下の記載がなされており,同申込書に
は視察先や移動手段等が記載された旅行行程表と株式会社L作成の見積書が
添付されていた。(甲7)
研修目的
米国と日本の輸出入の調査。本県は農業,果樹生産県であり,農業大国米
国の農業事情について視察いたします。
研修期間
平成22年1月17日~平成22年1月23日(5泊7日)
研修地(国名,都市名)
米国(ニューヨーク,ワシントン)
視察先
CLAIRNYC事務所,JTBニューヨーク支店他
イ本件アメリカ研修申込書の提出を受け,議長は,平成22年1月4日,前記
議員らをアメリカへの海外研修へ派遣することを決定した。
本件アメリカ研修の行程
本件アメリカ研修の日程及び議員らの活動内容は以下のとおりであった(甲7,
乙7,証人B)。
ア平成22年1月17日
山梨県からニューヨークへ移動した後,同市内を視察し,メトロポリタン美
術館,グランドゼロ及び自由の女神を訪れた。
イ同月18日
ロングアイランドを視察し,午前11時ころから午後1時ころまで,ワイナ
リーPinderを訪れ,山梨県におけるワイン振興の参考にするため,ニュ
ーヨークワインの生産の現状等を視察した。
ウ同月19日
午前9時30分ころから午前10時30分ころまでJTBニューヨーク支
店を訪問し,担当者から,アメリカのホテル業界の現状,国別の訪日外客数の
動向及び変動の要因,山梨県への観光客誘致の方策等について説明を受けた。
また,午前11時ころから午後0時ころまでCLAIRNYC事務所を訪
問し,担当者から,アメリカにおける果樹の生産量,州別のワイン生産量及び
各ワインの特性,アメリカにおけるワイン輸入相手国及び量,ブランド管理の
手法等について説明を受けた。
午後2時から専用車でアトランティックシティへ移動し,同所で各自自由行
動を採って,ボードウォークを活用した観光振興やイベント会場等を見学した。
エ同月20日
専用車でフィラデルフィアへ向かい,フィラデルフィアからアセラ・エクス
プレスに乗車してワシントンへ移動した。
ワシントン到着後は,同市内を視察して,国会議事堂,アーリントン墓地,
ホワイトハウス,リンカーン記念堂等を訪れた。なお,ホワイトハウスは建物
を外から観賞したのみであった。また,山梨県が進める石和地域駅前再開発の
参考とするためユニオンステーションを訪問した。
オ同月21日
ワシントン市内を視察し,LEED認定施設リンカーンコテージ,スミソニ
アン博物館及び大型商業施設等を訪問した。
カ同月22日及び23日
山梨県への移動日であった。
報告書の提出等
ア前記議員らは,平成22年1月30日,海外研修終了届を議長に提出した。
また,前記議員らは,「アメリカ視察・報告書」と題する本件アメリカ研修
の報告書を共同で作成し,議長に提出した(以下「本件アメリカ研修報告書」
という。)。本件アメリカ研修報告書の「はじめに」の項目には,「私達,議員
三人は米国と日本の輸出入の調査,本県の主要産業であるワイン産業の本場で
ある農業大国米国の現状,観光産業,また最近本県でも盛んに開発が行われて
いる大型商業施設のあり方について米国(ワシントン,ニューヨーク)の視察
を実施いたしました。」などと記載されており,本文には,議員らが訪問した
JTBニューヨーク支店及びCLAIRNYC事務所等の施設の概要及び
研修内容等が報告されていた。ただし,ニューヨークワインの項目には,議員
らがワイン専門店「VintageNewYork」を訪れていなかった
にもかかわらず,同店において,その経営者から各種のニューヨークワインの
特徴等について説明を受けた旨が記載されていた。また,最終頁には,「帰国・
報告」として,農作物の生産について,一つ一つ丁寧に質を重視した生産方法
が本県の小規模農家の特徴であり,その特徴を更に活かしていくことが本県の
農業の差別化に繋がること,観光面について,我が国からアジア各国に繋がる
交通網の整備が国際化を進める上で一番の解決手段であること,本県の発展の
ためにこの経験を活かしたいと感じたことなどが記載されていた。なお,本件
アメリカ研修報告書には,アトランティックシティに関する報告は一切なされ
ていなかった。(甲1,弁論の全趣旨)
イ議員らは,その後,本件アメリカ研修報告書の内容を訂正した「アメリカ視
察・報告書」を提出した。訂正後の報告書では,訂正前の報告書において,J
TBニューヨーク支店及びCLAIRNYC事務所の研修の様子としてそ
れぞれ掲載されていた写真が入れ替えられており,上記ワイン専門店「Vin
tageNewYork」に関する報告が全て削除されていた上,訂正前
の報告書には掲載されていなかった写真や報告が追記されていた。(乙7)
本件エジプト等研修実施の経緯
アD,E,F,G及びHは,平成22年4月19日,議長に対し,山梨県議会
議員海外研修申込書(以下「本件エジプト等研修申込書」という。)を提出し
た。本件エジプト等研修申込書の研修内容欄には以下の記載がなされており,
同申込書には視察先や移動手段等が記載された旅行行程表と株式会社M作成
の見積書が添付されていた。(甲9)
研修目的
・福祉関係…貧困,聴覚・視覚障害者,災害被災等への支援対策。
・公共交通…現況と新交通システムの課題と展望
・世界遺産・環境問題…世界遺産登録までの経過及び現状把握,問題点等と
併せて温暖化による当該地の影響や環境保護策,テロ対策等も。
・文化歴史関係…考古学博物館の運営,文化財の管理等。
本県と共通する課題を有する機関を訪れて視察し,精通する関係者と意見
交換する中で今後の議会活動の参考とする。
研修期間
平成22年4月21日~平成22年4月29日
研修地(国名・都市名)
エジプト・トルコ共和国
視察先
・エジプトの政府機関であるリサーラ。社会福祉を主な目的とした施設。説
明者は政府福祉関係者他。
・カイロにてギザのピラミッド群等世界遺産群の関係。説明者はスカイバー
ド他。
・エジプトにてエジプト考古学博物館。博物館運営,文化財の維持管理。説
明者は同館長。
・トルコ国鉄イスタンブール駅。説明者は同国鉄マネージャー。
・トルコのカッパドキア地区。ギョレメ野外博物館等世界遺産群の登録関係。
説明者はアルソティ他。
イ議長は,同日,前記議員らをエジプト及びトルコへの海外研修へ派遣するこ
とを決定した。
本件エジプト等研修の行程
本件エジプト等研修の日程及び議員らの活動内容は以下のとおりであった(甲
2,9,証人H,弁論の全趣旨)。
ア平成22年4月21日
山梨県からソウル及びイスタンブールを経由してカイロへ移動した。
イ同月22日
日本語ガイドと共にカイロ市内を視察した。エジプト考古学博物館を訪問し,
館長からエジプトの歴史及び博物館の運営等について説明を受けたほか,世界
遺産を視察した。
その後,モハメド・アリ・モスク及びハン・ハリーリ・バザールを経て,リ
サーラを訪問した。リサーラはボランティア,献血活動,孤児院及び高齢者宅
への訪問等の活動をしている社会福祉を目的とした機関であり,同所において,
孤児,貧困者及び聴覚・視覚障害者への支援等についての視察を行った。
ウ同月23日
ギザのピラミッド,メンフィス遺跡等を訪れ,世界遺産群の保護及び維持管
理の手法,登録までの経過等を視察した。もっとも,世界遺産登録までの具体
的な経過等について,担当者から説明を受けることはなかった。
エ同月24日
カイロからイスタンブールを経由してカイセリへ移動した。
オ同月25日
カッパドキア地区を散策し,ギョレメ博物館,カイマクリ地下都市及びトル
コ絨毯工場等を視察した。カッパドキアの奇岩地区においては,洞窟に住む現
地家族を訪問し,生活状況等について説明を受けた。
カ同月26日
アンカラへ移動して同市内を視察し,アタチュルク廟,アナトリア文明博物
館等を訪問した。その後,イスタンブールへ向かうためにアンカラを出発し,
車中で一泊した。
キ同月27日
イスタンブール駅において,トルコ国鉄のマネージャーと面談し,市内の路
面電車の普及状況,地下鉄の整備状況及び高速鉄道整備の課題等について聴取
した。
ク同月28日
イスタンブール市内を視察し,トプカプ宮殿,エジプシャンバザール及びイ
スティクラル通りを散策した後,帰国のために午後9時20分に同市を出発し
た。
ケ同月29日
トルコからソウルを経由して山梨県へ帰来した。
報告書の提出等
前記議員らは,同年5月17日,海外研修終了届を議長に提出した。
まら,前記議員らは,「エジプト・トルコ2カ国視察研修報告書」と題する本
件エジプト等研修の報告書を共同で作成し,議長に提出した(以下「本件エジプ
ト等研修報告書」という。)。本件エジプト等研修報告書の「はじめに」の項目に
は,「私達は,今回の海外研修の目的を3点にしぼり計画しました。まず第1点
目は,社会福祉の面で特に世界の注目を集めているエジプトの機関<リサーラ>
を表敬訪問し,行政と民間が一体となって行う新しい形式の社会福祉の形を模索
することでした。次に,富士山の世界遺産登録を目指している本県にとり,トル
コの岩石遺跡である,ギョレメ国立公園<カッパドキア>は大いに参考になると
考え今後の申請に少しでも役立つ内容で視察しました。さらに3点目は山梨の観
光行政の視点,方向に何か新しいものを見出したいと考え,イスタンブール駅,
洞窟レストラン,グランバザール等々を中心にそれぞれの街を散策しながら,本
県に活かせるものはないか,観光客はどこに魅かれてここへやってくるのだろう
と話し合いながら,有意義な視察ができました。」と記載されており,内容欄に
は,エジプト及びトルコの国の概要,リサーラ,エジプト考古学博物館,ギョレ
メ国立公園及びトルコ国鉄の概要及び視察内容等が記載されていた。トルコグラ
ンバザールに関しては,市場の概要及び様子,山梨県内には「道の駅」が数カ所
あり,これらを飛躍発展させて全国から観光客が目指してくるような市場的な集
合施設を創れば山梨県の未来があると感じたことなどが記載されていた。ギザの
ピラミッド,アナトリア文明博物館については写真が掲載されているのみであり,
国や施設の概要説明については,ウィキペディアを始めとするウェブサイトの記
載と内容及び文章が酷似している部分が複数存在した。(甲2,10~15)
本件韓国視察の行程
I,D,E,F,J,G及びHは,平成21年7月20日から同月22日まで
本件韓国視察を実施した。その具体的な行程は以下のとおりであった。(甲3,
証人G)
ア平成21年7月20日
山梨県から富士山静岡国際空港へ向かい,同空港において,担当者から開港
に至るまでの経緯や施設の概要,利用状況,運営管理などについて1時間程度
説明を受けた。
富士山静岡国際空港から韓国の仁川国際空港へ移動し,入国後,韓国国会議
事堂等を視察した。
午後3時30分ころから午後4時30分ころまで日本国政府観光局ソウル
事務所を訪問し,韓国の社会経済の状況,海外旅行市場,山梨県の果樹の輸出
状況等について説明を受けた後,当該事務所の所長及び職員らと意見交換をし
た。
夕食後は,青渓川を視察した。
イ同月21日
板門店の視察(第一公園,板門店会議室観覧)を行い,視察終了後にソウル
へ移動した。
ウ同月22日
ソウル市内の宗廟,大統領府館,青瓦台等を訪問し,山梨の果樹のPRの様
子や観光客への浸透状況等を視察した。その後,金浦国際空港から羽田空港へ
移動し,山梨県へ帰来した。
調査研究活動記録票の提出等
前記議員らは,議長に対し,本件韓国視察の後,その調査研究活動記録票を提
出した。当該記録票には,調査研究費として,同年8月10日,交通費等44万
5000円及び振込手数料525円を支出した旨が記載されており,これに対応
する銀行振込受付書及び旅行業者の請求書が添付されていた。また,前記記録票
には,本件韓国視察の調査目的や調査内容等が記載された県外・海外調査概要書
及び日程表が添付されており,その概要書の調査目的欄には「富士山静岡国際空
港の利用状況・空港管理について,韓国の一般社会・経済状況,対日感情につい
て,海外旅行市場・観光交流について」との記載がなされていた。(甲3)
本件屋久島視察の行程
D,K,I,E,F,J,G及びHは,平成21年12月16日から同月18
日まで,本件屋久島視察を実施した。その具体的な行程は以下のとおりであった。
(甲4,証人G)
ア平成21年12月16日
山梨県から羽田空港へ向かい,同空港から飛行機で鹿児島空港を経由して屋
久島空港へ移動した。
午後2時15分ころから午後3時15分ころまで屋久島環境文化村センタ
ーを視察し,午後3時45分ころから午後4時15分ころまで白谷雲水峡を視
察した。
イ同月17日
午前9時ころから午前10時30分ころまで屋久杉自然館を訪問し,屋久島
の観光振興策と自然環境保護の課題及び対応並びに自然と共生する地域作り
のための取組みについて視察した後,ヤクスギランド及び紀元杉を訪れた。
午後2時ころから午後3時40分ころまで環境省屋久島世界遺産センター
を訪問して,担当者から屋久島でのエコツーリズムの推進,自然保全のための
大学などの調査期間との協力体制,国立公園の管理運営等について説明を受け
た。なお,事前に作成された本件屋久島視察の予定表では,屋久島世界遺産セ
ンターについて,「当日は,環境省主催のフォーラム・講演会を開催するため,
十分な対応ができないことを了承願いたいとのこと。(説明する職員が不在と
なる。)」と記載されていた。
また,午後3時45分ころから午後4時15分ころまで環境省文化研修セン
ターを視察した。
ウ同月18日
午前9時45分ころから午前11時40分ころまで千尋滝,大川の滝,西部
林道及び永田浜海岸を散策し,その後,午後2時に屋久島空港を出発して,鹿
児島空港及び羽田空港を経由して山梨県へ帰来した。
調査研究活動記録票の提出
前記議員らは,議長に対し,本件屋久島視察の後,その調査研究活動記録票を
提出した。当該記録票には,調査研究費として,同月25日に交通費等94万3
550円,同月14日に手みやげ代5040円,同月16日及び17日に屋久島
自然館入館料等1万7400円をそれぞれ支出した旨が記載されており,94万
3550円に対応する銀行振込受付書及び旅行業者の請求書並びに手みやげ代
及び入館料に対応する領収書がそれぞれ添付されていた。また,前記記録票には,
本件屋久島視察の調査目的及び調査内容等が記載された県外・海外概要書及び日
程表が添付されており,その概要書の調査目的欄には「世界遺産屋久島の環境保
全対策への取り組みなどについて,世界遺産屋久島の地域や国立公園の管理運営
について」と記載されていた。(甲4)
支出の内容
ア山梨県は,本件アメリカ研修にかかる旅費の支給として,平成22年2月2
5日,Aに対し64万1647円,Cに対し64万1323円,Bに対し64
万1458円をそれぞれ支払った。また,本件アメリカ研修にかかる通訳料等
として,同年3月3日,77万4600円を支出した。(甲5,弁論の全趣旨)
イ山梨県は,本件エジプト等研修の旅費の支給として,同年5月21日,参加
した5名の議員に対し各79万5830円を,専用車借上料等として51万7
500円を支出した(甲5,弁論の全趣旨)。
ウ本件韓国視察に参加した議員らは,調査研究費として支出した44万552
5円から食事代7万円を控除した37万5525円について,会派に支給され
た政務調査費を充当した(甲3)。
エ本件屋久島視察に参加した議員らは,調査研究費として支出した合計96万
5990円から食事代等2万8400円を控除した93万7590円につい
て,会派に支給された政務調査費を充当した(甲4)。
2争点(本件アメリカ研修は法令の定める議員派遣の要件を満たすか。)につい

法100条13項は,「議会は,議案の審査又は当該普通地方公共団体の事務
に関する調査のためその他議会において必要があると認めるときは,会議規則の
定めるところにより,議員を派遣することができる。」と規定する。
普通地方公共団体の議会は,当該普通地方公共団体の議決機関として,その機
能を適切に果たすために必要な限度で広範な権能を有し,合理的な必要性がある
ときはその裁量により議員を海外に派遣することもできるが,裁量権の行使に逸
脱又は濫用があるときは,議会による議員派遣の決定が違法となる場合がある
(最高裁判所第一小法廷昭和63年3月10日判決・裁判集民事153号491
頁,最高裁判所第三小法廷平成9年9月30日判決・裁判集民事185号347
頁)。
議員の海外派遣が許されるのは,議決機関を構成する議員として,その職責を
果たす上で合理的な必要性の存する場合に限られるのであって,視察目的に議員
の活動との関連で正当性が存しない場合や,視察目的に合理性があっても,その
目的に照らして,派遣計画が相当性を有しない場合等には,裁量権の逸脱又は濫
用が認められると解するのが相当である。
ア視察目的について
前記1及びのとおり,本件アメリカ研修申込書の研修目的欄には「米国
と日本の輸出入の調査。本県は農業,果樹生産県であり,農業大国米国の農業
事情について視察いたします。」と記載されており,また,本件アメリカ研修
報告書の「はじめに」の項目に,「議員三人は米国と日本の輸出入の調査,本
県の主要産業であるワイン産業の本場である農業大国米国の現状,観光産業,
また最近本県でも盛んに開発が行われている大型商業施設のあり方について
米国(ワシントン,ニューヨーク)の視察を実施いたしました。」と記載され
ていることからすれば,本件アメリカ研修の目的は,アメリカにおけるワイン
産業,農業事情及び輸出入の調査並びに観光行政等の視察であったと認められ
る。
山梨県が我が国有数の葡萄の産地であることは当裁判所に顕著な事実であ
り,それを原料とするワイン生産及びその他の果樹等の生産は同県の主要産業
の一つである。ワイン産業の参考とするためアメリカにおけるワイン生産の現
状を視察することはもちろん,山梨県はワイン産業の発展のため固有種ワイン
の海外輸出に力を入れており,アメリカはその大きな市場と成り得るものであ
るから,アメリカにおけるワイン市場及び輸出入の状況等を調査することも県
政と一定の関わりがあるといえる。また,山梨県は富士山を始めとする自然遺
産,ワイン産業及び県立美術館等を資源とした観光産業も主要産業の一つとい
え,特に近年は国内旅行者のみならず海外からの旅行者をいかに山梨県に誘致
するかが観光振興にとって大きな課題となっているから,アメリカにおける観
光行政の視察も県政との関連性を有するものといえる。
したがって,本件アメリカ研修の目的は議員の活動と関連性があり,正当な
ものということができる。
この点について,原告らは,本件アメリカ研修申込書で明示されていなかっ
た観光行政視察を研修目的とすることはできない旨を主張する。しかしながら,
本件アメリカ研修申込書には,前記1のとおり,地方公共団体の観光,物産
等の経済交流支援を事業内容としているCLAIRNYC事務所,JTBニ
ューヨーク支店,メトロポリタン美術館及びスミソニアン博物館等の行程が記
載された旅行行程表が添付されているのであって,多様な観光地を有する山梨
県にとって観光振興が県政の重要な課題の一つであることも併せ考慮すると,
前記研修目的欄のみならず,日系旅行会社の現地支店訪問等の行程が明記され
た本件アメリカ研修申込書の記載全体を見れば,研修目的に観光行政視察の趣
旨が含意されていることは明らかであり,これを前提に議長による派遣決定が
なされたのであるから,本件アメリカ研修の目的には観光行政視察も含まれて
いたと認められるのであって,前記申込書に観光行政視察と明示されていない
ことの一事をもって当該目的が本件アメリカ研修の目的に含まれていなかっ
たということはできない。
イ視察の行程について
本件アメリカ研修の行程について見ると,前記1のとおり,当該研修は,
平成22年1月17日から同月23日までの7日間の日程であり,同月17
日,22日及び23日は移動日である。
同月17日はニューヨークへの移動後に市内を視察しているところ,議員
らが訪れた施設のうち,メトロポリタン美術館は県立美術館の管理運営ない
し展示方法等を検討する上で参考になるものとして,観光行政視察という目
的との関連性が明確である。これに対し,グランドゼロ及び自由の女神の見
学については,前記視察目的との関連性が必ずしも明確ではないが,このよ
うな多数の見学者等が見込まれる施設の見学が含まれていたとしても,それ
によって直ちに視察の行程が不相当となるものではない。一般の観光客が訪
れる施設であっても,訪問国の歴史や文化等に直接触れることによって同国
の観光行政政策の背景,実態及び課題等を理解する上で有益となる側面があ
ることも一概には否定できず,これによって山梨県の観光振興のための具体
的な方策を検討する一助になり得るものであるし,グランドゼロ及び自由の
女神の見学は,本件アメリカ研修の行程の一部に留まり,これらの見学が含
まれていることによって本来の視察目的の調査が阻害されたり,視察行程が
不当に延びたり,視察に要する費用が著しく過大になるといった事情もうか
がわれないから,これらの見学を行ったことをもって本件アメリカ研修の行
程が不相当で,県政と関わりのない私事旅行であったということはできない。
同月18日はワイナリーPinderを訪問してニューヨークワインの
生産の現状等を視察しており,アメリカにおけるワイン産業の調査という目
的に適った視察が行われているから,この行程は相当なものということがで
きる。なお,原告らは,ニューヨークにおけるワイン生産量がアメリカ全体
の4パーセントにすぎないことから視察先の選択に問題がある旨を主張す
るが,ニューヨークワインの生産量が少ないとしても,ロングアイランドは
都市部から近いワイナリーとして,東京の近郊に位置する山梨県のワイナリ
ーと類似する面がある上,生産量が少ない中で世界的な銘柄として確立する
ためどのような方策を試みているかを調査することが,固有種のワインを世
界的な銘柄として成長させることを目標としている山梨県のワイン産業の
参考となり得るものであるから(甲1,乙7),視察先の選択が不適当であ
るということはできない。
同月19日はJTBニューヨーク支店を訪問して国別の訪日外客数の動
向,山梨県への観光客誘致の方策等について説明を受けており,観光行政視
察という目的に適った調査を行ったものといえる。
また,CLAIRNYC事務所においては,アメリカにおける果樹の生
産量,ワイン輸入相手国及びブランド管理の手法等について説明を受けてお
り,これについても,アメリカにおける農業事情及びワイン産業の調査とい
う目的に適った調査の行程といえる。
原告らは,JTBニューヨーク支店やCLAIRNYC事務所等で聴取
した情報は調査依頼等を利用して日本においても入手できるから現地に赴
く必要はないなどと主張する。
確かに,現地を訪問する前の事前準備として,かかる情報を入手しておけ
ば,より正確かつ効率的に視察が実施できるものと思われる。しかしながら,
現地に赴いて農業事情や観光行政に関する様々な取組みを,現地の事情に通
じている担当者等から直接に聴取することで,その事情を肌で感じることが
でき,有益な示唆を受けることも多く,書面などから情報を得るのとは自ず
から質的に異なった知見を得られることは想像に難くないから,日本におい
てある程度事前に情報収集ができるからといって海外視察の必要性が直ち
に否定されるものではない。
議員らはCLAIRNYC事務所を視察した後,アトランティックシテ
ィへ移動しているところ,アトランティックシティにおいては,ボードウォ
ークを活用した観光振興やイベント会場等の見学といった観光行政視察の
目的に適った調査が行われており,同所において議員らがカジノ等の遊興に
耽ったことを認めるに足りる証拠はないことにも照らすと,議員らが,その
必要性がないのにあえてアトランティックシティへ立ち寄ったとまではい
えず,同所を訪れた行程が不相当であるとは認められない。なお,原告らは,
アトランティックシティへの到着が午後5時を過ぎており,日没でボードウ
ォークや街並みを十分見ることが不可能である旨を主張するが,いずれも憶
測の域を出ないものであって前記認定を左右しない。
同月20日はワシントンへ移動し,市内を視察している。ホワイトハウス
やアーリントン墓地等の見学は前記視察目的との関連性が必ずしも明確で
はないが,これをもって直ちに本件アメリカ研修の行程が不相当となるもの
でないことは前記と同様であり,これらの施設を見学することが観光振興
等を検討する一助になり得ることは否定できず,その見学によって本来の視
察目的の調査が阻害されたり,視察行程が不当に延びたり,視察に要する費
用が著しく過大になるといった事情もうかがわれないから,不相当な行程で
あったとまでいうことはできない。
ユニオンステーションは石和地域駅前再開発等の参考とするために訪れ
たものであり,石和地域は温泉街を観光資源とする観光地であるから,これ
は観光行政視察という本件アメリカ研修の目的に適った行程といえる。
同月21日はワシントン市内を視察して,LEED認定施設リンカーンコ
テージ,スミソニアン博物館及び大型商業施設等を訪問しているところ,こ
れらの視察は山梨県の観光振興に役立つものとして観光行政視察という前
記視察目的に適った行程といえる。
以上のように,本件アメリカ研修の行程は,一部においては研修目的との
関連性が必ずしも明確でないものがあるものの,全般に渡って前記視察目的
に適ったものということができる。これらの行程は,議員らが派遣決定を受
ける際に提出した本件アメリカ研修申込書の行程表と概ね一致しており,議
員らが前記行程表に記載されていない私的行動や視察目的とは無関係な行
動を採ったことは特段認められない。また,本件アメリカ研修の前記行程は,
参加した3名の議員が旅行業者と相談して考案したものであり(証人B),
その行程の作成を旅行業者に一任していたとか,訪問したい観光地を先に選
択して空いた時間に調査に適した行程を盛り込んだといった事情もうかが
われない。
これらの事実に照らせば,本件アメリカ研修の行程は,前記視察目的に照
らして相当なものということができる。
そうすると,本件アメリカ研修への議員の派遣が議会の裁量権を逸脱又は
濫用したものであるとは認められず,当該研修が違法であるということはで
きない。
ウ本件アメリカ研修報告書の記載内容等について
議員らが本件アメリカ研修終了後に提出した本件アメリカ研修報告書は,前
記1のとおり,実際には訪問していないワイン専門店「VintageN
ewYork」をあたかも訪問したかのような記載がなされていることや事
後に訂正した報告書と比較して写真が差し替えられていることなど,不審な点
が多く認められる。また,当該報告書には,本件アメリカ研修で訪問した施設
の概要や統計データ等が掲載されているにとどまり,山梨県における観光行政
及び農業政策の現状での課題,本件アメリカ研修で得た経験が前記課題を改善
するためにどのように役立てられるかなど,研修の具体的成果が何ら考察,報
告されていないのであって,これらを県政に活かすことが前提となっている本
件アメリカ研修の趣旨に照らせば極めて不十分な内容である。
このことに加えて,証人Bが,本件口頭弁論期日において,本件アメリカ研
修が終了してから約2年が経過しているにもかかわらず,県政への具体的な方
策をこれから検討するなどと証言し,本件アメリカ研修の成果を踏まえた具体
的な提言等を行った形跡が見受けられないことも考え合わせると,本件アメリ
カ研修を行った議員らには,公金を使用したにもかかわらず,その成果を最大
限に活用しようとする意識や姿勢が希薄であるといわざるを得ない。その意味
で,本件アメリカ研修が視察に名を借りた私事旅行だったのではないかとの疑
念を抱かれてもやむを得ない面があり,原告らの主張にも首肯しうる点がある。
しかしながら,海外派遣を行った際に,その具体的な成果が事後に提出され
た報告書に記載されず,その後の議員の活動等にも特段反映されていないから
といって,直ちに,当該海外派遣に関する公費の使用が違法であったというこ
とはできない。前記のとおり本件アメリカ研修の目的は議員の活動と関連性が
ある正当なものであり,視察の行程も不相当なものではなかったことに照らせ
ば,この海外派遣に公費を使用したこと自体は違法とはいえないのであり,そ
の具体的な成果を詳細に記載した報告書を作成せず,その後の議員活動に反映
させようとしない前記議員らの姿勢は,県政に対する深い問題意識と高い見識
が期待される県会議員として熱意不足の誹りを免れず,政治的非難の対象とな
ることは否定できないものの,そのことは,法令の定める議員派遣の要件を満
たさない違法な公費の支出であったか否かとは自ずから別個の問題とみるべ
きである。
3争点(本件エジプト等研修は法令の定める議員派遣の要件を満たすか。)につ
いて
視察目的について
前記1のとおり,本件エジプト等研修の目的は,福祉,公共交通,世界遺産
及び文化歴史関係の調査にある。また,前記1及びのとおり,本件エジプト
等研修申込書の行程表に,ハン・ハリーリ・バザールやトルコ絨毯工場等の観光
行政の視察先が記載されていること,本件エジプト等研修報告書の「はじめに」
の項目に「山梨の観光行政の視点,方向に新しいものを見出したい」と記載され
ていることからすれば,観光行政の視察も本件エジプト等研修の目的に含まれて
いたと認められる。
貧困者等の支援対策という社会福祉が県政と関わる分野であることはいうま
でもなく,観光行政についても,本件アメリカ研修で説示したとおり,山梨県の
観光振興と関連性を有するものといえる。また,ピラミッドを始めとする世界遺
産及び考古学博物館の運営管理を内容とする文化歴史関係の調査についても,富
士山の世界遺産登録や県立博物館の運営管理を行う山梨県の県政と関わりのあ
る分野ということができる。公共交通の調査については,今後開業が予定されて
いるリニア中央新幹線が山梨県を経由することから(乙9,証人G),外国にお
ける都市部の交通システムの状況等を視察することがリニア中央新幹線の開業
に合わせた新たな交通網の整備等を検討する上で参考となる面があり,これも県
政と一定の関連性がないとはいえない。
したがって,本件エジプト等研修の目的は議員の活動と関係性があり,正当な
ものということができる。
なお,本件エジプト等研修申込書の研修目的欄に観光行政視察と明示されてか
らといって,直ちにこれが研修目的から除外されるものでないことは前記2ア
で説示したとおりである。
視察の行程について
ア本件エジプト等研修の行程について見ると,前記1のとおり,当該研修は,
平成22年4月21日から同月29日までの9日間の日程とされており,同日
21日,24日及び29日は移動日である。
同月22日は,まず,エジプト考古学博物館を訪問して館長から博物館の運
営等について説明を受けており,その後に訪問したモハメド・アリ・モスクや
ハン・ハリーリ・バザールも文化歴史関係ないし観光行政の視察に包含される
とみられるから,これらの視察は前記研修目的に適ったものということができ
る。
その後,リサーラを訪問して孤児や貧困者の支援等について視察を行ってい
るから,福祉関係の調査という本件エジプト等研修の研修目的に適合した合理
的な視察が行われたといえる。
イ同月23日は,ギザのピラミッド,メンフィス遺跡を訪れて世界遺産の保護
及び維持管理の手法等を視察している。これらの視察先においては,世界遺産
登録の経過等について担当者から説明を受けるなどの行動は採っていないも
のの,ピラミッド及びその周辺の自然環境等を視察することで世界遺産の保護
及び維持管理等の手法を見学することも可能であるから,必ずしも担当者から
説明を受けることが視察の行程として不可欠であるとはいえず,これを行って
いないことをもって当該研修が視察に名を借りた私事旅行であると直ちに推
認することはできない。
ウ同月25日は,ギョレメ博物館,カイマクリ地下都市,トルコ絨毯工場及び
カッパドキア奇岩地区を,同月26日は,アタチュルク廟,アナトリア博物館
等をそれぞれ視察している。カッパドキア奇岩地区を除いて,これらの視察先
において担当者から説明を受けるなどの行動を採ったことはうかがわれない
ものの,これらの視察先を訪問することがトルコの文化歴史関係ないし観光行
政を理解する一助となり,ひいては山梨県の観光振興等を検討する上で参考と
なる面があることも否定できないから,前記研修目的との関連性がないとまで
はいえず,不相当な行程とは認められない。
エ同月27日はイスタンブール駅において,トルコ国鉄のマネージャーと面談
し,地下鉄の整備状況及び高速鉄道整備の課題等について聴取しているところ,
これは公共交通の調査という研修目的に照らして合理的な視察の行程という
ことができる。
オ同月28日は,トプカプ宮殿,エジプシャンバザール及びイスティクラル通
りを散策した後,帰国の途に着いている。これらの訪問先で議員らがどのよう
な視察を行ったのか必ずしも明らかではないが,トルコの文化施設及び観光地
を訪問することで山梨県の観光振興の方策に関する様々な示唆を受けられる
ことは否定できず,帰国までの限られた時間の中で可能な限り同国の文化に触
れる機会を設けたものと見ることもできるから,その行程が不相当であるとま
ではいえない。
カ本件エジプト等研修の行程の中には,前記視察目的との関連性が必ずしも明
確でない視察先も含まれており,その相当性に疑問の余地もないではない。し
かしながら,それらの視察先もエジプトやトルコの観光振興策を調査する一環
として観光行政の視察に包含されると見ることも不可能ではない上,前記アな
いしオで見たとおり,本件エジプト等研修においては概ね視察目的に適合した
行程が採られており,先のような視察先は当該研修の行程の一部にすぎず,そ
れによって本来の視察目的の調査が阻害されたり,視察行程が不当に延びたり,
視察に要する費用が著しく過大になるといった事情もうかがわれないから,こ
れをもって直ちに本件エジプト等研修の行程が不相当であるとはいえない。
本件エジプト等研修の行程は,議員らが派遣決定を受ける際に提出した本件
エジプト等研修申込書の行程表と概ね一致しており,議員らが前記行程表に記
載されていない私的行動や視察目的とは無関係な行動を採ったことは特段認
められない。また,この行程は,当該研修に参加した議員らが旅行業者と相談
して決めたものであり(証人H),その行程の作成を旅行業者に一任していた
とか,訪問したい観光地を先に選択して空いた時間に調査に適した行程を盛り
込んだといった事情もうかがわれない。
これらの事実に照らすと,本件エジプト等研修の行程は前記視察目的に照ら
して相当なものということができる。
そうすると,本件エジプト等研修への議員の派遣が議会の裁量権を逸脱又は
濫用したものであるとは認められず,当該研修が違法であるということはでき
ない。
なお,本件エジプト等研修は,前記1のとおり,平成22年4月19日に
研修申込書が提出され,同日,議長による派遣決定がなされて,その2日後か
ら研修が実施されている。前記前提となる事実イのとおり,山梨県議会研修
要綱は,研修の申込みがあったときは議長が内容を審査することなどを定めて
いるところ,このような派遣決定の経緯に照らすと,本件エジプト等研修につ
いて,議長による適正な審査がなされていたのか疑問が残るところではある。
しかしながら,申込みから派遣決定までが時間的に接着していることのみをも
って議長の審査が行われていなかったということはできず,そのほか,これを
認めるに足りる十分な証拠はないから,本件エジプト等研修の派遣決定に手続
的瑕疵があったと認めることはできない。
本件エジプト等研修報告書の記載内容等について
本件エジプト等研修報告書は,前記1のとおり,施設の概要説明の項目等で,
他のウェブサイトに記載されている内容と酷似している部分が複数あり,視察先
についても何ら報告されていないものが多く,さらには,視察内容を県政にどの
ように役立てるかに関する具体的な考察が全く記載されていないなど,極めて不
十分な内容である。また,証人Hは,複数の視察先について,行ったことすら覚
えていないなどと証言しており,こうした点に照らしても,議員らは,公金を使
用して本件エジプト等研修を行ったにもかかわらず,その成果を最大限に活用し
ようとする意識や姿勢に乏しいとの誹りを免れない。本件エジプト等研修が視察
に名を借りた私事旅行だったのではないかとの疑念を原告らが呈するのもそれ
なりに首肯できる点がある。
しかしながら,報告書や議員の活動等に視察の成果が具体的に反映されていな
いからといって直ちに当該視察が違法であるとの帰結が導かれるものでないこ
とは前記2ウで説示したところと同様であって,こうした点を理由に当該研修
に対する公費の支出を違法とすることはできない。
4争点(本件韓国視察に政務調査費を充当することは法令の定める使途基準を満
たすか。)について
法100条14項は,「普通地方公共団体は,条例の定めるところにより,そ
の議会の議員の調査研究に資するため必要な経費の一部として,その議会におけ
る会派又は議員に対し,政務調査費を交付することができる。この場合において,
当該政務調査費の交付の対象,額及び交付の方法は,条例で定めなければならな
い。」と規定する。政務調査費の制度は,地方分権の推進を図るための関係法律
の整備等に関する法律の施行により,地方公共団体の自己決定権や自己責任が拡
大し,その議会の担う役割がますます重要なものとなってきていることにかんが
み,議会の審議能力を強化し,議員の調査研究活動の基盤の充実を図るため,議
会における会派又は議員に対する調査研究の費用等の助成を制度化し,併せてそ
の使途の透明性を確保しようとしたものである。
法100条14項は,政務調査費について,議員の調査研究に資するため必要
な経費の一部と規定するにとどまり,その交付対象,額及び使途基準等について
具体的な定めをおいていないから,これらの具体的な内容は各地方公共団体の定
める条例に委ねられているといえ,政務調査費支出の適否は,各地方公共団体が
定めている使途基準に適合するか否かの判断に帰着するものである。
前記前提となる事実のとおり,山梨県政務調査費の交付に関する条例9条は,
政務調査費を別に定める使途基準に従って使用しなければならない旨を定め,こ
れを受けて,山梨県政務調査費の交付に関する規程4条及びその別表1は,会派
に係る政務調査費の調査研究費の具体的内容について「調査委託費,交通費,宿
泊費等の会派が行う県の事務及び地方行財政に関する調査研究費及び調査委託
に要する経費」と定めている。
政務調査費の前記制度趣旨に加えて,県政の向上及び発展のために議員が日常
的に行う調査研究の範囲が広範であることなどにかんみると,前記使途基準に適
合するか否かの判断については,第一次的には議員の良識に委ねられており,議
員の広範な裁量が認められると解するのが相当である。もっとも,政務調査費の
財源が当該普通地方公共団体の住民の経済的負担に依拠していることに照らせ
ば,議員の前記裁量も全く無制約ではなく,必要性及び合理性の観点からの規律
が加えられるのであって,前記使途基準に照らして,調査の目的が県政と無関係
である場合や調査の方法が極めて不相当である場合など,その裁量権を逸脱した
ものと認められる場合には使途基準に違反した違法な支出になるというべきで
ある。
ア前記1のとおり,本件韓国視察の目的は,富士山静岡国際空港の利用状況
及び空港管理,韓国の一般社会及び経済状況,対日感情並びに海外旅行市場及
び観光交流の調査にある。
富士山静岡国際空港は山梨県の近隣に立地する国際空港であり,韓国を始め
とした当該空港を利用する外国人旅行客を山梨県に誘致することは同県の観
光振興の大きな課題であるため(証人G),当該空港の利用状況や韓国の経済
状況及び海外旅行市場等を調査するという目的が県の事務及び地方行財政に
関する調査研究と無関係であるとはいえない。
イ本件韓国視察の行程について見ると,前記1のとおり,当該視察は,平
成21年7月20日から同月22日までの3日間の日程である。
同月20日は,富士山静岡国際空港において,担当者から施設の利用状況
及び運営管理等について1時間程度説明を受けているところ,これは前記調
査目的に適合した相当な調査といえる。
その後,韓国へ移動し,日本国政府観光局ソウル事務所において,韓国の
社会経済状況,海外旅行市場及び山梨県の果樹の輸出状況等について説明を
受けた後,当該事務所の職員らと意見交換をしているところ,この行程につ
いても前記調査目的に適合した相当な調査といえる。
同月21日については,板門店を視察して第一公園及び板門店会議室の観
覧などを行っているが,韓国の経済状況や海外旅行市場等に関する調査を行
う上で,板門店の視察がどのように役立つのか疑問も生じ得るところであっ
て,その視察に一日を費やすことは調査方法として不相当ではないかとも思
われる。しかしながら,板門店は韓国と朝鮮民主主義人民共和国との間に位
置する軍事境界線上の村であり,様々な歴史的経緯を有し,観光ツアー等も
盛んに行われている場所であるから,そのような土地の現状を視察し,朝鮮
半島の現状及び韓国を取り巻く国際情勢や同国が抱える外交問題等に触れ
ることで,韓国という国の広い意味での社会状況や文化を理解する一助にな
り得るから,板門店の視察が前記調査目的と全く無関係であるとは言い切れ
ず,これが調査方法として極めて不相当であるとまでは認められない。
同月22日は,宗廟,大統領府館及び青瓦台等で山梨県の果樹のPRの様
子や観光客への浸透状況等を視察しており,これが調査方法として特段不相
当であるとは認められない。
ウ本件韓国視察に要した費用について見ると,前記1及びのとおり,政務
調査費から充当した金額は,交通費及び宿泊費等から食事代を控除した37万
5525円であり,これが本件韓国視察の前記行程に照らして不相当に高額で
あるとか,政務調査費の使途基準の運用指針において充当が許されない経費に
充当したという事情も認められない。
議員らは,本件韓国視察を行った後,調査研究活動記録票を提出して支出し
た費用の内訳を明らかにするとともに,支出を証する書面として銀行振込受付
書及び旅行業者の請求書を添付しているから,山梨県政務調査費の交付に関す
る条例で定める手続も履践しているといえる。
なお,原告らは,調査研究活動記録票に添付された県外・海外調査概要書が
視察に行く前に作成されたものであり,政務調査費を捻出するための形式手続
にすぎない旨を主張するが,証人Gの証言は,「これは行く前に,行く方が,
みんな集まって,1回,勉強会をしまして,そのときに,議長のほうへ,こう
いく計画日程で,目的に向かって政務調査をしますということで,提出しまし
た。」というものであって,当該概要書自体を事前に作成したとする趣旨の証
言かは必ずしも明確ではない上,その作成手続や記載の体裁に照らして事前に
作成したものとは考え難いから,原告らが主張するように,これが本件韓国視
察に先立って作成されたもので,観光の実態を糊塗するための偽装書類である
とは認められない。
本件韓国視察の前記行程やそのほかに議員らが調査目的と関連性のない私
的な行動を採ったことはうかがわれないことに加え,前記手続や充当した経費
の内訳等も併せ考慮すると,本件韓国視察が,調査目的が明確であり,日程を
合理的なものとすることという山梨県の政務調査費の運用指針に適合しない
ものということはできず,使途基準適合性について議員(会派)に与えられた
裁量の範囲を逸脱したものと認めることはできない。
したがって,本件韓国視察に政務調査費を充当したことが違法であるとは認
められない。
5争点(本件屋久島視察に政務調査費を充当することは法令の定める使途基準を
満たすか。)について
前記1のとおり,本件屋久島視察の目的は,「世界遺産屋久島の環境保全対
策への取り組みなどについて,世界遺産屋久島の地域や国立公園の管理運営につ
いて」とされている。
山梨県は,観光振興等のために富士山の世界遺産登録を目指しているから,世
界遺産である屋久島において,その登録までの経緯及び自然保護のための取組み
等を調査することが県の事務及び地方行財政に関する調査研究に該当しないと
はいえない。
ア本件屋久島視察の行程について見ると,前記1のとおり,当該視察は,平
成21年12月16日から同月18日までの3日間の日程である。
同月16日は,屋久島環境文化村センター及び白谷雲水峡を視察しており,
両者の視察の時間は合計2時間30分程度にとどまるものではあるが,同日が
現地までの移動日であって山梨県から鹿児島空港を経由して屋久島まで移動
していることを考慮すれば,短時間の視察に留まったことが調査方法として不
相当であるとはいえない。
イ同月17日は,屋久杉自然館を訪問して屋久島の観光振興策と自然環境保護
の取組み等を視察した後,ヤクスギランド及び紀元杉を訪れ,午後は環境省屋
久島世界遺産センターを訪問してエコツーリズムの推進及び国立公園の管理
運営等について説明を受けるなどしている。これらの行程は前記調査目的に適
ったものであり,調査方法としても相当と認められる。
なお,環境省屋久島世界遺産センターについて,前記1イのとおり,事前
に作成された日程表では,「当日は,環境省主催のフォーラム・講演会を開催
するため,十分な対応ができないことを了承願いたいとのこと。(説明する職
員が不在となる。)」と記載されており,担当者からの説明が受けられない可能
性もあったが,調査研究として必ずしも施設の担当者から説明を受けることが
不可欠とまではいえないから,前記のような状況で視察を実施したことをもっ
て,原告らの主張するような視察に名を借りた観光であると推認することはで
きない。
ウ同月18日は,千尋滝,大川の滝,西部林道及び永田浜海岸等を散策したに
留まっているものの,14時に屋久島空港を出発しなければならなかったこと
からすれば,限られた時間で屋久島の自然環境を視察するための相当な行程と
いえる。
本件屋久島視察に要した費用について見ると,前記1及びのとおり,政務
調査費から充当した金額は,交通費等から食事代等を控除した93万7590円
であり,これが本件屋久島視察の前記行程に照らして不相当に高額であるとか,
政務調査費の使途基準の運用指針において充当が許されない経費に充当したと
いう事情も認められない。
議員らは,本件屋久島視察を行った後,調査研究活動記録票を提出して支出し
た費用の内訳を明らかにするとともに,支出を証する書面として銀行振込受付書,
旅行業者の請求書及び領収書を添付しているから,山梨県政務調査費の交付に関
する条例で定める手続も履践しているといえる。
本件屋久島視察の前記行程やそのほかに議員らが調査目的と関連性のない私
的な行動を採ったことはうかがわれないことに加え,前記手続や充当した経費の
内訳等も併せ考慮すると,本件屋久島視察が,調査目的が明確であり,日程を合
理的なものとすることという山梨県の政務調査費の運用指針に適合しないもの
とはいえず,使途基準適合性について議員(会派)に与えられた裁量の範囲を逸
脱したものと認めることはできない。
したがって,本件屋久島視察に政務調査費を充当したことが違法であるとは認
められない。
6争点(地方財政法違反の有無)について
本件アメリカ研修等へ支出された公金が地方財政法4条1項の「その目的を達成
するための必要且つ最少の限度」を超えたものであることを認めるに足りる証拠は
なく,同条に違反する旨の原告らの主張には理由がない。
7結論
本件アメリカ及びエジプト等研修へ公金を支出したこと並びに本件韓国及び屋
久島視察に政務調査費を充当したことが違法であるとはいずれも認められず,山梨
県が前記研修等に参加した議員らに対する不当利得返還請求権ないし損害賠償請
求権の行使を違法に怠っている旨の原告らの請求はその前提を欠く。
以上によれば,原告らの請求にはいずれも理由がないからこれを棄却することと
し,主文のとおり判決する。
甲府地方裁判所民事部
裁判長裁判官林正宏
裁判官三重野真人
裁判官小川惠輔

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